Coolier - 新生・東方創想話

夢でもし逢えたら

2017/07/10 00:50:59
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私が居眠りをしなくなってからやや経っただろうか。
今ならば、いくら居眠りをしていようと誰にも何も言われない。
私をわざわざ起こしにくる人がいなくなったならば、シエスタに興じてもいいはずである。
周りは皆、そう思うであろう。
私にサボり癖があることは認めるが、居眠りというのはただの口実に過ぎない。
その理由を深く掘り下げると、やや昔まで遡ってしまう。





昔、メイド長としてお嬢様に尽くして来た私がある日突然やって来た人間の少女にその職を奪われた。
突然のことに多少の恨みも無かったこともないが、その仕事ぶりを見るに私よりも遥かに流暢であった。
自分とは格が違うのだと、そう思った。
誰しも、圧倒的な力量を見せつけられてはきっぱりと諦めがつくものだ。
私の存在意義とは、人間の少女に刹那で塗り替えられてしまうような小さなものだったという切なさを託して私は辞表を出した。
お嬢様から返ってきたのは意外な言葉であった。

「お前はゆっくり此処で休んでいるといい。」

そう仰った時には辞表の文字も分からなくなるほどに破かれ紙くずと化したものがお嬢様の足元に落ちていた。
この館に相変わらず置かせてもらえるらしいが、何もしないのは流石に肩身がせまいと思ったので、門番というこじつけの職務をすることにした。
人間のメイド長のこともあって自尊心をひどく傷つけられた私はなるべく彼女と目を合わせたくないので館内に入りたくはなかった。
そういった意味でも門番は好都合と言えよう。
だが、私が塗り立てた壁を破ってきたのはメイド長本人であった。

「貴女、いつも食堂に来ないけどお嬢様が何も食べてないんじゃないかって心配してらっしゃったわよ。」

そうですか。と、乾いた笑いを絡めて嫌悪感を有耶無耶にしようとする。
まだ、この人間の少女には慣れそうにないな。
そう思う。

「毎日貴女の分も用意してるのだけれど、食事は毎回持ってくるようにするわ。」

毎日ですか。溜息が思わず出そうになる。

有無を言わさず、はいこれ今日の分ねと食事のトレイを渡してきた。
今まで忘れていた食欲が目を覚まして滾ってくるのを感じた。
気が付けば、全て平らげてしまっていた。
あまりの食べっぷりに彼女も、もしかして足りなかったかと尋ねてくるほどであった。
自分の胃が名残惜しそうに次に料理を待っているのがわかる。
胃が空腹のために、くう。と喘いだ。

「お腹、なってるじゃない。」

少しだけ微笑んだたった今の表情は今でも忘れられない。


彼女がきてからというもの、館内の雰囲気も変わり出した。
妖精メイド達に「統制」という文字が見え始めたのだ。
私とは大違いだ。
彼女はそんなに優秀であるから、思わず自虐してしまう。


そんな日々の途中であった。
お嬢様が昼間も自由に散歩したいという名目で、幻想郷の空を紅い霧で覆ったことがあった。
これは巫女と魔法使いによって終局を迎えたのだが、人間に負けたというプライドを傷つけられた悔しさからかお嬢様の機嫌が悪くなってしまった。

紅魔館で働くものに八つ当たりをした。

私が聞いたところによると、そういうことがあったらしい。
私も、門番である私がもっと頼り甲斐のあるやつだったら、そう悪態を突かれた。
最早館中の女中が反逆でもしようかという酷い状態だったので、これらの責任を取って、メイド長である彼女が自決すると言い出した。
彼女のまさかの行動に妖精メイドやお嬢様までもが己の過熱に気がつき、猛省をした。

その日の皆が寝静まった頃である。
突然啜り泣く声が聞こえた。
その悲しみの源はメイド長の部屋。
その時にはもう何も考えずに部屋をノックしていた。
快く招き入れてくれたかと思えば、彼女は無言でベッドに座り尽くしたまま。
虚無が続くだけだった。

