ある日の午後。いつものように小傘はある少女の家へ訪れた。
この少女、非常に病弱で外には出れず、身寄りもないので小傘との会話が唯一の楽しみとなっていたのだ。
小傘もそれは承知している。だからこうして足繁く通うのだ。
「おどろけー」
「驚いたわね、心臓が止まるかと思ったわ」
「はいはい、邪魔するよ。お姉さんね、それを冗談にするにはお姉さんのなりは最悪だよ、あいかわらずセンスがないねぇ」
「そのださい傘には言われたくはないけどね」
こんな会話をいつも通りだ。
しかし、今日がいつもと違うのは。
「小傘。」
「なんだい、お姉さん」
「今日お医者さんに診てもらったんだけどね・・・私、もう長くないらしいの」
「・・・。」
しばしの間。
「そうかい。そりゃ残念だ、割とこうしてお姉さんと話すのは嫌いじゃなかったんだけどねぇ・・・そうだ、いまここにくる途中の甘味処でね・・・」
唐突に始まるいつもの会話。
少女は深くものを考えるのは苦手だった。いまはこの心地良い小傘のとりとめのない話に身をゆだねようと思った。
その日が来るまで。
斯くして。
その日は穏やかに、しかし唐突に訪れた。
「お姉さん、そろそろみたいだね」
「そう・・・みたいね。小傘・・・私がいなくなって寂しいかしら・・・?」
「強がんなさんなって。まぁ・・・それなりには寂しいな、いい話相手がいなくなっちまうからね」
「ふふ・・・それだけ聞ければ満足だわ。さようなら・・・小傘」
少女の意識はここで途絶えた。
「・・・ここは・・・?あれ、私が見える?・・・そうか、そうだったわね。私、本当に死んだようね。そうなら少しは感傷的にでもさせてほしいのだけれど・・・。
そう長くなかった人生で振り返るっていっても私には小傘くらいしか・・・」
「あれ?私がどうかしたっていうのかい?」
「小傘!!?あなたがどうしてここに」
「あぁあそれね、私も死んじまったんだよ。まぁ半分わざとみたいなもんだけどねぇ。まさかこうもうまくいくとはね」
「え・・・?」
「そもそも妖怪っていうのはね、人に思い出してもらうことで生きてんだ。その妖怪が忘れられていくっていうのはお姉さんが思ってるよりずっと死活問題でね。ただでさえ誰かさんの看病で人を驚かすのはお預けになってたのに、お姉さんにおっ死んでもらっちゃあだあれも私を思い出してくれる人なんていないのさ、妖怪としてはもうおしまい。まぁ、お姉さんとわちきは文字通り一蓮托生だったってわけさ」
「・・・そんなこと、小傘はひとことも言わなかったじゃない!知ってたら私・・・」
「なぁに、お姉さんと違って死ぬっていっても具合が違くてねぇ。確かに妖怪としてはもう暮らせない。これからは名無しの幽霊にでもなるのかねぇ。此岸にはまだいられるのよ。私は今まで通り気ままに暮らせるって訳。」
「そんなの関係ないじゃない!自分を犠牲にする理由になんてならないわ!あなた自分の身体を失ったのよ?」
「はぁ・・・あのね、だいたい妖怪の身体じゃあ彼岸にいるお姉さんに会いにいけないだろ?こんだけ付き合って死んだらはい終わり・・・じゃあ私は何のためにお姉さんと一緒に居たんだい?私は・・・ふふ、そうね、こう見えて、わちきはけっこうお姉さんに惚れてんだ」
「こんなときに笑えない冗談ね」
「本気だよ、お姉さんは私を受け入れてくれた唯一の存在さ、死んだくらいで手放せるほど安い存在じゃあないんだよ、私にとっちゃ。」
「そんなっ!それは小傘が!
