轟々――。
少し前まで降っていた雪は止んで、季節は少しずつ春へと向かい始めていた。
「……」
しかし、吐く息はまだ白く。
妖怪の山は大瀑布、九天の滝。いつもの立ち位置で白狼天狗の犬走椛は山麓を俯瞰していた。
妖怪の蔓延るこの山において、侵入者は稀である。今日も今日とて、異常なし。ゆっくりと視線を上げれば、そこにあるのは冬の終わりを静かに待ち望む、残雪深い郷の景色。
人里を見れば、人間の子どもたちが小さな体を目一杯動かして雪だるま作りや雪合戦に興じていた。子どもは風の子。元気が一番である。
里を出て魔法の森へ。人間の魔法使いが箒に乗って道なりに低空飛行していた。箒の先端に引っ掛けられている袋には、何が入っているのだろうか。ともあれ、こちらに来ることはなさそうである。
椛は“千里先まで見通す程度の能力”を持っていた。“千里眼”と言えば聞こえはいいが、遮蔽物などで視線の届かないところは見えないので、椛自身は“遠くまでよく見える”程度にしか認識していないが。
しかし、それでも退屈しのぎにはいい能力である。見晴らしのいいこの場所ならば、幻想郷の隅々まで見渡せるようだった。さながら外界を見下ろす神のような……、
「……ふっ。驕りが過ぎるな」
自分は白狼天狗だ。誇りはあるが、ただの狼である。神などとは、畏れ多い。
苦笑して、椛は視線を山麓に戻した。変わらず異常はない。
「……ん」
山麓をひとしきり見渡して、それから再び視線を上げて、椛は気が付いた。
――……いた。
侵入者ではない。どうせ山は今日もずっと異常なしだろう。
椛の見つめる先は、山の外――人間の里にほど近い竹林。そこに、ひとりの少女がいた。
上品そうな白と赤のロングワンピースに、黒のフード付きケープ。腰まで届くほどの長い髪は、艷やかな夜闇。その目に湛えるは、ほの暗く、それでいて鮮やかな紅の色。
そして、頭に頂く獣の耳は髪の毛と同じ色。あれは、おそらく狼。尾は服の下にでも隠しているのだろう。
「……」
名前も知らぬ狼女。千里眼を以って彼女を見つめ、ほう、と椛は息を吐いた。
彼女の姿をよく見るようになったのは、この前の秋からだったか。昔から竹林に住み着いていたのか、それとも最近になって外の世界からこちらに来たのか、椛には分からなかった。同じく竹林に住む焼き鳥屋の女と談笑している様子を見かけたことがあるので、意外と古参なのかもしれない。
彼女は、竹林を起点として、人里や霧の湖のあたりを主な行動範囲としていた。里では赤ずくめの女と一緒にいることが多い。湖のほうで何をしているかは、あいにく霧が濃くてよく分かっていない。が、おおかた水浴びかそこらだろう。
椛の目には、彼女がとても魅力的に見えた。
例えば瞳が綺麗だとか、例えばほっそりとした手足が羨ましいとか、例えば立ち振る舞いにどことなく気品が漂っている気がするとか……。
妖怪としての格は、白狼天狗と比べれば間違いなく下だろう。たがそれでも、椛は彼女を見下す気になれなかった。
――彼女は、いったい何者なんだろう……?
ぼんやりと物思いに耽っていると、唐突に彼女が顔を上げてこちらを見た。
目が合った、気がした。
「っ!?」
椛は慌てて目をそらして、そしてため息をひとつ。
何をやっているんだか。ここから竹林まではかなりの距離がある。狼の眷属たる椛の眼を以ってしても、能力がなければ彼女の姿は米粒よりも小さい。目が合うことなど、あろうはずもないのだ。彼女はただ山のほうを見ただけ。それだけだ。
「……仕事しよう」
ばくばくと跳ねる心臓を落ち着けて、椛は竹林のほうを極力見ないように気を付けながら、哨戒を続けた。本日も、異常なし。
…………
その日は、侵入者がいた。麓からひとり。移動手段は徒歩だ。
椛はその存在にいち早く気が付き、しかし仲間へは連携せずに飛び出していった。
――どうして……!?
