Coolier - 新生・東方創想話

風見幽香といつものお店~和菓子の道、始めます~

2015/05/29 23:22:40
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「おねえちゃん、おねえちゃん!」
「あら、なぁに? ぼく」
「僕、これ、作ってきたの! お姉ちゃんにあげる!」
「本当? ありがとう」
 いいこいいこ、と笑顔になって、男の子の頭をなでる彼女は風見幽香という妖怪である。
 一般に知られている『友好度最悪、危険度最高』のこの妖怪が、実は、傍から見れば度が過ぎていると思えるほどの子供好きと判明したのは、そう最近でもないことである。
「はい、これ。お礼よ」
「ありがとう!」
「お姉ちゃん、あたしも! 折り紙折ってきたの!」
「まあ、すごいわね。上手ね」
 子供が大好きで、彼らに囲まれていると、ずっと幸せそうに笑っている幽香。
 その右手が一瞬ぶれると、掌の上に、子供たちが好きそうな甘くて美味しいお菓子が現れる。
 ――何だか物理法則無視しているようなことが起きているような気がするが、それは気にしてはいけないだろう。
 しかし、
「……う~ん」
 それを渋い顔で見つめているものの姿もあったりするわけで。

「端的に言うと、ね。幽香」
「ええ」
「子供たちへのプレゼント。あれ、かなり、店の負担」
「ええっ!?」
 この幽香が店主、ということになっている店がある。
 太陽の畑と呼ばれるひまわり畑と人里に店舗を構える、その名も『喫茶「かざみ」』である。
 紆余曲折色々あって、彼女の『お店経営』を影から支える立場にいるのが、今のセリフを放ったアリス・マーガトロイドだ。
 彼女が店の資金を提供し、ぶっちゃけ経営の役に全く立たない幽香に代わって、店を切り盛りしている。
「うちの利益って、ケーキ一個あたり、ものすごい低いの」
「そうなの?」
「そうよ!
 あんたが、材料こだわりまくるから原価がすごいことになるのに、値段控えめに抑えてるから!」
 常日頃の不満がそれである。
 幽香はお菓子作りに妥協しない。最高の材料を使って、最高のものを作り上げることを信条としている。
 それはそれで問題ないし、むしろ素晴らしいことなのだが、こと、『店を経営して利益を上げる』ということが関わって来ると、途端に面倒なことになる。
「だ、だけど、ほら、私、努力して、一杯、仕入先とか開拓してるし……」
「それはまぁ、認めるけれど。あなたの努力。
 だけど、やっぱり、うちの店の商品は値段に対する原価がすさまじいのよ」
 一方、人件費……というか、手間賃は大したことはない。
 幽香は右手を一振りするだけで、一個といわず数個のホールケーキを完成させることが出来る。
 腕利きの職人が、一つ一時間かかるような見事なものすら一瞬だ。秒単位で商品を供給し続けることが出来る。
 最近は、人里の支店の従業員にかかる人件費がそこに載ってきているが、今のところ、まだ何とかなる状態である。
 しかし。
「だから、一個あたりの利益が薄いの。薄利多売とはこのこと。
 なのに、あなたったら、子供たちにほいほい配っちゃうでしょ。無料で」
「うぐ……」
「一円、五円が、ほんと、積み重なるとバカにならないのよ」
「……だけど、それをやめたら、子供たちが残念がるわ」
「そうね。まぁ、やめるつもりはないけど」
 幽香が店を続けている理由の一つに、『お菓子を食べてくれる人の笑顔が見たい』というのがある。
 そこに、先の子供好きの特性が加わり、『特に子供たちの笑顔が見たい』というのが、幽香の原動力の一つだ。
 彼女にとって、それを曲げるのは、店をやめる理由の一つとなる。いや、実際、やめてしまうだろう。この彼女、こう見えて、実は結構メンタル弱いのだ。
「まぁ、黒字は黒字だけど。
 だけど、ほんと、危うい黒字。うちの経営状況、いつもそんな感じってことは忘れないでね」
「……そう、ね」
「ほら、今はプチケーキとかにしてるでしょ?
 あれをチョコレートとかクッキーに変えたりとか……」
「だけど、それじゃ、以前、もらった子と不公平になるし……」
「……うーん」
「量を増やしたり?」
「本末転倒!」
 とはいえ、この店の人気が、子供たちの笑顔に支えられているのも、また事実である。
 彼らが親に『またあのお店に行きたい』と言ってくれるから、リピーターが増え続けているのだ。
 今の状態を変えることなく、店の人気を維持する。
「……値上げとか」
 そうなると、結局、そこに行き着いてしまう。
 商品を、たとえ10円20円値上げしたとしても、この店の客はついてくるだろう。
 かてて加えて、この店の商品は、元々『すごく安い』のだ。
 人里に多数ある甘味処の商品と比較しても、絶対に『安い』。それは、アリスが断言する。何せ、いつもいつも、その値段をつけるのにノート広げて四苦八苦しているのだから。
「うーん……」
 しかし、店主は渋い顔をする。
 たとえ10円20円の値上げであっても、『高い』と感じるものはいるだろう。
 特に、彼女が好きな子供たちは、そうお金を自由に使えない。
 一枚の硬貨を『はい』と出してお菓子が買えるのが、この店の特徴でもある。
 それがなくなれば、子供たちは、やっぱり悲しむことだろう。
「まぁ、いいわ。そういうこと。
 とりあえず、あなたはそれを覚えていてくれればいいし、その分、死ぬほど働いて黒字を維持してくれればいいから」
「よ、よし。そうね。頑張るわ」
「お願いね」
 ――とはいえ、そんな危うい経営をいつまでも続けるわけにはいかないだろう。
 この『かざみ』は個人店舗。
 ちょっと強い風が吹いたら倒れてしまう危うさを、いつでも持っている。
 もっと地盤を固めて、店を支える柱を頑丈にしなくては。
 それを考えるのが店主の役目なのだが、幽香に、もちろん、そんなことが出来るわけがない。
「頑張るのは私の仕事なのよね」
 ふぅ、と肩をすくめても、それに対する文句は言わない。
 元より、それを承知の上で、手を出したことなのだから。


