馬鹿魔理沙の顔面を鷲掴みにし、あらんばかりの力を込めて爪を立てる。
皮膚が破れて出血して女の子なのに顔が傷物コース上等といった勢いで。
「ギブ! ギブアーップ!」
手のひらが冷たく濡れたので、ああ、こいつ泣きおったかと理解してようやく手を緩めると、魔理沙は布団をゴロゴロ転がりながら苦しげに呻いた。
まったく、寝る前だっていうのにこの馬鹿はとんでもないことをしてくれた。寝る前だからやったとも言えるけれど。
私はこれでもかってほど眼差しを鋭くして訊ねる。
「反省してる?」
「してるしてる、超してる! だから霊夢、霊夢様! マジ勘弁!」
シンプルな暴力が効いたらしい、魔理沙らしからぬ殊勝な態度で土下座をする有様。本当に反省したのかもしれない。
「許さん」
が、許す許さないとは別なので、魔理沙が悪戯に使った"それ"を取り出し――突きつける。
「あんたも飲みなさい」
「いや、でも、そのぉ……」
本当に反省したといってもその程度か。安い反省だ。やはり許すまじ。
再び顔面を掴んでやろうと手を伸ばす。
「ひぃ!? 飲みます、飲みまーっす!」
大慌てで魔理沙は"それ"を引っ掴み、引っ繰り返し、こぼれた丸薬を一粒、水も無しに飲み込んだ。
「口、開けて」
飲んだふりをしているのかもしれないので確認。
夢想封印の光球をひとつだけ出現させ、それを明かりに魔理沙の口内を確かめる。歯並びいいな。
「ふがふが……」
「うん、ちゃんと飲んだみたいで。じゃ、おやすみ」
魔理沙の顔に安堵が浮かんだ刹那、光源として浮かべていた単発夢想封印を魔理沙の脳天にシュート!
「ゴバァッ!?」
痛烈な衝撃によって敷布団に突っ伏した魔理沙は、そのまま意識を手放し安らかではない眠りへと落ちた。
一応、ちゃんと掛け布団をかけてやる。あとは同じ苦しみを味わってくれればいい。まだ許してないけど、取り合えずの罰はこれでいい。
これから見る夢の内容次第ではさらなる苛烈な罰を与えねばなるまい。
今宵のことを思い、深々とため息一つ。
「……寝るか」
呟いて、瓶を枕元に置く。
これが、神社に泊まりに来た魔理沙に悪戯で飲まされてしまったものの正体である。
ラベルに書かれているその名は。
――胡蝶夢丸ナイトメアタイプ――
霧雨魔理沙の隣に敷いてある自分の布団に潜り込んだ私は行燈の灯を消すと、いったいどんな悪夢を見せられるやらとうんざりした心持ちでまぶたを閉じた。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
まぶたを開けた。
…………。
まぶたを閉じた。
…………。
まぶたを開ける。
寝返りを打って魔理沙の様子を見る。寝息が聞こえる。
…………。
寝返りを打って天井を見、まぶたを閉じる。
…………。
…………。
…………。
まぶたを開ける。
上半身を起こす。
顔に手を当てて深々と息を吐いて。
「眠れん」
ぼやく。
自分はこんなに寝つきが悪かっただろうか。
胡蝶夢丸ナイトメアを飲まされたせいで多少は気が立っている。そのせい?
それとも……怯えているのかしら。
胡蝶夢丸。飲むと蝶になって舞う夢を見てリラックスできる丸薬。
胡蝶夢丸ナイトメアタイプ。飲むと悪夢を見てスリリングな体験をできる丸薬。
就寝前の軽い雑談の最中、突然口に投げ込んでくるなんで……なんで飲んじゃったのよ私。吐きなさいよ。
だいたい悪夢ってどんな悪夢を見るのよ。誰かに追われる夢とか、そういう無難で一般的な悪夢なら別に怖くもなさそうなんだけど……作ったの永遠亭の薬師だものね……そんな甘っちょろい薬だったらいいんだけど……。
個々人の恐怖やトラウマを的確に突いてくる薬だったらどうしよう。
じろりと隣で眠る――あるいは気絶している――魔理沙を見やる。
その表情は苦しげだ。胡蝶夢丸ナイトメアの悪夢を堪能しているのだろう。
それを差し引いても、睡眠を取れていることが恨めしかった。
なんで眠れないのかしら私……。
布団に入っていると逆にしんどそうなので、一度完全に布団から出てしまおう。
私は台所に向かい、水を一杯飲んで一息つきつつ、ふらりと外に出る。
月と星にうっすらと照らされる博麗神社の玄妙な光景は、この地で生まれ育った私の精神を静めてくれる。
揺れる木々のざわめきや、涼やかな虫の声。
頬を撫でる軽やかな夜風。
……うん、眠れそう。
この心地よさから覚めてしまわないうちに、私は布団に戻ることにした。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
布団の中まで維持していた心地よさは、少しずつ少しずつ布団へと溶けていき――残ったのは眠気を感じぬ我が身だけ。
なんでよ。ここまで眠れないのって肉体的になにか問題が発生してるんじゃないのこれ。
胡蝶夢丸ナイトメアが変な作用を起こして眠れなくなったとかさ。
魔理沙も眠くなって眠った訳じゃなく、夢想封印で眠らせただけだし。
それとも私の体質にだけ合わなかった、ということかしら。
面倒くさい、ああ面倒くさい。
いっそとっとと寝入って悪夢を見終えてしまいたい。やってこない悪夢をずっと待ち続けるってのも鬱陶しいし。
ああ、だんだんイラついてきた。
こめかみに力がこもり、ついつい強くまぶたを閉じてしまう。あっ、少し心地いい。目の奥がぎゅ~っとなって、なぜか耳の奥がくぐもる。まぶたの筋肉と連動してなぜか唇の端にも力が入り、顔のマッサージをしているような気分。
ぐっ、ぎゅぎゅっ。ぎゅう~。
…………うん、スッキリ。
これでようやく眠れ……たらいいなぁ。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
体感時間ではもう一時間くらい経過してるんだけど、実時間は一時間より短いのか、それとも長いのか……確かめるのが怖い。
おうコラ胡蝶夢丸ナイトメア。怖がらせるなら悪夢で怖がらせなさいよ。
明日になったら永遠亭に行こう。胡蝶夢丸ナイトメアの瓶をあの薬師に投げつけてやろう。
魔理沙にもお仕置き追加決定。自慢のウィッチハットをフリスビーにしてぶん投げてやる。鬱蒼と茂る森の中へだ。探して迷え馬鹿魔理沙。
ああもうどうして私がこんな思いしなくっちゃならないのよ体感時間一時間も眠れないってどういうことなのよ夢を見せる薬ならむしろ睡眠薬であるべきじゃないの飲んだら眠くなるべきじゃないのそことんとこどうなのよ返事くらいしなさいよ私の脳内思考台詞にちゃんと反応しなさいよ魔理沙ァー!!
