長い長い冬が終わりを告げた。
山の雪は川のせせらぎに帰して、その縁には新たな命が芽吹く。
抜ける風は穏やかに、ふわりと髪をなびかせた。
こんなにも気持ちのいい日は握り飯の一つでも持って、景色の良い場所で日向ぼっこでもしたい所――
「――だっていうのに何で私が神社の掃除を手伝わなきゃならないのさ!」
「仕方無いだろ、にとり以外暇なやつ捕まらなかったんだから」
「魔理沙と一緒にしないでよ、私は私なりに忙しいんだ」
「日向ぼっこするぐらいにか?」
「ぐ……」
気がつけば目の前には神社へ続く石段が現れ、私は奴隷にでもなった気分でそれを登る。
遡れば前日、新聞の天気予報が実に暖かく心地良さそうな数値だったのを見て、私は日向ぼっこをしようと思いついた。
普通なら身軽に一人で行くのが私の性分というものなのだけど、どういう訳かその日は誰かを誘いたく思ってしまった。
多分、訪れ始めた春の楽しげな陽気に当てられて、少しばかり浮かれていたのかもしれない。
そんな所へ偶然私を訪ねて来たのが運悪く魔理沙だった。
壊れた掃除機を直して欲しいと言うので引き受け、それを分解しながら日向ぼっこの話をした。
博麗神社がいい、明日の朝一緒に行こう。
魔理沙は目をキラキラさせてすぐさまそう言って、私は悪くないと返事をした。
そして今日、心躍らせながら握り飯を準備して、待ち合わせの場所でかけられた第一声が「すまん、騙した。今日は霊夢に掃除の手伝い頼まれてるから一緒に犠牲になってくれ」だった。
魔理沙が抱えていたのは弁当箱ではなく、昨日私が直した掃除機だった。
私が来ることは既に霊夢に伝えているらしく、今更逃げようものならただでは済まない。
まんまとしてやられたという訳だ。
「あ、来たわね」
階段を登りきる手前、石段の頂上からひょっこりと霊夢の顔が覗き、魔理沙がようと元気よく声をかける。
どうしてそんなに楽しそうなのさ。
「急な話で悪かったわね、迷惑じゃなかった?」
大迷惑だよ!
石段を登り切った私に建て前と分かりきった安い言葉をかける霊夢に憤慨しながらも、私の口から出たのは取り繕ったにへら顔に見合った当たり障りのない言葉だけ。
「じゃあ早速」
そう言って連行されたのは敷地の一番奥、長屋一軒分はありそうな大きく立派な納屋の前だった。
納屋の中には歴代の巫女達が適当に収納してきた貴重品だかガラクタだか分からない備品がいっぱい詰まっていて、それを運び出し整理するために人手が必要だったのだという。
百聞は一見にしかず。霊夢が納屋の鍵を開け、三人揃って中へと入る。
「なんだ、意外とキレイじゃん」
「手前の方は私が使ってる物しか置いてないからね、でももう容量オーバー。問題は奥なのよ」
霊夢の言う様に、入ってすぐの棚は綺麗に整理されてすっきりしていた。でも棚に空きは無くて、いくつかの備品は床にそのまま置かれている。
そして問題の奥だけど、正直よく分からない。
納屋の備品が霊夢が使っている棚ぎりぎりまで迫って来ていて、それより先は見通す事ができないからだ。
建物の大きさからして霊夢が使っている範囲はせいぜい五分の一程度。
恐らく残りの全部は色々な物がぎちぎちに詰まってる。
思わず絶句するスケールだ。
「これ、本当に三人でやるの……」
「本来は二人でやる予定だった」
「バッカジャネーノ?」
かくして、納屋の大掃除無作戦の幕は開けた。
