『恋と、錯覚してしまいそう』
鈴仙の作るお味噌汁味はもちろん、寒い朝には身体も心も温まる。
鈴仙が薬売りに出掛けると少しだけ寂しい気持ちになる。いつだったか異変解決へ鈴仙が赴いた時は寂しさのあまり永遠亭へ居られずいつのまにか竹林へ飛び出していた。
鈴仙の居ない時間は何だか心にぽっかり穴の空いた気持ちになって、「姫様」と私を呼ぶ声がなぜだか懐かして、寂しいだけなのに、まるで恋と錯覚してしまいそうで。
◆
『可愛い以上の言葉ってないの』
「四季様、あたいと可愛いと言ってくれるのは嬉しいのですけど、あたいはどうも可愛いと言われるのは慣れてないといいますか、似合わないと言いますか、もうちょっと別の形で言ってくださると」
「それなら可愛いという言葉を使わなければいいのよね」
「はあ、そんなところです」
「あなたのために毎日味噌汁を作りたいからよ、これで駄目かしら」
◆
『つまりはまぁ、好きってことでして』
文さんはよく分からない天狗さんだ。ただの風祝である私の元へ晴れの日も雨の日も雪の日も、記事にもならない日の方が圧倒的に多いのに毎日訪ねてくれる。
だから今日は思い切って「何で私のところへ毎日来るのですか」と尋ねてみた。
文さんはその質問受けると目線がきょろきょろし、頭を掻いて、なぜか恥ずかしそうな素振りだ。
「早苗さん、それはですねその……ああ、今日は帰ります」
文さんはなぜか顔を赤らめて颯爽とどこかへ行ってしまった。
はて、どうしたものか、文さんはよく分からない。
◆
『幸せすぎて泣きたくなるの』
博麗霊夢は厄介な風邪を患った。永遠亭で診てもらうとインフルエンザというものらしく高熱うなされ身体は常時気だるさを感じた。
幸いなのは皆が付きっきりで看病をしてくれた上にたくさんのお見舞い品をくれた。魔理沙は「これ、身体に良いんだよ」とヘンテコな色と形のきのこを届けてくれた。おそらく悪化しそうなので結局食べなかったが、十六夜咲夜はレミリアの指示で普通に食事を作ってくれた、おかゆから味噌汁にお菓子まで、おそらく1番まともだった。射命丸文は文々。新聞をくれた、要らない。東風谷早苗は布団で寝ている霊夢を見るなり「霊夢さんでも風邪引くんですねえ」と嫌味を浴びせてきた。どういう意味だ、帰り際に梅干しの詰まった壺をくれた。煽りたいのだか私を助けたいのだかはっきりして欲しい。小鈴ちゃんは本を持ってきてくれた、まだ貸し本代を滞納しているので後ろめたさを感じた。ごめんなさい小鈴ちゃん。
多すぎるお見舞い品のおかげで完治した後もひと月は食事に困らなそうだ。完治してまずお賽銭箱を確認する、あれだけのお見舞い品にたくさんの人間と妖怪がきたのだからお賽銭だって多少は、しかしながらお賽銭箱はすっからかんで1円すらもなく、あれで少しのお賽銭でも投げてくれたら、幸せすぎて泣きたくなるわねえ、1人で皮肉を呟いた。
◆
『目で追ってしまうのは、つい癖で』
新刊をばらまき、去っていく鴉天狗を目で追うことがいつの間にか癖になっていた、人里でルポライターモードの彼女が取材をしている様子を目だけで追った、宴会で吸血鬼と楽しそうに喋っている文を遠くから目で追い、よくわからぬイライラを酒でごまかした。何の因果であのアバズレを、困った癖だ。
◆
『すべてを諦めた日』
すべてを諦めたあの日、霊夢と協力して自宅に溜め込んだゴミを処分して売れそうなものは香霖堂に売って、そして借りたものを返すことにした。
自分の背丈よりも膨らんだ大きな風呂敷を抱えてようやく紅魔館に辿りついた。後ろから霊夢も私と同じ大きさの風呂敷を抱えている。
一生借りるはずだった本をパチュリーに返すことにした。
一生では無いが十数年は勝手に盗み借りてしまった。げんこつの一つでも飛ぶものかと覚悟、いや殴って欲しかった。
しかし、意外にもパチュリーは特に気にかけないようで。
「まさかあんたから返しに来てくれるとはねえ、行く暇が省けて良かったわ」
「せっかく私から返してきてやったのにな」
「あんたねえ、まあここの本なんて博麗神社のお賽銭五年分の価値しかないわ」
「なんだ、それなら返さなくても」
「調子に乗らない」
本で小突かれた、少し痛い。
「それとこれは今までの迷惑料」
「へっ?」
パチュリーから右ストレートが飛んできた、やせっぽっちのくせにこんな力を溜め込んでいたのか、痛い、それよりも私のために殴ってくれたことが嬉しかった。
これですべてを諦められる決心がついた。ありがとうな、パチュリー、お礼を口には出さないけど。
◆
『ひよこさん』
「ひよこさん……ごめんな……本当に申し訳ないなら食べるなと思うかもしれないけど、違うんだ。お酒を呑んで、いろいろ食べて、〆には卵かけご飯と私は決めているんだ。麺じゃないんだ、ご飯なんだ、それに卵が付いてないとどうしても駄目なんだ、ほんと……ごめん、ああ、黄身とシャリだけなのに美味しい、ごめんな……ごめんな……ひよこさん……美味しい……」
「あのな、妹紅。もうちょっと静かに食べてもだな」
「ひよこさん、ごめんな……ごめんな……。ん、けーね何か言った?あ、女将さん、卵かけご飯もう一杯」
慧音に思いきり殴られた。
