幻想郷の地上から遥か遠き天界。
俗世から離れしがらみを脱ぎ捨て、普通なら騒ぎ立てるような者は誰一人としていないようなその場所で、比那名居天子は少しボサついた髪を揺らして部屋のタンスを漁っていた。
窓から見える太陽は今さっき空の頂点を通り越し、普通なら食後ののんびりした時間を送るところであるが、天子の様子はとにかく忙しない。
「あーもう、昨日飲み過ぎて寝過ごした!」
昨夜は冬の寒さから避難してきた萃香とそこら辺で暇にしていた衣玖を捕まえてきて酒盛りをしていたのだが、いかんせん大酒飲みの鬼が混ざると釣られてこっちまで飲む酒の量が増えてしまう。
もっともそれでもわきまえずに飲み過ぎる方が悪いのだが、天子は「己小鬼め」と恨み節をこぼす。
「せっかくいい感じに雪が降ったんだから、ここで地上に降りなきゃ損ってもんよね。えーと、上着どこしまったっけ……」
寝巻をベッドの上に放り捨ていつもの服装に着替え、寒さに備えて長袖の上着に袖を通す。
さてこれで準備は整ったかと思いきや、ドレッサーの鏡がたまたま目に入ったところ寝癖が付いたままと気づき、流石にみっともないと思ったので引き出しから櫛を掴みとり超特急で髪を整える。
仕上がった髪を見て、とりあえずはこんなもので良いかと櫛をドレッサーの上に置き、腰に手を当て満足げに鼻を鳴らした。
「よし、準備万端! ……あっ、他にも手袋とか……もういいや、このまま行っちゃえ!」
早く早くと気持ちを焦らせる天子の姿は、まるで早くしないと次の瞬間にはこの世が終わってしまうとでも言っているかのようだ。
寝巻を散らかしタンスの引き出しも開けっ放しのまま、トレードマークの桃が付いた帽子をかぶり扉に手をかける。
ちょっとばかり遅れたが、今から始まる今日と言う日に天子は期待を胸にし、友人の姿が脳裏をよぎった。
「さあて、今日は紫とどんなことしようかしら!」
紫と共に過ごす一日はどれだけ楽しいものになるかを思い描いて、彼女らしい慌ただしい足音を立てて出掛けて行った。
「うぅーさむっ、やっぱり雪が降ると寒さが段違いね」
青々しく済んだ空から降りてきた天子の眼下には、雪に包まれ銀世界と化した幻想郷が広がっていた。
ここ数日、気温が特に冷え込んできて、とうとう昨日から吹雪き出したのだが、夜のうちには止んでしまったようで、多すぎず少なすぎないいい塩梅で積もっている。
このくらいの量なら色々な楽しみ方ができるだろう。この雪を鳴らして走り抜けるのはそれだけで気持ちよさそうだし、雪合戦も良いかもしれない。
「ククク、紫の顔に雪玉投げつけてやったらどんな顔するだろ」
今向かっている家に住む友の顔が、白くなる姿を想像して笑みがこぼれる。
せっかく再建した神社をぶち壊しにしてくれたのは今でも悔しさが消えずみがあるが、それでも仲良くしたいと思う程度には紫の存在は魅力的だった。
自分より多くのことを知っていてそれを分けてくれるし、何よりも二人で過ごす時間は楽しく喜びに満ち溢れている。
ただこの時期の紫は冬眠と言って一日中寝ていることも多いのが問題なのだが。
まあその時は叩き起こせばいいだけだと乱暴な結論を出した天子は、紫の住む家に辿り着き玄関の前に降り立った。
すぐさま玄関の扉を開いて、寒さに負けない元気な声を上げる。
「ゆっかりー! 天子様が遊びに来てあげたわよー!」
だが声が静まった後には返ってくるものは何もなし。
紫がまだ寝ているにしても、式神の藍くらいは返事をしてきてもいいはずだが。
「あれ、出掛けてるのかしら……あっ、靴がないけど、もしかして」
玄関に靴が置かれていないことにピンと来た天子は、玄関から出て家の裏手にある庭へと回った。
降り積もった柔らかな雪を軽快にシャクシャクと踏み鳴らして突き進んでいけば、白く染まった庭には予想通りの妖怪がこちらに背を向けて佇んでいた。
「紫! なにやってるのー!」
背後から聞こえてきた声に紫はうつむいていた顔を上げると、手袋をはめた手で持った大きなスコップを杖のように地面に突いてやおらに振り向く。
手で髪を拭って整った顔を覗かせると、天子にニッコリと笑いかけてくれた。
「あら、おはよう天子」
悠然とした態度の奥に嬉しさを秘めた紫の表情を見て気を良くした天子は、笑顔を浮かべて駆け寄る。
庭の奥では藍がこちらを見ることもなく、スコップで雪を積み重ねて山を作っていた。
「声がしたような気がしたけど、気のせいじゃなかったのね」
「気付いてたなら迎えに来てくれたらよかったのに」
「こう寒いと少し眠気がねえ、やる気が出ないわ。どうせ天子なら黙ってても勝手に来るし」
「グータラねえ。まあいいや、何やってるの二人して? 雪かきじゃないわよね」
「橙が猫達の様子を見に出て行ってるうちに、かまくらを作って驚かそうって話になったの」
「かまくら!? へえー面白そう!」
「うおおおおお、待っていろよちぇえええん!!!」
「うお、藍こわっ」
目を光らせる天子だったが、いきり立ってかまくらの土台を作る藍に思わず身を引いた。
鼻息を荒くしてスコップで雪の山を積み上げる様は、何か常人には真似しがたい執念を感じる。
「珍しいわねこんな藍」
「去年もかまくら作ったんだけどね、その時は藍の尻尾がつっかえてかまくらを壊してしまったのよ」
「あー……そういう時って邪魔よねあれ」
「フッ、だがかまくらを壊して橙を悲しませてしまったのは過去の話。今度はもっと大きいかまくらで橙と一緒に餅を焼いて食べるぞ!!!」
なるほど、いつもは冷静な藍が燃え上るわけである。
子煩悩ならぬ式煩悩な藍に驚きつつも、ちょっとした疑問が浮かぶ。
「でも尻尾くらいどうにかできないの?」
「隠せるけど窮屈らしいのよ。それじゃ橙にも気を使わせてしまうから」
「あー、両方とも肩肘張っちゃうか」
問いかけには藍の代わりに紫が答えた。どうでもいい理由にも聞こえるが、どうせやるなら思いっきり楽しみたいものだろう。
「よーし、それじゃ私も作るわよー!」
藍のことはひとまず置いて、天子は自分もやってみようと素手で雪鷲掴みするとかまくらの土台に乗せて押し付けた。
「よいしょっと」
「ちょっと天子、素手でなんて止めなさい」
しかしもう一度雪を掴もうとした手を、紫が掴んで引っ張り上げた。
張り切りだそうとした途端に出鼻が挫かれて、天子の口が不満げにすぼむ。
「ちょっと邪魔しないでよ紫」
「あなたが慌てすぎなのよ。素手でやろうだなんて、手が荒れたらどうするのよ」
「天人だからこれくらい大丈夫よ」
「まったく、あなたはもっと落ち着きを持ちなさいな。女の子なんだから自分の身体は大事にしないと大事にしないと……せっかく綺麗な手をしてるのにこんなに冷やして」
雪で冷たくなった天子の手が、手袋を脱いだ紫の手で包み込まれる。