理不尽に怒りながら跳ね起きる。ギシギシと歯を食いしばって、下手人を殴りつけたい衝動を抑え込む。自分はこんなにも短気だっただろうか? 夜更かし、徹夜での寝不足なんて今まで何度も経験してるのにどうしてこんなにもイラつくの? いやそれらの時は眠いのを我慢して起きていたんであって、今は眠りたいのに眠くないっていう似て非なるケースだから初体験でありイラつくのは正常な反応すなわち魔理沙を殴るのは正常な報復行為であり閻魔のあいつもGOサインを出してるはず!
…………馬鹿か私は。
あーあ、布団に潜って羊でも数えよう。いや、これは英語で数えないと意味がないんだっけか。シープとスリープで発音が似てるからスリープって何度も言ってるように錯覚して眠くなるとかそんなことを吸血鬼から聞いたことがあるようなないような。あれ? 吸血鬼じゃなく魔女だったかな……地下暮らしで大人しい方の……。
ええい、やめやめ。英語なんか知らん。羊なんか知らん。
目を閉じてぼーっとしてればいつか眠れる!
…………。
…………なにもかんがえるな……。
………………。
……無の境地……。
ぼーっと、ぼんやり。
……肉まん食べたい。
……里の……美味しい肉まん、新しいの……人気なのよね……。
饅頭……紅白饅頭も食べたい……めでたい時だけじゃなくもっと普段から食べられるようしてくれないかしら。
…………んむ~……。
……なにも考えないのってこんな難しかった?
……ああ、でも……。
なんだか……。
眠くなってきた……かも……。
意識が落ち着いていくっていうか……水面……波のない静かな湖のような気持ち……。
深く暗く……静寂……ゆっくりと沈んでいく……そう、眠りの淵へ沈んでいく……。
余計なことを考えず……あ、なんか目を開けたい。イカン、開けたら眠気が飛ぶ。落ち着け、目を開けるな。寝返りも打つな。動くな。動いていいのは心臓だけよ。思考も放棄してぐったりとするの。私は泥。眠りの沼に沈んだ泥。泥のように眠る。眠くなったのだから眠れる。眠気を感じる。これが眠気。眠気がある。眠れる。眠れ。眠れっての。眠気があるんだから眠りなさいよ。なんで眠らないの。眠気あるっつってんでしょ。これ眠気じゃん。眠気たっぷりのまま布団でじっとしてるのよ。これで眠れないならどうなりゃ眠れるのよ。責任者出てこい。眠らせろ。眠らせろ。眠らせろ。
「ううぅ~……れ、霊夢やめろぉ」
「うるさぁぁぁあああえええい!!」
魔理沙が寝言で私の名を呼んだせいで意識が覚醒したのでどつきます。
布団を跳ね除けて魔理沙の胸倉を掴んで引っ張り起こして取り合えず頭突き。今の私なら寺子屋の教師の石頭すら粉砕する。死ねい!
ガッツーン。すさまじい衝撃が魔法使いの脳みそを滅茶苦茶に震わせる。
「ンゴアッ!?」
悪夢から目覚めた魔理沙は、額を押さえて涙目になりながら私を見、顔を蒼白にさせる。
「ひ、ひい! 待って、やめて。殺さないで!」
「待たん。殺す」
「ま、魔法使いになんてもうならないから! 私は一生死ぬ人間ですごしますからー!」
「……あー?」
どうやら眠りを妨げたため殺されるのだという自覚が無いらしく、涙目の魔法使いに睨みを効かせつつ考える。
魔法使いにならない……? 一生死ぬ人間……?
思い当たる節はある。
「どんな悪夢を見たかだいたい察したけど、寝言で安眠妨害するんなら放り出すわよ」
「あっ、あ……? 寝言? ……あれ、ここ……神社……」
「胡蝶夢丸ナイトメア飲んだんでしょうが。忘れたの?」
「ナイトメア……あ、なんだ……そっか……」
ポロポロと涙をこぼす魔理沙はまるで小動物に弱々しく、いつもの不遜な態度とは正反対だ。
殴りにくい。放り出しにくい。殺しにくい。
どうしたもんかとため息をつきつつ、魔理沙の胸倉を放してやる。
「あ、霊夢……私……」
「うるさい寝なさい」
こんな馬鹿に構ってられるか、私は寝る!
布団に潜り込み、魔理沙に背を向けて目を閉じる。
……まったく。
人里の人間が妖怪になるのは幻想郷で一番の罪。
もしそんな事態が発生したら退治するのが私の使命だ。
いつもの弾幕ごっこではなく、しっかりと存在を消滅させる。
みずから妖怪になるような人間にかける慈悲はないとはいえ、退治するよりはそもそも妖怪にさせない方がいいに決まってる。
今のところ鈴奈庵のあの子が妖怪変化の可能性が高く、監視対象になっている。
そして……魔理沙も監視対象の一人だ。まあ、こいつは自分から私に絡んでくるので、わざわざ監視に向かう必要が無くて楽なんだけど、こいつが本物の妖怪になったら私が退治しなきゃならない。
魔理沙が見た悪夢とは、そういうことなのだろう。
……でも魔法使いって人間の上位種族みたいなもんだから、抹殺対象になるのかしら? 仙人や天人だって人間ではないけれど、そういうのになるんだったら別にどうでもいいし。……今度、幻想郷でもっとも胡散臭い妖怪の賢者に訊ねてみよう。魔法使いは抹殺対象か否か。
などと人が真面目に考えているというのに、私の布団にもぞもぞと何者かが入ってきた。
背中にぴったりとくっついてきて鬱陶しい。
「……なんの真似よ」
「れ、霊夢も悪夢で怖い思いをするだろうから、い、一緒に寝てやる」
魔理沙を蹴り出した後、こちらに侵入してこないよう魔理沙の布団を囲むよう封魔陣しといた。
結界の向こうで泣かれてたけど知らん。私は眠らねばならないのだ。
防音結界も追加して泣き声をシャットアウトし、眠るという人間の命運をかけた戦いに身を投じるのだ。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
「っく、ふぁ~……」
今夜これで何度目のあくびだろう。
目尻に浮かんだ涙をぬぐう。
体感時間がもう二時間か三時間かってレベルなんだけど、どういうことなの。
寝返り打つのも疲れたんだけど。まぶたもいい感じに重くなったと思いきや、しばらくすると軽くなるのは何故。
なんか頭痛してきたんだけど、風邪とかじゃなく睡眠不足のせいよね。全身もだるいし。
「ふあァ……あっあ~……」
あくびって眠い時に出るんでしょ? 私、眠いんですけど。いつ眠れますか神様。あんま舐めてっと仏陀にお願いしますよ。仏教に鞍替えしますよ。それでも駄目なら仏陀をねじり切って道教に走ります。道教も駄目なら仙人という仙人をすり下ろします。その次はジーザスを血祭りに上げます。その次は……。
「ふぁあ~……」
しゃっくりは止まらないと死ぬって言うけど、あくびも止まらないと死んだりするのかな。死んだら眠れるわね、永遠に。それもいいかもしれない。だがその時は魔理沙の馬鹿と永遠亭の馬鹿を道連れ決定。ああでもあいつ不老不死か。どうやって滅ぼそう。なんだかんだで幻想郷にいるんだから幻想郷を滅ぼせばあいつ等も滅びるかな。博麗の巫女の職権乱用で幻想郷を滅ぼせば永遠亭を滅ぼせるに違いない。月の民だ頭脳だと言っても所詮は私の手のひらで踊る猿にすぎないのよざまあみろ。ふぁっはははははぁ、ざまあーみろー。
「ふわぁぁぁ……」
あくびのたび涙が浮かんでいちいち拭ってたら、目尻のこすりすぎで痛くなってきたんだけど。ただでさえ夜更かしは肌荒れを招くってのに涙のせいで余計に荒れてるわ。ハンカチ用意しとくんだった。
「あー……あーあーあー……」
これはあくびではない。
なんでこんな声を出してんだろ。
「あー」
眠い。
目を閉じて、今度は声に出さず繰り返す。
あーあーあー。あー。あーあー。あーああー。あー。
頭の中でひたすらに。思考を「あ」で単一化させてれば眠れるかもしれなひ。ひひひいひいひいひひひ。
ああああああああああああああああああああああああああああああ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
眠れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!
