Coolier - 新生・東方創想話

それは恋ではないと私は断じた

2015/06/15 20:41:57
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※フェティシズム全開な内容となっていますので、閲覧の際はご注意を。



 人間の関係性の変化というものは実に唐突に行われる。
 時に自分から、時に相手から、時には双方の思惑なんて関係なく出来上がったり崩れたりする。
 要因は様々ある。住んでいる環境が変わったり、告白が成功したりしなかったり、家族が増えたり減ったり、ただただ偶然が重なったり。
 人はその変化に喜び、悲しみ、楽しみ、憤り――大小の差はあれど、何かしらの心境を懐く。実に人間らしい生態だ。
 一期一会、合縁奇縁、子々孫々。人との関わりを表す先人の言葉が数多く存在している通り、人と人との関係は様々であり、変化を避けることは出来ないのである。
 私たちがその命を終える、その時まで。

 まぁ何が言いたいかというと、私こと霧雨魔理沙とその友人である博麗霊夢の関係に変化が生まれたのもまた突然のことであった、という事だ。



 # # #



「ねぇ、魔理沙。あんた、私のこと好きでしょ?」

 梅雨入りを果たした水無月の某日、すっかりと夜も更けた頃だ。卓袱台を挟んで対面に座る霊夢は、そんな冗談のような言葉を口にした。
 既に酒瓶を二つほど空けた今、私たちはすっかり出来上がっている。だから、酔っ払い特有の妄言だと断じた。そうでもなければ、こいつの口から色恋の話題なんて出てくるはずもない。相手は色気よりも食い気の似合う巫女様なのだから。
 酒のせいか速くなっている鼓動を意識しつつ、聞き間違えだろうと思い、私はおどけて返した。

「あー? すまんがもう一回言ってくれ。たぶん私の聞き間違いだろうが、誰が誰を何だって?」
「あんたが私を好きかって、そう聞いてるの」

 ……どうやら聞き間違えではなかったらしい。何ともアレな質問に、おっとっととよろける振りをする。決して動転した訳ではないから勘違いはやめて欲しい。
 さて、この場合の好きとはどういう風に捉えるべきだろうか。好きという言葉にも程度があって、大まかにラブかライクの二択になるのだが、私と霊夢の関係からいってラブはまず有り得ない話だ。
 となると自然、ライクの話になるのだが、正直な話、博麗霊夢という人間を好きかといえば微妙な所だ。ぐうたらだし、酒癖は悪いし、すぐ怒るし、機嫌なんてその時でコロコロ変わる。秋の空模様みたいな奴だ。
 その癖に努力も無しに何でもそつなくこなしやがる。嫌みを言わない嫌みな人間なのだ、博麗霊夢という人間は。そんな人間を好きかというと、やっぱり微妙だ。
 まぁ、今日みたく雨に濡れた私に風呂を貸してくれたり、その上で晩飯まで用意してくれて、こうやって酒の相手をする分には楽しい奴でもある。それらを差し引いて、おまけにおまけを重ねてようやくプラスマイナスゼロといった所だ。
 つまり、私は博麗霊夢の事が嫌いではないが特別好きな訳でもない。証明終了、QEDだ。

 目の前の霊夢は静かだ。恥ずかしい質問をしたと顔を赤らめたり、私からの回答を前にソワソワしたりもしない。ただこちらを見つめてくるだけである。
 本当に可愛いげのない奴だと思う。こんな奴を好きだと言う奴は、相当に奇人変人な上にお人好しなひねくれ者だろう。もしそんな輩がいるのならば、そのご尊顔を拝見したいくらいだ。
 そして私は違う。私はそんな奇特な人間ではなく、ごく普通の魔法使いなのだから。霊夢とは、あくまでプラトニックな友人関係でいたいと思っている。
 何を思っているのか覚らせないライトブラウンの瞳を見つめ返す。ご期待に沿えず申し訳ない、などと心中で謝りながら答えを口にしようとした。

「……ぁ」

 それなのに、この口からはまともな言葉が出てこない。ほんの一言、否定の言葉を紡げないでいる。
 真っ先に酔いで呂律が回らないせいだと考えた。だから震える手で水割り用の水の入った徳利を掴み、行儀悪くラッパ飲みした。口の端から零れる水をひと拭い、深呼吸をして今度こそ……と思うのだが、やはり喉は凍りついたように声を発しない。
 酔いが酷い? いや、悪酔いするような飲み方はしていない。では、失語症か? あまりに唐突過ぎるし、理由がない。もしかして、霊夢に喉をやられた? いやいや、答えを求める相手にそんなことをするはずがない。
 ということは、だ。考えたくもない事だが、もしかして、ひょっとして、霧雨魔理沙は博麗霊夢を好きではない、と口にすることを無意識に拒んでいるとでもいうのだろうか?
 いやいや、それは有り得ない。相手はあの霊夢だ。好きになれない部分なんて山ほどあるし、逆に好きな所はと聞かれれば答えに窮する、そんな相手なのだ。そんな奴を好きなはずがない。……なのに、その言葉は一向に出てきやしない。

 口をパクパクと開閉するだけの私は、端から見れば間抜けな鯉か何かだろう。しかし、目の前の霊夢からすればそれも違って見える。すなわち、私は図星を突かれて言葉も出ないのだ、と。
 とんだ大間違いだ。思い上がりも甚だしい。私が博麗霊夢が好きだなんてことは断じてないのだ。何故か口には出来ないけども。
 このままではマズイと判断した私の口から咄嗟に出てきたのは、我ながら逃げの言葉であった。

