星の川を、列車は縫うように走ってゆく。
『サウザンクロスまでお急ぎの方はこちらでお乗り換えください』
そうアナウンスが案内をし、列車は停止した。どうやら乗り換え駅のようだ。まったく作りこまれている。
「お姉さま、あれはなに?」
フランの指差す方を見ると、そこには透明度の高い、まるで紫水晶のような花が咲き乱れていた。
「あれはリンドウだよ」
そう言うと、フランは車窓から乗り出してその花を摘もうとしたので、私は慌てて手首を掴んだ。
「危ないよ、どれ、私が採ってきてあげよう」
窓枠に手をかけて、ひょいと飛び降りる。リンドウの茎は砂糖菓子のように、少しざらついていた。奇妙に思い指についた粉を舐めると微かに甘い。
「これは遊び心とでも言うのかね」
私は小さく羽をはためかせて車内に戻った。
「フラン、このお花はお菓子だったよ。味は悪くない」
流石だ。普段ティータイムに出されるものと変わらぬ味がした。
『まもなく発車いたします。ベルが鳴りましたらご着席ください』
ジリリリリ、とベルが音を立てて出発を知らせる。フランは私から受け取ったリンドウを指で弄んでから、少しずつ口に含んでいた。
「お姉さま、あれは?」
あどけない唇から柔らかい言葉が紡がれる。フランの視線の先には、赤く燃ゆる火が揺れている。天の川の波も時折針のようにちらちらと光っていた。
「あれは蠍の火だよ」
「さそりの火?」
フランは目を薄く開いて、ふうん、と呟いた。
しばらくの間私たちは無言で、それをどうこう言うものも居なかった。二人きりの車内で静かに、星が傾く音だけを聞いていた。フランは先ほどもらった星座盤と空に輝く星を、交互に眺めては小さく星座の名前を囁いている。
「そろそろ帰る頃」
フランがそう言って間もなく視界がぼやけてくる。これがパチェの言っていた仕様というやつか。
「そうね」
楽しかったかい? と尋ねようとすると、フランは首を傾けて控えめに微笑んだ。
「お姉さま、私たち、どこまでだって一緒よ」
どうやら聞くまでもなかったようだ。
目が覚めると私たちはいつものベッドでふたり仲良く横たわっていた。
「おかえりなさいませ」
隣には静かに咲夜が立っていた。
「どうでしたか! お嬢様!」
そのまた隣にいた美鈴が、息を荒らげて問うてくる。まったく雰囲気というものがない。それでも今夜は許してあげよう。こんな素敵な時間を過ごさせてもらったのだから。
「私が作ったんだから、当然最高だったに決まってるわ」
パチェは椅子に腰掛けて本を読んでいた。
「ええ、楽しかったわ。ありがとう」
美鈴発案の体感型天体観測は大成功だった。
「ん……」
フランが目を覚ます。
「おはよう、フラン」
その手には食べかけのリンドウが握られている。
さて、今度はどんな面白いことをしようか、私はそんなことを考えながら笑った。
『サウザンクロスまでお急ぎの方はこちらでお乗り換えください』
そうアナウンスが案内をし、列車は停止した。どうやら乗り換え駅のようだ。まったく作りこまれている。
「お姉さま、あれはなに?」
フランの指差す方を見ると、そこには透明度の高い、まるで紫水晶のような花が咲き乱れていた。
「あれはリンドウだよ」
そう言うと、フランは車窓から乗り出してその花を摘もうとしたので、私は慌てて手首を掴んだ。
「危ないよ、どれ、私が採ってきてあげよう」
窓枠に手をかけて、ひょいと飛び降りる。リンドウの茎は砂糖菓子のように、少しざらついていた。奇妙に思い指についた粉を舐めると微かに甘い。
「これは遊び心とでも言うのかね」
私は小さく羽をはためかせて車内に戻った。
「フラン、このお花はお菓子だったよ。味は悪くない」
流石だ。普段ティータイムに出されるものと変わらぬ味がした。
『まもなく発車いたします。ベルが鳴りましたらご着席ください』
ジリリリリ、とベルが音を立てて出発を知らせる。フランは私から受け取ったリンドウを指で弄んでから、少しずつ口に含んでいた。
「お姉さま、あれは?」
あどけない唇から柔らかい言葉が紡がれる。フランの視線の先には、赤く燃ゆる火が揺れている。天の川の波も時折針のようにちらちらと光っていた。
「あれは蠍の火だよ」
「さそりの火?」
フランは目を薄く開いて、ふうん、と呟いた。
しばらくの間私たちは無言で、それをどうこう言うものも居なかった。二人きりの車内で静かに、星が傾く音だけを聞いていた。フランは先ほどもらった星座盤と空に輝く星を、交互に眺めては小さく星座の名前を囁いている。
「そろそろ帰る頃」
フランがそう言って間もなく視界がぼやけてくる。これがパチェの言っていた仕様というやつか。
「そうね」
楽しかったかい? と尋ねようとすると、フランは首を傾けて控えめに微笑んだ。
「お姉さま、私たち、どこまでだって一緒よ」
どうやら聞くまでもなかったようだ。
目が覚めると私たちはいつものベッドでふたり仲良く横たわっていた。
「おかえりなさいませ」
隣には静かに咲夜が立っていた。
「どうでしたか! お嬢様!」
そのまた隣にいた美鈴が、息を荒らげて問うてくる。まったく雰囲気というものがない。それでも今夜は許してあげよう。こんな素敵な時間を過ごさせてもらったのだから。
「私が作ったんだから、当然最高だったに決まってるわ」
パチェは椅子に腰掛けて本を読んでいた。
「ええ、楽しかったわ。ありがとう」
美鈴発案の体感型天体観測は大成功だった。
「ん……」
フランが目を覚ます。
「おはよう、フラン」
その手には食べかけのリンドウが握られている。
さて、今度はどんな面白いことをしようか、私はそんなことを考えながら笑った。
「星が傾く音」という表現が素敵すぎます