──She is not empty.
特別が羨ましいと、人は言う。
けれど成り代わろうとする者はいないし、その地位に憧れるものもいない。子供たちは巫女を「かっこいい」と「ああなりたい」とは言ってはくれない。
巫女はいることが前提だ。
特別は確立され、それでいることが当たり前だ。それは天才、という言葉も同じ。
「努力って言葉は、それまでの行動すべてをぐちゃぐちゃにしてしまわないか。言葉に当てはめると、意味のないものに思えるよ」
以前、魔理沙が言っていた。
努力という言葉は、言葉に直してしまうと意味のないものになると。魔理沙は努力をした。私に勝とうと、して。
彼女の姿を思い浮かべるたび、小さな頃の背丈を思い出してしまう。この言葉を言ったのは、どの時代の魔理沙だっただろうか。
「だから、私は努力なんてしない。ただ、死ぬまで生きるんだ」
「努力は意味がないの?」
「努力が意味がないとは言ってない」
その言葉は、どんな意味を持つのだろう。
私はそのとき回りくどい魔理沙の言葉にイラついたし、自分にも腹が立った。努力をしたことがない。努力が報われるなんて信じない。そんな私に、理解など出来ない。
「例えば、博麗の巫女」
唐突に魔理沙は言った。
「え?」
「博麗の巫女、という言葉に意味はない」
「意味はあるでしょうよ。異変解決、妖怪退治、みんなが認知しているわ」
「それは博麗の巫女だろう」
「ど、どういうことよ」
魔理沙はしばらく目を閉じた。
なにかを考え込み、私に伝えようとしている。私が分かればいいのに。
「例を変えよう」
目を開いた。
ちょっと自信なさげに私を見る。なにを悩んでいるのか、魔理沙はしばらく私をじっと見たまま動かない。眉が寄っていた。
「博麗霊夢」
ついに魔理沙が口を開いた。名前を呼ばれ、どきっとする。心のなかを見透かされたような気分になって、胸を押さえた。
「……私?」
「博麗霊夢、という言葉に意味はない」
「名前、でしょう?」
「そう、名前だよ。名前なんだ」
「……名前以外になにかあるの?」
魔理沙がぐるりと目を回す。
そして、にっこりと微笑んだ。
「まさか。なにもない」
「つまり」私は考え込むように目線を上にした。「努力という言葉も、努力という行為に名前があるだけで本質は全然説明されていないってこと?魔理沙=人間の魔法使いであるとか」
「今日の朝ごはんは鮭に白ご飯だったとかな」
魔理沙はオーバーに微笑んだ。
「博麗霊夢という言葉を聞いて、私は色んな霊夢が思い浮かぶ。なのに、博麗霊夢という言葉はそれを説明してはくれない。私は努力という言葉を使って自分の人生を説明できないのは嫌なんだ」
「最初からそう言えばいいのに」
「こう言っても分からないさ」
「そうかしら」
「そうだ」
努力という言葉で魔理沙の努力の過程、結果を表すことはできない。努力しているあなたはすごい、と言われるたびそこは空っぽになる。
努力はしない。空っぽになった箱を見て、私はこう生きたなんて言わない。そう言っている気がした。
「天才もそう?」
「天才だって?」
「ええ、天才は言葉にすると意味がなくなってしまう?」
魔理沙は顔を歪めて私を見る。
「天才は先天性だろ。意味は変わらない」
「天才は変わらないの」
「意味を失わない。天才という言葉は、元から空っぽだからだ。その言葉で、“それ”を表現できてしまう」
「……そう」
天才は確立され、そうであることが当たり前になる。そこに過程もなく、思いもない。
「霊夢は、努力をしているだろ」
魔理沙が質問の意図に気づいて、先回りした。強引だけど、魔理沙は少なくとも私が空っぽではないと思っているらしい。努力をしているかは別だ。
「努力なんてしたことないわ」
「生きて、死ぬ。その過程を歩いている。努力という言葉にその過程を表す力があれば、お前の努力なんてそれだけで表せるのに」
「天才という言葉が付属されれば、意味を持てないの?」
「持てない」
はっきり言い切ったのを聞いて、息を素早く吸い込んでしまう。
