「はい。ということでお初にお耳にかかります。今夜から始まる新番組ということで、この番組は系列390局ネットを通じて全月放送で、サグメ様と素敵で小粋な時間を過ごしてもらおうという……あ、堅いことはいいですね。司会を務めさせていただくのは私、イーグルラヴィの清蘭と」
「…………」
「さ、サグメ様、自己紹介ですよほら、早く。いや、うんうんじゃなくて。ラジオなんですから、そんな頷かれても聞いてる人には訳が分からないじゃないですか。いやだから、頷くんじゃなくて自己紹介を……まぁいいや。そんなわけで皆様ご存じサグメ様と、私、清蘭が張り切ってお送りします。せーの、サグメラジオー!」
「…………」
「あのぉ、サグメ様。たしかリハーサルでは二人で声を揃えてタイトルコールって手筈だったんじゃ。練習もしましたよね、かなり念入りに。いや、ですから頷いても聞いてる人には分からないですから。ていうかサグメ様、さっきからなに食べてるんですか」
「メロンパン」
「いや何を食べてるかじゃなくてですねぇ。ほら、ラジオの放送中なんですよ。喋らなきゃいけないのに、なんでメロンパン食べてるんですか」
「サグメラジオー」
「今ですか。今になってタイトルコールですか! そしてなんで私にメロンパンを差し出すのですかっ。放送中なんですから食べられませんよ」
「…………」
「あの、そんな真っ直ぐな瞳で一心に見詰められても困るんですけど。なんだかまるで私の汚れた心を見透かされてるようで私が不憫じゃないですか……ああもう、分かりました。メロンパン食べればいいんでしょ!」
「ええ」
「まぁあれですね。全くの予定外ですが、メロンパンを食べながらでも味の感想とかを食レポ風にお伝えできれば、聞いてる人にも楽しんでもらえるかしら、っと。ではいただきます。ふむ、ああこれはなかなかの味。控えめな甘さで、外はぱりっと香ばしくて、中はふんわりもちもち」
「美味しいよね」
「それで噛めば噛むほど耐え難いほど青臭くて、生臭くて……って、やめてくださいよサグメ様。洒落になってません。うえっ、まるで芋虫食べたかのような」
「清蘭は芋虫食べたことあるの?」
「ないですよ。ないですけどほら、言葉のあやで」
「兎はへんな物を食べるのね」
「だから食べませんって芋虫なんて!」
「メロンパンは清蘭には美味しくなかったようです、皆さん」
「って、あ。今ので戻ったのか。でも先程の味が強烈すぎて、なんだか微妙なんですけど。これから先、メロンパン食べられなくなってしまいそうな」
「メロンパンが食べられないなら芋虫を食べればいいよ」
「嫌ですそんなのっ。ともかく先へ進めますよ。はい、ということでこの番組は今夜から始まった新番組なんですけど、なんとサグメ様宛に応援のお手紙が届いています。……いや、あのサグメ様、嬉しそうに拍手してるのはいいんですけど、聞いてる人には伝わりませんから。まぁいいや、じゃあ応援のお手紙、読みますね」
――拝啓、サグメお姉様
お元気ですか? 依姫です。サグメお姉様がラジオ放送をなさると聞いて、本当に驚きました。物静かでお淑やかなサグメお姉様と、賑やかなラジオの放送が俄には結びつかなくって、私には想像もつかなかったのです。でも、きっとサグメお姉様でしたら、素敵な放送でリスナーさんの心を豊かにしてくださることに違いありません。ラジオ放送というのはきっと気楽に出来るものではなく、私には窺い知れない苦労もあることでしょう。でもサグメお姉様でしたら、苦労など物ともせずに立派に放送をやり遂げてくれることだと思います。私も慣れないながらもラジオの前で見守っていますので、どうか頑張ってください。かしこ
綿月依姫
「いやー、依姫様からの、なんとも心温まるお手紙ですねぇ。ほら、豊姫様、依姫様の綿月様姉妹とサグメ様が昔っから仲良しなのは有名ですしね。まるで本当の姉妹のように仲良しで。サグメ様も依姫様から応援のお手紙をいただいて、本当に嬉しそうな顔しちゃって」
「地獄へ堕ちろ」
「ちょ、サグメ様! って、ああいいのか。うんうんって、いいんですねサグメ様。本当ややこしいなぁもう」
「…………」
「どうしちゃったんですか、俯いちゃったりして」
「……撫でて欲しいの」