苛立ちのあまり跳ね飛ばした布団が、封魔陣に当たってバチリと焦げる。結界の内側で魔理沙のこんちくしょうはスヤスヤ寝ていやがります。封魔陣がなければぶん殴ってたのに、誰だこんなところに封魔陣を仕掛けたのは。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
いい加減アレなんで時計を確認。だいたい午前三時。床に着いたのは午後十時くらい。
……布団の中で五時間も右往左往してた馬鹿がいるらしい。
……五時間……? 妖怪から見たらまばたきほどの時間しか生きられない人間が、五時間も無駄にすごしたと?
この損失を取り返すには酒しかない。最高級の特別な酒をラッパ飲みしてやる。GOGO!
という訳で台所に来たのに酒瓶が行方不明。パクられたっぽい。
魔理沙? いや、盗んだなら逃げるタイプだし、のん気にお泊りなんかするはずない。
胡散臭いスキマ妖怪、酔っ払いの小鬼、盗んだアイテムで反逆する天邪鬼……下手人の心当たりが多すぎる。やはり滅ぼすべきか幻想郷。酒を守るためなんだから神主様も許してくれるに違いない。って、神主なんてうちにはいないでしょうに。誰よ神主。
ええい酒が無ければお茶を飲めばいいじゃない。
茶葉ならある。戸棚を開けて確認、ある。よし湯を沸かそう。
菓子も欲しいな。なにがあったか……饅頭は魔理沙と一緒に全部食べちゃったしな……。
ええい饅頭食べさせてやったのに胡蝶夢丸ナイトメア飲ませるとは許すまじ。今度魔理沙の家に行ったら菓子という菓子を永遠に借りてやる。死んでも返さないから覚悟しときなさい。
結局菓子は見つからず、お茶だけ飲んでしっかりとリラックスできた。
顔も洗ったし厠にも行き、軽く背伸びをして身体もほぐして気分スッキリ。
眠気も一緒に晴れてしまったけれど、むしろだからこそいつものように眠れるのだという予感がある。
さあ布団に向かおうというところで時計を確認。三時半くらいだった。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
時計を確認したら四時十五分だった。
これはアレだろうか。眠っていた感覚がないだけで、実は眠れているというケースなのだろうか。
目を閉じて開けたらもう朝だった、なんて眠り方を経験したこともあるし。
うん、きっとそうね。
私はすでに眠っていた。
だから、この猛烈な眠気もきっと勘違いよアハハハ。
はぁ……眠い……。
眩しい光を直視した後のように目が痛い……。というか目まいがしてる? 頭もくらくらするし。
軽く歯を噛み合わせて、唇を開ける。その行為に意味はないけど、ささくれだった心がわずかに癒されたためあごから力を抜いた。口が軽い。
続いて布団の中で手をグーパーさせて指の運動もさせてみたけれど、こっちは五回くらいで疲れてしまった。指先から倦怠感が這い上がってきて、神経から力を奪っていく。そのくせ筋肉に熱をこもらせて意識を揺さぶるんだからたまったもんじゃない。
手を胸の中心に重ねて置いてリラックスさせ、次に膝を立ててみる。足の裏で布団の感触を確かめてから太ももをすり合わせたところ、手と違って疲れは襲ってこなかった。これ幸いと太ももをすり続ける。摩擦で体温が上がっていくのも、布団のぬくもりより心強いのだから不思議だ。
膝を交差させるようにして、ぎゅっと太ももを閉じてみる。お尻の筋肉がきゅっとしまって布団から浮き上がり、太ももの付け根に力が蓄えられるのを感じた。
無意味な動きにも人体はちゃんと応えてくれている。
だのに、眠気にだけは応えてくれない。
唐突に絶叫を上げたくなり、衝動を誤魔化すため長く細く息を吐き続ける。
「はぁぁぁー……」
まだ、眠れない。
気が狂いそうになる。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
うおあーあーあーあーあ。ほげー。
眠れー眠れ良い子よー。
ねむねむれいむ。ねむれいむ。眠れよ霊夢、ねむれいむ。
うはははは、うひひひひ、うふふふふ、うへへへへ、うほほほほ。
ヤッホー! オーイエー! セーンキュー!
みーんみんみん、すいみんみん。すいみんぐ! 川で湖でさあ泳ごう! きっと楽しい睡眠具!
説明しよう睡眠具とは人間を安眠させるためのアーティファクトである。具体的には私が使っているこの枕! 寝心地抜群なので超眠れる! 私は今、間違いなく眠っている! ヒャッホー!
…………………………。
眠い。
………………。
眠らせろ。
…………。
アホらし。
……。
ふとんがふっとんだ。
あーっはっはっはははははは!
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
雀のさえずりが聞こえる。
時計を確認。六時半。
ニヤリと笑って布団を跳ね除け、全身を包む眠気と倦怠感でよろめきながらも立ち上がり、タンスに向かって一直線。パパッと手早く巫女装束に着替えて、退魔の針をありったけ用意する。滅ぼしてくれるぞ永遠亭。我が全身全霊、その身で味わって滅べ。
「フフフ……ファファファファファ、ファーッファッファッファッファ!」
結局……一睡も……できなかった……。
なんなのこれ、眠気はちゃんとあるのに一睡もできないって、人体の睡眠機能が壊れちゃったんじゃないの。
笑い声もなんかあくびが混ざった発音になってるし、暗黒巫女に生まれ変わった気分。それもいいかもしれない。
すべての記憶、すべての存在、すべての次元を消し、そして私も眠ろう……永遠に!
おっと、永遠亭の前に滅するべき邪悪がいたか。
魔理沙を囲う封魔陣の光に手のひらを押しつけ、気合一発、結界を爆発させる。
「ウボァー!」
悲鳴と轟音が響き、爆風が頬を撫でる。衝撃によって畳は剥がれ、壁には亀裂が走り、天井は抜けて木片が舞っている。
内側にいた魔理沙は眠ったまま永遠の眠りについたはずだ。
恨むなら胡蝶夢丸ナイトメアを飲ませた自分自身を恨むがいい。
「ファッファッファッ! 次は永遠亭だ。苦しむがいい……滅びるがいい……すべてを消滅させるまで、我が憎しみは続く……」
神社から飛び出し、迷いの竹林へ一直線に飛翔する。
幻想郷の景色が歪んで見えるせいで一直線には飛べてない気がする。
それでも着実に永遠亭に近づいているという実感があった。
「今度はお前達の番だ……来るがいい……我が暗黒の中へ……! 眠れぬ苦しみを味わうのだ……二度と月を拝めると思うな、月の賢者よ! ファファファ」
ヤバイ、超楽しい。
スーパーハイテンションでエンジョイ&エキサイティングしてる。
空を飛ぶ能力ってこういうことか。私は間違いなく飛んでいる。
まばゆい光が頭蓋骨の裏側で弾けるたび、蒼穹の空と緑の大地をいびつに捻じ曲がっていく。
飛べ。
飛べ。
もっと高く!