魔理沙にはなにが見えているのだろうと思う。確信できるイデアのようなものが、彼女の頭の中には浮かんでいるのだろうか。だから、言葉という境界のはっきりしたものでは満足など出来ないのだろうか。
私は、言葉に境界を見ることができない。
正解を見つけられない。
「どうしてもできてしまうのは、嫌か?」
魔理沙が聞く。
私はすぐさま首を横に振った。
「嫌なわけがないわ」
「天才と呼ばれるのは、嫌か?」
「……嫌なわけ、ないでしょう」
「先天性だから?博麗霊夢という名前があって、自分の名前が嫌だと嘆くこともないように当たり前だから?」
当たり前だから。
それは、そうだ。
「特別は、それを元から持っていない人の言葉よ。天才であることは当たり前。私が飛べるのも、当たり前。嫌とか、そういうのじゃない」
嘘じゃない。「私は空っぽ?」
魔理沙は穏やかな顔をしていた。
いつもと同じ、なんでもないような顔をしている。そうだ。ヒカンテキな話をしているのでも、カワイソウな話をしているのでもない。
「空っぽじゃない。霊夢は生きてるから」
なんでもないように言う。
「不満そうだな」
「え?」
魔理沙が私の顔を覗きこんで言った。
「私が思うに、お前は言葉の意味がどうであれこじつけで考えても自分の使えるものは使うやつだと思ってた」
「失礼ね」
「拗ねるなよ」
そう言って彼女は笑うと、あ、と声を上げた。
なにを思い付いたのか、魔理沙は私の前に座り私の名前を呼んだ。こういう楽しげな声は大抵あまり面白くないことだ。
「一つ、霊夢に意味を渡そう」
「意味?」
「そう、私たちだけの」
魔理沙は人差し指を口に当て、悪戯を思い付いたように笑った。秘密、と加えて言う。
その動作に私はつい息を止め、彼女に顔を近づける。
魔理沙はサッと私の横に移動し、私の耳に手を当てた。
「私がお前の名前を呼んだら……」
ちらりと彼女と目を合わせてしまう。
「私がお前のこと大好きだって意味だ」
その瞬間、理性が吹き飛ぶように心臓が跳ねる。
なにもかも、私が主導権を握っていた感覚が逃げていって、熱くなっていった。当の魔理沙はくつくつと笑い、向こうへ走り抜けていく。
「霊夢!」
満面の笑みで言う彼女は人差し指を口に当てる。
今日これから何度名前を呼ばれるか、検討もつかなかった。
ただ、何度でも呼ばれたい。
──Is she talented?
──努力という言葉が認知され始め、私の行動はすべて無駄になった。
「私の思う天才っていうのはね」
霊夢は言った。
日常における何でもない会話に、こういう“議論”に似たものを持ち出すのはここでは珍しくなかった。
霊夢は酒の席に昔の偉人の俳句を持ち出したり、小難しい諺を引用する。遊びに自らの理論を持ち込むことは日常茶飯事で、適当に語った。社会情勢、と堅苦しいものは幻想郷にはなかったが、そういうことにも人里離れた土地に住むにしては疎くなかった。
ようするに、賢い子だった。
生きるのが抜群に上手い。
「私の思う天才っていうのはね、やり方を知らないの」
「それは経験談だな」
「直接天才と呼ばれることはないんだけどね。ほら、取材とかであれば……たまに言われるわね」
「取材って、たかが知れてるぜ」
「それはどうでもいいでしょ」
取材、と言葉にすることが可笑しい。
阿求の「天才巫女様の異変のときのお話を」などという言葉に躍らされる霊夢は、確かに単純で──確かに天才だがそれは微笑ましくもある。「怠けてばかりで」という友人たちの冷やかしも「でも、霊夢ならなんとかする」という“当たり前”の前に成り立つ。
「天才という性質は、もう身体の一部。心臓をどうやって動かしているのか分からないように、天才もどうやって成り立っているのか分からない」
その表現はぴったりだった。
霊夢はただ空が飛べるだけ、しょぼい能力だと言ったあの能力。万物から“浮かせている”のはもはや霊夢の能力ではなく、霊夢自身だ。
「空を飛べても、その方法を知らないのなら意味はないわ」
「空は飛べるのに、歩く練習をするなんてな。お前の赤ん坊時代もたいそう可哀想なもんだ」
「だから天才なのよ。天才は歩いてはいけないの?」