「とりあえず、中の物全部出しちゃいましょうか」
出すだけで日が暮れそう。
そう思いはしたけど言葉にしても意味が無いから言うのは止めた。
「よーし、いっちょやるか!」
始めに手を付けたのは霊夢が日頃使っているというエリア。
綺麗に整理されてるおかげで、棚の上に置かれた備品はあっという間に運び出せた。
その勢いのまま棚もまるごと三人で持ち上げ運び出す。
さあ、ここからが本番だ。
「まるで壁だな」
棚の奥から現れたのは分厚いホコリにまみれた大量の箱。ちょうど靴が二足入りそうなサイズのそれが、レンガの様に規則正しく私達の背丈より高く積まれている。
「何の箱なんだ?」
「ホコリのせいで全然分からないわね」
「いいから早く運ぼうよ」
私は早く帰りたいんだ。
その一心で、私はいち早く適当な箱に手を伸ばす。
持ち上げた瞬間、指の形にホコリがめくれる感触と共に、違和感を感じた。
「妙に軽いね」
どれどれと魔理沙と霊夢も箱に手を伸ばす。
感想は三人とも同じだった。振ってみても音はしない。
「お、箱に何か書いてあるぜ」
「どこよ?」
魔理沙が箱のホコリを払い、それを霊夢に見せる。
箱を覗きこんだ霊夢の表情が歪んだ。
「何で……こんな物がここに」
「何が書いてあるのさ」
「銘菓 見栄張堂って書いてるな」
「すごいじゃん、それ里で有名な超高級老舗和菓子店でしょ」
「そうなのか?」
私と魔理沙が口を開くたび、霊夢は肩をピクリピクリと震わせた。
「でも見ろよこれ。中は空っぽだぜ」
魔理沙が箱を開けた瞬間、霊夢の口から悲痛な叫びが飛び出した。
「キー! 何でこんないいお菓子の箱がここにあんのよ! 私こんなの食べた事無いのに、先代はどんだけ贅沢な生活してたのよ!」
怒りに任せて、霊夢が箱の壁を殴る蹴る等して崩していく。
無残に潰されゴロゴロと転がるのは高級な和菓子店の箱、はこ、ハコ、空箱。
舞い上がりこちらに迫りくるホコリは霊夢の怒りのオーラが可視化されたみたいだ。
「何ボサッと突っ立ってんの! さっさとこいつら運び出しなさいよ!」
「は、はい……」「お、おう……」
結局積まれていた箱は全て空っぽで、運び出した箱は魔理沙が綺麗に灰にした。
霊夢の顔にはホコリと同じ色の線が二本、両の目から伸びていた。
「しかしまあ、拍子抜けっていうか、なんかホッとしたな」
「本当よね」
「うん、うん」
箱の壁を越えた先。霊夢の怒りとホコリが落ち着いて見えたのは、想像していたような備品の山ではなく、納屋の中程まで伸びるがらんどうな空間。
がらんどうといっても全く何も無いという訳ではなくて、そこには背の低い棚が広々と、大型百貨店の商品棚を思わせる配列でいくつも並んでいた。
「棚の上、また箱があるな」
「私、悲しみを乗り越えて強くなったの。もう絶対負けないわ」
「はいはい」
私と魔理沙はズカズカ、霊夢はジリジリと一番手前の棚まで歩み寄る。
棚の上にある箱を見て、今度は私が驚愕する事になった。
「何で……こんな物がここに」
「ん? 今度は高級なきゅうりの空箱か?」
へらへらと横へやって来た魔理沙がそれに手をかける。
やめろ、それは空箱なんかじゃない。
「馬鹿! 気安く持ち上げないでよ!」
「な、何だよ急に」
「ベータだよ! ここに並んでるの全部ベータマックスなんだよ!」
「なに? それ」
ああ、これだから素人は……!