「お、お前が好きかどうかなんて知らん、解らん! そう言うお前こそ、本当は私の事が好きなんじゃないのか!?」

 言葉にして、私は何を言ってるんだッ、と頭を抱えたくなった。いくら混乱してたとはいえ、その返しはないだろう。意識過剰にも程がある。
 恐る恐る霊夢を見やると、奴は意外にも真剣そうな表情で考え込んでいた。すると私の心臓が更に鼓動を速くする。何でそんなに真剣な顔してるんだ。そんな顔、異変の時ぐらいしか見せない癖に。何でこんな下らない事に本気で考え込むんだ。
 それに霊夢だって私の嫌いな所なんていっぱいあるだろう。五月蝿いし、自分勝手で人騒がせだし、飯はタカるし、来れば迷惑しか持ち込まないし。そんな人間が好かれるはずがない。内心ではそう思っているはずだ。こいつが私を好きだなんてことは有り得ない。だから、期待なんて、するんじゃない。

 沈黙の時間はどれほどだったのか。私には一分が一時間にも感じられたが、時の流れは正しく一分程しか刻んでいないだろう。
 と、そんな事を考えていると霊夢が動いた。卓袱台を反時計回りに、何故か四つん這いの姿勢で私の方へと寄ってくる。
 その姿はまるで獲物ににじり寄る猫か何かのようで、となれば獲物である小動物の私は後退を余儀なくされる。

「魔理沙、私はね……」

 私が後退れば、霊夢は膝を畳に擦り付けながら寄ってくる。スカートが皺になるぞと言いたかったけれど、カラカラの喉は相変わらずだ。
 後退、前進、後退、前進、後退、前進、後退……残念ながら壁に背が付いてしまった。そして気づけば霊夢は私の身体に馬乗りになっていて、人形めいた造りの顔が目の前にあった。酒臭い吐息が当たる距離だ。
 本当に、何なんだろうかこの状況は。ついさっきまでいつも通り飲んでいたではないか。それがどうしてこんな、捕食者と被捕食者みたいな構図になっているんだろう。説明を要求したい。

「私は、あんたが好きなのかどうか解んない」

 私に跨がった状態の霊夢は、私と同じような答えを口にした。どうしてこのような体勢になっているかは教えてくれない。
 ……いや、次の言葉が霊夢なりの答えだったのかもしれない。

「でも、あんたとならこういうことをしてもいいかな、っては思うの」

 唇に、柔らかな感触を得た。
 気づけば目を閉じた霊夢の顔がより近くにあって、あぁ私は霊夢に口付けられているのだと、ぼんやり思った。
 世界にはこんなにも柔らかいものがあったのかと感嘆する。この唇の前には、咲夜の作るマシュマロだろうと敵うはずがない。そんな事を思っていると腹のあたりを抓られた。何でだ。
 しかしその痛みのお陰か、そのままこの極上の甘露を存分に味わってしまいそうな思考の中で、内なる自分の声が大声を上げた。
 “何を無抵抗にちゅーされてるんだ馬鹿野郎!”
 瞬間、爆発的な熱量が首から顔までを駆け上がってきた。慌てて身を後ろにやろうとするが背後の壁が阻む。ならばと目の前の曲者を引き離そうとするも、こちらも肩をガッチリ掴まれて離れられない。背丈も肉付きもそう大差は無いというのに、完膚なきまでに力負けしていた。

 霊夢がようやく唇を離した時には、既に満身創痍といった体の私だった。
 ちゅーの一回で何を大袈裟なと言ってくれるな。私にとってはこれが初めてで、しかもそれを同性に何の予告も無しに奪われたのだ。絹のように繊細な乙女心をぶち壊すには十分過ぎる。
 荒い息を吐き出す私とは対照的に、霊夢から漏れる呼気は穏やかだ。そうして感情の読めない目で見下ろしてくる。見下ろされるよりは見下ろす方が好きな私からすれば、非常に不愉快な構図だ。
 だから噛み付く。というか、こんなことをされて噛み付かない方がおかしいだろう。

「……ッ、この、よくもやってくれやがったなぁ」
「あれ、嫌だった?」
「あぁ!? そんなの当たり前だろ! 私たちは女同士だぞ!?」
「……それって何か問題があったりする?」
「大アリだ馬鹿野郎ッ!!」

 私の魂からの叫びに、しかし霊夢は心底不思議な顔をして爆弾発言をしてくれる。

「おかしいわね。紫が言うにはこうするのが一番手っ取り早いって話だったんだけど……」
「お前は一体何の話をしているんだ!?」
「え? 素直になれない奴を素直にさせる方法だけど……だって、魔理沙は私のことが好きなんでしょう?」

 “だから、私はお前の事なんて好きじゃない!”という言葉は空しく胸の内で響くのみ。
 言い返したい。でも言い返せない。たった一言が口に出来ないでいる。喉元で言葉たちがクルクルと空転しているのが分かる。
 されるがまま、言われるがままの現状に苛立ちは募り、やがて行き場のないそれは元凶と思われる妖怪へ向かう。すなわち、あの迷惑極まりない過保護なスキマ妖怪である。
 おかしいと思ったのだ。アレの入れ知恵でもなければ、この唐変木かつ朴念仁の霊夢がこんな奇行に及ぶはずがないのだ。
 一体全体、何を吹き込まれたのか知りたくも解りたくもないが、私にとって不利益な事であるのは間違いない。今度見かけたら出会い頭にマスタースパークを喰らわせてやろう。報復なんて知ったこっちゃない。後先考えてばかりのつまらない生き方なんて私は御免だ。
 そうやって私が半ば現実逃避に思考を割いていると、霊夢はしょうがないなといった感じにまた一言。

