「坦々麺」
比那名居天子が店員に告げる。
ここは里の中華料理店【底抜け珍道中】。
「私はガッツチャーハン・ラーメンセット。ラーメンは塩の大盛り、麺は固めで特製煮玉子と濃厚バターをトッピングしてください。あと餃子三皿お願いします」
向かいに座った東風谷早苗がすらすらとオーダーする。
ガッツチャーハンとは味噌で仕上げたこの店の名物料理だ。こってりした味がクセになるらしい。
「アンタ、餃子も食べるの?」
「ここの餃子、美味しいじゃないですか。それに、ニンニク使ってないから大丈夫ですよ」
「私、餃子食べないわよ」
「え? そうなんですか? すいませーんっ 餃子は二皿で!」
「早苗ちゃん、半チャーハンじゃなくていいのかい?」
厨房から店長らしき男性が顔を出した。
「ええ、今日は全(フル)チャーハンでお願いします」
「オーケー、大盛りサービスしちゃおうかな」
「やったあっ ありがとうございます!」
聞いてるだけでお腹がいっぱいになりそうだ。
十人はいるであろう他のお客は皆、目を丸くしている。
天子は慣れているのか驚きはしない。
はくはく、ざくざく、ズルッズルッズルー
ニコニコしながら実に美味しそうに食べる早苗。
まるで食べ物が意志を持って早苗の口に飛び込んでいくようにも見える。
明るく元気な健啖娘。ここをはじめ、どのお店でも人気者だ。
「相変わらずの大食いね」
「天子さん、その大食いってやめてくださいよ」
比那名居天子は天人の娘。
腰まで届く青髪のロングヘアにトレードマークの桃の実と葉が付いた丸い帽子をかぶり、ロングスカートにブーツ姿。
ちょっとだけつり上がっている真紅の瞳は形の良い細眉と相まって気の強さが表に現れているが、造作は整っており、やや細身だがスタイルも抜群。誰もが振り返る美少女であろう。
早苗は神社の仕事の合間を縫って天子と遊んでいる。
天子の都合がつかないとき、早苗は主に博麗神社に赴いているのだ。
二人が出会った頃は仲が良いとは言えなかった。
『友達になってあげても良いわよ』
天子はなんとか早苗と仲良くなりたいのだが、言動が高圧的でわがままなのでスンナリとは行かず、早苗も押しつけがましい友情モドキに辟易していた。
その後も喧嘩腰の付き合いが続いているが、なんだかんだで一緒にいることが多い。
周囲からは仲の良い友人同士と見られているが早苗は都度否定している。
『友達なんかじゃありません』
だが、最近の早苗は実のところまんざらでもない。
ある意味霊夢や魔理沙よりも自分をさらけ出せる相手になってきている。
だが、過去に自ら親友との絆を断ち切ってしまった早苗は友達と言う言葉に臆病になっていて、天子に対し現在でも素直になれないでいた。
《参照=拙作:ナズーリンシリーズ・早天の霹靂》
そうは言いながら今では頻繁に互いの家にお泊まりするほどの仲。日中は食べ歩きを楽しむことも多い。
それぞれ『いつかステキな彼氏を』と性向は至ってノーマルで百合な要素は皆無な早天だが、端から見れば十分に仲良しコンビ。
「今日はこの後どうするの?」
「博麗神社の分社の定期点検です。霊夢さん、全く手入れしてくれないんですもん、ちょっと目を離すと草ぼうぼうで」
天子はガッカリしたが、顔には出さないように額の辺りに力を入れる。
「私はあそこへは行かないわ。それじゃ今日はこれで解散ね」
「そうですね」
異変がらみの経緯から博麗霊夢は天子を目の敵にしている。
難癖を付けては直接攻撃に及ぶのだ。
石畳でスープレックスを食らったときはさすがの天人ボディーでもかなり応えた。
「サナエ、寂しい?」
「なに言ってるんですか?」
「強がらなくても良いのよ」
寂しいのは天子の方なのだが。
―――†―――†―――†―――
「早苗は餃子何個食べられるんだ?」
博麗神社に到着して早々に霧雨魔理沙が問いかけてきた。
「餃子ですか。……ええーっと」
普段はレスポンスの良い風祝が考え込んでいる。
「それはどんな餃子ですか?」
「どんなって普通のだぜ」
「大辛キムチ餃子とかジャンボ餃子とかじゃないんですね?」
「だから普通のだって」
早苗はさらに考える。
「どうしたのよ」
博麗霊夢も訝しがる。
餃子や寿司、わんこ蕎麦等、一口で食べられる食品に関して早苗は自分の限界摂取量を把握していない。
これまで限界に達する前に料理や資金の提供者からストップがかかっていたからだ。
(ホントに食べられる個数を言うべきではないですね。
いくつって言えば〝乙女としての許容範囲〟なのかな?)
もしかしたら自分は他の女性よりたくさん食べる方なのではと最近少しだけ気にしているのだ。少しだけだが。
だって、お店の一人前では全然足りないんだもの。
(ここは少なめに答えるべきでしょうね、ええ)
「おい? 聞いてるのか?」
「ご……」
「ご? 五個? そんなわけ無いだろ、もっと食べるよな」
「まさか五十?」
「おい、五十個って、それじゃ妖怪だぜ」
「で、ですよねー、十五個ですかね、頑張って」
「意外と少ないな、でも、そんなもんか」
「餃子が十五個もあったらご飯食べらんないわよね」
(危なかったー、五十って言わなくて良かったです)
これまで七十個食べたことがある早苗。もちろんライス付きで。
「一体どうしたんですか?」
「明日、餃子作ろうって話になってさ」
「面倒臭くないんですか?」
「今回は【あの御方】の技術支援があるのよ」
霊夢が言う【あの御方】とはナズーリンのことだ。
気前よく賽銭を入れ、差し入れもする。更に気の利いたお世辞を言うものだから参拝客の少ない赤巫女にとっては至高のお客らしい。
「またあのネズ、ナズーリン……さんですか」
反対に早苗は元々のネズミ嫌いに加え、悪意の感じられる嫌がらせを受けていると思い込んでいるので気に入らないのだ。
「あんたがどうして【あの御方】を嫌っているのか知らないけど、ここに来てくれる時に失礼したら承知しないわよ」
半眼で普段よりやや低い声。軽く凄む。
「分かってますよ」
霊夢と魔理沙の話では昼前に神社を訪れたナズーリンと餃子の話題で盛り上がったとのこと。
明日、午前中から製作開始らしい。
「妖夢も呼ぶぜ」
「手が多い方が良いからね」
手作り餃子の美味しさ楽しさは格別だ。なにせ自分で具を調整できるのだから。
餃子は早苗の好きな食べ物ベスト300(多いね)の上位に入る。
しかし―――
―――†―――†―――†―――
(このままでは十五個しか食べられません。何とかしなければ)
帰りの道すがら考え込んでいる東風谷早苗嬢。
しかし、此度の悩みはあまりにもおポンチな内容だ。確実にバカにされるだろうから誰かまわず相談するわけには行かない。
こんなことを相談できる相手は今のところ一人しかいない。
きっとバカにするだろう。でもそのあとに親身になってくれると思う。
『何か困ったことがあったら私を呼んでも良いわよ』
天子から肌身離さず持っておくように言われた短い筒。
形状はウル●ラマンの【ベータカプセル】に近い。
使うのは初めて。困り事があっても天子を呼ぼうとは思わなかったからだ。
意を決した早苗はハヤタ隊員のように筒を天に向けスイッチを押した。
ずどっしゅううううーー
かなりの反動があり、尻もちをついてしまった早苗。
素晴らしい勢いで光の帯が昇って行く。
そして―――
どっぱらぱらぱっぱあああーーーーん
盛大な音と目が眩むような閃光。
単なる信号弾にしては内包されているエネルギーがスゴすぎる。
これは間違いなく兵器だ。それもかなりの威力の。
しばし呆然とする早苗。
こんなモノをずっと身につけていたのか、肌身離さずに。
暴発したら軽傷では済まないだろうに。
やがて上空からかなりの速度で比那名居天子がやって来た。
「私も忙しいのだけど、サナエが呼ぶんじゃ仕方ないからね~」
実に、実に嬉しそう。
その早苗は震える手でカラになった筒を天子に突きつける。
「こ、こんな、こーんな危険なモノを私に持たせていたんですかっ!」
「天界のアイテムだから大丈夫よ」
「ホントですかっ?」
「多分ね」
「たぶ……うもおーー、アナタってヒトはーっ」
呆れるやら怒るやらで忙しい。
「で、どうしたの?」
「ぜーー ふーー ちょっ、ちょっと待っててくださいっ 気を落ち着かせますから」
「ふーん、変なサナエ」
「変なのはアナタですっ!」
―――†―――†―――†―――
「アンタが大食らいなのは皆知ってるんじゃないの?」
「大食らいってやめてくださいよ。よく食べる女の子は好感をもたれるんです」
「男として見たら自分の二、三倍軽く食べるのはどうなのかしらね?」
「きょ、許容範囲じゃありません……か?」
自信無さげに問い返す。
「なら、どうして正直に言わなかったのよ」
さきほどの餃子十五個の件を聞いて天子は呆れていた。
「そ、それは……」
「ばかねー、なに見栄張ってんのよ」
「乙女には張らなきゃならない見栄もあるんです」
「乙女は餃子五十個も食べないわよ」
まあ、そうだろう。
「アンタの常識はずれの大飯食らいは現人神だからだと思ってたけど」