「二人とも、ビデオデッキやビデオテープは知ってるよね」
「ええ、霖之助さんの所で見た事あるわ」
「あの黒い帯を引っ張り出して遊ぶやつだろ?」
「何てことしてんのさ!?」
「それがどうかしたの?」
「あ、えっと、二人が知ってるのはVHSって呼ばれる外の世界で広く普及した極平凡な記憶装置なんだけど、ベータっていうのはそのVHSの先駆けとして世に現れ、後に現れたVHSと激しい市場争いをした末に破れ消えていった、暗い歴史を持つ幻の機械なんだよ」
「霊夢、翻訳してくれ」
「良く分からないけど、とりあえずそいつは負け組のポンコツだっていう事だけは伝わったわ」
「滅相もない! ベータは売り方を失敗しただけで性能は負け無しなんだよ。ベータはVHSに比べカセットもコンパクトだしテープとデッキのヘッドの相対速度が大きくて画質はいい上にテープの内容が常にロードされるフルローディングを採用する事で操作性に優れ――」
「だー、うっせえなぁ。もう勘弁してくれよ」
……いいさ、所詮こいつの良さは凡人には分かりっこないんだ。
そんな事より、こんなお宝が今後も何も知らない人の元でホコリを被り続けて日の目を見ないだなんて、絶対に許せない。
全部は無理でも三つや四つ、いやせめて一つでも私が保護してやらないと。
「霊夢、相談なんだけどさ」
「だめよ」
「まだ何も言ってないよ!」
「聞かなくても分かるわよ。その機械を譲ってくれって言うんでしょ? だめだめ。ただのガラクタなら処分する手間が省けて喜んであげる所だけど、そんなに価値がある物なんだったらあげられないわ」
「そ、そんな……」
やらかした、あんなにベータの事を熱く語らなければ今頃すんなり……
ごめんよベータ達、私の頭がもう少し良ければ君達を助ける事ができたかもしれないのに。
いや諦めるのはまだ早い。何とかして霊夢を説得する方法を――
「なあ、さっさとこのポンコツも運び出そうぜ」
「ポンコツじゃないってば!」
結局、納屋の中からは十八台のベータが発掘され、後に奥から大量のテープも発見された。テープに手書きで書かれたタイトルは何というかこう、とても官能的で大人な内容を彷彿とさせるものだった。
機械の趣味といいテープの趣味といい、これらをしまい込んだ先代の巫女はどんな人物だったんだろうか。
「だいぶ広くなったわね」
「手前にあったのはただの空箱だったし、真ん中はスカスカだったからあっという間だったな」
「何だか地層を掘り返して歴史を辿ってるみたいだね」
現役で使われている霊夢の層。
高級菓子箱から豪勢な生活が伺えた豪族巫女の層。
ギークな趣味が伺えた玄人巫女の層。
そして次に私達の目の前に現れた、恐らく最奥となる備品の層。
その層を一言で表現するならば。
「きったねーな」
ゴミの山。
それもあの魔理沙にそう言わせる程のひどい有様。
さっきまでの層は何だかんだ言ってきちんと整理されていたけど、この層に限ってはそれが微塵も感じられない。
しかも積まれているのは家庭ゴミを出すような大きな袋。それが天井に届きそうな程に山積みにされている。
それに表面は分厚い鼠色のホコリを纏っているもんだから、全部引っくるめて一つの大きな塊にも見えてくる。
「これ、象の足みたいよね」
「象?」
「本でしか見た事ないんだけど、こんな感じじゃなかったかしら」
「あー思い出した、近づいただけで即死するとかいうあれか。チ、チル、チルノなんとかって所にあるやつ」
多分違うけど、この場合魔理沙が言ったやつの方が近い気もする。
それはまあ良いとして、袋の中身は何なんだろう。真っ黒な素材だからホコリをはらっても全然わからないや。
「よし、ちょっと骨が折れそうだけど、さっさと片付けちゃおうぜ」
そう言って魔理沙が手前にある袋をむんずと掴む。
片手で持ち上げられないでいるあたり、とても重たそうだ。
「ねえ、袋の中身確かめてみようよ」
さっきのベータの件もあって、私はその袋の中にまた何か価値がある物があるんじゃないかと期待していた。多分二人も同じ気持ちだろう。
「そうね、魔理沙、開けてちょうだい」
ああ、と二つ返事で魔理沙が結び目を解き始める。
私と霊夢も袋の目の前まで近づいて固唾をのんでそれを見守る。