「じゃあ、もう一回ね」
「へ?」

 壁に背を預けていたはずなのに、気づけば畳の上に押さえ付けられていた。咲夜の時間停止だとか文みたいな超スピードでもない。純粋な体術で、私は霊夢に組み伏せられてしまった。
 そうしてまた唇にあの柔らかい感触が。一度経験したことなので今度は我を忘れることはなかったが、それでも私の思考には空白が生まれていた。
 それ程までにこの快感は強烈だ。脳みそがプティングみたいに蕩けてしまって、掬って口に入れてみれば、さぞや甘ったるい口当たりをしていることだろう。
 それでもこんな無理やりな状況が許せる訳がないので抵抗を試みたいのだが、今度は肝心の両腕まで握られていた。いつの間に、と霊夢相手に思うのは最早馬鹿らしい。こいつの超人ぶりを誰よりも知っているのはこの私だ。
 せめて下半身を以ての抵抗くらいは見せたいところだったが、これもまた適わない。どんなツボを抑えているのか、腰から下にまったく力が入らない。押してはいけないツボとか抑えてないことを願う。
 つまり、今の私の状態を端的に言い表すと“詰み”である。もう好きにしてくれ。

「ん、んぅ……」

 そんな私の思考を読み取ったように霊夢の唇の積極性が増した。軽く触れる程度だったそれがグッと押し付けられて、より広い面積で私の唇と重なった。
 諦めが勝った頭には変な余裕が生まれていて、まるで第三者(ひとごと)のように現状が把握できてしまう。
 私たちの体勢には変わりはない。霊夢が私を抑え、私は霊夢に捕食されている。変わりがあるとすれば霊夢の表情だ。さっきまではほろ酔い程度だった顔の赤みが、その色を濃くしている。額にはうっすらと汗まで浮かんでいる。何より、今の霊夢は私の口を塞いでいるのだから当然だが、鼻で呼吸している。その音が私の耳にも聞こえるくらいで、いつになく霊夢の様子は、はしたない。
 そういえば腕を掴んでいた五指もその位置を変えている。何処であろう、私の両手の指たちと絡み合っている。咄嗟に手を開くと逃げられないようにか力強く握られた。その力があんまりにも強いもんだから、降参を告げるようにこちらも絡めてやると安心したように力を緩めた。それでも逃げられる隙など微塵も感じられないのだけど。
 こういう握りを何と言っただろうか。名前は覚えていないが、何とも恥ずかしい。いや、ちゅーまでしてしまったんだから今更か。もうこれ以上恥ずかしいことなんて私には考えつかない。これから霊夢がどんな行動に出ようがドンと来いだ。
 ……なんて、やけっぱちになっていた私は半ば本気で思っていた。そう霊夢が舌を伸ばしてくるまでは。

「ふ、んうっ!?」

 唇を割り開いてきた生暖かいそれに、思わず目を開いた。まさか、いや、そこまでこいつはやるつもりなのか、と慌てる。
 さすがにこれ以上はいけない。何がいけないかと言えば、乙女のなけなしのプライドとか何かだ。それを守る為に、私は全力で徹底抗戦の構えを取る。

「むぅ……?」

 目の前の霊夢が不満そうな声を上げる。それもそうだろう、こいつの傍若無人ぶりそのままの舌は、私の堅牢鉄壁な壁――という名の歯――に阻まれてそれ以上の侵入を果たせないでいるのだから。
 このえろ霊夢の考える事だ。唇だけじゃ満足できないから、ついでに私の口内や舌とかも犯してしまおうとでも思ったんだろう。そうは問屋が卸さないというもの。こちとら十数年も少女やっているのだ、乙女の貞操観念嘗めんなである。
 ガッチリと歯を閉じているもんだから、さすがの霊夢も攻めあぐねている様子。そうだ、それでいい。ここからは根比べ。私の歯が霊夢の舌に破れるか、霊夢の舌が私の歯に敗れるか。そしてこいつは根性などという概念とは無縁の存在。つまり、私の勝ち確定なのである。
 私が勝った暁には紫共々お説教だ。一晩程度で済むと思ってたら大間違いである。

 しかし、私が勝利を確信すると、運命の神とやらはどうも意地悪をしたくなるらしい。それかどこぞの吸血鬼の仕業か。
 静かに私を見下ろしていたはずの霊夢の目がスッと細まった。背中を冷たいものが走る。その目を私は知っていた。異変解決に挑む時と同じ、つまり本気の目だ。
 何が来るのかと咄嗟に目を瞑る……が何もない。むしろ左手が解放されていて、これで終わりか、などと拍子抜けした。
 結論から言おう。そんなはずがなかった。

「ひゃあっ!?」

 突如、首の裏、つまりは項の部分から電流にも似た快感が走った。
 そこは滅多に人に触られず、日常的に髪で隠れた私の少ない弱点。触れられるだけで疼きを覚え、撫でられようものなら声が出てしまう。
 そんな私の敏感な部位を知り、ピンポイントで撫で上げたのは、言葉にするまでもないが霊夢だった。
 思わず声を上げてしまった。それは即ち、口を開いてしまったということで、私の堅牢な守りが崩れたと同義であった。
 そして、そんな決定的な隙を見逃すほど博麗の巫女という奴は甘くはない。

