「なあ、霊夢。花見にいこうぜ」
私と縁側に一緒に座って無造作に言うは魔理沙。いつもの様に唐突に思いついたのかと予想する。
「どうしてかしら?」
私は持っているお茶を飲む。魔理沙の顔は少しふくらんでいた。私が分かっているのに意地悪のように言うからであろう。
「妖怪達とじゃ宴会になってしまうしさ、私はお前と一緒に二人で花見をしたいんだ。どこにも邪魔されない場所で、さ」
あら、今日の魔理沙は積極的。いつものヘタレさんはどこに行ったのかしら。
「いいわよ。私も少しゆっくりしたいからね。けれど神社を空けるのは少し気が引けるのだけれど……」
二つ返事で私は了承する。私だって誰にも邪魔なんかされたくない。邪魔するやつはボコボコにしてやるのみ。残りは神社から人がいなくなることだ。
「ああ、それなら……」
「魔理沙さーん! 何か用事あるって聞きましたけどどうしましたー?」
魔理沙が何かを言おうとした時に西の方から早苗が飛んできた。
ああ、なるほど。何かの用事があるとかでっち上げて早苗を呼んだのか。
「そういう事だ。だから大丈夫。ほら今日は博麗霊夢じゃなくてただの霊夢でいようぜ」
ふふ、私は笑みを隠せない。普段はドジな魔理沙はこういう根回しだけは上手いのだから。
私たちの目の前でスタッと早苗は降りてきた。
「魔理沙さん、用事って?」
「ああ、少し霊夢と出かけるからその間神社を見ていて欲しいんだ。今日一日きりだからお願いしていいか?」
早苗は少しキョトンとしていたがハッとして両手を握って返事した。
「もちろんです! お二人で楽しんできてくださいね! 良ければお土産話なんかもあると嬉しいです!」
元気よく返事する早苗。私は適当に言う。
「まあ、見てもらうからには棚に置いてあるお煎餅とか少しなら食べてもいいわよ」
「それならありがたくいただきますよ。それではお二人ともいってらっしゃいです!」
元気よく私たちを見送ってくれた。
「魔理沙、花見と言ってもまだ桜は咲いていないわよ? リリーホワイトは最近はよく飛び回ってるみたいだけど」
私は魔理沙に先導されながら空を飛んでいる。
「ああ、それなら良い梅の見どころがあるんだ! そこに連れて行ってやるから」
明るい笑顔を私に向けてくる。ニカッととても元気な笑顔。私には到底真似出来ない笑顔なのだ。
「梅、ねぇ……神社は桜ばっかりであんまり見ないわね」
「そうだろ! だから舞い散る桜じゃなくて、こぼれる梅を見にいこう。そら、加速するぞ」
そう言って私たちは移動したのである。
***
「わあ……」
そこは少し里の外れの河川の場所だった。
とても美しいと思った。八分咲きくらいの量でぱっと咲いている。少し濃い薄紅梅でとても綺麗で繊細で。そんな梅たちが三本ほど咲いているのを見た。こんなに綺麗な場所なのに私たちの以外の人妖は見当たらなかった。
「ふふん、ここのは綺麗だろ? 私のお気に入りの場所で思い入れのある場所さ」
勝ち誇ったように胸を貼る魔理沙。ふふふ、この綺麗な梅たちを教えてもらえたのは嬉しいことだ。
「ね、ね、少し木にもたれかからない? 私は魔理沙と一緒に木の下から梅たちを見たいわ」
思いがけず私は興奮して魔理沙の裾を引っ張る。まだ少し寒いためまだ冬服のなのだ。私も含めて。
「ちょ、引っ張るなよ霊夢! 分かった、行くから待ってくれ」
私は自分が気が付かないほどにとてもうきうきしている。後から思い出したら何故こんなにもうきうきしていたのかがわかったような気がした。
「ほら。とても綺麗よ」
木の下から見た梅たちは本当に綺麗だった。少しづつこぼれる梅たちは春の訪れを感じさせる。
私に急かされた魔理沙は右隣に座った。
「やっぱり、ここの梅はどこのより綺麗だ。毎年変わらずに咲いてくれる」
こぼれていく梅たちを見ながら魔理沙は呟いている。
「魔理沙、どうして教えてくれなかったの?」
ここの梅たちのことについて。魔理沙は毎年見にきていたらしい。ということは当分前から知っているということだ。何故今年になって私に教えようと思ったのか。