もちろんまったく関係がない。
「大飯食らいって、どんどんヒドくなってるじゃないですか」
よく食べてよく働いてよく寝る健康美人。
だからこそ普段のハイテンションを支えるエネルギーは十分なのだ。
それはともかく―――
顎に手を当てしばし考え込んでいた天子がぱっと顔を上げた。
「結局は作った時の全体個数を誤魔化せばいいのよ。全員が二十個ずつ食べるとして、アンタが食べるプラス三十個を秘匿しておくの」
「それって、食べる時にバレませんか?」
「いつものようにガバガバ食べてりゃ分かんないわよ」
「ガバガバって……」
「そうすればアンタは五十個食べられるのよ」
「なんだかとても悪いことをしているような気がします」
「アンタ、餃子、たくさん食べたいんでしょ?」
「ええ、まあ」
「お腹いっぱい食べたいんでしょ?」
「………………うん」
俯いて力なく返事する。ちょっと涙ぐんでいる。
「こんなことで……ホント、おばかねえ~アンタは」
そう言いながら頭をグリっと撫でる。
「明日は五十個で我慢しときなさいよ。
今度とことん付き合ってあげるからさ」
「……ホントに?」
潤んだ目で弱々しく見上げる。
「ええ、約束するわ」
身内にも見せたことのない優しい笑顔を向ける。
「……あり、がと」
そう呟いて、ぽすっと、天子に寄りかかった。
―――†―――†―――†―――
「具材の総量を私たちが管理するようにもっていくのよ。ここポイントだからね」
「さすがはソウリョウ娘さまっ」
「……あのね、アンタのために話してるのよ? 私、ダジャレ嫌いなの知ってるでしょ?」
「そうでしたね」
立ち直りの早さでは群を抜いている早苗がにぱぱっと笑う。
さっきまでの儚げな雰囲気はどこに行ったのやら。
「アンタのお母さんのダジャレ、結構キツいんだからね」
「神奈子様はお母さんじゃありませんよ」
「今はそんなこと、どーでもいいでしょ。ちゃんと聞きなさい」
「はーい」
「具材を揃えて分量を決める打ち合わせがあるはずだから材料調達と管理の主導権を握ればいいわ」
「なるほどー」
ひん曲がった面倒な性格を別にすれば比那名居天子は至極真っ当な観察眼と冷静な思考力を有している。
頭も切れ、腹をくくれば誰に対してもしたたかに対応ができるハイスペック娘だ。
「あと、皮から作るのかしら?」
「こだわりネズミが来ますからきっとそうなると思います」
「あのネズミも来るのか……」
「そうなんです」
「アイツの目を欺くのは難しいわね」
「妙に聡いですもんね」
天子もナズーリンが苦手だ。あの性悪ネズミ妖怪には悪巧みで勝てる気がしない。
「策を弄するよりも……いっそ味方につけるか……」
ぶつぶつ
「は? 何て言ったんですか?」
「なんでもないの。アイツのことは私が何とかするわ」
―――†―――†―――†―――
次の日の午前中、博麗神社には毎度の三人の他にナズーリンと魂魄妖夢、そして比那名居天子がいた。
霊夢が天子にケチをつけないのは自前の豚のバラ肉をどっさり持ち込んだからだ。大変わかりやすい対応だ。
「焼き餃子、水餃子、揚げ餃子、スープ餃子、色々あるけど何にするんだ?」
今回のリーダーであるナズーリンに魔理沙が色々と質問している。
「本場中国では水餃子が主流だ。諸説あるようだが北部では水餃子、南では蒸し餃子やスープ餃子、焼き餃子は満州地方だったかな?」
「だだっ広い国だって聞くから色々あるんだな」
「私は水餃子が王道だと思うね」
「水餃子か。ワンタンとは違うよな?」
「餃子よりも皮が薄くて四角い、それに【かん水】を使っているね。基本的にスープの浮き味だからあまり具に凝らないかな」
博学ネズミがとうとうと弁ずる。
「私は好きだけどね。【雲呑】とは良く書いたもので、あのビロビロベロベロしただらしない口当たりが、すすり込むとき唇を優しくくすぐるんだ」
不必要な感想まで陳述するのが玉にきずだが。
「ちょっと言い方がイヤラシいぜ」
「そうかい? 妖夢どのもそう思うかね?」
後ろを振り返り半人半霊の娘にたずねる。
「ど、どうなんでしょう? ワンタンはあまり食べませんのでなんとも。シュウマイはよく作るんですけど」
「へー、幽々子が好きなのか?」
「はい、たくさん召し上がります」
「十個二十個じゃなさそうよね~」
霊夢が笑いながら言った。
「……そうですね」
妖夢の主人もその種族特性を無視するかのような健啖家だが、従者としてはあまり広まって欲しくないレッテルだった。
「シウマイも捨てがたいね」
「シウマイ? シュウマイじゃなくて?」
「私はその語感が好きなのだよ。餃子は寺の皆、個性があってそれぞれに美味しいが、シウマイはご主人様のに限る」
「寅丸が作るシュウマイか、旨そうだぜ」
「ほんっとーーに、美味しいんですよ!」
「妖夢は食べたことあるわけね?」
「はいっ」
満面の笑みで返事をする。
週に一回は命蓮寺の寅丸星のところへ剣術の稽古に行っている妖夢は食事に招かれることも多い。
妖夢の感想に気を良くしたナズーリンが続ける。
「大きめのシウマイで、齧るとタマネギの甘みを含んだ肉汁がジュワッと溢れ出し、蒸された豚肉の香りが鼻腔を刺激するんだ。醤油は要らない。少々のカラシだけでいただくのさ」
「お、美味しそうね、じゅるっ」
霊夢の唾も溢れ出しそうだ。
「小振りに作ったシウマイは油で揚げる。これは弁当に最適だね」
「揚げシュウマイの弁当か、いいなぁ」
「まぁ、万人を笑顔にする【寅丸シウマイ】はこの先いつか、ということにしようか。今回は餃子だ」
「そうだな。んーっと、さっきから気になっていたんだが」
「なんだね?」
魔理沙がナズーリンと妖夢を交互に指さす。
「お前たち仲良いのか?」
妖夢はナズーリンの右斜め後ろ、張り付くように立っている。まるでここが自分の立ち位置だと言わんばかりに。
「え?」
不思議そうな顔の妖夢。
「まぁ、そう言って差し支えないだろう。ね? 妖夢どの」
ナズーリンが少し振り向くと庭師は『はいっ』と笑顔で頷いた。
寺での稽古の当初、ナズーリンが妖夢の身の回りの世話を焼いていた。
その時に色々あったらしく、今の魂魄妖夢はナズーリンにとても懐いている。そしてナズーリンも純情で直向きな妖夢を可愛がっている。
師弟関係とはまた違った不思議な繋がりを形成していた。
《参照=拙作:ナズーリンシリーズ・円月殺法》
(CM、うざいですね……ww)
「妖夢さんはまともなヒトだと思っていたのに」
少し離れたところで聞いていた早苗が呟いた。
「おおかた邪淫ネズミ妖怪に丸め込まれたんでしょうよ」
アンチ・ナズーリン派の相方、天子も小声で同意を示す。
「きっとそうです、気の毒に……」
「そこそこ可愛いのにね」
早苗と天子が憐憫の目を向けていた妖夢がしゃべり始めた。
「あの、私、結構大食いなんですっ」
モジモジしながら照れ笑いを浮かべている。
「サナエ、ほら、あれが〝たくさん食べるんだけど、それを恥ずかしがる可愛い女の子〟の正しい姿よ。萌えるでしょ?」
「……そう、ですか」
「餃子だったら二十個ちょっと食べちゃうかもです」
ぽりぽりと頭を掻いている妖夢。
「聞いた? 二十個ちょっとで〝大食い〟だそうよ」
「……そう、ですか」
「言ってやんなさいよ、『ちゃんちゃら可笑しい』って」
天子はニヤニヤしながら早苗をつついている。
「……ヤですよ」
「上には上がいるって教えてやろうかしら? ウフフ」
「……やめてくださいよ」
早苗と天子はほとんど同じ身長。帽子をちょっとアミダにして顔をくっつけるようにして囁きあっている。
「はい、そこー、イチャイチャしてんじゃないわよー」
霊夢の指摘にビクッとして少し離れる二人。
「イチャイチャなんかして(ないわよ・ませんよ)」
タイミングぴったりで反論した。
「いーからこっち来なさいよ。段取りするんだから」
―――†―――†―――†―――
集合した六人、議題は『何入れる?』。
「寺では野菜餃子をよくやるよ。水餃子がほとんどだがね。
キャベツ、白菜、タマネギ、ニンジン、長ネギ、山菜、セロリ、ほうれん草、レンコン、大根、おから、豆類、その時の食事当番が色々組み合わせてオリジナルに挑戦している」
「ヘルシーな感じですよね」
「お前とヘルシーってどうも結びつかないんだよな」
早苗の感想に魔理沙が茶茶を入れた。
「し、失礼じゃありませんか?」
「夏に一輪が作ったシソとミョウガとキュウリと木綿豆腐が意外とイケた。小傘と響子のトウモロコシと枝豆、ニンジンは歯応えがうるさすぎたね」
「確かにボリボリしてそうね。それに醤油には合わないんじゃないの?」
食通の天子が食べるところを想像して首をひねる。
「まぁ、そうだね。色合いは悪くなかったんだが」
「でもナズーリンさん、マヨ味噌で食べたら美味しかったですよ」
妖夢が最近仲良くしている小妖たちの力作にフォローを入れた。
「ふーん、それならアリかもね。変わり餃子も面白いかも」
「おい、あいつらも作るのか? 大丈夫なのかよ」
「たまにやらせている。仕度の時間は普段よりかかるが、まぁ、何事も訓練だからね」
