妹から果たし状が届いた。
昨日は神社での宴会が盛り上がってしまい、紅魔館へと帰ったのはだいぶ遅かった私。
なんとか朝は起きたものの、1日中遊んでたため酒も抜けず疲れも取れてない。なんならほら、頭も痛い。
そんな完全なる二日酔いの中、食堂にて遅めの朝食をとろうとしてた時である。
サンドウィッチと共に咲夜はそのブツを差し出してきたのだ。
「食事と果たし状です」
「いや、お前……そんな朝刊みたいに」
「妹様からです」
「そうよね。そんな丸文字で書かれた果たし状ってないもんね」
白い封筒に丸っこい文字で『果たし状』と書いてある。
こだわりなのか、まっすぐに線を引かないこの書き方はフランの癖である。
しかし、しかしだ。
なぜ私がこんな物を受け取らなければいけないのだ。
ため息を零しつつ、平然と妹から果たし状を預かったであろう従者に尋ねてみた。
「ねぇ、私……悪いことしたっけ?」
「そうですね。強いて言うなら」
咲夜は 二コリ、と微笑む
「昨日は妹様の誕生日でしたよ」
◇
「咲夜ぁぁぁああ!!菓子折りは持ったぁ!!?あとどうかなこの謝罪文ッ!!伝わるかな?かなぁ!?」
「少なくとも20秒で書いたとは思えないですね。でも妹様の名前が出るたびに(天使)をつけるのは逆効果だと思います」
「真理なのに!?」
昨日がフランの誕生日と聞いてサンドウィッチを置き去りにすぐさま食堂から飛び出した。
即席の謝罪文を書きながらドカドカと廊下を進んでいく。その間も絶えず流れる冷汗は、昨日のアルコールをすべて排出していくようだった。
くそッ!!どうせなら飲んだ歴史も流れていったらいいのになぁ!!!
「あぁぁあマズイまずいマズイッ!!!やだぁぁあ嫌われちゃうう!!なんで昨日教えてくれなかったのよ!?」
「起きてすぐ遊びにいったじゃないですか。仕方ないから昨日はお嬢様抜きでささやかな誕生会しましたよ。というか、そっちこそ誕生日なんてメジャーなイベントどうして忘れてたんですか?」
「違うのよ!ほら、私にとって毎日がフランの誕生日というか!『生まれてきてありがとう!!』という感謝を常に心の中でしてて!その境界が曖昧になっててつまり隙間妖怪の仕業であってね?そうよあいつが昨日の宴会にいなかったのは裏で私を陥れようと」
「ど忘れですね。まぁ一生懸命謝れば指一本は残るかもしれませんよ」
「う~……こうなったら伝家の宝刀である土下座を捧げるしか……!!」
「なにが伝家の宝刀ですか。もうバターナイフぐらい日常的に使ってるじゃないですか。主に妹様に」
「さっきから冷たいわね!?」
記念日を大事にしたい乙女心を無視する方なんて知りません、と瀟洒に早歩きしてついてくる。
こやつ、そういえば少女だった
(あーほんと失敗したわ……てか、よりによって誕生日という合法的にフランとコミュニケーションが取れる日を……)
悔しさで歯はギリギリと、胃はキリキリと痛む中。
昨晩、寂しそうに私の帰りを待っていたであろうフランの姿が脳裏に浮かんできた
――なにやってんだ私……フラン、やっぱ怒ってるかな
尋常じゃないスピードの早歩きをしつつ『果たし状』の中身を確認する。
そこには簡潔に、こう書いてあった。
〝地下室にて待つ。首を洗って推参すべし〟
うん。そりゃ怒ってるよね知ってた知ってた。
「あぁーもうどうしよぉぉお!ねぇ!?『首を洗って』というのは吸血プレイをしようという隠語である確率は低いよね!?」
「この期に及んでどうしたらそんな選択肢を入れられるんですか」
◇
愛する妹の住まう地下室。
地下室といっても内装は他の部屋と変わらないぐらいに広く、豪奢な造りにはなっている。
扉だって決して無機質ではなく、温かみの残ったパイン材の物を使用してる匠のこだわり。
そんな妹の部屋の前に着いたわけだが
「え……このドアってこんな禍々しい気が溢れてたっけ。まるで悪魔の館みたいなんだけど。 やだ怖いやっぱ死ぬのかな」
「いいから入ってください」
「………咲夜、一緒に来てくれる?」
「大丈夫。生きている間は一緒にいますから」
「立場が違うとこうも無情に聞こえるのねそれ!?」
観念し「ええぇい、ままよッ!!!」と、この幻想の地で生きることを諦めて扉を開けた。
「フランさんお邪魔します!!!このたびは…………う?」
開幕120℃ぐらいのお辞儀を決め込もうとしたところ、
館でお馴染みの三人を発見した。
入って右のあたりで 美鈴、パチェ、小悪魔が並んでパイプ椅子に座っている。
あまりこの部屋に出入りしてないであろう三人の姿に疑問が浮かぶが、すぐに気にならなくなった。
向かって真っすぐに見つけたからだ。
『果たし状』の差出人 我が妹――フランドール。
だが、
フランもまた様子がおかしいことに気付いた。
いつもの服の上から何か上着のようなものを着ている。
ピンク色で少し緩さが目立つ仕様。前をジッパーで止められるようになっており、特徴的なのは頭を覆えるような布が後ろについておりそれを被っている。
左右にポケットも付いていてフランはそこに両手を入れていた。
「……ど、どうしたのフラン?その恰好……」
「あれは〝パーカー〟というものよ」
横に座っていたパチェが答える。
「外の世界の衣服らしいわ」
「そうなの?へー……なんか可愛いわね。うん。緩くてフワッとした上着にミニスカートとの対比がたまらなく」
「呑気ねぇ。果たし状は見たでしょ?」
「ハッ!そうなのよ!昨日はあれだったんでしょ??その」
「ええ。だからフランはあの格好なの」
「?」
「ほら、そろそろ始まるから。レミィもこれ着て」
そう言ってフランが着ているものと同じ物(こっちは深い紅色をしている)をパチェが取り出す。
同時になぜかマイクも。
「え、私も着るの!?てかそもそもどうしたのこの服!?あとなんでマイク!?果たし状のこととなんか関係あ」
「ア~……ちぇけちぇけ………お姉様、早く準備してくんない?」
わけがわからずパチェにまくし立てていた私は、正面から聞こえてきた声の方へとギョッと振り向く。
沈黙を破り、いつもより気だるげなフランがこちらに話しかけてきたのだ。夜空の星を詰め込んだように綺麗な瞳は眠そうにこちらを見つめ、蕾のように愛らしい口からはクッチャクッチャと、なぜかガムを噛む音が漏れている。
「いいから着て。それ、決闘着だから」
「あ!はい……って決闘!?」
さっきからいちいち驚いてしまう私のリアクションに、フランはめんどくさそうにチッと舌打ちをして睨み付けてきた
やっぱ今日のフラン怖い!ささやかな第二次性徴も飛び越えてグレてしまったの!?
「あの、フランさん?や、やっぱ怒ってます?昨日はですね……」
「しゃらっぷ。言いたいことがあるならこいつに乗せてきてよ。 Hey!DJ美鈴!」
「DJ美鈴!?」
おーけー、と座っていた美鈴が下を向きつつなにやらゴソゴソとした後、大きな中華鍋を取り出した。
そして鉄製のおハシを持つと
カン カン カッ、 カン カン カッ
と、一定のリズムで中華鍋を叩き始めた。
「美鈴……?」
突然始まった門番の無作法に呆気に取られている中、フランがチリ紙を取り出して口元を手で隠すと「ぺっ」とガムを紙の上に吐き出して丁寧に包んだ。それから小走りに部屋の隅にあるゴミ箱へ捨てにいき、そしてタッタッと何事もなかったように帰ってきた。
あ、よかったグレてない
少しして中華鍋のソロライブが終わった。
「フラン様、ビートはこれでいいですか?」
「うんいいよ。ノッてんじゃん」
Yearー!!!と美鈴がノリノリで返事をする。
「ほらレミィ集中して。そろそろ始まるわ」
「は、始まるって……調理器具をぶっ叩いて遊んでる美鈴への折檻?」
「なにいってんの決闘よ決闘。――さ、いくわよ」
狼狽する私をパチェがたしなめ、場を締めるように大げさに咳払いをした。
するとさっきまで騒いでた美鈴が急に真顔になり姿勢を整え、部屋の音も止んだ。
わからない。この場のテンションの置き場所がわからない。
(一体なんなの……弾幕勝負じゃないわよねこれ。わかんないの私だけ??)
助けを求め、一緒にこのアウェー空間に入った咲夜と目を合わせようとするがヤツも真顔で前を向くのみ。
その瀟洒っぷりに頭を抱えそうになったところ、カッと目を見開いたパチェが「 DJ・美鈴ッ!! Bring The Beat!!」 という
唐突なテンションの掛け声をあげ、再び美鈴が中華鍋をぶっ叩きはじめた。
不可解なリズムに合わせてフランが体を揺らし左手でマイクを構えた。そして、妙な指の曲げ方をした右手をこちらに向ける。
……なにそのキツネの顔みたいなやつ。カワイイ。
(いやいや、萌えてる場合ではないか……なに?なんか始まった……?)
美鈴の中華鍋が一定のリズムを奏でる異空間。
その雑音を耳に入れながらいまだに何が始まるのかわからず疑問を巡らせていると、
握ったマイクに向かってフランが口を開いた
「YO!YO!始めるまもなく言葉の弾幕
ここまさに戦場 避ければ上々 わたしにかかれば即刻退場
コインいっこは冥土の土産にそこまで案内わたしが先導 ただちに旅立ち渡しな船頭
三途のお駄賃なんてどう?」
ちぇけら!!と舌っ足らずなりに高い声を上げた後、言葉を締めるようにマイクを振った。
「……………お、おぉ……?」
思わず声が出る。
一定のリズムに合わせて乗せられたフランの言葉。
聞きなれない言い回しは音の間を詰めるように発せられ、普通に喋ってるというよりは歌ってるかのように聞こえたそれは…
「〝ラップ〟というやつみたいよ」
「あー聞いたことはあるけど……」
「メロディを強く意識するというよりはただテンポ良く歌って小節の始まりや終わりに韻を踏む唱法……まぁ私も受け売りだから詳しくはわからないんだけど」
「…………受け売り?」
少し引っかかりを覚え、疑問を投げた私の言葉を「とにかく」と遮った
「これはラップを使った決闘。ラップバトルなの。互いに言いたい言葉をぶつけ合って、最終的には私たち審査員がどっちのラップが盛り上がったとか上手かったとか、そんなあいまいな基準で勝敗を決めるのよ」
「曖昧て……成り立つの?それ」
「ぼさっとしてないで。今度はレミィの番よ」
「はぁ!?で、でもまだやり方が」
言い終わる前に、パチェが私にマイクをポイっと投げつける。
咄嗟に受け取ってしまい、ええ!?と声が漏れるが目の前のフランがイライラと足踏みを始めたため
小声で親友に抗議する
(いやいや、なに言えばいいの!?)
(強調したい箇所で韻を踏んで、なんでもいいから上手いこと言えばいいのよ)
(即興じゃ無理だってば!)
(平気平気。異変の時にはわりと洒落たこといってたじゃない。ほら、『こんなにも月が紅いから本気でパンの枚数を覚えましょう』とか」
(そんな病んだこと言ってねぇよッ!!)
(でもやるしかないでしょ。大丈夫、あなたは本番に強い子だから)
(……なんなのその信頼)
眠たげなジト目は期待を込めてるのか正直わからないが、そこまで親友に言われたら引くわけにはいかない
なにより、これは愛する妹の望んだ決闘。正直受け入れたくはないが姉としての務めを果たさなくてはいけないだろう
早く応えるためにとりあえずパーカーはまだ置いておくとして、パチェから受け取ったマイクを構える。やっと行動に移した私に、フランが値踏みするかのようにこちらを見つめ腕を組んだ。
その可憐な容姿に似つかわしくない無駄な迫力に緊張するも、とにかくやってみるだけやってやるかと、ジッと来るべき時を待った。
カン、カン、と中華鍋と自分の心臓の音が混ざる
そして
今だっ!!と、自分の決めたタイミングで言葉をぶつけた
「へいYo!私はレミリア・スカーレット ひざまづきなさい 生野菜 白菜
あー今日もいい天気だなぁ 小松菜 野沢菜
今年は行きたいね紅葉狩り パセリ セロリ」
「フラン選手ちょっとタイム」
「……おーけー、MCパチュリー」
横でパチェがちょいちょいと手招きをしているため一旦戻る。
なんだ。せっかくノッきたのだが。
「なによ」
「ダッッサイッッ!!!全然リズムも何もないし言葉に脈絡もない!!てかなにその野菜縛り!?」
「韻っぽいのは踏んでるでしょ!?」
「踏みゃいいってもんじゃないのよ!