早鐘を鳴らす心臓に突き動かされるように、椛は山を降っていく。
ここ数日の陽気で、残っていた雪はすっかり溶けていた。いまはまだ静かな山も、春を告げる妖精の声を聞けば、すぐにその様相を一変させることだろう。
侵入者は、あたりを見回しながらゆっくりと山を登ってきていた。が、特に警戒をしているというわけではなさそうだ。ただ、観光気分で山を登っている。そんな雰囲気に思えた。
木々を渡り、獣道を駆け、獣道ですらないところを踏み荒らし、そして椛は侵入者の前に立ちはだかった。
「止まれ」
声は震えていないだろうか。そんなことを、ふと思う。
侵入者を――“彼女”をこんなに近くで見たのは、初めてだった。
長い黒髪、ほの暗い紅の瞳。そして、狼の耳。
椛の前には、竹林の狼女が立っていた。
「ここは妖怪の山。天狗の領域だ。いますぐ立ち去れ」
「……」
どうして彼女がこんなところにいるのかとか、やっぱり髪が綺麗だとか、瞳の紅は遠目で見ていたよりもずっと深みがあるとか、思うところは沢山あったが、とにかく椛は定型通りの警告を発した。
妖怪の山は不可侵の地。支配者である天狗、および八百万の神々や一部の妖怪、人間以外は踏み入ることが許されない。山へ侵入するものがないかを監視し、いた場合にはこれを撃退するのが哨戒を任された白狼天狗の使命である。
「さあ、立ち去れ」
まずは警告。それでも引き下がらないならば、力尽くで追い出すしかない。
――手荒な真似はさせないでくれ。
胸中で願う。
女は狼狽した様子で椛を見つめ、そして慌てて視線を泳がせ、
「…………あ、そ、その、ごめんなさい。私、知らなくて……」
初めて聞く狼女の声は、震えていたが、笛の音のように心地よい澄んだものだった。
――綺麗な声だ。
容姿も良い、声も美しい。少し臆病な性格をしているようだが、傲慢よりはずっといい。
やはり彼女は魅力的だった。椛はますます彼女に惹かれていった。
「し、失礼しました!」
しかし、狼女はそんな椛から逃げるように踵を返して山を降りていく。降りろと言ったのはこちらなので当然なのだが、なんだか拒絶されたように感じられて、椛は心臓を鷲掴みにされたように胸が苦しくなった。
だからだろうか。
「ま、待て!」
「え?」
思わず呼び止めてしまったのだ。
「あー、いや、その……」
「……?」
どうしよう。
二の句が思いつかず、しどろもどろ。そんな椛を狼女は訝しげに見つめている。
「……」
「……あの、」
「眼が……」
「眼?」
「綺麗な、眼だと……」
「は、はあ……ありがとうございます」
「い、いやっ、違う! いや違わないが!」
――私は何を言っているんだ!?
