Coolier - 新生・東方創想話

咲夜が夜中にこっそりケーキを食べる

2015/07/06 10:24:55
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紅魔館の夜。働いていたメイド達や門番はとっくに眠っている時間だ。
そんな深夜に、咲夜は一人でキッチンに居た。
咲夜の目的は冷蔵庫の中。そこにある箱に入ったケーキだ。
ただのケーキでは無い。人里の超人気店で販売されているもので、開店してからあっという間に売り切れてしまう。
一日に作るケーキ数は決まっていて、一度売り切れたら翌日までもうケーキは手に入らない。
とても入手困難なケーキなのだ。
それを、咲夜は今日とうとう手に入れた。
しかし、誰もが羨ましがるこのケーキを人前で食べれば、きっと周りからおねだりされまくるに違いない。
だから咲夜はこんな夜中に、人目を避けてコッソリケーキを独り占めしようと考えたのだ。
冷蔵庫を開くと、そこには"食べるな、レミリアより。"と書かれた箱が入っている。
これはレミリアが書いたわけではない。
書いたのは咲夜。
こうしておけば他の誰かが冷蔵庫を開けてケーキを盗み食いするなんて事は無いと考えたからだ。
紅魔館の主であるレミリアのお菓子を盗み食いなんてすれば、どんな恐ろしい仕打ちを受けるかわかったものじゃない。
実際、他のメイド達はビビって箱に触る事さえしなかった。
メイド達、は...

咲夜は冷蔵庫の箱を見て思わず顔がニヤけた。
入手困難の超人気ケーキ。一体どんな味がするのか、早く食べたくて仕方がなかった。
この時のために、咲夜は皆が寝るまでずっと我慢してきたのだ。

咲夜がケーキ箱に手を伸ばした時...

「すいませーん!誰かいますー?」

背後から声がした。咲夜は慌てて冷蔵庫を閉める。

「あ、咲夜さんじゃ無いですか、どうしたんですこんな時間に」

声の主は美鈴だった。
咲夜はさらに焦った。この門番美鈴は紅魔館の中でもかなりの食いしん坊だ。
この門番にだけは絶対バレてはならないと咲夜は思っていた。

「あ、明日の朝食の準備をね...」

適当な理由で誤魔化してみる。

「へえー、お疲れ様です。でも、早く寝ないとお肌に悪いですよ」
「そ、そうね、そろそろ寝るわ。あなたは何してるの?こんな時間に」

咲夜は早く帰って寝てくれと願いながら質問した。

「トイレですよ。そしたらキッチンの明かりが点いていたので誰か消し忘れたのかと」
「そうだったの、ご苦労様。私が消しておくからあなたは早く寝なさい」
「そうですね」

そう言って美鈴は退出して行った。
咲夜は安心し、再び冷蔵庫に手を伸ばした。

「咲夜さーん」

また背後から声が聞こえる。
咲夜は冷蔵庫に伸ばした手を引っ込めた。
振り向くとまた美鈴がキッチンに入ってきていた。

「な、なによ?」
「せっかくキッチンに寄ったんだから一杯お茶でも飲んでから寝ようと思いまして」
「あ、そ、そう。でもお茶にはカフェインが入ってるから寝る前はやめた方が...」
「私がそんな事で眠れなくなるような奴だと思います?」
「確かにコーヒー飲ませてもあなたの居眠りは治らないわね...」

美鈴は湯飲みにお湯とティーパックを入れて、椅子に座った。

「私の事は気にしないでください。これ飲んだらすぐ寝ますから」
「う、うん」

咲夜は焦る気持ちを抑え、美鈴が立ち去るのを待つ事にした。

「んー...」

突然美鈴が顔を覗き込んで来た。

「な、何よ!?」
「なーんでそこにずっと立ってるんです?」

咲夜はしまったと思った。
キッチンで何かをする訳でもなくただ美鈴が帰るのを待っていた事が疑惑を抱かせてしまったようだ。

「えっと〜、私もお茶飲みたいな〜と思って」

それを聞いてさらに美鈴が疑いの目を向ける。

「えぇ?さっきカフェインがあるから飲まない方がいいって言ったじゃないですか」
「わ、私だってカフェイン効かない体質なのよ!」

咲夜は急いでお茶を淹れ始めた。

「おかしぃですね〜」
「え!?あなた!な、何でそれをっ!」
「はい?」
「え?」
「いや、おかしいですね。って言ったんです。今日の咲夜さんは何か変です」
「え?ああ、おかしい...ねぇ...気のせいよ気のせい」
「そうですか〜ま、ごゆっくり〜」

