Coolier - 新生・東方創想話

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2018/09/29 16:54:08
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 最後の書類を書き上げて、私はふうと息を吐きました。
        
        
 時計を見れば、もう日付も変わっていたようでした。
        
        
 都合4時間も、私は書類と格闘していたらしいのです。
        
        
 それを自覚した途端、私は心地よい疲労感に襲われ、くわ、と欠伸をしかかって。
        
        
 その開きかかった口を、何者かの手に塞がれたのです。
        
        
 いえ、何者かなど、考えるまでもありません。
        
        
 私に気付かれずにここまで近付き。
        
        
 あまつさえ、心を読まれぬままに私の口を塞ぐなんてことができるのは。
        
        
 私の愛しき妹、こいし以外にはありえないのです。
        
        
 こいしは私の口から手を離すと。
        
        
 今度は私の唇に、指を一本当ててきました。
        
        
 静かにして、と言いたいのでしょう。
        
        
 分かりました、と私は静かに頷きました。
        
        
 辺りはしんと静まり返っていました。
        
        
 ペットたちの鳴き声ひとつ聞こえないのです。
        
        
 もしやこいしはペットたちをどこかに連れて行ったのかしら。
        
        
 私の頭にそんな考えがよぎりましたが。
        
        
 すぐにそれは間違いだと分かりました。
        
        
 私の耳が静寂に慣れるにつれて。
        
        
 ペットたちの息遣いが、あちらこちらから聞こえてきたのです。
        
        
 ただ、その心の内までは、聞こえてくることはありませんでした。
        
        
 こいしの仕業でした。
        
        
 私のサードアイが、何者の心も映さぬように。
        
        
 こいしはその眼を、その手で覆っていたのでした。
        
        
 不思議な感覚でした。
        
        
 誰の心も聞こえぬ静寂を、私は久々に経験したのでした。
        
        
 そしてそれはその昔、まだここにただの一匹のペットすらいなかったあの頃の静寂とは、まるで異なるものだったのでした。
       
       
       
       
       
       
       
 針が時を刻みました。
       
       
       
       
       
 ペットの身じろぎが聞こえました。
       
       
       
       
       
 廊下に足音が響きました。
       
       
       
       
       
 遙か旧都の辺りから、微かに騒ぎ声が届きました。
       
       
       
       
       
       
       
 静寂がこれほど雄弁だとは、私は今まで知りませんでした。
       
       
 否。
       
       
 もはやここにあるのは、静寂とは異なるものでした。
        
        
 この空間を表現する言葉を、私は持ち得ませんでした。
        
        
 ああ、こいしはこれを聴かせたかったのですね。
        
        
 私はようやく、それに思い至ったのでした。

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