・・・いや・・・もういいわ。まったく、死にでもしないと素直になれないのかしらね?」
「お、やっと素直になってくれたのはお姉さんの方じゃないか、気が向いたら会いに行くかもしれないから、さっさと成仏しな」
「ありがとう・・・じゃあ、いくね。小傘、わたしも小傘のそういうとこ、ほれてあげなくもないわ」
満足げな少女の姿が、少しずつ掻き消えてくのを小傘は満足げな面持ちで見ていた。
「はぁ・・・全く馬鹿なお姉さんだね、幽霊が彼岸に行けるわけないじゃないか。忘れられる悲しみを私はよく知ってるんだ、最期にそばにいてあげるのが、妖怪多々良小傘の役割ってもんさ。
・・・さて。丁度人を驚かすのに都合の好さそうななりになったんだ、存分に使わせてもらうとするかねぇ!」
小傘は軽くなった両手を頭の後ろに組み、里の中に消えていった。
あのださい傘は、もうどこにもないのだ。
この少女、非常に病弱で外には出れず、身寄りもないので小傘との会話が唯一の楽しみとなっていたのだ。
小傘もそれは承知している。だからこうして足繁く通うのだ。
「おどろけー」
「驚いたわね、心臓が止まるかと思ったわ」
「はいはい、邪魔するよ。お姉さんね、それを冗談にするにはお姉さんのなりは最悪だよ、あいかわらずセンスがないねぇ」
「そのださい傘には言われたくはないけどね」
こんな会話をいつも通りだ。
しかし、今日がいつもと違うのは。
「小傘。」
「なんだい、お姉さん」
「今日お医者さんに診てもらったんだけどね・・・私、もう長くないらしいの」
「・・・。」
しばしの間。
「そうかい。そりゃ残念だ、割とこうしてお姉さんと話すのは嫌いじゃなかったんだけどねぇ・・・そうだ、いまここにくる途中の甘味処でね・・・」
唐突に始まるいつもの会話。
少女は深くものを考えるのは苦手だった。いまはこの心地良い小傘のとりとめのない話に身をゆだねようと思った。
その日が来るまで。
斯くして。
その日は穏やかに、しかし唐突に訪れた。
「お姉さん、そろそろみたいだね」
「そう・・・みたいね。小傘・・・私がいなくなって寂しいかしら・・・?」
「強がんなさんなって。まぁ・・・それなりには寂しいな、いい話相手がいなくなっちまうからね」
「ふふ・・・それだけ聞ければ満足だわ。さようなら・・・小傘」
少女の意識はここで途絶えた。
「・・・ここは・・・?あれ、私が見える?・・・そうか、そうだったわね。私、本当に死んだようね。そうなら少しは感傷的にでもさせてほしいのだけれど・・・。
そう長くなかった人生で振り返るっていっても私には小傘くらいしか・・・」
「あれ?私がどうかしたっていうのかい?」
「小傘!!?あなたがどうしてここに」
「あぁあそれね、私も死んじまったんだよ。まぁ半分わざとみたいなもんだけどねぇ。まさかこうもうまくいくとはね」
「え・・・?」
「そもそも妖怪っていうのはね、人に思い出してもらうことで生きてんだ。その妖怪が忘れられていくっていうのはお姉さんが思ってるよりずっと死活問題でね。ただでさえ誰かさんの看病で人を驚かすのはお預けになってたのに、お姉さんにおっ死んでもらっちゃあだあれも私を思い出してくれる人なんていないのさ、妖怪としてはもうおしまい。まぁ、お姉さんとわちきは文字通り一蓮托生だったってわけさ」
「・・・そんなこと、小傘はひとことも言わなかったじゃない!知ってたら私・・・」
「なぁに、お姉さんと違って死ぬっていっても具合が違くてねぇ。確かに妖怪としてはもう暮らせない。これからは名無しの幽霊にでもなるのかねぇ。此岸にはまだいられるのよ。私は今まで通り気ままに暮らせるって訳。」
「そんなの関係ないじゃない!自分を犠牲にする理由になんてならないわ!あなた自分の身体を失ったのよ?」
「はぁ・・・あのね、だいたい妖怪の身体じゃあ彼岸にいるお姉さんに会いにいけないだろ?こんだけ付き合って死んだらはい終わり・・・じゃあ私は何のためにお姉さんと一緒に居たんだい?私は・・・ふふ、そうね、こう見えて、わちきはけっこうお姉さんに惚れてんだ」
「こんなときに笑えない冗談ね」
「本気だよ、お姉さんは私を受け入れてくれた唯一の存在さ、死んだくらいで手放せるほど安い存在じゃあないんだよ、私にとっちゃ。」
「そんなっ!それは小傘が!
・・・いや・・・もういいわ。まったく、死にでもしないと素直になれないのかしらね?」
「お、やっと素直になってくれたのはお姉さんの方じゃないか、気が向いたら会いに行くかもしれないから、さっさと成仏しな」
「ありがとう・・・じゃあ、いくね。小傘、わたしも小傘のそういうとこ、ほれてあげなくもないわ」
満足げな少女の姿が、少しずつ掻き消えてくのを小傘は満足げな面持ちで見ていた。
「はぁ・・・全く馬鹿なお姉さんだね、幽霊が彼岸に行けるわけないじゃないか。忘れられる悲しみを私はよく知ってるんだ、最期にそばにいてあげるのが、妖怪多々良小傘の役割ってもんさ。
・・・さて。丁度人を驚かすのに都合の好さそうななりになったんだ、存分に使わせてもらうとするかねぇ!」
小傘は軽くなった両手を頭の後ろに組み、里の中に消えていった。
あのださい傘は、もうどこにもないのだ。
通院できないし往診として誰が医者を呼んだんだ?
作者「ちょっと泣ける話書きたいからお前すぐ死ねよ」
オリ少女「ハイ、ヨロコンデ」
あっという間に二人とも死んでしまい、全く感情移入できません。
また、上で指摘があるように、病弱で外にも出れず身寄りがない人がどうやってお医者さんを呼んだのでしょうか。
こういう非常に単純なミスを見落としてはダメです。
何度も何度も見直すのが大事ですよ。