夜もふけたころ、私は文々。新聞の原稿をようやく書き終えた。後は、誤字脱字の確認、細かい修正だけだ。残りは明日に回すとしよう、そして刷り上がった新聞の最初の読者として博麗霊夢の元へ届けるのだ。
まあ彼女は私の新聞なんてまともに読むことは無く焚き火の火種に、窓拭きとして紅魔館に売り飛ばす、酷いときには渡した新聞を目の前で焼き芋の包み紙にされた。
明日に備えて、すぐにでも寝たいところだが、最近は原稿詰めで家から一歩も出ていない。外の空気でも吸いリフレッシュしたかった私は縁側に腰をかけた。
空を見上げると、雲ひとつなく、そして少しだけ夜空を照らす半分の月が昇っていた。ああ、綺麗だな、独り呟いた。半分の月を見ると昔を思い出す。昔の私は、この半分の月が大嫌いだった。
理由はある。だいぶ昔のことだ。博霊の巫女である博麗霊夢と私は関係を持っていた。
私は鴉天狗、霊夢は人間、生きる時間があまりにも違い過ぎる。それで私は良かった。
ただ、時折、この半分の月をみると、半分に欠けた月が、霊夢に残されてしまった私を重ねてしまい、嫌いだった。それでも霊夢と一緒過ごせた時間はとてもてとても楽しくて、儚くて、仲良く食事もすれば喧嘩もして、仲直りをして、手を、想いを、唇をたくさん重ねた楽しいひと時だった。
やがて、来たるべき時間を迎えた。その日の夜も半分の月だったことは今でもよく覚えている。
しかしながら情けないことに、その時の私はひたすら泣いていた。
霊夢を絶対に笑顔で送ろうと、悲しい気持ちさせまいと決心していたのに霊夢を失うという現実を受け入れられなかった。だから涙が止まらなかった。
そんな私を見つめ、もう立ち上がる体力の無い霊夢は布団で横になりながら声を振り絞り苦しそうに。
「ごめんね、文」と語りかけた。
そして霊夢は縁側から見える、雲ひとつない夜空に寂しく光り、今からの私を暗示している半分の月に目を向けた。
「文、言ってたわよね、半分の月が嫌いだって、そしてもう私は長くない」
涙声になる。
「できることなら、文の代わりに、私が半分の月になりたかったでも、それはできない。ごめんね、ごめんね――」
霊夢は「ごめんね」の言葉をただひたすらくり繰り返す。
その言葉で目が覚めた。霊夢だって苦しいのだ、私を1人残してしまうことが、一番つらいのは霊夢だ。だから私にはそれで充分だった。霊夢の手を取って返す。
「大丈夫です。最初から覚悟していたことです。それに、霊夢に寂しい思いをさせるくらいなら、私は残された半分の月で充分です。むしろ、霊夢のためなら何だって構いません。残されることだって、霊夢のためならば命だって捧げます。だから安心してください」
その日、私はようやく笑顔を霊夢に見せれられた。
「なにかっこつけてんのよ、馬鹿」
笑顔で泣きながら霊夢は返してくれた。
翌日、霊夢は息を引き取った。
その日から、私は半分の月が大好きだ。私は霊夢に取り残された半分の月だけど私に寂しい想いをさせまいと霊夢がぽっかり空いた半分の月にいる気がする。
そんな気がするからだ。
そういえば、取材と原稿に追われ、霊夢のお墓参りに行ってないことを思い出した。原稿を提出しても刷り上がるまでは暇がある、明日は会いに行こう。
寂しがりやな彼女のことだ、顔を見せなかった私にきっと怒っているに違いない。そんな時は決まって人里で仕入れたお菓子を持参すれば許してくれる。そして甘いお菓子を食べて笑顔の霊夢を眺めるのだ。
霊夢の笑顔はこの世界で一番大好きだ。
今回もだいぶ空けたから霊夢は、かなり怒っているだろう。これは生半可なお菓子では許してくれない、とびきりのお菓子と霊夢の好きな梅酒も用意して、それにおつまみも、そして彼女は、どんな笑顔を見せてくれるのだろう。
