くあっ、と欠伸を一つ。寝てる間ずっと閉じていた口内に新鮮な外気を取り込み、それを吟味するように舌を動かす。
うん、朝だ。紛れもない朝だ。日光を含んだ暖かい味がする。まあ適当だけど。空気に味なんてないし今の季節は特段暖かくもない。
しかし部屋に入ってくる光は間違いなく月光ではなく日光だ。だから朝だ、うん。
などとぼんやりした意識を起こすための頭の体操ととってつけた理由で回りくどいことを考えていると、聞き慣れない音が耳に入ってきた。
何かを振り回す音だ。外から聞こえてくる。隠す気は無いようで、力強く何度も鳴っている。それに音だけでなく何やら声も出している。一声一声は短く、誰かと話しているようではない。
単独でこんな朝っぱらから博麗神社に来るヤツなんて心当たり……めちゃくちゃある。しかしそいつなら不躾にドタバタ足元を鳴らしながら玄関からカチ込んでくるだろう、だから違う。
ならばこいつは一体何者なのか?盗人ではないようだけれど、得体が知れないから少し不気味だ。
里の人間なら、朝は朝食や畑仕事などで忙しく、まずここには来ない。なら妖怪かと言えばそれも違うだろう。力の無い妖怪は基本的に夜に動くし、そうじゃないヤツらなら先述したヤツみたいに騒がしくいけしゃあしゃあと転がりこんでくる。だから違う。
ならこの外で音を鳴らしてるやつは何者なのか?さっぱりすっぱりきっかり分からない。
ここまで考えたところでハッとなり頭を振り回す。埒が明かないなら自分の目で確かめればいいだけじゃないか。そんな単純なことになぜ気付かなかったのか。まったく、寝ぼけ頭とはみっともない。頭の体操はしっかりすべきだ。
敵ではなさそうだけど念のため、寝る前に枕元に置いていた幣と御札を一束懐に忍ばせる。油断大敵というやつだ。
そして胸元に手を当てて、深呼吸を三回ほどしてから、目を閉じて、そしてカッと見開いてから襖を開けると。
「ふっ!はっ!そぉ、れっ!!」
鳴っていた音は、空気を切り裂く右手に持った剣の、いや、針の音。声は勢いをつけるための掛け声。
ヒュンヒュンと得物を振り回しながら、地面に落ちている緑色の葉を舞い上げながら縦横無尽に動き続けている。
外にいたのは、私の腰ほどの体格で、頭にお椀を被り、奇天烈な模様の入った着物を身につけた女の子。
この神社の……居候、少名針妙丸だった。
「とっ!ほっ!ほっ!せっ!」
掛け声と共に踏み込みながらの三連突き、引き抜くようなけさ斬り。
「んぉっ!とぉれっ!」
けさ斬りからの勢いに乗って一回転、からの横なぎ払い。
「はぁっ!」
素早く針を持ち直し一直線に突っ込む。
「はっせっやっとってててててぇぇぇぇ!!」
突き、けさ斬り、払い、斬り下ろし、斬り上げ、素早く小刻みに絶え間なく技を繰り出していく。
踊るように、自分の出来る精一杯の動きを見せるようにして、次々に。
「せ、えぇっ!」
剣舞の最後に、地面ごと持ち上げんばかりの勢いで大きく斬り上げる。
その風圧で地面の葉が一際多く早朝の空へ吹き上がり、ひらひらと落ちてくる。
針妙丸はそのうちの一つに意識を集中させていた。
右手の針を肩まで持ち上げ、左手を照準を合わせるように手のひらを視線の先に向けながら。
そして、自分の顔くらいまで落ちてきたのを見計らい。
「でぇやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
左手を引き抜くと同時に、右手の針を渾身の力で突き出す。
すると針先から大きなうねりが生じ、落ちてきていた葉は再び上昇したり横に弾け飛んだり
てんでバラバラの方に飛んでいった。しかしそれは上げられた葉のみならず
地面に散らばっていた葉もまた同じように吹き飛んでいった。
狙いを定めていた葉というと、針妙丸から見て斜め上に飛んでいって見失ってしまった。
しかし私はしかと見た。その葉が針で刺されたわけでもないのに破け飛んでいったのを。
破けたのは一枚だけではない。周辺を舞っていた葉はもちろん、
標的の葉の延長線上にあった離れた木々も、枝が折れたり幹がヘコんだりしていた。
そのような力を見せた針は、まっすぐに伸び、日光を受けキンッと反射していた。
針妙丸もまた、まっすぐ、まっすぐに針の先を見据えていた。
まるで、その先に何かが見えているかのように。何かを見失わないように、まっすぐに。
全ての葉が地面に落ちると針妙丸は針を下ろし、ふぅっと一息ついた。
額の汗を左手でぬぐい、何気なくこちらの方を見ると。