そう言って美鈴が立ち上がった。
どうやらお茶は飲み終わったようだ。
ようやく帰ってくれると、咲夜は安堵した。

「おやすみなさい、明日は居眠りしないように早く寝るのよ」
「はーい」

美鈴がキッチンから去って行く。
咲夜はさっき淹れたばかりのお茶などには目もくれず、再び冷蔵庫に向かった。

「はあ、全くあの門番は...」

咲夜が冷蔵庫を開けようとしたとき、彼女はある事に気がついた。

「そうだ、お皿も用意しなくちゃね」

咲夜は食器棚の方行き、適当なお皿とフォークを取り出した。
しかし、咲夜はお皿をしばらく眺めると、それを元の場所に戻した。

「あのお皿はちょっと地味ね。やっぱり特別なケーキを食べる時は特別なお皿じゃなきゃ」

咲夜は棚の上から別の皿を取り出そうとした。
咲夜の身長では棚の上まで手が届かないため、咲夜は椅子を持って来てその上に乗った。
咲夜は目当ての皿を手に入れ、フォークと共にテーブルにそれを置いた。

「さて、いよいよケーキを...」

咲夜が胸を躍らせ冷蔵庫に近づくと...

「咲夜さん咲夜さん!」

また美鈴がキッチンに飛び込んできた。

「またなの!」

いい加減にしろ!と叫びたい気持ちを抑えて、咲夜は冷蔵庫から離れた。

「今度は何?」
「いやー、実は咲夜さんに伝えたい事がありまして...」
「何よ?」
「実はですね〜、咲夜さんのために...おや?」

美鈴は話の途中でテーブルの皿とフォークに気がついた。
咲夜はまたもしまったと思った。

「何です?何でお皿とフォークが...」
「いや、ちょっとお菓子でも食べようと思って...」

咲夜は慌てて菓子を入れてある棚を開いた。
中に入っていたのは羊羹と煎餅と飴玉。
咲夜は羊羹を取り出すと皿の上に乗せた。

「よ、羊羹を食べたかったのよ」
「さ、咲夜さん...ダメですよ」
「何がよ」
「夜中にそんなもの食べたら太りますよ」
「わ、私は気にしないタイプなのよ」
「何言ってるんですか?咲夜さんの方からそう言ってきたんじゃないですか」
「え?」
「覚えてませんか?この前私が夜中にシュークリーム差し入れに持って行ったら、太るからと言って食べなかったじゃないですか〜」
「そ、そんな事もあったかしらねぇ?それより、何なのよ伝えたい事って」

これ以上美鈴と話していればボロが出てしまうと思い、咲夜は話を切り替えた。

「ああ、そうでしたね、ええー...」
「何?」
「すいません、何を伝えようとしていたのか忘れてしまいました」

咲夜は呆れてため息を吐いた。

「はぁ、じゃあまた明日思い出したら教えてね」
「いえ、今伝えたいんです」
「そんなにこだわらなくてもいいでしょう?」
「今伝えないとモヤモヤして眠れないかもしれません。だから頑張って思い出します!」

咲夜は困り果ててしまった。なぜ今日に限ってこの門番はさっさと寝てくれないのか不思議でならなかった。
咲夜の目の前にはお洒落な皿に乗せられた羊羹が有る。出来ればこの羊羹は口にしたくは無い。
今咲夜が最も食べたいものはケーキだ。その前に甘ったるい羊羹など食べてしまえばケーキの味は台無しである。
かと言ってこの羊羹に手をつけなければ、ますます美鈴に怪しまれてしまう。
咲夜はこの難関をどうやって切り抜けるか考えを巡らせた。

「咲夜さん、羊羹食べないんですか?」
「ああ、さっきあなたが太るなんて言ったから食欲無くなっちゃったのよ」
「ええ〜...せっかく出したのに勿体無いなぁ」
「良かったら、美鈴食べてくれる?」
「うーん、分かりました」

美鈴は羊羹の乗せられた皿を手に取った。咲夜の脳内シミュレーション通りの展開だった。
あとは美鈴が伝えたい事とやらを思い出せば、彼女は帰って行く。
咲夜はテーブルに肘をついてそれを待った。

「うん、美味しい羊羹ですね」

美鈴は羊羹を全て食べてしまうと、皿を持って洗い場に向かった。

「あ、皿洗いなら私が...」
「大丈夫です。私が食べたんですから」

止めようとする咲夜を振り切って美鈴は皿を洗い始めた。
わずか皿一枚、フォーク一本である。洗い終わるまで大した時間はかからなかった。
綺麗になった皿を片手に、美鈴が言った。