「わかんないわよ!!こっちは急ごしらえなんだから!」
今にも掴みかかりそうな不毛な言い合いをしてると、マイクを通してフランが「ふん」と鼻で笑った。
そして
「やれやれ そんなで韻を踏めるの? センス底に落ち見えるインフェルノ
呆れたこんなじゃ勝負にならない 使ってもいいよ運命のイカサマ
こんなありさま 見たくないこのまま とっとと逃げたほうが賢明よお姉様?」
シッシッ、とこちらに向けマイクを振った
またも流暢に繰り出されたフランのラップを聞き、ごくり、と息をのむ。
「ぱ、ぱちぇ……」
さっきとは一転、助けを求めるように親友を見つめる。
しかし彼女は首を横に振った
「やるしかないでしょ。フランが望んだ――決闘なんだから」
◇
「とりあえず最初はしょうがないわね。ハンデってことでここからはサポートしてあげる」
ずっと座っていたパチェがサポーターとして私の横に立ち、空いた席には咲夜が座ることになった。
「頼んだわ……なんかもうルールもわかんないし、酷い言葉を使われるだけでもつらいのに……」
「なにが酷い言葉よ。もう悪口なんてバターナイフぐらい日常的に使われてるでしょ。主にフランから」
「ええいほっとけどいつもこいつも!!どんだけバターナイフ愛用してんだよ!?いいわやってやるわよ見てなさい!!」
「……まぁ見届けてあげるけど」
パチェは呆れたように小さくため息をつくと「じゃあ先攻はレミィ。 DJ美鈴、Bring The Beat」と言って、また中華鍋がリズムを奏で始める。
そうして私は、マイクを構えたフランの正面に立った。
――しかし
「よ、よーし!いくわね!草の根! 覚悟しなさい!八宝菜!」
「由緒正しきブラド・ツェペシュ、おごりホコリ被った血統書
今や価値無し所詮焼き増しならば破って串刺し、上辺は意味無し
始めよう今こそ力の限り 誇りかけた決闘SHOW」
「そ、そそそうね始めましょう!塩コショウ!少々!」
「恨むわ幾ばくにも渡る束縛、反省したって許す気はない
熱い視線で請いし期待し 飾った言葉蹴飛ばす小石みたいに」
「束縛!?そんなつもりはないのよ!? ……あ、ちがくて」
「これだけ言っても自覚なし?そういうところが希薄だし もはや姉たる資格なし
いいから棺桶こもって寝てて これで出せるよね粗大ゴミに
それで目を覚め朝日とともに やっと見納め赤字の重荷」
「ぐっ!えと……その」
口に出さなきゃいけないのに、まるで言葉を探すように目が泳ぐ
――やっぱだめだこの勝負、まったく張り合える気がしない。
ちょっとやってみてわかったことは、普通の会話のように話してしまうと中華鍋のビートに調子を崩され、そして無理にでも韻を踏まなくちゃリズムにも乗れず自然と先の言葉が出てこないということ。
ていうか、これだけ躊躇なく罵倒が出てくることにお姉ちゃん涙出そう!
「レミィ!!ほら、自己紹介とか!自分をアピールするのもラップバトルの手法よ!」
歯を食いしばり悩んでいるとパチェが助け舟を出してくれた……そうよね、やっぱまだ私にはサポートが必要だわ。
悔しいけど素直に従うしかあるまい。
「わかったわ!えーと、私はルーマニアのワラキア生まれ、トランシルヴァニア育ち。好きな食べ物はフランが食べ残した物、
好きな音楽はフランの舌打ち、好きなフランはフランドール・スカーレット、好きな」
「お前の性癖アピールじゃねぇよ!!」
なぜか自分のサポーターに大声で横やりを入れられる。
それに不意を突かれて言葉が途切れてしまい、対面のフランがゴミを見るような目を向けながらマイクを構えた
「満足したかな?動くなジタバタ
杭を武器にし刺しの一突き 拭ってあげるよ恥の上塗り
生まれはワラキア、トランシルヴァニア?
笑い飽きたわあんたに似合うのは紅い屋根大きな in シルバニア」
またもや場の空気が支配される。 あー…と頭を抱えるようなパチェの溜息が聞こえると同時に、
絶えることなく音にハメてくるフランのラップに対し、だんまりを決め込んでいた咲夜と小悪魔が「Yearぁあ!!」と感嘆の声を上げる。
中華鍋を叩く美鈴もムカつくぐらいイキイキとしていた。
味方が減り、湧き上がる地下室。気持ちが焦っていくのが自分でもわかった。
しかしそんなことよりも気になることがある。
(――なんか、空気が重い)
ただ息を吸い込むだけで肺が引っ張られる感覚。
音にノッている軽快さとは裏腹に、フランから発せられる言葉から次第に「重み」が、「色」が、段々と濃くなっている気がするのだ。
周りの様子を見るに、きっと直接対峙している私にしかわからないのだろう。
言いようもない目の前のプレッシャーに圧されていくのを感じる
「なにやってんのレミィ!!はやく言い返さないと」
「………あ。 え、えぇそうね。その……」
呆気に取られ、遅れたリズムを取り返すためマイクを構えようとした。
しかし
今までに見たこともない――それは完全に「敵」に対し向ける吸血鬼の瞳。
フランの紅く冷たい目に射抜かれた刹那、背筋に冷たいものがかすめていき自分の心臓が跳ね上がる。
重い空気と鋭い眼光が私を型取り、呼吸をすることもままならない。
あまりにも突然の威圧だった
口は空いているのに声が出せない私を見て、フランはまた鼻で笑ってゆっくりとマイクをかざした
「所詮、視線で黙るポンコツ 中身空っぽ電池も尽きてる
動けないまま切れてるバッテリー あんたの敗北 見えてるハッキリ
カリスマあるなら言葉をノせな マイク通して『ぎゃおー』ってさ」
吐き捨てるように言い放ち、フランはマイクを振った。
「…………」
言葉を乗せない中華鍋のビートが間を埋めるように響き渡り、そんな中でもパチェの小さく息をのむ音が私の耳にだけ届いた。
力の差は明らかで、知識の権化である親友も策が浮かばないらしい。
今はきっと自分の番なのだろうが言葉を発することができず、リズムだけがむなしく響いていた。
私もまた言葉が見つからないのだ。
ラップが出てこない理由としてリズムに乗りきれていないことも、センスが足りないことも理由としてあるのだろうがそんなのは些細なことで、もっと根本的な部分が自分に足りていないことに気づく。
フランが躊躇なくラップを紡げる理由。さっきの憎悪にも似た威圧。この勝負の本質を、やっと理解した。
それを知った上で私にはどうしようもできないのだ
だって
(あるわけがない………フランへの悪口なんて、あるわけないじゃないっ!!)
歯がゆさに自慢の牙ををかみしめる。
ようはこのラップバトルというのは、きっと相手と罵り合うことで成り立つものであって
決闘と言われた時点でこれは単純な「争い事」なのだと気づくべきだった。
当然、フランに言いたい不満なんて私には一つもないし言い返す理由もない。
むしろ――
そこまで考えて思い出した
今更ながら、この地下室にいる理由を
(そうだ……私は罵倒をしに来たんじゃない。 ここに来たのは)
「今も残ったアルコール 神社で宴会朝までコース?
妹放置し楽しんだ様子 いいわ気にしないでわたし大丈夫 どうせ覚えてないでしょ誕生日
すぐに忘れる普段の甘言、偽善 如何せん あまりにいい加減
覚えてるのはあれでしょ断然 昨日のツマミの賞味期限」
心の声がよぎる前に、再び業を煮やしたフランのラップが私に叩きこまれ、比喩ではない妖気がビリビリと肌を刺す。
次第に濃くなっていく負の波長を感じたのかさっきまで沸いていた小悪魔や咲夜も押し黙り、美鈴も中華鍋を叩くのを止めた。
みんなの顔に浮かび上がる不安の色。困惑した視線の先には蛇に睨まれたカエルのように動けない私。
真正面からフランの怒気を浴びせられて、冷たい汗が背中を伝う中。
今更ながら確信を得た。
――フランはやっぱり、昨日のことを怒っている。
無論わかりきっていたことだ。
シンプルかつ殺意のこもった果たし状を読んだし、謝っても許されないだろうと制裁も覚悟の上でここに来たのだ。
罰を受けるために私は参上した。
故に一つだけ、どんなに考えても拭えない疑問があった。
それは、この〝決闘〟という方式をフランが望んだ理由だ。
そこが曖昧でわからないため、最初からどこか煮え切らないで勝負に挑んでしまっているのが正直なところだ。
だって自分が悪いのは明白で、ならば一思いにただ罵るだの、指の関節を時計回りに折るだのすればいいのに
どうしてこんなまどろっこしいようなことを
私の言葉を、待つようなことを
「レミィ」
音のなくなった地下室に落ち着いた声が響く。
横を向くと、そこにはいつも以上に険しい顔をした親友がいた
「あぁパチェ……ごめん、サポートお願いしたけどやっぱり私には無理だわ……マイク返すわね」
その表情は気になるものの、ちょうどいいわ、と押し付けるようにマイクをパチェの手に握らせる。
私はフランと言い争うなんて事はできない。だからちゃんと普通に謝ろうと決心して目を伏せた時
「フランが――あの子がなんで決闘を選んだかわかる?」
パチェからの突然の質問に戸惑ったが、一瞬考えた後に静かに首を振った。
それを見て親友はスッと目を細める
「普段あれだけシスコンを振りまいてるくせに誕生日という特別な日をあなたは忘れた。フランが怒るのもまぁ無理はないわ。
こんな勝負じゃなく、一方的に制裁を加えてもよかったのよ。でもそれをしなかった。 いや、できなかった」
こちらへ回答の余地を与えるかのように間を置く。
それでも答えられずにいると、少し表情に影が差した
「……フランのことはあなたが一番知っているはずでしょ?普段どれだけ毒を吐いて不遜な態度を取っていても、
毎日あなたからウザいほどの愛情を受けていても。いつだってあの子は不安を感じている。それこそ、誕生日という特別な日に祝われないなんてことがあったら、すべての愛情を疑ってしまうぐらいに」
真実をゴール地点に置き、遠回しに話す親友の癖。
蛇行する言葉とは裏腹に、まっすぐに突き刺さる視線が私をとらえて離さない
パチェは問い詰めるように言葉を紡ぎ続ける。
「祝わなかったことを責めるのは簡単なこと。まぁあなたのことだし、フランの誕生日を祝う気がないなんて館に住んでる者なら誰も思わない。理由があるかただのド忘れかと思うでしょう。 でもあの子は、考えてしまう」
〝本当は、愛されていないんじゃないか〟
〝わたしが生まれてきたことを望んでいないんじゃないか〟
フッ、と苦笑する。
「ありえないでしょ? でもそれが、フランドールという女の子」
「そんな子が、自分の誕生日を祝わなかった姉を一方的に責めると思う?
………できるわけないじゃない。 だってそれは、自分が愛されているって前提の行為になるのだから」
――冷然と告げられる言葉に体が強張る。
「だから――だから、あの子は〝制裁〟ではなく〝決闘〟にした。形だけでも対等に言い合えるように、あなたに反論する隙を与えた。
昨日、誕生日を祝いに紅魔館へ来た『八雲 紫』に、外の世界での決闘方法〝ラップバトル〟を教わってね」
話の中の『八雲 紫』という単語に、彼女のいなかった宴会のことを思い出していた。
唐突に現れたヤツの名前にも驚いたがそれよりもなによりも
(そうか……それで…)
目の前が揺らぎ、まるで部屋を覆い尽くすかのように響いている自分の鼓動を
受け止めるのに必死だった
焦り、騒ぐ胸を汗ばんだ手で強く抑える
――このまま自分の心臓を、握り潰してやりたかった
(……わかっていたはずだった。いや、わかっていなければいけなかったんだ。
この子が不安定になる時は、いつだって私が関わっていたのだから)
でもそんなのは事が起きてから思っても意味がなく、自分の浅はかすぎた行動を改めて後悔するだけ。
パチェの言葉がずっと脳内を駆け巡り、過去の私を、空っぽの私を、苛んでいく
「……どうしよう……私、そんな」
無言で見つめる親友から目を離し、顔を伏せているフランの方へ向き直った。
我慢することが出来ずに震えた声で叫び散らす。
「違うのよフランッ!!!誕生日を祝えなかったのは謝るわ!!でも信じて!?私があなたのこと愛してないわけ」
「レミィ!!」
ガっと肩をつかまれ、そのまま強引にまたパチェの方へと体の向きを戻される。
「今は〝決闘〟の最中よ。これはラップバトル……ラップで伝えなさい」
「なにいってんのよ!?もうそんなの」
「関係ないって? 言ったでしょ。これはフランが望んだ決闘なのよ。またあなたは、あの子の期待に応えないつもり?」
出しかけた言葉が喉に詰まった。
それを見てパチェは「ふー……」と大きく息を吐いて呼吸を整える。
そして優しく諭すように、話しかけた
「とりあえず落ち着きなさい。これも最初に言ったと思うけど『互いに言い合いたいことをぶつけ合う』、それがラップバトル。今のあなた達に一番必要なことだって思わない?」
「……でも」
「大丈夫よレミィ。最初に伝えれば良かったのだけどね、ラップバトル は『言いたいこと』を伝える……それはリスペクトも含まれるわ」
「リスペクト?」
「相手を褒めることも有効ってことよ」
それだったらできるでしょ、と微笑みかける
「あなたは、あなたの言いたいことをラップに乗せればいい。 とにかく今はフランと向き合うことが大事だわ」
「…………パチェ」
前後不覚に陥った気持ちが静まっていく。目を瞑り、私も深呼吸をする。
そうだ。これはフランが望んだことなんだ。
言うなれば私にチャンスをくれていると、甘いも承知で言わせてもらうならそういうことだろう。
再び瞼を開いた時、パチェの真剣な顔が目に入った。
「レミィ。言いたいことがあるんでしょ?伝えたいことが、あるんでしょ? だったら」
先ほどまで震えていた自分の手を取り、さっき押し付けたマイクを握らされる――
「本音があるならマイクをとって」
トン、と握った拳を私の胸に押し付けた
「ラップ、かましてきなさい」
「――――ありがとう。 MCパチュリー」
強い瞳にいたずらっぽく笑うパチェが、らしくないはずなのになぜか様になっていて。
当たってる拳から彼女の勇気が流れこんでくるようだった。
そして、最初に見せてくれた紅いパーカーも渡してくれたのでドレスの上からしっかり着込む。
親友がずっと持ってくれていたパーカーは―――とても暖かった。
「さて、と」
決闘着を身に着けた私は今度こそ真正面のフランと対峙した
相も変わらず、腕を組み不機嫌そうにこちらを睨み付けるフラン。でも、もう怖気づくことはなかった。
マイクをもつ自分の手も震えてなんかいない
「レミィ、サポートは」
「いらないよ。だってこれは私の言葉でしか伝えられないから」
せんきゅ、とパチェにウィンクする。 あれ!?なんか嫌そうな顔された?