多々良小傘と幽谷響子がドタバタしながら食事の仕度をしている様が目に浮かぶ。もちろん監督はつけているのでトンでもないことにはならない。
「変わり餃子と言えばEXの連中かな。例えばベーコンとチーズにカボチャ」
「ええ~なんだそりゃ」
「待って、悪くなそうよ。塩で食べれば洋風惣菜ね」
顔をしかめた魔理沙に意見したのはまたも比那名居のお嬢様。
「ほう、さすがだね。その通りだよ。これはぬえの作なんだよ。組み合わせに奇を衒いすぎるが、たまにクリーンヒットを放つ」
「他はどんなのがあるんですか?」
早苗も興味津々。
「タヌキの親分はコンニャクと大根、茹でたウズラの玉子を入れた」
「……それって、おでんじゃない?」
「霊夢どののご指摘通りだ。口にした皆、そう言ったよ」
そう言ってクスクス笑うネズミの賢将。
「発想はユニークだったが、もうひと工夫必要だな。
古明地こいしのは刻んだ柿と梨、それに餡を混ぜた蒸し餃子だった」
「いやいや、それはゲテモノじゃないか?」
「かと思ったが、デザート感覚で大変美味しかったんだよ」
「相変わらず読めないヤツだな、アイツは」
「あのさ」
「どうしたんだね、霊夢どの」
「お肉、使わないの?」
何故かとても不安そうな霊夢。
「もちろん肉も使うよ。寺では頂き物の前提ではあるがね。
妖夢どのと私はインゲンと長芋を刻んで鶏ひき肉と混ぜたね」
「シブいですね」
「それは間違いなく美味しいでしょうよ」
「あの長芋のアイデアは良かったよ、妖夢どの」
「いえ、そんな……」
妖夢の腰に手を回し、抱き寄せて密着するナズーリン。
「軽快な歯応えで大好評だったものね」
「えへ、そうだったかもしれません」
照れるだけで嫌がる素振りのまったくない妖夢。
「なあ、言いつけていいか?」
「誰に何をだね?」
「寅丸にこの状況を、だぜ」
「ふん、こんなことで焼き餅を焼かれるような緩い関係ではないよ。好きにしたまえ」
余裕を見せつけるネズミ妖怪はその主人とバカップルの名を欲しいままにしている。
鷹揚な毘沙門天の代理は恋人が誰と何をしていようと揺らがない。ほぼ完全に信頼しているからだ。因みに寅丸星にジェラシーハリケーンを吹かせるのは幻想郷では十六夜咲夜だけだが、もちろんこのネタは秘中の秘だ。
「ご主人様が私だけに特別に作ってくれた特製餃子の話をしよう。
新鮮な鶏のレバーと刻んだ生姜、ニンニク、ネギを包んで軽く蒸し焼きにしたものだ。ゴマ油に塩を振っていただいた」
ごくりっ ×5
「がっつり精がつきそうね」
「寺で食するにはあまりにもアレだから内緒だがね」
―――†―――†―――†―――
「やっぱり肉よ」
大きな声ではないがとても力のこもった霊夢の願言。
ナズーリンがいなければ有無を言わせず大音声で押し通したことだろう。
そんな肉食巫女に優しく笑いかけるネズミのリーダー。
「まぁ、こういう具もある、と言う話だよ。今回はスタンダードな具材で作ってみよう」
「何を入れるんですか?」
霊夢以上に具が気になる早苗が前のめりでたずねる。
「豚のバラ肉がたくさんあるからこれがメインだ」
そう言って提供者である天子をチラ見するナズーリン。
その視線を受け、傲慢天人は『どうよ』とばかりにふんぞり返って見せ……なかった。
誇るでもなく、ナズーリンに片眉をくいっと上げただけだった。
「あとはキャベツ、ニラ、長ネギ、生姜、ニンニクでシンプルにいこう」
「野菜の調達は私が請け負うぜ」
「オーケー、粉は私が持参している。皮は引き受けよう」
「皮も作るの?」
面倒臭がりの霊夢が顔を曇らせる。
「餃子は皮が主役の粉料理。皮と具の調和を楽しむものだよ」
「そうなんだ」
「皮を主食と考えれば、肉も野菜も入った完全食と言えるわけさ」
「なるほどー」
ナズーリンの言には斜に構える早苗が本気で感心している。
「それではご飯は要らないんでしょうか?」
妖夢が首を傾げる。
「でもさ、餃子定食って普通にあるぜ」
「まぁ、チャーハン・ラーメンと言った炭水化物過剰な冗談めいたセットメニューが市民権を得ている昨今だから好みで良いんじゃないかな?」
ナズーリンの感想に今度は少しムッとする早苗さん。このタイミングでこう言う物言いをするから気に食わないのだ。
横で笑いを堪えている天子に小さな怒りをぶつけたくなったが、我慢した。
「水餃子と焼き餃子では皮の作り方が違ってくるんだよ」
「そーなのか?」
「焼き餃子は粉を熱湯を一気に入れて練るけど、水餃子は水で練る。グルテンがゆっくり働き、コシのあるもっちりした生地になるんだよ。強力粉、薄力粉どちらでも良いが、私は強力粉やや多めのミックスをおすすめする」
話題が得意のグルテンなので早苗が口を開きかけたが、蘊蓄ではネズミにかなわないと思ったのか、そのまま黙ってしまった。
「水餃子の皮は固めに作るから水の量は粉の半分弱。焼きの場合の熱湯は逆に半分強だ」
皆、ふんふんと頷く。
「あと、ポイントはこねてから2回寝かすことだ」
「うどんなんかよりもコシを出すためだな?」
「そうだ魔理沙どの、分かってるじゃないか」
「へへん、うどんは良くこねるかなら」
「作業は、生地こね、具の合わせ、皮作り、そして包みだ」
「私は生地こね、皮作りをやりますっ」
早苗が手を挙げる。天子との打ち合わせ通りに。
「それじゃ私は具の合わせね」
続いて天子が名乗りを上げた。
ナズーリンは一瞬目を細め、ニイっと口の端を吊り上げる。
「よし、それではそちらは任せよう。
魔理沙どのは生地こね、妖夢どのは具の合わせのサポートを頼むよ」
「おっけーだぜ」「了解です!」
「ときに霊夢どの、鶏ガラスープは?」
「朝一で仕込んでいるわ。丸々一羽分大鍋でね」
「それは大変結構。あとで具に混ぜるからね。これでジューシーさがグッとアップするよ。口休めの中華風スープも作ろう」
「分かったわ」
さあ、作業開始だ。
―――†―――†―――†―――
「こんなモンかな?」
「どうですかね」
こねた生地を魔理沙と早苗がぐにぐにと押しながら話し合っている。
「こんな時よく、耳たぶくらいの固さって言うけど、どんくらいのことなのかな?」
魔理沙の疑問を聞いたナズーリン以外の全員が一旦手を止めて自分の耳たぶを触ってみた。
ぷにぷに、ぷにぷに。
「まぁ、個人差があるからあまり当てにならないんだがね」
早苗と天子は右手で自分の左耳たぶを、左手で相手の右耳たぶを触ってみる。
「天子さんのなんだか固いですよ」
「サナエのはぷよぷよしてる。やだ……油っぽいわ」
「はああっ? なに言ってるんですか?」
「んー、よく分からないぜ」
「私なら分かると思うわ」
自分の耳たぶを弄くっていた魔理沙に霊夢がガッシと抱きついた。
「なっ 何だよ急に!」
抗議を無視して魔理沙の耳たぶをカプっと咥える霊夢。
「ひうっ!」
くちゅっ くちゅっ こりっ こりっ
「あっ あん、やめ……あっふん だめ、みみ、よわい……の」
「あのー」
早苗が顔をしかめながら声をかける。
「お二人さん、そろそろよろしいでしょうか?」
「サナエ、この二人っていつもこんな感じなの?」
「ええ、まあ」
「そんなわけ無いだろっ!」
ようやく霊夢を突き放した魔理沙が怒鳴った。
―――†―――†―――†―――
こちらは【具】の班。
「豚バラはひき肉を持ってきたほうが良かったかしら?」
今更だが天子がナズーリンに問う。
「いや、自分で刻んで叩いてミンチにするとひき肉よりうんと美味いよ」
これは本当。店頭のひき肉は細かすぎるし、時間経過とともに肉汁が失われているからだ。手間ですけどね。
「肉を刻んだら長ネギ、ニンニク、生姜のみじん切り、調味料は醤油とごま油、あとは酒と砂糖は少々で。粘りが出るまでよーく混ぜる」
「お肉、刻みます」
「じゃあ、これだけ全部お願い。私はニラとキャベツを刻んでおくわ」
妖夢と天子がそれぞれ細断作業に入る。
トンタン トンタン トンタッタタン
「あっち、やかましくなってきたぜ」
「アンタの包丁捌き、なかなかね。剣士だけのことはあるわね」
刻むのが早い妖夢に声をかける天子。
「ありがとうございます」
「同じ剣の使い手として負けていられないわ」
トトトトトトン トトトトトン
「天子さんは剣術の心得があるんですか?」
「まあね」
【具】の班の会話を聞いていた【生地】班の魔理沙が訝しげに相方にたずねる。
「おい、アイツ、そうなのか?」
「う~ん、どうなんでしょう」
早苗にはいつもの天子は緋想の剣をやみくもに振り回しているだけのように見えている。妖夢の言う剣術のレベルには程遠いと思っているが、言えば怒るだろうから言葉を濁した。
―――†―――†―――†―――
にっちゃ にっちゃ にっちゃ
刻んだ肉と香菜、調味料を天子がかき混ぜている。
「そうしたら温くした鶏ガラスープを少しずつ何回かに分けて混ぜながら加えてくれたまえ」
「いっぺんに、じゃないの?」
「具が分離してしまうんだよ。全体が白っぽくなって糸を引くくらいまで混ぜたらニラとキャベツを投入だ。そしてこの合わせはさっくりとだ。歯触りを残すためだよ。ここポイントだからね」