「咲夜さん、このお皿はどこにしまえばいいですか?」
「そこよ。その食器棚の一番上」
「あ、分かりました〜」

咲夜は考えた。美鈴はいつまでここにいるつもりなのかと。
下手すれば思い出すまで何時間も居座りそうな気がしてきた。
そこで咲夜は、一旦自分も部屋に戻る事にした。

「美鈴、私はもう眠いわ。悪いけど先に寝るわね」
「えぇーそうですかぁ。なんとか要件を思い出して伝えたかったんですが、咲夜さんが寝たいならしょうがないですね」
「ええ、また明日お願いね、おやすみ」

咲夜がキッチンを出ようとする。しかし、美鈴は彼女の腕を掴んで止めた。

「さ、咲夜さん!」
「何よ?」
「えー...と、ちょっと聞きたいんですが、咲夜さんは洋菓子は何が好きですか?」

洋菓子と聞き咲夜は一瞬ドキッとしたが、怪しまれないよう冷静を保ちつつ答えた。

「洋菓子ねぇー...洋菓子といえばやっぱりケッ...っ」

ケーキと答えようとして咲夜は声を止めた。別にケーキと答えた所で不自然な事はない。しかし、ずっとケーキの事を美鈴に隠していた咲夜は無意識のうちにケーキという言葉を発する事を避けてしまったのだ。

「シュ、シュークリームよ」
「あぁ〜シュークリームですか。やっぱり咲夜さんは好きだと思ったんですよ〜それなのにあの時差し入れを食べて貰えなくてショックだったんですからね〜?」
「そ、そうごめんなさいね。では、私は寝るので...」
「あっ!待ってください!」

再び歩き出そうとする咲夜の腕を、美鈴がグイッと引っ張った。

「な、何よ、もう眠いんだけど」
「あの〜咲夜さんは洋菓子店でお勧めの場所ってありますか?」

流石に咲夜は不思議に思った。なぜ美鈴はやたら洋菓子について聞いてくるのか。
美鈴の目を、咲夜はじっと見つめた。

「な、何ですか?恥ずかしいです...」

美鈴の目はとても綺麗に透き通っていた。その目を見た咲夜は、自分の心の底まで見透かされているのだと感じた。
美鈴はもう自分の秘密に気がついているのだと、彼女の目から伝わってくる。
そして咲夜は、とうとう諦めた。

「はいはい、分かったわ。私の負けよ」
「え?何の事です?」
「とっくにバレてるみたいね〜アレの事、どーしてバレちゃったのかしら?」
「え、何で突然...」
「当たり前でしょ、突然に洋菓子、洋菓子、と。私を詮索しようとしていたわね?」
「はぁ、すいません。咲夜さんが洋菓子を隠れて食べようとしていた事は分かっていたんですが...」

咲夜は一回ため息を吐くと、テーブルに座った。美鈴もテーブルを挟んで咲夜の正面に座る。

「何でそこまで分かっちゃったのかしら?洋菓子って事まで」
「羊羹ですよ」
「羊羹?」
「咲夜さん、あのお皿のデザインは和菓子には似合いません。どう見ても洋菓子を乗せるべきお皿ですよ。それなのに咲夜さんは羊羹を乗せたのでおかしいと思ったんです」
「そんなの、私が見た目にこだわらず適当に皿を取ったかもしれないじゃない」
「私があの皿を片付ける時、棚の一番上にあると言いましたよね?適当に皿を取ったならあんな取りづらい所の皿を取りますか?」
「...確かに」
「それに咲夜さんはいつも夜中に甘いものは避けていました。太りますからね。でもそのルールを破ってまで羊羹を食べようとしたのも変だと思ったんです。もしかして咲夜さんはこの時間にしか食べられないもの、人目を避けて食べなければならないもっと特別なものを食べようとしていたのではないかと...」
「そっか、私とした事が...あの羊羹さえ出さなければなぁ...」

咲夜は頭をかかえた。

「いや、もっと前から咲夜さんは怪しかったですけどね。お菓子の関連で何かあるとは思ってましたよ」
「一体いつから...」
「私が今日の咲夜さんはおかしいですと言った時ですね、これはただの勘ですけどもしかして..."おかしい"と"おかし"を聞き間違えましたか?」

何でそんな事まで分かるんだ。と、咲夜は苦笑した。
そんな彼女に向かって、美鈴は笑顔で言った。

「咲夜さんの事はなんだって分かります!それにしてもひどいじゃあないですか。何で私にまで隠すんです?」
「あなたが一番食いしん坊だからね」
「た、確かに食べるのは好きですけど、咲夜さんが楽しみにしていたお菓子を奪ったりなんてしませんよ!」

美鈴が身を乗り出して必死に訴える。

「そうね、私はどうかしてたみたいだわ。あなたはいつも優しいのに」
「そんな事言われたら照れますよ」

咲夜は椅子にもたれると、大きく背伸びした。

「ああ、なんかバレたらバレたでむしろスッキリしたわ。何であんなに神経質になっていたのかしら?」
「咲夜さん、そんなにまでして独り占めしたかったお菓子って何なんですか?」
「人里の超人気店の商品よ。人気すぎて滅多に入手できないものなの」
「へえ〜、あんまり美味しそうじゃないなぁ」