むくれてる私をみた親友は、どこか安心したように苦笑して
「じゃあ先攻交代でフランから始めて。最終ラウンドにするわ」
私とフラン。互いにマイクを構え自然と目が合った。
まるで世界を恨むようなフランの冷酷な視線を浴びてなお、熱い衝動が渦巻くように煮えたぎる。
さっきまでの寒気が嘘のように思えるほど言葉を吐き出したくて、リズムに乗りたくてウズウズしているのが自分でもわかる。
伝えたい。フランに、私の想いを。
こちらの準備が完了したのを確認し、パチェも美鈴と目配せして スー…と大きく息を吸う
そして
「DJ美鈴ッッ!! Bring The Beat!!!!!」
今日一番に気合の入った掛け声を響かせ、地下室を振るわす。
しばらくお預けを食らっていた美鈴はここぞとばかりに中華鍋を叩いた。
それに合わせて先攻のフランもまた、こちらを指差しまだまだ言い足りないであろう言葉をラップに乗せ始めた
「サポーター無しの小さなおつむで学習終了
いまだにベビーカー・オムツないとするおねしょ
ていうかーオウムを返すだけでしょ?
何かを学べたようにはとても思えない
もし変われたなら 青天の霹靂
自信だけなら 0点の成績」
私とパチェが話していた時間なんてなかったかのように勢いの落ちないラップ。
フードの中から垣間見える表情は依然変わらず冷たいままで、私たちの会話を聞いてなお揺るがない私怨は
彼女の中でどれだけ大きな想いだったかと実感できた。
ギュッと手に力が入っていく
――わかってる。
それでもフランは一方的に攻めるのではなく私と対等であろうとしてくれている。
それが決闘という形になったのはフランの不器用な性格がそうさせただけ。私の愛情に、自信が持てなかっただけ。
(………だったら)
真正面を見据えて胸を張り、高々にマイクをかざす。
だったら、やることは決まっている。
語り合う場を用意してくれたフランに。私の言葉を待ってくれている最愛の妹に。
何度でも、何度だって――
本音を伝えるだけだ
声を出すため勢いよく息を吸い込む。
そして、肺にこもった熱い空気を言葉へと変え、
一気に吐き出した
「お待たせ登場 ここらで一丁汚名を返上 謝罪しようさっきの腐乱ぶり
もうクランベリー より酸っぱいラップして総スカン背に
でも今度こそさせない知らんぷり
さぁラブコールなラップはオリジナル 一生の忠誠惜しみなく あなたを守る騎士になる」
振り払うように横へマイクを振り「ちぇけらッ!!!」と片方の手でフランを指さした
私のラップを聞き、さっきまで心配そうに見守っていたパチェが小さくガッツポーズをしたのが視界の端に映る。
咲夜と小悪魔もしばらくポカンと口を開けていたがまもなくして驚きの混じった歓声を上げ始めた。
指を差されたフランは一瞬目を見開いたが、しかしすぐに瞳を細めて無表情になる。流石にたった一回のラップで満足はしてはもらえないようで、
これぐらいはやってもらわないと困る、と挑発するかのようにフランは顔の横で指を振った。
それを見てまだまだラップをぶつけ合わないといけないとは思ったが、各々の反応に確かな自信も得られた。
『相手をリスペクトするラップ』
フランを相手にするなら私にとってピッタリだ。
さっきとは違い自然と言葉が浮かんできたし、なにより自分の言葉に自信をもって吐き出せる。最初は困惑したラップだったが、
これだけ舞台が整えば何も難しくはない。
――まぁ、吸血鬼が口先で迷うなんてカッコ悪いもんね
そうしているうちに今度は自分の番だと宣言するみたいに、フランはマイクを構えた。
軽く口角を上げながら私もまた次に備えてマイクに力を籠める
言いたいことの張り合い。言葉の弾幕。
やっと、私とフランのラップバトルが始まった
「ちょっとは成長それがなに?最初はただのおもてなし
一回まぐれで避けただけ、たまたま小さな当たり判定 それをなんなのしたり顔で
ナイト気取りで剣振りかざし作り笑いにも気づかない
無様な姿はさっき見た ほらとっとと首でも掻っ切れば?」
「自害は早いわ 一つだけ訂正 勘違い
持っていたいのは炎の剣じゃない
可愛いあなたの不安覆う
盾持ちたいのさ フランドール」
「あらやだ初耳 物が持てるの今のイノシシ
上がらない前足 いななくだけだし
そもそも盾持ち 片手じゃ意味なし
振るえないよおしゃぶり グングニル
震え泣いてどしゃ降り 運尽きる」
「手に持つ気はない 手荷物いらない
振るわずただ投げる自慢の神槍
四人いたって見抜ける真相
打ち抜くハート あなたの心臓」
「いいよ撃ちなよどうせ動けない
いらないご加護だらけの鳥カゴ 違うかここは いっそゴミ箱
囚われた迷路に出口はないし肝心のあんたはカゴの外
孤独をこじらせ無き心 ほらほらここです泣き所
わたしを守る大儀な名分 結局一番大事な自分」
「カゴメから覗くカゴの外? 違うわそれは過去のこと
迷路も何もないでしょここは あるとするなら恋の迷路
共に迷ってしかるべき 幸せたくさん比較的 壁があるなら行き止まり でも上向きゃ二人で見れる月」
私とフラン、互いに一歩も譲らない言葉のぶつけ合い。
反響する音のすべてが重なっていくようで、しかしさっきまでの重い空気は一切なく、弾む言葉とリズムが羽のように飛び回る。
フランの罵倒ラップでさえも楽しげに聞こえてくるようだった。
そして、私もまた高揚していくのを感じた。
全身が心臓みたいにとめどなく動いているような感覚、鼓動が胸の中だけでなく体すべてがラップやビートに鳴動して
無意識に一定のリズムをとっている。
伝えたい言葉があふれてくる。韻を踏むことによって言葉が強調されていくのも心地が良い。
フランも調子を崩すことなくラップを私にぶつけていたが、
私の方に歓声が上がるたびに小さく舌打ちをした。それでも変わらず恨みを込めたラップを吐き出していく。
「健気な態度の一点張り ヘタレは毎度知ってんだし そんなじゃむしろ沸点増し
怒りのスペルで狙い撃ち 聞き飽きたよあんたのでかい口」
「大げさじゃない本気の言葉 私の大事な妹こそは スターボウより輝く光
二人の幸せ必ず誓い あなたのそばに変わらずいたい」
「ッ……はいはい出ました得意の出まかせ
だいたい基本は咲夜におまかせ
せいぜいできるの無難な言い訳
いつまでたってもカリスマのモノマネ」
早口を駆使したラップにまた「Yearー!!」と咲夜あたりから歓声が上がったが、私は見逃さなかった。
あれだけ流暢だったフランのラップが一瞬詰まったことを。
わずかな追い風を感じた私はフランの目を見つめながら一歩前へ進む
「出まかせなんて思うのなぜか? トリックなしの真実だけさ
過去を刻むも意味はない でも未来見たいも知らないみたい?私は見えるわ彼方まで 広がる綺麗な花畑 隣にいるのはあなただけ」
ここが決め所だと確信し、リズムと一体化したかのように身振り手振りを加えてラップを繰り出す。
言い終わったと同時に歓声が湧き上がり、自身も『手応えあり』と実感する。この調子で続けるだけ、と次のフランの言葉を待った。
しかし数秒たってもラップが聞こえてこない。不思議に思っていると、いつの間にか顔をうつむかせていたフランが体をわずかに震わせていることに気付く
そして、バッと顔を上げ
「………あなただけ?はぁ!?言葉軽いわ穴だらけっ!
そんなで未来を語るなほざけ!
過去の精算済んじゃいない!祝ってくれない何にもくれない!
紫さんからは貰ったパーカー!
いつも褒めるだけ綺麗事ばっか!
こういう時こそ伝えてよ ばかぁぁあッーー!!!
マイクをかざすのさえ忘れたフランが、中華鍋の音を掻き消すような大声で叫んだ。
皆が動揺する中、キッとこちらを睨みつけるフランの瞳は今までにないほど険しく、哀しみに満ちていた。
(フラン……)
――これが、本音だ
きっと私に一番言いたかったこと。
突如、感情を爆発させたフランの様子を見て心配になったのか、こちらを懸念したパチェの視線を感じる。
(……大丈夫よパチェ。私はもう、逃げない)
さっきはこの威圧に怯んでしまった。そんな酷いこと、二度としてはいけない。
勇気を出してぶつけてくれた不安に、自分が怖じ気づいてしまったら誰もこの子を救うことができない
この状況を作り出したのは、フランの期待を裏切ったのは
私なのだから
絶えず訴えかける怒りを目の前で受け止め、また一歩、フランの前へ踏み出した。
そしてマイクで語り掛ける。
「…もし戻れるなら昨日の朝に 愛しい私の妹探し 刻んであげたい希望の証
でも刻んだものは幼い心に消せない傷と痛む頭は重い印 襲う後悔思い知るし
それでも信じて愛してる 覚えてるあなたが生まれた感動 握った指の暖かさ
伝わる愛しさあなたから 大切な思い出だからこそ あなたが私の宝物」
精一杯の威圧をかけたにもかかわらず近づいた私をみて、フランの肩がすこし強張った
考えてみれば最初からこの決闘には制限がなかった。
多分だけど、ラップバトルは戦う回数が決められていて限られた互いのターンの内容から勝敗が決まるんだと思う。
じゃないとこの勝負は永遠に終わらないから。
でも今回の決闘は、それがなかった。
つまり
どちらかが納得するまで……いや、フランが納得するまでこのラップバトルは続けなければいけないのだ。
この子の不安に向き合わないと
決闘は、終わらない
だからこそ
「二度とその手を離しはしない 見逃しはしないメッセージ 私あなたを見つける名刑事
でも今の気分は怪盗気取り 赤い糸たどり解答ピタリとあなた導くナイト一人 連なる頑丈な石の牢から
連れ出すわたし泥臭く 押して壁の岩砕く そして誰もいなくなる」
だからこそ、
この子が用意してくれた勝負に怯むことなく全力で応えることが
私の、フランへの想いを示す―ー
「幸せ誓う硬い決意 さながら強固なダイヤモンド
たいしたもんと言わせる問答、あなたと上がる体感温度 迎える姉妹のハッピーエンド!
定めた運命曲げても回避 B・A・D!