もっと速く!
もっと遠く!
飛べ!
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
迷いの竹林――寝不足でフラフラしながら一直線に蛇行していたら、あっという間に永遠亭に到着した。永遠亭へのルートを通ったにしては早い。知らず知らず近道を通ったのだろうか。好都合だ。
お祓い棒を振り回しながら永遠亭に殴り込む。戸をぶち破り、驚愕する兎達を横目に廊下を突っ切り、奥から矢が。
突風の如き一撃はあまりにも鋭く、避けられないと悟った私は即座にお祓い棒を盾とする。
腕全体が痺れるほどの衝撃が響き渡る。ぶつかり合ったお祓い棒と矢が弾かれて、それぞれ床と天井に刺さった。
おうおう、いきなり月の頭脳のお出ましか。
待ち受けるは第二の矢を番える八意永琳!
うおー、不老不死がなんぼのもんじゃーい!
「陰陽鬼神玉ァ!」
「アポロ13!」
互いのスペルが真正面から衝突する。
天地をつんざく轟音により、廊下の左右に立ち並ぶふすまが次々に吹っ飛んだ。
「くうっ! ヤブ医者め、やってくれるわね!」
「それはこちらのセリフです。突然攻め込んでくるとは、いかなる道理ですか」
「あんたの作った胡蝶夢丸ナイトメアを飲まされてから、こちとらどんなに眠ろうとしても一睡もできないのよ! だから永眠を永琳させて私も寝る!」
「永眠を永琳……!? それはいったいどういう……」
「寝言ほざいてんじゃない! 永琳を永眠させるっつってんでしょうが! もはや幻想郷ごと永遠亭を滅ぼすことにためらいは無い! 紅蓮地獄で血の花の布団に包まって永遠の悪夢を見るがいい。ファファファ、死ねい!」
「そ、そうか……そういうことだったのね! 悪夢とは、永遠とは! 現実に起こる現象を宇宙の真理と照らし合わせることで見える多角的真実の一面に宿りし博麗霊夢という人間の在りよう……つまり霊夢、あなたは!」
ありったけの針を投擲しつつ、さらに指に挟んで殴りかかる。狙うは永琳の首。針を刺して刺して刺し尽くして胴体とお別れさせてやる。すすれ! 針よ、月の血を存分にすすり尽くすのだ!
だが、永琳は針の弾幕の隙間を縫って私へと肉薄してきた。その流麗な所作はやけにゆっくりと見え――逆に私の手首を掴まれてしまう。ならば自分の腕ごとともう一方の手で針を突き立てようとした刹那、視界が回転する。投げられた!?
体勢を立て直そうにも上下が分からなくてはどうにもならない。いや、私は空を飛ぶ不思議な巫女。前後左右上下を喪失しようとも、己という場がある限り其処が居場所。浮くべき世界。
あるべき場所へ還れ! 我が身は常に宇宙の中心に座す!
宇宙の中心とは!
幻想郷――迷いの竹林――永遠亭――診察室――椅子!
診察室の椅子に座す!
「不眠症ですね。じゃあ睡眠薬出しとくんでちゃんと飲んでおくこと」
いつの間にやら対面に座って白衣姿になっている永琳が、カルテに何か書き込みながら薬を処方してくれた。
しかも睡眠薬ですって? それってアレよね、飲んだら眠れるっていう伝説の霊薬よね。
じゃあ飲むわ。永遠亭滅ぼすのはその後でいいわ。
「今すぐ飲むから水頂戴」
「はい」
「ありがと」
さっそく睡眠薬を飲むや、嵐のように荒ぶっていた眠気が急速に鎮まった。
消えたのではなく鎮まったのだ。よく食べよく働いた後のような心地よい眠気。
なんだか随分あっさりスピード解決したなぁと呆れつつも、これでようやく眠れるという安堵感に満たされたため、安堵の息が深々と漏れる。
そんな私の顔を、永琳が覗き込んできた。
「……なに? 眠いんだけど」
「ええ、それは分かってるし、だから睡眠薬を処方したのだけど――」
ニコリと笑って、永琳は告げる。
「睡眠薬を飲むなら、起きてからにした方がいいわよ」
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
まだ眠ってもいないのに、起きてからなんて言われても……と思って目を開けると、私は、博麗神社にいた。
……博麗神社の……寝室にいた……。
ぱちくりとまばたきをして上半身を起こすと、封魔陣を爆発させたはずの部屋が無傷の姿で目の前にある。
隣を見れば、魔理沙が封魔陣の結界壁を叩きながらなにかを呼びかけていた。防音結界も混ぜてあるため聞こえない。
……今までのは全部、夢?
いや、全部じゃない。封魔陣は張ってあるのだから、そこまでは紛れもない現実。
封魔陣を爆発させてからは間違いなく夢。でも、じゃあ、どこから?
分からない……分からないけれど……ああ、私はとっくに眠れていたんだとようやく理解する。
眠れないことが苦しすぎたため、胡蝶夢丸ナイトメアは眠れない今を悪夢として選択したのだ。
「フッ……ファファファ」
急に色んなことが馬鹿らしくなる。
魔理沙を、永遠亭を、許さないから滅ぼす? 幻想郷ごと?
ああ、やだやだ。睡眠不足って怖い。変なテンションになって心にもないことを実行しようとしちゃう。
まったく……本当に馬鹿馬鹿しい夜だった。
ちょっと眠れないくらいで魔理沙にも酷いことしちゃったな……後で私も怒りすぎたって謝って、一緒にお茶でも飲もう。今日は一緒に人里へ買い物にでも出かけて、茶屋でお饅頭を食べたり……うん、それがいい。そうしよう。
「ふぁ……」
あくび混じりの笑い声の後、本物のあくびが出て眠気が蘇ってくる。
まだ眠い。
時計を見ると午前七時半。うーん、何時間眠れたんだろう? ともあれまだまだ寝不足なのは確かだし、ここは二度寝にしゃれ込むとしましょうか。
枕に頭を沈め、布団をかぶり直し、素直に眠気を受け入れる。
ああ……ようやく自分の眠りを自覚して……普通に……眠れ……る……。
おやすみ……なさ……。
……い…………。
…………。
…………い……。
おし…………。
―― お し ま い ――
皮膚が破れて出血して女の子なのに顔が傷物コース上等といった勢いで。
「ギブ! ギブアーップ!」
手のひらが冷たく濡れたので、ああ、こいつ泣きおったかと理解してようやく手を緩めると、魔理沙は布団をゴロゴロ転がりながら苦しげに呻いた。
まったく、寝る前だっていうのにこの馬鹿はとんでもないことをしてくれた。寝る前だからやったとも言えるけれど。
私はこれでもかってほど眼差しを鋭くして訊ねる。
「反省してる?」
「してるしてる、超してる! だから霊夢、霊夢様! マジ勘弁!」
シンプルな暴力が効いたらしい、魔理沙らしからぬ殊勝な態度で土下座をする有様。本当に反省したのかもしれない。
「許さん」
が、許す許さないとは別なので、魔理沙が悪戯に使った"それ"を取り出し――突きつける。
「あんたも飲みなさい」
「いや、でも、そのぉ……」
本当に反省したといってもその程度か。安い反省だ。やはり許すまじ。
再び顔面を掴んでやろうと手を伸ばす。
「ひぃ!? 飲みます、飲みまーっす!」
大慌てで魔理沙は"それ"を引っ掴み、引っ繰り返し、こぼれた丸薬を一粒、水も無しに飲み込んだ。
「口、開けて」
飲んだふりをしているのかもしれないので確認。
夢想封印の光球をひとつだけ出現させ、それを明かりに魔理沙の口内を確かめる。歯並びいいな。
「ふがふが……」
「うん、ちゃんと飲んだみたいで。じゃ、おやすみ」
魔理沙の顔に安堵が浮かんだ刹那、光源として浮かべていた単発夢想封印を魔理沙の脳天にシュート!