「私は霊夢だけに教えたかったんだよ」
「……どういうこと?」
長い付き合いとは言えども流石に魔理沙の真意ははかりきれなかった。魔理沙は言葉を続ける。
「霊夢は覚えているかわかんないけどさ。この梅のところで初めて霊夢にあったんだぜ?」
「……そうだったっけ?」
どうにも思い出せない。こんな所があった事すら忘れているのに思い出せるわけがないと思うのである。
「その時、私はまだ実家にいて、嫌になって一人で家を飛び出して。帰り道がわからなくなってここで泣いていたらその時の霊夢がこぼれる梅と共に空から降りてきて。『大丈夫?』って言ってくれたんだ」
魔理沙の顔は遠い記憶の中に入り込んでいるらしい。どこか遠い場所にいるみたいで何故か嫌だった。
「そこで霊夢に惚れたよ。こぼれていく梅と紅と白の衣装。あれほど美しいと──ムガッ」
私は咄嗟に魔理沙の口を手で塞いだ。
「なんだ、どうした霊夢」
「それ以上過去の事は話さないで……」
どうしても遠くを見つめる魔理沙がどこかに行きそうで嫌だった。
「どうした? なんでそんなに不機嫌なんだ……」
「魔理沙はここにいればいいの」
梅たちは相も変わらずこぼれていた。
私は少しだけ右隣の魔理沙にゆっくりと、もたれかかった。私はすぐったいと思った。
隣の魔理沙は微笑んでいた。
***
神社に帰る途中の空にて。
「魔理沙。ありがとう、大切な所を教えてくれて」
「良いんだよ。霊夢だからさ。大切な人と綺麗なものは一緒に見たいじゃないか」
そんなことをサラリと言ってしまう魔理沙。
私は期待しても良いのかしら。
「魔理沙、そんなことを言われると期待しちゃうわよ?」
「ああ、自惚れていいぜ。私が愛する人はたった一人だけだし、何よりそいつの事は狂うくらいまで愛してる」
私はその言葉に飛ぶのが止まってしまう。そんなことを言われて冷静にいられる訳がない。
「ん?どうした霊夢」
軽く愛の告白した、張本人は気にもせずに私を見ている。
「ま……魔理沙の、馬鹿ぁ!」
流石に恥ずかしくなってしまって私は魔理沙と反対方向に飛んで行ってしまった。
さっきの梅の所まで戻ってしまった。
なんで魔理沙は、あんなに率直に言えるのだろうか。私には出来ない。恥ずかしくてどうしようもなくて。
いつの間にか出会って、いつかのうちに好きになっていて。あいつの比率がどんどん大きくなっていって。
気がついたらいつも隣にいて、ちょっかいをかけてくる悪友。
友達を超えた何かだとは思ってはいたんだ。
それが恋までとは知らなかった、けれども。
さっきのは反則だと思った。私とは言っていないけれど。自惚れて良いだなんて本当に……
「やっと見つけた、霊夢」
声のした方向を向いた。
「なんで逃げたんだ……」
箒に乗ったままハアハアと息を上げている魔理沙。
私は何を言わずに魔理沙を見上げ続けた。少し濃い薄紅梅の梅たちはこぼれ落ちている。
白と黒と薄紅梅。
魔理沙が、梅たちが、とても綺麗だった。
私は浮き上がり、箒の上の魔理沙を抱き締めた。
「うわっ、本当にどうしたんだ霊夢」
ビックリしている魔理沙。私は抱き締めたまま告げる。
「私は一回しか言わないわよ……」
「お、おう」
「魔理沙……大好きよ……」
伝えるべきことは言わなくてはならない。
魔理沙が私を愛してくれているように。私はその思いに答えてあげなければいけない。
私も愛していると、伝えなけれはならない。それがどんなに恥ずかしくても私は伝えるのだ。
「うん、ありがとう霊夢。答えてくれて」
はにかんだような笑顔で私を見てくれていた。
「こうやって言っても何も変わらないかもしれないけれど。それでもこれからもよろしくね、魔理沙」
これで私たちの花見は終わった。
黒と白と紅と薄紅梅の色は私たちの思い出の色になるだろう。
私と縁側に一緒に座って無造作に言うは魔理沙。いつもの様に唐突に思いついたのかと予想する。