しかしこの寒さの中では手袋をしていたとは言え紫の手もあまり温かくなく、これだけでは足りないと感じた紫は包んだ手に顔を近づけ息を吹きかけた。
「はあー……」
「んん、もうくすぐったいってば」
白ずむ吐息が指の隙間にまで流れ込み、じわりじわりと天子の手を温めていく。
しかしじんわりとした温かみにもどかしさを感じた天子は、どうせならとにんまり笑みを浮かべると、手を滑らせ紫の頬っぺたに押し付けた。
「えいっ!」
「きゃ!? ちょっと、何するの天子!」
敏感な顔を急に冷やされて、珍しく紫の口から短い悲鳴が上がった。
「いやー、こっちの方が温まるの早いかなって。ぬっくいわー」
「そう……ふふ、あなたがその気なら、私も甘えさせてもらおうかしら」
悪戯っぽく笑う天子だが、やられっぱなしではいられないと紫は妖美に笑い返した。
小さなスキマが二つ開き、温かとは言えない紫の手がその奥へと差し込まれる。
「うにゃあ!?」
同時に天子が笑みを崩して身体を跳ねさせて、彼女らしい元気で大きな悲鳴を辺りに響かせた。
「ちょっ、ゆ、紫っ冷た! 脇腹は卑怯だって!」
「あー、ぬくくていいわー、天人のお腹は気持ちいいですわー」
「やぁ、撫でるのやめ、んぁ!」
堪らず紫に押し付けていた手を離し、服の下をまさぐられる感覚に身体を激しくくねらせる。
うろたえざるを得ない天子の姿を見ながら、紫は面白そうにあざけ笑う。
「うふふ、流石天人様。踊りが得意ですこと」
「ひぃー! た、タンマタンマ! もう手も離したんだからもうやめてー!」
「あら、もう少しくらい」
「ごめんなさい、お願いだからー!!」
「もう仕方ないわね」
紫は残念そうにしながらもスキマから手を引き抜いて、服の下から天子の身体をまさぐるのを止めた。
冷たい感触がなくなるも天子はまだ身体を抱いて寒がってたが、その首にスキマから取り出されたふんわりとしたマフラーが紫によって掛けられた。
「ほら、ちゃんと暖かくしなさい。はいこっちは手袋」
「うー、先にこっちくれればよかったのに、意地悪……」
天子は手袋をはめながらも、結局はやり返されることに悔しそうな表情をするが、同時にこんなやり取りに嬉しさを感じていた。
きっと紫も同じなのだろう、先程からずっと楽しそうな顔を崩していない。
そんな微笑ましい二人に、いつの間にか横合いから冷ややかな視線が投げかけられていた。
「……お二人とも、イチャイチャするだけなら私のいないところでして欲しいのですが」
「ぶふっ!?」
作業を中断してまで藍に訴えかけられ、紫は鼻と口から息を吹き出して笑みを崩してしまった。
同様に天子も落ち着きのない様子で手を振り回している。
「も、もう藍ったら、年寄りのことそんなにからかって! ねえ天子?」
「そうよねっ、何でもないったらこんなの。あ、紫早くスコップ貸して!」
「はいスコップ、さぁ天子作りましょう。えぇ、とびきり大きいのを」
「おーし、デカいの作っちゃうわよー!」
場を誤魔化そうと慌てまくし立てる二人は、せっせと雪をかき集め始める。
良い感じに火が付いているのを見た藍は、天子がいると主を上手く乗せられるから楽でいいなぁ、と密かに腹黒い笑いを漏らしていた。
最初に一悶着あったものの、強力な妖怪と天人が力を合わせれば後は早かった。
雪の上に雪を積むとスコップや要石で叩いてしっかりと固め、またその上に雪を積む。
それらを繰り返して行けば、一時間と経たない間に4メートル近い雪がバケツをひっくり返したような錐台状に積み上げられた。
庭の一角にできた雪山を、三者とも満足そうに見上げる。
「よし、それじゃ雪山をくり抜いて中の空間を作れば完成だな」
「となれば、後は私の出番ね!」
意気揚々と声を上げた天子が手袋を脱いで紫に投げ渡すと、緋想の剣を引き抜いて大げさな構えを取った。
「この比那名居天子様と緋想の剣にまっかせなさい!」
などと本人は非常に勇ましく見得を切るが、精密さが必要な作業をそんなものでしようと言うのだから、藍からすると気が気ではなかった。
「お、おい無茶はしないでくれよ? ここまでやって崩れたりしたら……」
「安心しなさい藍、天子は私が見ておくから。あなたはゆっくりしてなさい」
「そうですか? なら後はお任せしますが」
不安が隠せない様子の藍だったが、主がしっかりしてくれるなら大丈夫だろうととりあえず安心する。
かまくら作りにばかりかまけていられないのも事実であるし、ここは紫と天子に後を託し、家の用事をしてくると言って家の中に入って行った。
「いいかしら天子、まずは横から穴を掘って入口になる部分を作るのよ。この辺から下まで切り取りなさい」
「オッケィ。よーし、まずは第一刀! とりゃっ!」
勢い余って無鉄砲になりがちな天子を、紫がナビゲーションしていく。
天子自身これで要領はいいほうであるし、下手に止めさせるよりも上手く指示して動かすほうが手っ取り早いしミスも少ないだろう。
なによりも楽しそうにしているのを止めるほど紫も野暮ではなかった。
天子もまた紫の指示なら安心し、無駄に反抗することもなく言われるまま雪山に剣を突き立てえぐるように雪を切り取る。
ごっそりと雪山から分離した雪は、紫が地面に開いたスキマへと飲み込まれていった。
「いらない雪は私がスキマで外に出すわね。まずは真っ直ぐに掘りましょう、私が止めるまで好きに掘り進めて」
「はいはーい」
天子が言われた通りに剣を刺して豪快に切り取り、邪魔な雪をスキマが飲み込んで道ができれば即座にまた剣を振るう。
次々と空間を切り開いていく天子がかまくらを貫通してしまう前に、紫が余裕を持って止めた。
「ストップ、そこまででいいわ」
「まだもうちょっと行けるんじゃない?」
「だーめ。剣だけじゃ大雑把にしか雪を切り取れないし、最後に小さめのスコップで削って綺麗にならすわ。必要な手間は掛けないと良いものは作れないわよ」
「そんなのわかってるけどさぁ」
「急がなくても雪は解けないわ。それじゃあ今度は横に広げたいから、ここを切り取ってちょうだい」
「りょーかい、ちょっと下がってて」
せっかちな天子を紫がたしなめてうまく制御し、作業は滞りなく進んでいく。
息をうまく合わせれば、あっという間に二人が入り、自由にできるほどの空間が大まかにだが作り出された。
そうすれば先に紫が説明していた通り、壁を突き破らないように注意しながらスコップで雪を削って空間を広げていく。
最後に床の部分を平らに仕上げれば、庭の一角には小屋に見間違うほどの立派なかまくらが出来上がった。
「やった! できたできた!」
大きなかまくらの中心で、天子は溢れ出る達成感を身体全体で受け止めようと両腕を伸ばして転げまわる。
無邪気に喜ぶ天子を見て、紫は袖で口元を覆って苦笑した。
