さんさんと降り注ぐ直射日光の元、またいつものようにあの吸血鬼が神社にやって来る。
霊夢はそれを気にも留めずにただいつも通り、お茶と少しの菓子を出すだけ。
そしていつもと変わらないくだらない世間話をして勝手に帰っていく。ただそれだけ。だけどその日は意味のあるような、ないような会話だった。
「お前ってさぁ、いっつも真顔だよな」
「っはあ?」
――コイツは何を言っているのだろう。
霊夢はは瞬間そう思ってしまった。そしてその言葉の意図が解らず混乱してしまう。だから思い切り怒鳴ったことに罪悪感は抱かなかった。いや、普段通りでも多分そんなものこれっぽっちも湧かなかっただろうが。
「あはは。いやぁ、ごめん。そこまで怒るとは思ってなかった」
作り物の様な笑みを浮かべながら謝罪の言葉を口にするレミリア。足をぶらぶらと揺らすから床がミシミシと音を立てる。
また嘘くさい言葉だなぁ、なんて思いつつ霊夢は御煎餅を口に含んだ。
「怒ってないわよ」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないって」
「あぁほら、怒ってる」
「あんたが怒らせたんでしょ」
「怒ってるか、じゃなくて。いつ怒ったか、なんだよ」
若干怒気を含ませて言い放ったが、レミリアはそんな事気にも留めんとばかりにまた意味の解らない言葉を口にする。
霊夢はその不思議な話し方に呆れながら返答する。
「どうでもいいわよ、そんなこと。そもそも怒っただの怒ってないだの、そればっかり連呼してて馬鹿みたい」
「ひっどいこというなぁ。硝子のハートが粉々に砕けそう挫けそう」
「硝子? あんたのハートは樹脂製でしょう」
「ちょっとほんとに挫けそう」
このどこかズレた不思議な話し方に疑問を持ったことは一度ばかりではない。たまにこんな、噛み合わない会話をする。その度にそう思っていた。……まぁ、昔の話だ。最近じゃもう慣れっこ。
それに、この幻想郷ではそんな話し方をする奴は少ないわけじゃない。むしろ妖怪でまともな会話ばかりするやつとかマイナリティすぎて可笑しい。
霊夢は横で、涙目になってこちらを睨み付けて来るレミリアを見る。そういやあまり会ってはいないがこいつの妹もこんな話し方するのだろうか。
「砕けたら慰めてもらえばいいでしょ」
「性的に?」
「馬鹿言わないで、あんた一体いくつよ」
「ジャスト五百歳」
「あっそ」
溜まった涙は流れることなく、もう乾いていて。そしてまたいつも通りの瞳に戻っていく。
――あぁ、またこの目だ。
霊夢はこの、五百年を生きる吸血鬼についてよく考えさせられてしまう。いや、本人にそんなつもりはないのだろう。勝手に霊夢が考えて、飽きて放置してまた考える。その無限ループ。
青なのか銀なのかよくわからないその髪を風に靡かせて、どこか遠くを、そのよく分からない瞳でずっと見つめてる。
その深紅の瞳は、どんな感情を湛えているのだろう。冷酷なような、優しげなような、儚げなような、寂しげなような。どうにも虚ろで空っぽな色をした紅い眼。
「レミリア・スカーレット」
ふとフルネームで呼んでみる。そこに意味などない。ただの巫女の気まぐれである。
「なんだよいきなり」
当然の如く訝しまれる。そりゃそうだ、自分の事を”あんた”と呼んでたやつがいきなりフルネームで呼んできたのだから。
「レミリア」
再度名前を呼ぶ。その紅い瞳を見据えて、いつも通りの声で、顔で、何も考えずに言った。
「いや、だからなにってば」
「あんたは、」
そう言った後、言葉を発するのを躊躇った。これは、言うべきか。ただの好奇心で、勝手に踏み入っていいような領域なのか。
わからない。そんなことは考えない。何も考えずに話してしまった、自分を責め立てるような隙間はない。
言葉が浮かばない。ちょうどいい、言葉が見つからない。聞きたいことを、正確に伝えるにはどういえばいいのだろう。
あぁ、もうちょっと言葉のボキャブラリー増やしておいて頂戴よ、いつも面倒臭がってるからこんな時困るのよ。
