Coolier - 新生・東方創想話

観察日記

2015/12/02 00:20:35
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一日目。(さいしょ)

文が幽香に負けた。
今回はただの弾幕ごっこでは無く。負けた方が勝った方の言う事を一つ聞く条件で戦っていた。
幽香は勝負の前に勝った際の命令を明示していて。それが今履行されている。
幽香の命令は簡単だ。
幽香が作ったアクセサリーを一週間、肌身離さず身に着ける事。ただそれだけだ。
文が負けた際の条件も優しく(私に言わせてもらえば、そう考えるのがそもそもの間違いなのだけれど)。有効期間が一週間以内の他には、文が出す命令には特に制限は設けられていなかった。
分が悪いのは最初から分かっていたと思うけど。勝者の権利が魅力的だったらしく、始まる前はとても悪い顔をしていた。それが劣勢を悟って段々と泣きが入ってくるのは、見ていて面白かった。
立会人に選ばれた私は、神社よりもっと高いところで繰り広げられる花と風の狂宴を、煎餅を齧りながらぼんやり眺めていた。

幽香に手渡された何かを、文が手に取り、耳に着ける仕草をする。
文が手鏡を取り出して、具合を確かめる。
アクセサリー自体は良い物だったのか。どこか嬉しそうな、はにかんだ顔をする。
幽香はそんな文の姿を見て、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
傍から見てると、完全にプロポーズの光景である。
幽香はそれで満足したのか、そのままどこかに飛んで行ってしまう。
文はこちらに一礼して、少しだけうきうきした様子で帰って行く。
最初から最後まで、私はただ眺めていただけである。
本人たちが満足ならそれでいいのだけど。
プレゼントを渡すだけだったら、弾幕ごっこなんてする必要無かったじゃないの。

§

二日目。

文が来た。
眠れなかったのか目の下に隈が出来て、少しだけ憔悴しているように見える。
例の幽香に貰ったアクセサリーは相変わらず両耳に着けている。
黒と白の縞々の、向日葵の種みたいなイヤリング。幽香が渡した物だとすぐに分かって、白黒の烏によく似合っている。

「一週間ずっと着けてろとは言われましたけど。まさかお風呂や寝る時まで外せないとは思いませんでした」
「呪われてるわね」
「時々耳鳴りがするし、たまに何も聞こえなくなる時があるんです」
「霊障ね」
「霊夢さん」
「お祓いなら余所でやって」
「ここに来る前に守矢の神社に行ったんですけど、門前払いですよ。そんな面倒な物、うちに持ち込むなって」
「それでうちに来るのか」
「こんな事なら、あんな条件飲むんじゃなかった。うぅ……」
「嬉々として条件飲んでた癖になに言ってるのよ。その時の写真あるから見る?」
「何で撮ってるんですか。盗撮やめてくださいよ」
「お前がそれを言うのか」
「ていうか、霊夢さんカメラなんて持ってたんですか?」
「幽香に貰ったのよ。花のつまみにするから、文の面白い顔を沢山撮っておけって」
「趣味が悪すぎます。花のつまみって言葉、初めて聞きましたよ」
「私も初めて聞かされたわ」
「あ、やめてください。今日は最高に不景気な顔をしてるので、あんまりぱしゃぱしゃ撮らないでください。撮るなら最高に美人な時にしてください」
「撮るのは良くて、撮られるのは嫌なのね。今度からあんたを追い返すときはこうするわ」

無駄にぱしゃぱしゃ連射して、文を追い返す。弾幕を放つより簡単でいいわねこれ。
ちなみにカメラと言ってもちゃんとしたカメラ機では無くて。はたてが使っているような小型のやつだ。
写メ?とかいうらしいけど、細かい事は知らない。フィルムもピントも気にしなくていいから、すごく楽。
それにしても。
たった一日であの文がこの調子なら。一週間経つ頃にはどうなってるのかしら。

§

三日目。

おしゃれなからす。
ぼたぼたと花を撒き散らしながら、文がやってきた。
幽香に貰った物を着けているからそうなるのだ。

「布団を被って寝ていたんです。そしたらもう。お花がぶわーですよ。ぶわーって。お布団の中が隙間なく花で埋まってもうぶわーっですよ」
「鬱陶しいから帰れ。それと、神社に花をばら撒くな」
「良い事を思いついたんです。風で花を飛ばせばいいんですよ。それで誰にも迷惑がかからなそうなここを選んで。ぶわーっと。そりゃもうぶわーっと」
「もうそれでいいから、全部花を吹っ飛ばしてさっさと帰りなさいよね」
「流石に無尽蔵でもないだろうから、ぶわーっと吹き飛ばせば出涸らしになると思うんですよ。だから今日一日はここで花をぶわーっと。ぶわーっと」
「ああはいはい分かった分かった。私は出掛けるから後は好きにしなさいよね」
「ちょっと霊夢さん。何かあった時のためのフォローを」
「知らん」