美鈴が腕組みをしていやらしい笑みを浮かべた。
咲夜は少しムッとした顔になる。

「どういう意味?」
「そういうのって実際食べてみるとあんまり美味しくなかったりするんですよ。みんなが美味い美味いって言っているのを聞くと、大した事ない味でも美味いと錯覚してしまうんです。群集心理ってやつですかね〜。
咲夜さんもあんまり期待しすぎちゃだめですよ〜」

この根拠もない美鈴の言葉を、咲夜は黙って聞いていた。
そしてしばらくして咲夜は小さく笑った。

「嘘つき」
「え?」
「やっぱり貴方も食べたいんでしょう?」

美鈴は咲夜の意外な反応に焦りだした。

「え?え?何でですか?そんなこと一言も...」
「貴方がそうやって否定的になれば私が怒り出す。私がムキになって、そこまで言うなら食べてみろ!ってなる展開を狙ったんでしょう?」

美鈴は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

「あ〜はは、いやぁ〜、参りました」
「安心して、ちゃんとあなたにもあげるわ」
「あ、いや、遠慮しますよ。せっかく咲夜さんが楽しみにしていたんですから」
「いいの、なんだか今までアレに執着していた自分が馬鹿らしくなってきたのよ。それに、あなたと二人で食べたほうがもっと楽しめる気がするわ」
「本当ですか?嬉しいなぁ...」

咲夜が席を立ち、冷蔵庫を開いた。
これから出てくるデザートに期待して美鈴も目を輝かせている。
しかし、咲夜がケーキ箱を取り出した瞬間美鈴の顔が凍った。

「さ、咲夜さん...まさかそれが?」

美鈴の異変に気がついた咲夜は、不思議そうな顔をして答えた。

「そうよ。どうしたの青い顔して」
「い、いや、実は...」
「あ、このお嬢様の名前の事?これなら気にしないで。私が勝手に書いただけだから。盗み食い防止のためにね」

そう説明されても美鈴の顔は青いままだ。

「そうだったんですか。いや、そうじゃなくてですね...」
「開けるわよ〜」
「あ!ちょっ...」

咲夜は美鈴の話も聞き流して箱を開けた。
そして、箱の中の物が姿を現す。
咲夜はそれを見た瞬間、目を丸くした。

「えぇ!?」
「すいませえええええん!」

咲夜が驚きの声をあげるのと美鈴の土下座はほぼ同時だった。
咲夜の手元の箱の中には確かにケーキが入っている。しかし、その量は半分に減っていた。

「すいません!それ食べたの私です!」
「え?だって、お嬢様の名前書いてあるのに、何で食べたのよ!?」
「これです!これだったんですよさっき私が伝えようとしていた事って!やっと思い出しました!」

状況がよく分からない咲夜に、美鈴が半泣き顔で説明を始める。

「実は門番中に小腹が空いて冷蔵庫を開けたんですが、そこでこの箱を発見してしまったんです。気になった私はお嬢様に聞きに行ったんですが、お嬢様はそんな箱は知らないと仰るんです。そこで箱を直接お嬢様に見せたんですが、それでもお嬢様は知らないと仰る。なのでそれなら私が頂いても良いですかとお嬢様に聞いたら、それでも良いと許可を貰いましたので私は中のケーキを食べたんです。そうしたらそのケーキが非常に美味しくてですね、これは私が一人で頂くには申し訳ないと思い、咲夜さんにも食べてもらおうと半分残しておいたんです」

それを聞き咲夜は笑った。

「つまりあなたにケーキの事がバレてもバレなくても、結局貴方と分け合って食べるという結末は変わらなかったわけね」

咲夜は本当に馬鹿な事のために不安を抱いていたと思い、反省した。
何回もめーさく投稿しててすいません。
次回はレイマリでも書きたいと思います。
実はもう一つめーさく物で美鈴が統合失調症になる話も書いていたんですが、オチが思い浮かばなくてボツにしました。
ヘンダーソン
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コメント



0.460簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
今回は普通なのかw
6.無評価名前が無い程度の能力削除
これですげぇ面白かったら「普段はバカにしてるようなふざけた作品書くけど、本気を出すとすごい作者」みたいになるんだろうけどね。なんか中途半端な実力でダサいね。
7.100桜野削除
面白かったです。
それにしても投稿ペース速いなぁww
10.無評価名前が無い程度の能力削除
めーさく好きなので面白かったです
19.無評価コーヒー削除
オモロイwwwww