「何かいい手段ないかしら」
「やっぱり、新たな顧客の開拓ですよ」
 その翌日、アリスは人里の支店へとやってきていた。
 本日は、アリスと幽香がこちらの店にやってくる日。当然、それを目当てにやってくる客の数は増え、店の中はてんてこ舞い。
 こういう時のために雇ったアルバイトの女の子たちと、アリスの人形たちが全力で働く中、作戦会議である。
『マスター、ケーキが足りません』
「足りないケーキを幽香に連絡!」
『かしこまりました』
 裏の従業員用の部屋にいるのは、アリスと東風谷早苗という人物。彼女はアリスの友人であり、この店のアルバイト達を一手にまとめる『やり手』の従業員であり、
「幽香さんのお菓子は子供や女性には大人気ですが、やはり男性を取り込めているとは言えません」
 ――と、このように、アリスと対等に作戦会議を行うことの出来る知見を備えているのだ。
「男性を取り込む、ねぇ。
 甘党の男の人は、結構、足を運んでない?」
「見る限り、女性を伴ってますね。もしくはご家族。
 やっぱり、一人で堂々とやってくる人は少ないですよ」
「それって、店の雰囲気っていうか、仕方ないところあるわよね」
「まぁ、そうですね」
 この店は、この世界――幻想郷の世界にそぐわない洋風建築の店である。
 周りの店が木と畳の世界に、石造りにテーブルと椅子の建物だ。まず、この時点で、男は尻込みする。店の色合いも、外面は落ち着いた感じながらも内側は温かみと共に色彩を演出する女の子っぽい店を見て、『よし、入ろう』と決意する男はそうはいない。
 女の子たちでごった返す『かわいいお店』に胸を張って入店するには、幻想郷の男どもには度胸が足りないのだ。
「だからって、それを逃していてはいけませんよ。
 世の中、男と女は1:1です。50人の女性がいたら、50人の男性がいます。
 50人の男性を切り捨てていては、利益は半分です」
「確かに」
「なので、男受けする商品というのをお勧めします」
「……具体的には?」
「おしゃれでモダンなケーキより、落ち着いた和菓子系」
「幽香、あんこも得意と言っていたわね」
 女性がおしゃれな椅子とテーブルについて、笑顔を浮かべてケーキを食べている光景を容易に想像できると共に、男たちが車座になって饅頭と茶をすすっている光景というのも、また想像しやすい。
 しかし、ここにも問題がある。
「人里の甘味処と、もろにかぶってくるわ」
 幻想郷の商売人たちは、そうした協定でもあるのか、はたまた自主的なルールが暗黙の了解となっているのか、『互いの商売を潰すような真似はしない』という考えの下で商売を行っている。
 仲間の店が困っていたら、『よし、俺に任せろ』と腕まくりするような、そんな連中が商売人をしているのだ。
 全く、仲間意識が強いというか、平和な世界というか。
 ともあれ、そんな環境であるからして、この『かざみ』が和菓子にも乗りだすとなると、もしかしたら、彼らとの間に軋轢を生むかもしれない。

『やあ、あの「かざみ」が、ついに饅頭を売り出したぞ』
『やってくれるじゃねぇか。俺たちへの挑戦状だ』

 そう、彼らが思ってしまえば、ご近所付き合いが悪くなってしまう。
 個人店舗が長くやっていくには、『仲間』が必要だ。いざという時、頼れる仲間がいなくては、やはり地盤は揺らいでしまう。
「だけど、彼らも、幽香さんがケーキとかを売り出しているのを見て、『よし、俺も一つやってみよう』ってなってますし」
「言い方は悪いけど、相手になってないもの。
 うちのライバルは、常に紅魔館よ」
 幻想郷を代表する、娯楽の総合店舗、紅のテーマパーク。それが紅魔館である。
 ――紅の悪魔の館、吸血鬼の牙城、という評価は、もはや別の時空へと幻想入りして久しいのだ。
 この店はすさまじい。
 規模もさることながら、利益も、幽香の店など足下にも及ばない。人里全ての店が束になってかかったところで、果たして勝てるかどうか。
 そんなところをライバルに認定して、アリスは店を経営している。
 常に切磋琢磨して、相手の売り上げを少しでも減らしてやる――それが、アリスの定める『勝利』だ。
「甘味処をやっている人の中には、幽香も認める人が結構いるわよ。
 そういう人たちが、幽香のことをどう思うか」
「幻想郷の人たちはいい人が多いですから。
『あんちくしょうめ』とは思わずに、『よし、かかってこい!』って思う人が多いと思います」
「それだといいんだけどね。
 だけど、やっぱり、不安要素は排除しておかないと」
「だとしたら、えーっと……」
 つと、早苗は立ち上がると、部屋の中のロッカーをごそごそし始める。
 ややしばらくして、「これなんてどうでしょう?」と一枚のチラシを差し出してきた。
 それには、『人里甘味処決定戦』という文字が躍っている。
「話を聞いたことがあるんですけど、あちこちの甘味処の人が、自分の自慢の逸品を持ち寄って勝負するイベントだそうです。
 まぁ、内々でやっていることですので、一般の人たちは参加してないんですけどね。
 これで、お互い、相手がどんな技術を持っているかを探り合って、切磋琢磨しているのだとか」
「へぇ……。これは知らなかったわ」
「わたしも、この前、立ち寄ったお店のおじさんに教えてもらったんです」
 情報を制するものが戦を制する、を地で行くアリス。
 自分の周囲を取り巻く情報は、どんな些細なものであっても見逃さない彼女が知らない情報というのは、逆の意味で新鮮である。
「こういうことをやっていたのね」
「ここでデビューしてみてはいかがでしょうか。
 それで、『うちだって、あんこは出来るんだぞ。かかってこい』って」
「いいかもしれないわね」
 幻想郷の人間の気質から考えて、たとえ己が敗北したとしても、相手を恨むものはいないだろう。
 今は負けたが、次こそは――そう考えるものばかりだ。
 ここで幽香をデビューさせて、晴れて『かざみ』が和菓子を出すことを公表する。
 ある意味、宣戦布告である。
「よし、幽香に声をかけてみるわ」
「はい」
「……けど、あいつの和菓子の腕前ってどんなものなのかしら」
「さあ……。
 あ、わたし、和菓子にもうるさいですよ。
 今のところ、諏訪子さまの作る大福を超える和菓子に会ったことがありません」
「あいつも料理上手よね。見た目にそぐわず」
「ご本人は、『自分が甘いもの食べたい時しか作らない』って言ってますけどね」
「めんどくさがりなのね」
 苦笑して、アリスは立ち上がる。
 そうして、喧騒渦巻く店舗へと向かって、歩いていくのだった。