「まったく、あなたって何にでも大はしゃぎね」
「だってかまくらとか初めてだし! 雪の中なのにそこそこあったかいわね」
「作っていた私たちの熱気が残っているのよ、雪の壁が断熱材になってるからまだしばらくは持つわ」
「へぇー……で、作ったけど何するの?」
天子が仰向けで寝転んだまま、紫を見上げてそう訊ねた。
「あなた作っておいて何も考えてなかったの?」
「だってかまくら初めてだから詳しく知らないし、どうせ紫なら面白いの知ってるでしょ」
「そうね、こうした大きなサイズなら畳を敷いてその上に机やこたつを設置することもあるわね。みんなで鍋をつついたり餅を焼いたり」
「良さそうじゃない、早速やりましょうよ」
「でもこれを作るのでもう疲れちゃったわ。そういうのは後で藍に準備させるとして、今はのんびりしましょう」
紫は肩をすくめ、雪の上に座り込む。
その右隣に、今の言葉を聞いた天子がいやらしい顔をして肩を並べた。
「なぁに? このくらいでヘバったの? 年寄り臭い」
「眠い中での作業だし、それに誰かさんと違って大きな塊があるんですから、肩が凝りますの」
「でもさぁ。なんか雪の中でボーっとしてるだけじゃつまらなくない?」
「天子がツッコんでくれないなんて、ゆかりん寂しい……」
「だったら最初から面倒臭い皮肉止めろ。それよりほら」
ご丁寧にこんな茶番にまで本物の涙を流す泣き芸を披露する紫だが、あまりの白々しさに肘で突っつかれて急かされて涙をぬぐった。
「はいはい、確かに殺風景だけど、だからと言ってあれこれ持ち込んでも視界が騒がしくなって無粋と思うの。なのでこんなのはどうかしら」
かまくらの中央に、スキマが開いてその中から一本のろうそくを乗せた燭台が現れた。
紫はいつの間にか持っていたマッチをこすりと弾けるような音を立てて火が燃え上り、目の前に鎮座するろうそくにその火を分け与えた。
静かに火が立ち上ればオレンジの光が周囲を照らし出すが、これではまだ弱い。
更に紫はかスキマから出したすだれを出してかまくらの外側から入口を塞ぎ、外からの差し込む光を遮ってみせれば、薄暗い空間の中で火がより存在感を増した。
「こういったシンプルなのはいかがかしらお嬢様」
「でもシンプルすぎない?」
「それがいいのよ。たまには私のわがままを聞いて欲しいわ」
「まあ、紫がそう言うならしょうがないわね」
「ありがとうね。それじゃあ、肩の力を抜いてぼんやりしてみましょう」
紫が力みがちな天子の両肩を軽く押さえて緊張をほぐさせると、軽く笑いかけてから壁に背中を預けた。
それにならって天子も胡坐をかいで楽な体勢で、少しの間だけ静かにすることを心がけてみた。
しかしいきなりの静けさに中々心が落ち着かない。
やっぱり失敗だったろうかと悩んでいると、そばにいる紫の吐息の音が一瞬聞こえてきたような気がした。
「……あら、意外と」
それをきっかけに、天子の心に変化が現れる。
密室の中、二人を隔てるものも邪魔するものもない。
信頼できる紫の気配をいつもより鮮明に感じながら力を抜くと安心感が少しずつ湧き上がってきて、その上からろうそくの放つやわらかな光が優しく包み込む。
改めて小さな灯りに目を移してみると、わずかにゆらぐ火が落ち着いた心に染み渡るような感覚を覚えた。
本当に素朴で、誰かが騒ぎ立てればすぐにかき消されてしまいそうで、けれど不思議と温かな空気だった。
「……うん、思ったより良い感じね」
今までに感じたことのない感覚。
それを前にして天子は安らいだ表情でうなずいた。
そしてとても、とても穏やかな時間が流れ出す。
口数は少なくなり、紫は壁に背中を預け、天子は膝を抱えながらぼうっとろうそくの火を見つめる。
透き通った淡い火が揺れるごとにその下で白い蝋が溶けて溢れ、透明な雫となってろうそくから流れ落ちる。
溶け落ちた一筋の蝋は受け皿にまで辿り着くと、熱を奪われて白く固まり溜まっていく。
一連の様子を何をするでもなく、ただずっと眺めていた。
「……静か、ねぇ」
ふと天子が口を開く。
すべてが雪に大地が包まれようとも鳥の鳴き声や風のざわめきくらいは耳に届くものだが、それらは雪の壁が遮ってしまい、驚くほど静かな空間を作り出されている。
ゆったりとした雰囲気に、天子もつい間延びした口調になってしまう。
「異変を起こしてから、こんなに静かなのって、初めてな気がする」
「あなたは騒がしいことが好きだものね。少し生き急ぎすぎなくらい。こうやって、急ぐのを止めて何もかも忘れてみるのもいいことよ」
「うん、そうかも……」
紫はこの小さな世界の中で、力を抜いて自然に溶け込んでいる。
すでにこういった時間の中で穏やかに過ごすことが身についているのだろうが、それに対して天子は少しぎこちない。
慣れない静けさに飲まれがちなようで、いささか落ち込みすぎており、背中を丸めてより深く膝を抱え込んで縮こまっていた。
そんな子供っぽい未熟さが紫の目にはかわいらしく映ったが、それを愛でてばかりいるのもかわいそうかと思い、意識を呼び起こそうと声をかけた。
「揺れる火を見ていると心を落ち着いてくるでしょう?」
紫のいう通り、火には心を静かにさせる効果がある。
古今東西の人間はそのことに気付き、寺院や教会など精神の安定を求める場などで活用してきた。
そして実際に、二人もいま同じように火の力を感じていた。
「……そうね、うん。こんな風にじっくり火を見るのは初めて。こういう火を前にして精神修行したりするのは知ってるけど、こんなに落ち着くなんて知らなかった」
「不思議よね。赤い火と言えば、力強くて熱狂的なイメージもあるのに、こうやってゆらゆらしている火を見ていると、心が安らいでくるなんて」
天子が徐々に視線を移し、灯りでほのかに照らされる紫の姿を横目で捕らえた後、再びろうそくに視線を戻した。
「……私は、火よりも紫の方が不思議」
「私?」
考えもしなかった答えを聞いて、紫の顔が振り向かれる。
「私が生まれるよりもずっと昔、上善は水のごとしと説いた人がいた。争いをせず穏やかな水のように生きるのが一番だって」
「道教を創立した哲学者、老子が記した言葉ね。確かにその通りに生きることができたら幸せに感じる者も多いでしょう」
「でも私はそれじゃ満足できなくて、いつまでもいつまでも騒いでいたくて、そればかり追い求めて異変まで起こして、今も変わらずやんちゃで、一人じゃこんな風にのんびりすることができない」
天子の口から語られた言葉に確かにその通りだ、これで自分のことが良く分かっている。
だがそれだけではないだろうとも紫は思う、今はそうでもいずれは。
「それはあなたの心が子供だからよ。色んなものに触れて成長すれば、いずれはこうやって静かさを楽しめるようになる時も来るわ」
