※以前投稿した『黒歴史ノート(汗)』とリンクしています。
PROJECT X PHANTASIA 悪夢の始まり
様々な”世界”が、あらゆる”モノ”が、そして、”刻”さえも混ざり合う。
そこが、幻想郷。
☆☆☆
~ ??? ~
幻想郷の東の端っこに位置する博麗神社。
今日も社務所兼自宅の縁側にて、博麗霊夢は茶をしばいていた。
「ふぃ~。 今日も平和ね~♪」
昼食を終え、境内を軽~く掃除し、もう休憩のグータラっぷり。
もっとも、人里から遠く離れ、おまけに妖怪達が跋扈していると噂されている博麗神社である。
参拝客など滅多に来ないのだから、異変が起きなければ、掃除ぐらいしかやる仕事がないのだから仕方がない。
「う~☆ 極楽、極楽~♪ ……あら? 騒がしいのが来たわね……」
霊夢は空を見上げるなり、しかめっ面をした。
金髪の少女が、ホウキに跨ってエライ勢いで飛んで来たからだ。
「霊夢ぅーーーッ!! み、魅魔様が!!」
「魅魔様? ……誰よ、そいつ?」
「もう、ふざけてる場合じゃないわよ! 大変なの! 魅魔様が『あの女』に消されちゃったわ!! ああ、アリスは無事かしら!?」
「落ち着きなさいよ、魔理沙。 だいたい何よ、そのしゃべり方。 格好といい、イメチェンってヤツなの?」
霧雨魔理沙は、普段の口調が荒い。
それに、黒白魔法使いとよく揶揄されるように、白いリボンが巻かれた黒い帽子と、黒い服に白いエプロンを身に着けていることが多い。
しかし、今日の魔理沙は女口調で、帽子と服は、紫一色であった。
「どうしよう!? どうしよう!? どうしよう!? うわーん、魅魔様~!!」
「あー、もう! ……魔理沙にお茶を飲ませて、落ち着かさせよう」
霊夢は、テンパっている魔理沙を横目に立ち上がった。
「れ、霊夢! 『あの女』が、ここに来たわ! た、たすけ、アーッ!?」
魔理沙の悲鳴が境内にこだまする。
客用の湯呑を持ちに行く為に奥の台所へ向かおうとしていた霊夢は、すぐさま縁側の方を振り向く。
「魔理沙!? ……ん!?」
霊夢は眉をひそめた。
縁側に魔理沙の姿はなく、代わりに、顔なじみの女妖怪が、表紙に”蓮子ちゃんの黒歴史ノート”と書かれたノートを広げ、ブツブツと呟きながら立っていたからだ。
「なんだ、紫じゃない。 アンタもイメチェンしたの?」
スキマ妖怪、八雲紫は、長い金髪を腰の下までのばし、ドアノブカバーのような帽子を被り、紫色のドレスや、洋風にアレンジした大陸風の道士服を着用していることが多い。
しかし、霊夢の目前の女妖怪は、金髪を肩の辺りぐらいで切りそろえ、黒い中折れ帽子を被り、肩に黒いショールをかけ、黒いロングスカートに黒の革靴と、頭からつま先まで真っ黒だ。
「こう言っちゃなんだけど、アンタに黒は合わないと思うわよ。 紫だけにね。 ところで、魔理沙をどこにやったのよ?」
霊夢の問いかけに、女妖怪は胡散臭い笑みを返す。
「(……こいつ、紫よね?)」
霊夢は、その笑顔を見るなり、女妖怪に対して違和感を覚えた。
格好以外も何か違うと、直感したからだ。
訝しがる霊夢をよそに、女妖怪は再びノートを見入る。
そして、
「こんなの、蓮子の欲望(のぞみ)し、幻想郷じゃない! やり直さなきゃ、全部、消去して! 作り直さなきゃ、蓮子の欲望(のぞみ)し、幻造世界(ファンタジア)を!! だから……」
女妖怪は、念弾を霊夢に向けて放つ。
突然の不意打ちに、霊夢は避けることができず、念弾は霊夢の腹部に直撃した。
「イタタタ……。 いきなり何すんのよ、紫! 『弾幕ごっこ』したいんなら、先に言ってよね! すごく痛かったんだから! ……え!?」
霊夢は、腹をさすった手を見て驚く。
手に血がこびり付いていたからだ。
そのまま、腹を見ると、ポッカリと穴が開き、おびただしい血がモツと共に溢れ出していた。
「え? え? え?」
霊夢は、乾いた声を上げた。
なんせ、自分自身のモツを見るのは初めてだったのだから。
そんな霊夢をよそに、女妖怪は、霊夢に向けて次々と念弾を放つ。
「あなたが、コンティニュー出来ないのさ!」
多数の念弾は、霊夢の肉を削ぎ、骨を断っていく。
ピチューン!!!
