Coolier - 新生・東方創想話

愛する山よ、星空に近づく階段よ

2019/01/05 12:41:59
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巫女だからってたまの息抜きは必要だ。霊夢は愛用の自転車に空気を入れ、小さなテントと寝袋も持って、泊りがけのサイクリングへ行くのだ。

「うふふ。おあつらえ向きの快晴ね☆これも私の日ごろの行いが良いからかしら?なぁ~んちゃって。」

独り言を言いながら、ウキウキでペダルを漕ぎ出す姿を見て、博麗神社をナワバリとする野良猫は首をかしげるのであった。
朝の冷たい空気と、車の通りもまばらでスイスイと進む爽快感から、いつからともなく、少女は歌いながらペダルを踏んでいた。少女歌唱中・・・。

「今頃~家では~♪僕のいないことを~誰かが気づくだろう♪だけどもう帰らない♪」

こうなると、バスドラムを踏むリズムにあわせてペダリングするようになるのが世の常だ。でもこの曲ではちょっとハイペース。
息を弾ませながら歌い終わると、許のケイデンスに戻り、霊夢はほっと一息ついた。別に誰に強制されているわけでもないのだが、
せっかく歌いだしたら、一曲歌いきりたい。そういうものでしょ?(ここで、霊夢はみなさんに向かってウインク。)

「あらぁ~霊夢さんもサイクリングぅ~?今日は良い天気☆でサイクリング日和ですものねぇ~。」

この緊張感のない、春の陽光の中ただよう綿毛のような声の持ち主は、地霊殿のところのこいしだ。

「はぁ~。どうしてこう私の周りはおかしなのばかりなのかしら?」
霊夢はそう言うと、眉間に指をかざしつつかぶりを振った。人と出会っておいてこの反応はいささか礼を欠くものだが、今回ばかりは仕方ない。
何しろこいしの格好ときたら、上半身は黄色のサイクルジャージでバッチリと決めているのに対し、下半身は一糸纏わぬ肌色一色なのだから。

「こんな奇人と仲間だと思われたくないわ・・・。」と霊夢が思うや否や、その願いははかなくも打ち破られた。
ハイキングを楽しみに来たと思しき、若い男女の一団が、向こうから歩いてきて霊夢とこいしの姿をみとめたのだ。

ヒソ・・・ヒソ・・・えっ・・・?裸?・・・・・ヒソ・・・自転車に乗ってるから肌色のタイツじゃないの?・・・いや違うよ、あれ確かに裸よ・・・
ヒソ・・・

このようにひそひそ話が霊夢にも聞こえてくる。もはや恥ずかしい気持ちよりも、せっかくの休日のハイキングのいい雰囲気を、
この下半身丸出しの変態によってぶちこわしてごめんね・・・。という気持ちの方が勝った。やっぱり霊夢って根はいい人ですからネ。
一団は逃げるように先を急いだが、その間もひそひそ話は続く。ヒソ・・・何かの撮影?・・・レズものAVとかの・・・ヒソ・・・でもあの子、顔はかわいいよね・・・ヒソヒソ・・・

「でしょでしょ!?私、かわいいでしょ!?」うわっ、こいつ何気に聞き耳立ててたのかよホンットキモいなと霊夢は思わず溜息が出た。
「あぁ~こいし!よそ様にからむな追いかけるな!あの子達怖がってキャーキャー言って逃げてるじゃないのよもう!」

こいしが自分のほうに戻ってきて、霊夢は少しほっとした。これから行く林道は、ほとんど人っ子一人通らないような忘れ去られた道だ。
だから今回のような穴があったら入りたい気持ちになることは、免れるだろうから。

道が登り基調になってくると、前を走るこいしが度々、腰を浮かすのだが、その際に今までは辛うじて隠れていた彼女のサブタレイニアンローズとサブタレイニアンデイジーがすぐ霊夢の目の前で
フリフリしている。これはもう正視に堪えない。どれ、ちょっとフカしてやるか。

「こいし、あなた古臭い乗り方ねぇ。最近は上りでもほとんどシッティングで行くのがトレンドよ。グランツール、観てないの?」
「霊夢さん、詳しいのね!」

ふぅやれやれ。やっとサドルの上にサブタレイニアンローズが収納されたか。
霊夢は朝もやのかかって白んだ空気のなか、ぼうっとそびえる檜の木の間を縫って、九十九折の林道を登っていった。
高度が上がるにつれて、だんだんと周囲の空気も晴れて、明かりが差してくる。視界が開けたカーブで一度止まって下を見下ろすと、
今しがた登ってきた道のあたりの木々の緑から、まるで山火事のように白い煙が上がっているが、これはもちろん火の煙ではなくて、
さっき霊夢が通った道にかかっていたもやなのだ。ほんの短時間の間に、もやのなかを切り裂いて走る当事者から、
青空へと帰っていくもやを見下ろす傍観者へと、自身の立場が変容を遂げるというこの事実は、しばしサイクリストをあっけに取らせるに足るものである。