「まあ悔しいけど紫のいう通りよね。そういうのがあるってわかってはいるんだけど、全部を味わうのは私にはまだ少し早くて……でも」
小さな呟きと共に身体が寄りかかる。
火に照らされる二人の影が重なり、紫の肩に天子の頭が預けられた。
「でもね、紫が隣にいてくれる間だけは、こういうのも良いかなって思えるの」
紫の目がわずかに見開かれ、天子の顔を覗き込む。
まぶたの落ち掛けた瞳にはろうそくの小さな火が映り、その奥深くにはゆったりと流れる水のような穏やかさが満ちている。
「激しい喜びも、静かな満足も……たまに悔しい思いもさせられるけど、紫なら仕方ないなかなって思えちゃう。こんなに落ち着いていられるのも紫がいてくれるおかげ。だから不思議」
かつて退屈な天界に嫌気が差し異変を起こした、否、その性格から起こさざるを得なかった彼女が、今こうして緩やかに過ぎていく時間に身を置きながらもそれを拒絶せずに受け入れている。
もはや心に先程のようなぎこちなさは消え失せ、揺れる火と静かな空気に同調していた。
その姿に紫は少し驚いた後、天子のことを軽く見て大人ぶるのをやめ、安心して心と体を預ける。
「できるなら、ずっと紫と一緒に楽しんでいたい……」
「……えぇ、私もよ天子」
身体を寄せ合う二人はろうそくの火を眺めながらも、心は隣にいる相手へ向かっていた。
それぞれの手がつがいを求めて引き合い、手の甲で擦れ合う。
互いの温かさを感じた後、より強い繋がりを求めて手の平が重なり、しなやかな指が絡み合おうとし――
「わあー、すごい大きなかまくらー!」
突然入口から飛び込んできた声にパッと手が離れた。
心臓が早鐘を打つ二人の前ですだれが取り払われ、外に見えたのは健康的な脚としなやかな黒毛に包まれた二本の尻尾。
「ちぇ、橙!」
「天子も来てたんだ。紫様も一緒かあ」
猫耳をピョコピョコ動かした橙がかまくらの床に手を付き、中の様子を覗き込んできた。
さっきまでの穏やかな雰囲気は一変し、騒がしく活発な空気が流れ始める。
さりげなく天子から身を引いた紫が、平静を取り繕って橙に話しかけた。
「お、お帰り橙。猫たちの様子はどうだったかしら?」
「はい紫様、みんな寒さに負けず元気でした! これ、紫様が作ったんですか!?」
「私も頑張ったけれど、一番一生懸命作ってくれたのが他にいるわ」
「それってもしかして」
誰のことなのか察した橙の後ろで、今度は金色の毛をふさふさと揺らす尻尾が現れた。
「橙、戻ってきたか!」
「あっ、藍様ー!」
後ろから声を掛けられて、橙は後ろを振り向いて立ち上がった。
藍は小さな体の脇に手を差し込んで、高く持ち上げて振り回す。
「ハッハッハ、どうだこのかまくらは。これだけ大きければみんなで一緒に中へ入れるぞ!」
「すごいです藍様! こんなにおっきなかまくら作っちゃうなんて」
庭には楽しそうな笑い声が響き、厚いかまくらの中にもしっかりと届いてきて、二人だけでゆっくりとはいかなくなってしまった。
「どうやら今回のところはここまでのようね」
こうなってしまっては仕方ないと、紫は潔く立ち上がりろうそくの火を吹き消すと、スキマに燭台を引っ込める。
またみんなで騒ぎ立てるならそれもいいだろうと受け入れているようだったが、かまくらの隅で天子は残念そうに眉を寄せていた。
「せっかく、紫と一緒に新しいものが見れそうだったのに……」
先程の空気を引きずって歯噛みする天子を見て、紫は世話が掛かる娘だと軽いため息を吐き、その歪んだ眉間を指で弾いた。
「ほら、そんな顔しないの」
「いたっ!」
「こんなことくらいで浮き沈みしちゃうなんて子供ねぇ」
「もう、なによ!?」
不満気なところをからかわれて、苛立ち始めた天子が勢いよく立ち上がって噛み付いてくる。
だが怒りを前にして紫はそれを意に介さず、たしなめるように言葉を続けた。
「水のように生きるだけじゃ物足りないのが、比那名居天子の生き方でしょう?」
本質を信じて放たれた言葉に、天子の目が丸くなり肩から力が抜けた。
苛立ちが鎮まった天子を見て、紫は慈しみを込めて笑いかける。
「穏やかな時に心を安らげ満たしてこそ、急な流れの中であっても全力で楽しみ、どこまで走り続けられるというもの。緩と急のどちらも大事で欠かせない」
惜しみ悲しむのを止め、すべてを受け入れて感じればいいと優しく言い聞かせ、天子の頬にそっと手を添える。
「だからそんな顔しないで、笑って天子。私は、必死に生きるあなたが好きだから」
紫の言葉を最後まで聞き留めて受け止めた天子は、ゆっくりとまぶたを落とすと、頬を撫でてくれる手を確かめるように上から自分の手を重ねた。
「……うん、そうね。私ってそうだった」
沸々と天子の胸の内に熱いものが湧き上がってくる、ほんの短い時間だが忘れていた本来の心を思い出す。
ろうそくの素朴な灯りのような安らぎの心とは違う、力強く輝きどこまでも前向きなななにか。
次に開かれた瞳には、いつもの彼女が持つ鮮やかな光が確かに宿っていた。
それを確認した紫は安心して手を離した。
「紫、ありがと」
「お礼がしたいなら手伝いなさい。家にある畳とこたつを持ってきて、夕食はかまくらの中で頂きましょう」
「よっし! それじゃあ張り切ってやっちゃうか!」
天子が彼女らしい気持ちのいい掛け声を上げ、風を切ってかまくらから飛び出す。
静かに蓄えた活力を解き放ち、一段と力強い足取り髪をなびかせ駆け抜ける。
腕を広げて身体全体で気持ちを表現し、天衣無縫にあるがままなすがまま、目一杯今を生きようとするその姿はとても眩しく、紫はつい見とれて熱い吐息を漏らした。
「天子、そんなに急いで何する気だ?」
「面白いこと! 紫も早く来てよー!」
「はいはい、今行くわ」
「遅いってばもう、ほら!」
「ああちょっと、そんな急いで引っ張らないでちょうだい」
いつも心に素直で、貪欲なまでに自分の欲しいものを求め、周りを巻き込んで突き進む天子。
彼女には迷惑を掛けられたりもするし良いことばかりあるわけではないが、それでもそんな天子と一緒にいる時間は紫には甘くも刺激的でとても充実した時間に感じられる。
今日また一つ成長した天子が今度はどんなものを見せてくれるだろうかと、紫は年甲斐もなくドキドキと胸が高鳴らせるのだった。
「ねえ紫。冬が明けたら二人で日向ぼっこでもしてみる?」
「あら素敵ね。なら美味しいお菓子も用意しておくわ」
「それでさ、今度はその、邪魔とかそういうのナシで……」
「……二人っきりで、ね」
「……うん」
俗世から離れしがらみを脱ぎ捨て、普通なら騒ぎ立てるような者は誰一人としていないようなその場所で、比那名居天子は少しボサついた髪を揺らして部屋のタンスを漁っていた。