愛する妹すべてが大事!!!これが私の Q・E・D!!!」
――証明になる。
マイクを横に振り、自分のターンにひとまずの終わりを告げる。
中華鍋のビートは変わらず鳴り響いていた。
次はまたフランの番だ。
これからまたどんな言葉が返ってこようがすべて返してみせる、と自信をもって身構える。
愛情が伝わるまで。この子が満足するまでとことん付き合う覚悟だった
しかしそのあと、ラップが聞こえることはなかった。
黙ったままのフランはリズムを刻む美鈴に、スッとかざすように腕を伸ばし、その意味を察した美鈴は中華鍋を叩くハシの手を止める。
それから腕を下げたフランが口を開いた。
「あ゛あぁーもうッ!!わかったよお姉様の勝ちでいいから!!だからやめて!! その…………は、恥ずかしいってば……」
「う~……」とうなりながら被っていたフードを両手で掴み、顔を隠すように引っ張る。
一瞬の静寂。
パチェと目を合わせ、私が頷くとパチェがほっと安心したように息を吐いた
「じゃあフランの勝負辞退によりレミィの勝利。 これで、試合終了ね」
やれやれ、と叩きっぱなしだったハシを置いて体を伸ばす美鈴と、
決着の宣言と共に立ち上がり拍手をする咲夜と小悪魔。
――1通の果たし状から始まった奇妙な決闘。
罵り合い、いがみ合い。そんな決闘とは名ばかりの、姉妹愛の確かめ合い。
それを言葉に変えてリズムに乗せて、互いに言いたいことを言い合う勝負。
〝ラップバトル〟は幕を閉じた
「フラン!」
終わると同時に私はすぐにフランの元へ駆け寄り、正面から優しく抱きしめた。
背中に回した手からパーカ―越しの小さな体を感じる
「ごめんなさい、不安にさせてしまって」
「………」
「どうしてこんな大切な日に気付けなかったのか……姉として失格よね」
「…………」
「私にあなたを愛する資格なんてないかもしれないけど、それでも私は」
「だから、お姉様」
フランは抱きしめていた私に両手を突き出し、体ごと押し返した。
そのままずっと被っていたフードを上げて籠った熱を払うように首を振り、金糸のような髪を左右に揺らす。
そして少し赤くなった顔でこちらを見つめ
「それはもう散々聞いたからわかったよ………安心、しとく」
「フラン、 あ」
いつもみたいにぶっきらぼうなフランの言葉を聞いた途端、私の体が突然によろける
「お、お姉様!?」
「ちょっとレミィ!!」
後ろに倒れそうなところをパチェに受け止められる。
「ごめんごめん。ありがとう」
「いいのよ。ずっと緊張しっぱなしだったものね」
「あ、いや、違うの」
言い終わる前に私のお腹から、グ~……と申し訳なさそうに音が鳴り、囲んでいたパチェとフランがその音を聞いて眉をひそめる。
私はごまかすように乾いた笑い声を上げた。
「その……まだ、朝食たべてなくて」
◇
「ふーん、紫からパーカーをねぇ……」
朝に食べ逃したサンドウィッチをつまみながら、向かいの席でミルクティーを飲んでるフランをまじまじと眺める
あの後にみんなで食堂に移動して、ちょうどいい時間だし全員で一緒に昼食を食べようということになった。
「まったく目ざとい奴だなアイツは。これで恩着せとこうとか考えてるかもな」
「なにもあげてないレミィよりマシじゃない?」
「うッ…!わ、わかってる!礼は後で言っとくよ」
机には私とフラン、パチェと小悪魔が座っており咲夜はキッチンで全員分の昼食を作ってくれていた。
美鈴はというと、中華鍋を叩いた罰として咲夜の手伝いをしている。ていうかあれ公認じゃなかったのか。まぁ手伝い出来て嬉しそうだったけど。
パチェがひょいっと私のサンドウィッチを一つ横取りした
「ま、私も昨日は驚いたけどね。さすが妖怪の賢者というか、仕事のできる女よあれは」
「でもなんか出し抜かれた感じがして……あいつのより良いプレゼントを考えないと」
「面識なんてあんまないだろうし、ほんとに営業の一種かもしれないわ」
「泥棒ネコめ……でもさ、そもそもなんでパーカーをプレゼントしたんだろ?」
気まぐれに浮かんだ疑問。
それに答えたのは、プレゼントをもらったフランだった。
「んー、確か言われたのは『フードを被れば日光を完全に遮断できるし吸血鬼にもってこいの衣服だから』ってことだったかな。
でもこれは外の世界のラッパーって呼ばれる人たちの専用着らしいよ。わかんないけど。で、そのラッパーの人たちが決闘するときに使うラップバトルもその時に教えてもらったの」
「そうだったわね。それで誕生日をすっぽかしたレミィをこらしめようと皆で協力したのよ。途中で気づくかも、と思って地下室に来るまでずっと遠視魔法で見張ってたんだけどねー。あんたの動向」
「その件は本当に申し訳ありませんでした!!で、でも、そのパーカーってさ」
「なに?」
相変わらず私が話しかけると不機嫌そうな顔をするフラン。
しかし私が見てるのはマグカップを包み込むように持つ、パーカーの袖からちょこんとでている指先。
「指とか出ちゃってるし中途半端じゃない。痛いよ?そこって神経集まってるから焼けると」
「ん? あー……そうだね」
「それにほらあなたの場合、生足魅惑のミニスカートだから下はノーガードだし」
「なに認識してんの気持ち悪いなぁ。でも別に長ズボン履けば」
「勘弁してください」
「まぁ厚着になっちゃうからわたしも嫌だけど……いや、なんで土下座してんの。マジでウザい」
「レミィ、本当にバターナイフを笑えないわよ」
羽虫を見るような視線を後頭部に感じたので床からおでこを離した。いけないいけない、つい癖で。
ははは、と笑いながら椅子に座る。
「まぁその、外に出るのは難しいわね」
「あらあらそんなことないですよ。普通に日傘をさして出掛ければいいじゃないですか」
後ろを振り向くと、いつのまにかキッチンから戻った咲夜が立っていた。
「咲夜?もう昼食できたの?」
「えぇ。切って挟むだけですから。ね?美鈴」
咲夜がそう言うと、キッチンの奥から大きなバスケットを持った美鈴が歩いてきた。
私たちの机まで来るとドン、とバスケットを置く。
中身が気になり皆で覗くと
「はい!出来ましたよ!サンドウィッチ盛り合わせ!」
中は大量のサンドウィッチで埋め尽くされていた。
私がその量に驚いていると、咲夜と美鈴がニッコリ笑いかける
「今日はこれを持って、外で食事しましょう」
「ピクニックですよピクニック!」
ほらほら、と咲夜が椅子に座っている私達に立つように促した。
突然のことに動揺しつつも皆が立ち上がる。私も美鈴に無理やり立たされた。
「あ、え、唐突ね??」
「なにいってるんですか!せっかくお嬢様が揃ったんだからフラン様の誕生日会・野外編をやらないでどうします?」
「そうですよお嬢様。みんなで改めて、妹様の誕生日をお祝いしましょうよ」
「美鈴、咲夜…………うん、そうね!よっしゃぁ!!行きましょうフラン!!私にあなたを祝うチャンスをちょうだい!!」
ち、ちょっとお姉様!というフランの声を聞きながら、その小さな手を引いた。
横のパチェは呆れたように、でもどこか楽しそうに眺めていた。小悪魔もワクワクとサンドウィッチをのぞき込んでいる。
私に手をつかまれて慌てるフランを前に、咲夜が優しく問いかけた
「妹様、今度はお嬢様込みで、もう一回お祝いしてもいいですか?」
ここにいる全員が期待を込めてフランを見ている。フランもしばらくはキョロキョロと周りを見ていたが
次第にその視線に耐えられなくなったのか、目線を泳がせながらも答えてくれた。
「べつにお姉様がいるからとかはどうでもいいけど、皆が言うなら……その、はい……お願いします」
Yearー!!と美鈴と小悪魔が声を上げる。「じゃあ行きましょうか」と咲夜が先導し、みんなで廊下へと続く扉へ向かった。
どこへ行こうか、途中で雨降らなきゃいいけど、とワイワイ話し合いながらこれからの外出に想いを馳せていく
(ふふ、なんだか忙しくなったわね)
急に提案されたピクニック。私とフランの仲を取り持ってくれたようで、瀟洒な従者たちに随分気を使わせてしまったみたい。
頭の下がる思いだがそれでも最近は全員そろってどこかへ行くなんてなかったなぁ、と浮き立つ気持ちを隠しきれなかった。
ぞろぞろと食堂から出ていき、最後の小悪魔が出たのを見届けたあと「私も早く出よう」と扉へ手をかけたところで
「――お姉様。ちょっと、こっち」
と、着ているパーカーのすそを後ろから引っ張られる。
何かと思いながら振り向くと、フランがまたも不機嫌そうに腕を組んでいた
「どうしたのフラン。はやく行きましょう?」
「………まだ聞いてない」
「へ?」
私の反応に呆れたようにため息をつくと
「あのさ、もしかして勘違いしてない?プレゼントとかそんなのお姉様に求めてないからね」
「あ、えっと、ゴメンなさい……」
「謝罪もいい。さっきいっぱい聞いたよ。そうじゃなくて」
「も、もしかしてまだ不安?大丈夫よ私はいつもあなたのことを愛して」
「だからちがうよ、しつっこい。そうやっていつも甘い言葉を口にするから軽く思えるし不安になるんだよ。さっきのラップバトルの時はまぁたくさん色んな事を言った方が良いし勢いに押されたとこはあるけど普段は違うでしょ。お姉様ってそういうとこあるよ?表面だけすくったような言葉だけは二酸化酸素の排出量より多いくせに、今回みたいに大事なことはすっぽ抜けてるっていうかさ。もっと肝心な言葉もこっちはまだ聞いてないんだけど?」
一切詰まることなく吐き出される言葉。いつも聞いているはずだったがあらためて凄まじい威力。
もうラップなんか目じゃないぐらいの口の速さとダメージ量だし、本当に相変わらず遠慮がない。
その勢いに私が呆然としていることに、フランが気づいた。
「ちっ……なにボーっとしてんの。ほら、あるでしょ?言うことが。てかここまで言わないとわかんないの?ほんっとお姉様は」
「ゴ、ゴメンね!わかったから待って!言うから!」
まずは流れるような罵倒を阻止する。
これ以上は体とか精神に毒である。ひとまずはこの場を収めるため、彼女の求めていることを自分なりにまとめてみたところ、恐らくフランは〝ある言葉〟を待っているのだろう、という結論に至った。
(誕生日、言葉……え、アレのこと?あー!たしかにまだ言ってない!!
でもあんな一言だけでいいのかな……もっと確かな言葉を言ってあげられるのに)
これが合っているのか間違っているのか。自信がまったく持てないものの、これ以上待たせるわけにはいかない。怖いし。
焦る呼吸を整えつつ瞳はフランを見つめながら。
不安に包まれながらも勇気を出して、伝えた。
「えと、 誕生日おめでとう。フラン」
それはとても単純で、この日にしか使わないような、お決まりの言葉
でも
(あぁこれは――マズイ)
口に出して初めて実感した。
それは、装飾もしない一つの言葉を言うのは大変恥ずかしいってこと。
さっきのラップもそうなんだろうけど、たくさんの褒め言葉を毎日言うことはきっと大丈夫なのに
な、なんでこんな単純な言葉が……?
いやいや、そんなことよりも不安なのはこれで合ってるのかということ。
だってこの程度の定型文をいまさら言ったってしょうがないじゃん!?
あんなにたくさんの愛の言葉を伝えたのにこの反応だったしさ!!
だったらもっと違う素敵な文句を探して言ってあげないときっと満足しない―――
「…………えへへ、ありがと」
フランはそう言って、こそばゆそうにはにかんだ
(―――)
その、あどけない笑顔を見て
くすぐったくなるような声を聴いて
ゴチャゴチャと混濁した思考が一瞬で真っ白になる
「あー安心した」
フランは満足気に鼻歌を歌いながら扉へ向かい、部屋を出る手前で
くるり、とこちらへ振り返った
「決まりきった言葉でもさ、やっぱ欲しいものなの。………そういうの、ちゃんと勉強してよね。お姉様」
いたずらっぽく微笑むと、また嬉しそうにクスクスと笑いながら部屋を出て行った。
食堂には頭の中が空っぽになった私が、一人残された
………
………
反響するビートもラップもない無音の食堂。
久しぶりに感じた静けさに戸惑ったのか、無意識に声が漏れる
「………いやー……やっぱり天使だって」
果てしなくこみあげてくる愛しさにどう受け止めたらいいかわからない。
それがなんだかおかしくて笑ってしまった。
――もちろん自分の勘違いっぷりも含めて。
「あーあ……決まりきった言葉、か」
誕生日の定例句。お決まりのセリフ。
改めて言うことさえ恥ずかしいけども
だけどきっと、そういう言葉ってとても大切で
伝えなくちゃ伝わんなくて
たった一言で幸せになれて
たった一言がないと 不安にもなる
そういうものなんだな、って
「単純なことなのに、大事なことがすっぽ抜けてる。あの子の言う通りだわ」
かなわないわね、と何気なくパーカーのポケットに手を入れると
指先に紙の感触があった。その紙をつかみ、目の前で広げてみる。
それは朝に書いたフランへの謝罪文だった。いつまにか入れていたらしい
つらつらと長ったるい文章が走っていてただひたすらに謝って褒めちぎる内容。
必死だったとはいえ、相手の求めることを知ろうともしていない今朝の私。
「一言で、良かったのにね」
ただ謝りたいだけの謝罪文なんて
そんなものはガムと一緒に捨ててしまえばいい
両手でクシャっと丸めて、部屋の角にあったゴミ箱へ投げ捨てた。
「さぁ行くか」
この後のことを楽しみにしながら、噛みしめるように歩いて食堂の扉を開ける。そして前を見ると、遠くで私を待っている皆がいた。
フランはまた腕を組んでこちらを見つめているがどこか嬉しそうで。
私も、自然と笑みがこぼれていた
また時が巡って
あの言葉を言う時が来るだろう
つまらなくてシンプルな、でも安心できるお決まりの言葉。
私の妹に生まれてきてくれたことを祝う言葉。
今度こそは 誰よりも早く伝えてあげるんだ
「……大好きな貴女へ」
―――誕生日おめでとう、って。
◇
パンッ!!
「おはようフラン!!そして誕生日おめでとう!!!」
「…………なにしてんの?」
さっきまで愛しい妹の寝言が響いていた地下室に、クラッカーの音が響き渡った。
爆音に反応してガバッとベッドから体を起こしたフラン。
カラフルなヒモにまみれた可愛いパジャマ姿と、 寝起きの不機嫌な顔とのギャップがすさまじい。
「いや、もちろん誕生日を祝ってるに決まってるじゃない」
「………誕生日は一昨日だったよね?」
「えぇそうね!でも昨日のことでわかったのよ。特別な言葉の大切さを……」
使い終わったクラッカーを近くのローテーブルに置き、目をつぶって感傷に浸る。
「だから決めたの。あなたに『誕生日おめでとう』を毎日言うようにするって」
「ん?」
「だってフラン、あの時あんなに嬉しそうだったじゃない!おかげで気づいたのよ」
「え、いや」
「別に誕生日だけしか言っちゃいけないわけじゃないでしょ?誕生したことをお祝いする言葉なんだから」
「……お姉様」
「まさかあんな喜んでくれるなんて思わなかったけど、やっぱお祝いの言葉って良いものなのね……だから毎日言ってあげる!」
任せて!と、ばっちしウィンクする。
昨日思いついた一大計画。言われたい言葉だったら毎日でも言われたいに違いないじゃないか。
なにより昨日のフランのリアクションをみたら明らかだし、自分でもなんて良い案だろうと昨夜は興奮で眠れなかった。ちょっとは寝た。
「………あのねお姉様。わたしが言いたかったのは特別な日にだけ言う特別な言葉が欲しいんだよっていう……」
「それだけじゃないわよ!!」
私は見せつけるように指をパチンと鳴らすと咲夜が扉から現れ、さらに館のメイド妖精も大勢引き連れている
そして声を揃えて
「「フラン様、誕生日おめでとうございます」」
若干やつれた顔をしている咲夜とメイド妖精が合唱し、頭を下げる。
恐らく感動してるがゆえに口が半開きになっているフランに説明する
「今度からメイドたちの挨拶はこれにしたから!ふふ、すごいわね咲夜!昨日の今日でこの統率感」
「えぇ、まぁ、3分で敬語を忘れる妖精1人1人に休まず教え続ければ出来ないこともないですよはい」
どこかカラ笑いを浮かべながら咲夜が返事をする。その様子が少し気になるものの、大きく腕を広げて高々に声を張り上げた
「さぁフラン!!これでいつでも誕生日をお祝いできるわよ!フランの乙女心しっかりキャッチしてみせたでしょう?」
1を求められたら100で返す、まさにカリスマを体現したような完璧すぎるアイデア。
そこまで言ったところで昨日の天使のリアクションを期待したが、
当のフランはおでこを抑えて「あぁー……」と短くうなっただけで、後ろの咲夜に向かってチョイチョイと手招きをし始める
「……ゴメン咲夜、ちょっとそこのマイク取って」
「あら? フフフ、言いたいことがあるのね? よーし咲夜!私にもマイクを取ってちょうだい!