口をついて出た言葉で、さらに焦りが募る。
「そうではなくて……そうだ。なぜ山に入ってきた? お前は竹林の狼女だろう? こんなところに用があるとは思えないが」
もう少しだけ彼女と話をしていたい。そんな思いで椛は考えつくままに問いかけた。それが誤りだったと気が付いたのは、その直後だったが。
狼女は少しだけ目を見開き、そして微笑んだ。
「……用は、たったいま、済みそうです」
「どういうことだ?」
「最近、山のほうからよく視線を感じていたんですけれど……」
ぎくり。
「あなただったんですね」
「何を馬鹿な」
「私が竹林に住んでるって知ってましたよね」
「あああああ……」
椛は頭を抱えてうずくまった。
彼女は、以前から視線に気が付いていたのだ。その上で椛の失言である。弁解の余地もない。
次に投げかけられる言葉は怒りだろうか、蔑みだろうか。直接手が出てくるかもしれない。どちらにせよ、覗きなどという行為を働いたこちらに否があることは明白。椛は来たるべき裁きを覚悟した。
「あ、あの……よかったら、私とお友達になってくれませんか?」
「…………え?」
しかし、告げられた言葉は思いもよらないもので、椛は目を丸くした。聞き間違いではないかと顔を上げて、狼女を見る。
「その、私も……たぶん、あなただと思うんですけど……あなたのことを竹林から見ていたので、おあいこかなって……」
「……」
おそらく“あいこ”にはならないだろうと、椛は思った。彼女の言う「見ていた」は、せいぜい「向こうの山から誰かに見られているな」くらいのものだろう。口振りから察するに、個人の識別もできていない。
「私、今泉影狼って言います。ニホンオオカミの狼女なんですけど、実は家族以外で狼のひとと会うのはほとんど初めてみたいなもので、これを機会にいろいろお話できたらいいなって……」
狼女――影狼は頬を赤く染め、もじもじと両手の指を胸の前で絡ませ、恥ずかしそうにしている。嘘を言っているようには見えなかった。
竹林のあたりは最近よく見ている。影狼がいて、焼き鳥屋の女がいて、たまに兎の耳を頂いた薬師が里に向かい、そして帰っていく。彼女の他に狼女や狼男の類はいなかったように思える。
いや、幻想郷全体で見ても、狼に類する妖怪は白狼天狗と影狼くらいのものだろう。山から千里眼を以って郷を見渡してきた椛は思った。
果たして、この郷にいない影狼の家族や仲間はどこにいるのだろうか。あるいは、どうなってしまったのだろうか。
同族のいないものの気持ちは、あいにく椛には分からない。
「……他の天狗に見つかっては厄介だ。早く立ち去れ」
「あ、…………。はい……」
ただ、
「犬走椛だ。今度は、私のほうから会いに行こう」
「!」
そう言ってやった時の影狼の笑顔は、今までで一番魅力的だと思った。
…………
それから、黒い狼が出ると噂の竹林に、白い狼の姿も見られるようになったという。
了
少し前まで降っていた雪は止んで、季節は少しずつ春へと向かい始めていた。
「……」
しかし、吐く息はまだ白く。
妖怪の山は大瀑布、九天の滝。いつもの立ち位置で白狼天狗の犬走椛は山麓を俯瞰していた。
妖怪の蔓延るこの山において、侵入者は稀である。今日も今日とて、異常なし。ゆっくりと視線を上げれば、そこにあるのは冬の終わりを静かに待ち望む、残雪深い郷の景色。
人里を見れば、人間の子どもたちが小さな体を目一杯動かして雪だるま作りや雪合戦に興じていた。子どもは風の子。元気が一番である。
里を出て魔法の森へ。人間の魔法使いが箒に乗って道なりに低空飛行していた。箒の先端に引っ掛けられている袋には、何が入っているのだろうか。ともあれ、こちらに来ることはなさそうである。
椛は“千里先まで見通す程度の能力”を持っていた。“千里眼”と言えば聞こえはいいが、遮蔽物などで視線の届かないところは見えないので、椛自身は“遠くまでよく見える”程度にしか認識していないが。
しかし、それでも退屈しのぎにはいい能力である。見晴らしのいいこの場所ならば、幻想郷の隅々まで見渡せるようだった。さながら外界を見下ろす神のような……、
「……ふっ。驕りが過ぎるな」
自分は白狼天狗だ。誇りはあるが、ただの狼である。神などとは、畏れ多い。
苦笑して、椛は視線を山麓に戻した。変わらず異常はない。
「……ん」
山麓をひとしきり見渡して、それから再び視線を上げて、椛は気が付いた。
――……いた。
侵入者ではない。どうせ山は今日もずっと異常なしだろう。
椛の見つめる先は、山の外――人間の里にほど近い竹林。そこに、ひとりの少女がいた。
上品そうな白と赤のロングワンピースに、黒のフード付きケープ。腰まで届くほどの長い髪は、艷やかな夜闇。その目に湛えるは、ほの暗く、それでいて鮮やかな紅の色。
そして、頭に頂く獣の耳は髪の毛と同じ色。あれは、おそらく狼。尾は服の下にでも隠しているのだろう。
「……」
名前も知らぬ狼女。千里眼を以って彼女を見つめ、ほう、と椛は息を吐いた。
彼女の姿をよく見るようになったのは、この前の秋からだったか。昔から竹林に住み着いていたのか、それとも最近になって外の世界からこちらに来たのか、椛には分からなかった。同じく竹林に住む焼き鳥屋の女と談笑している様子を見かけたことがあるので、意外と古参なのかもしれない。
彼女は、竹林を起点として、人里や霧の湖のあたりを主な行動範囲としていた。里では赤ずくめの女と一緒にいることが多い。湖のほうで何をしているかは、あいにく霧が濃くてよく分かっていない。が、おおかた水浴びかそこらだろう。
椛の目には、彼女がとても魅力的に見えた。
例えば瞳が綺麗だとか、例えばほっそりとした手足が羨ましいとか、例えば立ち振る舞いにどことなく気品が漂っている気がするとか……。
妖怪としての格は、白狼天狗と比べれば間違いなく下だろう。たがそれでも、椛は彼女を見下す気になれなかった。
――彼女は、いったい何者なんだろう……?