窓から見える太陽は今さっき空の頂点を通り越し、普通なら食後ののんびりした時間を送るところであるが、天子の様子はとにかく忙しない。
「あーもう、昨日飲み過ぎて寝過ごした!」
昨夜は冬の寒さから避難してきた萃香とそこら辺で暇にしていた衣玖を捕まえてきて酒盛りをしていたのだが、いかんせん大酒飲みの鬼が混ざると釣られてこっちまで飲む酒の量が増えてしまう。
もっともそれでもわきまえずに飲み過ぎる方が悪いのだが、天子は「己小鬼め」と恨み節をこぼす。
「せっかくいい感じに雪が降ったんだから、ここで地上に降りなきゃ損ってもんよね。えーと、上着どこしまったっけ……」
寝巻をベッドの上に放り捨ていつもの服装に着替え、寒さに備えて長袖の上着に袖を通す。
さてこれで準備は整ったかと思いきや、ドレッサーの鏡がたまたま目に入ったところ寝癖が付いたままと気づき、流石にみっともないと思ったので引き出しから櫛を掴みとり超特急で髪を整える。
仕上がった髪を見て、とりあえずはこんなもので良いかと櫛をドレッサーの上に置き、腰に手を当て満足げに鼻を鳴らした。
「よし、準備万端! ……あっ、他にも手袋とか……もういいや、このまま行っちゃえ!」
早く早くと気持ちを焦らせる天子の姿は、まるで早くしないと次の瞬間にはこの世が終わってしまうとでも言っているかのようだ。
寝巻を散らかしタンスの引き出しも開けっ放しのまま、トレードマークの桃が付いた帽子をかぶり扉に手をかける。
ちょっとばかり遅れたが、今から始まる今日と言う日に天子は期待を胸にし、友人の姿が脳裏をよぎった。
「さあて、今日は紫とどんなことしようかしら!」
紫と共に過ごす一日はどれだけ楽しいものになるかを思い描いて、彼女らしい慌ただしい足音を立てて出掛けて行った。
「うぅーさむっ、やっぱり雪が降ると寒さが段違いね」
青々しく済んだ空から降りてきた天子の眼下には、雪に包まれ銀世界と化した幻想郷が広がっていた。
ここ数日、気温が特に冷え込んできて、とうとう昨日から吹雪き出したのだが、夜のうちには止んでしまったようで、多すぎず少なすぎないいい塩梅で積もっている。
このくらいの量なら色々な楽しみ方ができるだろう。この雪を鳴らして走り抜けるのはそれだけで気持ちよさそうだし、雪合戦も良いかもしれない。
「ククク、紫の顔に雪玉投げつけてやったらどんな顔するだろ」
今向かっている家に住む友の顔が、白くなる姿を想像して笑みがこぼれる。
せっかく再建した神社をぶち壊しにしてくれたのは今でも悔しさが消えずみがあるが、それでも仲良くしたいと思う程度には紫の存在は魅力的だった。
自分より多くのことを知っていてそれを分けてくれるし、何よりも二人で過ごす時間は楽しく喜びに満ち溢れている。
ただこの時期の紫は冬眠と言って一日中寝ていることも多いのが問題なのだが。
まあその時は叩き起こせばいいだけだと乱暴な結論を出した天子は、紫の住む家に辿り着き玄関の前に降り立った。
すぐさま玄関の扉を開いて、寒さに負けない元気な声を上げる。
「ゆっかりー! 天子様が遊びに来てあげたわよー!」
だが声が静まった後には返ってくるものは何もなし。
紫がまだ寝ているにしても、式神の藍くらいは返事をしてきてもいいはずだが。
「あれ、出掛けてるのかしら……あっ、靴がないけど、もしかして」
玄関に靴が置かれていないことにピンと来た天子は、玄関から出て家の裏手にある庭へと回った。
降り積もった柔らかな雪を軽快にシャクシャクと踏み鳴らして突き進んでいけば、白く染まった庭には予想通りの妖怪がこちらに背を向けて佇んでいた。
「紫! なにやってるのー!」
背後から聞こえてきた声に紫はうつむいていた顔を上げると、手袋をはめた手で持った大きなスコップを杖のように地面に突いてやおらに振り向く。
手で髪を拭って整った顔を覗かせると、天子にニッコリと笑いかけてくれた。
「あら、おはよう天子」
悠然とした態度の奥に嬉しさを秘めた紫の表情を見て気を良くした天子は、笑顔を浮かべて駆け寄る。
庭の奥では藍がこちらを見ることもなく、スコップで雪を積み重ねて山を作っていた。
「声がしたような気がしたけど、気のせいじゃなかったのね」
「気付いてたなら迎えに来てくれたらよかったのに」
「こう寒いと少し眠気がねえ、やる気が出ないわ。どうせ天子なら黙ってても勝手に来るし」
「グータラねえ。まあいいや、何やってるの二人して? 雪かきじゃないわよね」
「橙が猫達の様子を見に出て行ってるうちに、かまくらを作って驚かそうって話になったの」
「かまくら!? へえー面白そう!」
「うおおおおお、待っていろよちぇえええん!!!」
「うお、藍こわっ」
目を光らせる天子だったが、いきり立ってかまくらの土台を作る藍に思わず身を引いた。
鼻息を荒くしてスコップで雪の山を積み上げる様は、何か常人には真似しがたい執念を感じる。
「珍しいわねこんな藍」
「去年もかまくら作ったんだけどね、その時は藍の尻尾がつっかえてかまくらを壊してしまったのよ」
「あー……そういう時って邪魔よねあれ」
「フッ、だがかまくらを壊して橙を悲しませてしまったのは過去の話。今度はもっと大きいかまくらで橙と一緒に餅を焼いて食べるぞ!!!」
なるほど、いつもは冷静な藍が燃え上るわけである。
子煩悩ならぬ式煩悩な藍に驚きつつも、ちょっとした疑問が浮かぶ。
「でも尻尾くらいどうにかできないの?」
「隠せるけど窮屈らしいのよ。それじゃ橙にも気を使わせてしまうから」
「あー、両方とも肩肘張っちゃうか」
問いかけには藍の代わりに紫が答えた。どうでもいい理由にも聞こえるが、どうせやるなら思いっきり楽しみたいものだろう。
「よーし、それじゃ私も作るわよー!」
藍のことはひとまず置いて、天子は自分もやってみようと素手で雪鷲掴みするとかまくらの土台に乗せて押し付けた。
「よいしょっと」
「ちょっと天子、素手でなんて止めなさい」
しかしもう一度雪を掴もうとした手を、紫が掴んで引っ張り上げた。
張り切りだそうとした途端に出鼻が挫かれて、天子の口が不満げにすぼむ。
「ちょっと邪魔しないでよ紫」
「あなたが慌てすぎなのよ。素手でやろうだなんて、手が荒れたらどうするのよ」
「天人だからこれくらい大丈夫よ」
「まったく、あなたはもっと落ち着きを持ちなさいな。女の子なんだから自分の身体は大事にしないと大事にしないと……せっかく綺麗な手をしてるのにこんなに冷やして」
雪で冷たくなった天子の手が、手袋を脱いだ紫の手で包み込まれる。
しかしこの寒さの中では手袋をしていたとは言え紫の手もあまり温かくなく、これだけでは足りないと感じた紫は包んだ手に顔を近づけ息を吹きかけた。
「はあー……」
「んん、もうくすぐったいってば」
白ずむ吐息が指の隙間にまで流れ込み、じわりじわりと天子の手を温めていく。
