「暇そうだな」
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は、神社の縁側に座る紅白の巫女、博麗霊夢の下に降り立った。
「あら、魔理沙。こんな夜遅くにどうしたの?」
「いや何、一緒に酒でもどうかと思ったんだけど」
そう言う魔理沙の手には、一升程の大きさの瓶が握られている。暗くてあまり見えないが、どうやらラベルはついていない様だ。
「ふぅん、珍しいわね。ちょっと待ってて」
霊夢はそう言って、部屋の中に入っていった。魔理沙は、先程まで霊夢が座っていた隣辺りに腰を下ろし、空を見上げた。
半分程欠けた月と、幾つかの星が見える。
「お待たせ」
霊夢はまた先程と同じ場所に座り、魔理沙に御猪口を手渡す。
「日本酒じゃあないみたいだけど、これでいいわよね?」
「まあ、いいんじゃないか? 紅魔館からかっぱらってきた物だから、多分葡萄酒か何かだろうけど」
「また盗んできたの? 共犯者にされるのは嫌よ」
あからさまに嫌そうな顔をして見せる霊夢。
「飲みきってしまえば、多分ばれないさ」
魔理沙は構わずに栓を開けた。
「はあ……。いつかとって食われても知らないわよ」
「その時は霊夢が助けに来てくれよ」
霊夢の御猪口に酒を注ぎ、瓶を霊夢に渡す。
「ん」
霊夢は瓶を受け取り、同じ様にして魔理沙の御猪口に酒を注ぐ。
「うん。それじゃあ、乾杯」
魔理沙はそう言って、御猪口を口元に近付ける。しかし、口につける寸前で、動きを止めた。
「なんだか、変な臭いがしないか? これ」
そう言って霊夢の方を見ると、既に口に含んだ後だった。
「…………」
「大丈夫か? 霊夢」
「……血酒ね。葡萄酒も混ざってる様だけど、多分、人間の血よ、これ」
「うへぇ。外れ引いちゃったな」
魔理沙は御猪口の中身を地面に空け、酒瓶に栓をし直した。
「あら、勿体無い」
「流石に、誰の物かも分からない血が混ざってる酒は飲みたくないぜ」
「そう。でも、人間の血よ? 魔術の材料にでもすればいいじゃない」
「そうは言っても、葡萄酒が混ざってるからなぁ」
少し思案した後に、また口を開く。
「混ざった液体から葡萄だけを取り除けたらいいんだけど」
「無理ね」
「無理だな。後で返してくるよ」
「そう。骨折り損だったわね」
魔理沙から御猪口を受け取り、席を立つ霊夢。
「口直しに何か持ってくるわ。御猪口も洗ってくる」
「ああ、すまないな」
しばらくして、綺麗な御猪口と酒瓶を持って霊夢が戻って来た。
「安いお酒しかなかったけど、いいでしょ」
二人分の酒を注ぎ、再び乾杯する。今度は、二人とも一緒に飲んだ。
「……うん。確かに安酒だな」
「文句言わないでよ? 今日は飲むつもりじゃ無かったんだから。他に残って無かったのよ」
そう言いながら、また直ぐに酒を注ぎ、一口で飲み干す霊夢。
「酔ってしまえば、皆同じよ」
「それもそうだな」
魔理沙もまた、霊夢に酒を注がせ、それをあおる。
それから先は、暫く無言で飲み続けた。時折、空を眺めながら、また時折、御猪口の中の酒を眺めながら。
瓶が半分程空になった頃、そういえば、と霊夢が口を開いた。
「どうした?」
「さっき、あんた言ってたわよね。誰の物かも分からない血は飲みたくないって」
「まあ、言ったな。それがどうかしたか?」
「じゃあ、私の血だったら、飲んでみたいと思う?」
もう酔ってるのか? と軽口をたたこうとしたが、何処か真剣そうなその眼に、言葉が出なかった。
「…………そうだな。霊夢の血だったら、飲んでもいいかもしれないな」
「ふぅん。そう」
興味無さげに返事をしたかと思うと、霊夢は、いつの間にか持っていた小刀で、薬指の先を切った。
「舐めて」
言われるがまま、魔理沙は血の滴る指先を咥える。口の中に鉄の味が広がっていく。
霊夢は魔理沙の眼を見つめ、少し笑った。
「うん。おしまい」
霊夢は指を引き抜き、止血をした。
「さあ、飲むわよ」
そう言って、また霊夢は、酒を注いだ。