言葉の弾幕、ラップで本音をぶつけ合いましょう!!じゃあ私からいくわ!!あ、あー、フランの誕生に感謝!カボチャ!モロヘイ ヤ゛ッ!!」
勢いよく飛んできたマイクが、私の頭でビートを刻んだ。
昨日は神社での宴会が盛り上がってしまい、紅魔館へと帰ったのはだいぶ遅かった私。
なんとか朝は起きたものの、1日中遊んでたため酒も抜けず疲れも取れてない。なんならほら、頭も痛い。
そんな完全なる二日酔いの中、食堂にて遅めの朝食をとろうとしてた時である。
サンドウィッチと共に咲夜はそのブツを差し出してきたのだ。
「食事と果たし状です」
「いや、お前……そんな朝刊みたいに」
「妹様からです」
「そうよね。そんな丸文字で書かれた果たし状ってないもんね」
白い封筒に丸っこい文字で『果たし状』と書いてある。
こだわりなのか、まっすぐに線を引かないこの書き方はフランの癖である。
しかし、しかしだ。
なぜ私がこんな物を受け取らなければいけないのだ。
ため息を零しつつ、平然と妹から果たし状を預かったであろう従者に尋ねてみた。
「ねぇ、私……悪いことしたっけ?」
「そうですね。強いて言うなら」
咲夜は 二コリ、と微笑む
「昨日は妹様の誕生日でしたよ」
◇
「咲夜ぁぁぁああ!!菓子折りは持ったぁ!!?あとどうかなこの謝罪文ッ!!伝わるかな?かなぁ!?」
「少なくとも20秒で書いたとは思えないですね。でも妹様の名前が出るたびに(天使)をつけるのは逆効果だと思います」
「真理なのに!?」
昨日がフランの誕生日と聞いてサンドウィッチを置き去りにすぐさま食堂から飛び出した。
即席の謝罪文を書きながらドカドカと廊下を進んでいく。その間も絶えず流れる冷汗は、昨日のアルコールをすべて排出していくようだった。
くそッ!!どうせなら飲んだ歴史も流れていったらいいのになぁ!!!
「あぁぁあマズイまずいマズイッ!!!やだぁぁあ嫌われちゃうう!!なんで昨日教えてくれなかったのよ!?」
「起きてすぐ遊びにいったじゃないですか。仕方ないから昨日はお嬢様抜きでささやかな誕生会しましたよ。というか、そっちこそ誕生日なんてメジャーなイベントどうして忘れてたんですか?」
「違うのよ!ほら、私にとって毎日がフランの誕生日というか!『生まれてきてありがとう!!』という感謝を常に心の中でしてて!その境界が曖昧になっててつまり隙間妖怪の仕業であってね?そうよあいつが昨日の宴会にいなかったのは裏で私を陥れようと」
「ど忘れですね。まぁ一生懸命謝れば指一本は残るかもしれませんよ」
「う~……こうなったら伝家の宝刀である土下座を捧げるしか……!!」
「なにが伝家の宝刀ですか。もうバターナイフぐらい日常的に使ってるじゃないですか。主に妹様に」
「さっきから冷たいわね!?」
記念日を大事にしたい乙女心を無視する方なんて知りません、と瀟洒に早歩きしてついてくる。
こやつ、そういえば少女だった
(あーほんと失敗したわ……てか、よりによって誕生日という合法的にフランとコミュニケーションが取れる日を……)
悔しさで歯はギリギリと、胃はキリキリと痛む中。
昨晩、寂しそうに私の帰りを待っていたであろうフランの姿が脳裏に浮かんできた
――なにやってんだ私……フラン、やっぱ怒ってるかな
尋常じゃないスピードの早歩きをしつつ『果たし状』の中身を確認する。
そこには簡潔に、こう書いてあった。
〝地下室にて待つ。首を洗って推参すべし〟
うん。そりゃ怒ってるよね知ってた知ってた。
「あぁーもうどうしよぉぉお!ねぇ!?『首を洗って』というのは吸血プレイをしようという隠語である確率は低いよね!?」
「この期に及んでどうしたらそんな選択肢を入れられるんですか」
◇
愛する妹の住まう地下室。
地下室といっても内装は他の部屋と変わらないぐらいに広く、豪奢な造りにはなっている。
扉だって決して無機質ではなく、温かみの残ったパイン材の物を使用してる匠のこだわり。
そんな妹の部屋の前に着いたわけだが
「え……このドアってこんな禍々しい気が溢れてたっけ。まるで悪魔の館みたいなんだけど。 やだ怖いやっぱ死ぬのかな」
「いいから入ってください」
「………咲夜、一緒に来てくれる?」
「大丈夫。生きている間は一緒にいますから」
「立場が違うとこうも無情に聞こえるのねそれ!?」
観念し「ええぇい、ままよッ!!!」と、この幻想の地で生きることを諦めて扉を開けた。
「フランさんお邪魔します!!!このたびは…………う?」
開幕120℃ぐらいのお辞儀を決め込もうとしたところ、
館でお馴染みの三人を発見した。
入って右のあたりで 美鈴、パチェ、小悪魔が並んでパイプ椅子に座っている。
あまりこの部屋に出入りしてないであろう三人の姿に疑問が浮かぶが、すぐに気にならなくなった。
向かって真っすぐに見つけたからだ。
『果たし状』の差出人 我が妹――フランドール。
だが、
フランもまた様子がおかしいことに気付いた。
いつもの服の上から何か上着のようなものを着ている。
ピンク色で少し緩さが目立つ仕様。前をジッパーで止められるようになっており、特徴的なのは頭を覆えるような布が後ろについておりそれを被っている。
左右にポケットも付いていてフランはそこに両手を入れていた。
「……ど、どうしたのフラン?その恰好……」
「あれは〝パーカー〟というものよ」
横に座っていたパチェが答える。
「外の世界の衣服らしいわ」
「そうなの?へー……なんか可愛いわね。うん。緩くてフワッとした上着にミニスカートとの対比がたまらなく」
「呑気ねぇ。果たし状は見たでしょ?」
「ハッ!そうなのよ!昨日はあれだったんでしょ??その」
「ええ。だからフランはあの格好なの」
「?」
「ほら、そろそろ始まるから。レミィもこれ着て」
そう言ってフランが着ているものと同じ物(こっちは深い紅色をしている)をパチェが取り出す。
同時になぜかマイクも。
「え、私も着るの!?てかそもそもどうしたのこの服!?あとなんでマイク!?果たし状のこととなんか関係あ」
「ア~……ちぇけちぇけ………お姉様、早く準備してくんない?」
わけがわからずパチェにまくし立てていた私は、正面から聞こえてきた声の方へとギョッと振り向く。
沈黙を破り、いつもより気だるげなフランがこちらに話しかけてきたのだ。夜空の星を詰め込んだように綺麗な瞳は眠そうにこちらを見つめ、蕾のように愛らしい口からはクッチャクッチャと、なぜかガムを噛む音が漏れている。
「いいから着て。それ、決闘着だから」
「あ!はい……って決闘!?」
さっきからいちいち驚いてしまう私のリアクションに、フランはめんどくさそうにチッと舌打ちをして睨み付けてきた
やっぱ今日のフラン怖い!ささやかな第二次性徴も飛び越えてグレてしまったの!?
「あの、フランさん?や、やっぱ怒ってます?昨日はですね……」
「しゃらっぷ。言いたいことがあるならこいつに乗せてきてよ。 Hey!DJ美鈴!」
「DJ美鈴!?」
おーけー、と座っていた美鈴が下を向きつつなにやらゴソゴソとした後、大きな中華鍋を取り出した。
そして鉄製のおハシを持つと
カン カン カッ、 カン カン カッ
と、一定のリズムで中華鍋を叩き始めた。
「美鈴……?」
突然始まった門番の無作法に呆気に取られている中、フランがチリ紙を取り出して口元を手で隠すと「ぺっ」とガムを紙の上に吐き出して丁寧に包んだ。それから小走りに部屋の隅にあるゴミ箱へ捨てにいき、そしてタッタッと何事もなかったように帰ってきた。
あ、よかったグレてない
少しして中華鍋のソロライブが終わった。
「フラン様、ビートはこれでいいですか?」
「うんいいよ。ノッてんじゃん」
Yearー!!!と美鈴がノリノリで返事をする。
「ほらレミィ集中して。そろそろ始まるわ」
「は、始まるって……調理器具をぶっ叩いて遊んでる美鈴への折檻?」
「なにいってんの決闘よ決闘。――さ、いくわよ」
狼狽する私をパチェがたしなめ、場を締めるように大げさに咳払いをした。
するとさっきまで騒いでた美鈴が急に真顔になり姿勢を整え、部屋の音も止んだ。
わからない。この場のテンションの置き場所がわからない。
(一体なんなの……弾幕勝負じゃないわよねこれ。わかんないの私だけ??)
助けを求め、一緒にこのアウェー空間に入った咲夜と目を合わせようとするがヤツも真顔で前を向くのみ。
その瀟洒っぷりに頭を抱えそうになったところ、カッと目を見開いたパチェが「 DJ・美鈴ッ!! Bring The Beat!!」 という
唐突なテンションの掛け声をあげ、再び美鈴が中華鍋をぶっ叩きはじめた。
不可解なリズムに合わせてフランが体を揺らし左手でマイクを構えた。そして、妙な指の曲げ方をした右手をこちらに向ける。
……なにそのキツネの顔みたいなやつ。カワイイ。
(いやいや、萌えてる場合ではないか……なに?なんか始まった……?)
美鈴の中華鍋が一定のリズムを奏でる異空間。
その雑音を耳に入れながらいまだに何が始まるのかわからず疑問を巡らせていると、
握ったマイクに向かってフランが口を開いた
「YO!YO!始めるまもなく言葉の弾幕
ここまさに戦場 避ければ上々 わたしにかかれば即刻退場
コインいっこは冥土の土産にそこまで案内わたしが先導 ただちに旅立ち渡しな船頭
三途のお駄賃なんてどう?」
ちぇけら!!と舌っ足らずなりに高い声を上げた後、言葉を締めるようにマイクを振った。
「……………お、おぉ……?」
思わず声が出る。
一定のリズムに合わせて乗せられたフランの言葉。
聞きなれない言い回しは音の間を詰めるように発せられ、普通に喋ってるというよりは歌ってるかのように聞こえたそれは…
「〝ラップ〟というやつみたいよ」
「あー聞いたことはあるけど……」
「メロディを強く意識するというよりはただテンポ良く歌って小節の始まりや終わりに韻を踏む唱法……まぁ私も受け売りだから詳しくはわからないんだけど」
「…………受け売り?」
少し引っかかりを覚え、疑問を投げた私の言葉を「とにかく」と遮った
「これはラップを使った決闘。ラップバトルなの。互いに言いたい言葉をぶつけ合って、最終的には私たち審査員がどっちのラップが盛り上がったとか上手かったとか、そんなあいまいな基準で勝敗を決めるのよ」
「曖昧て……成り立つの?それ」
「ぼさっとしてないで。今度はレミィの番よ」
「はぁ!?で、でもまだやり方が」
言い終わる前に、パチェが私にマイクをポイっと投げつける。
咄嗟に受け取ってしまい、ええ!?と声が漏れるが目の前のフランがイライラと足踏みを始めたため
小声で親友に抗議する
(いやいや、なに言えばいいの!?)
(強調したい箇所で韻を踏んで、なんでもいいから上手いこと言えばいいのよ)
(即興じゃ無理だってば!)
(平気平気。異変の時にはわりと洒落たこといってたじゃない。ほら、『こんなにも月が紅いから本気でパンの枚数を覚えましょう』とか」
(そんな病んだこと言ってねぇよッ!!)
(でもやるしかないでしょ。大丈夫、あなたは本番に強い子だから)
(……なんなのその信頼)
眠たげなジト目は期待を込めてるのか正直わからないが、そこまで親友に言われたら引くわけにはいかない
なにより、これは愛する妹の望んだ決闘。正直受け入れたくはないが姉としての務めを果たさなくてはいけないだろう
早く応えるためにとりあえずパーカーはまだ置いておくとして、パチェから受け取ったマイクを構える。やっと行動に移した私に、フランが値踏みするかのようにこちらを見つめ腕を組んだ。
その可憐な容姿に似つかわしくない無駄な迫力に緊張するも、とにかくやってみるだけやってやるかと、ジッと来るべき時を待った。
カン、カン、と中華鍋と自分の心臓の音が混ざる
そして
今だっ!!と、自分の決めたタイミングで言葉をぶつけた
「へいYo!私はレミリア・スカーレット ひざまづきなさい 生野菜 白菜
あー今日もいい天気だなぁ 小松菜 野沢菜
今年は行きたいね紅葉狩り パセリ セロリ」
「フラン選手ちょっとタイム」
「……おーけー、MCパチュリー」
横でパチェがちょいちょいと手招きをしているため一旦戻る。
なんだ。せっかくノッきたのだが。
「なによ」
「ダッッサイッッ!!!全然リズムも何もないし言葉に脈絡もない!!てかなにその野菜縛り!?」
「韻っぽいのは踏んでるでしょ!?」
「踏みゃいいってもんじゃないのよ!
「わかんないわよ!!こっちは急ごしらえなんだから!」
今にも掴みかかりそうな不毛な言い合いをしてると、マイクを通してフランが「ふん」と鼻で笑った。
そして
「やれやれ そんなで韻を踏めるの? センス底に落ち見えるインフェルノ
呆れたこんなじゃ勝負にならない 使ってもいいよ運命のイカサマ
こんなありさま 見たくないこのまま とっとと逃げたほうが賢明よお姉様?」
シッシッ、とこちらに向けマイクを振った
またも流暢に繰り出されたフランのラップを聞き、ごくり、と息をのむ。
「ぱ、ぱちぇ……」
さっきとは一転、助けを求めるように親友を見つめる。
しかし彼女は首を横に振った
「やるしかないでしょ。フランが望んだ――決闘なんだから」
◇
「とりあえず最初はしょうがないわね。ハンデってことでここからはサポートしてあげる」
ずっと座っていたパチェがサポーターとして私の横に立ち、空いた席には咲夜が座ることになった。
「頼んだわ……なんかもうルールもわかんないし、酷い言葉を使われるだけでもつらいのに……」
「なにが酷い言葉よ。もう悪口なんてバターナイフぐらい日常的に使われてるでしょ。主にフランから」
「ええいほっとけどいつもこいつも!!どんだけバターナイフ愛用してんだよ!?いいわやってやるわよ見てなさい!!」
「……まぁ見届けてあげるけど」
パチェは呆れたように小さくため息をつくと「じゃあ先攻はレミィ。 DJ美鈴、Bring The Beat」と言って、また中華鍋がリズムを奏で始める。
そうして私は、マイクを構えたフランの正面に立った。
――しかし
「よ、よーし!いくわね!草の根! 覚悟しなさい!八宝菜!」
「由緒正しきブラド・ツェペシュ、おごりホコリ被った血統書
今や価値無し所詮焼き増しならば破って串刺し、上辺は意味無し
始めよう今こそ力の限り 誇りかけた決闘SHOW」
「そ、そそそうね始めましょう!塩コショウ!少々!」
「恨むわ幾ばくにも渡る束縛、反省したって許す気はない
熱い視線で請いし期待し 飾った言葉蹴飛ばす小石みたいに」
「束縛!?そんなつもりはないのよ!? ……あ、ちがくて」
「これだけ言っても自覚なし?そういうところが希薄だし もはや姉たる資格なし
いいから棺桶こもって寝てて これで出せるよね粗大ゴミに
それで目を覚め朝日とともに やっと見納め赤字の重荷」
「ぐっ!えと……その」
口に出さなきゃいけないのに、まるで言葉を探すように目が泳ぐ
――やっぱだめだこの勝負、まったく張り合える気がしない。
ちょっとやってみてわかったことは、普通の会話のように話してしまうと中華鍋のビートに調子を崩され、そして無理にでも韻を踏まなくちゃリズムにも乗れず自然と先の言葉が出てこないということ。
ていうか、これだけ躊躇なく罵倒が出てくることにお姉ちゃん涙出そう!