結び目がゆるくなるにつれて、中からは魔理沙の手の動きに合わせてガサガサと何かが擦れる音がし始める。
一体、何が入っているんだ。
「開いたぜ」
待望の瞬間。
魔理沙が袋の口を大きく開き、三人で一斉に中を覗き込む。
「うっ……」
「まじかよ」
「これはひどい」
なんて事だ。
袋の中に入っていたのは、長い年月によって半分土に還りかけている魚の骨や野菜の皮。ただの生ゴミ、だった物。
価値が無い物どころか、見ただけでげんなりするし臭いもキツイ。頭がくらくらしそうだ。
「まあ、畑に撒けば肥料にはなるかもな」
「たしかに、臭いもどことなく近い気がするわね」
「何が何でも活用しようとするのやめなよ」
どこまで本気なのか知らないけど、こんなもんで育った野菜なんて誰も食べないよ。
「他のはどうかしら」
そう言って霊夢が他の袋に手を付け始めたので、私も別の袋を手繰り寄せる。
霊夢のはちり紙、私のは空き瓶だった。
どうやら残念な事に、私達の目の前にあるのは何のひねりもない、文字通りのただのゴミの山だったらしい。
「……とりあえず運び出しましょ」
「そうだな」
そうして私達は肩を落としながら、ひたすらゴミの入った袋を運び出し続けた。
とは言っても、全く収穫が無い訳では無かった。
ゴミの山の中には空き缶や鉄くずが入った袋も混じっていて、それらは私達河童にとっては貴重な金属資源になる。
もちろん霊夢達には価値のない物なので、譲ってくれと頼んでも断られる事は無かった。
「ん?」
「どうしたの魔理沙」
「なんか出てきたぞ」
作業を始めてかなりの時間が経って、奥の壁まであと二メートル程という所まで来た時、魔理沙がゴミの下から何かを見つけ出した。
袋の隙間から覗くそれは光沢のある鮮やかな赤色をした物体で、とても大きいらしくゴミの中にその全容を隠していた。
もちろん三人とも興味深々。
私達は言葉を交わす事なく、一つまた一つとゴミを取り除いていく。
「あ、今度は輪っかが出てきたわよ」
霊夢の指す先には赤い体に付属された、ちょうどスイカ程の直径を持つ銀色の輪っかがあった。
輪っかの中心からは何本かの柱が星型に伸び、外周にはドーナツ状の分厚いゴムチューブが付いていた。
「まさかこれは……」
「お、これもスーパーレアなポンコツなのか?」
「…………とりあえず残りのゴミもどけてみよう」
自動車。
全容を見なくともそれは明らかだ。
でも、自動車自体は無縁塚に行けばけっこう転がっていたりするので対して珍しいものではない。
問題なのは銀色の輪っか、ホイールと呼ばれるそれの中心に書かれた馬のイラストだ。
これは、とんでもない物を見つけてしまったのかもしれない。
「全部退けたわよ」
このなだらかな美しい曲線を持つ、広くどっしりとしたボディ……
「どうなんだ、にとり」
ホイールや前後に描かれた、躍動感あふれる跳ね馬……
「これは……」
これは365GTB/4!
幻も幻、通名をフェラーリ・デイトナ!
しかもこいつは世界に一つしかないとされるアルミボディ仕様!
「……た、ただのポンコツだよ」
ただのポンコツ。
そう聞いて肩を落とす二人。
もちろんそれは嘘だ。こいつは蓬莱人の命を持ってしても生きている内に拝めるかどうかというお宝だし、もしお金に替えようものならこの神社の土地を二回三回買収してもまだお釣りが来るような額にはなる。
私だって馬鹿じゃない。嘘をつくのは忍びないが、もうベータと同じ失敗は繰り返さない。
こいつばっかりは何としても私の手で保護してやらないと!
「い、いやあ、残念だったね。二人には見慣れない物に見えるかもしれないけど、こいつは無縁塚に行けばそこら中にゴロゴロあるただの大きな鉄くずだよ」
「はあ、期待して損したぜ」
「本当よね、結局最後の最後までゴミしか無かったなんて」
「そだねー」
よし、二人共疑ってないな。あとは自然な流れでこいつを譲ってもらえば。
「あのさ霊夢、さっきの空き缶と一緒で、こいつは霊夢達には役に立たない物でも、金属資源としては私達には価値のある物なんだ。廃棄処分するのも大変だろうから、これも一緒に譲ってはくれないかな」
「いいわよ」
「え、い、いいのかい?」
「だって邪魔だし」
来たぁ!