「んんっ……」
「っ、んー! むー!」

 項を撫でた左手をそのまま私の頭に置いた霊夢は、掻き抱くようにしてまた口付けてきた。それも今度は初めから舌を入れて。
 ぬるぬるとした霊夢の舌はまるで大蛇のようで、あっという間に私の舌を絡め取り、締め付ける。普通こういうのはお互いが絡め合うのではなかったか、と本で得た少ない知識と現状を比べるのだけど、そもそもこいつは本からのイロハなんかに大人しく従うような奴ではなかった。
 独りよがり、そんな言葉が頭の中を流れては消えていく。同時に、私の中の抵抗の意志がガリガリと削られていく。

「んっ、ぷあっ、んむぅ……」

 蹂躙をやめない霊夢は舌だけでは飽き足らず、今度は私の口内全体を荒らし回り始めた。
 上の歯、下の歯、頬肉、舌の裏、口蓋……私の口全体にマーキングでもするように執拗に舐め回してくる。その必死さが少し怖い。
 胡乱になりかける頭で、ひょっとしたら私の唾液って美味しいんじゃないか、なんて馬鹿な発想が生まれてくる。だって、私の口を荒らし回る霊夢はとても幸せそうな顔をしているし。
 本当にこんな表情をした霊夢を見たことがない。頬は上気して、瞳は私でない何処かを見てるかのように虚ろだし、溢れる吐息はこんなにも熱い。
 あぁそうだ。これじゃまるで、発情した獣と同じじゃないか。

「ぷぁっ。はぁ、ふぅ……」
「っぐ、これで満足かよ、霊夢。満足したんなら退いてくれ、私は疲れた……」

 ようやく霊夢が舌を抜き、唇を離したことで、私は久しぶりに新鮮な空気を味わうことができた。普段何気なく吸ってるものだが、こんなに美味いものだとは思わなかった。人はこういった当たり前にあるものにもっと感謝を懐くべきだろう。
 それでまぁ、終わって満足したのなら帰して欲しいところである。この数分で疲れと酔いが一気に回って、すぐにでも布団にインしたいところなのだ。といっても、こんなことがあった手前、神社の煎餅布団を借りるのは無謀もいいところなので、できれば我が家に帰らせていただきたい。
 そんな風に大人しくお伺いを立てる私に、霊夢はキョトンと首を傾げた。かと思えば、次の瞬間には花が開くように笑った。それはもう写真に撮っておきたいくらいに綺麗な笑顔だったのだが、私には何故か食虫植物の開花に映った。獲物を虜にする声が、私の耳をくすぐる。

「魔理沙」
「……何だ?」
「お返し」

 三度目になると、さすがの私も驚かない。人間は学習する生き物だ。そこから何をされるかまである程度の予測もつく。
 こちらの唇をカプリと食んで開口を要求する霊夢に大人しく従う。下手に抵抗すれば痛い目を見るのはついさっき身をもって体験した。まだ満足出来なかったというなら満足するまでさせてやるのがたぶん吉だ。私はしっかり学習する生き物なのだ。
 それにしても、お返しとは何だろうか。今の霊夢の言葉をそのままの意味で鵜飲みにするほど馬鹿であるつもりはないから期待はしていないけど、気になるものは気になる。
 私の疑問に気づいたのだろうか、霊夢の唇が一旦離れた。

「ん、魔理沙の、美味しかった」
「ふぁ?」
「だから、今度は私のをお返ししてあげる……」

 夢見心地の様子な霊夢の声はどこか幼く、言ってる言葉の意味がすぐには理解できなかった。
 後頭部に回されていた腕に力が入り、私は再び霊夢に抱かれ、唇を合わせる。そうしてあの蹂躙を待った。待って、待って、しかし来ない。代わりに顔を上に向けられた。まるで何かを飲み込みやすくするように。
 それは今日何度目かのまさかだった。

「んぐっ!? んむー! むぐぅー!」

 私は今日一番の暴れ方をした。下敷きにされた下半身も、唯一自由の右手も、抱え込まれた頭も使って、精一杯の抵抗を見せた。
 だってそうだろう。まさか、他人の口に自分の唾液を直接流し込むなんて蛮行、抵抗しないはずがないではないか。
 ドロドロとした自分のものではないそれが喉奥目掛けて溜まっていく。相手が友人だとか、霊夢だとか、そんな事は関係ない。ただただ、気持ち悪い。
 だがしかし、私がどれだけ抵抗しようが霊夢の身体はビクともせず、蕩然とした表情で私の口に唾液を流し込み続ける。そこに一切の悪気だとかそういった感情は見てとれない。
 ふざけるな、と私の中で消えかけていた反骨心が息を吹き返した。

「っ!? 痛ぁ……!」
「ぶはっ! あっ、がはっ! はあっ!」

 咄嗟に無防備に伸びていた霊夢の舌を噛むことで緊急離脱を図った。一応は手加減をしたつもりだが、ちゃんと加減できたかは少々自信が無い。それよりも我が身の方が百倍可愛い。
 霊夢が自分の舌を心配しているうちに、私は私で流し込まれていた少なくない量の唾液を吐き出しにかかる。何度も噎せる、咳を繰り返す。だが、出てくるほとんどは飛沫程度の自分の唾液のみ。
 流し込まれた量とは明らかに釣り合わない結果に、考えるだに恐ろしい推測が浮かび上がる。つまるところ、私は霊夢の唾液のほとんどを飲み込んでしまったのだ、と。全身が総毛立った。

