それからしばらくしたある日、起きて家の突き上げ戸を開けると周りで竹の花が無数に咲き誇っていた。
「そうか、ついに妖精のお祭りが始まったか。」
浮かれた妖精がそこらじゅうで花を咲かせて回っている。
60年に一度のお祭りは、自然の輪廻の中にいる者たちの祝い事。
人間も妖怪も、殆どのものは60年で生まれ変わってしまう。
存在か、もしくは記憶か。あの八雲紫でさえもそのくびきから逃れることは出来ないのだ。
それはとても喜ばしい事だろう。
そこには私のような輪廻の道から外れた者はきっと場違いなのだ。
......それでも多少、浮かれるような気持ちになってしまう。
この陽気に当てられたのだろうか。
そう、あの妖精の陽気に当てられて......。
どんどんと、ドアを叩く音がした。
「チルノか?」
「妹紅?入るぞー。 」
「ああ。鍵はかかってないから。」
そしてガラガラと音がして、チルノが中に入ってくる。
「まだ家に居て良かった。約束のやつ、渡しに来たんだ。」
そう言ってチルノが渡してきたのは氷で出来た造花だった。
氷だが、熱を感じない。溶けない氷で出来ているのだ。
それは花びらが全方位に開いた綺麗な造花だった。
キク科ではないかとは思ったが、花にはあまり詳しくないから確証は持てない。
そして、花びらには色が付いていた。
「凍らせる時に色付き水を混ぜながら作ってみたんだ。綺麗に出来てるだろ?」
「すごいな......凄い綺麗だ。流石は天才だな。なんていう花なんだ?」
「知らない。」
「えっ。」
「私別に花に詳しくないもん。」
「あー......チルノらしいな。」
「おっ? バカにしてるか? 喧嘩なら買うぞ。」
「今日は休業だ。まだお祭りだろ? 沢山遊んできたらどうだ?」
「んー、そうだな......じゃあな妹紅!また遊ぼうな!」
「......ああ。お花、ありがとうね。 帰るときは兎を脅すといいよ。」
そうする!と元気よく言ってチルノは家を飛び出していった。
チルノが居なくなった後も私はしばらくその溶けない氷花を眺めていた。
今日で幻想郷は生まれ変わる。
私は置いていかれる事しかできない。