「お嬢様」
「あら、何かしら」
 さて、所変わって、ここは紅のテーマパークこと紅魔館。
 それを統べるちみっこいお嬢様、レミリア・スカーレットの自室である。
 彼女はベッドの上に寝そべって、足をぱたぱたさせながら読書をたしなんでいる。もちろん、読んでいるのは漫画である。
「アリスから話を聞いたのですが、今度、『かざみ』で和菓子も出すみたいです」
「へぇ。あいつ、和菓子も作れるの?」
「出来るでしょうね」
「ふーん。何というか、手広いわね」
 ひょこんと起き上がるレミリア。
 その前に佇む人物、この館の実質的統括者、メイド長の十六夜咲夜である。
「やっぱり利益が最近厳しいのでしょうね」
「あれだけ人が入っているのに?」
「安いですから」
「そうよね。うちで出すケーキの半額だもの」
 そういうところは見習わないと、とレミリアはうんうんうなずいている。
「しかし、お嬢様。
 我が紅魔館は、確かに上から下までのべつくまなく網羅するところではございますが、あまりに妥協して値段を落としてしまうと、今度はクオリティとステータスに関わって来ます」
「……えーっと?」
 咲夜の一言に、お嬢様は小首をかしげる。
「要するに、『あんまり安売り勝負はしない』ということです」
 紅魔館は、幻想郷の中で、恐らく、一番裕福なところだろう。
 何百人を超える数のメイドを雇い、『幻想郷新人就職活動瓦版』で『待遇ナンバーワン』『労働への満足度ナンバーワン』『就職後のステータスナンバーワン』を常に独占しているようなところである。
 紅魔館で提供されるものは、何でも『一番』である。一番でなくてはならないのだ。
 やってきたお客様に、一番の満足度を提供するのが紅魔館の信条。『安っぽい』満足度など必要ないのである。
「……ふーん」
「お勉強、サボってないでしょうね?」
「ぎくっ」
 そそくさ視線を逸らすお嬢様。
 この態度だけで、普段、咲夜が課しているお勉強をサボっているのが丸わかりなのだが、あえて咲夜は、この場ではそれを追及しなかった。
「お金を持っていない方を追い払うというわけではありませんが、それでも提供するサービスへの見返りは必要です。
 そうするからこそ、紅魔館は人気足りえるのです」
「安いほうが嬉しいのに」
「安いには安いなりの、高いなりには高いなりの理由があるのです」
 ふーん、とうなずくレミリア。
 この辺りは、レミリアの感性に納得させるのは難しいだろう。何せ、彼女の一ヶ月のお小遣いは500円なのだ。その500円で、『かざみ』なら大きなケーキが五つも買えるのに対して、紅魔館ではせいぜい二つ、セール時期を狙っても三つ。
 この差は実に大きいのである。
「で?
 うちも和菓子は出しているわよね」
「ええ。あんこにこだわりのあるメイドが、幸いにもいまして」
「何それそんなのいるの」
「お嬢様。妖精たちのこだわりというのは、時として恐ろしいものがあります」
 あんこを作るための小豆はどこどこのもの、砂糖はどこどこのもの、製法はどれそれの手段を使い、いついつまでに提供を目指す――そこまでこだわりを持っているからこそ、紅魔館は、和菓子もまた美味しいのだ――それを説明する咲夜に、「……妖精ってすごいのね」とつぶやくお嬢様。
 妖精というのは、幻想郷のそこかしこに存在する連中であり、えてして子供っぽく、自分の気の赴くまま、自由気ままに生きている奴らである。
 しかし、だからこそ、一つの興味を覚えたことに集中した際の集中力と実行力、そして実現する力はすさまじいものがあるのだ。
 まさに、好きこそ物の上手なれ、である。
 紅魔館には、そんな、言うなれば『職人妖精』も数多いのである。
「これからの時期は、やっぱり、冷たい水羊羹とかあんみつとか美味しいわよね」
「あんまり冷たいものばかり食べていると、ぽんぽん痛いになりますよ」
「うぐ」
「ともあれ、そんな感じであそこが動いているということの報告です」
「……まぁ、ほったらかしとけばいいんじゃないかしら。
 別に、それで、うちの経営が揺らぐということもあるわけじゃないし」
 そこまで貧弱な経営をしていないのが紅魔館だ、というのがレミリアの言い分である。
 確かに、と咲夜はうなずくだけだ。
 これぞ王者の風格、そして頂点の余裕である。
「けれど、あそこが出す和菓子というのも興味があるわ。
 発売されたら、敵地偵察に行きましょう」
「かしこまりました」
 目をきらきら輝かせ、『偵察』という名の『お菓子食べたい』モードのレミリアに、十六夜咲夜はうなずく。
 彼女は一礼して、その場を後にした。
 紅魔館の廊下を歩いていくと、いつの間にか、その隣に一人のメイドが寄り添っている。
「とりあえず、彼女たちの様子はしっかりと確認しておいて。
 お嬢様の言う通り、あそこはうちにとって大したことのない存在――だけど、うちの経営を揺るがすライバルなのだから。
 ライバル同士、切磋琢磨していかないと」
「かしこまりました」
 メイドは一礼して、いつの間にか、その場から姿を消した。
 何やら面妖なことがあったような気がしないでもないが、幻想郷ではよくあるにちじょうちゃめしごとである。
「あっちの売り出しに重ねて、こっちも新製品を出してみましょうか。
 どちらが売り上げを落とすか、楽しみだわ」
 ふっふっふ、と含み笑いする咲夜。
 相手の店を潰すような真似はしない。困ったらいつでも声をかけて。
 ――たとえ、そうは言っていても、やはり内心では彼女も負けず嫌いの部類に入る。戦う以上は、勝つ。それが十六夜流のやり方であった。