「なあ、シイタケ細かく刻んでも良いよな」
生地のおねんねタイムで手が空いた魔理沙が近寄りながら提案した。
「はあああああああああ!?」
スープの調理をしていた霊夢が聞きつけ、飛んでくる。
「お、おい、またシイタケはダメなのかよお」
「ないですね」
「あんた、シイタケ大使なの?」
「シイタケ王国からいくらかもらってるんじゃありませんか?」
いつもの三人のいつものシイタケ論争。
このやりとりを不思議そうに見ていた天子が妖夢に囁く。
「シイタケも少しなら良いと思うけど、この異様な拒絶はなんなの?」
「ええーっと、いろいろありまして、はあ」
「シイタケは止した方がいいね」
コンダクターのナズーリンが裁定を下した。
「ええ~、ぶ~、ぶ~う」
「あんただけシイタケの入った、いえ、いっそ刻んだシイタケだけ皮で包みなさいよっ」
「うへーっ なーんですかそりゃ」
「それ……旨そうだぜ」
「本気?」
「やっていいだろ?」
「勝手にしなさいよ」
「まぁ、好きにしたまえ。具は落ち着くまで一時間くらい置いておくよ。ここもポイントだからね」
―――†―――†―――†―――
2回寝かせた生地を両手で転がしながら2センチくらいの棒状にする。
打ち粉を振って10グラムの塊に刻む。最初は重さは量って、慣れたら目分量で構わない。
切り口を上にして手のひらで軽く潰し平たい円にする。乾かないよう濡れ布巾をかけておくことを忘れずに。
「さーて、皮作りだ。水餃子は一口でツルンと食べられるよう小さめに作るよ。はじめに私がやって見せるからね」
台に打ち粉を振って右手でめん棒を押さえ、左手で生地の端を持って時計と反対方向に少しずつ回しながら7~8センチの円形にのばす。
「ほへー、うまいもんだな」
「皮の中心の手前までは力を入れて押し、手前に引くときに力を抜く要領だ。周りは薄く、中心は厚めになると良いね。
さあ、皆でやってみよう」
五人がそれぞれに小振りのめん棒を持ってのばし始める。
「魔理沙どのは器用だな、申し分ないよ」
「へへん、まーな」
「妖夢どの、完全な円じゃなくても構わない。神経質になりすぎだ」
「は、はいっ すいません!」
「霊夢どの、んー、ちょっと力が入り過ぎかな」
「む……そうね……気をつけるわ」
「あー、そちらのお二方」
「なんですっ」「なによっ」
「さすがにその歪さでは餃子にならんよ。もう少し真面目にやりたまえ」
「やってますよっ」「やってるわよっ」
―――†―――†―――†―――
皆が作った皮を天子が手早く集めた。
「くっつかないように打ち粉をしとくわね」
「では具を包もうか」
皆でせっせと包む。この作業が一番楽しい。
「ひだは適当でいいんだろ?」
「でも、形がキレイだと美味しそうに見えますよ」
「入れる量は一定に。入れすぎると加熱ムラができるし、茹でてる最中に破裂するからね」
「ねー、あんたたち、聞いてんの?」
「は?」「へ?」
黙々と競うように包んでいた早苗と天子はようやく顔を上げた。
―――†―――†―――†―――
「静かに沸騰するくらいの火力を保つ。浮いてきたらさらに2分だね」
茹でる係は天子が立候補した。網杓子を片手に大鍋に餃子を入れていく。
「今日のあいつ、妙に積極的よね」
「そ、そうですかね」
ちょい冷や汗の東風谷早苗さん。
「へへへー、魔理沙さん特製のシイタケ餃子だぜい」
もう一つの小さめの鍋に魔理沙が自作の餃子を入れていた。
「ホントにシイタケだけなんですか?」
「いや、肉とネギが少しだけ入ってるぜ。でもほとんどシイタケだぜ!」
「具、パンパンですけど大丈夫ですか?」
「平気、平気」
取り皿や調味料は準備完了。茹で上がるのを今か今かと待つ。
「こっちのは茹で上がったわよー」
天子が皆に声をかけた。
「さあ、いただきましょう!」
とても良い笑顔の早苗が宣言した。
「わあああー!」
「魔理沙、どうしたの?」
「ぜ、全部口が開いてバラバラになっちゃった!」
「このバカっ 」
「うわー、スゴいシイタケの香りがしますね」
「お湯取っ替えなさいよっ 捨てたらもったいないからあんたが全部飲むのよ!」
「おい、無茶言うなよ。早苗じゃあるまいし」
「そこで引き合いに出さないでくれませんかっ?」
―――†―――†―――†―――
ようやく、いただくことになった。
「やっぱり酢醤油ですかね」
「霊夢どの、コショウはあるかい?」
「あるわよー」
「では酢とコショウで食べてみたまえ」
「なんだそりゃ? 醤油は?」
「小皿に酢を垂らしコショウを振るんだよ」
「えー」
やってみるのは妖夢。ナズーリンの提案をまったく疑っていない。
「どうなの?」
もぐもぐ
「お、おいしーー!」
「ホントかよ?」
「さっぱりして、ピリッとしておいしーです!」
「どれ、私も」
もぐむぐむぐ
「う~ん、肉や野菜の味がはっきりするわね。こーれはイケるわよー」
霊夢の感想を受け、残った三人も競うようにして酢コショウの小皿に餃子を突っ込む。
そして、もぐむぐ むぐまぐ
「おいしいっ」×3
「これは焼き餃子にも非常に有効なんだよ」
ナズーリンは皆の反応を見てTPOに則った正しいドヤ顔をした。
―――†―――†―――†―――
つるすぽんっ つるすぽんっ
もちもちつるつるの水餃子が早苗の口に軽快に飛び込んでいく。
そして嬉しそうに美味しそうに咀嚼する。
「いつも以上に豪快な食べっぷりね」
「実に旨そうに食べるよなあ」
「なんだか名人芸を見ているようです」
「歴史に名を残すほどの素晴らしい食べ方だね」
皆の声が聞こえた早苗は周囲を見回し少しだけペースを落とした。
―――†―――†―――†―――
「ニンニクもう少し少なくても良かったと思うぜ」
「なんでよ」
「旨いんだけど、匂いがなー」
「そんなん覚悟の上でしょうが」
「アリスが嫌がるんだ」
「あ、キスしてくれないとか? きゃあ!」
「ち、違うって」
霊夢はナズーリンから見えない位置まで移動し、天子の尻を抓り上げた。
「いたっ! なにするのよっ」
「うるせーわよ、ムシャクシャしただけよっ」
とんだとばっちりだ。
―――†―――†―――†―――
結局魔理沙のシイタケ餃子の残骸は鶏ガラスープの具になった。
「お、なかなか旨いぜ、飲んでみるか?」
差し出すお椀を見れば、表面にぎっしり、わっしょい、わっしょいとシイタケが浮いている。
「いらねーわ」
「いりませんよ」
「いるわけないじゃないの」
「結構だ」
「遠慮しときます」
ダメ出しエブリバディ。
「うぬう~ぅ」
唸ってみるがどうにもならない。
―――†―――†―――†―――
手作り水餃子を堪能した六人はごちそうさまをして小休止中。
たん、と両手をテーブルに置いた早苗が天井を見上げている。
そして―――
「おいしかったあ~」
絞り出すような歓喜の声、その頬には涙が伝っている。
「スゴいリアクションね」
「私もですが、早苗さん、たくさん食べてましたものね」
「一体、いくつ食べたんだ?」
「そろそろお暇するわ。サナエ、行くわよ」
感激冷めやらぬ早苗の手を引っ張って退出していく比那名居天子。
「あ、こらっ 片づけ手伝って行きなさいよっ」
「私たちこの後、用事があるの。ご免遊ばせ」
「すいませんみなさん。ごちそうさまでしたー」
二人してさっさと飛んで行ってしまった。
「こらーっ 食い逃げは許さないわよー!」
「イイじゃないか霊夢。アイツの持ってきた肉があったればこそだぜ」
「とても良い豚肉でしたよ」
「む……まあそうね。今回は見逃してやるとするか」
一連のやりとりを見守っていたナズーリンはニヤニヤするだけで一切口を挟まなかった。
―――†―――†―――†―――
「上手くごまかせましたねっ」
「う~ん……まあ、そうね」
楽しそうな早苗だが天子はそうでもない。少なくともナズーリンは完全に承知の上だったろうし、他の三人にもバレていたような気がする。
―――†―――†―――†―――
「五十個くらい食べてたんじゃないか?」
「作った数をちょろまかしてやがったのね」
「作業中、不審な動きが多かったようでしたけど」
「でも早苗がたくさん食べるのは想定のうちだし、コソコソする必要ないのにな」
「肉持ってきた天子さんは早苗さんのためだったんでしょうか?」
「大方トンチンカンな事情でもあったんでしょ? 知ったこっちゃないわ」
「なんだかんだでアイツら、仲が良いんだよなー」
「そうですね」
「おとぼけコンビでお似合いよ」
ここでもナズーリンは微笑むだけだった。
閑な少女たちの話 了
比那名居天子が店員に告げる。
ここは里の中華料理店【底抜け珍道中】。
「私はガッツチャーハン・ラーメンセット。ラーメンは塩の大盛り、麺は固めで特製煮玉子と濃厚バターをトッピングしてください。あと餃子三皿お願いします」
向かいに座った東風谷早苗がすらすらとオーダーする。
ガッツチャーハンとは味噌で仕上げたこの店の名物料理だ。こってりした味がクセになるらしい。
「アンタ、餃子も食べるの?」
