" />カッパエビセン・アディクション 作者: 青段
Coolier - 新生・東方創想話

カッパエビセン・アディクション

2018/03/19 16:49:44
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 私は今、かっぱえびせん中毒の療養施設にいる。ここに来るのは三回目だ。
 
 毎度、何ヶ月か外に出ては、懲りずに戻ってきている。隣に座っているのは同期の魔理沙、向かいに座っているのは新顔の早苗。
 早苗は三日前に二柱に引っ張られて来て、震える手で『治療に全力を尽くす』旨の書類にサインした。

 かっぱえびせんと名付けられた袋菓子が幻想郷で目撃されるようになったのは一年ほど前のことだ。初めは無縁塚、次に神社、次第に各所で見つかっていった。そして、最初の犠牲者は私だった。
 香霖堂で偶然にもかっぱえびせんを見つけた私は、一口かじった瞬間から己の過ちに気付いたが、全てはもう手遅れであった。

 ――手が止まらない。口が止まらない。

 皿に盛られたかっぱえびせんの山を異様なペースで切り崩していく私の様子に、その場にいた魔理沙はただならぬ興味を持ったようだった。何度も手を伸ばしてくるので鬱陶しくなって一本だけ渡してやると、目つきが変わり、間もなく同類になった。

 そこからは坂を転げ落ちるようだった。香霖堂の在庫を食べ尽くした私たちは、この食べ物が幻想郷中に知れ渡る前に駆け回り、在庫を独占しにかかった。おかげで被害は数十人に留まったとも言えるが、私たちは取り返しがつかないほどに嵌まり込んでしまった。理性というのは不思議なもので、押さえつけようとするほど歯止めが効かなくなるのである。

 早苗は丸テーブルの向こうで、ここにやってきた経緯を述懐していた。それを聞くのはもう三回目だけれど、私達は興味を惹かれているフリをして、時折神妙に頷いてみせたりした。何かで気を紛らわせないとかっぱえびせんのことばかり考えてしまうし、早苗の自虐的な話しぶりが哀れらしく、ささやかながらの娯楽でもあった。
 早苗は幻想郷に来る前からえびをやっていた。幻想郷に来て一時は禁えびに成功したらしいが、今回の騒動でかっぱ欲が再熱。現在に至るというわけらしい。

「全部、順調だったはずなんです。神社も落ち着いてきて、人里にも信徒が増えてきて」

 私だってそうだ。やっと博麗の巫女としての使命の意味をわかってきて、神社も賑やかになってきて、その矢先の出来事だった。人生で初めての不幸と言ってもいい。

「みんなそうだ。誰もがそこそこに満たされた生活を送っていた。わからないもんだぜ」

 魔理沙はそう言って痛々しく笑った。ここにいるのは私達だけではない。別のテーブルにはぽつぽつと妖怪たちがいる。この施設には、現在七人の人妖がいる。他のかっぱえびせん中毒者たちは無事に完治して、ひどいのが残っていた。

 早苗はさっきからランチの付け合せのグリーンピースを震える箸で何度も掴みそこねて、ぽろぽろと皿の上で転がしている。誰もそんな早苗の様子を笑わない。あまりにも見慣れすぎていて、そしてなにより他人事ではないからだ。皆、空腹になると禁断症状で手が震えるので、何を食べるのにも一苦労なのである。

「なあ、なんで私達はこんなになったんだ?」
「かっぱえびせん中毒よ」
「そういうことじゃなくてさ。だって、別にかっぱえびせんに頼り切りになるほどひどい人生じゃなかっただろう」
「そうね。でも、やめられなかった。止まらなかった」

 早苗の眉間に皺が寄った。私の言葉でかっぱえびせんへの渇望が刺激されたのだろう。

「ねえ早苗、外の世界ではかっぱえびせんが溢れているんでしょう?みんなこうなの?」
「ここでは只同然でしたが、外の世界ではグラム1.2円ほどで取引されていました」
「1.2円……さぞ儲かったんだろうな」

 そのとき、ホールに椅子が倒れる音が響き渡った。振り返ると、椅子から崩れ落ちた純狐が引きつけを起こしていた。隣に駆け寄ったヘカーティアが、慌てて気道を確保している。

「カルビーよ見てるか……や、やめられない、とまらな……」
「純狐!だめよ!嫦娥のことを思い出すの!」
「嫦娥……誰だっけ……」
「純狐ー!」

 純狐は、最も影響を受けた者の一人だった。その性質により、純粋なるかっぱえびせんジャンキーになってしまったのだ。

「あれじゃあ復讐も遂げられそうにないな」
「やめなさいよ。私達だって同じ穴の狢なんだから」
「……悪かった。まったくここは辛気臭いぜ。どうだ、ちょっと散歩でもしてくるか」
「早苗も来る?」
「私はまだお昼を食べているので……」