しかしじんわりとした温かみにもどかしさを感じた天子は、どうせならとにんまり笑みを浮かべると、手を滑らせ紫の頬っぺたに押し付けた。
「えいっ!」
「きゃ!? ちょっと、何するの天子!」
敏感な顔を急に冷やされて、珍しく紫の口から短い悲鳴が上がった。
「いやー、こっちの方が温まるの早いかなって。ぬっくいわー」
「そう……ふふ、あなたがその気なら、私も甘えさせてもらおうかしら」
悪戯っぽく笑う天子だが、やられっぱなしではいられないと紫は妖美に笑い返した。
小さなスキマが二つ開き、温かとは言えない紫の手がその奥へと差し込まれる。
「うにゃあ!?」
同時に天子が笑みを崩して身体を跳ねさせて、彼女らしい元気で大きな悲鳴を辺りに響かせた。
「ちょっ、ゆ、紫っ冷た! 脇腹は卑怯だって!」
「あー、ぬくくていいわー、天人のお腹は気持ちいいですわー」
「やぁ、撫でるのやめ、んぁ!」
堪らず紫に押し付けていた手を離し、服の下をまさぐられる感覚に身体を激しくくねらせる。
うろたえざるを得ない天子の姿を見ながら、紫は面白そうにあざけ笑う。
「うふふ、流石天人様。踊りが得意ですこと」
「ひぃー! た、タンマタンマ! もう手も離したんだからもうやめてー!」
「あら、もう少しくらい」
「ごめんなさい、お願いだからー!!」
「もう仕方ないわね」
紫は残念そうにしながらもスキマから手を引き抜いて、服の下から天子の身体をまさぐるのを止めた。
冷たい感触がなくなるも天子はまだ身体を抱いて寒がってたが、その首にスキマから取り出されたふんわりとしたマフラーが紫によって掛けられた。
「ほら、ちゃんと暖かくしなさい。はいこっちは手袋」
「うー、先にこっちくれればよかったのに、意地悪……」
天子は手袋をはめながらも、結局はやり返されることに悔しそうな表情をするが、同時にこんなやり取りに嬉しさを感じていた。
きっと紫も同じなのだろう、先程からずっと楽しそうな顔を崩していない。
そんな微笑ましい二人に、いつの間にか横合いから冷ややかな視線が投げかけられていた。
「……お二人とも、イチャイチャするだけなら私のいないところでして欲しいのですが」
「ぶふっ!?」
作業を中断してまで藍に訴えかけられ、紫は鼻と口から息を吹き出して笑みを崩してしまった。
同様に天子も落ち着きのない様子で手を振り回している。
「も、もう藍ったら、年寄りのことそんなにからかって! ねえ天子?」
「そうよねっ、何でもないったらこんなの。あ、紫早くスコップ貸して!」
「はいスコップ、さぁ天子作りましょう。えぇ、とびきり大きいのを」
「おーし、デカいの作っちゃうわよー!」
場を誤魔化そうと慌てまくし立てる二人は、せっせと雪をかき集め始める。
良い感じに火が付いているのを見た藍は、天子がいると主を上手く乗せられるから楽でいいなぁ、と密かに腹黒い笑いを漏らしていた。
最初に一悶着あったものの、強力な妖怪と天人が力を合わせれば後は早かった。
雪の上に雪を積むとスコップや要石で叩いてしっかりと固め、またその上に雪を積む。
それらを繰り返して行けば、一時間と経たない間に4メートル近い雪がバケツをひっくり返したような錐台状に積み上げられた。
庭の一角にできた雪山を、三者とも満足そうに見上げる。
「よし、それじゃ雪山をくり抜いて中の空間を作れば完成だな」
「となれば、後は私の出番ね!」
意気揚々と声を上げた天子が手袋を脱いで紫に投げ渡すと、緋想の剣を引き抜いて大げさな構えを取った。
「この比那名居天子様と緋想の剣にまっかせなさい!」
などと本人は非常に勇ましく見得を切るが、精密さが必要な作業をそんなものでしようと言うのだから、藍からすると気が気ではなかった。
「お、おい無茶はしないでくれよ? ここまでやって崩れたりしたら……」
「安心しなさい藍、天子は私が見ておくから。あなたはゆっくりしてなさい」
「そうですか? なら後はお任せしますが」
不安が隠せない様子の藍だったが、主がしっかりしてくれるなら大丈夫だろうととりあえず安心する。
かまくら作りにばかりかまけていられないのも事実であるし、ここは紫と天子に後を託し、家の用事をしてくると言って家の中に入って行った。
「いいかしら天子、まずは横から穴を掘って入口になる部分を作るのよ。この辺から下まで切り取りなさい」
「オッケィ。よーし、まずは第一刀! とりゃっ!」
勢い余って無鉄砲になりがちな天子を、紫がナビゲーションしていく。
天子自身これで要領はいいほうであるし、下手に止めさせるよりも上手く指示して動かすほうが手っ取り早いしミスも少ないだろう。
なによりも楽しそうにしているのを止めるほど紫も野暮ではなかった。
天子もまた紫の指示なら安心し、無駄に反抗することもなく言われるまま雪山に剣を突き立てえぐるように雪を切り取る。
ごっそりと雪山から分離した雪は、紫が地面に開いたスキマへと飲み込まれていった。
「いらない雪は私がスキマで外に出すわね。まずは真っ直ぐに掘りましょう、私が止めるまで好きに掘り進めて」
「はいはーい」
天子が言われた通りに剣を刺して豪快に切り取り、邪魔な雪をスキマが飲み込んで道ができれば即座にまた剣を振るう。
次々と空間を切り開いていく天子がかまくらを貫通してしまう前に、紫が余裕を持って止めた。
「ストップ、そこまででいいわ」
「まだもうちょっと行けるんじゃない?」
「だーめ。剣だけじゃ大雑把にしか雪を切り取れないし、最後に小さめのスコップで削って綺麗にならすわ。必要な手間は掛けないと良いものは作れないわよ」
「そんなのわかってるけどさぁ」
「急がなくても雪は解けないわ。それじゃあ今度は横に広げたいから、ここを切り取ってちょうだい」
「りょーかい、ちょっと下がってて」
せっかちな天子を紫がたしなめてうまく制御し、作業は滞りなく進んでいく。
息をうまく合わせれば、あっという間に二人が入り、自由にできるほどの空間が大まかにだが作り出された。
そうすれば先に紫が説明していた通り、壁を突き破らないように注意しながらスコップで雪を削って空間を広げていく。
最後に床の部分を平らに仕上げれば、庭の一角には小屋に見間違うほどの立派なかまくらが出来上がった。
「やった! できたできた!」
大きなかまくらの中心で、天子は溢れ出る達成感を身体全体で受け止めようと両腕を伸ばして転げまわる。
無邪気に喜ぶ天子を見て、紫は袖で口元を覆って苦笑した。
「まったく、あなたって何にでも大はしゃぎね」
「だってかまくらとか初めてだし! 雪の中なのにそこそこあったかいわね」
「作っていた私たちの熱気が残っているのよ、雪の壁が断熱材になってるからまだしばらくは持つわ」
「へぇー……で、作ったけど何するの?」
