博麗霊夢は空を飛びながら舌打ちをした。
「はぁ……ったく」
行けども行けども代り映えのしない風景に、それでもあちこちから湧いてくる妖精や毛玉たち。霊夢はおざなりな弾幕でそれらを蹴散らしつつ、どこかくたびれた表情を浮かべながら飛んでいく。普段なら喜び勇んで妖怪退治や異変解決に乗り出す彼女だったが、この日は調子が出ないのか、弾幕にも張りがない。
ふと霊夢は何かに気付き、速度を落とした。
柔らかな土の上に降り立ち、
「あーちょっと、そこの毛玉」
と、繁みの陰に隠れていた大きな毛玉に話しかける。
毛玉はびくりと飛び上がると、
「え……? ひっ、ひぃっ!? 博麗の巫女!!」
と大声を上げた。
「ちょ、そんな驚かなくてもいいでしょ。聞きたいことが……」
「うわぁぁぁぁぁ!! もうおしまいだぁぁぁぁぁ!! 私も殺されるんだあぁぁぁぁぁ!!!」
感情豊かに叫び散らす毛玉に、霊夢はやや戸惑う。
「いや別にそういうあれじゃないから。聞きたいことがあるだけだから」
「嘘だ、そんなの信じない! 妖怪仲間じゃ有名なんだ、博麗の巫女に会ったら最後だって。見たら死ぬって!」
「そこまで恐れられてたのか、私……。いやまぁ確かに毛玉とかは見たら大体消してきたけど」
「ほらぁぁぁぁぁ!!!」
きゃんきゃんと喚く毛玉に、霊夢の顔が苛立ちでひくついた。思わず護符を構えかけるが、本来の用を思い出してぐっとこらえる。
「……まぁ、今日はいいのよ、道を聞きたいだけなの。あんた、ここらへんで暮らしてるんでしょ?」
「え? まぁ、はい」
「だったらこのあたりの道を教えてくれない? 迷っちゃって。迷いの竹林だなんていってもまっすぐ進んでれば意外といけるんじゃないかって思ってたけど、考えが甘かったわ。はぁ疲れた」
霊夢はそう言って頭上を仰ぐ。背の高い竹の密林は、似たような景色が延々と続くためにこれまで多くの人間を迷わせてきた。こと幻想郷の迷いの竹林は結界の役目も持っているため、案内なしに迷い込めばそう簡単には出られず、果てにはのたれ死ぬ者さえいた。
そんな危険な竹林を身一つで踏破しようとした霊夢だったが、さしもの彼女も弱音を吐くほど、長い時間をこの林の中で彷徨うことになった。
「……」
「どうしたの?」
そんな霊夢を、毛玉はしげしげと眺める。
「出られないんですか?」
「出られないっていうか、この先のお屋敷に用があるんだけど、たどり着けなくて」
「なんだーそっかー、迷っちゃったのかー。かわいそうだなーウフフ」
急に態度が大きくなった毛玉に、霊夢の苛立ちが再び蘇る。
「消えたいならさっさと言いなさいよね、全く……」
「嘘です嘘です、ちょっと、ほら、冗談が、ね」
毛玉は慌ててへりくだるが、霊夢は今度は護符の構えを下ろさなかった。
「ほら、ここで消えるか道を教えるか、とっとと選びなさい」
「は、はへっ。ええと、道って言われても……私もよく分かってないしなぁ……」
「何なの、結局役立たずじゃない。役に立たない妖怪などやはり消しておくべきか」
「うわぁぁぁ!! お母さぁぁぁん!!」
いちいち過剰に反応する毛玉。
「毛玉に親がいるの? っていうか毛玉って喋れるのね、話しかけておいてあれだけど」
「失礼な! あなたが毎日殺して回ってる妖怪にだって家族もいれば名前だってちゃんとあるんですよ!」
「そこまで無差別にやってるわけじゃないんだけどなぁ。異変があるときは積極的になるけど」
「異変?」
「そう。今日だって、あんなでっかい月が出てなかったら、こんな夜遅くに竹林なんか出歩かないわよ」
霊夢は夜空に浮かぶ満月をふり仰ぐ。
「あの月が出てからというもの、いつまでたっても夜が明けないのよ。人間はいつまでも寝ていられるってんで、みんなあんまり気にしてないみたいだけど。厄介なのはあれが満月ってことなのよね。ただでさえ満月は多くの妖怪に影響を与えるのに、あんな長いこと出続けたらどうなるか……まぁいいわ、無駄話だったわね。道は自力で探すか。今日のところは見逃してあげるから、さっさとどこかに消えなさい」
「え……? 私助かるんですか……!」
「そこまであからさまに命乞いされたら興が冷めるわ。まぁ、またどこかで会ったらそのときは容赦しないけど。きっと見ればあんただってすぐに分かるわよね。あんたくらいでっかくて、しかも黒い毛玉なんて珍しいし」
「さっきから毛玉毛玉って、私にだって名前があるんですからね!」
「名前? 何よ」
「いまい……あ、やっぱり毛玉でいいです」
「はぁ……ったく」
行けども行けども代り映えのしない風景に、それでもあちこちから湧いてくる妖精や毛玉たち。霊夢はおざなりな弾幕でそれらを蹴散らしつつ、どこかくたびれた表情を浮かべながら飛んでいく。普段なら喜び勇んで妖怪退治や異変解決に乗り出す彼女だったが、この日は調子が出ないのか、弾幕にも張りがない。