「レミィ!!ほら、自己紹介とか!自分をアピールするのもラップバトルの手法よ!」
歯を食いしばり悩んでいるとパチェが助け舟を出してくれた……そうよね、やっぱまだ私にはサポートが必要だわ。
悔しいけど素直に従うしかあるまい。
「わかったわ!えーと、私はルーマニアのワラキア生まれ、トランシルヴァニア育ち。好きな食べ物はフランが食べ残した物、
好きな音楽はフランの舌打ち、好きなフランはフランドール・スカーレット、好きな」
「お前の性癖アピールじゃねぇよ!!」
なぜか自分のサポーターに大声で横やりを入れられる。
それに不意を突かれて言葉が途切れてしまい、対面のフランがゴミを見るような目を向けながらマイクを構えた
「満足したかな?動くなジタバタ
杭を武器にし刺しの一突き 拭ってあげるよ恥の上塗り
生まれはワラキア、トランシルヴァニア?
笑い飽きたわあんたに似合うのは紅い屋根大きな in シルバニア」
またもや場の空気が支配される。 あー…と頭を抱えるようなパチェの溜息が聞こえると同時に、
絶えることなく音にハメてくるフランのラップに対し、だんまりを決め込んでいた咲夜と小悪魔が「Yearぁあ!!」と感嘆の声を上げる。
中華鍋を叩く美鈴もムカつくぐらいイキイキとしていた。
味方が減り、湧き上がる地下室。気持ちが焦っていくのが自分でもわかった。
しかしそんなことよりも気になることがある。
(――なんか、空気が重い)
ただ息を吸い込むだけで肺が引っ張られる感覚。
音にノッている軽快さとは裏腹に、フランから発せられる言葉から次第に「重み」が、「色」が、段々と濃くなっている気がするのだ。
周りの様子を見るに、きっと直接対峙している私にしかわからないのだろう。
言いようもない目の前のプレッシャーに圧されていくのを感じる
「なにやってんのレミィ!!はやく言い返さないと」
「………あ。 え、えぇそうね。その……」
呆気に取られ、遅れたリズムを取り返すためマイクを構えようとした。
しかし
今までに見たこともない――それは完全に「敵」に対し向ける吸血鬼の瞳。
フランの紅く冷たい目に射抜かれた刹那、背筋に冷たいものがかすめていき自分の心臓が跳ね上がる。
重い空気と鋭い眼光が私を型取り、呼吸をすることもままならない。
あまりにも突然の威圧だった
口は空いているのに声が出せない私を見て、フランはまた鼻で笑ってゆっくりとマイクをかざした
「所詮、視線で黙るポンコツ 中身空っぽ電池も尽きてる
動けないまま切れてるバッテリー あんたの敗北 見えてるハッキリ
カリスマあるなら言葉をノせな マイク通して『ぎゃおー』ってさ」
吐き捨てるように言い放ち、フランはマイクを振った。
「…………」
言葉を乗せない中華鍋のビートが間を埋めるように響き渡り、そんな中でもパチェの小さく息をのむ音が私の耳にだけ届いた。
力の差は明らかで、知識の権化である親友も策が浮かばないらしい。
今はきっと自分の番なのだろうが言葉を発することができず、リズムだけがむなしく響いていた。
私もまた言葉が見つからないのだ。
ラップが出てこない理由としてリズムに乗りきれていないことも、センスが足りないことも理由としてあるのだろうがそんなのは些細なことで、もっと根本的な部分が自分に足りていないことに気づく。
フランが躊躇なくラップを紡げる理由。さっきの憎悪にも似た威圧。この勝負の本質を、やっと理解した。
それを知った上で私にはどうしようもできないのだ
だって
(あるわけがない………フランへの悪口なんて、あるわけないじゃないっ!!)
歯がゆさに自慢の牙ををかみしめる。
ようはこのラップバトルというのは、きっと相手と罵り合うことで成り立つものであって
決闘と言われた時点でこれは単純な「争い事」なのだと気づくべきだった。
当然、フランに言いたい不満なんて私には一つもないし言い返す理由もない。
むしろ――
そこまで考えて思い出した
今更ながら、この地下室にいる理由を
(そうだ……私は罵倒をしに来たんじゃない。 ここに来たのは)
「今も残ったアルコール 神社で宴会朝までコース?
妹放置し楽しんだ様子 いいわ気にしないでわたし大丈夫 どうせ覚えてないでしょ誕生日
すぐに忘れる普段の甘言、偽善 如何せん あまりにいい加減
覚えてるのはあれでしょ断然 昨日のツマミの賞味期限」
心の声がよぎる前に、再び業を煮やしたフランのラップが私に叩きこまれ、比喩ではない妖気がビリビリと肌を刺す。
次第に濃くなっていく負の波長を感じたのかさっきまで沸いていた小悪魔や咲夜も押し黙り、美鈴も中華鍋を叩くのを止めた。
みんなの顔に浮かび上がる不安の色。困惑した視線の先には蛇に睨まれたカエルのように動けない私。
真正面からフランの怒気を浴びせられて、冷たい汗が背中を伝う中。
今更ながら確信を得た。
――フランはやっぱり、昨日のことを怒っている。
無論わかりきっていたことだ。
シンプルかつ殺意のこもった果たし状を読んだし、謝っても許されないだろうと制裁も覚悟の上でここに来たのだ。
罰を受けるために私は参上した。
故に一つだけ、どんなに考えても拭えない疑問があった。
それは、この〝決闘〟という方式をフランが望んだ理由だ。
そこが曖昧でわからないため、最初からどこか煮え切らないで勝負に挑んでしまっているのが正直なところだ。
だって自分が悪いのは明白で、ならば一思いにただ罵るだの、指の関節を時計回りに折るだのすればいいのに
どうしてこんなまどろっこしいようなことを
私の言葉を、待つようなことを
「レミィ」
音のなくなった地下室に落ち着いた声が響く。
横を向くと、そこにはいつも以上に険しい顔をした親友がいた
「あぁパチェ……ごめん、サポートお願いしたけどやっぱり私には無理だわ……マイク返すわね」
その表情は気になるものの、ちょうどいいわ、と押し付けるようにマイクをパチェの手に握らせる。
私はフランと言い争うなんて事はできない。だからちゃんと普通に謝ろうと決心して目を伏せた時
「フランが――あの子がなんで決闘を選んだかわかる?」
パチェからの突然の質問に戸惑ったが、一瞬考えた後に静かに首を振った。
それを見て親友はスッと目を細める
「普段あれだけシスコンを振りまいてるくせに誕生日という特別な日をあなたは忘れた。フランが怒るのもまぁ無理はないわ。
こんな勝負じゃなく、一方的に制裁を加えてもよかったのよ。でもそれをしなかった。 いや、できなかった」
こちらへ回答の余地を与えるかのように間を置く。
それでも答えられずにいると、少し表情に影が差した
「……フランのことはあなたが一番知っているはずでしょ?普段どれだけ毒を吐いて不遜な態度を取っていても、
毎日あなたからウザいほどの愛情を受けていても。いつだってあの子は不安を感じている。それこそ、誕生日という特別な日に祝われないなんてことがあったら、すべての愛情を疑ってしまうぐらいに」
真実をゴール地点に置き、遠回しに話す親友の癖。
蛇行する言葉とは裏腹に、まっすぐに突き刺さる視線が私をとらえて離さない
パチェは問い詰めるように言葉を紡ぎ続ける。
「祝わなかったことを責めるのは簡単なこと。まぁあなたのことだし、フランの誕生日を祝う気がないなんて館に住んでる者なら誰も思わない。理由があるかただのド忘れかと思うでしょう。 でもあの子は、考えてしまう」
〝本当は、愛されていないんじゃないか〟
〝わたしが生まれてきたことを望んでいないんじゃないか〟
フッ、と苦笑する。
「ありえないでしょ? でもそれが、フランドールという女の子」
「そんな子が、自分の誕生日を祝わなかった姉を一方的に責めると思う?
………できるわけないじゃない。 だってそれは、自分が愛されているって前提の行為になるのだから」
――冷然と告げられる言葉に体が強張る。
「だから――だから、あの子は〝制裁〟ではなく〝決闘〟にした。形だけでも対等に言い合えるように、あなたに反論する隙を与えた。
昨日、誕生日を祝いに紅魔館へ来た『八雲 紫』に、外の世界での決闘方法〝ラップバトル〟を教わってね」
話の中の『八雲 紫』という単語に、彼女のいなかった宴会のことを思い出していた。
唐突に現れたヤツの名前にも驚いたがそれよりもなによりも
(そうか……それで…)
目の前が揺らぎ、まるで部屋を覆い尽くすかのように響いている自分の鼓動を
受け止めるのに必死だった
焦り、騒ぐ胸を汗ばんだ手で強く抑える
――このまま自分の心臓を、握り潰してやりたかった
(……わかっていたはずだった。いや、わかっていなければいけなかったんだ。
この子が不安定になる時は、いつだって私が関わっていたのだから)
でもそんなのは事が起きてから思っても意味がなく、自分の浅はかすぎた行動を改めて後悔するだけ。
パチェの言葉がずっと脳内を駆け巡り、過去の私を、空っぽの私を、苛んでいく
「……どうしよう……私、そんな」
無言で見つめる親友から目を離し、顔を伏せているフランの方へ向き直った。
我慢することが出来ずに震えた声で叫び散らす。
「違うのよフランッ!!!誕生日を祝えなかったのは謝るわ!!でも信じて!?私があなたのこと愛してないわけ」
「レミィ!!」
ガっと肩をつかまれ、そのまま強引にまたパチェの方へと体の向きを戻される。
「今は〝決闘〟の最中よ。これはラップバトル……ラップで伝えなさい」
「なにいってんのよ!?もうそんなの」
「関係ないって? 言ったでしょ。これはフランが望んだ決闘なのよ。またあなたは、あの子の期待に応えないつもり?」
出しかけた言葉が喉に詰まった。
それを見てパチェは「ふー……」と大きく息を吐いて呼吸を整える。
そして優しく諭すように、話しかけた
「とりあえず落ち着きなさい。これも最初に言ったと思うけど『互いに言い合いたいことをぶつけ合う』、それがラップバトル。今のあなた達に一番必要なことだって思わない?」
「……でも」
「大丈夫よレミィ。最初に伝えれば良かったのだけどね、ラップバトル は『言いたいこと』を伝える……それはリスペクトも含まれるわ」
「リスペクト?」
「相手を褒めることも有効ってことよ」
それだったらできるでしょ、と微笑みかける
「あなたは、あなたの言いたいことをラップに乗せればいい。 とにかく今はフランと向き合うことが大事だわ」
「…………パチェ」
前後不覚に陥った気持ちが静まっていく。目を瞑り、私も深呼吸をする。
そうだ。これはフランが望んだことなんだ。
言うなれば私にチャンスをくれていると、甘いも承知で言わせてもらうならそういうことだろう。
再び瞼を開いた時、パチェの真剣な顔が目に入った。
「レミィ。言いたいことがあるんでしょ?伝えたいことが、あるんでしょ? だったら」
先ほどまで震えていた自分の手を取り、さっき押し付けたマイクを握らされる――
「本音があるならマイクをとって」
トン、と握った拳を私の胸に押し付けた
「ラップ、かましてきなさい」
「――――ありがとう。 MCパチュリー」
強い瞳にいたずらっぽく笑うパチェが、らしくないはずなのになぜか様になっていて。
当たってる拳から彼女の勇気が流れこんでくるようだった。
そして、最初に見せてくれた紅いパーカーも渡してくれたのでドレスの上からしっかり着込む。
親友がずっと持ってくれていたパーカーは―――とても暖かった。
「さて、と」
決闘着を身に着けた私は今度こそ真正面のフランと対峙した
相も変わらず、腕を組み不機嫌そうにこちらを睨み付けるフラン。でも、もう怖気づくことはなかった。
マイクをもつ自分の手も震えてなんかいない
「レミィ、サポートは」
「いらないよ。だってこれは私の言葉でしか伝えられないから」
せんきゅ、とパチェにウィンクする。 あれ!?なんか嫌そうな顔された?
むくれてる私をみた親友は、どこか安心したように苦笑して
「じゃあ先攻交代でフランから始めて。最終ラウンドにするわ」
私とフラン。互いにマイクを構え自然と目が合った。
まるで世界を恨むようなフランの冷酷な視線を浴びてなお、熱い衝動が渦巻くように煮えたぎる。
さっきまでの寒気が嘘のように思えるほど言葉を吐き出したくて、リズムに乗りたくてウズウズしているのが自分でもわかる。
伝えたい。フランに、私の想いを。
こちらの準備が完了したのを確認し、パチェも美鈴と目配せして スー…と大きく息を吸う
そして
「DJ美鈴ッッ!! Bring The Beat!!!!!」
今日一番に気合の入った掛け声を響かせ、地下室を振るわす。
しばらくお預けを食らっていた美鈴はここぞとばかりに中華鍋を叩いた。
それに合わせて先攻のフランもまた、こちらを指差しまだまだ言い足りないであろう言葉をラップに乗せ始めた
「サポーター無しの小さなおつむで学習終了
いまだにベビーカー・オムツないとするおねしょ
ていうかーオウムを返すだけでしょ?