泣き付く文を神社に置き去りにして、人里の茶屋で時間を潰す。
その日一日は、神社から留まる事無く花が空に舞い上がり。
大量の花が大きな二枚の羽のように空に広がっていた。

§

四日目。

文が来た。
四日目にもなると適応し始めたらしく、平気な顔をして新聞を配りに来た。

「花を撒くのか新聞を配るのかはっきりしなさいよ」
「私はブン屋です。ラムネ付きの玩具みたいなもんです。気にしたら負けです」
「相変わらず花は出るの?」
「相変わらずです。制御が出来ないせいでそりゃもう大変ですよ。わっさわっさです」
「あんまり悲壮感を感じないんだけど。もう慣れたの?」
「ヤケクソですね。どうせあと三日はこのままなんですし。泣いてても仕方ないなと。私の新聞が出ない事で読者が悲しむような事になったらもう目も当てられませんし」
「あっそう。とりあえず、それなりに元気そうで安心したわ」
「生かさず殺さず遊び尽くすのが幽香さん流なので、その辺はあんまり心配してないんですけどね」
「気を抜かずに頑張りなさい」
「はいっ!」

文に渡された新聞を捲る。
押し花でも作っているかのように、どのページにも執拗に花が挟み込まれている。
どの花も活き活きとしていて。色鮮やかで。幽かな香りを漂わせて。
本当にここに幽香がいるような気になってくる。
記事の見出しより先に花が目に入るのもどうかと思うけど。
真面目に天狗の新聞を読むよりはよっぽど楽しい気がするし。
匂い袋として使えそうだし。ずっとこのままの方がいいかもしれないわね。

§

五日目。

文が来た。やけにご機嫌である。
花の量はだいぶ落ち着いてきたらしく。花の扱いを覚えて良い感じに着飾っている。

「量より質です。いい感じでしょ?」
「そうね。楽しんでるわね」
「考えてみれば、こんな経験が出来る機会なんて滅多にありません。いっそ心行くまで花に塗れて楽しんでしまおうかと開き直りまして。毎晩お花いっぱいのベッドに飛び込めるんですよ。こんな贅沢ってないですよね。やっぱり花はいいですよね。私も女の子ですし。花に囲まれる生活というのも悪くないなって段々思って来て」
「はいはい、惚気はいいから。用が済んだなら早く帰りなさい」
「折角なんだからもっと聞いて下さいよ。いっぱい写真撮ったんですよ。自撮り自撮り。これとか良い感じじゃないです? 花が良い感じに服にくっついてて。今度このデザインで服を作って貰おうと思っていまして。資料として何枚も写真を撮ったんです。後は家が埋まる程花が咲いていたので、花の輪っかを作って頭に乗せてみたんです。ほらほらこれこれ。似合ってると思いません?」

鬱陶しいくらいに文に纏わりつかれて。両手で抱えきれないくらいの文の写真を見せられた。
写真の映り方を熟知しているらしく、自分が最もかわいく見えるように撮っている。
実物を見るよりよっぽど綺麗に撮れているなと思った写真もあるくらいだ。
それはそうなんだけど。
こうやって花に塗れてはしゃいでる今のあんたが、一番かわいいわ。
癪だから、写真撮りまくって幽香に送りつけてやろ。
あーもー。ポーズを取るなポーズを。かわいいのは分かったからちょっとは大人しくしてろ。

§

六日目。

幽香が来た。
そういえば幽香に会うのも久しぶりだ。
毎日毎日花だらけになった文がやってくるせいで、幽香にも毎日会っているような気分でいた。
要領よくカメラのパーツを交換して、文の写真を沢山取るように言い含められた。

「毎日会ってるからあの子の様子は分かってるけど。私に見せない表情とかあったら悔しいじゃないの」
「そういうもんなの?」
「後で霊夢にも写真をあげるから、ちゃんと撮りなさい」
「いらないわよ」
「持ってて損は無いと思うわよ。換金出来るかもしれないし。そうでなくても嫌がらせに使えばいいじゃない」

しれっと語る。
ほんっと、素直じゃないというかなんというか。

「あんたみたいなのに目をつけられて、文もかわいそうね」
「あの子も楽しんでるからいいじゃない」
「だから性質が悪いって言ってるのよ。最初から普通にプレゼントを渡せばいいだけじゃないの」
「普通に渡したら、普通のプレゼントにしかならないじゃない」
「あれが特別なプレゼントなわけ?」
「特別も特別よ」

