Coolier - 新生・東方創想話

大甘

2018/02/12 20:43:38
最終更新
サイズ
7.41KB
ページ数
1
閲覧数
2535
評価数
8/17
POINT
780
Rate
8.94

分類タグ

 とある一件の茶屋、博麗霊夢はここで至福のときを過ごしていた。

 開店直後から人里の女性の間でお菓子の美味しいと評判で行列ができるほどだった。行きたいのは山々だったが、なにせ金が無かった。久しく収入が入ったためすぐさま駆けつけた。

 注文するお菓子はどれも甘くて美味しい。もう落ちるほっぺが無いほど堪能した霊夢はお茶を啜る。このお茶も良いものなのだろう、今まで食べたお菓子で甘くなりすぎた口を中和してくれる。もう食べられない。一息ついた霊夢は今日のこれからの用事を思い出す。まず鈴奈庵のツケを支払う。流石に二ヶ月近くためるのはまずい。そして新たに本も借りる。アガサクリスQの新作が出ていたはずだ。それと切らしていた醤油、塩も補充する。用事を確認した霊夢は一息つく。今の時間帯だと鈴奈庵はお昼休憩だ。もう少し暇を潰してから向かおう。

 何か暇を潰すものは無いか、店内を見渡すと席の端に誰かが置いていった新聞を見つけた。
 手に取ると「文々。新聞」の文字が目に入る。よりによってこいつのか、どうせ内容は当てにならぬが暇を潰すには、ちょうど良い。

 内容はいつも通り下らないものばかりだった。そして役にも立たない。唯一、隅っこにある妖怪を目撃した住民のインタビュー欄だけは役に立つ。どうやら顔見知りの妖怪が悪さをしているらしい。博麗の巫女として後日おしおきしなければ。妖怪たちは話し合ったところで悪さをやめやしない。悪さをやめさせるには脳天にお祓い棒を叩き込むこと、それが一番効果のある対話だった。

 次のページをめくる。とある記事が目に入った「霊夢と外来人はグル!」またあのブン屋か、思わずため息をつく。大したことなど書いてい無いとは言え茶屋へ向かう途中、人里で何となく周囲の視線を感じた原因かもしれない。

 だが、その一面に添えられた写真を観て霊夢は思わず立ち上がり真っ二つに新聞を破ってしまった。周囲のお客さんから視線が集まったがそんなことは気にならない。その写真は博麗神社の縁側で霊夢がせんべいをむさぼりながら昼寝をしている写真だった。ブン屋め、こんな恥ずかしい写真をよくも。

 今日の予定に鴉退治と夕飯を鴉鍋にすることを追加し、会計をすぐさま済ませ射命丸文探しに出かける。あの文がそんじょそこらを出歩くわけがない。会いたい時にいなくなる奴なのだ。文の居る場所はただ一つ、逃げるも隠れるにも便利な上、彼女の住み処である妖怪の山しかない。

 とりあえず妖怪の山へ向かう。断りもなく山に侵入し、滝に差し掛かった当たり、ようやく侵入者に気づいたのか人影が見えた。やってきた侵入者を倒すため、意気揚々と白狼天狗がこちらへ向かってくる。霊夢の顔が見える距離になるなり、罰の悪そうな顔をし、逃げようとする。もちろん逃さない。霊夢はすぐ後ろに周り白狼の頭にお祓い棒を叩き込む「ぎゃっ」と大きな声で悲鳴を上げ、頭を手で押さえうずくまる。

 私は白狼天狗に問う「射命丸文の家はどこかしら」うずくまったまま答えてくれない。どうやら強く叩きすぎたらしい。もう一度お祓い棒を叩き込もうとすると「わかってます。聞こえてますから」白狼天狗は少し怯えた様子で答えた。

 しばらくし、ようやく痛みが治まったのか文の家まで案内してくれた。家には誰もいないようだった。白狼天狗が呼び掛けても反応はない。

 さてどうしようか、文のことだから家はここだけでない。「どこか他に隠れ家はあるのかしら」聞かれた白狼天狗は少し戸惑っている様子だ。どうやら知っている様子だ。
 しかし、文に口止めされているのか、言うまいか悩んでいるようだ。仕方ない、私はお祓い棒を構える。
「ひっ」少し小さい悲鳴、気にしない。思いきり振り上げた瞬間。
「知っています。こちらです」そそくさと案内し始めた。全く、最初からそうすれば良いものを、博麗の巫女も楽ではない。