「ここの餃子、美味しいじゃないですか。それに、ニンニク使ってないから大丈夫ですよ」
「私、餃子食べないわよ」
「え? そうなんですか? すいませーんっ 餃子は二皿で!」
「早苗ちゃん、半チャーハンじゃなくていいのかい?」
厨房から店長らしき男性が顔を出した。
「ええ、今日は全(フル)チャーハンでお願いします」
「オーケー、大盛りサービスしちゃおうかな」
「やったあっ ありがとうございます!」
聞いてるだけでお腹がいっぱいになりそうだ。
十人はいるであろう他のお客は皆、目を丸くしている。
天子は慣れているのか驚きはしない。
はくはく、ざくざく、ズルッズルッズルー
ニコニコしながら実に美味しそうに食べる早苗。
まるで食べ物が意志を持って早苗の口に飛び込んでいくようにも見える。
明るく元気な健啖娘。ここをはじめ、どのお店でも人気者だ。
「相変わらずの大食いね」
「天子さん、その大食いってやめてくださいよ」
比那名居天子は天人の娘。
腰まで届く青髪のロングヘアにトレードマークの桃の実と葉が付いた丸い帽子をかぶり、ロングスカートにブーツ姿。
ちょっとだけつり上がっている真紅の瞳は形の良い細眉と相まって気の強さが表に現れているが、造作は整っており、やや細身だがスタイルも抜群。誰もが振り返る美少女であろう。
早苗は神社の仕事の合間を縫って天子と遊んでいる。
天子の都合がつかないとき、早苗は主に博麗神社に赴いているのだ。
二人が出会った頃は仲が良いとは言えなかった。
『友達になってあげても良いわよ』
天子はなんとか早苗と仲良くなりたいのだが、言動が高圧的でわがままなのでスンナリとは行かず、早苗も押しつけがましい友情モドキに辟易していた。
その後も喧嘩腰の付き合いが続いているが、なんだかんだで一緒にいることが多い。
周囲からは仲の良い友人同士と見られているが早苗は都度否定している。
『友達なんかじゃありません』
だが、最近の早苗は実のところまんざらでもない。
ある意味霊夢や魔理沙よりも自分をさらけ出せる相手になってきている。
だが、過去に自ら親友との絆を断ち切ってしまった早苗は友達と言う言葉に臆病になっていて、天子に対し現在でも素直になれないでいた。
《参照=拙作:ナズーリンシリーズ・早天の霹靂》
そうは言いながら今では頻繁に互いの家にお泊まりするほどの仲。日中は食べ歩きを楽しむことも多い。
それぞれ『いつかステキな彼氏を』と性向は至ってノーマルで百合な要素は皆無な早天だが、端から見れば十分に仲良しコンビ。
「今日はこの後どうするの?」
「博麗神社の分社の定期点検です。霊夢さん、全く手入れしてくれないんですもん、ちょっと目を離すと草ぼうぼうで」
天子はガッカリしたが、顔には出さないように額の辺りに力を入れる。
「私はあそこへは行かないわ。それじゃ今日はこれで解散ね」
「そうですね」
異変がらみの経緯から博麗霊夢は天子を目の敵にしている。
難癖を付けては直接攻撃に及ぶのだ。
石畳でスープレックスを食らったときはさすがの天人ボディーでもかなり応えた。
「サナエ、寂しい?」
「なに言ってるんですか?」
「強がらなくても良いのよ」
寂しいのは天子の方なのだが。
―――†―――†―――†―――
「早苗は餃子何個食べられるんだ?」
博麗神社に到着して早々に霧雨魔理沙が問いかけてきた。
「餃子ですか。……ええーっと」
普段はレスポンスの良い風祝が考え込んでいる。
「それはどんな餃子ですか?」
「どんなって普通のだぜ」
「大辛キムチ餃子とかジャンボ餃子とかじゃないんですね?」
「だから普通のだって」
早苗はさらに考える。
「どうしたのよ」
博麗霊夢も訝しがる。
餃子や寿司、わんこ蕎麦等、一口で食べられる食品に関して早苗は自分の限界摂取量を把握していない。
これまで限界に達する前に料理や資金の提供者からストップがかかっていたからだ。
(ホントに食べられる個数を言うべきではないですね。
いくつって言えば〝乙女としての許容範囲〟なのかな?)
もしかしたら自分は他の女性よりたくさん食べる方なのではと最近少しだけ気にしているのだ。少しだけだが。
だって、お店の一人前では全然足りないんだもの。
(ここは少なめに答えるべきでしょうね、ええ)
「おい? 聞いてるのか?」
「ご……」
「ご? 五個? そんなわけ無いだろ、もっと食べるよな」
「まさか五十?」
「おい、五十個って、それじゃ妖怪だぜ」
「で、ですよねー、十五個ですかね、頑張って」
「意外と少ないな、でも、そんなもんか」
「餃子が十五個もあったらご飯食べらんないわよね」
(危なかったー、五十って言わなくて良かったです)
これまで七十個食べたことがある早苗。もちろんライス付きで。
「一体どうしたんですか?」
「明日、餃子作ろうって話になってさ」
「面倒臭くないんですか?」
「今回は【あの御方】の技術支援があるのよ」
霊夢が言う【あの御方】とはナズーリンのことだ。
気前よく賽銭を入れ、差し入れもする。更に気の利いたお世辞を言うものだから参拝客の少ない赤巫女にとっては至高のお客らしい。
「またあのネズ、ナズーリン……さんですか」
反対に早苗は元々のネズミ嫌いに加え、悪意の感じられる嫌がらせを受けていると思い込んでいるので気に入らないのだ。
「あんたがどうして【あの御方】を嫌っているのか知らないけど、ここに来てくれる時に失礼したら承知しないわよ」
半眼で普段よりやや低い声。軽く凄む。
「分かってますよ」
霊夢と魔理沙の話では昼前に神社を訪れたナズーリンと餃子の話題で盛り上がったとのこと。
明日、午前中から製作開始らしい。
「妖夢も呼ぶぜ」
「手が多い方が良いからね」
手作り餃子の美味しさ楽しさは格別だ。なにせ自分で具を調整できるのだから。
餃子は早苗の好きな食べ物ベスト300(多いね)の上位に入る。
しかし―――
―――†―――†―――†―――
(このままでは十五個しか食べられません。何とかしなければ)
帰りの道すがら考え込んでいる東風谷早苗嬢。
しかし、此度の悩みはあまりにもおポンチな内容だ。確実にバカにされるだろうから誰かまわず相談するわけには行かない。
こんなことを相談できる相手は今のところ一人しかいない。
きっとバカにするだろう。でもそのあとに親身になってくれると思う。
『何か困ったことがあったら私を呼んでも良いわよ』
天子から肌身離さず持っておくように言われた短い筒。
形状はウル●ラマンの【ベータカプセル】に近い。
使うのは初めて。困り事があっても天子を呼ぼうとは思わなかったからだ。
意を決した早苗はハヤタ隊員のように筒を天に向けスイッチを押した。
ずどっしゅううううーー
かなりの反動があり、尻もちをついてしまった早苗。
素晴らしい勢いで光の帯が昇って行く。
そして―――
どっぱらぱらぱっぱあああーーーーん
盛大な音と目が眩むような閃光。
単なる信号弾にしては内包されているエネルギーがスゴすぎる。
これは間違いなく兵器だ。それもかなりの威力の。
しばし呆然とする早苗。
こんなモノをずっと身につけていたのか、肌身離さずに。
暴発したら軽傷では済まないだろうに。
やがて上空からかなりの速度で比那名居天子がやって来た。
「私も忙しいのだけど、サナエが呼ぶんじゃ仕方ないからね~」
実に、実に嬉しそう。
その早苗は震える手でカラになった筒を天子に突きつける。
「こ、こんな、こーんな危険なモノを私に持たせていたんですかっ!」
「天界のアイテムだから大丈夫よ」
「ホントですかっ?」
「多分ね」
「たぶ……うもおーー、アナタってヒトはーっ」
呆れるやら怒るやらで忙しい。
「で、どうしたの?」
「ぜーー ふーー ちょっ、ちょっと待っててくださいっ 気を落ち着かせますから」
「ふーん、変なサナエ」
「変なのはアナタですっ!」
―――†―――†―――†―――
「アンタが大食らいなのは皆知ってるんじゃないの?」
「大食らいってやめてくださいよ。よく食べる女の子は好感をもたれるんです」
「男として見たら自分の二、三倍軽く食べるのはどうなのかしらね?」
「きょ、許容範囲じゃありません……か?」
自信無さげに問い返す。
「なら、どうして正直に言わなかったのよ」
さきほどの餃子十五個の件を聞いて天子は呆れていた。
「そ、それは……」
「ばかねー、なに見栄張ってんのよ」
「乙女には張らなきゃならない見栄もあるんです」
「乙女は餃子五十個も食べないわよ」
まあ、そうだろう。
「アンタの常識はずれの大飯食らいは現人神だからだと思ってたけど」
もちろんまったく関係がない。
「大飯食らいって、どんどんヒドくなってるじゃないですか」
よく食べてよく働いてよく寝る健康美人。
だからこそ普段のハイテンションを支えるエネルギーは十分なのだ。
それはともかく―――
顎に手を当てしばし考え込んでいた天子がぱっと顔を上げた。
「結局は作った時の全体個数を誤魔化せばいいのよ。全員が二十個ずつ食べるとして、アンタが食べるプラス三十個を秘匿しておくの」