普段ろくに動かしてもいない脳をフル回転させて脳内辞書を捲る音が聞こえてくる気がする。
「霊夢?」
声が聞こえる。心配されてる。あれ、思ったより長い事考え事してたのかも。
「ねぇ」
「うん」
一応考えたからね、私の言葉にデリカシーだかなんだかがないとか言われても困るからね。
ふぅ、と深呼吸をして、言ってみる。意外と声は普通だった。
「あんたは、心を、必要としてるの?」
言い切った。それだけでなんだか心が軽くなった。だけど代わりに空気が重い。夜の王に相応しい、冷酷な瞳で睨まれる。
残念ながら霊夢はそういう系の視線には慣れ切っているが。巫女と言う役割上、妖怪と対峙する以上、その程度では動じない。動じてはいけない。
というかそもそも霊夢の能力は浮くための能力。その場の空気に流される事無く悠々としている。それが博麗霊夢だから。
「……心なんて必要ないんだよ」
レミリアがぼそりと呟いた。霊夢を刺すような鋭い視線が、ふっと緩められる。そしてまるで自嘲するように笑った。
「あはは、言っとくけど妹に壊された訳でもなく、自分の意思で壊したから」
「辛いの?」
「どうだろうね。自分でもわからない」
「自分だからわからないのよ」
「ふぅん」
関心があるのか無いのかよくわからない。
「てゆーかあんたは一体何が言いたかったのよ」
「いや、霊夢ってさぁ。いっつも真顔だなーって思って。何も考えずに喋った」
「せめて冷めてるとか無表情とかにしてほしかったわ」
「なんで?」
「私が何かに真剣に取り組む所とか見たことある?」
「あんまないね」
「だから嫌なのよ」
「じゃあ、霊夢っていつも無感情だよね?」
「無感情はあんたでしょうが」
「いや、私は感情豊かだろ」
「てかもうさっさと帰りなさいよ!」
叫んで虹彩を放つスペルカードを宣言した。
――霊符「夢想封印」
”一応しばらく来るな”という意思表示と、重い空気も一緒にぶっとんでったらいいなーという願いを込めて。
霊夢はそれを気にも留めずにただいつも通り、お茶と少しの菓子を出すだけ。
そしていつもと変わらないくだらない世間話をして勝手に帰っていく。ただそれだけ。だけどその日は意味のあるような、ないような会話だった。
「お前ってさぁ、いっつも真顔だよな」
「っはあ?」
――コイツは何を言っているのだろう。
霊夢はは瞬間そう思ってしまった。そしてその言葉の意図が解らず混乱してしまう。だから思い切り怒鳴ったことに罪悪感は抱かなかった。いや、普段通りでも多分そんなものこれっぽっちも湧かなかっただろうが。
「あはは。いやぁ、ごめん。そこまで怒るとは思ってなかった」
作り物の様な笑みを浮かべながら謝罪の言葉を口にするレミリア。足をぶらぶらと揺らすから床がミシミシと音を立てる。
また嘘くさい言葉だなぁ、なんて思いつつ霊夢は御煎餅を口に含んだ。
「怒ってないわよ」
「怒ってんじゃん」
「怒ってないって」
「あぁほら、怒ってる」
「あんたが怒らせたんでしょ」
「怒ってるか、じゃなくて。いつ怒ったか、なんだよ」
若干怒気を含ませて言い放ったが、レミリアはそんな事気にも留めんとばかりにまた意味の解らない言葉を口にする。
霊夢はその不思議な話し方に呆れながら返答する。
「どうでもいいわよ、そんなこと。そもそも怒っただの怒ってないだの、そればっかり連呼してて馬鹿みたい」
「ひっどいこというなぁ。硝子のハートが粉々に砕けそう挫けそう」
「硝子? あんたのハートは樹脂製でしょう」
「ちょっとほんとに挫けそう」
このどこかズレた不思議な話し方に疑問を持ったことは一度ばかりではない。たまにこんな、噛み合わない会話をする。その度にそう思っていた。……まぁ、昔の話だ。最近じゃもう慣れっこ。
それに、この幻想郷ではそんな話し方をする奴は少ないわけじゃない。むしろ妖怪でまともな会話ばかりするやつとかマイナリティすぎて可笑しい。
