最後の書類を書き上げて、私はふうと息を吐きました。
時計を見れば、もう日付も変わっていたようでした。
都合4時間も、私は書類と格闘していたらしいのです。
それを自覚した途端、私は心地よい疲労感に襲われ、くわ、と欠伸をしかかって。
その開きかかった口を、何者かの手に塞がれたのです。
いえ、何者かなど、考えるまでもありません。
私に気付かれずにここまで近付き。
あまつさえ、心を読まれぬままに私の口を塞ぐなんてことができるのは。
私の愛しき妹、こいし以外にはありえないのです。
こいしは私の口から手を離すと。
今度は私の唇に、指を一本当ててきました。
静かにして、と言いたいのでしょう。
分かりました、と私は静かに頷きました。
辺りはしんと静まり返っていました。
ペットたちの鳴き声ひとつ聞こえないのです。
もしやこいしはペットたちをどこかに連れて行ったのかしら。
私の頭にそんな考えがよぎりましたが。
すぐにそれは間違いだと分かりました。
私の耳が静寂に慣れるにつれて。
ペットたちの息遣いが、あちらこちらから聞こえてきたのです。
ただ、その心の内までは、聞こえてくることはありませんでした。
こいしの仕業でした。
私のサードアイが、何者の心も映さぬように。
こいしはその眼を、その手で覆っていたのでした。
不思議な感覚でした。
誰の心も聞こえぬ静寂を、私は久々に経験したのでした。
そしてそれはその昔、まだここにただの一匹のペットすらいなかったあの頃の静寂とは、まるで異なるものだったのでした。
針が時を刻みました。
ペットの身じろぎが聞こえました。
廊下に足音が響きました。
遙か旧都の辺りから、微かに騒ぎ声が届きました。
静寂がこれほど雄弁だとは、私は今まで知りませんでした。
否。
もはやここにあるのは、静寂とは異なるものでした。
この空間を表現する言葉を、私は持ち得ませんでした。
ああ、こいしはこれを聴かせたかったのですね。
私はようやく、それに思い至ったのでした。
時計を見れば、もう日付も変わっていたようでした。
都合4時間も、私は書類と格闘していたらしいのです。
それを自覚した途端、私は心地よい疲労感に襲われ、くわ、と欠伸をしかかって。
その開きかかった口を、何者かの手に塞がれたのです。
いえ、何者かなど、考えるまでもありません。
私に気付かれずにここまで近付き。
あまつさえ、心を読まれぬままに私の口を塞ぐなんてことができるのは。
私の愛しき妹、こいし以外にはありえないのです。
こいしは私の口から手を離すと。
今度は私の唇に、指を一本当ててきました。
静かにして、と言いたいのでしょう。
分かりました、と私は静かに頷きました。
辺りはしんと静まり返っていました。
ペットたちの鳴き声ひとつ聞こえないのです。
もしやこいしはペットたちをどこかに連れて行ったのかしら。
私の頭にそんな考えがよぎりましたが。
すぐにそれは間違いだと分かりました。
私の耳が静寂に慣れるにつれて。
ペットたちの息遣いが、あちらこちらから聞こえてきたのです。
ただ、その心の内までは、聞こえてくることはありませんでした。
こいしの仕業でした。
私のサードアイが、何者の心も映さぬように。
こいしはその眼を、その手で覆っていたのでした。
不思議な感覚でした。
誰の心も聞こえぬ静寂を、私は久々に経験したのでした。
そしてそれはその昔、まだここにただの一匹のペットすらいなかったあの頃の静寂とは、まるで異なるものだったのでした。
針が時を刻みました。
ペットの身じろぎが聞こえました。
廊下に足音が響きました。
遙か旧都の辺りから、微かに騒ぎ声が届きました。
静寂がこれほど雄弁だとは、私は今まで知りませんでした。
否。
もはやここにあるのは、静寂とは異なるものでした。
この空間を表現する言葉を、私は持ち得ませんでした。
ああ、こいしはこれを聴かせたかったのですね。
私はようやく、それに思い至ったのでした。