きらきらと。
きらきらとかがやく、小さなとげとげの宝石たち。
幼いころから、私はこれが好物だった。
始まりは何でもない、単なる偶然。
日頃は口もきかない父親が、なんとも珍しいことにお土産なんてくれたのだ。
「お得意様が、魔理沙に、と」
それだけ言って、親父はふいとどこかに行ってしまった。
今だったら横っ腹の一つもど突いてやるところだが、幼いゆえにラブリーでピュアな私はもごもごと誰にも聞こえないお礼をつぶやいた後、お土産物――小さなガラス瓶に入ったこんぺいとうを夢中になって見つめていた。
瓶の中身は七色にかがやいて見えた。赤、薄桃、橙、黄、緑、青、白……。色とりどりのこんぺいとう達が、さらさらと心地よい音色を伴って傾きに合わせたゆたう。私は瓶を日に透かし、何時間も飽きもせずに眺めていた。それはさながら、砂糖菓子の万華鏡だった。
「何を見てるんだい」
私が寝転んで瓶をのぞいていると、呆れた顔で香霖がやってきた。
「見てみー、こーりん」
キュートな私は胡坐をかいた香霖の膝の上(当時の私のベストプレイスだ)によじ登ると、瓶を香霖に見せつけた。
「ふむ、金平糖かい」
「ふふーん、きれいでしょ」
「ああ、そうだね」
香霖はそう言って、私の頭をわしわし撫でる。私はきゃいきゃいはしゃいだ。そういえば香霖は未だに私の頭を撫でようとしてくる時がある。こども扱いなのだ、ちょっとむかつく。
「魔理沙、その金平糖はもう食べたのかい?」
「?、食べられる?」
「ああ、そうだよ。一粒、食べてごらん」
そう言われて、初めて私は金平糖が食べられるものだと知ったのだ。瓶を開けて中身を取り出そうとする。しかし、開かない。瓶の蓋は、子どもの私には少し固かった。
「どれ」
後ろからするすると、香霖の腕が伸びてくる。大きな手。かちり、と音がして、あっという間に瓶の蓋が開いてしまった。
私の手に、香霖の手が重ねられる。温かい。ゆっくりと、二人の手で瓶が傾けられていく。
ころころころ、と。
緩い下り坂をブレーキいっぱい握りしめて、二粒転がり出す。
最後に一跳ね、ころん、と、飛んで。
こんぺいとうが、私のてのひらに躍り出た。
一つは黄色、お星さま。もう一つは橙色、これはきっと、お日さまだ。
「こーりん、一つあげる。橙の方」
「おや、いいのかい?」
「うん、だって、」
だって、
「まりさ、お星さま好きだから。かわいいじゃん」
香霖は、太陽みたいにあたたかいから。
おとなになった今でも、時々こんぺいとうを食べることがある。
こどものころはお菓子なにがいい、と聞かれるたびにこんぺいとう、と答えていたけど、今は自分でわざわざ買い求めることはもうない。
じゃあなぜ食べられるのか、というと、
「魔理沙。お使いを頼めないか」
スポンサーがいるからだ。
出不精の香霖に頼まれて、私はたまに里へ買い出しに行く。
お釣りは駄賃にしていい、という契約なので、私はなるべく安いものを探して買っていく。そうして浮かせた金で、二つ三つ茶菓子を買うのが私の楽しみだ。
最初は酒にしようと思ったが、それっぽちの小銭ではいい酒は購えなかった。
煎餅やら最中やら、いつも色々と見て回ってはみるけれど、結局はいつも同じ店に行き着いてしまう。お店の主人も心得たもので、目抜き通りを一通りうろうろした後に寄ると、金平糖一瓶、あとは支払うのみ、という状態に仕上がっている。
「ああ、お疲れさま。お茶にしようか」
お使いから帰るとそんな調子で、さっそくこんぺいとうの出番となる。
私が買っていくのは必ず七色全て入っているもので、香霖はいつも一粒目に橙色を食べる。そして私に黄色いこんぺいとうを選り分けてくれる。
私はそれをそのまま食べたり、気分で別の色をとったりする。どうせ、色で味は変わらないのだ。
香霖は一粒ずつ、味わうように食べていく。多分、私より香霖の方がこんぺいとう、好きなんじゃないだろうか。自分の金で香霖の好物を買ってきて、私はなんて偉いんだろう、とたまに自分を褒めてやっている。
「おい香霖、それよこせ」
今日は何となく、橙色の気分だった。
手を突き出して、香霖が選り出した橙を要求する。
香霖は少し怪訝な表情をした後、黙って私にこんぺいとうを差し出した。素直でよろしい。
香霖堂に差し込んでくる木漏れ日に、こんぺいとうを透かして見る。橙色の小さな粒を見つめていると、ふと子どもの頃を思い出した。
「おっと」
安楽椅子に腰掛けた香霖の膝に乗り、こんぺいとうを口に含む。
「ん、おいし」
橙色をした砂糖菓子の宝石からは、かすかにお日さまの香りがした。
きらきらとかがやく、小さなとげとげの宝石たち。
幼いころから、私はこれが好物だった。
「こんぺいとうの色」