「天才は歩いても褒められない」
小さくため息が聞こえる。
「魔理沙は私が羨ましいって思わない?」
「能力には羨ましく感じるが、それは天才が羨ましいってわけじゃないな。最初から出来るっていいよな」
「それってどっちよ、羨ましくないの?」
「羨ましくない」
霊夢がふうん、と言った。
興味がなさそうにも聞こえたが、寂しそうにも聞こえた。
私の天才へのあこがれは霊夢といる限り尽きなかったが、それは羨ましさなどではなかった。天才は生まれもった能力で、当たり前。それは誰かの顔の良さや手相の良さを羨ましがるようなもので、どうして羨ましがったりするのだろう。
天才は、違う。
私には理解できない。
「じゃ、霊夢は私のこと羨ましいか?」
「え」
お互いに見つめ合う。
霊夢は絶望したような顔をしていた。ほんの少し落胆した程度なのだろうが、もっと顔が白く浮かんで見えた。
「……そんなこと、考えたことも」
だよな、と言いそうになるのを堪えた。
言えば、霊夢はもっと顔色を悪くしそうだったからだ。同意は霊夢への羨ましさがないことを浮き彫りにする。霊夢は羨ましがって欲しかったのだな、と分かっていた。出来るだけ近い位置にいたいと、理解してほしいと思っている。
努力家という性質は天才の前では霞みがちだ。
私の性質に“努力”が付与され、私の人生はなんなのだろうと思った。努力は目標があり、その目標に辿り着いていないものの言葉。
私は今、どこにいる。
魔法は、終わりが来るだろうか。
「霊夢、私たちって我が強いよな」
霊夢はまだ沈んでいてきょとんとしたが、いつものように笑った。
「あんたから見れば私は馬鹿かもね」
「私もな」
言葉の意味が貼り付いて離れない。
霧雨魔理沙という名前も、いつしか意味しか残らない。どうかずっとそうであってほしい。そう思う。
特別が羨ましいと、人は言う。
けれど成り代わろうとする者はいないし、その地位に憧れるものもいない。子供たちは巫女を「かっこいい」と「ああなりたい」とは言ってはくれない。
巫女はいることが前提だ。
特別は確立され、それでいることが当たり前だ。それは天才、という言葉も同じ。
「努力って言葉は、それまでの行動すべてをぐちゃぐちゃにしてしまわないか。言葉に当てはめると、意味のないものに思えるよ」
以前、魔理沙が言っていた。
努力という言葉は、言葉に直してしまうと意味のないものになると。魔理沙は努力をした。私に勝とうと、して。
彼女の姿を思い浮かべるたび、小さな頃の背丈を思い出してしまう。この言葉を言ったのは、どの時代の魔理沙だっただろうか。
「だから、私は努力なんてしない。ただ、死ぬまで生きるんだ」
「努力は意味がないの?」
「努力が意味がないとは言ってない」
その言葉は、どんな意味を持つのだろう。
私はそのとき回りくどい魔理沙の言葉にイラついたし、自分にも腹が立った。努力をしたことがない。努力が報われるなんて信じない。そんな私に、理解など出来ない。
「例えば、博麗の巫女」
唐突に魔理沙は言った。
「え?」
「博麗の巫女、という言葉に意味はない」
「意味はあるでしょうよ。異変解決、妖怪退治、みんなが認知しているわ」
「それは博麗の巫女だろう」
「ど、どういうことよ」
魔理沙はしばらく目を閉じた。
なにかを考え込み、私に伝えようとしている。私が分かればいいのに。
「例を変えよう」
目を開いた。
ちょっと自信なさげに私を見る。なにを悩んでいるのか、魔理沙はしばらく私をじっと見たまま動かない。眉が寄っていた。
「博麗霊夢」
ついに魔理沙が口を開いた。名前を呼ばれ、どきっとする。心のなかを見透かされたような気分になって、胸を押さえた。
「……私?」
「博麗霊夢、という言葉に意味はない」
「名前、でしょう?」
「そう、名前だよ。名前なんだ」
「……名前以外になにかあるの?」
魔理沙がぐるりと目を回す。
そして、にっこりと微笑んだ。
「まさか。なにもない」
「つまり」私は考え込むように目線を上にした。「努力という言葉も、努力という行為に名前があるだけで本質は全然説明されていないってこと?魔理沙=人間の魔法使いであるとか」