『その世界』の霊夢は、弾け飛んだ。
☆☆☆
~ 幻想郷 博麗神社 ~
とある日の昼下がり。
黒い帽子と黒い服に白いエプロンを着た極めて普通のマジシャン、霧雨魔理沙は博麗神社を訪れていた。
暇を持て余し、霊夢をからかう為にである。
「お、いたいた。 ……相変わらずのグータラ巫女っぷりだな」
霊夢は、社務所兼自宅の縁側で仰向けになって昼寝をしていた。
「よく寝てやがるぜ……。 キシシシ♪ 額に『肉』でも書いてやろうかな~♪」
魔理沙は、霊夢の顔を覗き込む。
すると、霊夢が腹を両手で押さえて、苦しそうな呻き声を上げ始める。
「うーん、うーん……!」
「お、おい、霊夢!? しっかりしろ!」
「うわぁぁぁーーーーッ!?」
「うぉ!? い、いきなり飛び起きんなよ、霊夢!」
驚く魔理沙をよそに、霊夢は自分の腹部をさすりながら凝視していた。
「なんなんだよ、悪いもんでも食ったのか?」
「え? あ、魔理沙じゃない。 ……悪い夢を見てたみたい」
怪訝そうに尋ねる魔理沙に、ぼんやりとした顔で霊夢は返事をした。
「どんな?」
「……さあ? よく覚えていないわ」
霊夢は、のろのろと立ち上がると、台所に向かい、急須や湯呑や菓子鉢が載った盆を持ってきた。
「あ、少し思い出したわ。 さっき見た夢に魔理沙が出てきたの。 それでね、いつもガサツなしゃべり方をしているアンタがちゃんと女の子らしいしゃべり方してたのよ。 ……すごい違和感があったわ」
「うっせい! ……あ! そういや、昨日お前が出てくる夢を見たんだっけ。 ……ぷぷぷ!」
「急に何笑ってんの?」
「やべえ、思い出したら笑っちまった。 ……だってよ、夢の中のお前、空飛ぶ亀に乗ってたんだぜ! 似合い過ぎ、フイタwww」
「はぁ!? なんで私が、亀なんかに乗って、空飛ばなきゃいけないのよ!?」
参拝客が訪れることがない寂しい境内に、姦しい声が響く。
「ところでよ、霊夢。 これなんだ?」
「コレン・ナンダー?」
魔理沙が指差したのは、菓子鉢に入っているモノ。
「壁土よ」
「ちょ、ま!? お前、私に壁土を食わすつもりか!?」
「お茶請けを切らしちゃったのよ。 それに、先代様が━━」
『いいこと、霊夢。 困窮した時は、壁土を食べなさい。
かの清正公が築城した熊本城や、西洋の童話に出てくる”お菓子の家”を参考に、
神社の壁や屋根、床に使った建築材のほとんどは食べられる素材で出来ているから。
でも、これは最後の禁じ手。 巫女が神社を食い尽くすなんてシャレにならないわ』
「って、言ってたんだもん」
「おいおい、先代さんは禁じ手ともって言ったんだろ! ったく、大切な神社を食うハメになるなんて、どんだけ、ぼんびーっ☆なんだよ!」
「だって、本当にお金や食べ物が無いのよ! 満腹度を上げるために、薬草や雑草、種、目薬とかまで口に入れてるんだから!」
「ローグライクな生活送ってんだな、お前……」
数年前、吸血鬼レミリア・スカーレットが起こした紅霧異変。
その際定められたのが、今では”弾幕ごっこ”としてすっかり定着したスペルカードルールだ。
揉め事や紛争を解決するための手段として、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に必要以上に力を出さないようにするための決闘ルールである。
だが、このルールが妖怪(ダークストーカー)ハンターである霊夢を脅かすことになった。
そう、主な収入源であった妖怪退治の依頼が激減したのだ。
そして、たまに来るのは、妖怪ゴキブリや妖怪カマドウマの退治といったショボイ仕事ばかり。
ちなみに、妖怪達が好き勝手に起こす異変の解決については、ボランティアに相当するので基本的に無報酬だ。
「前から疑問だったんだが、お前どうやって食ってたんだ?」