 やはりと云うべきか、隠れ家はもぬけの殻だった。もしかしたら他にも隠れ家があるのではないだろうか、再びお祓い棒を握りしめ白狼天狗の方へ視線を向ける。
 即座に察したのか「もっもっもう知りませんよ」詰まりながら慌てて答えた。
「本当に」霊夢は更に強くお祓い棒を握り締める問う。
「本当です」白狼天狗は怯えている。どうやら本当に知らないらしい。流石にこれ以上痛めつけるのは可哀想だ。

 霊夢は「ご苦労様、またね」と白狼天狗を労い隠れ家を後にした。
 白狼天狗は、ほっと胸を撫で下ろす。これで鴉天狗の香典を準備せずに済みそうだ。できることなら無駄な出費は避けたい。





 隠れ家から少し離れた草むら、射命丸文は霊夢と白狼天狗が隠れ家を訪れている姿をパシャリパシャリとフィルムに収める。大甘な巫女なことだ。私の家を訪れることも、白狼天狗が巫女のお祓い棒に屈して私の隠れ家を割ることもお見通しだ。

 しかし、少しばかり危険な状況に陥ったのは反省だ。幾ら締め切りが近いとはいえ、一度ボツにしたネタを苦し紛れに掲載するべきではない。刷られた新聞を読み直し、事の重大さに気づいた。お墓が残れば良い方、最悪鍋の材料にされかねない。そう察した文はしばらく隠れる準備に取り掛かりながらある閃いた。逆に襲撃してきた霊夢を撮ってしまおう。穏便に済ませるなら適当な友人の家へ泊めてもらうべきだ。だが、それでは暇だし、何よりブン屋が廃る。
 
 そこでこうやって草むらに隠れて撮影することにした。結果は上々、かなり良い写真が撮れた。霊夢が帰ったのを見送る。フィルムをカメラから抜き、バッグに入れる。この写真をどう使おうか、霊夢と白狼天狗が一つの家を尋ねる。すぐさま思いつくのは熱愛だ。人間も妖怪も他人の恋路が大好きなのだ。一面は「博麗の巫女と白狼天狗の熱愛!? 妖怪の山でお泊まりデート」と飾っておこう。かなりの売り上げが期待できる、久々の大収入だ。これを元手に何をしようか、まずカメラの新調、新聞の印刷費のツケも払わねば、ほかにも買いたいものがある。

 文がカメラ片手に皮算用をしていると手に持っていたカメラがはじけ飛んだ。思考がスローモーションになる。なんてことだ、カメラが台無しだ。予定ではこのカメラを売り、そのお金と新聞の売り上げでカメラを新調する予定だった。これでは新調どころかまた中古で我慢せねば、そもそもこんなことをするのは誰か、1人しかいない。文はすぐさま鞄を持ち後ろへ身体を避ける。文の居た場所に陰陽玉が飛んでくる。はじけ飛んでバラバラになったカメラは陰陽玉で灰になる。

「おとなしく鴉鍋の材料になりなさい」
 凄みを利かせた声が空から聞こえる。上を見ると博麗霊夢がこちらをもの凄い形相でにらめ付けている。博麗の巫女さんのおでましだ。私はわざとらしく驚き挨拶をする

「ややっこれはこれは霊夢、偶然ですね。今日はどんな御用で」
 霊夢からは挨拶の代わりに御札が飛んでくる。挨拶も返してくれないとは、もしかしたら嫌われたかもしれない。文は御札を避け霊夢へめがけ弾幕を放つ。霊夢は簡単に避けた。続けて放つ。霊夢はまたも簡単に避ける「あらあら、その気の抜けた弾幕は何かしら

 煽りを無視して霊夢にすきを与えぬよう連続で放ち続ける。霊夢は簡単に避け、避けられた弾幕は空の彼方へ飛んでゆく、それが狙いだ。しばらくして、ようやく遠くから小さな点が見えた。空ではじけた弾幕に気づいた白狼天狗達が駆けつけてきた。妖怪の山も警備が甘いわけではない。こうやって一悶着起これば必ずやってくる。それが派手な弾幕勝負なら尚更だ。霊夢もそれに気づいたのか顔をしかめる。