「あっ、霊夢!?えっ、見てたの!?」
さっきまでの凛々しい顔とは段違いのすっとぼけた間の抜けた顔に早代わりした。同一人物じゃないでしょこれ。
「見てたわよ。ていうか、あんたに起こされた」
「うそ、ほんとに……?あー、外だから大丈夫かなーってやりすぎちゃったかなあ、ごめん」
「まぁ冗談だけど。」
「冗談!?間に受けちゃったじゃん、ひっどーい!」
「騙して悪いわね」
頬を膨らましながらむーっと唸り声を出す。なんとも形容しがたい顔してるわねこの子。
さっきの顔ほんとどこいったのよ。
にしても、だ。縁側に座った針妙丸に疑問に思っていたことを聞いてみる
「あんた、体どうしたの。昨晩までつまみ上げられるくらいのサイズだったのに」
「ああ、これ?ふふん、小槌の魔力で大きくしていたんだー。どーよどーよ、いいでしょー?」
「小槌って……それ使ったら、またはねっかえり受けちゃうんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。どうやらアレは、利用した小槌の魔力を返さないと起こるみたいで
ちゃんと返却すれば問題無いみたい。で、長時間使いっぱなしだと
その分返す代償も大きくなっていくんだけどすぐ返せばそこも問題無し。
だから普段は小人サイズで、必要な時だけ大きくしてもらえば万事オッケーなんだー」
「ようは小槌は借金の取立て人ってことね」
「しゃ、しゃっき……ま、まあ、ざっくらばんに言えば、そうかも……」
納得出来ないというかしたら負けみたいな顔をしながら懐の小槌を取り出し一振り。
すると元の小人サイズに戻っていった。うん、やっぱこっちのが見慣れてる感あるわ。
「ねえねえ霊夢!さっきのトレーニング、見ててくれたんだよね!?どうだったどうだった!?」
私の膝小僧によじ登りながら目を輝かせながらの質問だった。
「途中からしか見てないけど、いい感じだったんじゃない?動きも滑らかだったし」
「ほんと!?やったー嬉しいなー!霊夢に褒められちゃったよー!むふーふふ~ん!」
「鼻息やめなさい、生ぬるいから。にしてもあんた、どうしてこんなこと?」
「んー?んー……来たるべき決戦に備えてー、って感じかなあ」
「なにそれ」
「ほら、私も博麗神社の一員じゃない?なら異変が起こったら私も戦わないといけないじゃない。
だからその時のために鍛えておかないとと思ってねー」
「……あんた、異変解決に参加したいの?」
「するよ!したい!」
「んな目ぇキラキラさせながら言うものじゃないって。大体あんたがそんなことする前に
私や魔理沙が解決しちゃうっての。鍛えても意味無いわよ」
「んー、だったら霊夢の留守を狙って襲ってくる悪者から神社を守ったげる!」
「まあ、確か何回か崩れてるけど……それはそれですぐ危険察知して帰ってくる。
んでパパッとしばいて終わり。やっぱりあんたの出る幕は無いわ」
「えー、なんか霊夢、私を戦わせたくないみたいー」
「そんなんじゃないけど、ただ無駄な努力はやらなくていいって言ってるだけ」
「……別にさ、そんなことが無くても……来るんだよ、いつかは」
「え?」
「戦う時は来る。私が、私自身が、決着をつけなきゃいけない時が」
そう言い切る瞳は。最後の一突きの後、まっすぐ目の前を見据えていたあの目と同じだった。
何かを見ている、何かを見失わないように、燦然と輝くまっすぐな瞳。
……そうか、あんたが見ているものは、異変でも、神社でもなく……。
「針妙丸、もっかい大きくなりなさい」
「えっ、なんで?」
「私も朝の運動がしたくなってきた。付き合いなさい」
「ありゃ珍しい。別に運動なら、このまま霊夢の頭にでも乗れば」
「なに勘違いしてんの?運動っていうのは……」
立ち上がって庭先へと歩き、縁側でキョトンとしている針妙丸に幣を突きつける。
懐に入れていた御札も取り出し広げて見せる。言うまでもなく異変の時に使う、戦闘用のものだ。
「これ。さあ、やるわよ」
しばらく変わらずキョトンとしていた針妙丸だったが、次第に目は見開き、眉は上に
口はあんぐりと開いてきた。あと鼻も膨らんできてるけどそこは言及しないでおいてあげよう、私やっさすぃー。
「…………えっ!?マジ!?」
「マジ」
「でジマ!?」
「マジでジマ。ほら、早く」
「いや、だって、私、ほら、あの、つ、疲れちゃったっしー、ご、ご飯たーべたーいなー
ははは、なーんて……」
「付き合わなかったらご飯抜き」
「ずっこ!ずっこいよこの人!あんまり言ってるとまーた悪評流れるよ!