「外の世界の人がお供えしてくれたお酒を人里で換金したり、米や野菜とかと交換してたのよ」
「ああ、外の世界のお酒か」
魔理沙は、以前飲ましてもらった、にごりのない綺麗なお酒を思い出す。
彼女自身は、にごりの多い幻想郷のお酒の方が鈍くさくて好きであったが、人妖問わず好事家が多い幻想郷だ。
外の世界の進んだ技術で作られたお酒となれば、こぞって高値を付けるだろう。
「それにお菓子もたくさんお供えしてくれることもあったの。 ウマー棒っていう安っぽいお菓子が特に多かったけれど、それを阿求がすごく気に入ったみたいでね。 1本につき、米1升と交換してくれたわよ」
「さすが稗田家のお嬢様だ。 太っ腹なことで」
「アンタだって、いいとこのお嬢様じゃないの。 で、頼みがあるんだけど……」
「金を貸してくれってのは無しな」
「えええ~!?」
「何言ってんだ! 私が実家から勘当中の身って、忘れたのかよ!」
魔理沙は、里で一番規模が大きい店舗を構える霧雨道具店の娘である。
そして、霧雨家の所有する資産は、名家、稗田家をしのぐほど。
つまり、魔理沙は良家のお嬢様であり、ブルジョアジーなのだが……。
親に魔道を志す道を全力で否定され、実家を全力で出奔。
魔法の森で、霧雨魔法店なる便利屋を始めたものの、これまで来た客はツチノコ退治の依頼に来た妖精三匹のみ。
幻想郷の各地で、マジックアイテムの原料となる薬草やキノコ等を、森近霖之助や、知人である魔法使い達へ売ることで糊口をしのいでいるのだ。
実家へ帰れば、幻想郷の中でも上位クラスの裕福な暮らしを送れるはずなのだが、プライドや意地もあり、それが出来ない。
「金が無いんなら、またお供え物を売ればいいじゃないか」
「最近、お供え物が全然来ないのよ!」
博麗神社は幻想郷と外の世界の両方に位置している。
そして、外の世界の人間が神社に度々お供えをしていたのだが……。
御祭神が分からない上に、とても山深い場所にある神社。
そんな神社に長年お供えをし続けていた奇特な人間は、神社に向かう途中、熊に襲われ、外の世界の病院で危篤状態であった。
そのことを霊夢が知る由もない。
「む~、しょうがない。 アレをやるしかないわね」
「アレ?」
「福の神を呼ぶのよ!」
「おいおい。 以前、妖怪の山の仙人から、この神社に福の神が来る可能性は、限りなくゼロに近いって、散々こきおろされたじゃねえか」
「忘れたの? 私は神を降ろせる、素敵な巫女! 来なければ、無理やり降ろそう、福の神、ってね!」
霊夢は縁側から降りると、呪文を唱え始めた。
「ホンダラ、ホイホイ! ホンダラ、ホイホイ!」
「れ、霊夢! そんな呪文で大丈夫か!?」
「ホンダラ、ホイホイ! ホ、ホ、ホ、……ぶえっくしょん! ……あッ!?」
「あッ!?」
霊夢と魔理沙の眼前に神が降臨した!
『ぼんびーっ☆』へ続く!
☆☆☆
『ぼんびーっ☆』予告編
ソイツは、最凶最悪の神だった。
キングぼんびーっ☆
「ぐえっへへへ!
ぼんびーっ☆にカードなんぞいらんのだ!
俺様が、まとめて捨ててやる!!!」
博麗霊夢
「た、竜巻!?
ス、スペルカードが!?
お札までーーーッ!?」
揺れる友情。
博麗霊夢
「ちょ、ちょっと、魔理沙さん!?」
霧雨魔理沙
「そういうヤツは、うつるって相場が決まってんだ。
頑張んな、霊夢ちゃん。
お前がソイツを退治できたら、ミスティアの屋台で一杯やろうぜ。
無論、割り勘でな! あばよ!!」
魔理沙は、アッ!というまに、ぶっ飛んでいった。
一方その頃、香霖堂では……。
森近霖之助
「マナの剣だって?
これは、『クサナギの剣』といって、僕の宝物さ!」
大妖精
「マナの剣は、時代とともに数々の名前が付くんです。
お願いします、返してください!