「それって、食べる時にバレませんか?」
「いつものようにガバガバ食べてりゃ分かんないわよ」
「ガバガバって……」
「そうすればアンタは五十個食べられるのよ」
「なんだかとても悪いことをしているような気がします」
「アンタ、餃子、たくさん食べたいんでしょ?」
「ええ、まあ」
「お腹いっぱい食べたいんでしょ?」
「………………うん」
俯いて力なく返事する。ちょっと涙ぐんでいる。
「こんなことで……ホント、おばかねえ~アンタは」
そう言いながら頭をグリっと撫でる。
「明日は五十個で我慢しときなさいよ。
今度とことん付き合ってあげるからさ」
「……ホントに?」
潤んだ目で弱々しく見上げる。
「ええ、約束するわ」
身内にも見せたことのない優しい笑顔を向ける。
「……あり、がと」
そう呟いて、ぽすっと、天子に寄りかかった。
―――†―――†―――†―――
「具材の総量を私たちが管理するようにもっていくのよ。ここポイントだからね」
「さすがはソウリョウ娘さまっ」
「……あのね、アンタのために話してるのよ? 私、ダジャレ嫌いなの知ってるでしょ?」
「そうでしたね」
立ち直りの早さでは群を抜いている早苗がにぱぱっと笑う。
さっきまでの儚げな雰囲気はどこに行ったのやら。
「アンタのお母さんのダジャレ、結構キツいんだからね」
「神奈子様はお母さんじゃありませんよ」
「今はそんなこと、どーでもいいでしょ。ちゃんと聞きなさい」
「はーい」
「具材を揃えて分量を決める打ち合わせがあるはずだから材料調達と管理の主導権を握ればいいわ」
「なるほどー」
ひん曲がった面倒な性格を別にすれば比那名居天子は至極真っ当な観察眼と冷静な思考力を有している。
頭も切れ、腹をくくれば誰に対してもしたたかに対応ができるハイスペック娘だ。
「あと、皮から作るのかしら?」
「こだわりネズミが来ますからきっとそうなると思います」
「あのネズミも来るのか……」
「そうなんです」
「アイツの目を欺くのは難しいわね」
「妙に聡いですもんね」
天子もナズーリンが苦手だ。あの性悪ネズミ妖怪には悪巧みで勝てる気がしない。
「策を弄するよりも……いっそ味方につけるか……」
ぶつぶつ
「は? 何て言ったんですか?」
「なんでもないの。アイツのことは私が何とかするわ」
―――†―――†―――†―――
次の日の午前中、博麗神社には毎度の三人の他にナズーリンと魂魄妖夢、そして比那名居天子がいた。
霊夢が天子にケチをつけないのは自前の豚のバラ肉をどっさり持ち込んだからだ。大変わかりやすい対応だ。
「焼き餃子、水餃子、揚げ餃子、スープ餃子、色々あるけど何にするんだ?」
今回のリーダーであるナズーリンに魔理沙が色々と質問している。
「本場中国では水餃子が主流だ。諸説あるようだが北部では水餃子、南では蒸し餃子やスープ餃子、焼き餃子は満州地方だったかな?」
「だだっ広い国だって聞くから色々あるんだな」
「私は水餃子が王道だと思うね」
「水餃子か。ワンタンとは違うよな?」
「餃子よりも皮が薄くて四角い、それに【かん水】を使っているね。基本的にスープの浮き味だからあまり具に凝らないかな」
博学ネズミがとうとうと弁ずる。
「私は好きだけどね。【雲呑】とは良く書いたもので、あのビロビロベロベロしただらしない口当たりが、すすり込むとき唇を優しくくすぐるんだ」
不必要な感想まで陳述するのが玉にきずだが。
「ちょっと言い方がイヤラシいぜ」
「そうかい? 妖夢どのもそう思うかね?」
後ろを振り返り半人半霊の娘にたずねる。
「ど、どうなんでしょう? ワンタンはあまり食べませんのでなんとも。シュウマイはよく作るんですけど」
「へー、幽々子が好きなのか?」
「はい、たくさん召し上がります」
「十個二十個じゃなさそうよね~」
霊夢が笑いながら言った。
「……そうですね」
妖夢の主人もその種族特性を無視するかのような健啖家だが、従者としてはあまり広まって欲しくないレッテルだった。
「シウマイも捨てがたいね」
「シウマイ? シュウマイじゃなくて?」
「私はその語感が好きなのだよ。餃子は寺の皆、個性があってそれぞれに美味しいが、シウマイはご主人様のに限る」
「寅丸が作るシュウマイか、旨そうだぜ」
「ほんっとーーに、美味しいんですよ!」
「妖夢は食べたことあるわけね?」
「はいっ」
満面の笑みで返事をする。
週に一回は命蓮寺の寅丸星のところへ剣術の稽古に行っている妖夢は食事に招かれることも多い。
妖夢の感想に気を良くしたナズーリンが続ける。
「大きめのシウマイで、齧るとタマネギの甘みを含んだ肉汁がジュワッと溢れ出し、蒸された豚肉の香りが鼻腔を刺激するんだ。醤油は要らない。少々のカラシだけでいただくのさ」
「お、美味しそうね、じゅるっ」
霊夢の唾も溢れ出しそうだ。
「小振りに作ったシウマイは油で揚げる。これは弁当に最適だね」
「揚げシュウマイの弁当か、いいなぁ」
「まぁ、万人を笑顔にする【寅丸シウマイ】はこの先いつか、ということにしようか。今回は餃子だ」
「そうだな。んーっと、さっきから気になっていたんだが」
「なんだね?」
魔理沙がナズーリンと妖夢を交互に指さす。
「お前たち仲良いのか?」
妖夢はナズーリンの右斜め後ろ、張り付くように立っている。まるでここが自分の立ち位置だと言わんばかりに。
「え?」
不思議そうな顔の妖夢。
「まぁ、そう言って差し支えないだろう。ね? 妖夢どの」
ナズーリンが少し振り向くと庭師は『はいっ』と笑顔で頷いた。
寺での稽古の当初、ナズーリンが妖夢の身の回りの世話を焼いていた。
その時に色々あったらしく、今の魂魄妖夢はナズーリンにとても懐いている。そしてナズーリンも純情で直向きな妖夢を可愛がっている。
師弟関係とはまた違った不思議な繋がりを形成していた。
《参照=拙作:ナズーリンシリーズ・円月殺法》
(CM、うざいですね……ww)
「妖夢さんはまともなヒトだと思っていたのに」
少し離れたところで聞いていた早苗が呟いた。
「おおかた邪淫ネズミ妖怪に丸め込まれたんでしょうよ」
アンチ・ナズーリン派の相方、天子も小声で同意を示す。
「きっとそうです、気の毒に……」
「そこそこ可愛いのにね」
早苗と天子が憐憫の目を向けていた妖夢がしゃべり始めた。
「あの、私、結構大食いなんですっ」
モジモジしながら照れ笑いを浮かべている。
「サナエ、ほら、あれが〝たくさん食べるんだけど、それを恥ずかしがる可愛い女の子〟の正しい姿よ。萌えるでしょ?」
「……そう、ですか」
「餃子だったら二十個ちょっと食べちゃうかもです」
ぽりぽりと頭を掻いている妖夢。
「聞いた? 二十個ちょっとで〝大食い〟だそうよ」
「……そう、ですか」
「言ってやんなさいよ、『ちゃんちゃら可笑しい』って」
天子はニヤニヤしながら早苗をつついている。
「……ヤですよ」
「上には上がいるって教えてやろうかしら? ウフフ」
「……やめてくださいよ」
早苗と天子はほとんど同じ身長。帽子をちょっとアミダにして顔をくっつけるようにして囁きあっている。
「はい、そこー、イチャイチャしてんじゃないわよー」
霊夢の指摘にビクッとして少し離れる二人。
「イチャイチャなんかして(ないわよ・ませんよ)」
タイミングぴったりで反論した。
「いーからこっち来なさいよ。段取りするんだから」
―――†―――†―――†―――
集合した六人、議題は『何入れる?』。
「寺では野菜餃子をよくやるよ。水餃子がほとんどだがね。
キャベツ、白菜、タマネギ、ニンジン、長ネギ、山菜、セロリ、ほうれん草、レンコン、大根、おから、豆類、その時の食事当番が色々組み合わせてオリジナルに挑戦している」
「ヘルシーな感じですよね」
「お前とヘルシーってどうも結びつかないんだよな」
早苗の感想に魔理沙が茶茶を入れた。
「し、失礼じゃありませんか?」
「夏に一輪が作ったシソとミョウガとキュウリと木綿豆腐が意外とイケた。小傘と響子のトウモロコシと枝豆、ニンジンは歯応えがうるさすぎたね」
「確かにボリボリしてそうね。それに醤油には合わないんじゃないの?」
食通の天子が食べるところを想像して首をひねる。
「まぁ、そうだね。色合いは悪くなかったんだが」
「でもナズーリンさん、マヨ味噌で食べたら美味しかったですよ」
妖夢が最近仲良くしている小妖たちの力作にフォローを入れた。
「ふーん、それならアリかもね。変わり餃子も面白いかも」
「おい、あいつらも作るのか? 大丈夫なのかよ」
「たまにやらせている。仕度の時間は普段よりかかるが、まぁ、何事も訓練だからね」
多々良小傘と幽谷響子がドタバタしながら食事の仕度をしている様が目に浮かぶ。もちろん監督はつけているのでトンでもないことにはならない。
「変わり餃子と言えばEXの連中かな。例えばベーコンとチーズにカボチャ」
「ええ~なんだそりゃ」
「待って、悪くなそうよ。塩で食べれば洋風惣菜ね」
顔をしかめた魔理沙に意見したのはまたも比那名居のお嬢様。