ぼんやりと物思いに耽っていると、唐突に彼女が顔を上げてこちらを見た。
目が合った、気がした。
「っ!?」
椛は慌てて目をそらして、そしてため息をひとつ。
何をやっているんだか。ここから竹林まではかなりの距離がある。狼の眷属たる椛の眼を以ってしても、能力がなければ彼女の姿は米粒よりも小さい。目が合うことなど、あろうはずもないのだ。彼女はただ山のほうを見ただけ。それだけだ。
「……仕事しよう」
ばくばくと跳ねる心臓を落ち着けて、椛は竹林のほうを極力見ないように気を付けながら、哨戒を続けた。本日も、異常なし。
…………
その日は、侵入者がいた。麓からひとり。移動手段は徒歩だ。
椛はその存在にいち早く気が付き、しかし仲間へは連携せずに飛び出していった。
――どうして……!?
早鐘を鳴らす心臓に突き動かされるように、椛は山を降っていく。
ここ数日の陽気で、残っていた雪はすっかり溶けていた。いまはまだ静かな山も、春を告げる妖精の声を聞けば、すぐにその様相を一変させることだろう。
侵入者は、あたりを見回しながらゆっくりと山を登ってきていた。が、特に警戒をしているというわけではなさそうだ。ただ、観光気分で山を登っている。そんな雰囲気に思えた。
木々を渡り、獣道を駆け、獣道ですらないところを踏み荒らし、そして椛は侵入者の前に立ちはだかった。
「止まれ」
声は震えていないだろうか。そんなことを、ふと思う。
侵入者を――“彼女”をこんなに近くで見たのは、初めてだった。
長い黒髪、ほの暗い紅の瞳。そして、狼の耳。
椛の前には、竹林の狼女が立っていた。
「ここは妖怪の山。天狗の領域だ。いますぐ立ち去れ」
「……」
どうして彼女がこんなところにいるのかとか、やっぱり髪が綺麗だとか、瞳の紅は遠目で見ていたよりもずっと深みがあるとか、思うところは沢山あったが、とにかく椛は定型通りの警告を発した。
妖怪の山は不可侵の地。支配者である天狗、および八百万の神々や一部の妖怪、人間以外は踏み入ることが許されない。山へ侵入するものがないかを監視し、いた場合にはこれを撃退するのが哨戒を任された白狼天狗の使命である。
「さあ、立ち去れ」
まずは警告。それでも引き下がらないならば、力尽くで追い出すしかない。
――手荒な真似はさせないでくれ。
胸中で願う。
女は狼狽した様子で椛を見つめ、そして慌てて視線を泳がせ、
「…………あ、そ、その、ごめんなさい。私、知らなくて……」
初めて聞く狼女の声は、震えていたが、笛の音のように心地よい澄んだものだった。
――綺麗な声だ。
容姿も良い、声も美しい。少し臆病な性格をしているようだが、傲慢よりはずっといい。
やはり彼女は魅力的だった。椛はますます彼女に惹かれていった。
「し、失礼しました!」
しかし、狼女はそんな椛から逃げるように踵を返して山を降りていく。降りろと言ったのはこちらなので当然なのだが、なんだか拒絶されたように感じられて、椛は心臓を鷲掴みにされたように胸が苦しくなった。
だからだろうか。
「ま、待て!」
「え?」
思わず呼び止めてしまったのだ。
「あー、いや、その……」
「……?」
どうしよう。
二の句が思いつかず、しどろもどろ。そんな椛を狼女は訝しげに見つめている。
「……」
「……あの、」
「眼が……」
「眼?」
「綺麗な、眼だと……」
「は、はあ……ありがとうございます」
「い、いやっ、違う! いや違わないが!」
――私は何を言っているんだ!?