「……もう、人の舌噛むなんて信じられない」
「し、信じられないのはお前だッ! 何てもん飲ませやがるか……!」
「私の涎、美味しくなかった?」
「他人のだぞ! んなもん美味しいわけ……」
「でも、あんた嬉しそうな顔してたじゃない」
「は……」

 今、霊夢は何と言っただろうか。
 私が嬉しそうに霊夢の唾液を飲んでいた? そんなはずはない、私はあんなに抵抗していた。
 顔だって、霊夢から見たらどう見えたかは知らないが、絶対に喜んでいたなんてはずがない。
 無くなった唾液については、きっと最中に口から零れたとかそんなことに決まっている。
 とにかく違うのだ。私は変態とかそんなんではなくて、私は霊夢の事なんて、全然……。

「ねぇ、魔理沙。私はね、あんたの事が好きかどうかは解んない」

 霊夢が私の頬に手を添えて言う。細い指が這うたびに身体が跳ねる。
 そうだ。私だってこいつが好きかどうかなんて解らない。だから、こんなことをされても困るだけだ。
 そんな私の思いをよそに、でも、という接続詞を挟んで霊夢は続ける。

「私はあんたとこういうことするのは平気……ううん、もっとしたいくらい」

 耳が腐り落ちるんじゃないかってくらいに甘く蕩けた声。耳を通して頭に入ってきたそれは、私を馬鹿にする毒物だ。
 あぁ、誰か教えてほしい。そんな、媚びるような声を出しているこいつは一体誰なんだ。
 私の目の前にいる見慣れたこいつが、あの博麗霊夢だと言うのか……?

「前から思ってた。私は魔理沙に何かしてあげたい、悦ばせてあげたい、気持ち良くしてあげたい、って」

 興奮しているのか、霊夢は。
 真っ赤な舌を見せつけるように覗かせる様も、いつもの巫女服を汗で湿らせ張り付ける姿も、淫蕩にその瞳を溺れさせる無様も、私の記憶には無かったものだ。
 こんなのが巫女を名乗るだなんて、なんという不健全。まだ色街で客を相手にしている方が相応しい。
 それでも霊夢は神の代弁者であり、あたかも天啓を授けるように言葉を降らせてくる。

「私には解らないこの気持ち、感情が――恋って言うのかな?」

 卑小なこの身は耳をを防ぐことを能わず……そのあんまりな内容に、堪忍袋が二度目の限界を迎えた。

「――ふざっけるなあああッ!」
「えっ」

 至近で受けた大声に驚いたのか、初めて霊夢が表情を変えた、気がした。
 だって、今この時の私は、とてもじゃないが霊夢の表情をいちいち気にしていられるほど冷静ではない。

「それが恋だと!? ふざけるな! お前は今、恋を、馬鹿にしたぞ! 恋ってのはなぁ、もっとフワフワでキラキラしてて、それで時にキュッと切なくなるような苦味とホワァッと蕩けるような甘さが渾然一体、奇跡的なバランスで両立されてるものを指すんだ! それを何だ、お前の恋? ってやつは! 全ッ然フワフワもキラキラもしてない! ガッチガチのグロッグロじゃないか! おまけに、ただただ甘けりゃいいと思ってやがる! 馬鹿野郎ッ! 甘いだけの菓子が美味いか!? 違うだろ! 苦みあってこそ甘さが引き立つんだろうが! そういった苦みを生み出す為に人と人との駆け引きとかその、えっと……色々あるんだよ、きっと! お前のそれは浅いんだ! 味気もない! 相手の事なんてまるで考えちゃない、何処までも一方通行、ただの独りよがりなんだよ! お前のそれは! それを恋と呼ぶなんて、私は認めない。絶対に、絶対にだ……!」

 言い切った。私は全てを言い切った。自分でも驚くくらいの声が出て、肩で息をしてしまう。ただ、それにすらすっきりとした達成感を覚える。
 恋色の魔法なんて大それたものを扱う以上、恋愛感情だ色事だのの話題には何かと敏感になってしまう。あまつさえ、とんちんかんな恋と呼ぶのもおこがましいそれ相手だと尚更だ。
 霊夢は、落ち込んでいるだろうか。自分の感情は恋ではないと否定されて悲しんでいるだろうか。それとも私に対して憤っているのか。いずれであろうと、私はそれを受け入れよう。人の想い、考えは千差万別。興味、共感、覚えようが所詮は他人のそれでしかない。
 だから私は、やっぱりお前は間違っていると重ねて否定するのだ。お前の感情は受け入れよう、だが私はお前の思想とは相容れないのだ、と。
 そうして意気込んで覗いた先には、何だかひどく感心したような表情をした霊夢がいた。そんな顔は一切予想していなかった私は、つい面喰ってしまった。

「はー、流石は魔法使い。博学なものね」
「……お前に褒められると背中が痒くて堪らん」
「掻いてあげようか?」
「慎んでお断りしよう」
「あんたが遠慮だなんて珍しい。でも、そっか。私のこれは恋じゃないのね」

 特に残念がるでもない(いや、本当に残念がられても困るのだが)様子の霊夢に、私は聞かずにはいられなかった。

「あー……なぁ、霊夢。あれだけバッサリ切り捨てた奴が言うのもアレだが、そんなにあっさり私の言葉を信じていいのか? 実は私が間違ってて、その……お前の感情が本物だって可能性もあるかもしれないんだぜ?」