「えっ、なに、なんですか急に。いまラジオの放送中じゃないですか。急に撫でろって……ええと、こ、こんな感じですか?」
「うん」
「うわぁ、サグメ様すごい嬉しそうな笑顔浮かべちゃって。ああどうしよう、なんだかちょっとドキドキしてきちゃいました。落ち着け私。よし、ちょっと私が落ち着くまで、みなさんには音楽で愉しんでいてもらいましょう。この番組ではリスナーの皆さんからのリクエストも受け付けていきますからね。今回はサグメ様からのリクエストで、ロイヤルムーン管弦楽団演奏、作曲ジョン・ケージで、曲は4分33秒をお送りします」
――♪~
(サグメ様、あのぉ、一応ラジオ放送なんですから、もう少し喋っていただかないと)
(私の喋りで世界がヤバイ)
(いやそれは分かっていますけど、ていうか、サグメ様なんでラジオやろう! なんて思ったんでしょうか)
(でもね、それでもやってみたかったの)
(やってみたかった、ですか)
(ラジオ、やってみたかったの)
(……そうですか)
(……清蘭)
(なんでしょう)
(ごめんね。それと、ありがとうね)
(こ、これが私の仕事なんですから。だから、サグメ様が気に病む必要なんて、これっぽっちもないんですから。ええ、ぜーんぶ、この清蘭にお任せください!)
――♪~
「はい、ということで4分33秒をお送りしました。いやー、素晴らしい演奏でしたねぇ。私、感激してちょっとウルッときちゃいました」
「この曲は私の好きな曲。何度も聴いています」
「素敵な曲ですよねー。はい、ということで、なんと残念なことに放送終了のお時間となってしまいました。いやー、過ぎてみれば本当に一瞬のようでしたね。ラジオの前の皆さんも愉しんでいただけたでしょうか? このような感じで、毎週木曜日の夜に、皆様のお耳を愉しませていただこうと思っていますので、ええ。お便りとか曲のリクエストとかもどんどん送ってくださいね」
「…………」
「あの、伝わらないでしょうけど、サグメ様も頷いていますので。それではまたこのお時間に、お耳にかかれたらと思います。イーグルラヴィの清蘭とサグメ様でお送りしました。また来週!」
「また来週~」
「……えっ!?」
「…………あっ!?」
「…………」
「さ、サグメ様、自己紹介ですよほら、早く。いや、うんうんじゃなくて。ラジオなんですから、そんな頷かれても聞いてる人には訳が分からないじゃないですか。いやだから、頷くんじゃなくて自己紹介を……まぁいいや。そんなわけで皆様ご存じサグメ様と、私、清蘭が張り切ってお送りします。せーの、サグメラジオー!」
「…………」
「あのぉ、サグメ様。たしかリハーサルでは二人で声を揃えてタイトルコールって手筈だったんじゃ。練習もしましたよね、かなり念入りに。いや、ですから頷いても聞いてる人には分からないですから。ていうかサグメ様、さっきからなに食べてるんですか」
「メロンパン」
「いや何を食べてるかじゃなくてですねぇ。ほら、ラジオの放送中なんですよ。喋らなきゃいけないのに、なんでメロンパン食べてるんですか」
「サグメラジオー」
「今ですか。今になってタイトルコールですか! そしてなんで私にメロンパンを差し出すのですかっ。放送中なんですから食べられませんよ」
「…………」
「あの、そんな真っ直ぐな瞳で一心に見詰められても困るんですけど。なんだかまるで私の汚れた心を見透かされてるようで私が不憫じゃないですか……ああもう、分かりました。メロンパン食べればいいんでしょ!」
「ええ」
「まぁあれですね。全くの予定外ですが、メロンパンを食べながらでも味の感想とかを食レポ風にお伝えできれば、聞いてる人にも楽しんでもらえるかしら、っと。ではいただきます。ふむ、ああこれはなかなかの味。控えめな甘さで、外はぱりっと香ばしくて、中はふんわりもちもち」
「美味しいよね」
「それで噛めば噛むほど耐え難いほど青臭くて、生臭くて……って、やめてくださいよサグメ様。洒落になってません。うえっ、まるで芋虫食べたかのような」
「清蘭は芋虫食べたことあるの?」
「ないですよ。ないですけどほら、言葉のあやで」
「兎はへんな物を食べるのね」
「だから食べませんって芋虫なんて!」