何かを学べたようにはとても思えない
もし変われたなら 青天の霹靂
自信だけなら 0点の成績」
私とパチェが話していた時間なんてなかったかのように勢いの落ちないラップ。
フードの中から垣間見える表情は依然変わらず冷たいままで、私たちの会話を聞いてなお揺るがない私怨は
彼女の中でどれだけ大きな想いだったかと実感できた。
ギュッと手に力が入っていく
――わかってる。
それでもフランは一方的に攻めるのではなく私と対等であろうとしてくれている。
それが決闘という形になったのはフランの不器用な性格がそうさせただけ。私の愛情に、自信が持てなかっただけ。
(………だったら)
真正面を見据えて胸を張り、高々にマイクをかざす。
だったら、やることは決まっている。
語り合う場を用意してくれたフランに。私の言葉を待ってくれている最愛の妹に。
何度でも、何度だって――
本音を伝えるだけだ
声を出すため勢いよく息を吸い込む。
そして、肺にこもった熱い空気を言葉へと変え、
一気に吐き出した
「お待たせ登場 ここらで一丁汚名を返上 謝罪しようさっきの腐乱ぶり
もうクランベリー より酸っぱいラップして総スカン背に
でも今度こそさせない知らんぷり
さぁラブコールなラップはオリジナル 一生の忠誠惜しみなく あなたを守る騎士になる」
振り払うように横へマイクを振り「ちぇけらッ!!!」と片方の手でフランを指さした
私のラップを聞き、さっきまで心配そうに見守っていたパチェが小さくガッツポーズをしたのが視界の端に映る。
咲夜と小悪魔もしばらくポカンと口を開けていたがまもなくして驚きの混じった歓声を上げ始めた。
指を差されたフランは一瞬目を見開いたが、しかしすぐに瞳を細めて無表情になる。流石にたった一回のラップで満足はしてはもらえないようで、
これぐらいはやってもらわないと困る、と挑発するかのようにフランは顔の横で指を振った。
それを見てまだまだラップをぶつけ合わないといけないとは思ったが、各々の反応に確かな自信も得られた。
『相手をリスペクトするラップ』
フランを相手にするなら私にとってピッタリだ。
さっきとは違い自然と言葉が浮かんできたし、なにより自分の言葉に自信をもって吐き出せる。最初は困惑したラップだったが、
これだけ舞台が整えば何も難しくはない。
――まぁ、吸血鬼が口先で迷うなんてカッコ悪いもんね
そうしているうちに今度は自分の番だと宣言するみたいに、フランはマイクを構えた。
軽く口角を上げながら私もまた次に備えてマイクに力を籠める
言いたいことの張り合い。言葉の弾幕。
やっと、私とフランのラップバトルが始まった
「ちょっとは成長それがなに?最初はただのおもてなし
一回まぐれで避けただけ、たまたま小さな当たり判定 それをなんなのしたり顔で
ナイト気取りで剣振りかざし作り笑いにも気づかない
無様な姿はさっき見た ほらとっとと首でも掻っ切れば?」
「自害は早いわ 一つだけ訂正 勘違い
持っていたいのは炎の剣じゃない
可愛いあなたの不安覆う
盾持ちたいのさ フランドール」
「あらやだ初耳 物が持てるの今のイノシシ
上がらない前足 いななくだけだし
そもそも盾持ち 片手じゃ意味なし
振るえないよおしゃぶり グングニル
震え泣いてどしゃ降り 運尽きる」
「手に持つ気はない 手荷物いらない
振るわずただ投げる自慢の神槍
四人いたって見抜ける真相
打ち抜くハート あなたの心臓」
「いいよ撃ちなよどうせ動けない
いらないご加護だらけの鳥カゴ 違うかここは いっそゴミ箱
囚われた迷路に出口はないし肝心のあんたはカゴの外
孤独をこじらせ無き心 ほらほらここです泣き所
わたしを守る大儀な名分 結局一番大事な自分」
「カゴメから覗くカゴの外? 違うわそれは過去のこと
迷路も何もないでしょここは あるとするなら恋の迷路
共に迷ってしかるべき 幸せたくさん比較的 壁があるなら行き止まり でも上向きゃ二人で見れる月」
私とフラン、互いに一歩も譲らない言葉のぶつけ合い。
反響する音のすべてが重なっていくようで、しかしさっきまでの重い空気は一切なく、弾む言葉とリズムが羽のように飛び回る。
フランの罵倒ラップでさえも楽しげに聞こえてくるようだった。
そして、私もまた高揚していくのを感じた。
全身が心臓みたいにとめどなく動いているような感覚、鼓動が胸の中だけでなく体すべてがラップやビートに鳴動して
無意識に一定のリズムをとっている。
伝えたい言葉があふれてくる。韻を踏むことによって言葉が強調されていくのも心地が良い。
フランも調子を崩すことなくラップを私にぶつけていたが、
私の方に歓声が上がるたびに小さく舌打ちをした。それでも変わらず恨みを込めたラップを吐き出していく。
「健気な態度の一点張り ヘタレは毎度知ってんだし そんなじゃむしろ沸点増し
怒りのスペルで狙い撃ち 聞き飽きたよあんたのでかい口」
「大げさじゃない本気の言葉 私の大事な妹こそは スターボウより輝く光
二人の幸せ必ず誓い あなたのそばに変わらずいたい」
「ッ……はいはい出ました得意の出まかせ
だいたい基本は咲夜におまかせ
せいぜいできるの無難な言い訳
いつまでたってもカリスマのモノマネ」
早口を駆使したラップにまた「Yearー!!」と咲夜あたりから歓声が上がったが、私は見逃さなかった。
あれだけ流暢だったフランのラップが一瞬詰まったことを。
わずかな追い風を感じた私はフランの目を見つめながら一歩前へ進む
「出まかせなんて思うのなぜか? トリックなしの真実だけさ
過去を刻むも意味はない でも未来見たいも知らないみたい?私は見えるわ彼方まで 広がる綺麗な花畑 隣にいるのはあなただけ」
ここが決め所だと確信し、リズムと一体化したかのように身振り手振りを加えてラップを繰り出す。
言い終わったと同時に歓声が湧き上がり、自身も『手応えあり』と実感する。この調子で続けるだけ、と次のフランの言葉を待った。
しかし数秒たってもラップが聞こえてこない。不思議に思っていると、いつの間にか顔をうつむかせていたフランが体をわずかに震わせていることに気付く
そして、バッと顔を上げ
「………あなただけ?はぁ!?言葉軽いわ穴だらけっ!
そんなで未来を語るなほざけ!
過去の精算済んじゃいない!祝ってくれない何にもくれない!
紫さんからは貰ったパーカー!
いつも褒めるだけ綺麗事ばっか!
こういう時こそ伝えてよ ばかぁぁあッーー!!!
マイクをかざすのさえ忘れたフランが、中華鍋の音を掻き消すような大声で叫んだ。
皆が動揺する中、キッとこちらを睨みつけるフランの瞳は今までにないほど険しく、哀しみに満ちていた。
(フラン……)
――これが、本音だ
きっと私に一番言いたかったこと。
突如、感情を爆発させたフランの様子を見て心配になったのか、こちらを懸念したパチェの視線を感じる。
(……大丈夫よパチェ。私はもう、逃げない)
さっきはこの威圧に怯んでしまった。そんな酷いこと、二度としてはいけない。
勇気を出してぶつけてくれた不安に、自分が怖じ気づいてしまったら誰もこの子を救うことができない
この状況を作り出したのは、フランの期待を裏切ったのは
私なのだから
絶えず訴えかける怒りを目の前で受け止め、また一歩、フランの前へ踏み出した。
そしてマイクで語り掛ける。
「…もし戻れるなら昨日の朝に 愛しい私の妹探し 刻んであげたい希望の証
でも刻んだものは幼い心に消せない傷と痛む頭は重い印 襲う後悔思い知るし
それでも信じて愛してる 覚えてるあなたが生まれた感動 握った指の暖かさ
伝わる愛しさあなたから 大切な思い出だからこそ あなたが私の宝物」
精一杯の威圧をかけたにもかかわらず近づいた私をみて、フランの肩がすこし強張った
考えてみれば最初からこの決闘には制限がなかった。
多分だけど、ラップバトルは戦う回数が決められていて限られた互いのターンの内容から勝敗が決まるんだと思う。
じゃないとこの勝負は永遠に終わらないから。
でも今回の決闘は、それがなかった。
つまり
どちらかが納得するまで……いや、フランが納得するまでこのラップバトルは続けなければいけないのだ。
この子の不安に向き合わないと
決闘は、終わらない
だからこそ
「二度とその手を離しはしない 見逃しはしないメッセージ 私あなたを見つける名刑事
でも今の気分は怪盗気取り 赤い糸たどり解答ピタリとあなた導くナイト一人 連なる頑丈な石の牢から
連れ出すわたし泥臭く 押して壁の岩砕く そして誰もいなくなる」
だからこそ、
この子が用意してくれた勝負に怯むことなく全力で応えることが
私の、フランへの想いを示す―ー
「幸せ誓う硬い決意 さながら強固なダイヤモンド
たいしたもんと言わせる問答、あなたと上がる体感温度 迎える姉妹のハッピーエンド!
定めた運命曲げても回避 B・A・D!
愛する妹すべてが大事!!!これが私の Q・E・D!!!」
――証明になる。
マイクを横に振り、自分のターンにひとまずの終わりを告げる。
中華鍋のビートは変わらず鳴り響いていた。
次はまたフランの番だ。
これからまたどんな言葉が返ってこようがすべて返してみせる、と自信をもって身構える。
愛情が伝わるまで。この子が満足するまでとことん付き合う覚悟だった
しかしそのあと、ラップが聞こえることはなかった。
黙ったままのフランはリズムを刻む美鈴に、スッとかざすように腕を伸ばし、その意味を察した美鈴は中華鍋を叩くハシの手を止める。
それから腕を下げたフランが口を開いた。
「あ゛あぁーもうッ!!わかったよお姉様の勝ちでいいから!!だからやめて!! その…………は、恥ずかしいってば……」
「う~……」とうなりながら被っていたフードを両手で掴み、顔を隠すように引っ張る。
一瞬の静寂。
パチェと目を合わせ、私が頷くとパチェがほっと安心したように息を吐いた
「じゃあフランの勝負辞退によりレミィの勝利。 これで、試合終了ね」
やれやれ、と叩きっぱなしだったハシを置いて体を伸ばす美鈴と、
決着の宣言と共に立ち上がり拍手をする咲夜と小悪魔。
――1通の果たし状から始まった奇妙な決闘。
罵り合い、いがみ合い。そんな決闘とは名ばかりの、姉妹愛の確かめ合い。
それを言葉に変えてリズムに乗せて、互いに言いたいことを言い合う勝負。
〝ラップバトル〟は幕を閉じた
「フラン!」
終わると同時に私はすぐにフランの元へ駆け寄り、正面から優しく抱きしめた。
背中に回した手からパーカ―越しの小さな体を感じる
「ごめんなさい、不安にさせてしまって」
「………」
「どうしてこんな大切な日に気付けなかったのか……姉として失格よね」
「…………」
「私にあなたを愛する資格なんてないかもしれないけど、それでも私は」
「だから、お姉様」
フランは抱きしめていた私に両手を突き出し、体ごと押し返した。
そのままずっと被っていたフードを上げて籠った熱を払うように首を振り、金糸のような髪を左右に揺らす。
そして少し赤くなった顔でこちらを見つめ
「それはもう散々聞いたからわかったよ………安心、しとく」
「フラン、 あ」
いつもみたいにぶっきらぼうなフランの言葉を聞いた途端、私の体が突然によろける
「お、お姉様!?」
「ちょっとレミィ!!」
後ろに倒れそうなところをパチェに受け止められる。
「ごめんごめん。ありがとう」
「いいのよ。ずっと緊張しっぱなしだったものね」
「あ、いや、違うの」
言い終わる前に私のお腹から、グ~……と申し訳なさそうに音が鳴り、囲んでいたパチェとフランがその音を聞いて眉をひそめる。
私はごまかすように乾いた笑い声を上げた。
「その……まだ、朝食たべてなくて」
◇
「ふーん、紫からパーカーをねぇ……」
朝に食べ逃したサンドウィッチをつまみながら、向かいの席でミルクティーを飲んでるフランをまじまじと眺める
あの後にみんなで食堂に移動して、ちょうどいい時間だし全員で一緒に昼食を食べようということになった。
「まったく目ざとい奴だなアイツは。これで恩着せとこうとか考えてるかもな」
「なにもあげてないレミィよりマシじゃない?」
「うッ…!わ、わかってる!礼は後で言っとくよ」
机には私とフラン、パチェと小悪魔が座っており咲夜はキッチンで全員分の昼食を作ってくれていた。
美鈴はというと、中華鍋を叩いた罰として咲夜の手伝いをしている。ていうかあれ公認じゃなかったのか。まぁ手伝い出来て嬉しそうだったけど。
パチェがひょいっと私のサンドウィッチを一つ横取りした
「ま、私も昨日は驚いたけどね。さすが妖怪の賢者というか、仕事のできる女よあれは」
「でもなんか出し抜かれた感じがして……あいつのより良いプレゼントを考えないと」
「面識なんてあんまないだろうし、ほんとに営業の一種かもしれないわ」
「泥棒ネコめ……でもさ、そもそもなんでパーカーをプレゼントしたんだろ?」
気まぐれに浮かんだ疑問。
それに答えたのは、プレゼントをもらったフランだった。
「んー、確か言われたのは『フードを被れば日光を完全に遮断できるし吸血鬼にもってこいの衣服だから』ってことだったかな。
でもこれは外の世界のラッパーって呼ばれる人たちの専用着らしいよ。わかんないけど。で、そのラッパーの人たちが決闘するときに使うラップバトルもその時に教えてもらったの」
「そうだったわね。それで誕生日をすっぽかしたレミィをこらしめようと皆で協力したのよ。途中で気づくかも、と思って地下室に来るまでずっと遠視魔法で見張ってたんだけどねー。あんたの動向」