 卑怯な事を聞いている自覚はある。ただ、霊夢があまりにもあっさりと私の主張を受け入れるものだから、拍子抜けしたというのが正直な感想だ。
 せめて自分の考えにくらい執着心を持てばいいのに、と何様気分で思う私だった。

「なに、さっきのは嘘だったの?」
「いや、嘘なんかじゃない。少なくとも、私は私の考えが正しいと信じてるぜ」
「それならそれでいいじゃない。言ったでしょう、私はあんたが好きかどうかも判らない。そして、この感情の正体もはっきり判らない。なら、私よりそっちの事に詳しいあんたが言うのならそうなんでしょう。私は私で判らない事だらけなもんだから、この曖昧な思いが否定されようが痛くも何ともないもの」
「あー、そういうもんなのか?」
「そういうものなのよ」

 今度は霊夢がキッパリと斬り捨てる。つまり、私の熱弁はいい感じに空回りだった、という事だろうか。いや、霊夢にも響く部分はあったようだし、決して無駄だったということはないだろう。そう思いでもしなければ、あまりに私が報われない。
 まぁ、勘違いしたまま万が一……とならなかっただけ僥倖である。もし霊夢が本気で己が感情の指針を決定づけてしまえば、他人である私には覆しようがないのだから。
 さて、そうやって理解がいったのなら何度も言うように帰して欲しいところなのだが、霊夢の奴はどうしてまた私の方へ体重を掛けてきているのだろうか。

 私の動きを封じていた両手が解かれる。両の手は霊夢の後ろに回されて、頭のリボンを外しにかかった。
 スルスルと衣の擦れる音が艶めかしく思えて、髪を下ろした霊夢を直視するのが何故か憚られた。何度見たかも覚えてないくらいに見慣れた姿なのに、妙にドキドキする。
 視線を顔ごと逸らす私だったが、霊夢の手によって正面を向かされる。黒の中にわずか茶の混じる髪。明かりに透けたそれが目にチラつく。
 私を見下ろす瞳は相変わらず静かで、だけど少しだけ落ち着きを欠いているように感じた。でも、なんて断りを入れてくるのは、霊夢なりの不安の表れだったのかもしれない。

「このままさ、何にも解んないまんまって問題を放棄してるみたいじゃない? あんたもそういうの嫌いでしょ? だから、もう少し頑張って答えを探しましょう」

 何が、だから、だというのだろうか。あと、私はナニを頑張ればいいのだろう。聞かずとも解ってしまう我が身の現状に涙が出そうになる。
 確かに研究者肌な私にとって問題放棄は許せないことだが、それにしたって霊夢の奴は、滅多に見せない情熱をこんな所で見せなくてもいいではないか。そういった熱はもっと別の所に向けるべきだ。
 だから私はそのまま言ってやった。それに対する霊夢の答えはこうだ。

「だって気持ちいいじゃない? 気持ちいいことは嫌いじゃないもん」

 何とも身も蓋もない答えだった。しかし、裏表のない霊夢らしくもある。
 純白、無垢、無邪気――汚れない新雪の心を持った子どもの様な心をこいつは持っている。それだけに自分の欲にも忠実で、それを叱ったり拒んだりするのは気が引けてしまった。
 私が抵抗しないと判断したらしい霊夢が唇を重ねてくる。ただ、さっきとは違っておっかなびっくり、小鳥のように小さく啄んでくる。
 これはこれで調子が狂うのだが、ちうちうと吸われたり甘噛みをされたり、乳飲み子のような霊夢の姿に何だか母性を覚えてしまった。
 私はこの日初めて、自分の意思で霊夢の背に手を回した。それがどうも霊夢からすると意外だったらしく、驚きを浮かべたかと思えば、だらしなく破顔した。

「ねぇ、魔理沙。やっぱりこれって……」
「恋なんかじゃない。断じてな」

 そして、霊夢のそれはしっかりと否定する。むぅ、と不満そうな声と共に霊夢がのし掛かってくる。
 せめてそれぐらいは許してやるか、と私は黙ってそれを受け入れる。
 それが砂糖菓子のように甘い考えだと気づかされるのに、私は一晩の時間を要したのだった。



 # # #



 カポーン、と間抜けで古典的な音が頭の中に響く。実際はそんな音などしていないのだけれど。
 風呂場である。風呂場であるから当然、私は身体を檜湯に沈めている。妖怪神社には勿体ないくらいの贅沢だ。涙やら鼻水やら唾液やら他にも色々と何やらで汚れていた身体が清められていく。
 至極どうでもいい事だが、贅沢にも朝風呂である。窓からはチュンチュンと元気な小鳥たちの囀りが聞こえ、朝焼けの美しい空まで見える。

「あー、気持ちいいわー」

 私がおセンチな気分に浸っていると、色んな意味でこの身を汚してくれた当事者が、横で身体を伸ばしながら無粋な声を上げた。
 その姿は私のよく知るいつも通りの博麗霊夢で、つい先程までとのギャップに軽い目眩みたいなのを覚える。

「あによ、人の裸なんてジロジロ見て。この助平」
「おいおい、お前がそれを言うか。この好色巫女」
「私はあんたの貧相な身体に欲情したりはしないわよ」
「お、まぁ……!」