その剣は、私達妖精にとって大切な聖剣なんです!」
唐突に登場、スキマさん。
八雲紫
「霊夢の霊圧が……、幻想郷から消えた!?」
PROJECT X PHANTASIA 悪夢の始まり
様々な”世界”が、あらゆる”モノ”が、そして、”刻”さえも混ざり合う。
そこが、幻想郷。
☆☆☆
~ ??? ~
幻想郷の東の端っこに位置する博麗神社。
今日も社務所兼自宅の縁側にて、博麗霊夢は茶をしばいていた。
「ふぃ~。 今日も平和ね~♪」
昼食を終え、境内を軽~く掃除し、もう休憩のグータラっぷり。
もっとも、人里から遠く離れ、おまけに妖怪達が跋扈していると噂されている博麗神社である。
参拝客など滅多に来ないのだから、異変が起きなければ、掃除ぐらいしかやる仕事がないのだから仕方がない。
「う~☆ 極楽、極楽~♪ ……あら? 騒がしいのが来たわね……」
霊夢は空を見上げるなり、しかめっ面をした。
金髪の少女が、ホウキに跨ってエライ勢いで飛んで来たからだ。
「霊夢ぅーーーッ!! み、魅魔様が!!」
「魅魔様? ……誰よ、そいつ?」
「もう、ふざけてる場合じゃないわよ! 大変なの! 魅魔様が『あの女』に消されちゃったわ!! ああ、アリスは無事かしら!?」
「落ち着きなさいよ、魔理沙。 だいたい何よ、そのしゃべり方。 格好といい、イメチェンってヤツなの?」
霧雨魔理沙は、普段の口調が荒い。
それに、黒白魔法使いとよく揶揄されるように、白いリボンが巻かれた黒い帽子と、黒い服に白いエプロンを身に着けていることが多い。
しかし、今日の魔理沙は女口調で、帽子と服は、紫一色であった。
「どうしよう!? どうしよう!? どうしよう!? うわーん、魅魔様~!!」
「あー、もう! ……魔理沙にお茶を飲ませて、落ち着かさせよう」
霊夢は、テンパっている魔理沙を横目に立ち上がった。
「れ、霊夢! 『あの女』が、ここに来たわ! た、たすけ、アーッ!?」
魔理沙の悲鳴が境内にこだまする。
客用の湯呑を持ちに行く為に奥の台所へ向かおうとしていた霊夢は、すぐさま縁側の方を振り向く。
「魔理沙!? ……ん!?」
霊夢は眉をひそめた。
縁側に魔理沙の姿はなく、代わりに、顔なじみの女妖怪が、表紙に”蓮子ちゃんの黒歴史ノート”と書かれたノートを広げ、ブツブツと呟きながら立っていたからだ。
「なんだ、紫じゃない。 アンタもイメチェンしたの?」
スキマ妖怪、八雲紫は、長い金髪を腰の下までのばし、ドアノブカバーのような帽子を被り、紫色のドレスや、洋風にアレンジした大陸風の道士服を着用していることが多い。
しかし、霊夢の目前の女妖怪は、金髪を肩の辺りぐらいで切りそろえ、黒い中折れ帽子を被り、肩に黒いショールをかけ、黒いロングスカートに黒の革靴と、頭からつま先まで真っ黒だ。
「こう言っちゃなんだけど、アンタに黒は合わないと思うわよ。 紫だけにね。 ところで、魔理沙をどこにやったのよ?」
霊夢の問いかけに、女妖怪は胡散臭い笑みを返す。
「(……こいつ、紫よね?)」
霊夢は、その笑顔を見るなり、女妖怪に対して違和感を覚えた。
格好以外も何か違うと、直感したからだ。
訝しがる霊夢をよそに、女妖怪は再びノートを見入る。
そして、
「こんなの、蓮子の欲望(のぞみ)し、幻想郷じゃない! やり直さなきゃ、全部、消去して! 作り直さなきゃ、蓮子の欲望(のぞみ)し、幻造世界(ファンタジア)を!! だから……」
女妖怪は、念弾を霊夢に向けて放つ。
突然の不意打ちに、霊夢は避けることができず、念弾は霊夢の腹部に直撃した。
「イタタタ……。 いきなり何すんのよ、紫! 『弾幕ごっこ』したいんなら、先に言ってよね! すごく痛かったんだから! ……え!?」
霊夢は、腹をさすった手を見て驚く。
手に血がこびり付いていたからだ。
そのまま、腹を見ると、ポッカリと穴が開き、おびただしい血がモツと共に溢れ出していた。
「え? え? え?」
霊夢は、乾いた声を上げた。
なんせ、自分自身のモツを見るのは初めてだったのだから。
そんな霊夢をよそに、女妖怪は、霊夢に向けて次々と念弾を放つ。
「あなたが、コンティニュー出来ないのさ!」
多数の念弾は、霊夢の肉を削ぎ、骨を断っていく。
ピチューン!!!