「今日の朝ごはんは鮭に白ご飯だったとかな」
魔理沙はオーバーに微笑んだ。
「博麗霊夢という言葉を聞いて、私は色んな霊夢が思い浮かぶ。なのに、博麗霊夢という言葉はそれを説明してはくれない。私は努力という言葉を使って自分の人生を説明できないのは嫌なんだ」
「最初からそう言えばいいのに」
「こう言っても分からないさ」
「そうかしら」
「そうだ」
努力という言葉で魔理沙の努力の過程、結果を表すことはできない。努力しているあなたはすごい、と言われるたびそこは空っぽになる。
努力はしない。空っぽになった箱を見て、私はこう生きたなんて言わない。そう言っている気がした。
「天才もそう?」
「天才だって?」
「ええ、天才は言葉にすると意味がなくなってしまう?」
魔理沙は顔を歪めて私を見る。
「天才は先天性だろ。意味は変わらない」
「天才は変わらないの」
「意味を失わない。天才という言葉は、元から空っぽだからだ。その言葉で、“それ”を表現できてしまう」
「……そう」
天才は確立され、そうであることが当たり前になる。そこに過程もなく、思いもない。
「霊夢は、努力をしているだろ」
魔理沙が質問の意図に気づいて、先回りした。強引だけど、魔理沙は少なくとも私が空っぽではないと思っているらしい。努力をしているかは別だ。
「努力なんてしたことないわ」
「生きて、死ぬ。その過程を歩いている。努力という言葉にその過程を表す力があれば、お前の努力なんてそれだけで表せるのに」
「天才という言葉が付属されれば、意味を持てないの?」
「持てない」
はっきり言い切ったのを聞いて、息を素早く吸い込んでしまう。
魔理沙にはなにが見えているのだろうと思う。確信できるイデアのようなものが、彼女の頭の中には浮かんでいるのだろうか。だから、言葉という境界のはっきりしたものでは満足など出来ないのだろうか。
私は、言葉に境界を見ることができない。
正解を見つけられない。
「どうしてもできてしまうのは、嫌か?」
魔理沙が聞く。
私はすぐさま首を横に振った。
「嫌なわけがないわ」
「天才と呼ばれるのは、嫌か?」
「……嫌なわけ、ないでしょう」
「先天性だから?博麗霊夢という名前があって、自分の名前が嫌だと嘆くこともないように当たり前だから?」
当たり前だから。
それは、そうだ。
「特別は、それを元から持っていない人の言葉よ。天才であることは当たり前。私が飛べるのも、当たり前。嫌とか、そういうのじゃない」
嘘じゃない。「私は空っぽ?」
魔理沙は穏やかな顔をしていた。
いつもと同じ、なんでもないような顔をしている。そうだ。ヒカンテキな話をしているのでも、カワイソウな話をしているのでもない。
「空っぽじゃない。霊夢は生きてるから」
なんでもないように言う。
「不満そうだな」
「え?」
魔理沙が私の顔を覗きこんで言った。
「私が思うに、お前は言葉の意味がどうであれこじつけで考えても自分の使えるものは使うやつだと思ってた」
「失礼ね」
「拗ねるなよ」
そう言って彼女は笑うと、あ、と声を上げた。
なにを思い付いたのか、魔理沙は私の前に座り私の名前を呼んだ。こういう楽しげな声は大抵あまり面白くないことだ。
「一つ、霊夢に意味を渡そう」
「意味?」
「そう、私たちだけの」
魔理沙は人差し指を口に当て、悪戯を思い付いたように笑った。秘密、と加えて言う。
その動作に私はつい息を止め、彼女に顔を近づける。
魔理沙はサッと私の横に移動し、私の耳に手を当てた。
「私がお前の名前を呼んだら……」
ちらりと彼女と目を合わせてしまう。
「私がお前のこと大好きだって意味だ」
その瞬間、理性が吹き飛ぶように心臓が跳ねる。
なにもかも、私が主導権を握っていた感覚が逃げていって、熱くなっていった。当の魔理沙はくつくつと笑い、向こうへ走り抜けていく。
「霊夢!」
満面の笑みで言う彼女は人差し指を口に当てる。
今日これから何度名前を呼ばれるか、検討もつかなかった。
ただ、何度でも呼ばれたい。
──Is she talented?