「――というわけで、人里の大通りの三番目の曲がり角を左に曲がって5分歩いた先にある十字路を右手に折れてまっすぐ歩いて左の細道に入った先にある呉服屋さんのはす向かいにある吉平さんのところからあずきをもらってきました」
「ああ、あの」
 その彼は、幻想郷では名だたる小豆農家である。
 幻想郷に存在する和菓子を提供する店の、ほぼ全てが彼の畑から小豆を仕入れていると言われるほどの逸品を生み出す腕前を持った男だ。
 そこから、『まずはお試し』ということで肩に少し担ぐ程度の小豆を持って、喫茶『かざみ』の広報係、射命丸のあやや参上である。
「へぇ。いい色してるわね」
「そうなんですか。私にはあまり違いが……」
「ほら、普通の小豆より色が濃いでしょう? それに、香りもいい。いい仕事してるわね」
「アリスさん詳しいですね」
「……はっ」
 実家が大規模農業経営しているアリスは、文の、素直な驚きの言葉に我を取り戻す。
 知らず知らずのうちに、視線が『農家』になっていたのを確認したのだろう。
 慌てて、「ま、まぁ、品物を見る目を養うのも、経営者の必須スキルだから」とごまかす。
「幽香。これならどうかしら」
「そうね」
 まず、足下の袋から、小豆を『ざーっ』とざるにあける。
「いいんじゃないかしら?」
 次の瞬間、一同の目の前に、まだ湯気を立てるあんこが現れていた。
「…………………………」
「……え? あの、えっと……アリスさん、今、一体何が……」
「気にするな。」
「はい。」
 幻想郷で起きる摩訶不思議な出来事は、全て、摩訶不思議アドベンチャーのせいである。
 気にしてはいけない。気にすると髪の毛が抜けて胃が痛くなる。それが幻想郷だ。
 幽香は、その出来立てあんこを手に取ると、ちょちょいのちょい、で饅頭を作り出した。
 いつの間にかテーブルの上にせいろが置かれている。
 その蓋をぱかっと開けると、中からふっくらふんわりのお饅頭が登場である。
「美味しそうですねー」
 目を輝かせるのは文だった。
 この彼女、酒樽で酒を飲み干すうわばみのくせして甘いもの大好きという珍しい種類の妖怪だ。
 まずは味見を、と彼女はそれを一つ手に取り、ぱくっと一口。
「ん~、おいひい~」
「中はこしあんなのね」
「こっちはつぶあんよ」
「……なんか増えてるような気がするけど、気のせい、気のせいよ、アリス……」
 せいろの蓋を開けた段階では、皮の色が白いものしかなかったような気がするのだが、今、中を見ると茶色の皮の饅頭が増えている。
 気のせいだ。そうに違いない。
 アリスはその茶色の皮の方も一口して、「歯ざわりとか舌触りとか、全然違うわね」と言った。
「まぁ、こしあんとつぶあんの違いもあるけれどね」
「私はこしあんの方が好きですねー。
 これに、渋めの番茶が欲しいです」
 皮は薄皮、大きさは彼女たちの掌には少し余るほど。中にはぎっしりと詰まったつやつやあんこ。一口すれば、あんこの落ち着いた、それでいてしっとりとした甘みが伝わってくる。
「何か普通のお饅頭より美味しいわ」
「作り方が違うもの」
「何がどう違うとかは聞かないから」
 聞いたって絶対にわからない。そう確信しているからこそ、威張って胸張る幽香には、それ以上、言葉を続けないアリス・マーガトロイドである。
「これだけ美味しければ、一発で優勝間違いなしですね!」
「ちょぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
 文の言葉を遮るように、店内に響き渡るでけぇ声。
 ばーん、という騒音と共にドアが開き、現れたのは常識などどうでもよかろうなのだの緑の巫女。
「文さん、油断は禁物ですよ」
「な、何だってーっ!?」
 ふふふのふ、と不敵に笑って、頭のてっぺんの触角(若芽?)をぴこぴこ動かす早苗が取り出したのは、これまた大きめサイズのお饅頭である。
 それをテーブルの上に持ってきた彼女は『まずはどうぞ』と一同にそれを勧めた。
「……ふむ」
「あ、こっちも美味しいですね。上品な感じというか」
「……砂糖の甘さが強いわね。だけど、これは珍しいわ」
「え? わかるんですか?」
「当然でしょう」
 味のよさにうなずくアリスと文とは対照的に、それの、自分のものとの違いを一発で見抜いた幽香は腕組みする。
「……ふーん」
「だけど、そんなに後味悪くないですし」
「口の中にいつまでも甘みが残らないわね」
「これ、作ったのは誰?」
「霊夢さんです」
「へぇ~。霊夢もこんな美味しいもの作れるのね」
「そもそも霊夢さんの家に砂糖なんてあったんですね」
「いやそりゃあるでしょ……とも言いがたいというか」
 なぜか違うところに驚く文に、ツッコミ入れかけて、その勢いが弱くなっていくアリス。
 あの、『年がら年中お賽銭ナッシング巫女』の家に、そもそも『甘味』などという高級品があることに疑問を感じてしまったのだろう。
「霊夢さんは、『お母さんに仕込んでもらった』と言っていました。
 で、その霊夢さんのお母さんも、このお饅頭を、里の人から教えてもらった、とかで」
「何か不思議な縁があるものね」
 人の縁とは奇妙なり。それを見事に表現する人間関係である。
 そんな中、幽香は首を傾げてから、
「素材のレベルも違うわね」
「え? そうなの?」
「ええ。
 霊夢はこれを作るのに、砂糖を小さじ半分程度、多く入れすぎているわ。それが、素材が持つ甘みに強く――言うなればマイナスの方向に影響してしまって、結果、砂糖が強く出ている。
 けれど、この後味のよさと舌触りのよさ、そして味を上品に仕上げているのは素材が持つ実力ゆえよ」
「……よくわかりますね」
「早苗。これ、どこの人の?」
「人里の七番目の通りの角を左手に曲がって、30分くらい歩いたところにある橋を渡って、さらに30分くらい道を行った先にある気難しい太吉さんの小豆だそうです」
「え? あの(略)太吉さんですか?
 あの人、どんな人にも自分の農産物を売らない人って聞いていますけれど」
「その(略)太吉さんも、自分が気に入った人には売るそうです」