やはり神社の巫女は横暴だった!暴力巫女健在!みたいなそんなノリで!!」
ほほう、これは少しカチーンときちゃった。それならこっちだってお返ししたくなるわね
「大丈夫よ、ちゃんと手は抜いてあげる。朝だしそうねー、せいぜい二割くらいでいったげるわ」
すると、ほぅら。ムッときた顔になった。この子はこのナリで結構な負けず嫌いなのだ。
「ほほーう、霊夢さぁん、ちょーっと今のは聞き捨てならないよー?さすがにそれはナメすぎじゃないー?」
「妥当なとこだと思うわよ。それに博麗の巫女の予見に狂いは無いのよ」
「だったら、今回で初ハズレだね!」
小槌を振るい、体格を先ほどまでの大きさに変化させる。同時に目付きも無邪気に輝く幼いものから
手にした針と同様に凛と輝く力強いものへと変わった。
この瞬間、この眼差しを向けられるのは初めてじゃないことに気付いた。かつて異変の時もこんな眼をしていた。
なんだかとても昔のことのように思えて、自然と笑みがこぼれた。
あの時もこんな風に、左手を前にかざしながら頭の上まで掲げた針の切っ先をこっちに向けて構えていたっけな。
「笑ってるなんて余裕あるね、霊夢」
「だって余裕だもん」
「ならその余裕、すぐに崩したげるよ!!」
「やってみせなさいな、針妙丸」
同時に地を蹴り、宙へ舞い上がる。
頭はすっかり澄み切っていた。
終わり
うん、朝だ。紛れもない朝だ。日光を含んだ暖かい味がする。まあ適当だけど。空気に味なんてないし今の季節は特段暖かくもない。
しかし部屋に入ってくる光は間違いなく月光ではなく日光だ。だから朝だ、うん。
などとぼんやりした意識を起こすための頭の体操ととってつけた理由で回りくどいことを考えていると、聞き慣れない音が耳に入ってきた。
何かを振り回す音だ。外から聞こえてくる。隠す気は無いようで、力強く何度も鳴っている。それに音だけでなく何やら声も出している。一声一声は短く、誰かと話しているようではない。
単独でこんな朝っぱらから博麗神社に来るヤツなんて心当たり……めちゃくちゃある。しかしそいつなら不躾にドタバタ足元を鳴らしながら玄関からカチ込んでくるだろう、だから違う。
ならばこいつは一体何者なのか?盗人ではないようだけれど、得体が知れないから少し不気味だ。
里の人間なら、朝は朝食や畑仕事などで忙しく、まずここには来ない。なら妖怪かと言えばそれも違うだろう。力の無い妖怪は基本的に夜に動くし、そうじゃないヤツらなら先述したヤツみたいに騒がしくいけしゃあしゃあと転がりこんでくる。だから違う。
ならこの外で音を鳴らしてるやつは何者なのか?さっぱりすっぱりきっかり分からない。
ここまで考えたところでハッとなり頭を振り回す。埒が明かないなら自分の目で確かめればいいだけじゃないか。そんな単純なことになぜ気付かなかったのか。まったく、寝ぼけ頭とはみっともない。頭の体操はしっかりすべきだ。
敵ではなさそうだけど念のため、寝る前に枕元に置いていた幣と御札を一束懐に忍ばせる。油断大敵というやつだ。
そして胸元に手を当てて、深呼吸を三回ほどしてから、目を閉じて、そしてカッと見開いてから襖を開けると。
「ふっ!はっ!そぉ、れっ!!」
鳴っていた音は、空気を切り裂く右手に持った剣の、いや、針の音。声は勢いをつけるための掛け声。
ヒュンヒュンと得物を振り回しながら、地面に落ちている緑色の葉を舞い上げながら縦横無尽に動き続けている。
外にいたのは、私の腰ほどの体格で、頭にお椀を被り、奇天烈な模様の入った着物を身につけた女の子。
この神社の……居候、少名針妙丸だった。
「とっ!ほっ!ほっ!せっ!」
掛け声と共に踏み込みながらの三連突き、引き抜くようなけさ斬り。
「んぉっ!とぉれっ!」
けさ斬りからの勢いに乗って一回転、からの横なぎ払い。
「はぁっ!」
素早く針を持ち直し一直線に突っ込む。
「はっせっやっとってててててぇぇぇぇ!!」