「私が負けた時にね、言われたのよ。」

重い沈黙が破られた。

「やっぱり人間て使えないわ、って。」

頬をまた濡らしたようだった。
私は彼女を直視できない。
目を合わせてしまえば、私の心もばらばらになってしまいそうだったから。
きっと、それを言われて心が千切れそうだったのだろう。
忠誠と絶対の信頼を置いた者にそんなことを言われたともなれば、心の傷は相当に深刻だったに違いない。
でも違う、悲愴だけじゃない。
彼女の仮面ではない素面に触れることができた充実感が、そこにはあった。



「今日は豪華なんですね。」

「お嬢様にお出ししようか考えてみたものなの。」


「咲夜さん、昼ごはん抜きは勘弁して下さい。」

「貴女が職務放棄してチルノ達の相手したのが悪いの。甘んじて受け止めなさい。」


「咲夜さん、これ美味しいです。また作って下さい!」

「そういってもらえるのは嬉しいけど、美味しいのは当然ね。」

日を重ねる度に、ずっとこの生活が続くのだと何の根拠もなしに信じ込んでいた。

「咲夜さん、今日は買い出しですか?」

「そうだけど、手伝ってくれる?」

「勿論です!」

この日は買い出しに、人里まで向かう。

「言っておくけど、甘味処には寄らないわよ?」

「えー、私の数少ない楽しみが......」

道中の会話でさえもはっきりと覚えているのに。


「美鈴ちゃん、安くしとくよ。」

「これはおまけだから。」

「今年は豊作でね。」

人里に着くなり、たくさんの人から声をかけられる。
理由はよくわからないが、私は妖怪ではあるが評判が悪いというわけではないらしい。こうやって待遇よく買い物が進む時がよくある。
そんな時、きまって彼女は思い耽りながら私をぼーっと見つめるのだ。
理由を聞いても、別に。という言葉しか返ってこない。
何か癪に触ることでもあるのか。

「そこのお二人さん、ちょっと寄ってかない?」

雰囲気が少しだけ悪くなった、どうしようかと悩んでいると突然声を掛けられた。
そこは休日には毎回訪れる甘味処であった。

「寄り道は駄目よ、美鈴。」

「もしかしてあんた、美鈴ちゃんの上司かい?」

「ええ、そうですが?」

訝しげに首をかしげる彼女。

「美鈴ちゃんから話はよく聞いてるよ。あなたがその、咲夜さん?まあお代はいいから、どうぞ召し上がって。」

いつもの質素な店内に招き入れると私たちの前に餡蜜を差し出す店主。
まあ、仕方ないわね。
そう呟きつつもその表情は中々に綻んでいる。
餡蜜に手をつける彼女。
私よりも美味しそうに食べていることには自分では気づいていないのだろう。
最後に桜桃を食べ終わった地点で彼女が話し掛けてきた。

「ねえ、さっきの。」

「え?」

「私が、怒ってるんじゃないかって言ったでしょう?」

「まあ。何か悪いことしたのかなあって疑問だったんですよ。」

「あれはね、羨ましいなって思ったのよ。」

彼女が私に羨望を抱いていたなど、当時はどれほど驚いただろうか。

「だって、私だって貴女みたいに人気があって、人当たりが良くて、人里に行くとちょっとした人だかりができるみたいなの、羨ましいって思うから。」

あの思いに耽っていたのはそういう理由だったのかと、前々からの疑問が解けた。
あの餡蜜には感謝したい。
そろそろお開きかと言ったところで、彼女は店内をぐるりと見渡す。
「あんみつ」
達筆でそう書かれた木の板の品書きを見つけると、お椀のしたに二つぶんの銭を置き、ご馳走様でしたと挨拶をして暖簾を抜けた。
それからというもの、ここのお店には買い出しの度にお世話になっている。
彼女との会話は弾み、つい時間を忘れてしまう。


