頭が重いし、なんだか目の奥がひりひりする。
理由は明白、眠りすぎだ。私は随分眠った。眠り、眠って、ときたま息継ぎをするように起きて、また眠った。そのうちに目を閉じても一向に眠れなくなって、仕方なく目を開くと窓から差し込んだ西日が白い壁を柿色に照らしていた。
まだまだ冷えるというのに随分と寝汗をかいて、湿り気を帯びた寝間着が鬱陶しい。まったくもって、過剰な睡眠がもたらすものは不快感だけである。
汗を流すためにひとっ風呂浴びて、ふと思った。冬眠から目覚めるっていうのはきっと物凄い不快感に違いない。なんたって眠りすぎの何倍も眠るんだから。
早速会った香霖にこの思いつきを話してやると、瞬く間に渋い顔になった。
「なあ、魔理沙。このさい遅刻についてはとやかく言わない。だが言い訳くらいはしてもいいだろう」
「悪いな。私に免じて許してくれ」
「君は全身が免罪符なのかい」
「まあそんなところだ。それよりもほら、はやく行こうぜ。もう日が暮れちまう」
香霖はやれやれとでも言いたげに、緩慢な動作で麻袋を担いだ。
昼と夜の間の時間、すでに陰りつつある青空には星明かりが灯り始めていた。私は天体ショーの始まりに向けて、香霖が担いできた天体望遠鏡を組み立てていた。ところが、三脚を立て、筒状の本体を固定したところで、違和感に気づいた。
「アイピースはどこだ?」
「アイピース?」
「接眼レンズだよ」
「ああそれなら……」
香霖は言い淀んで、着物の裾をまさぐった。
「忘れたようだね。うん」
「他人事じゃないんだぜ」
「しょうがない。取ってこようか」
「いや、もういい。今日は中止だ」
「悪かったって」
「香霖、べつに私は拗ねてるわけじゃないんだ。ただ本当に今日はいいかなって思ったんだよ」
今日は龍座を観察することになっていたが、別に春から夏の間ならばいつでも見られる星座である。香霖を引っ張ってきたのだって、なんとなく連れてこようという程度の気持ちだった。
「前はこういうとき、梃子でも動かなかった気がするよ」
「そうだったかな」
言われてみれば、我ながら随分あっさりと切り上げるようになったものだ。物分りが良くなったのだろうか。それとも、冷めてしまったのだろうか。燃えるような情熱が永遠のものではないと知っている。はるか彼方で光り輝く星にも寿命がある。
でも、そんなことは認めたくなかった。
「ちょっと借りるぜ」
香霖のメガネをかけて望遠鏡を覗き込むと、藍色の空のなか、星はずいぶん大きく見えた。
これで天体観測が続行できる。
「今日ばかりは香霖がいて助かったな」
「その望遠鏡を持ってきたのは僕なんだけどね」
「レンズを忘れたのも香霖だろ」
「わるかったよ」
香霖はわざとらしく肩をすくめた。
私は意地でも星が好きだ。きっと明日でも。
理由は明白、眠りすぎだ。私は随分眠った。眠り、眠って、ときたま息継ぎをするように起きて、また眠った。そのうちに目を閉じても一向に眠れなくなって、仕方なく目を開くと窓から差し込んだ西日が白い壁を柿色に照らしていた。
まだまだ冷えるというのに随分と寝汗をかいて、湿り気を帯びた寝間着が鬱陶しい。まったくもって、過剰な睡眠がもたらすものは不快感だけである。
汗を流すためにひとっ風呂浴びて、ふと思った。冬眠から目覚めるっていうのはきっと物凄い不快感に違いない。なんたって眠りすぎの何倍も眠るんだから。
早速会った香霖にこの思いつきを話してやると、瞬く間に渋い顔になった。
「なあ、魔理沙。このさい遅刻についてはとやかく言わない。だが言い訳くらいはしてもいいだろう」
「悪いな。私に免じて許してくれ」
「君は全身が免罪符なのかい」
「まあそんなところだ。それよりもほら、はやく行こうぜ。もう日が暮れちまう」
香霖はやれやれとでも言いたげに、緩慢な動作で麻袋を担いだ。
昼と夜の間の時間、すでに陰りつつある青空には星明かりが灯り始めていた。私は天体ショーの始まりに向けて、香霖が担いできた天体望遠鏡を組み立てていた。ところが、三脚を立て、筒状の本体を固定したところで、違和感に気づいた。
「アイピースはどこだ?」
「アイピース?」
「接眼レンズだよ」
「ああそれなら……」
香霖は言い淀んで、着物の裾をまさぐった。
「忘れたようだね。うん」
「他人事じゃないんだぜ」
「しょうがない。取ってこようか」
「いや、もういい。今日は中止だ」
「悪かったって」
「香霖、べつに私は拗ねてるわけじゃないんだ。ただ本当に今日はいいかなって思ったんだよ」
今日は龍座を観察することになっていたが、別に春から夏の間ならばいつでも見られる星座である。香霖を引っ張ってきたのだって、なんとなく連れてこようという程度の気持ちだった。
「前はこういうとき、梃子でも動かなかった気がするよ」
「そうだったかな」
言われてみれば、我ながら随分あっさりと切り上げるようになったものだ。物分りが良くなったのだろうか。それとも、冷めてしまったのだろうか。燃えるような情熱が永遠のものではないと知っている。はるか彼方で光り輝く星にも寿命がある。
でも、そんなことは認めたくなかった。
「ちょっと借りるぜ」
香霖のメガネをかけて望遠鏡を覗き込むと、藍色の空のなか、星はずいぶん大きく見えた。
これで天体観測が続行できる。
「今日ばかりは香霖がいて助かったな」
「その望遠鏡を持ってきたのは僕なんだけどね」
「レンズを忘れたのも香霖だろ」
「わるかったよ」
香霖はわざとらしく肩をすくめた。
私は意地でも星が好きだ。きっと明日でも。
特に珍しくも無いのに誘うって言う点になんというか、この2人の関係性が凝縮されてる感じがするなぁって個人的には思いました
これは、魔理沙と星の物語なのか。香霖との物語なのか。或いは、魔理沙自身の物語なのか。文字の代わりに行間を詰め込んだような、素敵な作品だと感じました。
とても良かったです。
うまく言葉にできないですが、とても好き
良かったです