突き、けさ斬り、払い、斬り下ろし、斬り上げ、素早く小刻みに絶え間なく技を繰り出していく。
踊るように、自分の出来る精一杯の動きを見せるようにして、次々に。
「せ、えぇっ!」
剣舞の最後に、地面ごと持ち上げんばかりの勢いで大きく斬り上げる。
その風圧で地面の葉が一際多く早朝の空へ吹き上がり、ひらひらと落ちてくる。
針妙丸はそのうちの一つに意識を集中させていた。
右手の針を肩まで持ち上げ、左手を照準を合わせるように手のひらを視線の先に向けながら。
そして、自分の顔くらいまで落ちてきたのを見計らい。
「でぇやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
左手を引き抜くと同時に、右手の針を渾身の力で突き出す。
すると針先から大きなうねりが生じ、落ちてきていた葉は再び上昇したり横に弾け飛んだり
てんでバラバラの方に飛んでいった。しかしそれは上げられた葉のみならず
地面に散らばっていた葉もまた同じように吹き飛んでいった。
狙いを定めていた葉というと、針妙丸から見て斜め上に飛んでいって見失ってしまった。
しかし私はしかと見た。その葉が針で刺されたわけでもないのに破け飛んでいったのを。
破けたのは一枚だけではない。周辺を舞っていた葉はもちろん、
標的の葉の延長線上にあった離れた木々も、枝が折れたり幹がヘコんだりしていた。
そのような力を見せた針は、まっすぐに伸び、日光を受けキンッと反射していた。
針妙丸もまた、まっすぐ、まっすぐに針の先を見据えていた。
まるで、その先に何かが見えているかのように。何かを見失わないように、まっすぐに。
全ての葉が地面に落ちると針妙丸は針を下ろし、ふぅっと一息ついた。
額の汗を左手でぬぐい、何気なくこちらの方を見ると。
「あっ、霊夢!?えっ、見てたの!?」
さっきまでの凛々しい顔とは段違いのすっとぼけた間の抜けた顔に早代わりした。同一人物じゃないでしょこれ。
「見てたわよ。ていうか、あんたに起こされた」
「うそ、ほんとに……?あー、外だから大丈夫かなーってやりすぎちゃったかなあ、ごめん」
「まぁ冗談だけど。」
「冗談!?間に受けちゃったじゃん、ひっどーい!」
「騙して悪いわね」
頬を膨らましながらむーっと唸り声を出す。なんとも形容しがたい顔してるわねこの子。
さっきの顔ほんとどこいったのよ。
にしても、だ。縁側に座った針妙丸に疑問に思っていたことを聞いてみる
「あんた、体どうしたの。昨晩までつまみ上げられるくらいのサイズだったのに」
「ああ、これ?ふふん、小槌の魔力で大きくしていたんだー。どーよどーよ、いいでしょー?」
「小槌って……それ使ったら、またはねっかえり受けちゃうんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。どうやらアレは、利用した小槌の魔力を返さないと起こるみたいで
ちゃんと返却すれば問題無いみたい。で、長時間使いっぱなしだと
その分返す代償も大きくなっていくんだけどすぐ返せばそこも問題無し。
だから普段は小人サイズで、必要な時だけ大きくしてもらえば万事オッケーなんだー」
「ようは小槌は借金の取立て人ってことね」
「しゃ、しゃっき……ま、まあ、ざっくらばんに言えば、そうかも……」
納得出来ないというかしたら負けみたいな顔をしながら懐の小槌を取り出し一振り。
すると元の小人サイズに戻っていった。うん、やっぱこっちのが見慣れてる感あるわ。
「ねえねえ霊夢!さっきのトレーニング、見ててくれたんだよね!?どうだったどうだった!?」
私の膝小僧によじ登りながら目を輝かせながらの質問だった。
「途中からしか見てないけど、いい感じだったんじゃない?動きも滑らかだったし」
「ほんと!?やったー嬉しいなー!霊夢に褒められちゃったよー!むふーふふ~ん!」
「鼻息やめなさい、生ぬるいから。にしてもあんた、どうしてこんなこと?」