そんなことを考えながら明日に備えて寝支度に取り掛かった。
まあ彼女は私の新聞なんてまともに読むことは無く焚き火の火種に、窓拭きとして紅魔館に売り飛ばす、酷いときには渡した新聞を目の前で焼き芋の包み紙にされた。
明日に備えて、すぐにでも寝たいところだが、最近は原稿詰めで家から一歩も出ていない。外の空気でも吸いリフレッシュしたかった私は縁側に腰をかけた。
空を見上げると、雲ひとつなく、そして少しだけ夜空を照らす半分の月が昇っていた。ああ、綺麗だな、独り呟いた。半分の月を見ると昔を思い出す。昔の私は、この半分の月が大嫌いだった。
理由はある。だいぶ昔のことだ。博霊の巫女である博麗霊夢と私は関係を持っていた。
私は鴉天狗、霊夢は人間、生きる時間があまりにも違い過ぎる。それで私は良かった。
ただ、時折、この半分の月をみると、半分に欠けた月が、霊夢に残されてしまった私を重ねてしまい、嫌いだった。それでも霊夢と一緒過ごせた時間はとてもてとても楽しくて、儚くて、仲良く食事もすれば喧嘩もして、仲直りをして、手を、想いを、唇をたくさん重ねた楽しいひと時だった。
やがて、来たるべき時間を迎えた。その日の夜も半分の月だったことは今でもよく覚えている。
しかしながら情けないことに、その時の私はひたすら泣いていた。
霊夢を絶対に笑顔で送ろうと、悲しい気持ちさせまいと決心していたのに霊夢を失うという現実を受け入れられなかった。だから涙が止まらなかった。
そんな私を見つめ、もう立ち上がる体力の無い霊夢は布団で横になりながら声を振り絞り苦しそうに。
「ごめんね、文」と語りかけた。
そして霊夢は縁側から見える、雲ひとつない夜空に寂しく光り、今からの私を暗示している半分の月に目を向けた。
「文、言ってたわよね、半分の月が嫌いだって、そしてもう私は長くない」
涙声になる。
「できることなら、文の代わりに、私が半分の月になりたかったでも、それはできない。ごめんね、ごめんね――」
霊夢は「ごめんね」の言葉をただひたすらくり繰り返す。
その言葉で目が覚めた。霊夢だって苦しいのだ、私を1人残してしまうことが、一番つらいのは霊夢だ。だから私にはそれで充分だった。霊夢の手を取って返す。
「大丈夫です。最初から覚悟していたことです。それに、霊夢に寂しい思いをさせるくらいなら、私は残された半分の月で充分です。むしろ、霊夢のためなら何だって構いません。残されることだって、霊夢のためならば命だって捧げます。だから安心してください」
その日、私はようやく笑顔を霊夢に見せれられた。
「なにかっこつけてんのよ、馬鹿」
笑顔で泣きながら霊夢は返してくれた。
翌日、霊夢は息を引き取った。
その日から、私は半分の月が大好きだ。私は霊夢に取り残された半分の月だけど私に寂しい想いをさせまいと霊夢がぽっかり空いた半分の月にいる気がする。
そんな気がするからだ。
そういえば、取材と原稿に追われ、霊夢のお墓参りに行ってないことを思い出した。原稿を提出しても刷り上がるまでは暇がある、明日は会いに行こう。
寂しがりやな彼女のことだ、顔を見せなかった私にきっと怒っているに違いない。そんな時は決まって人里で仕入れたお菓子を持参すれば許してくれる。そして甘いお菓子を食べて笑顔の霊夢を眺めるのだ。
霊夢の笑顔はこの世界で一番大好きだ。
今回もだいぶ空けたから霊夢は、かなり怒っているだろう。これは生半可なお菓子では許してくれない、とびきりのお菓子と霊夢の好きな梅酒も用意して、それにおつまみも、そして彼女は、どんな笑顔を見せてくれるのだろう。
そんなことを考えながら明日に備えて寝支度に取り掛かった。
嫌いなものが好きになれることは良いことです。