 しかし、この(略)太吉の眼鏡にかなうには、それこそ尋常でない労苦が必要ということで『店で提供するにはコストに見合わない』と敬遠されているのも事実なのだとか。
 だから、実際には『趣味の領域』の品物であるらしい。
 だが、それ故に、一切の妥協を許さず作り出された品物の味は、一般に流通しているもののそれを遥かに凌ぐのも、また事実なのだ。
「ただ、数は少ないまでも、この(略)太吉さんの小豆を買ってお店に品物を出しているお店もあるそうで。
 そういうところも出てくることを考えると――」
「かなり難しくなってくるわね」
 幽香曰く。
 料理人の腕が拮抗した時、勝敗を分けるのはアイディア。そして、使う食材の『質』なのだということだ。
 いい物を使えばいいものが出来る――それは当然の真理に見えて、実はそうではない。
 扱う料理人の腕がさび付いていたり、未熟であったり、あるいはその心が曇っていたりしたら、決して、いいものは出来ないのだ。食材に向かう真摯な想いと心、そしてそれを実現する腕前があってこそ、料理とは『輝く』ものなのである。
 ――何言ってんだかさっぱりわからないが、ともあれ、それが幻想郷における真理なのは、もはや疑うべくもないだろう。
 常識などは必要ない。これは真理なのだ。誰にも汚されず、曲げることの出来ない、絶対不変のものなのである。
「霊夢の腕前でこのくらいならば、腕利きの料理人……幻想郷料理界における『上級』クラスのものが出てきたら、私でも勝利は危ういわ」
 ちなみに、くだんの霊夢の実力は、幻想郷料理界『中堅』クラスなのだそうな。
「それは恐ろしいですね……!」
「早苗、あんた、意味わかって言ってる?」
「ノリと勢いは大切です」
「あんたらしいわ」
 幻想郷を料理で裏から支配する、『幻想郷料理界』。ここにおいて『四天王』に数えられる幽香ですら、その食材が持つ絶対的なパフォーマンスを覆すのは難しいのだ。
 ここに至って、一同の挑戦は暗礁に乗り上げた。
 幽香の腕前に疑うべきところはないが、それすら上回る食材の『質』をどうこうするのは難しい。
「山にも、農作物にこだわっている天狗がいますよ。
 彼のところで、ちょっと話をしてきましょうか」
「そういう人いるの?」
「ええ。見た目はなかなかいかつい感じなのですが、甘いものが大好きな御仁でして。
 幽香さんの饅頭を持っていけば、恐らく二つ返事で首を縦に振るかと」
「あとはあれじゃないですか? 地底の『ミスター・シュガー』こと小豆あらいおじいさん」
「だれそれ。」
「あんこを生み出すあずきと砂糖にこだわり続けた小豆あらいさんです。
 その、執着を超えた妄執故に断罪され、地底に落とされたと伺っています」
「誰から」
「さとりさんから」
「あ、それならマジだわ」
 斯様に、幻想郷には、何だかよくわからない奴らが大量にいるものである。
 だからこそ、幻想郷が幻想郷足りえるのだが、ともあれ、それは今は関係ないのでさておこう。
 勝負の日まで、もう間もない。
 幽香の腕前を最高に引き出すことの出来る食材を手に入れるのが、アリス達の仕事だ。
 心当たりを片っ端から当たり、それを見つけ出すしかない――そう決意して、各々は幻想郷の各地へと散っていった。


「なかなか難しいわね」
「ええ。
 だけど、人間の身で、それよりも遥かに長命な妖怪を圧倒的に凌駕する――(略)太吉さんはすごいわ」
 一同は現在、他人のことなど滅多にほめたりしない――別段、これは彼女が傲慢だからというわけではなく、単にそういうのが気恥ずかしいからだ――幽香が、素直に賞賛する(略)太吉の実力が、改めて証明されるという結果を迎えている。
 まず、文が向かった山の天狗は、『よし、それならこいつを持って行ってくれ。あと、ゆうかりんのケーキ10個くらい買ってきてくれ。俺、あの店入るの恥ずかしいから』と快く文に自分が作った小豆を渡してくれた。
 しかし、それを使っても、幽香の作り出した饅頭は、(略)太吉のものから作り出された饅頭にはかなわなかったのだ。
 ちなみにアリスや文にとっては『充分美味しい』ものだったのだが、幽香自身がそう言っているのだからそうなのだろう。
 続いて、地底の有名人『ミスター・シュガー』こと小豆あらいおじいさんであるが、彼は(略)太吉の名前を聞くなり、『わしでは彼に勝てぬ。他をあたるがよい』とこちらの依頼を断った。
 もはや妖怪の腕前すら超える人間――それだけで、充分、文が発行しているゴシップ……もとい、新聞のネタにはなりそうだ。
「八方塞ですか?」
「まだよ。他にも、色々あるし」
 ばっ、と手にしたスクロールを広げるアリス。
 この数日間、あちこちに文を放つ傍ら、己の人形や人脈を駆使して集めた『小豆&砂糖生産者』の皆様のリストである。
「この辺りがまだ当たってない」
 アリスが示す、いくつかの名前。
 彼ら彼女らの中には、まだまだ見知らぬポテンシャルを秘めた逸材がいるかもしれない。諦めるのは早いのだ。
「そうなると、私があちこち駆け回ってくるのがよさそうですね」
「そうね」
「というか、文。あなた、ずいぶん、こっちに協力的ね」
「そりゃ、私はこのお店の広報担当ですし。
 それに、美味しいあんこのお菓子一杯。幸せですよ~」
 作る和菓子の『味見役』は、主にアリスや文、早苗といった店のスタッフ達である。
 自分の好きな甘いものを毎日食べられる。しかも無料。これに心ときめかない女子はいるだろうか。いや、いない。
「太るわよ」
「大丈夫。何気に高速飛行って体力使うんですよ。
 その燃料補給に、甘いものは最適ですね!」
 びしっと親指立てて、斜め45度に構えたあややに『はいはい』とアリスは返すと、広げたスクロールをくるくる丸める。
「さあ、いいもの探して、今日も頑張りましょう。
 あ、幽香。あなたはお店の経営もしっかりね」
「今日もお客さん、多そうね」
「いつも多いでしょ。ここは。
 少ないのは、天気がとことん悪い時くらいなものよ」
 そうして、それはそれでとてもありがたいことだ、とアリスは言った。