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は、神社の縁側に座る紅白の巫女、博麗霊夢の下に降り立った。
「あら、魔理沙。こんな夜遅くにどうしたの?」
「いや何、一緒に酒でもどうかと思ったんだけど」
そう言う魔理沙の手には、一升程の大きさの瓶が握られている。暗くてあまり見えないが、どうやらラベルはついていない様だ。
「ふぅん、珍しいわね。ちょっと待ってて」
霊夢はそう言って、部屋の中に入っていった。魔理沙は、先程まで霊夢が座っていた隣辺りに腰を下ろし、空を見上げた。
半分程欠けた月と、幾つかの星が見える。
「お待たせ」
霊夢はまた先程と同じ場所に座り、魔理沙に御猪口を手渡す。
「日本酒じゃあないみたいだけど、これでいいわよね?」
「まあ、いいんじゃないか? 紅魔館からかっぱらってきた物だから、多分葡萄酒か何かだろうけど」
「また盗んできたの? 共犯者にされるのは嫌よ」
あからさまに嫌そうな顔をして見せる霊夢。
「飲みきってしまえば、多分ばれないさ」
魔理沙は構わずに栓を開けた。
「はあ……。いつかとって食われても知らないわよ」
「その時は霊夢が助けに来てくれよ」
霊夢の御猪口に酒を注ぎ、瓶を霊夢に渡す。
「ん」
霊夢は瓶を受け取り、同じ様にして魔理沙の御猪口に酒を注ぐ。
「うん。それじゃあ、乾杯」
魔理沙はそう言って、御猪口を口元に近付ける。しかし、口につける寸前で、動きを止めた。
「なんだか、変な臭いがしないか? これ」
そう言って霊夢の方を見ると、既に口に含んだ後だった。
「…………」
「大丈夫か? 霊夢」
「……血酒ね。葡萄酒も混ざってる様だけど、多分、人間の血よ、これ」
「うへぇ。外れ引いちゃったな」
魔理沙は御猪口の中身を地面に空け、酒瓶に栓をし直した。
「あら、勿体無い」
「流石に、誰の物かも分からない血が混ざってる酒は飲みたくないぜ」
「そう。でも、人間の血よ? 魔術の材料にでもすればいいじゃない」
「そうは言っても、葡萄酒が混ざってるからなぁ」
少し思案した後に、また口を開く。
「混ざった液体から葡萄だけを取り除けたらいいんだけど」
「無理ね」
「無理だな。後で返してくるよ」
「そう。骨折り損だったわね」
魔理沙から御猪口を受け取り、席を立つ霊夢。
「口直しに何か持ってくるわ。御猪口も洗ってくる」
「ああ、すまないな」
しばらくして、綺麗な御猪口と酒瓶を持って霊夢が戻って来た。
「安いお酒しかなかったけど、いいでしょ」
二人分の酒を注ぎ、再び乾杯する。今度は、二人とも一緒に飲んだ。
「……うん。確かに安酒だな」
「文句言わないでよ? 今日は飲むつもりじゃ無かったんだから。他に残って無かったのよ」
そう言いながら、また直ぐに酒を注ぎ、一口で飲み干す霊夢。
「酔ってしまえば、皆同じよ」
「それもそうだな」
魔理沙もまた、霊夢に酒を注がせ、それをあおる。
それから先は、暫く無言で飲み続けた。時折、空を眺めながら、また時折、御猪口の中の酒を眺めながら。
瓶が半分程空になった頃、そういえば、と霊夢が口を開いた。
「どうした?」
「さっき、あんた言ってたわよね。誰の物かも分からない血は飲みたくないって」
「まあ、言ったな。それがどうかしたか?」
「じゃあ、私の血だったら、飲んでみたいと思う?」
もう酔ってるのか? と軽口をたたこうとしたが、何処か真剣そうなその眼に、言葉が出なかった。
「…………そうだな。霊夢の血だったら、飲んでもいいかもしれないな」
「ふぅん。そう」
興味無さげに返事をしたかと思うと、霊夢は、いつの間にか持っていた小刀で、薬指の先を切った。
「舐めて」
言われるがまま、魔理沙は血の滴る指先を咥える。口の中に鉄の味が広がっていく。
霊夢は魔理沙の眼を見つめ、少し笑った。
「うん。おしまい」
霊夢は指を引き抜き、止血をした。
「さあ、飲むわよ」
そう言って、また霊夢は、酒を注いだ。
「舐めて」がスパイス効いてますね。