天子が仰向けで寝転んだまま、紫を見上げてそう訊ねた。
「あなた作っておいて何も考えてなかったの?」
「だってかまくら初めてだから詳しく知らないし、どうせ紫なら面白いの知ってるでしょ」
「そうね、こうした大きなサイズなら畳を敷いてその上に机やこたつを設置することもあるわね。みんなで鍋をつついたり餅を焼いたり」
「良さそうじゃない、早速やりましょうよ」
「でもこれを作るのでもう疲れちゃったわ。そういうのは後で藍に準備させるとして、今はのんびりしましょう」
紫は肩をすくめ、雪の上に座り込む。
その右隣に、今の言葉を聞いた天子がいやらしい顔をして肩を並べた。
「なぁに? このくらいでヘバったの? 年寄り臭い」
「眠い中での作業だし、それに誰かさんと違って大きな塊があるんですから、肩が凝りますの」
「でもさぁ。なんか雪の中でボーっとしてるだけじゃつまらなくない?」
「天子がツッコんでくれないなんて、ゆかりん寂しい……」
「だったら最初から面倒臭い皮肉止めろ。それよりほら」
ご丁寧にこんな茶番にまで本物の涙を流す泣き芸を披露する紫だが、あまりの白々しさに肘で突っつかれて急かされて涙をぬぐった。
「はいはい、確かに殺風景だけど、だからと言ってあれこれ持ち込んでも視界が騒がしくなって無粋と思うの。なのでこんなのはどうかしら」
かまくらの中央に、スキマが開いてその中から一本のろうそくを乗せた燭台が現れた。
紫はいつの間にか持っていたマッチをこすりと弾けるような音を立てて火が燃え上り、目の前に鎮座するろうそくにその火を分け与えた。
静かに火が立ち上ればオレンジの光が周囲を照らし出すが、これではまだ弱い。
更に紫はかスキマから出したすだれを出してかまくらの外側から入口を塞ぎ、外からの差し込む光を遮ってみせれば、薄暗い空間の中で火がより存在感を増した。
「こういったシンプルなのはいかがかしらお嬢様」
「でもシンプルすぎない?」
「それがいいのよ。たまには私のわがままを聞いて欲しいわ」
「まあ、紫がそう言うならしょうがないわね」
「ありがとうね。それじゃあ、肩の力を抜いてぼんやりしてみましょう」
紫が力みがちな天子の両肩を軽く押さえて緊張をほぐさせると、軽く笑いかけてから壁に背中を預けた。
それにならって天子も胡坐をかいで楽な体勢で、少しの間だけ静かにすることを心がけてみた。
しかしいきなりの静けさに中々心が落ち着かない。
やっぱり失敗だったろうかと悩んでいると、そばにいる紫の吐息の音が一瞬聞こえてきたような気がした。
「……あら、意外と」
それをきっかけに、天子の心に変化が現れる。
密室の中、二人を隔てるものも邪魔するものもない。
信頼できる紫の気配をいつもより鮮明に感じながら力を抜くと安心感が少しずつ湧き上がってきて、その上からろうそくの放つやわらかな光が優しく包み込む。
改めて小さな灯りに目を移してみると、わずかにゆらぐ火が落ち着いた心に染み渡るような感覚を覚えた。
本当に素朴で、誰かが騒ぎ立てればすぐにかき消されてしまいそうで、けれど不思議と温かな空気だった。
「……うん、思ったより良い感じね」
今までに感じたことのない感覚。
それを前にして天子は安らいだ表情でうなずいた。
そしてとても、とても穏やかな時間が流れ出す。
口数は少なくなり、紫は壁に背中を預け、天子は膝を抱えながらぼうっとろうそくの火を見つめる。
透き通った淡い火が揺れるごとにその下で白い蝋が溶けて溢れ、透明な雫となってろうそくから流れ落ちる。
溶け落ちた一筋の蝋は受け皿にまで辿り着くと、熱を奪われて白く固まり溜まっていく。
一連の様子を何をするでもなく、ただずっと眺めていた。
「……静か、ねぇ」
ふと天子が口を開く。
すべてが雪に大地が包まれようとも鳥の鳴き声や風のざわめきくらいは耳に届くものだが、それらは雪の壁が遮ってしまい、驚くほど静かな空間を作り出されている。
ゆったりとした雰囲気に、天子もつい間延びした口調になってしまう。
「異変を起こしてから、こんなに静かなのって、初めてな気がする」
「あなたは騒がしいことが好きだものね。少し生き急ぎすぎなくらい。こうやって、急ぐのを止めて何もかも忘れてみるのもいいことよ」
「うん、そうかも……」
紫はこの小さな世界の中で、力を抜いて自然に溶け込んでいる。
すでにこういった時間の中で穏やかに過ごすことが身についているのだろうが、それに対して天子は少しぎこちない。
慣れない静けさに飲まれがちなようで、いささか落ち込みすぎており、背中を丸めてより深く膝を抱え込んで縮こまっていた。
そんな子供っぽい未熟さが紫の目にはかわいらしく映ったが、それを愛でてばかりいるのもかわいそうかと思い、意識を呼び起こそうと声をかけた。
「揺れる火を見ていると心を落ち着いてくるでしょう?」
紫のいう通り、火には心を静かにさせる効果がある。
古今東西の人間はそのことに気付き、寺院や教会など精神の安定を求める場などで活用してきた。
そして実際に、二人もいま同じように火の力を感じていた。
「……そうね、うん。こんな風にじっくり火を見るのは初めて。こういう火を前にして精神修行したりするのは知ってるけど、こんなに落ち着くなんて知らなかった」
「不思議よね。赤い火と言えば、力強くて熱狂的なイメージもあるのに、こうやってゆらゆらしている火を見ていると、心が安らいでくるなんて」
天子が徐々に視線を移し、灯りでほのかに照らされる紫の姿を横目で捕らえた後、再びろうそくに視線を戻した。
「……私は、火よりも紫の方が不思議」
「私?」
考えもしなかった答えを聞いて、紫の顔が振り向かれる。
「私が生まれるよりもずっと昔、上善は水のごとしと説いた人がいた。争いをせず穏やかな水のように生きるのが一番だって」
「道教を創立した哲学者、老子が記した言葉ね。確かにその通りに生きることができたら幸せに感じる者も多いでしょう」
「でも私はそれじゃ満足できなくて、いつまでもいつまでも騒いでいたくて、そればかり追い求めて異変まで起こして、今も変わらずやんちゃで、一人じゃこんな風にのんびりすることができない」
天子の口から語られた言葉に確かにその通りだ、これで自分のことが良く分かっている。
だがそれだけではないだろうとも紫は思う、今はそうでもいずれは。
「それはあなたの心が子供だからよ。色んなものに触れて成長すれば、いずれはこうやって静かさを楽しめるようになる時も来るわ」
「まあ悔しいけど紫のいう通りよね。そういうのがあるってわかってはいるんだけど、全部を味わうのは私にはまだ少し早くて……でも」
小さな呟きと共に身体が寄りかかる。
火に照らされる二人の影が重なり、紫の肩に天子の頭が預けられた。