「うーん……」
 勝負の日まで、もう間もない。
 片っ端から当たった農家全てが、幽香のお眼鏡にかなうものではなかった。
 あちこち飛び回って、さすがに疲労が蓄積してくる。しかし、アリスとしても、ここで諦めるつもりはない。
 彼女は戦って負けるのは嫌いだが、戦わずに負けるのは、何より嫌いなのだ。
「あと、当たってないところは……」
 手元のメモを眺めながらつぶやく。
 スクロールの中身を書き写したメモには、いくつもの『×』マークがついている。
 ついてないものは、あともうわずか。
「日程はぎりぎり大丈夫だろうけど、物が用意できないのはまずいなぁ……」
 ともあれ、悩んでいてもしょうがない。
 それじゃ、今日もそろそろお店に出発――上着を着込んで、家のドアを開けた、そのときである。
「……っと」
 どすん、と彼女は何かにぶつかった。
 何だろうと下に視線を向けると、アリスとぶつかった勢いのためか、しりもちついて、顔を押さえている、小さな女の子。
 もちろん、その顔に、アリスは見覚えがある。
「お母さん?」
「あぅ~……いたたた……」
「どうして、お母さんがいるのよ」
 アリスの母親、魔界の神様こと神綺がそこにいた。
 彼女はアリスに手を引っ張ってもらって立ち上がる。ちなみに立ち上がっても、その身長は、アリスの肩に頭がぎりぎり届くか届かないかというくらいである。
「ママ、アリスちゃんのお手伝いをするために来たのよ!」
「へ?」
 開口一番、彼女はよくわからないことを言う。
 首をかしげるアリス。反対に、胸を張る神綺。その見た目のせいで、子供が威張っているようにしか見えないのが何とも切ないカリスマである。
「えっと……」
「あのね、アリスちゃん。実は昨日、夢子ちゃんから聞いたんだけど」
「夢子さん……?」
「そうなの。
 あ、知らなかった? 夢子ちゃん、アリスちゃんのお店に行ったのよ」
「いつ?」
「昨日」
「……きてたっけ」
 アリスの家族。来てた来てないの話はともかくとして、見かけていれば忘れるはずもなく、見落としているはずもない。
 腕組みするアリスに『アリスちゃんはいなかったって言っていたわ』と神綺。
「ああ、ってことは本店の方に行ったのかな。昨日は支店にいたし」
「夢子ちゃん、すごくがっかりしてたわよ」
「言ってくれたら、本店にいたのに」
 ともあれ、その『夢子』が神綺の元に報告を持ち帰ってきたのだという。
 その報告というのが――、
「ママに任せなさい!」
 と、やっぱり子供がえばってるようにしか見えない神綺の出現につながるらしいのだが……。

「……えっと」
「……アリスさん」
「何、二人とも。あ、言いたいことはわかってるから言わなくていいから」
 開店前の『かざみ』にやってきたアリスと神綺。
 二人――特に、神綺を見て、早苗と文が固まっている。
「おはようございます。お久しぶりです」
「あ、ええ。どうも、えっと……」
「いつもうちのアリスちゃんがお世話になってます」
 と、幽香に向かって社交辞令している神綺。
 アリスは彼女を『うちの母親』と二人に紹介している。
「……何がどうしたら、あのお母様からアリスさんが?」
「まぁ、母親と言っても、お母さんは魔界の神で、私は神の『創作物』だからね。
 そう考えるなら、普通の生き物における生理的な『家族』とは違うものだと思うわ」
「いや、それにしても」
 何せ見た目が似ていない、と文は言う。
 曲がりなりにも『家族』とするなら、少しは自分に似せるはずではないか――彼女の言い分はそんなところだ。
「わからないことはないんだけどね。
 ただ、お母さん、あんな見た目でしょ? 自分にはないものを子供には持たせたかったらしくて」
「なるほど」
 そこで文は納得したようである。
 一方、
「……あんなロリロリしいぷちっ娘ママとか肌色電脳紙芝居の世界ならありうるけど……」
 よくわからんことをぶつぶつつぶやいている早苗には、アリスは話しかけなかった。
 こういう時に余計なことすると、藪をつついてヤマタノオロチを出すようなことになるのである。
「えっと、それで……」
 彼女は『これを持ってきました』と、先ほどまで手元になかったはずの風呂敷を取り出した。
 それを開くと、中に入っていたのは小豆である。
「魔界の農産物は、幻想郷のそれを遥かに上回ると、わたしが保証します!」
 えっへん、と威張る神綺。
 彼女が夢子なる人物から聞いたのは、『アリスが小豆を探している』ということであったらしい。
 何に使うのか、ということを神綺は尋ねなかった。
 そういうのを使うということは、何かお菓子を作るのだろう、と直感的に考えたからだ。
 そこで、『それなら、わたしが、アリスちゃんに小豆を渡してくるわ!』と意気込んで出てきたのだとか。
「へぇ……」
「我が魔界ブランドの農産物は、どれも手間隙かけて、味も見た目も、もちろん香りも何もかも、最高のものを供給するようにしています。
 きっと、お眼鏡にかないますよ」
 と、にっこり笑う神綺。
 その笑顔は子供っぽくて、とてもかわいらしい。言葉自体には、自分のしていることへの自信が満ち溢れているのだが、その見た目のせいでそれが相殺されていたりするのが残念であるが。
「魔界って、農業が盛んなんですね」
「まぁ、何かそういうことになっていてね」
「アリスさんは、ご実家を継いだりとかは」
「いいの。姉がいるから。
 というか、お母さんの前でそれ言うのやめて。思い出したら困るから」
「……何か色々あったんですね」
 小声になって、念押しするように言ってくるアリスに、文の頬にも汗一筋。
「……なるほど。確かに」
「うふふ。魔界の農作物は、いっちばーん、なんですよ」
 にっこり神綺に答えを返すように、幽香が一瞬で、その小豆を使った饅頭を作り上げた。
 そのスピードは最初の頃よりも早い。時間にして、ゼロコンマ程度だが。
 神綺は『相変わらずですね』と驚きもせずにそれを見つめ、文は何度も何度も目元をこすって、現実という世界を凝視している。
 ついでに早苗は、『ロリママで薄い本……内容次第だけど、これはこれで売れる……だけど、カップリングとか……』とよくわからないことをつぶやき続けているので、アリスは彼女の存在を脳みそから追い出した。
「えっと……それじゃ、頂きます」
 結局、現実は現実として受け入れるしかないと悟った文が、饅頭の味見を申し出た。
 アリスがそれに続き、それぞれ、湯気を立てている饅頭を手に取り一口する。
「どう?」
「美味しいですよ」
 にっこりあやや。
 彼女の場合、これしか言わないので、あまり役に立たない。幽香の視線はアリスへと。
「……美味しいと思う」
 そして、アリスも、出来てこの程度のコメントだ。
 幽香の視線が向かった先は、神綺である。
 神綺は『それでは失礼して』と、自分の手よりも遥かに大きな饅頭を手に取り『あ~ん』と大きく口を開けて一口。
「どうかしら?」
「う~ん……。
 美味しいのですけど、少し砂糖が強いのと、甘みがきついのがちょっと。
 砂糖も持ってきましょう。明日にでも」
「本当? 助かるわ」
「あと、このあんこはつぶあんよりもこしあんにしてください。そっちの方が、あんこのつやが出ます。
 味がしっとりとしてなめらかになりますよ」
「ああ、やっぱりそうなのね。
 とりあえず、ものがすごくよかったから、感触を強く意識してつぶあんにしてみたのだけど」
「うちのは『ものがいいのはもちろん、加工された後にこそ強く素材の良さを引き出す』作り方を心がけています。
 ああ、だけど、素材そのものの味を生かすようなのもありまして、そちらがよければ、そっちも持ってきますけど」
「お願い。両方、比べてみたいわ」
「はい」
 何やら意気投合している。
 アリスと文は互いを見る。
 しばし見詰め合ってから、もう一回、視線を幽香と神綺に戻す。
「……幽香さんと同じレベルで会話が出来る人って、実は結構、多かったりするんですかね?」
「……さあ?」
 幻想郷ってのは深くて広い。狭いところに限ってみれば、その奥深さは深海レベル。そんなところである。
 彼女たちのような、まだまだ『若造』には、この世界の奥の深さなどは理解できるはずもないのだ。
 ――もちろん、あんまり理解したくないのだが。