「その件は本当に申し訳ありませんでした!!で、でも、そのパーカーってさ」
「なに?」
相変わらず私が話しかけると不機嫌そうな顔をするフラン。
しかし私が見てるのはマグカップを包み込むように持つ、パーカーの袖からちょこんとでている指先。
「指とか出ちゃってるし中途半端じゃない。痛いよ?そこって神経集まってるから焼けると」
「ん? あー……そうだね」
「それにほらあなたの場合、生足魅惑のミニスカートだから下はノーガードだし」
「なに認識してんの気持ち悪いなぁ。でも別に長ズボン履けば」
「勘弁してください」
「まぁ厚着になっちゃうからわたしも嫌だけど……いや、なんで土下座してんの。マジでウザい」
「レミィ、本当にバターナイフを笑えないわよ」
羽虫を見るような視線を後頭部に感じたので床からおでこを離した。いけないいけない、つい癖で。
ははは、と笑いながら椅子に座る。
「まぁその、外に出るのは難しいわね」
「あらあらそんなことないですよ。普通に日傘をさして出掛ければいいじゃないですか」
後ろを振り向くと、いつのまにかキッチンから戻った咲夜が立っていた。
「咲夜?もう昼食できたの?」
「えぇ。切って挟むだけですから。ね?美鈴」
咲夜がそう言うと、キッチンの奥から大きなバスケットを持った美鈴が歩いてきた。
私たちの机まで来るとドン、とバスケットを置く。
中身が気になり皆で覗くと
「はい!出来ましたよ!サンドウィッチ盛り合わせ!」
中は大量のサンドウィッチで埋め尽くされていた。
私がその量に驚いていると、咲夜と美鈴がニッコリ笑いかける
「今日はこれを持って、外で食事しましょう」
「ピクニックですよピクニック!」
ほらほら、と咲夜が椅子に座っている私達に立つように促した。
突然のことに動揺しつつも皆が立ち上がる。私も美鈴に無理やり立たされた。
「あ、え、唐突ね??」
「なにいってるんですか!せっかくお嬢様が揃ったんだからフラン様の誕生日会・野外編をやらないでどうします?」
「そうですよお嬢様。みんなで改めて、妹様の誕生日をお祝いしましょうよ」
「美鈴、咲夜…………うん、そうね!よっしゃぁ!!行きましょうフラン!!私にあなたを祝うチャンスをちょうだい!!」
ち、ちょっとお姉様!というフランの声を聞きながら、その小さな手を引いた。
横のパチェは呆れたように、でもどこか楽しそうに眺めていた。小悪魔もワクワクとサンドウィッチをのぞき込んでいる。
私に手をつかまれて慌てるフランを前に、咲夜が優しく問いかけた
「妹様、今度はお嬢様込みで、もう一回お祝いしてもいいですか?」
ここにいる全員が期待を込めてフランを見ている。フランもしばらくはキョロキョロと周りを見ていたが
次第にその視線に耐えられなくなったのか、目線を泳がせながらも答えてくれた。
「べつにお姉様がいるからとかはどうでもいいけど、皆が言うなら……その、はい……お願いします」
Yearー!!と美鈴と小悪魔が声を上げる。「じゃあ行きましょうか」と咲夜が先導し、みんなで廊下へと続く扉へ向かった。
どこへ行こうか、途中で雨降らなきゃいいけど、とワイワイ話し合いながらこれからの外出に想いを馳せていく
(ふふ、なんだか忙しくなったわね)
急に提案されたピクニック。私とフランの仲を取り持ってくれたようで、瀟洒な従者たちに随分気を使わせてしまったみたい。
頭の下がる思いだがそれでも最近は全員そろってどこかへ行くなんてなかったなぁ、と浮き立つ気持ちを隠しきれなかった。
ぞろぞろと食堂から出ていき、最後の小悪魔が出たのを見届けたあと「私も早く出よう」と扉へ手をかけたところで
「――お姉様。ちょっと、こっち」
と、着ているパーカーのすそを後ろから引っ張られる。
何かと思いながら振り向くと、フランがまたも不機嫌そうに腕を組んでいた
「どうしたのフラン。はやく行きましょう?」
「………まだ聞いてない」
「へ?」
私の反応に呆れたようにため息をつくと
「あのさ、もしかして勘違いしてない?プレゼントとかそんなのお姉様に求めてないからね」
「あ、えっと、ゴメンなさい……」
「謝罪もいい。さっきいっぱい聞いたよ。そうじゃなくて」
「も、もしかしてまだ不安?大丈夫よ私はいつもあなたのことを愛して」
「だからちがうよ、しつっこい。そうやっていつも甘い言葉を口にするから軽く思えるし不安になるんだよ。さっきのラップバトルの時はまぁたくさん色んな事を言った方が良いし勢いに押されたとこはあるけど普段は違うでしょ。お姉様ってそういうとこあるよ?表面だけすくったような言葉だけは二酸化酸素の排出量より多いくせに、今回みたいに大事なことはすっぽ抜けてるっていうかさ。もっと肝心な言葉もこっちはまだ聞いてないんだけど?」
一切詰まることなく吐き出される言葉。いつも聞いているはずだったがあらためて凄まじい威力。
もうラップなんか目じゃないぐらいの口の速さとダメージ量だし、本当に相変わらず遠慮がない。
その勢いに私が呆然としていることに、フランが気づいた。
「ちっ……なにボーっとしてんの。ほら、あるでしょ?言うことが。てかここまで言わないとわかんないの?ほんっとお姉様は」
「ゴ、ゴメンね!わかったから待って!言うから!」
まずは流れるような罵倒を阻止する。
これ以上は体とか精神に毒である。ひとまずはこの場を収めるため、彼女の求めていることを自分なりにまとめてみたところ、恐らくフランは〝ある言葉〟を待っているのだろう、という結論に至った。
(誕生日、言葉……え、アレのこと?あー!たしかにまだ言ってない!!
でもあんな一言だけでいいのかな……もっと確かな言葉を言ってあげられるのに)
これが合っているのか間違っているのか。自信がまったく持てないものの、これ以上待たせるわけにはいかない。怖いし。
焦る呼吸を整えつつ瞳はフランを見つめながら。
不安に包まれながらも勇気を出して、伝えた。
「えと、 誕生日おめでとう。フラン」
それはとても単純で、この日にしか使わないような、お決まりの言葉
でも
(あぁこれは――マズイ)
口に出して初めて実感した。
それは、装飾もしない一つの言葉を言うのは大変恥ずかしいってこと。
さっきのラップもそうなんだろうけど、たくさんの褒め言葉を毎日言うことはきっと大丈夫なのに
な、なんでこんな単純な言葉が……?
いやいや、そんなことよりも不安なのはこれで合ってるのかということ。
だってこの程度の定型文をいまさら言ったってしょうがないじゃん!?
あんなにたくさんの愛の言葉を伝えたのにこの反応だったしさ!!
だったらもっと違う素敵な文句を探して言ってあげないときっと満足しない―――
「…………えへへ、ありがと」
フランはそう言って、こそばゆそうにはにかんだ
(―――)
その、あどけない笑顔を見て
くすぐったくなるような声を聴いて
ゴチャゴチャと混濁した思考が一瞬で真っ白になる
「あー安心した」
フランは満足気に鼻歌を歌いながら扉へ向かい、部屋を出る手前で
くるり、とこちらへ振り返った
「決まりきった言葉でもさ、やっぱ欲しいものなの。………そういうの、ちゃんと勉強してよね。お姉様」
いたずらっぽく微笑むと、また嬉しそうにクスクスと笑いながら部屋を出て行った。
食堂には頭の中が空っぽになった私が、一人残された
………
………
反響するビートもラップもない無音の食堂。
久しぶりに感じた静けさに戸惑ったのか、無意識に声が漏れる
「………いやー……やっぱり天使だって」
果てしなくこみあげてくる愛しさにどう受け止めたらいいかわからない。
それがなんだかおかしくて笑ってしまった。
――もちろん自分の勘違いっぷりも含めて。
「あーあ……決まりきった言葉、か」
誕生日の定例句。お決まりのセリフ。
改めて言うことさえ恥ずかしいけども
だけどきっと、そういう言葉ってとても大切で
伝えなくちゃ伝わんなくて
たった一言で幸せになれて
たった一言がないと 不安にもなる
そういうものなんだな、って
「単純なことなのに、大事なことがすっぽ抜けてる。あの子の言う通りだわ」
かなわないわね、と何気なくパーカーのポケットに手を入れると
指先に紙の感触があった。その紙をつかみ、目の前で広げてみる。
それは朝に書いたフランへの謝罪文だった。いつまにか入れていたらしい
つらつらと長ったるい文章が走っていてただひたすらに謝って褒めちぎる内容。
必死だったとはいえ、相手の求めることを知ろうともしていない今朝の私。
「一言で、良かったのにね」
ただ謝りたいだけの謝罪文なんて
そんなものはガムと一緒に捨ててしまえばいい
両手でクシャっと丸めて、部屋の角にあったゴミ箱へ投げ捨てた。
「さぁ行くか」
この後のことを楽しみにしながら、噛みしめるように歩いて食堂の扉を開ける。そして前を見ると、遠くで私を待っている皆がいた。
フランはまた腕を組んでこちらを見つめているがどこか嬉しそうで。
私も、自然と笑みがこぼれていた
また時が巡って
あの言葉を言う時が来るだろう
つまらなくてシンプルな、でも安心できるお決まりの言葉。
私の妹に生まれてきてくれたことを祝う言葉。
今度こそは 誰よりも早く伝えてあげるんだ
「……大好きな貴女へ」
―――誕生日おめでとう、って。
◇
パンッ!!
「おはようフラン!!そして誕生日おめでとう!!!」
「…………なにしてんの?」
さっきまで愛しい妹の寝言が響いていた地下室に、クラッカーの音が響き渡った。
爆音に反応してガバッとベッドから体を起こしたフラン。
カラフルなヒモにまみれた可愛いパジャマ姿と、 寝起きの不機嫌な顔とのギャップがすさまじい。
「いや、もちろん誕生日を祝ってるに決まってるじゃない」
「………誕生日は一昨日だったよね?」
「えぇそうね!でも昨日のことでわかったのよ。特別な言葉の大切さを……」
使い終わったクラッカーを近くのローテーブルに置き、目をつぶって感傷に浸る。
「だから決めたの。あなたに『誕生日おめでとう』を毎日言うようにするって」
「ん?」
「だってフラン、あの時あんなに嬉しそうだったじゃない!おかげで気づいたのよ」
「え、いや」
「別に誕生日だけしか言っちゃいけないわけじゃないでしょ?誕生したことをお祝いする言葉なんだから」
「……お姉様」
「まさかあんな喜んでくれるなんて思わなかったけど、やっぱお祝いの言葉って良いものなのね……だから毎日言ってあげる!」
任せて!と、ばっちしウィンクする。
昨日思いついた一大計画。言われたい言葉だったら毎日でも言われたいに違いないじゃないか。
なにより昨日のフランのリアクションをみたら明らかだし、自分でもなんて良い案だろうと昨夜は興奮で眠れなかった。ちょっとは寝た。
「………あのねお姉様。わたしが言いたかったのは特別な日にだけ言う特別な言葉が欲しいんだよっていう……」
「それだけじゃないわよ!!」
私は見せつけるように指をパチンと鳴らすと咲夜が扉から現れ、さらに館のメイド妖精も大勢引き連れている
そして声を揃えて
「「フラン様、誕生日おめでとうございます」」
若干やつれた顔をしている咲夜とメイド妖精が合唱し、頭を下げる。
恐らく感動してるがゆえに口が半開きになっているフランに説明する
「今度からメイドたちの挨拶はこれにしたから!ふふ、すごいわね咲夜!昨日の今日でこの統率感」
「えぇ、まぁ、3分で敬語を忘れる妖精1人1人に休まず教え続ければ出来ないこともないですよはい」
どこかカラ笑いを浮かべながら咲夜が返事をする。その様子が少し気になるものの、大きく腕を広げて高々に声を張り上げた
「さぁフラン!!これでいつでも誕生日をお祝いできるわよ!フランの乙女心しっかりキャッチしてみせたでしょう?」
1を求められたら100で返す、まさにカリスマを体現したような完璧すぎるアイデア。
そこまで言ったところで昨日の天使のリアクションを期待したが、
当のフランはおでこを抑えて「あぁー……」と短くうなっただけで、後ろの咲夜に向かってチョイチョイと手招きをし始める
「……ゴメン咲夜、ちょっとそこのマイク取って」
「あら? フフフ、言いたいことがあるのね? よーし咲夜!私にもマイクを取ってちょうだい!
言葉の弾幕、ラップで本音をぶつけ合いましょう!!じゃあ私からいくわ!!あ、あー、フランの誕生に感謝!カボチャ!モロヘイ ヤ゛ッ!!」
勢いよく飛んできたマイクが、私の頭でビートを刻んだ。
なので凄く惜しい気がします
誕生日忘れたぐらいでここまで怒るフランさんもどうかと思うんだ。
でもやっぱり忘れたらまずいね。
シスコンなお姉様が大好きです!
最後の方でレミリアが朝書いた綺麗事ばかりの謝罪文を見て、『一言で、良かったのにね』と言うところが好きです。
言葉選びが凄く素敵です。ただ、上手いだけじゃなくて、残念感の演出もバッチリですね!
残念カリスマ&妹スキーをこじらせまくっているレミリアお姉さま。
毒舌辛辣だけど実は姉の妹愛に負けないくらい姉愛あるよね!なフランちゃん。
あなたの描く二人はどっちも大好きだ!
ツンとくれば~では泣かせていただきましたが、こちらでは大いに笑わせていただきました。
でも、和解シーンからは涙が…
笑って、泣いて、最後にマイクをぶつけられてまた笑って。本当に楽しかったです。
自分はすっかりあなたをレミフラの人と認識しております。
勿論、他のキャラを描いた作品も読みたいですが、あなたのレミフラは本当に素晴らしい…
そしてレミフラのみならず、あなたの描く紅魔館は本当に楽しいです。
次なる作品も心待ちにしております。