鈴仙の作るお味噌汁味はもちろん、寒い朝には身体も心も温まる。
鈴仙が薬売りに出掛けると少しだけ寂しい気持ちになる。いつだったか異変解決へ鈴仙が赴いた時は寂しさのあまり永遠亭へ居られずいつのまにか竹林へ飛び出していた。
鈴仙の居ない時間は何だか心にぽっかり穴の空いた気持ちになって、「姫様」と私を呼ぶ声がなぜだか懐かして、寂しいだけなのに、まるで恋と錯覚してしまいそうで。
◆
『可愛い以上の言葉ってないの』
「四季様、あたいと可愛いと言ってくれるのは嬉しいのですけど、あたいはどうも可愛いと言われるのは慣れてないといいますか、似合わないと言いますか、もうちょっと別の形で言ってくださると」
「それなら可愛いという言葉を使わなければいいのよね」
「はあ、そんなところです」
「あなたのために毎日味噌汁を作りたいからよ、これで駄目かしら」
◆
『つまりはまぁ、好きってことでして』
文さんはよく分からない天狗さんだ。ただの風祝である私の元へ晴れの日も雨の日も雪の日も、記事にもならない日の方が圧倒的に多いのに毎日訪ねてくれる。
だから今日は思い切って「何で私のところへ毎日来るのですか」と尋ねてみた。
文さんはその質問受けると目線がきょろきょろし、頭を掻いて、なぜか恥ずかしそうな素振りだ。
「早苗さん、それはですねその……ああ、今日は帰ります」
文さんはなぜか顔を赤らめて颯爽とどこかへ行ってしまった。
はて、どうしたものか、文さんはよく分からない。
◆
『幸せすぎて泣きたくなるの』
博麗霊夢は厄介な風邪を患った。永遠亭で診てもらうとインフルエンザというものらしく高熱うなされ身体は常時気だるさを感じた。
幸いなのは皆が付きっきりで看病をしてくれた上にたくさんのお見舞い品をくれた。魔理沙は「これ、身体に良いんだよ」とヘンテコな色と形のきのこを届けてくれた。おそらく悪化しそうなので結局食べなかったが、十六夜咲夜はレミリアの指示で普通に食事を作ってくれた、おかゆから味噌汁にお菓子まで、おそらく1番まともだった。射命丸文は文々。新聞をくれた、要らない。東風谷早苗は布団で寝ている霊夢を見るなり「霊夢さんでも風邪引くんですねえ」と嫌味を浴びせてきた。どういう意味だ、帰り際に梅干しの詰まった壺をくれた。煽りたいのだか私を助けたいのだかはっきりして欲しい。小鈴ちゃんは本を持ってきてくれた、まだ貸し本代を滞納しているので後ろめたさを感じた。ごめんなさい小鈴ちゃん。
多すぎるお見舞い品のおかげで完治した後もひと月は食事に困らなそうだ。完治してまずお賽銭箱を確認する、あれだけのお見舞い品にたくさんの人間と妖怪がきたのだからお賽銭だって多少は、しかしながらお賽銭箱はすっからかんで1円すらもなく、あれで少しのお賽銭でも投げてくれたら、幸せすぎて泣きたくなるわねえ、1人で皮肉を呟いた。
◆
『目で追ってしまうのは、つい癖で』
新刊をばらまき、去っていく鴉天狗を目で追うことがいつの間にか癖になっていた、人里でルポライターモードの彼女が取材をしている様子を目だけで追った、宴会で吸血鬼と楽しそうに喋っている文を遠くから目で追い、よくわからぬイライラを酒でごまかした。何の因果であのアバズレを、困った癖だ。
◆
『すべてを諦めた日』
すべてを諦めたあの日、霊夢と協力して自宅に溜め込んだゴミを処分して売れそうなものは香霖堂に売って、そして借りたものを返すことにした。
自分の背丈よりも膨らんだ大きな風呂敷を抱えてようやく紅魔館に辿りついた。後ろから霊夢も私と同じ大きさの風呂敷を抱えている。
一生借りるはずだった本をパチュリーに返すことにした。
一生では無いが十数年は勝手に盗み借りてしまった。げんこつの一つでも飛ぶものかと覚悟、いや殴って欲しかった。
しかし、意外にもパチュリーは特に気にかけないようで。
「まさかあんたから返しに来てくれるとはねえ、行く暇が省けて良かったわ」
「せっかく私から返してきてやったのにな」
「あんたねえ、まあここの本なんて博麗神社のお賽銭五年分の価値しかないわ」
「なんだ、それなら返さなくても」
「調子に乗らない」
本で小突かれた、少し痛い。
「それとこれは今までの迷惑料」
「へっ?」
パチュリーから右ストレートが飛んできた、やせっぽっちのくせにこんな力を溜め込んでいたのか、痛い、それよりも私のために殴ってくれたことが嬉しかった。
これですべてを諦められる決心がついた。ありがとうな、パチュリー、お礼を口には出さないけど。
◆
『ひよこさん』
「ひよこさん……ごめんな……本当に申し訳ないなら食べるなと思うかもしれないけど、違うんだ。お酒を呑んで、いろいろ食べて、〆には卵かけご飯と私は決めているんだ。麺じゃないんだ、ご飯なんだ、それに卵が付いてないとどうしても駄目なんだ、ほんと……ごめん、ああ、黄身とシャリだけなのに美味しい、ごめんな……ごめんな……ひよこさん……美味しい……」
「あのな、妹紅。もうちょっと静かに食べてもだな」
「ひよこさん、ごめんな……ごめんな……。ん、けーね何か言った?あ、女将さん、卵かけご飯もう一杯」
慧音に思いきり殴られた。
魔理沙の奴が特によかったです