門番という業務は暇である。
短針と長針がてっぺんに来る時間が待ち遠しい。
時間通りにやって来る彼女。
毎日の楽しみの一つであるが、彼女と話すときが昼食の時間ぐらいしかない。
食後、どうやって彼女と話そうか。
何を話そうか。
そんな事だけを考えるようになった。
満腹感と陽気のせいもあって、ついまどろみに落ちてしまった。

「......ん。」

「......り......!」

「美鈴!」

はっと意識を取り戻すと、目の前には彼女が立っていた。

「さっき図書館に、魔理沙が来そうよ。」

「はい。」

「貴女が寝ていたおかげで、報告が遅れて本がまた盗まれたらしいわ。」

「はい。」

彼女は説教を垂れるが、気が引き締まったのは最初だけで途中からは、咲夜さん綺麗だなあであるとか、私に時間を割いてくれるということで悦に浸ったりもした。
説教をもらったにも関わらず、彼女と言葉を交わせただけで嬉しかった。

彼女に飢えていた。

その表現がまさに妥当であった私は、これに味を占めたのか、目を瞑って彼女を誘い出してみることにした。
暫くすると、案の定私の前に姿を見せるのだった。
たまに、本当に熟睡したことがある。
しかし、彼女に起こしてもらえるというのは、なんと幸せなことであろうか。

「お前っていつも寝てるよな。」

そんなことを繰り返しているうちに、魔理沙にさえそう言われるようになった。
その時はもう、優秀で働き者と言われた私は居らず、ただの睡魔館の門番とまで言われた姿があるだけ。
これが、私が居眠りを始めた理由だった。


今日も昼寝をしよう。
そう思って意識を手放しても、彼女が現れる気配がない。
とうとう、夕方目が醒めるまで彼女は私のもとを訪れなかった。
業務を終えて館内の適当な妖精メイドに彼女の居所を聞くと、自室で休養なさってますと言う。
どういうことかと思えば、体調不良ということらしい。珍しいこともあるのだとその時は重く考えなかった。

次の日のことである。
彼女が私の部屋の扉を叩いた。
その格好がいつもの女中服ではなく、私服であったことに驚いたが、どうやら手紙を渡しに来たらしい。
体調不良で暫く休養を取るから、私が見てなくても居眠りしないでちゃんとやるのよ。
そう言い残し用をさっさと済ませた彼女はそさくさと自室に戻っていった。
扉を閉め、手中の手紙に目を落とす。
薄っすらと、思慕の情が感じられた。
これはいけない。
私はそう思った。
手紙の内容が分かってしまった。
これは見てはいけない。
彼女の美味しい料理を食べて、お喋りをして、叱られて。
それで良かったのに。
もしこれを見てしまったらもう今の関係には戻れないのだろう。
どうしてこんなことをするのだろう。

門前で、業務を遂行する。
今日は眠らない。
だって、彼女は来ないのだから。

そして夜、昼間眠らなかったのに、布団に入っても私は寝付くことができなかった。
彼女のことが引っかかる。
本当に手紙を開かなくて良かったのか。
答えは出ないままに結局一睡もすることができなかった。

翌日、少しだけやつれていた私はいつも通り門前へと向かおうとするが、館内がやけに騒がしかった。
一人の妖精メイドを捕まえて事情を聞くと、彼女が失踪したらしい。
暫くするとお嬢様直々に捜索命令が出た。
こんなこともあるのだなあと私は深く考えずに館内を巡っていたが、正午近くになっても見つかることはなかった。
もうすぐ針がてっぺんを向くなあと、呑気に考えていた私は、そういえば時計台はいってなかったことを思い出す。
時計台の内部の階段を登りきると、座ったまま曲げた膝に顔を埋めている彼女がいた。
ここにいたのかと呆れたように思う。
こんなところで寝てると、風邪ひきますよと声をかけて腕を引いた瞬間に嫌な汗が噴き出た。