山頂に着くと、いつも薄ら笑いを浮かべているこいしもさすがに疲れたらしく、
大の字になって寝転んだ。足を開いているものだから、今までは辛うじて肉に隠れていたサブタレイニアンローズやサブタレイニアンデイジーも霊夢の目の前にこんにちはだ。
これはもう正視に堪えない。
寝転ぶこいしを尻目に、霊夢も喉がカラカラに渇いているので、すがりつくように自販機へと歩み寄り、ファンタグレープの500ml缶を買い、
ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。強い炭酸が食道をこすりつけ、胃にまで流れていくのがわかる。常時ならその刺激にむせかえるところだが、
どうやら体は水分補給を優先したようだった。一息で、缶の3分の2は霊夢の腹に消えた。

と、ふと横に目をやると、道端に山野草が花を咲かせていた。里で見る品種改良が進んだ花卉は、明らかに花という記号が肥大化しており、
人がぱっと花の周囲の風景を目に入れると、真っ先に花であることを主張してくるものだが、今霊夢が登ってきた林道は人も滅多に来ず、
自然の生き物だけでほぼ完結している社会であるため、花は同種の花に着く虫くらいにしかセックスアピールをする必要がなく、
その結果、人間の目からするとあまり周囲の雑草と見分けがつかず、ややもすると葉や茎とすら境界が曖昧なものだ。
それがれっきとした山野草の花なのである。対象の相手にさえわかる、最小限の魅力でよい・・・。
ここに、我々が進化の過程で忘れ去りつつある思想を教えられた気がした。男は筋肉や財産を際限なく肥大化させ、女は美貌と意識の高さを肥大化させることによって、
さかんにセックスアピールをし、半ば身をも滅ぼさんばかりであるが、現代人の繁殖力はというと、今霊夢の横に咲いている山野草にも劣りつつある。
放射状に薄黄色の細い花弁が、控えめに一重だけ拡がるその直径1cmほどの花は、なんとなく傍らに寝転がっているこいしの、
ただの股の間の皺に過ぎないようなサブタレイニアンローズにも重なった。

こいしと別れた霊夢は、キャンプ場で一人、テントを張って寝た。群青色の空には満天の星たちが輝き、テントのファスナーを閉めるのが惜しいくらいだった。




霊夢は翌朝、走行中の車の振動に揺られて目を覚ました。
(おかしいわ…昨晩はテントを張って、そのなかで寝たはず。)
どうやら、テントごとハイエースの荷台に詰め込まれてしまったらしい。バックミラーに映る運転手の顔は、まぶたが腫れぼったく、顔は横に幅広く、
血色は赤黒く酒焼けしていた。助手席の若い男は、細面の眼鏡姿で肌は青白い。自ら好き好んで悪事を働くような性分には見えないが、
あまりにも人生に立ち向かう能動性が欠乏していたために、結局は悪事を働く者の小間使いとして、まるで人間ラジコンのようにして日々を生きている・・・。
そんな風情だ。とりあえず二重弾幕結界で助手席の男を身動きできなくしておき、サイドブレーキを軽く引いてから、運転席の男の首をサバイバルナイフで捌いた。
男の下あごから上には血は飛び散らず、首の傷口からきれいに水平に血が噴出される。霊夢は、タバコ畑に水を撒くスプリンクラーを連想したのだった。
フロントガラス、サイドガラスにも血が吹き付けられ、ゆっくりと滴となって窓をつたって降りていった。
車は男が事切れるのと時を同じくしてサイドブレーキに引きずられ、エンストして止まった。



霊夢は荷台にテントが積まれたハイエースを運転しながら、ぼーっとさっきのことを思い出していた。二重弾幕結界によって、もはや博麗の巫女の
禊の刃のもとに入定を待つのみとなった、助手席の青年は、今まさに己の首にナイフの刃が触れんとしたそのときに、別人のように凛々しい顔となって、
キッと霊夢をにらみつけたのである。

「あんな顔が出来るのなら、もっと早くしておけばいいのに・・・。どうして人間って、こうなのかしら?」と、彼女はつぶやいた。

窓ガラスの血しぶきが対向車のドライバーに見えたら驚かしてしまうので、手ぬぐいで入念に拭いておいたのだが、どうしてもうっすらと赤い
スモークガラスのようになり、許の透明なガラスには戻ることはなかった。

「こ・・・これは一体・・・ッ!」

紺のブレザーに短パン姿で、髪型は一部にツノが生えたような特徴的なルックスの少年が、山中に打ち捨てられた2体の仏を前に、目を見開いて驚愕していた。
白目の割合が多くなっているところに、その驚き振りがみてとれる。