「でもね、紫が隣にいてくれる間だけは、こういうのも良いかなって思えるの」
紫の目がわずかに見開かれ、天子の顔を覗き込む。
まぶたの落ち掛けた瞳にはろうそくの小さな火が映り、その奥深くにはゆったりと流れる水のような穏やかさが満ちている。
「激しい喜びも、静かな満足も……たまに悔しい思いもさせられるけど、紫なら仕方ないなかなって思えちゃう。こんなに落ち着いていられるのも紫がいてくれるおかげ。だから不思議」
かつて退屈な天界に嫌気が差し異変を起こした、否、その性格から起こさざるを得なかった彼女が、今こうして緩やかに過ぎていく時間に身を置きながらもそれを拒絶せずに受け入れている。
もはや心に先程のようなぎこちなさは消え失せ、揺れる火と静かな空気に同調していた。
その姿に紫は少し驚いた後、天子のことを軽く見て大人ぶるのをやめ、安心して心と体を預ける。
「できるなら、ずっと紫と一緒に楽しんでいたい……」
「……えぇ、私もよ天子」
身体を寄せ合う二人はろうそくの火を眺めながらも、心は隣にいる相手へ向かっていた。
それぞれの手がつがいを求めて引き合い、手の甲で擦れ合う。
互いの温かさを感じた後、より強い繋がりを求めて手の平が重なり、しなやかな指が絡み合おうとし――
「わあー、すごい大きなかまくらー!」
突然入口から飛び込んできた声にパッと手が離れた。
心臓が早鐘を打つ二人の前ですだれが取り払われ、外に見えたのは健康的な脚としなやかな黒毛に包まれた二本の尻尾。
「ちぇ、橙!」
「天子も来てたんだ。紫様も一緒かあ」
猫耳をピョコピョコ動かした橙がかまくらの床に手を付き、中の様子を覗き込んできた。
さっきまでの穏やかな雰囲気は一変し、騒がしく活発な空気が流れ始める。
さりげなく天子から身を引いた紫が、平静を取り繕って橙に話しかけた。
「お、お帰り橙。猫たちの様子はどうだったかしら?」
「はい紫様、みんな寒さに負けず元気でした! これ、紫様が作ったんですか!?」
「私も頑張ったけれど、一番一生懸命作ってくれたのが他にいるわ」
「それってもしかして」
誰のことなのか察した橙の後ろで、今度は金色の毛をふさふさと揺らす尻尾が現れた。
「橙、戻ってきたか!」
「あっ、藍様ー!」
後ろから声を掛けられて、橙は後ろを振り向いて立ち上がった。
藍は小さな体の脇に手を差し込んで、高く持ち上げて振り回す。
「ハッハッハ、どうだこのかまくらは。これだけ大きければみんなで一緒に中へ入れるぞ!」
「すごいです藍様! こんなにおっきなかまくら作っちゃうなんて」
庭には楽しそうな笑い声が響き、厚いかまくらの中にもしっかりと届いてきて、二人だけでゆっくりとはいかなくなってしまった。
「どうやら今回のところはここまでのようね」
こうなってしまっては仕方ないと、紫は潔く立ち上がりろうそくの火を吹き消すと、スキマに燭台を引っ込める。
またみんなで騒ぎ立てるならそれもいいだろうと受け入れているようだったが、かまくらの隅で天子は残念そうに眉を寄せていた。
「せっかく、紫と一緒に新しいものが見れそうだったのに……」
先程の空気を引きずって歯噛みする天子を見て、紫は世話が掛かる娘だと軽いため息を吐き、その歪んだ眉間を指で弾いた。
「ほら、そんな顔しないの」
「いたっ!」
「こんなことくらいで浮き沈みしちゃうなんて子供ねぇ」
「もう、なによ!?」
不満気なところをからかわれて、苛立ち始めた天子が勢いよく立ち上がって噛み付いてくる。
だが怒りを前にして紫はそれを意に介さず、たしなめるように言葉を続けた。
「水のように生きるだけじゃ物足りないのが、比那名居天子の生き方でしょう?」
本質を信じて放たれた言葉に、天子の目が丸くなり肩から力が抜けた。
苛立ちが鎮まった天子を見て、紫は慈しみを込めて笑いかける。
「穏やかな時に心を安らげ満たしてこそ、急な流れの中であっても全力で楽しみ、どこまで走り続けられるというもの。緩と急のどちらも大事で欠かせない」
惜しみ悲しむのを止め、すべてを受け入れて感じればいいと優しく言い聞かせ、天子の頬にそっと手を添える。
「だからそんな顔しないで、笑って天子。私は、必死に生きるあなたが好きだから」
紫の言葉を最後まで聞き留めて受け止めた天子は、ゆっくりとまぶたを落とすと、頬を撫でてくれる手を確かめるように上から自分の手を重ねた。
「……うん、そうね。私ってそうだった」
沸々と天子の胸の内に熱いものが湧き上がってくる、ほんの短い時間だが忘れていた本来の心を思い出す。
ろうそくの素朴な灯りのような安らぎの心とは違う、力強く輝きどこまでも前向きなななにか。
次に開かれた瞳には、いつもの彼女が持つ鮮やかな光が確かに宿っていた。
それを確認した紫は安心して手を離した。
「紫、ありがと」
「お礼がしたいなら手伝いなさい。家にある畳とこたつを持ってきて、夕食はかまくらの中で頂きましょう」
「よっし! それじゃあ張り切ってやっちゃうか!」
天子が彼女らしい気持ちのいい掛け声を上げ、風を切ってかまくらから飛び出す。
静かに蓄えた活力を解き放ち、一段と力強い足取り髪をなびかせ駆け抜ける。
腕を広げて身体全体で気持ちを表現し、天衣無縫にあるがままなすがまま、目一杯今を生きようとするその姿はとても眩しく、紫はつい見とれて熱い吐息を漏らした。
「天子、そんなに急いで何する気だ?」
「面白いこと! 紫も早く来てよー!」
「はいはい、今行くわ」
「遅いってばもう、ほら!」
「ああちょっと、そんな急いで引っ張らないでちょうだい」
いつも心に素直で、貪欲なまでに自分の欲しいものを求め、周りを巻き込んで突き進む天子。
彼女には迷惑を掛けられたりもするし良いことばかりあるわけではないが、それでもそんな天子と一緒にいる時間は紫には甘くも刺激的でとても充実した時間に感じられる。
今日また一つ成長した天子が今度はどんなものを見せてくれるだろうかと、紫は年甲斐もなくドキドキと胸が高鳴らせるのだった。
「ねえ紫。冬が明けたら二人で日向ぼっこでもしてみる?」
「あら素敵ね。なら美味しいお菓子も用意しておくわ」
「それでさ、今度はその、邪魔とかそういうのナシで……」
「……二人っきりで、ね」
「……うん」
かまくらいいですねえ。そして天子のこころを照らすゆかりん尊い…そして燃え移り激しい恋心に…
過去作も好きですよ!天子ママとか大好きです!
ゆかてん、そういうのもあるのか!
静と動の狭間で揺れ動く久々のゆかてんで俺の心がヤバい。
黒歴史だなんだと申されますが、幻想が終わったあとでを時折読み返しては感慨に浸りつつニヤニヤしている俺のようなのもいますからね!
いままでと違って天子が紫の事意識してるのがgood
またあなたのゆかてんが読めて嬉しいです