お嬢様、妹様、パチュリー様、そして竹林の薬師がベッドの上の彼女を囲う。
薬師は死因を能力の使い過ぎだと結論づけた。外面には変化が見えずとも、内臓に及ぼした影響が大きかったらしい。
お嬢様は私がもっと早く気づいていればと嘆き、パチュリー様は表情が少しだけ表情が歪んだかと思えばいち早くその場を離れ、図書館に引きこもり暫く外との交流を絶った。妹様はただその場に立ち尽くすだけであった。
私はすぐに自分の部屋に向かい、引き出しの手紙を取り出した。
焦ってうまく手紙が開けられない。
しびれを切らした私は手紙の外を破って中を取り出した。


美鈴へ。
大事な話があります。
びっくりしたかもしれないけど、時計台で今夜の12時に待ってます。
返事だけでもいいから聞かせてね。
咲夜


私は両膝を床にがっくりと沈め、絶望に打ちひしがれるのだった。


数日経って、お嬢様がただでさえ少ない彼女の遺品を纏め出した。
お前もなんでもいいから咲夜から貰ったものはないかと聞かれたが、あの手紙については切り出す勇気がなかった。
特に何もないですと答えた。

時間というものは不思議で、あんなことがあったにも関わらず、ややあって紅魔館も日常をとりもどす。
それでも、お嬢様は専属メイドをつける気は無いらしい。
つけてしまうと彼女のことを忘れてしまいそうだから。
そう仰った。
お嬢様は敢えて穴を埋めないで、その溝を指でずっと摩っている。
その溝を感じられる限り、彼女の存在を忘れることはないのだろう。







「お前、居眠りは卒業か?」

いつも通り業務を果たしていた時である。
魔理沙にそう言われた。
手紙の件以来、私の胸には棘が刺さったまま。
でも、今日は暖かい。
久しぶりに昼寝でもしてみようか。
かつてのように瞼を閉じれば、この痛みも和らぐ気がする。



これからどんな夢を見るのだろうか。

どんな夢が見たいだろう。

彼女の姿が見たい。

夢で、

夢でもし逢えたら、

その時は、


あの時の返事を。


また、ようやく見つけることができた、眠る理由。



時計台の二つの針は重なり、真上の陽を指していた。
かさでぃん(Kha=ssadin)と申します。
三度目の初投稿です。
貴女に逢えるまで眠り続けたい美鈴の話でした。
Kha=ssadin
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コメント



0.240簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
三度目の初投稿なんて日本語はありません。あといくらなんでも句読点の使い方滅茶苦茶です。脱稿する前にしっかり口に出して読み返してみて下さい。老婆心ながらの書き込みでした。
4.無評価Kha=ssadin削除
>3
初投稿ネタというもの一種ですので気になさらずに。
句読点はわざとこんな感じにつけてます。
具体的にどこの部分が無茶苦茶だと感じたのか具体的に提示して頂くと今後の創作の参考になります。
5.70名前が無い程度の能力削除
上の人と同一ではありませんが、少し。

・句読点の付け方は概ね問題無いかと思います。ただ、改行も多いのに句読点も多く、これでは文章がブツブツと切れてしまっている印象を受けます。研ぎ澄まされた短文で言い切ってみせようとしているのは分かるのですが。

・「仕事ぶりが流暢」は繋がりが悪いです。

・一箇所だけ「。」が「.」になっています。

・鉤括弧の最後に句点を付ける必要はありません。

以上、参考までに。
6.無評価Kha=ssadin削除
>5
ご指摘ありがとうございます。ピリオドになっていた部分はオリジナルを見直した時に見つけましたので修正しました。
スッキリした文体を目指したのですが、それが仇になってつまづき易い文章になっていたようですね。次回作では改行の仕方も見直したいと思います。
7.80フラワリングナイト削除
感動しました。
私は中学生ですが、こういうお話結構好きです。
8.無評価Kha=ssadin削除
>フラワリングナイトさん
ありがとうございます。そう言ってもらえて光栄です。
9.80コムギ削除
個人的にこういうお話好きです。これからも頑張って下さい。
11.100コーヒー削除
むっちゃ悲しい…でも好き!!