 じゃあこの身体の至る所に付けられた痕は何だ、と叫びそうになって、それはとても恥ずかしい事だと気付いて飲み込んだ。だから必死に嫌みで返す。

「私だって! お前の貧相でまな板みたいな身体に興味なんてないぜ?」
「あらそうなの? その割には頑張ってたみたいだけど……」
「頑張ってたとか言うな馬鹿ぁッ!!」

 その口を黙らせる為に湯を大きく叩いた。霊夢が鬱陶しそうに顔の前に手を翳した瞬間、露になった腋に自分の付けた痕を見てしまって沈黙する。こいつが言うように頑張った訳ではないが、無抵抗だった訳でも、ない。
 気恥ずかしくて浴槽の中で膝を抱える私と、慎みを忘れたように身体を目一杯伸ばして寛ぐ霊夢。あー、という霊夢の声と、ピチピチと結露の跳ねる音がやけに響いた。

「ごめんね。今更だけどさ、嫌だった?」
「……本当に今更だな。できればする前に聞いて欲しかったぜ」
「でも、それだと魔理沙は断ったでしょう?」
「そりゃあな」

 普通は同性相手に求められても断るだろう。たとえ異性に求められたとしても許すかは微妙だ。
 霊夢の場合、そこに到るまでに必要なプロセスをすっ飛ばし過ぎである。

「お前はその、女相手にそういうことがしたいのか?」
「別に。男だろうが女だろうがそこに大差はないわ」
「ふーん?」
「強いて言うなら、相手が魔理沙だからしたかった、みたいな?」
「んなっ!?」
「言ったじゃない。あんたとならああいうことしてもいい、って」
「いや、確かにそれは聞いたけど……」

 その言葉だけを聞いていると、まるで霊夢が本当に私を好いているようじゃないか。
 でも、私はそれを否定してしまっているし、万が一そうだったとしたら困る。とても、困る。

「魔理沙が嫌だって言うなら、もうしないつもり」
「またするつもりだったのか、お前……」
「だって、私はまだ知らないんだもの。この温かくて、優しい気持ちの答えを」

 そこに宝物でもあるように、霊夢は心臓の辺りに手を置いて目を細める。その未知の感情を愛おしんでいるようにすら見える。
 確証はないが、霊夢の抱える気持ちについて、私はひとつ心当たりがある。しかし、それを言葉にするのはちょっと憚られる。だって、それを霊夢が私相手に与えたがっているだなんて考えはあまりにおこがましい。

「魔理沙?」
「ん、あぁ、そうだな。まぁ、お前がどうしても、どーしても知りたいって言うのなら、手すきの時であれば相手してやらんこともないぜ」
「まぁ、偉そうなこと言っちゃって」
「教えを乞う者の発言とは思えんな」
「別に乞うてる訳じゃないもの。私はあんた相手で理解しようってだけ」
「どっちにしろ利用する気満々だな」
「だから嫌かって聞いたんじゃない」
「だから私もお前が望むならと言ったんだがな」

 むむむ、と眉に皺を寄せて睨み合う。まぁ、私のはあくまでポーズだが。
 本気じゃないとはいえ、こいつの怒ったり不機嫌だったりの顔は心臓に悪い。風呂場という環境は、流れる冷や汗を隠すには大変都合が良かった。

「埒が明かないったら」
「私も千日手は好かないぜ」
「んな器用な真似できないでしょうに。……はぁ、私が折れてやるわよ、まったく」
「まぁ、霊夢さんったら偉そうに」
「うっさい。噛むわよ」
「もう嫌ってほど噛まれた後なんだけどな……」

 ほんと、これ以上どこに痕を付けようと言うのか。

「……そうだよ。お前のせいで今の私は人前に出られない身体だ。責任取れよな」
「あー? 長袖でも着れば済む話でしょ」
「馬鹿野郎、これから蒸してくるこの時期にそんなの着れるか。大体、長袖着たくらいで隠れ切らないだろ、これ!」

 ほら見ろ、と身体のあちこちを指差して見る。
 首筋、二の腕、手の平、脇腹、太もも、ふくらはぎ、足の甲。ざっと見た限りでもこれだけ、きっと自分では見えない所にも痕は刻まれているのだろう。
 一か所ならまだしも、これだけの数を拵えて往来を歩いたとしよう。娯楽に飢えた幻想郷の奴らが見逃してくれるはずもない。
 見つかったが最後、どこでどうやって誰に付けられたかを吐くまで解放されないだろう。そうして私は生き恥を背負って暮らしていかねばならないのだ。そんな未来は断じて御免である。

 だから、私の要求はごく当たり前のものであり、不埒者に与える罰としては妥当であると考えるのだ。
 そう、これは罰。私を傷物にして汚してくれた下手人に、己の罪の大きさを自覚させる為のもの。
 だというのに、どうして霊夢は、こんなにも、嬉しそうな目で私を見つめ返してくるのだろう――?