「どうしてかしら?」
私は持っているお茶を飲む。魔理沙の顔は少しふくらんでいた。私が分かっているのに意地悪のように言うからであろう。
「妖怪達とじゃ宴会になってしまうしさ、私はお前と一緒に二人で花見をしたいんだ。どこにも邪魔されない場所で、さ」
あら、今日の魔理沙は積極的。いつものヘタレさんはどこに行ったのかしら。
「いいわよ。私も少しゆっくりしたいからね。けれど神社を空けるのは少し気が引けるのだけれど……」
二つ返事で私は了承する。私だって誰にも邪魔なんかされたくない。邪魔するやつはボコボコにしてやるのみ。残りは神社から人がいなくなることだ。
「ああ、それなら……」
「魔理沙さーん! 何か用事あるって聞きましたけどどうしましたー?」
魔理沙が何かを言おうとした時に西の方から早苗が飛んできた。
ああ、なるほど。何かの用事があるとかでっち上げて早苗を呼んだのか。
「そういう事だ。だから大丈夫。ほら今日は博麗霊夢じゃなくてただの霊夢でいようぜ」
ふふ、私は笑みを隠せない。普段はドジな魔理沙はこういう根回しだけは上手いのだから。
私たちの目の前でスタッと早苗は降りてきた。
「魔理沙さん、用事って?」
「ああ、少し霊夢と出かけるからその間神社を見ていて欲しいんだ。今日一日きりだからお願いしていいか?」
早苗は少しキョトンとしていたがハッとして両手を握って返事した。
「もちろんです! お二人で楽しんできてくださいね! 良ければお土産話なんかもあると嬉しいです!」
元気よく返事する早苗。私は適当に言う。
「まあ、見てもらうからには棚に置いてあるお煎餅とか少しなら食べてもいいわよ」
「それならありがたくいただきますよ。それではお二人ともいってらっしゃいです!」
元気よく私たちを見送ってくれた。
「魔理沙、花見と言ってもまだ桜は咲いていないわよ? リリーホワイトは最近はよく飛び回ってるみたいだけど」
私は魔理沙に先導されながら空を飛んでいる。
「ああ、それなら良い梅の見どころがあるんだ! そこに連れて行ってやるから」
明るい笑顔を私に向けてくる。ニカッととても元気な笑顔。私には到底真似出来ない笑顔なのだ。
「梅、ねぇ……神社は桜ばっかりであんまり見ないわね」
「そうだろ! だから舞い散る桜じゃなくて、こぼれる梅を見にいこう。そら、加速するぞ」
そう言って私たちは移動したのである。
***
「わあ……」
そこは少し里の外れの河川の場所だった。
とても美しいと思った。八分咲きくらいの量でぱっと咲いている。少し濃い薄紅梅でとても綺麗で繊細で。そんな梅たちが三本ほど咲いているのを見た。こんなに綺麗な場所なのに私たちの以外の人妖は見当たらなかった。
「ふふん、ここのは綺麗だろ? 私のお気に入りの場所で思い入れのある場所さ」
勝ち誇ったように胸を貼る魔理沙。ふふふ、この綺麗な梅たちを教えてもらえたのは嬉しいことだ。
「ね、ね、少し木にもたれかからない? 私は魔理沙と一緒に木の下から梅たちを見たいわ」
思いがけず私は興奮して魔理沙の裾を引っ張る。まだ少し寒いためまだ冬服のなのだ。私も含めて。
「ちょ、引っ張るなよ霊夢! 分かった、行くから待ってくれ」
私は自分が気が付かないほどにとてもうきうきしている。後から思い出したら何故こんなにもうきうきしていたのかがわかったような気がした。
「ほら。とても綺麗よ」
木の下から見た梅たちは本当に綺麗だった。少しづつこぼれる梅たちは春の訪れを感じさせる。
私に急かされた魔理沙は右隣に座った。
「やっぱり、ここの梅はどこのより綺麗だ。毎年変わらずに咲いてくれる」
こぼれていく梅たちを見ながら魔理沙は呟いている。
「魔理沙、どうして教えてくれなかったの?」
ここの梅たちのことについて。魔理沙は毎年見にきていたらしい。ということは当分前から知っているということだ。何故今年になって私に教えようと思ったのか。
「私は霊夢だけに教えたかったんだよ」
「……どういうこと?」