やった、私はなんてラッキーな河童なんだ。
日向ぼっこをするつもりが、まさかこんなお宝を手に入れる事になるだなんて、今でも信じられない。
たかがベータにあんなに興奮してた自分が馬鹿みたいだ。
「とりあえずまあ、納屋の中のもんはこいつで最後だし、みんなで押して運び出すかな」
「そうね」
霊夢と魔理沙が車を後ろから押し、ジリジリと動き出した所で私は窓からハンドルを操作して軌道を納屋の出口へと向ける。
かくして、幻の名車は長い年月を経て再び日の光を浴びる事となった。
ゴミの下敷きになっていたからホコリはあまり付いておらず、美しく輝くボディは春の穏やかな日差しを真夏のそれよりも熱く、赤く反射させた。
私はその光景にうっとりし、後ろでは霊夢と魔理沙が納屋の片付けが終わった事を喜んでいた。
「さて、無事に片付けも済んだ事だし、ここで食事がてらお茶にしましょうか」
「そうだな。そういえば今日はにとりと日向ぼっこするって約束で連れてきたから、残りの時間はのんびり昼寝でもして過ごすかな」
「あんた、そんな手使って連れてきてたの」
「硬い事は言いっこ無しだぜ? にとりもうまい飯食べさせて、日向ぼっこ用に縁側に布団でも敷いて丁重にもてなしてやれば納得するって」
「それ全部私が用意しなくちゃいけないんだけど? それに来客用の布団は干さないと使え……な」
「ん? どした?」
「…………」
その時、私は背後に何か良くない気を察した。
恐る恐る振り返ると、そこには難しい顔をしながら視線を私より遠くに合わせる霊夢の姿があった。霊夢の瞳には赤く輝く車のボディが写っていた。
「うーん……」
「な、何さ」
「この低くて平べったいボディ……」
「そ、それが?」
「なだらかに流れるこの曲線……」
「ま、まさか」
「にとり、やっぱりこのポンコツはあげられないわ」
「なななな、なんでぇ……!?」
「別にいいでしょ」
どうして!
まさか霊夢はこの車の価値を見抜いたっていうの?
いやまさか……
でも何で? 今更?
いやだ。いやだいやだいやだいやだ!
「そりゃあんまりだよ霊夢! せっかくまぼろ、いや貴重な鉄くずが手に入って喜んでたっていうのにさ!」
「気が変わったの、とにかく諦めてちょうだい。ほら、代わりにあれあげるから」
そう言って霊夢が顎で指したのは納屋の入り口。
「ほらなんだっけ、ペーターがどうとかって興奮して語ってたじゃない。あれ相当価値があるんでしょ?こんなポンコツよりもずっと」
「……それは、その、あ、いや……………………はい、そうです……」
ああ、終わった。
この状況を挽回する策を私は持ち合わせていない。
ベータ。ベータか、笑える……
「ずいぶん太っ腹だな。そんなでかいポンコツ置いといて何に使うんだ?」
「まあ見てなさいよ」
そう言って霊夢は母屋の方へ向かい、縁側から奥へと消えていった。
しばらくすると霊夢は一枚の敷布団を抱えた状態でまた奥から現れ、そのまま私達の元へと戻ってきた。
「よっこいしょ」
「ええ……」
霊夢は抱えていた布団をおもむろに車の上へと放つ。
真紅の美しいボディはよれた布団の下にすっぽりと隠れてしまった。
「やっぱり思った通り。この大きさと形、布団を干すのに丁度ぴったりだわ」
「おお、こいつはいいな。こんなポンコツでもしっかり価値を見出してやれば、案外使えるもんだな」
「はは。よ、良かったね。きっとそいつも役に立てて喜んでると思うよ……」
全身の力が抜けそうになりながら私は自分に言い聞かせた。
これで良かったんだ。
先代の博麗の巫女がゴミの中に埋めたこいつを現役の博麗の巫女の元へと帰す事ができた。
そして有効に活用されている。
これでいいんだ、これで。
「このまま上で寝たら気持ちよさそうだな」
布団に勢いよく飛び乗った魔理沙の尻のあたりからベコンという鈍い音。
私は今度こそ全身の力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
春の穏やかな風が、地を這う私の髪をふわりと転がした。
丁寧で読みやすい文章、オチの流れもスマートで美しく、ちょっとした知識を得た気にもなれる非常に完成度の高い作品だと思います。
うちの納屋からも貴重なものが出てきてほしいがそも納屋がない
各描写も読者がイメージしやすい言葉が選ばれていて良かった
更には、納屋の掃除をする、という話の運びが凄く良いですね
何が飛び出してくるか分からないからこそのワクワク感があって
物語に強く惹き付けられました
自分の得意分野になると途端に饒舌になるにとりも良かった
価値はよく分からないけど『貴重な物なら確保!』な感じの霊夢も
意図せず2億円を凹ませる魔理沙も笑
そして先代巫女よ、何故にそんなベータテープを持ってるんや……
えっちなのはいけないと思います!
綺麗な流れのオチが素敵です。
構成も綺麗。
3人それぞれのリアクションがコミカルでよかったです
崩れ落ちるにとりもいいオチでした
素人意見ですが、ちょっと本筋に対して冗長な部分がある気もしました。それと先代の諸々についてお話の回収があるとグッと面白くなると思うのですがどうでしょう。