「……そう、そうね。今の魔理沙は到底見せられない姿をしてるんだったわね。見つかったが最後、あんたは天狗の玩具……そんな姿にしてしまった私はその責を負わなければならない、と」
「お、おう。珍しく理解が早くて助かるぜ」
「つまり、あんたは私に匿って欲しいのね?」
「ん、んん?」

 何だか物凄い得意顔で霊夢が言ってくるから、思わず納得してしまいそうになるが、本当にそれでいいのか?
 別にこれといって何をして欲しいかなんて考えてはいなかったが、果たしてその提案はどうなのだろう。

「他の奴らに見られたくないんでしょ? それなら暫くはうちに泊まっていけばいいじゃない。魔理沙がそんなだって知ってるのは今のところ私くらいなんだし」
「いやまぁ、そうなんだが……」
「ちょうどこの前、色々と買い込んだから魔理沙ひとり増えたところでどうってことないわ。あ、でも料理当番なんかは今まで通りね。うちは働かざる者食うべからずだから」
「あの、霊夢……?」

 霊夢の口から正論がポンポンと飛び出てくる。こいつはこんなにも理性的な考えの出来る奴だったろうか。むしろ、そういった正論なんて邪魔だと蹴っ飛ばしていくような人間だったはずなのだが。
 まるで、そうすることで私に余計な口を挟む暇を与えないような、そんな勢いだ。

「それに」
「それに?」

 私の思考をぶった切る霊夢の声に、遅まきながら私は理解した。端から私にアドバンテージなど無かったという事を。
 欲望を隠そうともしない凄絶な笑みを浮かべながら、霊夢は言った。

「その方が、答えもすぐに見つかりそうじゃない?」

 ふらり、と身体が揺れた。これはきっと湯に浸かりすぎて逆上せてしまったからだと信じたい。
 そうして私の意識と身体は浅い水底へと沈んでいく。
 願わくば、これが夢であるようにと願いながら。
それはケダモノに到る病。



先月の例大祭での戦利品を読んでいたら無性にレイマリが書きたくなってしまいました。
霊夢は一方的に愛を与えたがり、恋をしたいお年頃の魔理沙は困惑……みたいなお互いの想いがすれ違ってるとオイシイです。
完熟オレンジ
http://twitter.com/maturity_orange
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コメント



0.1370簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
霊夢は素直クール
2.100名前が無い程度の能力削除
ぐっど

それしかいう言葉が見つからない…
4.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
しにそうなぐらいあまい 末長くイチャイチャしてくれ
6.100非現実世界に棲む者削除
またイチャイチャしてますねえ。これだからレイマリは飽きられない。
読んでる最中別のレイマリ作品で同じようなものを読んだ気がします。狸寝入り・・・舌入れキス・・・霊夢ソムリエ・・・うっ、頭が・・・
8.無評価名前が無い程度の能力削除
アアアア……ヨキカナ……
9.100名前が無い程度の能力削除
自らの欲求にとても素直な霊夢らしい愛情と多感な時期で自分の感情を把握しきれない魔理沙
このいけいけな霊夢なら近いうちに魔理沙を既成事実の下に手にすることができそうだ
10.100名前が無い程度の能力削除
点数をいれ忘れ、そして削除キー忘れるミスをおかした
冷静になったので追加コメ少し。
キスっていいですよね。その描写だけで満たされるくらいには好きです。
しかし彼女等にはすれ違いがほんとよく似合う…
16.100名前を忘れた程度の能力削除
いいぞもっとやれ
20.無評価名前が無い程度の能力削除
>梅雨入りを果たした霜月の某日
霜月って旧暦の11月だけど梅雨入りすんの?
23.100名前が無い程度の能力削除
肉食系霊夢ちゃんに食べられる魔理沙ちゃんいいよね・・・
このまま魔理沙は骨の髄までしゃぶられてしまうのか
25.100名前が無い程度の能力削除
神社に匿ってもらう→夜は噛まれる→痕が消えるのが伸びる→何度かループ→なし崩しに同棲へ
こんな感じになればいいんじゃないかなっ!
26.80名前が無い程度の能力削除
たぶん性欲だと思うんですけど(直喩)
29.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしすぎた
31.100名無しです削除
誰だ私が飲んでたブラックコーヒーに砂糖溶けきらないレベルでぶち込んだの。
32.無評価完熟オレンジ削除
コメントありがとうございます。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、前に書いたレイマリの前日譚でした。

>1
ストレートな性格こそが霊夢の魅力です。
>2
探せばきっともっと見つかるはず! ありがとうございます。
>4
ありがとうございます!
>5
これから一方のどちらかが死ぬまでイチャイチャすることでしょう。
>6
気のせいじゃないかと……うつ、頭が割れるように痛い……。
>9
毒は既に回っていますから、霊夢の手中に入るのはそう遠くはないでしょう。
>10
実はそういった直接的な描写の練習だったり。会話だったり、言葉だったりが噛み合わないまま事が進むのってドキドキしますね?
>16
これからもっともっと頑張ることでしょう。
>20
ご指摘ありがとうございました! 完全にボケてました! 修正しました!
>23
これから骨の芯まで霊夢に犯されますね……。
>25
素晴らしい。そんなレイマリ読みたいください。
>26
愛情と性欲は表裏一体! 何も間違ってませんね!
>29
ありがとうございまーす!
>31
ご自分で入れたんじゃないですかね?(サトウドバー
33.100名前が無い程度の能力削除
霊夢は欲に素直なケダモノだもの。
魔理沙もすぐにわかるのだろうね。
35.80名前が無い程度の能力削除
ベネ、が、どうせならyotogiのほうで読みたい内容だった。
こちらのほうが読者も感想も多いから仕方ないのかもしれないが。
やはりレイマリは原点やな…あまい…
37.100名前が無い程度の能力削除
甘い。ただただ甘い。
39.100名前が無い程度の能力削除
霊夢のダダ漏れっぷりがたまりません。
魔理沙はこのまま神社から逃してもらえそうにないですねw
実にすばらしい一時でした。