幽香が思わせぶりな視線を送ってくる。

「あんたの考える事はよく分からんわ」
「霊夢への用は済んだから、もう帰るわね。文によろしくね」
「どうせ会うんでしょ?」
「私のいないところでも、私のことを想ってくれたら嬉しいじゃないの」
「はいはい」
「近いうちにまた来るから、それまでごきげんよう」

嫌と言う程、花を撒き散らして去っていく。
花を撒き散らしに来るやつが二人に増えて、こっちはいい迷惑よ。
早く明日になって、約束の一週間が終わってくれないかしら。

§

七日目。(さいご)

「霊夢さん霊夢さん! 凄いです凄いんです!」

文が来た。鶏が鳴くより早い時間に文が来た。

「向日葵! 向日葵が咲きました!」

面倒臭いと思いながら、枕元で騒がれ続けても迷惑なので、仕方なく体を起こす。
さっさと追い払って寝直したい。

「向日葵育ててたの?」
「違うんですよ。ほらほらほら」

文が耳を見せつけて、イヤリングを指で揺らしてアピールしてくる。
そんなにしつこく言わなくたって知ってるわよ。
幽香に貰った向日葵の種でしょ? 確か、今日までずっと着けてる約束で……。

「なんか今日は違うわね」
「そうなんです! 向日葵の種が、向日葵になったんです!」

今日の文が着けているのは、大輪の向日葵のイヤリング。
目も覚めるような、太陽みたいな黄色い元気な花。

「今朝はいつもと様子が違うなと思ったんです。花の香りもしないし。金縛りも耳鳴りも無かったですし。それで鏡を見てみたらびっくりですよ。まさかこんなサプライズが仕込まれているとは!」

寝起きの頭にやかましい声が響く。
閉じかけの目でカメラを持ち上げ、嫌がらせのつもりでぱしゃぱしゃと連射機能でひたすら撮りまくる。
こんな適当でちゃんと撮れるのか疑問だけど。
文に向かってシャッターを切った。それ以上の事は頼まれていないから知らないわ。

「花はもう出て来ないの?」
「ええ。さっぱりです。いきなり花が無くなると、なんだか寂しいですね。花吹雪の評判も良かっただけに、少し勿体無い気もします」
「幽香に頼めばいいじゃない」
「それはなんか気恥ずかしいというかなんというか」
「もじもじするな気持ち悪い。本当なんなのよあんたたちは。らしくないというかなんというか」
「だって、こんな素敵なプレゼント貰ったの初めてですし」
「ああはいはい。そういうのは本人に直接言いなさい。というかさっさと出てけ。睡眠の邪魔よ」
「ああ、ああ。そんな適当に連射しないで。キメ顔するんで待ってください」
「うるさーい」

新聞勧誘お断りの御札で文を外に弾き飛ばす。
何で朝一で私のところに報告に来るのよ。そんなに嬉しいならまず幽香のとこに行けばいいじゃないの。
初めは死にそうな顔してたのに、なんだかんだで満喫しやがって。
自棄になってハイになってるのか知らないけど。頭が冷えた頃に冷やかしてやろうかしら。
写真はいっぱい撮ってるし、これで脅迫でもなんでも……。

「文」
「なんですか霊夢さん」
「そのイヤリング。これからも着けるの?」

少しの間を置いて。
朝日を浴びて、これまで見た中で一番素直で綺麗な笑顔で答えてくる。

「勿論です」

その顔を写真に収めて、カメラごと文に放り投げる。

「幽香に渡しておいて。私は寝るから。これ以上ここで騒いだら本気で退治するからね」
「お邪魔しました。後で幽香さんと一緒に来ますから」

聞えない振りをして、布団に倒れ込み目を閉じる。
文がいなくなる時に、花の香りを纏った風が吹き抜ける。
幽香に感化されちゃって。残り香も完全に幽香と同じじゃないの。
この後どうなるのかは知らないけど。
花の被害が二倍になる事だけは勘弁して欲しいわね。
お久しぶりでございます。
最近カップリングの概念が行方不明です。
みをしん
http://tphexamination.blog48.fc2.com/
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コメント



0.670簡易評価
1.80金細工師削除
花映塚繋がりですか、このカップリングは初めて見ました
3.80名前が無い程度の能力削除
捻くれた惚気ですかね
最初の数日の困ってる時の文が可愛い
5.80奇声を発する程度の能力削除
面白い組み合わせですね
7.90名前が無い程度の能力削除
かわいい
13.100名前が無い程度の能力削除
はしゃいでいる文も素直じゃない幽香も可愛いです
惚気に巻き込まれた霊夢は災難ですね
14.90絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。
文ちゃん可愛い。
15.100名前が無い程度の能力削除
幽文……良いじゃあないか
16.80とーなす削除
幽文は初めてだなあ。二人の馴れ初めが気になる。
文ちゃん可愛い。