神霊の宇宙(Milk Of Ghostliness)
目も眩む神霊どもの群れであった。彼等は幻想郷の宙空を漂い、それは比するに夏の蛍の騒ぎであった。
稲穂が神霊どもの無限に呼応して、夜の闇の果てまでも、黄金の風を貫き通した。
最も美しい宇宙。
「清々しいな」
「うん、光よ」
境界を越えた神霊ども。彼等の卑小な一粒々々が羽虫のように寄りあつまり、天を光の渦のうねりで覆い、白乳の色、彼等の銀河を創造する。
「喜んでいるみたい」
「へえ?」
「ほら、全体が微妙に震えているでしょう? あれが、その表現なの」
それから神霊どもは、際限もなく色を変えた。移ろいうごいて蒼や赤へと発光した。ひらけた天をその輝きで同色に染めた。そのさなかに二人のあいだで響く声があった。そこには宙空に裂けた隙間が見えた。一妖がずるりと半身を乗りだした。
「おい、驚かせるな。なんだ、顔が青いな」
「そう?」
一妖から 「なんともない」 と謂うような返事があった。彼女は神霊どもを眺めた。彼女は彼等の様子に満足であった。
外の世界から集められた、哀れな消えかけの神霊ども。彼等は幻想郷で疲れた羽を癒すだろう。
「こんなことをするのも、これで最後かもしれない」
「どうして?」
「あれが外の世界の、最後の神霊たちなのよ」
「もう外じゃあ、湧かないの?」
「どうかしら―――
そのとき一妖の体が力なく揺れた。隙間を抜けて落ちそうになった。
「おい、大丈夫か」
一人が一妖の体を支えた。互いの顔が近いので、その唇が病人のような青と分かった。
「無茶したのね」
もう一人も手を貸して一妖をみどりの褥に寝かせた。二人に静かなな寝息が聞こえた。
「あれだけを一斉に連れてきたんだ、紫でも疲れるさ」
その刹那、神霊どもの銀河は流れを遅々と表していった。光は白い単色になり、明滅し、今にも消失を感受する儚さで、追憶に亡くなるように見えた。
「遊びすぎたの」
「なんだ、どうしたんだ」
「残った力も少ないのに、はしゃいだから消えそうなのよ」
お祓い棒で地面を軽く、二回とんと地に打ちならした。弊紙の振れが穏やかに静止すると、神霊どもは博麗神社に向かっていった。
天〈アマ〉に橋を立てる、白く夜闇に流動する幻の道。
「そうか、それを任されているんだったな」
「鎮守の中で、神霊の傷もきっと癒える」
一人が一妖をかかえて飛んだ。彼女は羽のような軽さであった。宙空に神霊どもの軌跡が残り、微光が闇に香っていた。
博麗神社に着いても一妖が起きないので、二人は彼女を布団に寝かせた。もう一枚の布団を敷いて、彼女たちは襦袢で眠った。
ある刻、瞼の外に光を感じて二人が目を覚ますと、神霊どもが鎮守の森を抜け出して、一妖に寄りそうように集まっていた。
「なんだ?」
「神霊なりの感謝みたい」
二人が一妖の顔を覗いた。表情は暖かく穏やかであった。
「顔色がよくなった」
「神霊の力かしら」
「なあ、この光の中はここちいいのかな」
二人は一妖の両どなりに潜りこんだ。神霊どもの撫でる空気は、奇妙にも眩しいと思えず、まるで初春のように柔らかで、星のように切なかった。
申しぶんない。安心して神霊の銀河にくるまって寝た。
神霊の宇宙(Milk Of Ghostliness) 終わり
目も眩む神霊どもの群れであった。彼等は幻想郷の宙空を漂い、それは比するに夏の蛍の騒ぎであった。
稲穂が神霊どもの無限に呼応して、夜の闇の果てまでも、黄金の風を貫き通した。
最も美しい宇宙。
「清々しいな」
「うん、光よ」
境界を越えた神霊ども。彼等の卑小な一粒々々が羽虫のように寄りあつまり、天を光の渦のうねりで覆い、白乳の色、彼等の銀河を創造する。
「喜んでいるみたい」
「へえ?」
「ほら、全体が微妙に震えているでしょう? あれが、その表現なの」
それから神霊どもは、際限もなく色を変えた。移ろいうごいて蒼や赤へと発光した。ひらけた天をその輝きで同色に染めた。そのさなかに二人のあいだで響く声があった。そこには宙空に裂けた隙間が見えた。一妖がずるりと半身を乗りだした。
「おい、驚かせるな。なんだ、顔が青いな」
「そう?」
一妖から 「なんともない」 と謂うような返事があった。彼女は神霊どもを眺めた。彼女は彼等の様子に満足であった。
外の世界から集められた、哀れな消えかけの神霊ども。彼等は幻想郷で疲れた羽を癒すだろう。
「こんなことをするのも、これで最後かもしれない」
「どうして?」
「あれが外の世界の、最後の神霊たちなのよ」
「もう外じゃあ、湧かないの?」
「どうかしら―――
そのとき一妖の体が力なく揺れた。隙間を抜けて落ちそうになった。
「おい、大丈夫か」
一人が一妖の体を支えた。互いの顔が近いので、その唇が病人のような青と分かった。
「無茶したのね」
もう一人も手を貸して一妖をみどりの褥に寝かせた。二人に静かなな寝息が聞こえた。
「あれだけを一斉に連れてきたんだ、紫でも疲れるさ」
その刹那、神霊どもの銀河は流れを遅々と表していった。光は白い単色になり、明滅し、今にも消失を感受する儚さで、追憶に亡くなるように見えた。
「遊びすぎたの」
「なんだ、どうしたんだ」
「残った力も少ないのに、はしゃいだから消えそうなのよ」
お祓い棒で地面を軽く、二回とんと地に打ちならした。弊紙の振れが穏やかに静止すると、神霊どもは博麗神社に向かっていった。
天〈アマ〉に橋を立てる、白く夜闇に流動する幻の道。
「そうか、それを任されているんだったな」
「鎮守の中で、神霊の傷もきっと癒える」
一人が一妖をかかえて飛んだ。彼女は羽のような軽さであった。宙空に神霊どもの軌跡が残り、微光が闇に香っていた。
博麗神社に着いても一妖が起きないので、二人は彼女を布団に寝かせた。もう一枚の布団を敷いて、彼女たちは襦袢で眠った。
ある刻、瞼の外に光を感じて二人が目を覚ますと、神霊どもが鎮守の森を抜け出して、一妖に寄りそうように集まっていた。
「なんだ?」
「神霊なりの感謝みたい」
二人が一妖の顔を覗いた。表情は暖かく穏やかであった。
「顔色がよくなった」
「神霊の力かしら」
「なあ、この光の中はここちいいのかな」
二人は一妖の両どなりに潜りこんだ。神霊どもの撫でる空気は、奇妙にも眩しいと思えず、まるで初春のように柔らかで、星のように切なかった。
申しぶんない。安心して神霊の銀河にくるまって寝た。
神霊の宇宙(Milk Of Ghostliness) 終わり
短いながら満天の神霊と白乳の川が脳裏に映る素晴らしい作品でした。
この場合は神霊ですけど。
光と色の表現が素敵でした。面白かったです。
幻想的で一つの宇宙のよう……
そうか、そうだったのか……神霊とは……ゲッターとは……!
ずるっと出てきて霊夢たちに介抱された挙句に神霊に集られる紫がかわいかったです
あとがきでも笑ってしまった。