 今度は彼女からスペルカードが放たれる。だが、焦りから狙いが定まっていない。自暴自棄なのだろうか、私は難なく避ける。まぁ良い。後は白狼天狗達の到着を待つだけだ。

 とうとう白狼天狗達を相手にしなければならない距離に近づかれた霊夢は私にめがけ御札を投げる。しかし、焦りから手が滑ったのかあらぬ方向へ飛んでゆく。やれやれ、大甘な巫女だ。私はこのまま戦うか逃げるか悩んでいる霊夢を眺めていると後ろから御札から飛んできた。しまった、それが狙いか。だがこの巫女、やはり甘いのか、わずかに掠っただけだった。白狼天狗がかなり近づいている。さすがに限界と悟ったのか霊夢は恨めしそうな顔をこちらへ向け大急ぎで去って行った。

 入れ替わるように白狼天狗達が到着した。私にどこへ逃げたか尋ね、方向を教えたら行きつく暇もなくそのまま霊夢を追いかけていった。白狼天狗は大変なものだ、もっともこの騒ぎを起こし苦労させたのは私だが。

 さて、フィルムを現像して原稿に取り掛からねば。その前に少し休憩だ。肩掛け鞄の中から水筒に手を伸ばしたが見つけられない。

 そもそも鞄の感触が無いのだ。私は思わず苦虫を噛み潰した顔になる。肩掛け鞄は紐だけになり、中身は全てあの御札の餌食となってしまった。紐を手に取り眺める。大甘なのは私だった。

 しかし、これは困った。灰になった取材道具一式の新調、カメラも買いなおせねば、それに溜めた新聞の印刷費のツケ。考えただけで頭が重くなる。今からでも鴉鍋の材料に志願してからでも遅くない。文は心からそう思った。
イチャイチャもいいけど、あやれいむには喧嘩が似合うと思います

https://gensokyo.town
東方が好きな人達の為のマストドン東方インスタンスがあります。
東方関連であれば、原作は勿論の事、二次創作、考察や巡礼、どんな話題でも大丈夫。 東方に対する愛を熱く語ってみませんか?
KoCyan64
http://twitter.com/KoCyan64
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.310簡易評価
3.20名前が無い程度の能力削除
何ですかこの文章にしまりの無い雑な作品は。
8.90名前が無い程度の能力削除
私はそうは思いませんでした。
全く欠点がないかと言われるとそう言い切れるものでもないですが、特に不自然な点は見受けられませんでした。
「とある一件の茶屋」
ここだけは違いますね。一軒、という漢字が正しいです。
話の内容は、盛り上がりにやや欠ける気はします。ですが、全く無内容なエログロナンセンスに比べればずっと真っ当でしっかりしています。こちらも悪くないです。
強いて言えば、文の描き方かなあ。
全くのでっち上げ記事で悪口を言っておきながら、普通に挨拶をしようとして、博麗霊夢が何を言っても口先だけでのらりくらりかわし、最後は開き直って霊夢に弾幕勝負で応戦する。流れが少し滞っているような気がしました。
9.80怠惰流波削除
あや、ここでおわりですか。というのが素直な感想でした。

大甘な巫女と大甘な天狗でオチを付けてるのは良かったですが、もうひとひねり欲しかったですね。なかよくけんかしな。
10.80名前が無い程度の能力削除
文章の流れはスムーズでとても読みやすかったです。
物語にヤマとオチがなかったので、それが気になりました。
11.80南条削除
文章はとても読みやすかったです
ただ少し物足りないようにも感じました
12.80もなじろう削除
他の方が言われてるようにとても読みやすい文体で良かったです

ただ前作は緩やかな坂道をころころ転がるように物語が自然に進むのが心地よかったのですが、今回はちょと迷いながら書かれたのかなという印象がありました
(一番それを感じたのは主人公として出てきた霊夢が終盤でモブのような存在感になり主題が文にすり替わって即終わってしまう点)
誰の、もしくは誰と誰のどんなやり取り、行動、心境を書きたいのかを自分の中にはっきりと持って書くといいかもしれません(自戒)
13.30名前が無い程度の能力削除
物語の盛り上がり、というのもそうですけど、作品の冒頭に魅力がないですね
とある一軒の茶屋で霊夢が至福の時を過ごしている話を、時間を取ってわざわざ読むでしょうか、人によるとは思いますけど
前作をあえて引き合いに出すなら、あちらの一行目と比べてみては如何でしょう、あちらの一行目はとても秀逸に思います
16.10名前が無い程度の能力削除
文章に締まりのない雑な作品という感想があるが言いえて妙だと思う。
淡々と始まって淡々と終わってしまったね。
まるで今の下火になった東方界隈みたいだ