始まりは何でもない、単なる偶然。
日頃は口もきかない父親が、なんとも珍しいことにお土産なんてくれたのだ。
「お得意様が、魔理沙に、と」
それだけ言って、親父はふいとどこかに行ってしまった。
今だったら横っ腹の一つもど突いてやるところだが、幼いゆえにラブリーでピュアな私はもごもごと誰にも聞こえないお礼をつぶやいた後、お土産物――小さなガラス瓶に入ったこんぺいとうを夢中になって見つめていた。
瓶の中身は七色にかがやいて見えた。赤、薄桃、橙、黄、緑、青、白……。色とりどりのこんぺいとう達が、さらさらと心地よい音色を伴って傾きに合わせたゆたう。私は瓶を日に透かし、何時間も飽きもせずに眺めていた。それはさながら、砂糖菓子の万華鏡だった。
「何を見てるんだい」
私が寝転んで瓶をのぞいていると、呆れた顔で香霖がやってきた。
「見てみー、こーりん」
キュートな私は胡坐をかいた香霖の膝の上(当時の私のベストプレイスだ)によじ登ると、瓶を香霖に見せつけた。
「ふむ、金平糖かい」
「ふふーん、きれいでしょ」
「ああ、そうだね」
香霖はそう言って、私の頭をわしわし撫でる。私はきゃいきゃいはしゃいだ。そういえば香霖は未だに私の頭を撫でようとしてくる時がある。こども扱いなのだ、ちょっとむかつく。
「魔理沙、その金平糖はもう食べたのかい?」
「?、食べられる?」
「ああ、そうだよ。一粒、食べてごらん」
そう言われて、初めて私は金平糖が食べられるものだと知ったのだ。瓶を開けて中身を取り出そうとする。しかし、開かない。瓶の蓋は、子どもの私には少し固かった。
「どれ」
後ろからするすると、香霖の腕が伸びてくる。大きな手。かちり、と音がして、あっという間に瓶の蓋が開いてしまった。
私の手に、香霖の手が重ねられる。温かい。ゆっくりと、二人の手で瓶が傾けられていく。
ころころころ、と。
緩い下り坂をブレーキいっぱい握りしめて、二粒転がり出す。
最後に一跳ね、ころん、と、飛んで。
こんぺいとうが、私のてのひらに躍り出た。
一つは黄色、お星さま。もう一つは橙色、これはきっと、お日さまだ。
「こーりん、一つあげる。橙の方」
「おや、いいのかい?」
「うん、だって、」
だって、
「まりさ、お星さま好きだから。かわいいじゃん」
香霖は、太陽みたいにあたたかいから。
おとなになった今でも、時々こんぺいとうを食べることがある。
こどものころはお菓子なにがいい、と聞かれるたびにこんぺいとう、と答えていたけど、今は自分でわざわざ買い求めることはもうない。
じゃあなぜ食べられるのか、というと、
「魔理沙。お使いを頼めないか」
スポンサーがいるからだ。
出不精の香霖に頼まれて、私はたまに里へ買い出しに行く。
お釣りは駄賃にしていい、という契約なので、私はなるべく安いものを探して買っていく。そうして浮かせた金で、二つ三つ茶菓子を買うのが私の楽しみだ。
最初は酒にしようと思ったが、それっぽちの小銭ではいい酒は購えなかった。
煎餅やら最中やら、いつも色々と見て回ってはみるけれど、結局はいつも同じ店に行き着いてしまう。お店の主人も心得たもので、目抜き通りを一通りうろうろした後に寄ると、金平糖一瓶、あとは支払うのみ、という状態に仕上がっている。
「ああ、お疲れさま。お茶にしようか」
お使いから帰るとそんな調子で、さっそくこんぺいとうの出番となる。
私が買っていくのは必ず七色全て入っているもので、香霖はいつも一粒目に橙色を食べる。そして私に黄色いこんぺいとうを選り分けてくれる。
私はそれをそのまま食べたり、気分で別の色をとったりする。どうせ、色で味は変わらないのだ。
香霖は一粒ずつ、味わうように食べていく。多分、私より香霖の方がこんぺいとう、好きなんじゃないだろうか。自分の金で香霖の好物を買ってきて、私はなんて偉いんだろう、とたまに自分を褒めてやっている。
「おい香霖、それよこせ」
今日は何となく、橙色の気分だった。
手を突き出して、香霖が選り出した橙を要求する。
香霖は少し怪訝な表情をした後、黙って私にこんぺいとうを差し出した。素直でよろしい。
香霖堂に差し込んでくる木漏れ日に、こんぺいとうを透かして見る。橙色の小さな粒を見つめていると、ふと子どもの頃を思い出した。
「おっと」
安楽椅子に腰掛けた香霖の膝に乗り、こんぺいとうを口に含む。
「ん、おいし」
橙色をした砂糖菓子の宝石からは、かすかにお日さまの香りがした。
よっちゃんが食べて「甘い…」って言ってます
東方の公式マンガでよっちゃんが金平糖フリークになって
魔理沙の自宅に押し掛ける話もあります これは嘘です
ほんわかしていい話でした
今も昔も変わらない魔理沙が可愛らしかった
絵本みたいな感じかな。