「わたしって地下にしか部屋がないじゃない?」
「ええ」
「上にもあったら便利だと思いまして」
「はあ」
「というわけで空き部屋がほしいの」
「お嬢様はなんと?」
「『余ってるから勝手につかえ』だそうよ」
「よかったですね」
「でも空き部屋は全部物置になってるのよねぇ」
「つまり?」
「一緒に空き部屋づくりしましょうよ」
「…お夕飯の準備がございますので、これで失礼します」
「時間を止めれば夕飯の準備なんていくらでもできるじゃない」
「空き部屋をつくるのですよね?」
「そうよ」
「肉体労働は瀟洒じゃありませんわ」
「こいつ…」
「私はいつでも妹様を応援しております」
「ありがたいことね」
「その応援を糧に頑張ってほしいとも思っております」
「うぅん」
「というわけなので、あとは任せました」
「にげるなこんちくしょう」
「くそ…」
「さらっと毒をはいたぞこいつ」
「肉体労働は」
「瀟洒じゃない」
「妹様もわかってるじゃないですか」
「言い訳するのも瀟洒じゃないとおもうぞー」
「それは詭弁というやつですわ」
「おい」
「私が応援するのですよ?貴重な機会だと思いません?」
「…」
「瀟洒な従者がお送りする完璧な応援ですわ」
「喜ぶべきなのかなこれ」
「お嬢様は手放しで喜んでくれましたわ」
「あいつと同じに見られてることに腹が立つ…」
「だって肉体労働って大変で面倒じゃないですか」
「やっと本音をだしたな」
「見てくださいよ、この細い腕」
「わたしのほうが細いんだけど」
「今にも折れそうなほど華奢な脚ですわ」
「仁王立ちしてるじゃない」
「おまけに病弱で色白です」
「健康優良児そのものでしょ。ひとつも当てはまらないわね」
「納得がいかないですわ」
「わたしの台詞なんだけどな」
「肉体労働は」
「瀟洒じゃない」
「イエーイ」
「…」
「…」
「…さっさと片付けするよ。茶番はおわり」
「逃げれると思ったんですけど。計算が狂いましたわ」
「こいつほんとはポンコツなんじゃないだろうか」
「なかなか荷物がおおいね」
「いらないものは大体この辺の部屋にしまっていますからね。仕方ないです」
「それにしては用途不明のものが多すぎない?」
「そうでしょうか」
「この段ボールいっぱいのコケシとか」
「お嬢様の趣味ですわ」
「無駄に出来のいい泥団子は?」
「お嬢様が一時期夢中でつくっていました」
「このドアノブカバー?帽子?同じデザインが30枚くらいあるんだけど」
「ドアノブカバーは妹様もですわ。おそらくお嬢様の予備のドア…帽子です」
「…ドアノブカバーはともかく。ともかく。いらないものしかないじゃない」
「捨てたらお嬢様に怒られてしまいます」
「片付けのできないやつの典型ね」
「ですので妹様が捨ててくだされば解決ですわ」
「いいように使われてる気がする」
「部屋がほしいとかなんとか言ってたじゃないですか」
「そうだけどさぁ」
「ではキリキリ働くがいいですわ」
「ほんとに従者かこいつ」
「きゅっとしてしまえばすぐですよ」
「わたしをなんだと思ってるんだろう」
「瀟洒ですよね。こう、きゅっとして片付けてしまうのって」
「…ひょっとして瀟洒っていいたいだけ?」
「そんなことありませんわ。それは瀟洒じゃありませんもの」
「うそにしかきこえない…」
「そもそも瀟洒ってどういう意味なんですかね」
「知らないのに使ってたの!?自分の代名詞のように言いふらしてたじゃない」
「言ったもの勝ちです。それもまた瀟洒ですわ」
「…もう突っ込むのはあきらめよう。わたしには手におえない」
「片付けはあきらめないで下さると助かりますわ。私が」
「おまえをきゅっとしてやろうか」
「急に片付けがしたくなってきましたわ。うん。働くのもわるくないですね」
「ますます瀟洒じゃなくなってきたな」
「そういえば」
「どしたの?」
「この部屋…お嬢様の部屋の一つ隣りですのね」
「まぁ。ええ。そうね」
「お嬢様の隣の部屋でなくてよかったのですか」
「最初はそのつもりだったんだけどね」
「ふむ」
「隣を貸してほしいと伝えたら、大喜びして抱き着いてきたわ」
「よかったじゃないですか」
「結局鬱陶しくなってこの部屋にしたというわけ」
「照れなくてもいいですのに」
「あいつのデレデレした顔が腹立つのよ」
「可愛らしいじゃないですか」
「…否定はしないよ。否定はね」
「おやおや」
「でもちょっとかわいいとか思った自分を殴りたい」
「惚気ないでください」
「これは姉自慢よ。あと、言わせたのはそっちじゃない」
「本人の前で言ってくださいね」
「無理ね。言った日には、また引き籠るはめになるわ」
「では、その日までこのコケシをお嬢様だと思ってお持ちになってください」
「無理があるよねそれ」
「ドアノブカバーを被せれば完璧ですわ」
「うーんこの従者」
~後日~
「私の帽子の予備を知らないかしら、咲夜」
「こないだの片付けのときに見かけた気がします」
「今はどこに?」
「ゴミとして片付けたはずですね」
「…」
「泥団子とコケシは無事ですよ」
「あたまがいたい…」