「ゴバァッ!?」
痛烈な衝撃によって敷布団に突っ伏した魔理沙は、そのまま意識を手放し安らかではない眠りへと落ちた。
一応、ちゃんと掛け布団をかけてやる。あとは同じ苦しみを味わってくれればいい。まだ許してないけど、取り合えずの罰はこれでいい。
これから見る夢の内容次第ではさらなる苛烈な罰を与えねばなるまい。
今宵のことを思い、深々とため息一つ。
「……寝るか」
呟いて、瓶を枕元に置く。
これが、神社に泊まりに来た魔理沙に悪戯で飲まされてしまったものの正体である。
ラベルに書かれているその名は。
――胡蝶夢丸ナイトメアタイプ――
霧雨魔理沙の隣に敷いてある自分の布団に潜り込んだ私は行燈の灯を消すと、いったいどんな悪夢を見せられるやらとうんざりした心持ちでまぶたを閉じた。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
まぶたを開けた。
…………。
まぶたを閉じた。
…………。
まぶたを開ける。
寝返りを打って魔理沙の様子を見る。寝息が聞こえる。
…………。
寝返りを打って天井を見、まぶたを閉じる。
…………。
…………。
…………。
まぶたを開ける。
上半身を起こす。
顔に手を当てて深々と息を吐いて。
「眠れん」
ぼやく。
自分はこんなに寝つきが悪かっただろうか。
胡蝶夢丸ナイトメアを飲まされたせいで多少は気が立っている。そのせい?
それとも……怯えているのかしら。
胡蝶夢丸。飲むと蝶になって舞う夢を見てリラックスできる丸薬。
胡蝶夢丸ナイトメアタイプ。飲むと悪夢を見てスリリングな体験をできる丸薬。
就寝前の軽い雑談の最中、突然口に投げ込んでくるなんで……なんで飲んじゃったのよ私。吐きなさいよ。
だいたい悪夢ってどんな悪夢を見るのよ。誰かに追われる夢とか、そういう無難で一般的な悪夢なら別に怖くもなさそうなんだけど……作ったの永遠亭の薬師だものね……そんな甘っちょろい薬だったらいいんだけど……。
個々人の恐怖やトラウマを的確に突いてくる薬だったらどうしよう。
じろりと隣で眠る――あるいは気絶している――魔理沙を見やる。
その表情は苦しげだ。胡蝶夢丸ナイトメアの悪夢を堪能しているのだろう。
それを差し引いても、睡眠を取れていることが恨めしかった。
なんで眠れないのかしら私……。
布団に入っていると逆にしんどそうなので、一度完全に布団から出てしまおう。
私は台所に向かい、水を一杯飲んで一息つきつつ、ふらりと外に出る。
月と星にうっすらと照らされる博麗神社の玄妙な光景は、この地で生まれ育った私の精神を静めてくれる。
揺れる木々のざわめきや、涼やかな虫の声。
頬を撫でる軽やかな夜風。
……うん、眠れそう。
この心地よさから覚めてしまわないうちに、私は布団に戻ることにした。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
布団の中まで維持していた心地よさは、少しずつ少しずつ布団へと溶けていき――残ったのは眠気を感じぬ我が身だけ。
なんでよ。ここまで眠れないのって肉体的になにか問題が発生してるんじゃないのこれ。
胡蝶夢丸ナイトメアが変な作用を起こして眠れなくなったとかさ。
魔理沙も眠くなって眠った訳じゃなく、夢想封印で眠らせただけだし。
それとも私の体質にだけ合わなかった、ということかしら。
面倒くさい、ああ面倒くさい。
いっそとっとと寝入って悪夢を見終えてしまいたい。やってこない悪夢をずっと待ち続けるってのも鬱陶しいし。
ああ、だんだんイラついてきた。
こめかみに力がこもり、ついつい強くまぶたを閉じてしまう。あっ、少し心地いい。目の奥がぎゅ~っとなって、なぜか耳の奥がくぐもる。まぶたの筋肉と連動してなぜか唇の端にも力が入り、顔のマッサージをしているような気分。
ぐっ、ぎゅぎゅっ。ぎゅう~。
…………うん、スッキリ。
これでようやく眠れ……たらいいなぁ。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
体感時間ではもう一時間くらい経過してるんだけど、実時間は一時間より短いのか、それとも長いのか……確かめるのが怖い。
おうコラ胡蝶夢丸ナイトメア。怖がらせるなら悪夢で怖がらせなさいよ。
明日になったら永遠亭に行こう。胡蝶夢丸ナイトメアの瓶をあの薬師に投げつけてやろう。
魔理沙にもお仕置き追加決定。自慢のウィッチハットをフリスビーにしてぶん投げてやる。鬱蒼と茂る森の中へだ。探して迷え馬鹿魔理沙。
ああもうどうして私がこんな思いしなくっちゃならないのよ体感時間一時間も眠れないってどういうことなのよ夢を見せる薬ならむしろ睡眠薬であるべきじゃないの飲んだら眠くなるべきじゃないのそことんとこどうなのよ返事くらいしなさいよ私の脳内思考台詞にちゃんと反応しなさいよ魔理沙ァー!!
理不尽に怒りながら跳ね起きる。ギシギシと歯を食いしばって、下手人を殴りつけたい衝動を抑え込む。自分はこんなにも短気だっただろうか? 夜更かし、徹夜での寝不足なんて今まで何度も経験してるのにどうしてこんなにもイラつくの? いやそれらの時は眠いのを我慢して起きていたんであって、今は眠りたいのに眠くないっていう似て非なるケースだから初体験でありイラつくのは正常な反応すなわち魔理沙を殴るのは正常な報復行為であり閻魔のあいつもGOサインを出してるはず!