霊夢は横で、涙目になってこちらを睨み付けて来るレミリアを見る。そういやあまり会ってはいないがこいつの妹もこんな話し方するのだろうか。
「砕けたら慰めてもらえばいいでしょ」
「性的に?」
「馬鹿言わないで、あんた一体いくつよ」
「ジャスト五百歳」
「あっそ」
溜まった涙は流れることなく、もう乾いていて。そしてまたいつも通りの瞳に戻っていく。
――あぁ、またこの目だ。
霊夢はこの、五百年を生きる吸血鬼についてよく考えさせられてしまう。いや、本人にそんなつもりはないのだろう。勝手に霊夢が考えて、飽きて放置してまた考える。その無限ループ。
青なのか銀なのかよくわからないその髪を風に靡かせて、どこか遠くを、そのよく分からない瞳でずっと見つめてる。
その深紅の瞳は、どんな感情を湛えているのだろう。冷酷なような、優しげなような、儚げなような、寂しげなような。どうにも虚ろで空っぽな色をした紅い眼。
「レミリア・スカーレット」
ふとフルネームで呼んでみる。そこに意味などない。ただの巫女の気まぐれである。
「なんだよいきなり」
当然の如く訝しまれる。そりゃそうだ、自分の事を”あんた”と呼んでたやつがいきなりフルネームで呼んできたのだから。
「レミリア」
再度名前を呼ぶ。その紅い瞳を見据えて、いつも通りの声で、顔で、何も考えずに言った。
「いや、だからなにってば」
「あんたは、」
そう言った後、言葉を発するのを躊躇った。これは、言うべきか。ただの好奇心で、勝手に踏み入っていいような領域なのか。
わからない。そんなことは考えない。何も考えずに話してしまった、自分を責め立てるような隙間はない。
言葉が浮かばない。ちょうどいい、言葉が見つからない。聞きたいことを、正確に伝えるにはどういえばいいのだろう。
あぁ、もうちょっと言葉のボキャブラリー増やしておいて頂戴よ、いつも面倒臭がってるからこんな時困るのよ。
普段ろくに動かしてもいない脳をフル回転させて脳内辞書を捲る音が聞こえてくる気がする。
「霊夢?」
声が聞こえる。心配されてる。あれ、思ったより長い事考え事してたのかも。
「ねぇ」
「うん」
一応考えたからね、私の言葉にデリカシーだかなんだかがないとか言われても困るからね。
ふぅ、と深呼吸をして、言ってみる。意外と声は普通だった。
「あんたは、心を、必要としてるの?」
言い切った。それだけでなんだか心が軽くなった。だけど代わりに空気が重い。夜の王に相応しい、冷酷な瞳で睨まれる。
残念ながら霊夢はそういう系の視線には慣れ切っているが。巫女と言う役割上、妖怪と対峙する以上、その程度では動じない。動じてはいけない。
というかそもそも霊夢の能力は浮くための能力。その場の空気に流される事無く悠々としている。それが博麗霊夢だから。
「……心なんて必要ないんだよ」
レミリアがぼそりと呟いた。霊夢を刺すような鋭い視線が、ふっと緩められる。そしてまるで自嘲するように笑った。
「あはは、言っとくけど妹に壊された訳でもなく、自分の意思で壊したから」
「辛いの?」
「どうだろうね。自分でもわからない」
「自分だからわからないのよ」
「ふぅん」
関心があるのか無いのかよくわからない。
「てゆーかあんたは一体何が言いたかったのよ」
「いや、霊夢ってさぁ。いっつも真顔だなーって思って。何も考えずに喋った」
「せめて冷めてるとか無表情とかにしてほしかったわ」
「なんで?」
「私が何かに真剣に取り組む所とか見たことある?」
「あんまないね」
「だから嫌なのよ」
「じゃあ、霊夢っていつも無感情だよね?」
「無感情はあんたでしょうが」
「いや、私は感情豊かだろ」
「てかもうさっさと帰りなさいよ!」
叫んで虹彩を放つスペルカードを宣言した。
――霊符「夢想封印」
”一応しばらく来るな”という意思表示と、重い空気も一緒にぶっとんでったらいいなーという願いを込めて。
いえまあ、もちろんただの憶測なんですけどね。ただ、霊夢は一度何も考えずにグダー、とすると案外いい考えが浮かぶのかもしれませんね。