──努力という言葉が認知され始め、私の行動はすべて無駄になった。
「私の思う天才っていうのはね」
霊夢は言った。
日常における何でもない会話に、こういう“議論”に似たものを持ち出すのはここでは珍しくなかった。
霊夢は酒の席に昔の偉人の俳句を持ち出したり、小難しい諺を引用する。遊びに自らの理論を持ち込むことは日常茶飯事で、適当に語った。社会情勢、と堅苦しいものは幻想郷にはなかったが、そういうことにも人里離れた土地に住むにしては疎くなかった。
ようするに、賢い子だった。
生きるのが抜群に上手い。
「私の思う天才っていうのはね、やり方を知らないの」
「それは経験談だな」
「直接天才と呼ばれることはないんだけどね。ほら、取材とかであれば……たまに言われるわね」
「取材って、たかが知れてるぜ」
「それはどうでもいいでしょ」
取材、と言葉にすることが可笑しい。
阿求の「天才巫女様の異変のときのお話を」などという言葉に躍らされる霊夢は、確かに単純で──確かに天才だがそれは微笑ましくもある。「怠けてばかりで」という友人たちの冷やかしも「でも、霊夢ならなんとかする」という“当たり前”の前に成り立つ。
「天才という性質は、もう身体の一部。心臓をどうやって動かしているのか分からないように、天才もどうやって成り立っているのか分からない」
その表現はぴったりだった。
霊夢はただ空が飛べるだけ、しょぼい能力だと言ったあの能力。万物から“浮かせている”のはもはや霊夢の能力ではなく、霊夢自身だ。
「空を飛べても、その方法を知らないのなら意味はないわ」
「空は飛べるのに、歩く練習をするなんてな。お前の赤ん坊時代もたいそう可哀想なもんだ」
「だから天才なのよ。天才は歩いてはいけないの?」
「天才は歩いても褒められない」
小さくため息が聞こえる。
「魔理沙は私が羨ましいって思わない?」
「能力には羨ましく感じるが、それは天才が羨ましいってわけじゃないな。最初から出来るっていいよな」
「それってどっちよ、羨ましくないの?」
「羨ましくない」
霊夢がふうん、と言った。
興味がなさそうにも聞こえたが、寂しそうにも聞こえた。
私の天才へのあこがれは霊夢といる限り尽きなかったが、それは羨ましさなどではなかった。天才は生まれもった能力で、当たり前。それは誰かの顔の良さや手相の良さを羨ましがるようなもので、どうして羨ましがったりするのだろう。
天才は、違う。
私には理解できない。
「じゃ、霊夢は私のこと羨ましいか?」
「え」
お互いに見つめ合う。
霊夢は絶望したような顔をしていた。ほんの少し落胆した程度なのだろうが、もっと顔が白く浮かんで見えた。
「……そんなこと、考えたことも」
だよな、と言いそうになるのを堪えた。
言えば、霊夢はもっと顔色を悪くしそうだったからだ。同意は霊夢への羨ましさがないことを浮き彫りにする。霊夢は羨ましがって欲しかったのだな、と分かっていた。出来るだけ近い位置にいたいと、理解してほしいと思っている。
努力家という性質は天才の前では霞みがちだ。
私の性質に“努力”が付与され、私の人生はなんなのだろうと思った。努力は目標があり、その目標に辿り着いていないものの言葉。
私は今、どこにいる。
魔法は、終わりが来るだろうか。
「霊夢、私たちって我が強いよな」
霊夢はまだ沈んでいてきょとんとしたが、いつものように笑った。
「あんたから見れば私は馬鹿かもね」
「私もな」
言葉の意味が貼り付いて離れない。
霧雨魔理沙という名前も、いつしか意味しか残らない。どうかずっとそうであってほしい。そう思う。
自分は某動画「努力と才能の話をしよう」の方が好きかな
とても勿体ないと感じました。天才編の出来が非常に良いため、それを省いてしまったのはかなり惜しいと思います。
こちら単体ではあまり刺さりませんでした。天才編と併せた場合、なかなか良い作品だという風に感じました。
今後の作品にも期待させていただきます。
二人の価値はいつか決まると私は思うのです。
どんな言葉にも意味だけはあるのに何も無い。それが報われないと思えるのかもしれませんね。
とても良い作品でした。ありがとうございます。