…………馬鹿か私は。
あーあ、布団に潜って羊でも数えよう。いや、これは英語で数えないと意味がないんだっけか。シープとスリープで発音が似てるからスリープって何度も言ってるように錯覚して眠くなるとかそんなことを吸血鬼から聞いたことがあるようなないような。あれ? 吸血鬼じゃなく魔女だったかな……地下暮らしで大人しい方の……。
ええい、やめやめ。英語なんか知らん。羊なんか知らん。
目を閉じてぼーっとしてればいつか眠れる!
…………。
…………なにもかんがえるな……。
………………。
……無の境地……。
ぼーっと、ぼんやり。
……肉まん食べたい。
……里の……美味しい肉まん、新しいの……人気なのよね……。
饅頭……紅白饅頭も食べたい……めでたい時だけじゃなくもっと普段から食べられるようしてくれないかしら。
…………んむ~……。
……なにも考えないのってこんな難しかった?
……ああ、でも……。
なんだか……。
眠くなってきた……かも……。
意識が落ち着いていくっていうか……水面……波のない静かな湖のような気持ち……。
深く暗く……静寂……ゆっくりと沈んでいく……そう、眠りの淵へ沈んでいく……。
余計なことを考えず……あ、なんか目を開けたい。イカン、開けたら眠気が飛ぶ。落ち着け、目を開けるな。寝返りも打つな。動くな。動いていいのは心臓だけよ。思考も放棄してぐったりとするの。私は泥。眠りの沼に沈んだ泥。泥のように眠る。眠くなったのだから眠れる。眠気を感じる。これが眠気。眠気がある。眠れる。眠れ。眠れっての。眠気があるんだから眠りなさいよ。なんで眠らないの。眠気あるっつってんでしょ。これ眠気じゃん。眠気たっぷりのまま布団でじっとしてるのよ。これで眠れないならどうなりゃ眠れるのよ。責任者出てこい。眠らせろ。眠らせろ。眠らせろ。
「ううぅ~……れ、霊夢やめろぉ」
「うるさぁぁぁあああえええい!!」
魔理沙が寝言で私の名を呼んだせいで意識が覚醒したのでどつきます。
布団を跳ね除けて魔理沙の胸倉を掴んで引っ張り起こして取り合えず頭突き。今の私なら寺子屋の教師の石頭すら粉砕する。死ねい!
ガッツーン。すさまじい衝撃が魔法使いの脳みそを滅茶苦茶に震わせる。
「ンゴアッ!?」
悪夢から目覚めた魔理沙は、額を押さえて涙目になりながら私を見、顔を蒼白にさせる。
「ひ、ひい! 待って、やめて。殺さないで!」
「待たん。殺す」
「ま、魔法使いになんてもうならないから! 私は一生死ぬ人間ですごしますからー!」
「……あー?」
どうやら眠りを妨げたため殺されるのだという自覚が無いらしく、涙目の魔法使いに睨みを効かせつつ考える。
魔法使いにならない……? 一生死ぬ人間……?
思い当たる節はある。
「どんな悪夢を見たかだいたい察したけど、寝言で安眠妨害するんなら放り出すわよ」
「あっ、あ……? 寝言? ……あれ、ここ……神社……」
「胡蝶夢丸ナイトメア飲んだんでしょうが。忘れたの?」
「ナイトメア……あ、なんだ……そっか……」
ポロポロと涙をこぼす魔理沙はまるで小動物に弱々しく、いつもの不遜な態度とは正反対だ。
殴りにくい。放り出しにくい。殺しにくい。
どうしたもんかとため息をつきつつ、魔理沙の胸倉を放してやる。
「あ、霊夢……私……」
「うるさい寝なさい」
こんな馬鹿に構ってられるか、私は寝る!
布団に潜り込み、魔理沙に背を向けて目を閉じる。
……まったく。
人里の人間が妖怪になるのは幻想郷で一番の罪。
もしそんな事態が発生したら退治するのが私の使命だ。
いつもの弾幕ごっこではなく、しっかりと存在を消滅させる。
みずから妖怪になるような人間にかける慈悲はないとはいえ、退治するよりはそもそも妖怪にさせない方がいいに決まってる。
今のところ鈴奈庵のあの子が妖怪変化の可能性が高く、監視対象になっている。
そして……魔理沙も監視対象の一人だ。まあ、こいつは自分から私に絡んでくるので、わざわざ監視に向かう必要が無くて楽なんだけど、こいつが本物の妖怪になったら私が退治しなきゃならない。
魔理沙が見た悪夢とは、そういうことなのだろう。
……でも魔法使いって人間の上位種族みたいなもんだから、抹殺対象になるのかしら? 仙人や天人だって人間ではないけれど、そういうのになるんだったら別にどうでもいいし。……今度、幻想郷でもっとも胡散臭い妖怪の賢者に訊ねてみよう。魔法使いは抹殺対象か否か。
などと人が真面目に考えているというのに、私の布団にもぞもぞと何者かが入ってきた。
背中にぴったりとくっついてきて鬱陶しい。
「……なんの真似よ」
「れ、霊夢も悪夢で怖い思いをするだろうから、い、一緒に寝てやる」
魔理沙を蹴り出した後、こちらに侵入してこないよう魔理沙の布団を囲むよう封魔陣しといた。
結界の向こうで泣かれてたけど知らん。私は眠らねばならないのだ。
防音結界も追加して泣き声をシャットアウトし、眠るという人間の命運をかけた戦いに身を投じるのだ。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
「っく、ふぁ~……」
今夜これで何度目のあくびだろう。
目尻に浮かんだ涙をぬぐう。
体感時間がもう二時間か三時間かってレベルなんだけど、どういうことなの。
寝返り打つのも疲れたんだけど。まぶたもいい感じに重くなったと思いきや、しばらくすると軽くなるのは何故。
なんか頭痛してきたんだけど、風邪とかじゃなく睡眠不足のせいよね。全身もだるいし。
「ふあァ……あっあ~……」
あくびって眠い時に出るんでしょ? 私、眠いんですけど。いつ眠れますか神様。あんま舐めてっと仏陀にお願いしますよ。仏教に鞍替えしますよ。それでも駄目なら仏陀をねじり切って道教に走ります。道教も駄目なら仙人という仙人をすり下ろします。その次はジーザスを血祭りに上げます。その次は……。
「ふぁあ~……」
しゃっくりは止まらないと死ぬって言うけど、あくびも止まらないと死んだりするのかな。死んだら眠れるわね、永遠に。それもいいかもしれない。だがその時は魔理沙の馬鹿と永遠亭の馬鹿を道連れ決定。ああでもあいつ不老不死か。どうやって滅ぼそう。なんだかんだで幻想郷にいるんだから幻想郷を滅ぼせばあいつ等も滅びるかな。博麗の巫女の職権乱用で幻想郷を滅ぼせば永遠亭を滅ぼせるに違いない。月の民だ頭脳だと言っても所詮は私の手のひらで踊る猿にすぎないのよざまあみろ。ふぁっはははははぁ、ざまあーみろー。
「ふわぁぁぁ……」
あくびのたび涙が浮かんでいちいち拭ってたら、目尻のこすりすぎで痛くなってきたんだけど。ただでさえ夜更かしは肌荒れを招くってのに涙のせいで余計に荒れてるわ。ハンカチ用意しとくんだった。
「あー……あーあーあー……」
これはあくびではない。
なんでこんな声を出してんだろ。
「あー」
眠い。
目を閉じて、今度は声に出さず繰り返す。
あーあーあー。あー。あーあー。あーああー。あー。
頭の中でひたすらに。思考を「あ」で単一化させてれば眠れるかもしれなひ。ひひひいひいひいひひひ。
ああああああああああああああああああああああああああああああ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
眠れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!