「んー?んー……来たるべき決戦に備えてー、って感じかなあ」
「なにそれ」
「ほら、私も博麗神社の一員じゃない?なら異変が起こったら私も戦わないといけないじゃない。
だからその時のために鍛えておかないとと思ってねー」
「……あんた、異変解決に参加したいの?」
「するよ!したい!」
「んな目ぇキラキラさせながら言うものじゃないって。大体あんたがそんなことする前に
私や魔理沙が解決しちゃうっての。鍛えても意味無いわよ」
「んー、だったら霊夢の留守を狙って襲ってくる悪者から神社を守ったげる!」
「まあ、確か何回か崩れてるけど……それはそれですぐ危険察知して帰ってくる。
んでパパッとしばいて終わり。やっぱりあんたの出る幕は無いわ」
「えー、なんか霊夢、私を戦わせたくないみたいー」
「そんなんじゃないけど、ただ無駄な努力はやらなくていいって言ってるだけ」
「……別にさ、そんなことが無くても……来るんだよ、いつかは」
「え?」
「戦う時は来る。私が、私自身が、決着をつけなきゃいけない時が」
そう言い切る瞳は。最後の一突きの後、まっすぐ目の前を見据えていたあの目と同じだった。
何かを見ている、何かを見失わないように、燦然と輝くまっすぐな瞳。
……そうか、あんたが見ているものは、異変でも、神社でもなく……。
「針妙丸、もっかい大きくなりなさい」
「えっ、なんで?」
「私も朝の運動がしたくなってきた。付き合いなさい」
「ありゃ珍しい。別に運動なら、このまま霊夢の頭にでも乗れば」
「なに勘違いしてんの?運動っていうのは……」
立ち上がって庭先へと歩き、縁側でキョトンとしている針妙丸に幣を突きつける。
懐に入れていた御札も取り出し広げて見せる。言うまでもなく異変の時に使う、戦闘用のものだ。
「これ。さあ、やるわよ」
しばらく変わらずキョトンとしていた針妙丸だったが、次第に目は見開き、眉は上に
口はあんぐりと開いてきた。あと鼻も膨らんできてるけどそこは言及しないでおいてあげよう、私やっさすぃー。
「…………えっ!?マジ!?」
「マジ」
「でジマ!?」
「マジでジマ。ほら、早く」
「いや、だって、私、ほら、あの、つ、疲れちゃったっしー、ご、ご飯たーべたーいなー
ははは、なーんて……」
「付き合わなかったらご飯抜き」
「ずっこ!ずっこいよこの人!あんまり言ってるとまーた悪評流れるよ!
やはり神社の巫女は横暴だった!暴力巫女健在!みたいなそんなノリで!!」
ほほう、これは少しカチーンときちゃった。それならこっちだってお返ししたくなるわね
「大丈夫よ、ちゃんと手は抜いてあげる。朝だしそうねー、せいぜい二割くらいでいったげるわ」
すると、ほぅら。ムッときた顔になった。この子はこのナリで結構な負けず嫌いなのだ。
「ほほーう、霊夢さぁん、ちょーっと今のは聞き捨てならないよー?さすがにそれはナメすぎじゃないー?」
「妥当なとこだと思うわよ。それに博麗の巫女の予見に狂いは無いのよ」
「だったら、今回で初ハズレだね!」
小槌を振るい、体格を先ほどまでの大きさに変化させる。同時に目付きも無邪気に輝く幼いものから
手にした針と同様に凛と輝く力強いものへと変わった。
この瞬間、この眼差しを向けられるのは初めてじゃないことに気付いた。かつて異変の時もこんな眼をしていた。
なんだかとても昔のことのように思えて、自然と笑みがこぼれた。
あの時もこんな風に、左手を前にかざしながら頭の上まで掲げた針の切っ先をこっちに向けて構えていたっけな。
「笑ってるなんて余裕あるね、霊夢」
「だって余裕だもん」
「ならその余裕、すぐに崩したげるよ!!」
「やってみせなさいな、針妙丸」
同時に地を蹴り、宙へ舞い上がる。
頭はすっかり澄み切っていた。
終わり
針妙丸可愛いくてよかったです。
頑張り屋な針妙丸はとても凛々しかったです。
さてさてどんなストーリーが繰り広げられるやら