「ほう、さすがだね。その通りだよ。これはぬえの作なんだよ。組み合わせに奇を衒いすぎるが、たまにクリーンヒットを放つ」
「他はどんなのがあるんですか?」
早苗も興味津々。
「タヌキの親分はコンニャクと大根、茹でたウズラの玉子を入れた」
「……それって、おでんじゃない?」
「霊夢どののご指摘通りだ。口にした皆、そう言ったよ」
そう言ってクスクス笑うネズミの賢将。
「発想はユニークだったが、もうひと工夫必要だな。
古明地こいしのは刻んだ柿と梨、それに餡を混ぜた蒸し餃子だった」
「いやいや、それはゲテモノじゃないか?」
「かと思ったが、デザート感覚で大変美味しかったんだよ」
「相変わらず読めないヤツだな、アイツは」
「あのさ」
「どうしたんだね、霊夢どの」
「お肉、使わないの?」
何故かとても不安そうな霊夢。
「もちろん肉も使うよ。寺では頂き物の前提ではあるがね。
妖夢どのと私はインゲンと長芋を刻んで鶏ひき肉と混ぜたね」
「シブいですね」
「それは間違いなく美味しいでしょうよ」
「あの長芋のアイデアは良かったよ、妖夢どの」
「いえ、そんな……」
妖夢の腰に手を回し、抱き寄せて密着するナズーリン。
「軽快な歯応えで大好評だったものね」
「えへ、そうだったかもしれません」
照れるだけで嫌がる素振りのまったくない妖夢。
「なあ、言いつけていいか?」
「誰に何をだね?」
「寅丸にこの状況を、だぜ」
「ふん、こんなことで焼き餅を焼かれるような緩い関係ではないよ。好きにしたまえ」
余裕を見せつけるネズミ妖怪はその主人とバカップルの名を欲しいままにしている。
鷹揚な毘沙門天の代理は恋人が誰と何をしていようと揺らがない。ほぼ完全に信頼しているからだ。因みに寅丸星にジェラシーハリケーンを吹かせるのは幻想郷では十六夜咲夜だけだが、もちろんこのネタは秘中の秘だ。
「ご主人様が私だけに特別に作ってくれた特製餃子の話をしよう。
新鮮な鶏のレバーと刻んだ生姜、ニンニク、ネギを包んで軽く蒸し焼きにしたものだ。ゴマ油に塩を振っていただいた」
ごくりっ ×5
「がっつり精がつきそうね」
「寺で食するにはあまりにもアレだから内緒だがね」
―――†―――†―――†―――
「やっぱり肉よ」
大きな声ではないがとても力のこもった霊夢の願言。
ナズーリンがいなければ有無を言わせず大音声で押し通したことだろう。
そんな肉食巫女に優しく笑いかけるネズミのリーダー。
「まぁ、こういう具もある、と言う話だよ。今回はスタンダードな具材で作ってみよう」
「何を入れるんですか?」
霊夢以上に具が気になる早苗が前のめりでたずねる。
「豚のバラ肉がたくさんあるからこれがメインだ」
そう言って提供者である天子をチラ見するナズーリン。
その視線を受け、傲慢天人は『どうよ』とばかりにふんぞり返って見せ……なかった。
誇るでもなく、ナズーリンに片眉をくいっと上げただけだった。
「あとはキャベツ、ニラ、長ネギ、生姜、ニンニクでシンプルにいこう」
「野菜の調達は私が請け負うぜ」
「オーケー、粉は私が持参している。皮は引き受けよう」
「皮も作るの?」
面倒臭がりの霊夢が顔を曇らせる。
「餃子は皮が主役の粉料理。皮と具の調和を楽しむものだよ」
「そうなんだ」
「皮を主食と考えれば、肉も野菜も入った完全食と言えるわけさ」
「なるほどー」
ナズーリンの言には斜に構える早苗が本気で感心している。
「それではご飯は要らないんでしょうか?」
妖夢が首を傾げる。
「でもさ、餃子定食って普通にあるぜ」
「まぁ、チャーハン・ラーメンと言った炭水化物過剰な冗談めいたセットメニューが市民権を得ている昨今だから好みで良いんじゃないかな?」
ナズーリンの感想に今度は少しムッとする早苗さん。このタイミングでこう言う物言いをするから気に食わないのだ。
横で笑いを堪えている天子に小さな怒りをぶつけたくなったが、我慢した。
「水餃子と焼き餃子では皮の作り方が違ってくるんだよ」
「そーなのか?」
「焼き餃子は粉を熱湯を一気に入れて練るけど、水餃子は水で練る。グルテンがゆっくり働き、コシのあるもっちりした生地になるんだよ。強力粉、薄力粉どちらでも良いが、私は強力粉やや多めのミックスをおすすめする」
話題が得意のグルテンなので早苗が口を開きかけたが、蘊蓄ではネズミにかなわないと思ったのか、そのまま黙ってしまった。
「水餃子の皮は固めに作るから水の量は粉の半分弱。焼きの場合の熱湯は逆に半分強だ」
皆、ふんふんと頷く。
「あと、ポイントはこねてから2回寝かすことだ」
「うどんなんかよりもコシを出すためだな?」
「そうだ魔理沙どの、分かってるじゃないか」
「へへん、うどんは良くこねるかなら」
「作業は、生地こね、具の合わせ、皮作り、そして包みだ」
「私は生地こね、皮作りをやりますっ」
早苗が手を挙げる。天子との打ち合わせ通りに。
「それじゃ私は具の合わせね」
続いて天子が名乗りを上げた。
ナズーリンは一瞬目を細め、ニイっと口の端を吊り上げる。
「よし、それではそちらは任せよう。
魔理沙どのは生地こね、妖夢どのは具の合わせのサポートを頼むよ」
「おっけーだぜ」「了解です!」
「ときに霊夢どの、鶏ガラスープは?」
「朝一で仕込んでいるわ。丸々一羽分大鍋でね」
「それは大変結構。あとで具に混ぜるからね。これでジューシーさがグッとアップするよ。口休めの中華風スープも作ろう」
「分かったわ」
さあ、作業開始だ。
―――†―――†―――†―――
「こんなモンかな?」
「どうですかね」
こねた生地を魔理沙と早苗がぐにぐにと押しながら話し合っている。
「こんな時よく、耳たぶくらいの固さって言うけど、どんくらいのことなのかな?」
魔理沙の疑問を聞いたナズーリン以外の全員が一旦手を止めて自分の耳たぶを触ってみた。
ぷにぷに、ぷにぷに。
「まぁ、個人差があるからあまり当てにならないんだがね」
早苗と天子は右手で自分の左耳たぶを、左手で相手の右耳たぶを触ってみる。
「天子さんのなんだか固いですよ」
「サナエのはぷよぷよしてる。やだ……油っぽいわ」
「はああっ? なに言ってるんですか?」
「んー、よく分からないぜ」
「私なら分かると思うわ」
自分の耳たぶを弄くっていた魔理沙に霊夢がガッシと抱きついた。
「なっ 何だよ急に!」
抗議を無視して魔理沙の耳たぶをカプっと咥える霊夢。
「ひうっ!」
くちゅっ くちゅっ こりっ こりっ
「あっ あん、やめ……あっふん だめ、みみ、よわい……の」
「あのー」
早苗が顔をしかめながら声をかける。
「お二人さん、そろそろよろしいでしょうか?」
「サナエ、この二人っていつもこんな感じなの?」
「ええ、まあ」
「そんなわけ無いだろっ!」
ようやく霊夢を突き放した魔理沙が怒鳴った。
―――†―――†―――†―――
こちらは【具】の班。
「豚バラはひき肉を持ってきたほうが良かったかしら?」
今更だが天子がナズーリンに問う。
「いや、自分で刻んで叩いてミンチにするとひき肉よりうんと美味いよ」
これは本当。店頭のひき肉は細かすぎるし、時間経過とともに肉汁が失われているからだ。手間ですけどね。
「肉を刻んだら長ネギ、ニンニク、生姜のみじん切り、調味料は醤油とごま油、あとは酒と砂糖は少々で。粘りが出るまでよーく混ぜる」
「お肉、刻みます」
「じゃあ、これだけ全部お願い。私はニラとキャベツを刻んでおくわ」
妖夢と天子がそれぞれ細断作業に入る。
トンタン トンタン トンタッタタン
「あっち、やかましくなってきたぜ」
「アンタの包丁捌き、なかなかね。剣士だけのことはあるわね」
刻むのが早い妖夢に声をかける天子。
「ありがとうございます」
「同じ剣の使い手として負けていられないわ」
トトトトトトン トトトトトン
「天子さんは剣術の心得があるんですか?」
「まあね」
【具】の班の会話を聞いていた【生地】班の魔理沙が訝しげに相方にたずねる。
「おい、アイツ、そうなのか?」
「う~ん、どうなんでしょう」
早苗にはいつもの天子は緋想の剣をやみくもに振り回しているだけのように見えている。妖夢の言う剣術のレベルには程遠いと思っているが、言えば怒るだろうから言葉を濁した。
―――†―――†―――†―――
にっちゃ にっちゃ にっちゃ
刻んだ肉と香菜、調味料を天子がかき混ぜている。
「そうしたら温くした鶏ガラスープを少しずつ何回かに分けて混ぜながら加えてくれたまえ」
「いっぺんに、じゃないの?」
「具が分離してしまうんだよ。全体が白っぽくなって糸を引くくらいまで混ぜたらニラとキャベツを投入だ。そしてこの合わせはさっくりとだ。歯触りを残すためだよ。ここポイントだからね」
「なあ、シイタケ細かく刻んでも良いよな」
生地のおねんねタイムで手が空いた魔理沙が近寄りながら提案した。
「はあああああああああ!?」
スープの調理をしていた霊夢が聞きつけ、飛んでくる。
「お、おい、またシイタケはダメなのかよお」
「ないですね」
「あんた、シイタケ大使なの?」
「シイタケ王国からいくらかもらってるんじゃありませんか?」