苛立ちのあまり跳ね飛ばした布団が、封魔陣に当たってバチリと焦げる。結界の内側で魔理沙のこんちくしょうはスヤスヤ寝ていやがります。封魔陣がなければぶん殴ってたのに、誰だこんなところに封魔陣を仕掛けたのは。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
いい加減アレなんで時計を確認。だいたい午前三時。床に着いたのは午後十時くらい。
……布団の中で五時間も右往左往してた馬鹿がいるらしい。
……五時間……? 妖怪から見たらまばたきほどの時間しか生きられない人間が、五時間も無駄にすごしたと?
この損失を取り返すには酒しかない。最高級の特別な酒をラッパ飲みしてやる。GOGO!
という訳で台所に来たのに酒瓶が行方不明。パクられたっぽい。
魔理沙? いや、盗んだなら逃げるタイプだし、のん気にお泊りなんかするはずない。
胡散臭いスキマ妖怪、酔っ払いの小鬼、盗んだアイテムで反逆する天邪鬼……下手人の心当たりが多すぎる。やはり滅ぼすべきか幻想郷。酒を守るためなんだから神主様も許してくれるに違いない。って、神主なんてうちにはいないでしょうに。誰よ神主。
ええい酒が無ければお茶を飲めばいいじゃない。
茶葉ならある。戸棚を開けて確認、ある。よし湯を沸かそう。
菓子も欲しいな。なにがあったか……饅頭は魔理沙と一緒に全部食べちゃったしな……。
ええい饅頭食べさせてやったのに胡蝶夢丸ナイトメア飲ませるとは許すまじ。今度魔理沙の家に行ったら菓子という菓子を永遠に借りてやる。死んでも返さないから覚悟しときなさい。
結局菓子は見つからず、お茶だけ飲んでしっかりとリラックスできた。
顔も洗ったし厠にも行き、軽く背伸びをして身体もほぐして気分スッキリ。
眠気も一緒に晴れてしまったけれど、むしろだからこそいつものように眠れるのだという予感がある。
さあ布団に向かおうというところで時計を確認。三時半くらいだった。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
時計を確認したら四時十五分だった。
これはアレだろうか。眠っていた感覚がないだけで、実は眠れているというケースなのだろうか。
目を閉じて開けたらもう朝だった、なんて眠り方を経験したこともあるし。
うん、きっとそうね。
私はすでに眠っていた。
だから、この猛烈な眠気もきっと勘違いよアハハハ。
はぁ……眠い……。
眩しい光を直視した後のように目が痛い……。というか目まいがしてる? 頭もくらくらするし。
軽く歯を噛み合わせて、唇を開ける。その行為に意味はないけど、ささくれだった心がわずかに癒されたためあごから力を抜いた。口が軽い。
続いて布団の中で手をグーパーさせて指の運動もさせてみたけれど、こっちは五回くらいで疲れてしまった。指先から倦怠感が這い上がってきて、神経から力を奪っていく。そのくせ筋肉に熱をこもらせて意識を揺さぶるんだからたまったもんじゃない。
手を胸の中心に重ねて置いてリラックスさせ、次に膝を立ててみる。足の裏で布団の感触を確かめてから太ももをすり合わせたところ、手と違って疲れは襲ってこなかった。これ幸いと太ももをすり続ける。摩擦で体温が上がっていくのも、布団のぬくもりより心強いのだから不思議だ。
膝を交差させるようにして、ぎゅっと太ももを閉じてみる。お尻の筋肉がきゅっとしまって布団から浮き上がり、太ももの付け根に力が蓄えられるのを感じた。
無意味な動きにも人体はちゃんと応えてくれている。
だのに、眠気にだけは応えてくれない。
唐突に絶叫を上げたくなり、衝動を誤魔化すため長く細く息を吐き続ける。
「はぁぁぁー……」
まだ、眠れない。
気が狂いそうになる。
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
うおあーあーあーあーあ。ほげー。
眠れー眠れ良い子よー。
ねむねむれいむ。ねむれいむ。眠れよ霊夢、ねむれいむ。
うはははは、うひひひひ、うふふふふ、うへへへへ、うほほほほ。
ヤッホー! オーイエー! セーンキュー!
みーんみんみん、すいみんみん。すいみんぐ! 川で湖でさあ泳ごう! きっと楽しい睡眠具!
説明しよう睡眠具とは人間を安眠させるためのアーティファクトである。具体的には私が使っているこの枕! 寝心地抜群なので超眠れる! 私は今、間違いなく眠っている! ヒャッホー!
…………………………。
眠い。
………………。
眠らせろ。
…………。
アホらし。
……。
ふとんがふっとんだ。
あーっはっはっはははははは!
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
雀のさえずりが聞こえる。
時計を確認。六時半。
ニヤリと笑って布団を跳ね除け、全身を包む眠気と倦怠感でよろめきながらも立ち上がり、タンスに向かって一直線。パパッと手早く巫女装束に着替えて、退魔の針をありったけ用意する。滅ぼしてくれるぞ永遠亭。我が全身全霊、その身で味わって滅べ。
「フフフ……ファファファファファ、ファーッファッファッファッファ!」
結局……一睡も……できなかった……。
なんなのこれ、眠気はちゃんとあるのに一睡もできないって、人体の睡眠機能が壊れちゃったんじゃないの。
笑い声もなんかあくびが混ざった発音になってるし、暗黒巫女に生まれ変わった気分。それもいいかもしれない。
すべての記憶、すべての存在、すべての次元を消し、そして私も眠ろう……永遠に!
おっと、永遠亭の前に滅するべき邪悪がいたか。
魔理沙を囲う封魔陣の光に手のひらを押しつけ、気合一発、結界を爆発させる。
「ウボァー!」
悲鳴と轟音が響き、爆風が頬を撫でる。衝撃によって畳は剥がれ、壁には亀裂が走り、天井は抜けて木片が舞っている。
内側にいた魔理沙は眠ったまま永遠の眠りについたはずだ。
恨むなら胡蝶夢丸ナイトメアを飲ませた自分自身を恨むがいい。
「ファッファッファッ! 次は永遠亭だ。苦しむがいい……滅びるがいい……すべてを消滅させるまで、我が憎しみは続く……」
神社から飛び出し、迷いの竹林へ一直線に飛翔する。
幻想郷の景色が歪んで見えるせいで一直線には飛べてない気がする。
それでも着実に永遠亭に近づいているという実感があった。
「今度はお前達の番だ……来るがいい……我が暗黒の中へ……! 眠れぬ苦しみを味わうのだ……二度と月を拝めると思うな、月の賢者よ! ファファファ」
ヤバイ、超楽しい。
スーパーハイテンションでエンジョイ&エキサイティングしてる。
空を飛ぶ能力ってこういうことか。私は間違いなく飛んでいる。
まばゆい光が頭蓋骨の裏側で弾けるたび、蒼穹の空と緑の大地をいびつに捻じ曲がっていく。
飛べ。
飛べ。
もっと高く!