口をついて出た言葉で、さらに焦りが募る。
「そうではなくて……そうだ。なぜ山に入ってきた? お前は竹林の狼女だろう? こんなところに用があるとは思えないが」
もう少しだけ彼女と話をしていたい。そんな思いで椛は考えつくままに問いかけた。それが誤りだったと気が付いたのは、その直後だったが。
狼女は少しだけ目を見開き、そして微笑んだ。
「……用は、たったいま、済みそうです」
「どういうことだ?」
「最近、山のほうからよく視線を感じていたんですけれど……」
ぎくり。
「あなただったんですね」
「何を馬鹿な」
「私が竹林に住んでるって知ってましたよね」
「あああああ……」
椛は頭を抱えてうずくまった。
彼女は、以前から視線に気が付いていたのだ。その上で椛の失言である。弁解の余地もない。
次に投げかけられる言葉は怒りだろうか、蔑みだろうか。直接手が出てくるかもしれない。どちらにせよ、覗きなどという行為を働いたこちらに否があることは明白。椛は来たるべき裁きを覚悟した。
「あ、あの……よかったら、私とお友達になってくれませんか?」
「…………え?」
しかし、告げられた言葉は思いもよらないもので、椛は目を丸くした。聞き間違いではないかと顔を上げて、狼女を見る。
「その、私も……たぶん、あなただと思うんですけど……あなたのことを竹林から見ていたので、おあいこかなって……」
「……」
おそらく“あいこ”にはならないだろうと、椛は思った。彼女の言う「見ていた」は、せいぜい「向こうの山から誰かに見られているな」くらいのものだろう。口振りから察するに、個人の識別もできていない。
「私、今泉影狼って言います。ニホンオオカミの狼女なんですけど、実は家族以外で狼のひとと会うのはほとんど初めてみたいなもので、これを機会にいろいろお話できたらいいなって……」
狼女――影狼は頬を赤く染め、もじもじと両手の指を胸の前で絡ませ、恥ずかしそうにしている。嘘を言っているようには見えなかった。
竹林のあたりは最近よく見ている。影狼がいて、焼き鳥屋の女がいて、たまに兎の耳を頂いた薬師が里に向かい、そして帰っていく。彼女の他に狼女や狼男の類はいなかったように思える。
いや、幻想郷全体で見ても、狼に類する妖怪は白狼天狗と影狼くらいのものだろう。山から千里眼を以って郷を見渡してきた椛は思った。
果たして、この郷にいない影狼の家族や仲間はどこにいるのだろうか。あるいは、どうなってしまったのだろうか。
同族のいないものの気持ちは、あいにく椛には分からない。
「……他の天狗に見つかっては厄介だ。早く立ち去れ」
「あ、…………。はい……」
ただ、
「犬走椛だ。今度は、私のほうから会いに行こう」
「!」
そう言ってやった時の影狼の笑顔は、今までで一番魅力的だと思った。
…………
それから、黒い狼が出ると噂の竹林に、白い狼の姿も見られるようになったという。
了
そして迂闊すぎるよ椛さん
かわいくて良かったです
お嬢様っぽい影狼ちゃんもっと見たいなあ。
今後想像しちゃいます。
かげろーちゃんはいいとこのお嬢様派大賛成です。
これからの二人に超期待!