「メロンパンは清蘭には美味しくなかったようです、皆さん」
「って、あ。今ので戻ったのか。でも先程の味が強烈すぎて、なんだか微妙なんですけど。これから先、メロンパン食べられなくなってしまいそうな」
「メロンパンが食べられないなら芋虫を食べればいいよ」
「嫌ですそんなのっ。ともかく先へ進めますよ。はい、ということでこの番組は今夜から始まった新番組なんですけど、なんとサグメ様宛に応援のお手紙が届いています。……いや、あのサグメ様、嬉しそうに拍手してるのはいいんですけど、聞いてる人には伝わりませんから。まぁいいや、じゃあ応援のお手紙、読みますね」
――拝啓、サグメお姉様
お元気ですか? 依姫です。サグメお姉様がラジオ放送をなさると聞いて、本当に驚きました。物静かでお淑やかなサグメお姉様と、賑やかなラジオの放送が俄には結びつかなくって、私には想像もつかなかったのです。でも、きっとサグメお姉様でしたら、素敵な放送でリスナーさんの心を豊かにしてくださることに違いありません。ラジオ放送というのはきっと気楽に出来るものではなく、私には窺い知れない苦労もあることでしょう。でもサグメお姉様でしたら、苦労など物ともせずに立派に放送をやり遂げてくれることだと思います。私も慣れないながらもラジオの前で見守っていますので、どうか頑張ってください。かしこ
綿月依姫
「いやー、依姫様からの、なんとも心温まるお手紙ですねぇ。ほら、豊姫様、依姫様の綿月様姉妹とサグメ様が昔っから仲良しなのは有名ですしね。まるで本当の姉妹のように仲良しで。サグメ様も依姫様から応援のお手紙をいただいて、本当に嬉しそうな顔しちゃって」
「地獄へ堕ちろ」
「ちょ、サグメ様! って、ああいいのか。うんうんって、いいんですねサグメ様。本当ややこしいなぁもう」
「…………」
「どうしちゃったんですか、俯いちゃったりして」
「……撫でて欲しいの」
「えっ、なに、なんですか急に。いまラジオの放送中じゃないですか。急に撫でろって……ええと、こ、こんな感じですか?」
「うん」
「うわぁ、サグメ様すごい嬉しそうな笑顔浮かべちゃって。ああどうしよう、なんだかちょっとドキドキしてきちゃいました。落ち着け私。よし、ちょっと私が落ち着くまで、みなさんには音楽で愉しんでいてもらいましょう。この番組ではリスナーの皆さんからのリクエストも受け付けていきますからね。今回はサグメ様からのリクエストで、ロイヤルムーン管弦楽団演奏、作曲ジョン・ケージで、曲は4分33秒をお送りします」
――♪~
(サグメ様、あのぉ、一応ラジオ放送なんですから、もう少し喋っていただかないと)
(私の喋りで世界がヤバイ)
(いやそれは分かっていますけど、ていうか、サグメ様なんでラジオやろう! なんて思ったんでしょうか)
(でもね、それでもやってみたかったの)
(やってみたかった、ですか)
(ラジオ、やってみたかったの)
(……そうですか)
(……清蘭)
(なんでしょう)
(ごめんね。それと、ありがとうね)
(こ、これが私の仕事なんですから。だから、サグメ様が気に病む必要なんて、これっぽっちもないんですから。ええ、ぜーんぶ、この清蘭にお任せください!)
――♪~
「はい、ということで4分33秒をお送りしました。いやー、素晴らしい演奏でしたねぇ。私、感激してちょっとウルッときちゃいました」
「この曲は私の好きな曲。何度も聴いています」
「素敵な曲ですよねー。はい、ということで、なんと残念なことに放送終了のお時間となってしまいました。いやー、過ぎてみれば本当に一瞬のようでしたね。ラジオの前の皆さんも愉しんでいただけたでしょうか? このような感じで、毎週木曜日の夜に、皆様のお耳を愉しませていただこうと思っていますので、ええ。お便りとか曲のリクエストとかもどんどん送ってくださいね」
「…………」
「あの、伝わらないでしょうけど、サグメ様も頷いていますので。それではまたこのお時間に、お耳にかかれたらと思います。イーグルラヴィの清蘭とサグメ様でお送りしました。また来週!」
「また来週~」
「……えっ!?」
「…………あっ!?」
サグメ様がもっと喋ってほしくなかったです
またやらないで欲しいです