 早苗は痛々しく笑って、また豆を掴み損ねた。



 私は魔理沙に連れ添って廊下を歩いた。扉と扉の間に取り付けられて一列になったガス灯が明滅して、リノリウムの床を頼りなく照らしていた。

 外は叫び出したくなるほど憂鬱な曇り空だった。

「そういえばさ。昔は別の食べものにハマってたんだ」
「お酒のこと?」
「いや、魔法さ」
「はいはい。生粋の研究者ってわけね」
「本当に食べてたんだよ」

 私と魔理沙はバルコニーにいる。見上げれば、避雷針をかすめて雲が過ぎ去ってゆく。

「私の母さんは魔法使いだったんだ」
「何よいきなり。初めて聞くわ」
「いいから聞けって」

 魔理沙は淡々と話し続けた。

「母さんは、私が物心ついた時にはもういなかった。どこへ行ってしまったのかはわからない」
「ふうん、それで?」
「でもな、この魔法の味はわかるんだ。これは母さんの味だ」

 魔理沙は八卦炉を取り出すと、その上に小さな菫色の星型弾を浮かべた。

「魔法に味なんてあるの?」
「ああ、文字通り、味だ。食ってみろよ」

 魔理沙は指先に星を灯して、私の口に持ってきた。恐る恐る端を噛むとカリっと砕けて、ほのかな甘味と、不思議な風味が鼻に抜けた。

「甘い」
「これを、毎日百個は食ってた。やめようやめようと思い続けてても、他の食いもんが胃に入らなくなるほど食べた。ひどい栄養状態だっただろうな。まったく生きているのが不思議なくらいだ。だけどまあ、気がつくとやめてたんだ。時期的にはちょうどお前と、神社に集う妖怪たちに会ってからだ」

 魔理沙は八卦炉を手のひらで遊ばせて、目深に被った帽子の下で微笑った。

「なあ、私たちは再発見するべきなんだ。私がお前や皆との間に見つけ出した何かを」
「そんな大層なものがあるとは思えないけど」

 魔理沙は答えなかった。返答に窮したからではない。目線を追ってみると、空に舞う人影が見えた。

「れいむー!」

 レミリアだ。お付きの咲夜も隣にいる。レミリアは曇りのおかげで元気なようで、勢い良くこちらに向かってきた。

「今日はプレゼントを持ってきたのよ。なんだかわかるー?ヒントは袋菓子」
「かっぱえびせんの持ち込みは禁止だけど、そこにあるんなら仕方がないわねえ」
「ぶっぶー!正解はポテトチップスでした!気休めにはなるでしょう?」

 レミリアはいたずらっぽく笑って、カルビーからの刺客を見せびらかせた。

「ああ、あとで食べるわ……ありがとう」
「や、やけに素直ね」

 居心地悪そうなレミリアを見て、なんとなく、私は自分の客観的状態を悟った。

「ここのところ、すっかり弱っちゃって。なんでこうなったのかな」
「本当に弱ってるのね……わかった、いつでも元気になれるおまじないを教えてあげる。ちょっと上向いて」

 とん、と腰のあたりを包む体温を感じた。下をむくと、私の腰に抱きついたレミリアの微笑と目が合った。
 短い時間、私たちの視線はつながっていたが、私はレミリアの満足げな表情が面白くなって、笑ってしまった。

「あんたねえ……それ、一人でできないじゃない」
「咲夜、普通に受け流されたんだけど」
「霊夢ったら冷血漢」
「そりゃどうも」

 魔理沙は不満げに口を尖らせた。

「おいレミリア、私のぶんは無いのかよ」
「ないない。バンパイアハグは貴重なの」
「そっちはいらねーよ。菓子だよ菓子よこせ」
「はいいま魔理沙のぶんは消えましたーざんねーん。ね、咲夜」
「はい。なくなりました」
「はーん。撃墜したら落とすかな」
「できるもんならやってみな!」
「望むところだ!」

 魔理沙は飛び上がって、沢山の星をばら撒いた。曇天の下に散りばめられた星々の間をレミリアの紅い軌跡が縫っていく。その様子に危うげな所など一つもなかったが、見たところ、先手を取った魔理沙が優勢だった。