「……そもそもぷちっ娘ママって鑑賞対象よね。眺めて愛でるというか。そういうのに世話をしてもらうというのも背徳的な感じが漂っていていいけれど、やっぱりこう……あ、だけど、恋愛とかはダメよね、どう考えても。相手が家族という以前の倫理的なものが拘わって来るんだし。そう考えると、やっぱり、ほのぼの家庭もの……いや、よくあるか。よくある素材をどう調理するかは作り手側の腕の見せ所だけど、やっぱりそこに必要なのは妄想よね。現実があまりにも入り込みすぎてリアリティを重視してしまうと、妄想の入る隙間がなくなってしまって、一気に面白くなくなるし。それなら、展開的に……うーん……アリスさんちの幸せ家庭の具現化……あ、これ、いいかも……だけど、何かよくあるネタっぽくなるのがつまらないなぁ……。ああいうちびっこママを最大限に生かしつつ、それに甘えるアリスさん……あ、これはこれでよさそう……そういう、逆転的な展開ってやっぱり燃えるところあるし、それに何より、普段はクールな人が家族の前ではでれでれになるとか、よくあるけど、逆によくあるからこそ素晴らしいものではある……」

 そしてその間、我関せず、ひたすら早苗は何かよくわからんことをつぶやき続け、眉を寄せて腕組みしてうなり続けていたのだった。


 ――さて。
 やってきました、決定戦当日。
 場所は人里にある、大きな公民館施設。
 そこに、人里の甘味処の店主たちが集まり、腕によりをかけた数多の甘味を並べていくというイベントなのだが、
「お饅頭、お団子、きんつば、あんみつ、おもちにもなか! う~ん、幸せ~」
「あんた、よく食べるわね」
「甘いものは別腹ですね!」
 あちこちの店に『取材』という形で声をかけにいって、『新聞記者さん、よろしくな!』と試食のお菓子をもらってたらふく口にしているあややである。
 アリスは、『太るわよ』とツッコミ入れるのだが、もちろん、文は聞いちゃいない。
「はたてさんもどっかにいると思うんですけど」
 ようかんもぐもぐしながら、彼女はあたりをきょろきょろ見回す。
 人の数は結構なもの。
 単純に、参加している店の数が多いため、絶対数が膨れ上がっているのだ。
 何せ、娯楽の少ない幻想郷。こういう、『ちっぽけなイベント』でも大賑わいとなるのは必然だろう。
「彼女も?」
「紅魔館をスポンサーに持ってますからね」
「紅魔館も参加してるのかしら」
「してるんじゃないですか?
 あそこが、この手のイベントに出てこないってのは、そっちのが珍しいレベルだと思うんですけど」
「まあ、確かに」
 しかし、あそこのもの達は、皆、目立つ格好をしている。
 ざっと辺りを見渡しても、それらしき衣装を身に着けた人物は見当たらなかった。
「まぁ、出ているとするなら、どっかにいるだろうし。
 見つけたその時に声をかければいいんじゃない?」
「それもそうですね」
 そんな彼女たちのブースは、建物の一角、やや奥まったところに配置されている。
『かざみ』の、一般人への知名度は非常に高く、人気も大したものだが、このイベントに参加している者たちの中では新顔である。
 そういう相手への扱いというのは、得てして小さいものだ。
 イベントの実行委員の者たちも、『心苦しいが、それは承知して欲しい』とアリスには声をかけている。
 もちろん、アリスも、その程度のことで声を荒げるほど狭量ではない。構いません、とそれを笑顔で受け入れていた。
 彼女たちは、自分たちのブースへと足を運ぶ。
 そこでは、いつもよりずいぶん緊張した面持ちの幽香と、そのサポートである早苗が立っている。
 テーブルの上には、今回の目玉である、『魔界小豆』と『魔界砂糖』を使った饅頭がある。
 ……何でも『魔界』つけりゃいいってもんじゃないような気もするのだが、神綺が『だって、悪魔の言語は人間では発音できないでしょ?』というのだから仕方ない。
「どう? 早苗」
「人気は高いですね」
 イベントの趣旨は簡単である。
 それぞれ、参加した店が持ち寄った自信作をテーブルに並べ、それを食べたものが、自分が一番『美味しい』と思った店の名前を書いて、前のほうにある投票箱に投票する、というものである。
 多く票を獲得したものから順番に、一位、二位、三位、と順位がついていくのだ。
「どの人も、『こんなうまいあんこは食べたことがない』って驚いていましたよ」
「まぁ、当然よね」
「あ、アリスさん、何か誇らしげですね~」
「かっ、からかわないでよ!」
 心なしか子供っぽい表情で『えっへん』となってるアリスの横顔を、文が隣で撮影する。
 アリスはほっぺた赤くして、彼女が向けてくるレンズを払うと、
「投票はしてもらえてそう?」
「そればっかりは」
 肩をすくめる早苗に、『これ、差し入れよ』と、アリスが辺りの店からもらってきた試食品を手渡した。
「うわー、これ美味しい! 
 洋菓子の甘さもいいけど、和菓子の落ち着いた甘さもいいですよねー」
 甘いもの大好き系女子の早苗は、渡された和菓子の美味しさに舌鼓を打ち、『ダイエットとかどうでもよかろうなのだ!』と笑顔を浮かべている。
 後日、現実の到来を受けて、顔を真っ青にするのは間違いないのだが、今だけは、現実を忘れて夢に浸るのも許される――それが幻想郷である。
「どれどれ?」
 幽香が隣から手を伸ばして、あんこがどっさりついたお団子を一口。
「食べやすい大きさに、軽い甘さね。お茶のお供というか、ちょっと小腹が空いたときによさそう」
「お菓子ってそういうものだしね」
 彼女たちがそんな話をしていると、新たな『お客様』がやってくる。
 年齢なら50歳くらいの、精悍な顔立ちの男性である。
「うーむ……これが、あいつらの言ってた饅頭か……。
 確かにうまい……」
 よろしくお願いしまーす、と早苗が手渡した饅頭を食べながら、彼は思わず、そんなことをつぶやく。
 腕組みし、眉根を寄せているが、その味の見事さには感心しているようだ。
「大体、あんな感じです」
「ふーん」
「幽香さんを知っている人は、『お、幽香さんじゃないか。和菓子も始めるのかい?』なんて、親しげに話しかけてくるんですよ」
「ちゃんと、会話、してるでしょうね?」
「うぐ……」
 声をかけられると言葉につまり、思わず、隣の早苗に助けを求めてばかりの幽香は、呻いて視線をうつむきにしてしまう。
 予想はしていたことだが、やっぱり予想通り過ぎて、アリスは思わずため息一つ。
「幽香さんはこれだから人気があるんですよ」
 文がそれをすかさずフォロー。
 男性の趣味や好みは多数あるが、『奥ゆかしい恥ずかしがり』な女性への印象というのは、軒並み、高いのだ、と。
「……なんか違うような気がする」
「アリスさん。人間、外面ですよ」
「あんたが言うな」
 ちょっぴり顔を引きつらせるアリスに、よくわからんことを言う早苗。それにアリスがすかさず返したところで、また新たな男性がやってくる。
「あ、どうもこんにちは」
 振り返った先の彼は、アリスにとっては顔なじみ。
 よく、店にやってくる常連さんだった。
「やあやあどうも。珍しいこともあるもんだ、という話を聞いて足を運びました」
 人懐っこい笑顔を浮かべる、40代中ごろの彼。
 人のよさそうな笑顔そのままの人格の持ち主である彼に対する、彼女たちの印象はかなり良い。
「これが、『かざみ』さんの自慢の逸品ですか。どれ、一つ」
「どうぞどうぞ」
「ふーむ……。いい味出してますなー。
 いや、うちももっと努力せんと、いつまでたっても差が開いたまんまだ」
「そんなことありませんよ」
「わはは。いや、ありがとうございます。
 うちのは……ああ、もう食べてくれてますか。ありがとうございます」
 それじゃ、と彼は頭を下げて去っていく。
 ちなみに、彼が『うちの』と言ったのは、ただいま、文が手に持ってかじっているきんつばである。
「それ、どう?」
「甘さ控えめで、甘党の人にはちょっと物足りないですけど、口の中さっぱりですからね。しつこく残らないから、ちょっとつまみたい時とか、あとはお上品な場にいいと思いますよ」
「見た目もいいですしね」
 文はきんつばを食べながら、「アリスさんは人付き合いもいいですね」と言った。
 アリスはそれに対して、『当然でしょ』という視線を返すまでである。
「参加者、どれくらいいるんでしょうか」
「さあね……。100はいってそうだけど」
「人里のお店って、結構、多いですよねー」
 見たこともない名前の店が、多数、ここには出展している。
 彼ら彼女らは、一体、里の、あるいは幻想郷のどこに店を開いているのか。
 ちょっと後で聞いてみようかな、と早苗が言うと、
「……ん?」
 唐突に、通路の向こう側が騒がしくなった。
 文はきんつばを食べ終え、次はもなかを口に含みながら、そちらに視線を向ける。
「何でしょう?」
「さあ?」
 騒ぎはこちらに向かって近づいてきているようだ。
 何事かとそちらを見つめる彼女たちの前に、やがて、その騒ぎの源が現れる。
「あの人、(略)太吉さんですね」
 早苗が言った。
 その(略)太吉は、身長ならばアリスよりも低く、文と同程度か、それよりも低いくらいの小柄な男性である。
 年齢ならば、50か、60か。顔に刻んだしわが彼の年輪の深さを示し、その一方で、体はまっすぐぴんと立ち、がっしりとした筋肉がついているのが見た目にもわかるほど。
 彼はまっすぐに、幽香の前へとやってきた。
「それを一つ、食わせてくれるか」
「あ、は、はい。ただいま」
 彼が指差した饅頭を、幽香は手に取り、彼に渡した。
 彼はじっと、その饅頭を見た後、がぶりとそれをかじる。
 口を動かし、喉を鳴らした後、
「うまい!」
 彼は、そういった。
「この辺りの奴らから聞いたんだが、こいつは俺が作った小豆よりもいいものを使っているな?」
「え、えっと……」
 幽香が助けを求めて、視線を辺りにさまよわせる。
 アリスが前に出て、「そういうことはないかと」と当たり障りのない返答をした。
 しかし、彼は、「余計な気遣いはいらねぇよ」とぶっきらぼうに返してくる。
「ふぅん……。
 確かに、こいつはうまい。このあんこはうまい。俺はこんなもの、今まで食ったことがない。
 あっちの奴らはダメだな。腕がへたくそすぎる。
 ま、俺が言えた義理じゃねぇが」
 俺は料理なんてこれっぽっちも出来ない、と言った後、饅頭をきれいに平らげた。
「ごちそうさん。うまかったよ」
 彼は手を伸ばして、幽香の肩をぽんと叩くと、その場を後にした。
 歩いていく彼は、途中で、見慣れた男性――先ほど、アリス達のところにやってきた、あの人のいい彼だ――を伴って、その場を去っていった。
「……あのおじさん、(略)太吉さんのあんこを使っていたんですね」
 文は先ほど食べたきんつばの味を思い出しながらつぶやく。
 そういえば、普段、食べるものよりもずっと美味しかったなぁ、と。
 今更ながらにそれを考えてしまって、彼女は首を左右に振った。
「噂を聞きつけてきたんでしょうか?」
「むしろ、あの人が教えたのかもしれないわね」
「『お前の作ったあんこより、ずっとうまいあんこがあるぞ』って?」
「かもね」
 しかし、(略)太吉は幽香をほめるだけで、悪態をついたり毒づいたりはしなかった。
 早苗の予想した通り、やはり幻想郷には『いい人』が多いのだ。
 よくもやってくれたな。次は俺が勝つ番だ――そんな人たちが。
「けど、アリスさん、ちょっと誇らしいんじゃないですか?」
「何で?」
「だって、アリスさんのお母さんが作ったんですよね?」
「ま、まぁ、そうかもね」
 そう言われて、はたと思い出したのか、アリスの声が少しだけ上ずった。
 自分の家族をほめられたのだ。悪い気はしないだろう。
「一位、取れますかね?」
「やってみないとわからないでしょ」
「今、やってますよ?」
「終わってみないとわからないわよ」
 だから頑張れ、とアリスは一同を鼓舞した。
 特に縮こまったままの幽香の尻を叩いて、『もっと胸を張れ』と言う。
 ――さて、どれくらいの票が入ることだろうか。
 普段の『営業』とは違う光景を眺めながら、アリスはひょいと肩をすくめたのだった。


