" />蓬莱人の安らえるとき 作者: ふみ切
Coolier - 新生・東方創想話

蓬莱人の安らえるとき

2015/06/30 18:41:09
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 永琳、永琳と呼ぶ声が聞こえた。不安と焦燥の声。母親を見失った、幼子のような声。また「時期」が来たのだと解った。
「どうしました、姫様」
「私は、私はどうもしないわ。永琳が」
「私が?」
「何処かへ行ってしまう。行ってしまう」
 輝夜は泣き顔を隠さなかった。人払いを徹底する為とはいえ、彼女の元に参ずるのが少しだけ遅れてしまった。その数分が、彼女にとっては恐ろしく長い時間だったのだろう。100年200年を微睡みながら過ごせる蓬莱人も、一瞬の鮮烈な不安を越えることはとても難しい。越えてしまえば跡形も無い、益体もない不安であればあるほど。
「私は貴女の側に居ますよ、姫様」
「駄目よ。側じゃ駄目。抱きしめていてくれなきゃ駄目」
「はい、姫様」
「姫様って呼んじゃ駄目」
「ええ、輝夜」
 彼女が私を求めてくれることに、短絡な歓びを感じていたのは遠い昔の話だ。何かを強く求めるということは、彼女の中に不安が残っているということ。それを取り除くことが出来なかった自分の無力を、寧ろ今は口惜しく思う。永遠の不安を取り除く薬は、忘却。そして無知。永遠の安寧をもたらす薬も、私ならばきっと、生み出すことが可能だ。それを輝夜に悟られぬよう、輝夜に処方することも、きっと造作も無いことだろう。それを彼女が望んでいるという、確信を得さえすれば。
 この大地が消滅しても、私達は生きている。そのことを、私はいつも考えている。惑星の寿命が尽きる日、私達は宇宙空間に放り出される。他の天体に移住する為の技術を、今のうちに確立して置かなければならない。それが間に合わないのなら、私は真空の中で、片時も離れず、輝夜を後ろから抱きしめて過ごすつもりだ。輝夜が退屈しないように、子守唄を歌い続けるつもりだ。それこそ、お伽噺のようだけれど。私達にとっては、果て無き未来も、無限の宇宙も、世界の喪失も、全て現実問題である。
「大丈夫。明日はちゃんと来るわ」
「明日が終わったら、どうなるの」
「明後日が来るわ」
「暦が終わったら、どうなるの」
「それでも世界は続くわ」
「世界が終わったら、どうなるの」
「賢い輝夜、貴女は解っているはずよ」
「ええ。解っている。解っているわ……」
 瞳が閉じられ、更に数滴涙が落ちる。私の身体を掻き抱く、彼女の手に力が篭もる。痛いくらいに。
「永琳、ごめんなさい。忘れていてごめんなさい。貴女が何よりも私を愛してくれていることを、貴女が誰よりも私を見守ってくれていることを、忘れていてごめんなさい」
「いいえ、輝夜」
 それは良いことなのよ。貴女が全てを忘れて過ごせるように、そのために私は居るのだから。
 藤原妹紅と戯れる日々。永遠亭の面々と紡ぐ日々。里の人々、騒がしい妖怪達とふれあう日々。貴女の記憶が、そんな戯曲で埋められていれば良い。私という存在が、貴女にとっての完全なバックグラウンドであれたら良い。貴女が思い出さなくても、貴女の中にいつも私が居ることを、それをこそ私は幸福に感じる。悠久の時を漂いながら、あらゆる記憶が希釈されて、蓬莱山輝夜という自我すらも思い出せなくなった時に、私が貴女の後ろに控えていることで、貴女が貴女の輪郭を思い出す、その助けになれたらいい。
「もっとしっかり抱きしめていいわ。涙が乾いたら、よく眠れる薬をあげる」
「……ありがと、永琳」
 少しだけ恥ずかしそうな声を出す輝夜。夢の余波は収まりつつ在る。無理はしないで。
「またやっちゃったね。私きっと、またしばらくして、迷惑をかけるのね」
「迷惑、ね」
 貴女の悲しみを取り除きたい。私の願いはそれだけだから。
「私の主観だけで語るならば、姫の泣き顔はとても可愛らしく、魅力的です。歓迎ですよ」
「永琳なんか嫌い」
「ふふ」
 全てが薄まる、その日は近い。永遠を歩むものに、「遠い未来」なんてないのだ。あっという間に過ぎてしまう今の間に、沢山私を呼んでいて欲しい。永琳、永琳、と。
普段はあまり触れ合わなくても、時折激しく共依存的な二人で居てほしいと思います。
ふみ切
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コメント



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これはいいお話。輝夜がかわいいですね。
4.100点奇声を発する程度の能力 削除
良い関係
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宇宙空間を漂う妹紅を何となく想像してしまいました。
6.80点名前が無い程度の能力 削除
しっとりしたいいお話でした。
7.90点名前が無い程度の能力 削除
地球壊れても生き続けるって怖すぎる。
死んでは蘇ってを繰り返すんだろうか。
8.100点名前が無い程度の能力 削除
なんかドロドロしてる
11.90点名前が無い程度の能力 削除
輝夜と永琳の二人は、二人だけで世界が完結してるような気がする
13.80点名前が無い程度の能力 削除
恐ろしさもある素晴らしいえーてるでした
14.90点名前が無い程度の能力 削除
よかったです。
16.100点名前が無い程度の能力 削除
たまに共依存な二人…ありだと思います