「レミリアー!負けたら私にポテチとハグをもう一個!」

 レミリアは弾幕の間でくるりと宙返りして親指を立てた。

「勝ち馬に乗る気だな!きたないぞ霊夢自分で戦え!」

 魔理沙が攻撃を止めた隙に、レミリアはぐんと上に飛んでから大きな紅い十字架を投げ下ろした。魔理沙は慌てて空中に魔道具を展開しながら急降下してそれを避けた。

「じゃあ私が勝ったら魔理沙は何でも言うことを聞くってことで!悪魔の契約は絶対だからね!」
「釣り合ってねーよ!」

 そう言っている間にも紅い弾幕が降り注いでいたので、魔理沙は箒の尻尾で地面を擦ってから、最大加速で飛び上がった。
 交錯する二人を中心に咲く光の輝きは、濁りきった空模様に不釣り合いなほど激しくて、どこか遠い世界の出来事のようだった。
 袋菓子に詰まっているものは、じゃがいも、空気、調味料、それだけ。
 やめられる。止められる。そんな気がした。
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コメント



0.1090点簡易評価
1.100点名前が無い程度の能力 削除
カルビー怖い…と思っていたら妙に綺麗な方向にまとまりましたね
シュールなギャグなのに清々しい読後感、良いと思います
2.80点名前が無い程度の能力 削除
序文がこれまで読んできた二次創作の中でも屈指のしょうもなさを誇っていた
…はずなのに何故か最後は青春の1ページを切り取った風のいい話になっている
何か釈然としない…我々は一体何を読まされていたのか…?
3.100点もなじろう 削除
終始にやにやしてましたが 早苗は幻想郷に来る前からえびをやっていた。 で一番吹きました
とてもおもしろかったです
4.100点名前が無い程度の能力 削除
えび(隠語)
ストーリーもなんやかんや綺麗に纏まっていて面白い、短い容量だからこそ難しいんですが
5.80点名前が無い程度の能力 削除
>早苗は幻想郷に来る前からえびをやっていた
ヤバいクスリの隠語みたいでワロタ
終わり方がキレイすぎて逆にオチてねぇ気もするw
6.100点名前が無い程度の能力 削除
早苗はえびだけじゃなくて、ハッピーターンの粉もやってたって
山の神様が言ってたぞ
7.70点奇声を発する程度の能力 削除
良かったです
9.100点名前が無い程度の能力 削除
ポテチ否定派ですか
12.100点名前が無い程度の能力 削除
なに綺麗にまとめてんの
ちょっとエビやってくるわ
13.90点仲村アペンド 削除
これぞ正しい出オチSSと思いました。個人的な好みを言えばタイトルは騙しに来て欲しかったようにも思いますが、最後までダレない筆力はお見事の一言です。
14.100点南条 削除
非常に面白かったです
理不尽な展開なのに情景が浮かんでくるようで笑えました
読むのをやめられない止まらないでした
15.90点ふつん 削除
一行目で見事に持ってかれました
良かったです
ギャグ調シリアス調が良い感じに混ざり合って読み心地良かったです
17.90点KoCyan64 削除
グラム単位とへカーティアの下りが最高でした。
また「やめられない、止まらない」のキャッチコピーを上手く言い回されてるなと思いました
18.100点kad 削除
出だしが最高でしたw
あとグラムで取引されるかっぱえびせんとか純孤のところとかゲラゲラ笑ってしまいました。
19.100点名前が無い程度の能力 削除
この出だしはずるい
面白かったです
20.100点名前が無い程度の能力 削除
内容がハジけてるのに要所要所の地の文章がキレすぎ。
21.100点名前が図書程度の能力 削除
かっぱえびせんをグラム換算するな
22.100点名前が無い程度の能力 削除
「早苗は幻想郷に来る前からえびをやっていた。」の切れ味が良すぎて、これはえびをやってる人にしか書けそうにないなと思いました。嫦娥を忘れてる純狐もずるい。
ギャグで笑って何か普通にいい話っぽく締まるのも含めて面白かったです
25.100点名前が無い程度の能力 削除
何から何までしょうもないのに、気がついたら読むのをやめられない。
何だろう、この中毒性はw
26.100点大豆まめ 削除
こういうシュールギャグが書ける人は頭の中どうなってるんだろう(褒め言葉)
突拍子もない開始から最後まで一気に読まされるこの感じ、まさにかっぱえびせんでした。
28.100点名前が無い程度の能力 削除
エビちゃん怖い
32.90点名前が無い程度の能力 削除
末端価格でグラム1.2円!!
34.50点ミスターX 削除
「かっぱえびせんに中毒性がある」という事象だけが幻想入りしてきた
外の世界のかっぱえびせんには中毒性はない
38.100点名前が無い程度の能力 削除
カッパエビセン、なんと恐ろしい!