『その世界』の霊夢は、弾け飛んだ。
☆☆☆
~ 幻想郷 博麗神社 ~
とある日の昼下がり。
黒い帽子と黒い服に白いエプロンを着た極めて普通のマジシャン、霧雨魔理沙は博麗神社を訪れていた。
暇を持て余し、霊夢をからかう為にである。
「お、いたいた。 ……相変わらずのグータラ巫女っぷりだな」
霊夢は、社務所兼自宅の縁側で仰向けになって昼寝をしていた。
「よく寝てやがるぜ……。 キシシシ♪ 額に『肉』でも書いてやろうかな~♪」
魔理沙は、霊夢の顔を覗き込む。
すると、霊夢が腹を両手で押さえて、苦しそうな呻き声を上げ始める。
「うーん、うーん……!」
「お、おい、霊夢!? しっかりしろ!」
「うわぁぁぁーーーーッ!?」
「うぉ!? い、いきなり飛び起きんなよ、霊夢!」
驚く魔理沙をよそに、霊夢は自分の腹部をさすりながら凝視していた。
「なんなんだよ、悪いもんでも食ったのか?」
「え? あ、魔理沙じゃない。 ……悪い夢を見てたみたい」
怪訝そうに尋ねる魔理沙に、ぼんやりとした顔で霊夢は返事をした。
「どんな?」
「……さあ? よく覚えていないわ」
霊夢は、のろのろと立ち上がると、台所に向かい、急須や湯呑や菓子鉢が載った盆を持ってきた。
「あ、少し思い出したわ。 さっき見た夢に魔理沙が出てきたの。 それでね、いつもガサツなしゃべり方をしているアンタがちゃんと女の子らしいしゃべり方してたのよ。 ……すごい違和感があったわ」
「うっせい! ……あ! そういや、昨日お前が出てくる夢を見たんだっけ。 ……ぷぷぷ!」
「急に何笑ってんの?」
「やべえ、思い出したら笑っちまった。 ……だってよ、夢の中のお前、空飛ぶ亀に乗ってたんだぜ! 似合い過ぎ、フイタwww」
「はぁ!? なんで私が、亀なんかに乗って、空飛ばなきゃいけないのよ!?」
参拝客が訪れることがない寂しい境内に、姦しい声が響く。
「ところでよ、霊夢。 これなんだ?」
「コレン・ナンダー?」
魔理沙が指差したのは、菓子鉢に入っているモノ。
「壁土よ」
「ちょ、ま!? お前、私に壁土を食わすつもりか!?」
「お茶請けを切らしちゃったのよ。 それに、先代様が━━」
『いいこと、霊夢。 困窮した時は、壁土を食べなさい。
かの清正公が築城した熊本城や、西洋の童話に出てくる”お菓子の家”を参考に、
神社の壁や屋根、床に使った建築材のほとんどは食べられる素材で出来ているから。
でも、これは最後の禁じ手。 巫女が神社を食い尽くすなんてシャレにならないわ』
「って、言ってたんだもん」
「おいおい、先代さんは禁じ手ともって言ったんだろ! ったく、大切な神社を食うハメになるなんて、どんだけ、ぼんびーっ☆なんだよ!」
「だって、本当にお金や食べ物が無いのよ! 満腹度を上げるために、薬草や雑草、種、目薬とかまで口に入れてるんだから!」
「ローグライクな生活送ってんだな、お前……」
数年前、吸血鬼レミリア・スカーレットが起こした紅霧異変。
その際定められたのが、今では”弾幕ごっこ”としてすっかり定着したスペルカードルールだ。
揉め事や紛争を解決するための手段として、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に必要以上に力を出さないようにするための決闘ルールである。
だが、このルールが妖怪(ダークストーカー)ハンターである霊夢を脅かすことになった。
そう、主な収入源であった妖怪退治の依頼が激減したのだ。
そして、たまに来るのは、妖怪ゴキブリや妖怪カマドウマの退治といったショボイ仕事ばかり。
ちなみに、妖怪達が好き勝手に起こす異変の解決については、ボランティアに相当するので基本的に無報酬だ。
「前から疑問だったんだが、お前どうやって食ってたんだ?」
「外の世界の人がお供えしてくれたお酒を人里で換金したり、米や野菜とかと交換してたのよ」