長い付き合いとは言えども流石に魔理沙の真意ははかりきれなかった。魔理沙は言葉を続ける。
「霊夢は覚えているかわかんないけどさ。この梅のところで初めて霊夢にあったんだぜ?」
「……そうだったっけ?」
どうにも思い出せない。こんな所があった事すら忘れているのに思い出せるわけがないと思うのである。
「その時、私はまだ実家にいて、嫌になって一人で家を飛び出して。帰り道がわからなくなってここで泣いていたらその時の霊夢がこぼれる梅と共に空から降りてきて。『大丈夫?』って言ってくれたんだ」
魔理沙の顔は遠い記憶の中に入り込んでいるらしい。どこか遠い場所にいるみたいで何故か嫌だった。
「そこで霊夢に惚れたよ。こぼれていく梅と紅と白の衣装。あれほど美しいと──ムガッ」
私は咄嗟に魔理沙の口を手で塞いだ。
「なんだ、どうした霊夢」
「それ以上過去の事は話さないで……」
どうしても遠くを見つめる魔理沙がどこかに行きそうで嫌だった。
「どうした? なんでそんなに不機嫌なんだ……」
「魔理沙はここにいればいいの」
梅たちは相も変わらずこぼれていた。
私は少しだけ右隣の魔理沙にゆっくりと、もたれかかった。私はすぐったいと思った。
隣の魔理沙は微笑んでいた。
***
神社に帰る途中の空にて。
「魔理沙。ありがとう、大切な所を教えてくれて」
「良いんだよ。霊夢だからさ。大切な人と綺麗なものは一緒に見たいじゃないか」
そんなことをサラリと言ってしまう魔理沙。
私は期待しても良いのかしら。
「魔理沙、そんなことを言われると期待しちゃうわよ?」
「ああ、自惚れていいぜ。私が愛する人はたった一人だけだし、何よりそいつの事は狂うくらいまで愛してる」
私はその言葉に飛ぶのが止まってしまう。そんなことを言われて冷静にいられる訳がない。
「ん?どうした霊夢」
軽く愛の告白した、張本人は気にもせずに私を見ている。
「ま……魔理沙の、馬鹿ぁ!」
流石に恥ずかしくなってしまって私は魔理沙と反対方向に飛んで行ってしまった。
さっきの梅の所まで戻ってしまった。
なんで魔理沙は、あんなに率直に言えるのだろうか。私には出来ない。恥ずかしくてどうしようもなくて。
いつの間にか出会って、いつかのうちに好きになっていて。あいつの比率がどんどん大きくなっていって。
気がついたらいつも隣にいて、ちょっかいをかけてくる悪友。
友達を超えた何かだとは思ってはいたんだ。
それが恋までとは知らなかった、けれども。
さっきのは反則だと思った。私とは言っていないけれど。自惚れて良いだなんて本当に……
「やっと見つけた、霊夢」
声のした方向を向いた。
「なんで逃げたんだ……」
箒に乗ったままハアハアと息を上げている魔理沙。
私は何を言わずに魔理沙を見上げ続けた。少し濃い薄紅梅の梅たちはこぼれ落ちている。
白と黒と薄紅梅。
魔理沙が、梅たちが、とても綺麗だった。
私は浮き上がり、箒の上の魔理沙を抱き締めた。
「うわっ、本当にどうしたんだ霊夢」
ビックリしている魔理沙。私は抱き締めたまま告げる。
「私は一回しか言わないわよ……」
「お、おう」
「魔理沙……大好きよ……」
伝えるべきことは言わなくてはならない。
魔理沙が私を愛してくれているように。私はその思いに答えてあげなければいけない。
私も愛していると、伝えなけれはならない。それがどんなに恥ずかしくても私は伝えるのだ。
「うん、ありがとう霊夢。答えてくれて」
はにかんだような笑顔で私を見てくれていた。
「こうやって言っても何も変わらないかもしれないけれど。それでもこれからもよろしくね、魔理沙」
これで私たちの花見は終わった。
黒と白と紅と薄紅梅の色は私たちの思い出の色になるだろう。
これはいいものだ
魔理沙はさておき、霊夢もわりと好き好き言ってるようなもんですよね。よいです。
デレる霊夢も可愛かったです。
レイマリ最高!
直球ストレートな百合
堪能させていただきました
とても良かったです。