ふと霊夢は何かに気付き、速度を落とした。
柔らかな土の上に降り立ち、
「あーちょっと、そこの毛玉」
と、繁みの陰に隠れていた大きな毛玉に話しかける。
毛玉はびくりと飛び上がると、
「え……? ひっ、ひぃっ!? 博麗の巫女!!」
と大声を上げた。
「ちょ、そんな驚かなくてもいいでしょ。聞きたいことが……」
「うわぁぁぁぁぁ!! もうおしまいだぁぁぁぁぁ!! 私も殺されるんだあぁぁぁぁぁ!!!」
感情豊かに叫び散らす毛玉に、霊夢はやや戸惑う。
「いや別にそういうあれじゃないから。聞きたいことがあるだけだから」
「嘘だ、そんなの信じない! 妖怪仲間じゃ有名なんだ、博麗の巫女に会ったら最後だって。見たら死ぬって!」
「そこまで恐れられてたのか、私……。いやまぁ確かに毛玉とかは見たら大体消してきたけど」
「ほらぁぁぁぁぁ!!!」
きゃんきゃんと喚く毛玉に、霊夢の顔が苛立ちでひくついた。思わず護符を構えかけるが、本来の用を思い出してぐっとこらえる。
「……まぁ、今日はいいのよ、道を聞きたいだけなの。あんた、ここらへんで暮らしてるんでしょ?」
「え? まぁ、はい」
「だったらこのあたりの道を教えてくれない? 迷っちゃって。迷いの竹林だなんていってもまっすぐ進んでれば意外といけるんじゃないかって思ってたけど、考えが甘かったわ。はぁ疲れた」
霊夢はそう言って頭上を仰ぐ。背の高い竹の密林は、似たような景色が延々と続くためにこれまで多くの人間を迷わせてきた。こと幻想郷の迷いの竹林は結界の役目も持っているため、案内なしに迷い込めばそう簡単には出られず、果てにはのたれ死ぬ者さえいた。
そんな危険な竹林を身一つで踏破しようとした霊夢だったが、さしもの彼女も弱音を吐くほど、長い時間をこの林の中で彷徨うことになった。
「……」
「どうしたの?」
そんな霊夢を、毛玉はしげしげと眺める。
「出られないんですか?」
「出られないっていうか、この先のお屋敷に用があるんだけど、たどり着けなくて」
「なんだーそっかー、迷っちゃったのかー。かわいそうだなーウフフ」
急に態度が大きくなった毛玉に、霊夢の苛立ちが再び蘇る。
「消えたいならさっさと言いなさいよね、全く……」
「嘘です嘘です、ちょっと、ほら、冗談が、ね」
毛玉は慌ててへりくだるが、霊夢は今度は護符の構えを下ろさなかった。
「ほら、ここで消えるか道を教えるか、とっとと選びなさい」
「は、はへっ。ええと、道って言われても……私もよく分かってないしなぁ……」
「何なの、結局役立たずじゃない。役に立たない妖怪などやはり消しておくべきか」
「うわぁぁぁ!! お母さぁぁぁん!!」
いちいち過剰に反応する毛玉。
「毛玉に親がいるの? っていうか毛玉って喋れるのね、話しかけておいてあれだけど」
「失礼な! あなたが毎日殺して回ってる妖怪にだって家族もいれば名前だってちゃんとあるんですよ!」
「そこまで無差別にやってるわけじゃないんだけどなぁ。異変があるときは積極的になるけど」
「異変?」
「そう。今日だって、あんなでっかい月が出てなかったら、こんな夜遅くに竹林なんか出歩かないわよ」
霊夢は夜空に浮かぶ満月をふり仰ぐ。
「あの月が出てからというもの、いつまでたっても夜が明けないのよ。人間はいつまでも寝ていられるってんで、みんなあんまり気にしてないみたいだけど。厄介なのはあれが満月ってことなのよね。ただでさえ満月は多くの妖怪に影響を与えるのに、あんな長いこと出続けたらどうなるか……まぁいいわ、無駄話だったわね。道は自力で探すか。今日のところは見逃してあげるから、さっさとどこかに消えなさい」
「え……? 私助かるんですか……!」
「そこまであからさまに命乞いされたら興が冷めるわ。まぁ、またどこかで会ったらそのときは容赦しないけど。きっと見ればあんただってすぐに分かるわよね。あんたくらいでっかくて、しかも黒い毛玉なんて珍しいし」
「さっきから毛玉毛玉って、私にだって名前があるんですからね!」
「名前? 何よ」
「いまい……あ、やっぱり毛玉でいいです」
ふふっ、と思わず笑ってしまいました。お茶目な毛玉ちゃんが可愛かったです(笑)
おもしろい!
毛玉……一体何泉さんなんだ……
改めて見返すと、ちゃんと文章の中にヒントが隠されていて、
というか何で気づかなかったんだ! となるのがすごいと思いました。
(気づかなかったのがくやしい)
怖いわー満月の夜に毛深くなる毛玉怖いわー。
月がおかしくなると能力もおかしくなるんでしょうね…どんな姿だったのか見てみたいです