「ああ、外の世界のお酒か」
魔理沙は、以前飲ましてもらった、にごりのない綺麗なお酒を思い出す。
彼女自身は、にごりの多い幻想郷のお酒の方が鈍くさくて好きであったが、人妖問わず好事家が多い幻想郷だ。
外の世界の進んだ技術で作られたお酒となれば、こぞって高値を付けるだろう。
「それにお菓子もたくさんお供えしてくれることもあったの。 ウマー棒っていう安っぽいお菓子が特に多かったけれど、それを阿求がすごく気に入ったみたいでね。 1本につき、米1升と交換してくれたわよ」
「さすが稗田家のお嬢様だ。 太っ腹なことで」
「アンタだって、いいとこのお嬢様じゃないの。 で、頼みがあるんだけど……」
「金を貸してくれってのは無しな」
「えええ~!?」
「何言ってんだ! 私が実家から勘当中の身って、忘れたのかよ!」
魔理沙は、里で一番規模が大きい店舗を構える霧雨道具店の娘である。
そして、霧雨家の所有する資産は、名家、稗田家をしのぐほど。
つまり、魔理沙は良家のお嬢様であり、ブルジョアジーなのだが……。
親に魔道を志す道を全力で否定され、実家を全力で出奔。
魔法の森で、霧雨魔法店なる便利屋を始めたものの、これまで来た客はツチノコ退治の依頼に来た妖精三匹のみ。
幻想郷の各地で、マジックアイテムの原料となる薬草やキノコ等を、森近霖之助や、知人である魔法使い達へ売ることで糊口をしのいでいるのだ。
実家へ帰れば、幻想郷の中でも上位クラスの裕福な暮らしを送れるはずなのだが、プライドや意地もあり、それが出来ない。
「金が無いんなら、またお供え物を売ればいいじゃないか」
「最近、お供え物が全然来ないのよ!」
博麗神社は幻想郷と外の世界の両方に位置している。
そして、外の世界の人間が神社に度々お供えをしていたのだが……。
御祭神が分からない上に、とても山深い場所にある神社。
そんな神社に長年お供えをし続けていた奇特な人間は、神社に向かう途中、熊に襲われ、外の世界の病院で危篤状態であった。
そのことを霊夢が知る由もない。
「む~、しょうがない。 アレをやるしかないわね」
「アレ?」
「福の神を呼ぶのよ!」
「おいおい。 以前、妖怪の山の仙人から、この神社に福の神が来る可能性は、限りなくゼロに近いって、散々こきおろされたじゃねえか」
「忘れたの? 私は神を降ろせる、素敵な巫女! 来なければ、無理やり降ろそう、福の神、ってね!」
霊夢は縁側から降りると、呪文を唱え始めた。
「ホンダラ、ホイホイ! ホンダラ、ホイホイ!」
「れ、霊夢! そんな呪文で大丈夫か!?」
「ホンダラ、ホイホイ! ホ、ホ、ホ、……ぶえっくしょん! ……あッ!?」
「あッ!?」
霊夢と魔理沙の眼前に神が降臨した!
『ぼんびーっ☆』へ続く!
☆☆☆
『ぼんびーっ☆』予告編
ソイツは、最凶最悪の神だった。
キングぼんびーっ☆
「ぐえっへへへ!
ぼんびーっ☆にカードなんぞいらんのだ!
俺様が、まとめて捨ててやる!!!」
博麗霊夢
「た、竜巻!?
ス、スペルカードが!?
お札までーーーッ!?」
揺れる友情。
博麗霊夢
「ちょ、ちょっと、魔理沙さん!?」
霧雨魔理沙
「そういうヤツは、うつるって相場が決まってんだ。
頑張んな、霊夢ちゃん。
お前がソイツを退治できたら、ミスティアの屋台で一杯やろうぜ。
無論、割り勘でな! あばよ!!」
魔理沙は、アッ!というまに、ぶっ飛んでいった。
一方その頃、香霖堂では……。
森近霖之助
「マナの剣だって?
これは、『クサナギの剣』といって、僕の宝物さ!」
大妖精
「マナの剣は、時代とともに数々の名前が付くんです。
お願いします、返してください!
その剣は、私達妖精にとって大切な聖剣なんです!」
唐突に登場、スキマさん。
八雲紫
「霊夢の霊圧が……、幻想郷から消えた!?」
最近この謎のノリがおもろい。
まずは読者として創想話の作品を色々読んでみると幸せだと思いますよ
みんなが