あなたの側にいる門番がいます

「咲夜さん、それじゃあ気を付けて行ってきてくださいね」

そう言って美鈴はまだ幼い咲夜の頭を撫でた。
レミリアの命令で、咲夜は人里まで買い物に行く事になった。
咲夜の教育係である美鈴は、いつも咲夜の側に付いているだけに、一人でお使いに行かせるのは不安でならなかった。
門の前で咲夜を送った美鈴は、咲夜の姿が消えるまでずっと見守っていた。

咲夜は人里に着くと、美鈴からもらった買い物リストを頼りに店を周り始めた。
咲夜はまだ幼いながらも、非常に冷静な判断力を持っていた。
普通の子供ならば緊張でパニックになり泣き出してもおかしく無いこの状況でも、咲夜は淡々と買い物をこなしていった。
そんな咲夜を物陰から追跡する者が居たが、咲夜は全く気が付いていない。
美鈴が我慢出来ずに追ってきてしまったのだ。
咲夜が何事も無く買い物をする姿を見て、美鈴は一安心した。
そして咲夜はとうとう全ての買い物を終わらせた。
美鈴はすぐにでも飛んで行って、よくやったと頭を撫でてあげたい気分だった。
咲夜が館に戻ろうとした時、数人の子供が現れた。

「おい！お前人間のくせに人間食うのかよ！」

一人の子供が咲夜に言った。

「何のこと？」

咲夜は嫌そうな顔をしてそう聞き返す。

「お前あの吸血鬼の家に住んでんだろー？人間のくせによー」
「じゃああいつらと一緒に人間食ってんだろー？」

咲夜は少し怒りながら答えた。

「みんなは優しいよ、お嬢様も、美鈴も、そんな事しないよ」

子供達が嘲笑する。

「嘘付けー！お父さんがあそこの館は人食い妖怪が居るから近寄るなっていってたぞー！」
「お前なんで人間なのに妖怪と住んでんだよー！この裏切り者〜」

美鈴がやばいと思って飛び出そうとしたが、既に遅かった。
怒った咲夜が子供のうちの一人に殴りかかったのだ。
子供達も怒りだし咲夜に反撃しようとする。
しかし、何とか咲夜が被害を受ける前に美鈴が間に入る事が出来た。

「美鈴、いたの？」
「咲夜さん、ケガは無いですか？」
「うん、ねえ！あいつらが私達の悪口言った！」

咲夜がそう言うと、美鈴はゆっくりと子供達の方へ歩み寄った。
美鈴は咲夜に殴られた子供の前に座ると、その子の手を取って言った。

「大丈夫ですか？どこか痛いですか？」

美鈴はすぐにその子供の口が少し切れているのに気がつく。
美鈴はその子の口指を当てると、気を流し込んだ。

「すいませんねぇ、痛かったでしょう？」
「美鈴何やってるの！？」

咲夜が後ろで叫んだが美鈴は返事をしない。
美鈴は目の前の子供に集中し気を流し続ける。
すると、子供の口の傷が少しずつ塞がっていき、最後は完全に治癒された。

「私の気で治癒力を高めたんです。軽い傷だったからすぐ治って良かったです」
美鈴はそう言ってニッコリと笑いながら子供の頭を撫でた。
治された子供は驚いた表情のまましばらく呆然としていたが、やがて他の子供達を連れて走り去って行った。

「さあ、咲夜さん帰りましょうか」

美鈴は笑顔のまま振り返り咲夜に手を差し伸べるが、咲夜は不満そうに美鈴を睨んだ。

「バカ！あいつら悪口言ったのに何で助けたのさ！」

美鈴はそう怒られても笑顔のままだ。

「咲夜さん、悪口言われたからって殴ったらあの子達はもっと咲夜さんを嫌いになりますよ？」

美鈴は咲夜の服の埃を払い落とした。

「咲夜さんにケガが無くて安心しました。本当に」

そう言って美鈴は咲夜を抱きしめた。

「もうあんな危ないことしないでくださいね」

咲夜は美鈴肩に顔を擦りつけて泣き出した。

「だって、だって、悔しかったんだもん！」
「大丈夫ですよ、何を言われても私は咲夜さんの味方ですから」











「世界中があなたの敵になっても、ただ一人の味方になる。 」










あなたの側にいる門番がいます
あなたの側にいる門番がいます
ほら振り返ってみればそこに
あなたの側にいる門番がいます

優しい世界。