『いただきまーす!』
 紅魔館に、ちみっこお嬢様たちの声が響く。
 彼女たちの前には、大きなお饅頭が二つ、お皿に載って出されていた。
「人里で、甘味処の勝負があったなんてね」
「アリス様から話を聞いて知りました」
「来年は出ようかしら?」
「冬にもあるみたいですよ」
「じゃあ、それに向けて?」
 くすくす笑う咲夜は、話を持ってきたメイドに言葉を返す。
 ちみっこお嬢様たちは、美味しそうにお饅頭頬張って、にこにこ笑顔。
 普段はケーキなどの洋菓子がメインのこの屋敷だが、和菓子も彼女たちは大好きなのだ。
「そこで、だけど、幽香でも一位を取れないのね」
「やはり付き合いとかあるからじゃないですか?」
 先日の『人里甘味処決定戦』では、アリス達の出品は、残念ながら上位三位にも入ることが出来なかった。
 多くの人たちが感心するうまさとできばえだったのだが、そこはやはり『新参』もの。
 彼女たちは、周囲の『付き合いの長い』人々の枠には踏み入ることが出来なかったのだ。
「アリス、悔しがっていたでしょう?」
「そうでもありませんでしたよ。
『次回は負けないわ』って言ってましたけど」
「さすがは、私も認める負けず嫌いね」
「それで、あれが」
「ええ。
 何でも『魔界小豆饅頭』らしいわ」
「……なんか物騒な名前ですね」
 メイドの指摘通り、ちょっと聞いただけでは中に毒が入ってるのではないかと思われる商品の名前なのだが、その味は格別というのが人里での評判だった。
 何せ、あの『かざみ』が出すのだ。まずいわけがない、というのが前評判だったのだが、蓋を開けてみればいつも以上の長蛇の列が店の前に出来たのだとか。
 アリスたちが、店にやってきた人たちに話を聞くと、『いつも行く甘味処の親父が、あんたのお店の宣伝をしていたよ』と言っていたらしい。
「それで、実際に、ものすごく美味しいのだものね」
「うちの子たちも、『これはすごい! 負けてられない!』って、目の中に炎を燃やしてました」
「あそこの店、集客は上がりそう?」
「男性も並びやすいように配慮する、とは言っていましたけれど、やっぱり普段から女の子向けですからね。どうでしょうか」
「アリスのことだから、売り方も考えてくるでしょうね」
『男性に配慮した売り方』というのがよくわからないのだが、まぁ、アリスのことだ。何かを何とかするだろう。
 あの頭の切れる経営者は、やはり強敵だ。紅魔館の地盤を揺らす『原因』の一つなのは間違いない。
「ねぇねぇ、さくや! このおまんじゅう、すっごくおいしいね!」
「そうですね」
「フラン、これ、もっと食べたい! 明日も!」
「咲夜、わたしも。
 他にも商品があるのでしょう? それを全部、きちんと食べ比べて、うちの脅威とならないかどうか確認をしないと」
 にこにこ笑顔のもっとちみっこお嬢様と、澄ました顔しているものの背中の羽を忙しなくぱたぱた上下に動かしているちみっこお嬢様。
 実に微笑ましいその光景に、咲夜は一言、『かしこまりました』と返すのだった。





 ~以下、文々。新聞一面より抜粋~

『喫茶「かざみ」で和菓子の販売を開始! 男性諸君、今こそお店へ!

 定期的に情報をご提供する、喫茶「かざみ」の新しい話題を、今回は諸兄らへとお届けする。
 このたび、店主である風見幽香女史の新たな経営方針発表に伴い、「かざみ」にて下記に示す和菓子の販売を開始する。
 これまで、洋菓子であるケーキなどが主であった「かざみ」の新たな風である。
 この理由を尋ねると、風見幽香女史より「うちのお店は男性が入りづらい店だった。今回、男性向けのメニューとして、和菓子を考案してみた。美味しいので、ぜひ、来て欲しい』という回答を頂くことができた。
 確かに、「かざみ」に男性は入りづらい。それは、本紙記者も認めよう。
 女性ばかりが大勢並び、店の中はモダンなパステルカラーの店。もうこれだけで、男性としては尻込みしてしまう店になっている。
 いやいや、本紙記者は諸兄を馬鹿にしているわけではない。諸兄の気持ちは、充分、わかっている。何せ、本紙記者の知り合いにも、あの店に行きたいのだが、行くに行けず切ない思いをしている男性が数多いからだ。
 これは、彼ら、そして「かざみ」にいきたいのに二の足を踏んでいた読者諸兄への朗報である。
 いや、ちょっと待て、店に入るのには変わらないだろう――諸兄はそう思っていることだろう。
 しかし、安心して欲しい。
 このたび販売を開始する和菓子類は、本店及び支店の店先で販売されることになっている。
 キャンペーン期間ということもあるが、まずは店の「空気」に慣れて欲しいとの、店主の気遣いである。
 店先で、お店の店員が手渡しで販売をしてくれるとのことだ。
 通常並ぶ列と同じ列での並びとなってしまうことは勘弁してあげてほしい。待ち時間も結構なものとなってしまうが、それを避けるために朝一突撃などを検討している方がいれば、一考して欲しい。
 もちろん、和菓子類の店内販売も行っている。どちらで買っても問題ないが、店先だけの販売だけでは、と思った諸兄はぜひとも店の中へと足を運び、これまで見たことのない菓子や店主の笑顔などを見てくるのもいいだろう。
 何せ、それだけで、諸兄はこのお店の虜になること請け合いだからである。
 また、それに伴って、和菓子に合うお茶の販売も、一時的に行うということだ。
 こちらで用意されるのは緑茶とほうじ茶という一般的なものである。しかし、店主のこだわりがここにもある。お茶一つをとっても、これまで諸兄らが口にしてきたものとは一味違うものであることを保証しよう。
 併せて、この店外販売の期間中は、個数限定で和菓子の値引きも行っている。
 それぞれの商品について、一日100個限定であるが、通常の値段から3割引での販売を行っているため、「かざみ」のお菓子を一度も食べたことのない、特に男性諸兄は狙い目である。今こそ、勇気を出して、店主に「饅頭一つ」を告げてみるのはいかがだろうか。
 ちなみに、それでもどうしても恥ずかしい、という初心な諸兄に配慮して、「かざみ」では、店外販売の期間中、特別販売も行うことになっている。
 それがどういうことかというと、事前に店の前で配布されている用紙に必要事項を書き込み、置かれているかごの中へ投函するだけである。これは注文用紙となっており、書かれたものを、即日、配達してくれるサービスとなっている。
 どうしても店に足を運ぶのが恥ずかしいという諸兄は、これを利用するのも手の一つだろう。
 なお、商品はなまものであるため、配達されたその日、もしくは翌日中に食べてしまうことを推奨する。
 そして食べきった後、今度こそ、店の前へと並び、店主へと、そして店の中を眺めてみて、気に入ったもの、食べたいものを見つけて「かざみ」の虜になってほしい。


                                                     著:射命丸文
このたび、喫茶「かざみ」にて新商品、「魔界小豆饅頭」の販売を開始します。
かねてより、特定のお客様より「少し店に行きにくい」とのお言葉を戴いておりましたので、当商品は店頭販売のみとなります。
商品ご購入の際は、列の整理およびスムーズな販売を行うために、以下のように商品を販売いたします。

<魔界小豆饅頭>
値段:50~120円 小・中・大のサイズがございます
・小サイズ:お子様や女性の方でも食べやすいサイズです。ご購入の際は、藤原妹紅の列にお並びください。
・中サイズ:男性がお茶のお供に食べるとぴったりなサイズです。ご購入の際は、蓬莱山輝夜の列にお並びください。
・大サイズ:複数名、もしくはお腹がすいた時にがっつりなサイズです。ご購入の際は、寅丸星の列にお並びください。

なお、人選に他意はございません(執筆:東風谷早苗)
haruka
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コメント



0.780簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
文はパクパク食べすぎィ!
某ゲームでも「店に居づらい」「来づらい」って男性NPCが結構いましたが、予想以上にそういう人多いんすね
幽香に会えるならそういう恥ずかしさなんざ屁でも無いと自分なら思いますが、それはファンクラブ側の思考回路か…
3.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
8.80名前が無い程度の能力削除
嘘つけ絶対見た目でわかりやすい店員を配置してるゾ

…饅頭あまりに安いので買いすぎて太る未来が見える
14.100名前が無い程度の能力削除
ダイエット中の自分になんてものを読ませるんだ( ゚д゚ )
18.無評価名前が無い程度の能力削除
1つのまんじゅうを複数名で食べるなんていやらしい!