「被害者は2名、それぞれ40代と20代と見られる男性。死因は頚部を刃物で切られたことによる失血だ。死亡時刻は今から遡ることまだ半日も経っていないだろう。」

慣れた口ぶりで述べるこの少年は一体何物なのだろう。

「林道の轍にはまだ落ち葉が積もっていない。犯人は車でこの先を登っていったか・・・。確かめてみる価値はありそうだ!」

霊夢はというと、崖下へと視界の開けたカーブで車を停め、エンジンを切ってギアをニュートラルにし、サイドブレーキも引かずに降りた。
そして前日にキャンプを張った場所へと歩いていった。歩いていると様々な思いが去来する。
「そういえば、学者肌の永琳も言っていたっけ。考えをまとめるために、一日に何度も散歩をしているって。」
「あたしの大切な自転車、今どうなっているのかしら・・・。私を拉致した二人組のストレス解消によって、ボコボコに荒らされているのかも。決して安い自転車ではないから、
後から来たキャンプ客に盗まれていたり・・・。はぁ、考えただけで気が滅入るわ。現場を、早く確認したいようなしたくないような。」
小枝を踏みしめるパキッという音、木の幹をまるでメトロノームのように一定の周期で叩く音は、きっとアカゲラか・・・。
霊夢の焦燥に呼応するように、静寂だと思っていた山の中で湧き上がる音たちが、なんだかクリアーに聞こえてくる。
あの苔むしたクヌギの木の先に、キャンプ地はある。鼓動が早まるのを感じつつ、霊夢はその光景を目の当たりにした。

「待っていてくれたのね。」

そこには前日に霊夢が停めたときと全く同じ場所に、誰の手にも触れられずに自転車が佇んでいた。
霊夢の声に返事をするように、トップチューブがキラリと光った。風で木の枝がゆらめき、その隙間から差した陽の光が、フレームに反射したのだ。


(窓ガラスに付着した血液こそ拭かれてはいるものの、ひとたびドアを開けて車内に入ってみたら、まるで屠殺場のようじゃないか・・・。)
紺ブレザーに短パン姿の少年は、ハイエースの車中に潜り込んで捜査を始めた。ほどなくして彼は助手席の足元に落ちている血まみれの札を発見し、拾い上げた。
「夢符・・・二重結界・・・?」
少年の視界がグラリと傾く。うつむいて札に目をやっていたはずが、今は車の天井を見ている。かと思えば、自分の体はフワリと宙に浮き、
薄く赤みがかったウインドウから見える外の緑も、けたたましく様相を変え続ける。じきにそのサイクルは、少年の意識で追える早さではなくなっていった。
全身を激痛が襲った。

「ラ~~ンッ!!!」少年は薄れ行く意識の中で、余力を振り絞って叫んだ。

「なぜかしら?唐突に稲荷ずしが食べたくなってきたわ。」

霊夢はパンパンと両掌をたたき合わせて、一仕事終えた人のポーズを取るのだった。ハイエースは、見る見るうちに谷底に飲み込まれてゆく。
彼女の心は既に、自転車との再会を祝福する晴れやかな気持ちへとフォーカスされており、少年の叫びに対して、
頭におパンツを被った不思議な狐の姿をわずかに想起したに過ぎなかったのだ。
https://imgur.com/gevmNSV[img]https://i.imgur.com/gevmNSV.jpg[/img]
文末のお弁当は私のお気に入りのお弁当屋さん、新潟県加茂市のみのり弁当さんの日替わり弁当です。おかずの豊富さ、ご飯のおいしさもさることながら、煮物の味が絶妙なお婆ちゃんが作ったっぽい味で最高なんですよ。加茂はきれいなところですので、お越しの際はぜひ稔り弁当に寄ってみてくださいね。
ラビぃ・ソー
[email protected]
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コメント



0.200簡易評価
5.無評価名前が無い程度の能力削除
懐かしい顔だな
相変わらずクソみたいな作品だ
6.無評価ラビィ・ソー削除
>>5
ようクソムシ
8.20名前が無い程度の能力削除
前の作品より良くなったんじゃないか、と思って過去作を見ようと思ったら一作もない。
全削除されたんだっけか・・・


お弁当屋さんへの風評被害が心配。気にしすぎかな。
9.無評価ラビィ・ソー削除
>>8
ラビィ・ソーではなく、ラビィで検索するとヒットするようです。
何らかの不具合が生じてラビィ・ソーだと出てこないですね。
11.90モブ削除
飯テロかよぉ!

サブタレイニアンローズがパワーを持ち過ぎていて笑ってしまいました
12.無評価ラビィ・ソー削除
>>11
今日も元気においしく食べましょう^-^
サブタレイニアンローズに恋の埋火を挿入したい!
14.無評価8削除
当作品では「ラビィ・ソー」で、中黒が半角の「・」
一方、過去作では「ラビィ・ソー」で中黒は全角の「・」
になってますね。参考まで。
15.無評価ラビィ・ソー削除
>>14
ありがとうございます!やっぱ、久しぶりに投稿するとポカやっちゃいますね~^-^;