いつもの三人のいつものシイタケ論争。
このやりとりを不思議そうに見ていた天子が妖夢に囁く。
「シイタケも少しなら良いと思うけど、この異様な拒絶はなんなの?」
「ええーっと、いろいろありまして、はあ」
「シイタケは止した方がいいね」
コンダクターのナズーリンが裁定を下した。
「ええ~、ぶ~、ぶ~う」
「あんただけシイタケの入った、いえ、いっそ刻んだシイタケだけ皮で包みなさいよっ」
「うへーっ なーんですかそりゃ」
「それ……旨そうだぜ」
「本気?」
「やっていいだろ?」
「勝手にしなさいよ」
「まぁ、好きにしたまえ。具は落ち着くまで一時間くらい置いておくよ。ここもポイントだからね」
―――†―――†―――†―――
2回寝かせた生地を両手で転がしながら2センチくらいの棒状にする。
打ち粉を振って10グラムの塊に刻む。最初は重さは量って、慣れたら目分量で構わない。
切り口を上にして手のひらで軽く潰し平たい円にする。乾かないよう濡れ布巾をかけておくことを忘れずに。
「さーて、皮作りだ。水餃子は一口でツルンと食べられるよう小さめに作るよ。はじめに私がやって見せるからね」
台に打ち粉を振って右手でめん棒を押さえ、左手で生地の端を持って時計と反対方向に少しずつ回しながら7~8センチの円形にのばす。
「ほへー、うまいもんだな」
「皮の中心の手前までは力を入れて押し、手前に引くときに力を抜く要領だ。周りは薄く、中心は厚めになると良いね。
さあ、皆でやってみよう」
五人がそれぞれに小振りのめん棒を持ってのばし始める。
「魔理沙どのは器用だな、申し分ないよ」
「へへん、まーな」
「妖夢どの、完全な円じゃなくても構わない。神経質になりすぎだ」
「は、はいっ すいません!」
「霊夢どの、んー、ちょっと力が入り過ぎかな」
「む……そうね……気をつけるわ」
「あー、そちらのお二方」
「なんですっ」「なによっ」
「さすがにその歪さでは餃子にならんよ。もう少し真面目にやりたまえ」
「やってますよっ」「やってるわよっ」
―――†―――†―――†―――
皆が作った皮を天子が手早く集めた。
「くっつかないように打ち粉をしとくわね」
「では具を包もうか」
皆でせっせと包む。この作業が一番楽しい。
「ひだは適当でいいんだろ?」
「でも、形がキレイだと美味しそうに見えますよ」
「入れる量は一定に。入れすぎると加熱ムラができるし、茹でてる最中に破裂するからね」
「ねー、あんたたち、聞いてんの?」
「は?」「へ?」
黙々と競うように包んでいた早苗と天子はようやく顔を上げた。
―――†―――†―――†―――
「静かに沸騰するくらいの火力を保つ。浮いてきたらさらに2分だね」
茹でる係は天子が立候補した。網杓子を片手に大鍋に餃子を入れていく。
「今日のあいつ、妙に積極的よね」
「そ、そうですかね」
ちょい冷や汗の東風谷早苗さん。
「へへへー、魔理沙さん特製のシイタケ餃子だぜい」
もう一つの小さめの鍋に魔理沙が自作の餃子を入れていた。
「ホントにシイタケだけなんですか?」
「いや、肉とネギが少しだけ入ってるぜ。でもほとんどシイタケだぜ!」
「具、パンパンですけど大丈夫ですか?」
「平気、平気」
取り皿や調味料は準備完了。茹で上がるのを今か今かと待つ。
「こっちのは茹で上がったわよー」
天子が皆に声をかけた。
「さあ、いただきましょう!」
とても良い笑顔の早苗が宣言した。
「わあああー!」
「魔理沙、どうしたの?」
「ぜ、全部口が開いてバラバラになっちゃった!」
「このバカっ 」
「うわー、スゴいシイタケの香りがしますね」
「お湯取っ替えなさいよっ 捨てたらもったいないからあんたが全部飲むのよ!」
「おい、無茶言うなよ。早苗じゃあるまいし」
「そこで引き合いに出さないでくれませんかっ?」
―――†―――†―――†―――
ようやく、いただくことになった。
「やっぱり酢醤油ですかね」
「霊夢どの、コショウはあるかい?」
「あるわよー」
「では酢とコショウで食べてみたまえ」
「なんだそりゃ? 醤油は?」
「小皿に酢を垂らしコショウを振るんだよ」
「えー」
やってみるのは妖夢。ナズーリンの提案をまったく疑っていない。
「どうなの?」
もぐもぐ
「お、おいしーー!」
「ホントかよ?」
「さっぱりして、ピリッとしておいしーです!」
「どれ、私も」
もぐむぐむぐ
「う~ん、肉や野菜の味がはっきりするわね。こーれはイケるわよー」
霊夢の感想を受け、残った三人も競うようにして酢コショウの小皿に餃子を突っ込む。
そして、もぐむぐ むぐまぐ
「おいしいっ」×3
「これは焼き餃子にも非常に有効なんだよ」
ナズーリンは皆の反応を見てTPOに則った正しいドヤ顔をした。
―――†―――†―――†―――
つるすぽんっ つるすぽんっ
もちもちつるつるの水餃子が早苗の口に軽快に飛び込んでいく。
そして嬉しそうに美味しそうに咀嚼する。
「いつも以上に豪快な食べっぷりね」
「実に旨そうに食べるよなあ」
「なんだか名人芸を見ているようです」
「歴史に名を残すほどの素晴らしい食べ方だね」
皆の声が聞こえた早苗は周囲を見回し少しだけペースを落とした。
―――†―――†―――†―――
「ニンニクもう少し少なくても良かったと思うぜ」
「なんでよ」
「旨いんだけど、匂いがなー」
「そんなん覚悟の上でしょうが」
「アリスが嫌がるんだ」
「あ、キスしてくれないとか? きゃあ!」
「ち、違うって」
霊夢はナズーリンから見えない位置まで移動し、天子の尻を抓り上げた。
「いたっ! なにするのよっ」
「うるせーわよ、ムシャクシャしただけよっ」
とんだとばっちりだ。
―――†―――†―――†―――
結局魔理沙のシイタケ餃子の残骸は鶏ガラスープの具になった。
「お、なかなか旨いぜ、飲んでみるか?」
差し出すお椀を見れば、表面にぎっしり、わっしょい、わっしょいとシイタケが浮いている。
「いらねーわ」
「いりませんよ」
「いるわけないじゃないの」
「結構だ」
「遠慮しときます」
ダメ出しエブリバディ。
「うぬう~ぅ」
唸ってみるがどうにもならない。
―――†―――†―――†―――
手作り水餃子を堪能した六人はごちそうさまをして小休止中。
たん、と両手をテーブルに置いた早苗が天井を見上げている。
そして―――
「おいしかったあ~」
絞り出すような歓喜の声、その頬には涙が伝っている。
「スゴいリアクションね」
「私もですが、早苗さん、たくさん食べてましたものね」
「一体、いくつ食べたんだ?」
「そろそろお暇するわ。サナエ、行くわよ」
感激冷めやらぬ早苗の手を引っ張って退出していく比那名居天子。
「あ、こらっ 片づけ手伝って行きなさいよっ」
「私たちこの後、用事があるの。ご免遊ばせ」
「すいませんみなさん。ごちそうさまでしたー」
二人してさっさと飛んで行ってしまった。
「こらーっ 食い逃げは許さないわよー!」
「イイじゃないか霊夢。アイツの持ってきた肉があったればこそだぜ」
「とても良い豚肉でしたよ」
「む……まあそうね。今回は見逃してやるとするか」
一連のやりとりを見守っていたナズーリンはニヤニヤするだけで一切口を挟まなかった。
―――†―――†―――†―――
「上手くごまかせましたねっ」
「う~ん……まあ、そうね」
楽しそうな早苗だが天子はそうでもない。少なくともナズーリンは完全に承知の上だったろうし、他の三人にもバレていたような気がする。
―――†―――†―――†―――
「五十個くらい食べてたんじゃないか?」
「作った数をちょろまかしてやがったのね」
「作業中、不審な動きが多かったようでしたけど」
「でも早苗がたくさん食べるのは想定のうちだし、コソコソする必要ないのにな」
「肉持ってきた天子さんは早苗さんのためだったんでしょうか?」
「大方トンチンカンな事情でもあったんでしょ? 知ったこっちゃないわ」
「なんだかんだでアイツら、仲が良いんだよなー」
「そうですね」
「おとぼけコンビでお似合いよ」
ここでもナズーリンは微笑むだけだった。
閑な少女たちの話 了
でもこのシリーズ好きです。
シソとチーズも美味しいですよ。
レバーとごま油の組み合わせは鉄板ですが、餃子の具にするというのは新鮮でした。
機会があれば試してみたいレシピ、さすがは星です。
シソとチーズ、イイですね。
あんましレシピをうるさくないようにしたいんですがついつい……
ありがとうございます。
奇声様:
ありがとうございました。
7番様:
近々シイタケにスポットを浴びせる予定です。多分。
ぐい井戸・御簾田様
おおっ コメントありがとうございます。来年の例大祭でお会いしましょう!
ただ、自分で作るとなるとちょっと大変ですけどね(苦笑)
コメント返しが遅れましたゴメンナサイ。手作り餃子は一人では無理ですよ(精神的に)ww
何人かでワイワイ作るから楽しいんですよね~
17番様:
王将、イイですね。大阪に居た頃は「珉珉」にもよく行きました。今は埼玉なので「満州」です。