もっと速く!
もっと遠く!
飛べ!
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
迷いの竹林――寝不足でフラフラしながら一直線に蛇行していたら、あっという間に永遠亭に到着した。永遠亭へのルートを通ったにしては早い。知らず知らず近道を通ったのだろうか。好都合だ。
お祓い棒を振り回しながら永遠亭に殴り込む。戸をぶち破り、驚愕する兎達を横目に廊下を突っ切り、奥から矢が。
突風の如き一撃はあまりにも鋭く、避けられないと悟った私は即座にお祓い棒を盾とする。
腕全体が痺れるほどの衝撃が響き渡る。ぶつかり合ったお祓い棒と矢が弾かれて、それぞれ床と天井に刺さった。
おうおう、いきなり月の頭脳のお出ましか。
待ち受けるは第二の矢を番える八意永琳!
うおー、不老不死がなんぼのもんじゃーい!
「陰陽鬼神玉ァ!」
「アポロ13!」
互いのスペルが真正面から衝突する。
天地をつんざく轟音により、廊下の左右に立ち並ぶふすまが次々に吹っ飛んだ。
「くうっ! ヤブ医者め、やってくれるわね!」
「それはこちらのセリフです。突然攻め込んでくるとは、いかなる道理ですか」
「あんたの作った胡蝶夢丸ナイトメアを飲まされてから、こちとらどんなに眠ろうとしても一睡もできないのよ! だから永眠を永琳させて私も寝る!」
「永眠を永琳……!? それはいったいどういう……」
「寝言ほざいてんじゃない! 永琳を永眠させるっつってんでしょうが! もはや幻想郷ごと永遠亭を滅ぼすことにためらいは無い! 紅蓮地獄で血の花の布団に包まって永遠の悪夢を見るがいい。ファファファ、死ねい!」
「そ、そうか……そういうことだったのね! 悪夢とは、永遠とは! 現実に起こる現象を宇宙の真理と照らし合わせることで見える多角的真実の一面に宿りし博麗霊夢という人間の在りよう……つまり霊夢、あなたは!」
ありったけの針を投擲しつつ、さらに指に挟んで殴りかかる。狙うは永琳の首。針を刺して刺して刺し尽くして胴体とお別れさせてやる。すすれ! 針よ、月の血を存分にすすり尽くすのだ!
だが、永琳は針の弾幕の隙間を縫って私へと肉薄してきた。その流麗な所作はやけにゆっくりと見え――逆に私の手首を掴まれてしまう。ならば自分の腕ごとともう一方の手で針を突き立てようとした刹那、視界が回転する。投げられた!?
体勢を立て直そうにも上下が分からなくてはどうにもならない。いや、私は空を飛ぶ不思議な巫女。前後左右上下を喪失しようとも、己という場がある限り其処が居場所。浮くべき世界。
あるべき場所へ還れ! 我が身は常に宇宙の中心に座す!
宇宙の中心とは!
幻想郷――迷いの竹林――永遠亭――診察室――椅子!
診察室の椅子に座す!
「不眠症ですね。じゃあ睡眠薬出しとくんでちゃんと飲んでおくこと」
いつの間にやら対面に座って白衣姿になっている永琳が、カルテに何か書き込みながら薬を処方してくれた。
しかも睡眠薬ですって? それってアレよね、飲んだら眠れるっていう伝説の霊薬よね。
じゃあ飲むわ。永遠亭滅ぼすのはその後でいいわ。
「今すぐ飲むから水頂戴」
「はい」
「ありがと」
さっそく睡眠薬を飲むや、嵐のように荒ぶっていた眠気が急速に鎮まった。
消えたのではなく鎮まったのだ。よく食べよく働いた後のような心地よい眠気。
なんだか随分あっさりスピード解決したなぁと呆れつつも、これでようやく眠れるという安堵感に満たされたため、安堵の息が深々と漏れる。
そんな私の顔を、永琳が覗き込んできた。
「……なに? 眠いんだけど」
「ええ、それは分かってるし、だから睡眠薬を処方したのだけど――」
ニコリと笑って、永琳は告げる。
「睡眠薬を飲むなら、起きてからにした方がいいわよ」
○〇OoO〇○〇OoO〇○〇OoO〇○
まだ眠ってもいないのに、起きてからなんて言われても……と思って目を開けると、私は、博麗神社にいた。
……博麗神社の……寝室にいた……。
ぱちくりとまばたきをして上半身を起こすと、封魔陣を爆発させたはずの部屋が無傷の姿で目の前にある。
隣を見れば、魔理沙が封魔陣の結界壁を叩きながらなにかを呼びかけていた。防音結界も混ぜてあるため聞こえない。
……今までのは全部、夢?
いや、全部じゃない。封魔陣は張ってあるのだから、そこまでは紛れもない現実。
封魔陣を爆発させてからは間違いなく夢。でも、じゃあ、どこから?
分からない……分からないけれど……ああ、私はとっくに眠れていたんだとようやく理解する。
眠れないことが苦しすぎたため、胡蝶夢丸ナイトメアは眠れない今を悪夢として選択したのだ。
「フッ……ファファファ」
急に色んなことが馬鹿らしくなる。
魔理沙を、永遠亭を、許さないから滅ぼす? 幻想郷ごと?
ああ、やだやだ。睡眠不足って怖い。変なテンションになって心にもないことを実行しようとしちゃう。
まったく……本当に馬鹿馬鹿しい夜だった。
ちょっと眠れないくらいで魔理沙にも酷いことしちゃったな……後で私も怒りすぎたって謝って、一緒にお茶でも飲もう。今日は一緒に人里へ買い物にでも出かけて、茶屋でお饅頭を食べたり……うん、それがいい。そうしよう。
「ふぁ……」
あくび混じりの笑い声の後、本物のあくびが出て眠気が蘇ってくる。
まだ眠い。
時計を見ると午前七時半。うーん、何時間眠れたんだろう? ともあれまだまだ寝不足なのは確かだし、ここは二度寝にしゃれ込むとしましょうか。
枕に頭を沈め、布団をかぶり直し、素直に眠気を受け入れる。
ああ……ようやく自分の眠りを自覚して……普通に……眠れ……る……。
おやすみ……なさ……。
……い…………。
…………。
…………い……。
おし…………。
―― お し ま い ――
面白かったです
哀れ魔理沙、自業自得。
とてもよかったでしは
やりすぎバイオレンス霊夢
「ん?」って思って作者名確認したらやっぱり貴方だったかww
夢オチではない夢オチ。面白かったです 後書きの続きが気になります
眠れない夜の苦しさを思い出してしまい、これタグはギャグだけどホラーだろって
でも面白かったです
霊夢のイライラが楽しかったです。
ラスト魔理沙乙です
魔理沙が我慢できず漏らしてしまいめそめそ泣くところまで幻視しました
気になるのは、魔理沙は「人里の」人間にカウントされるのか、ですね。
私は、魔理沙は魔法の森という人里の外にでた、つまりは人里にいる人間ならば受けられる庇護などのルールの枠外に出た人間なのでは、と解釈していましたので。
テンションが高すぎる夜のお話 面白かったです