「ふー、寒いわねぇ」
新年が開けた幻想郷。日が暮れようとしても人たちは里の間で、各々の家で新しい年を祝っていた。
博麗神社にも朝から人間の参拝客は来た。しかし夜になる前に妖怪たちに会わない内にと人気はどんどんなくなり、やがて誰も来る気配がなくなったので霊夢はいつもの住居スペースでコタツに入っていたのだった。
コタツにだらしなく頭を乗せてしばらく暖を取る。その顔がふにゃりと緩んでいた。
「あぁ、あったかい……」
「まったく今年も新年からだらしがないなぁ、霊夢は」
「なによ、新年からわざわざお小言を言いに来たわけ?」
霊夢が顔を上げると藍が苦い顔をして両手を腰に回していた。「やれやれ」と呆れている様子だ。しかしそんなことに構わず霊夢は体を震わせる。
「ちょっと寒いじゃない。早く閉めて」
「毎年毎年そんな様子じゃ……いや、年々ひどくなっているというか。博麗の巫女がそんなだらけてどうする?」
「はいはい。紫が冬眠したと思えば、その式がうるさいんだもの。別に無理してアイツの代理みたいなことをすることはないわよ?」
「そうか、じゃあこれはいらないんだな」
そう言って傍らに置いてあった籠を霊夢に見せる。中にはお野菜や豆腐。それに少々だが牛肉が詰まれている。ようするにお鍋の具材だと分かると霊夢はコタツから立ち上がり藍のもとに寄る。そしてニッコリと笑った。
「あら、今年も持ってきてくれたの。ありがとう藍」
「私じゃなくて紫様からのプレゼントなんだが……はぁ紫様も。毎年毎年霊夢を甘やかしているから」
「藍は? 食べていく?」
「いや私はいい。今年も正月は魔理沙と二人で過ごすのだろう?」
藍の言葉に霊夢は頷いた。
「ま、今年もいつもの私たちだからねぇ」
新年の冷たい夜空を魔理沙は箒にまたがって飛んでいた。その顔は険しかったが寒さのせいではなかった。
昼間、人里で買い物をしていると会いたくない人に会ってしまったのだ。
「魔理沙……久しぶりじゃな」
誰であろう自分の父親であった。昔魔理沙が飛び出してから今まで絶縁関係にある。
魔理沙は顔をしかめた。
「……なんだよ?」
「なんだはあるまい。自分の父親に向かって」
「残念。今の私には父親なんていないよ」
そう答えて魔理沙はそそくさと背中を向ける。不機嫌そうに箒にまたがり飛ぼうとした。
新年から厭な気になったぜ。
さっさと逃げようと思っていると逃がさんと父親が声をかける。
「待て! お前、そろそろいい婿は見つかったのか!?」
ちょっと浮きかけた魔理沙が箒からズッコケる。それに構わず父親は大きな声で訊ねる。人里の往来のど真ん中で。
「お前がわしのことをもはや父親と思わなくても結構。しかしお前はもうその……そろそろ婚礼してもおかしくはない年頃。おかしいというか――」
「……道のど真ん中で何を言いやがる、このクソ親父」
ピクピクと額の癇筋を震わせながらますます不機嫌そうに父親を睨み付ける魔理沙。周囲にはすでに何人かが親子のやりとりを見ていた。
「いやぁ、見てはいられんのだ。いい歳をして魔法使いだとかはもう何も言わない。しかしそろそろ身を固めないとな。過ぎれば過ぎるほど婿が来なくなるぞ」
「うるさい! 馬鹿っ!!」
そう言い残して今度こそ魔理沙は箒にまたがって宙へと飛んだのである。
一度家に戻ってから、日が暮れたのを見て再び箒にまたがる。
目指すは博麗神社。
きっと霊夢が待っているだろう。笑って私を迎え入れてくれるんだ。
しかし頭の中の長年の親友の顔が昼間の自分の父親に変わって、魔理沙はぶんぶんと振り払うように頭を振った。
何年振りかに会う父親は髪が白色に染まり切り頭皮が薄らと見えるようにさえなっていた。
親父も歳を取った。しかし父親に対して何ら感情は浮かばない。
「……余計なお世話だ」
ボソリと昼間の父親に悪態を吐いて、ようやく目の先に博麗神社が見えてきた。
境内に舞い降りると魔理沙は駆けこむように中へと急ぐ。
障子を開けた。
「あら、魔理沙。いらっしゃい。待ってたのよ」
お鍋の中をかき回しながら霊夢がにっこりと笑った。
その顔を見て魔理沙も笑った。
「霊夢。あけましておめでとう」
「あけましておめでとう、魔理沙」
「とか言われたんだ! それも人前で大きな声で! 酷いだろ?」
「酷い酷い。それは酷いわ」
数時間後。
楽しく鍋をつついていた二人だったが、鍋の中身がなくなった頃には酒が回って二人とも泥酔していた。
鍋をどかしたコタツの上に行儀悪く肘をついて話す魔理沙。すでに大声になるのを抑えきれないほど酔っていた。しかし霊夢も同じくらい酔っているので気にしない。
「かーっ! あのクソ親父め。だいだい結婚なんてまだ早いって。まだまだ研究して、研究して、結婚なんてそれどころじゃありませーん」
「可哀そうね。うちは藍がうるさくてねぇ。今日も来たんだけどさ、帰り際に『こんなんじゃ結婚できないぞ』って。馬鹿じゃない? 紫は何も言わないのにねぇ」
魔理沙に感化されてか霊夢までもが愚痴を語り出し、今度は魔理沙がうんうんと頷く。
「結婚するかしないかなんて私らが決めることだろ。まったく他人がとやかく言う話じゃないだろうに」
「魔理沙」
話を遮るように霊夢が呼んだ。魔理沙が視線を移すと霊夢がまっすぐ見つめていた。といっても酔いで頭が小さく揺れてはいたが。
「魔理沙は本当に結婚とか考えていないの?」
霊夢の顔は赤く染まっていた。酒のせいだが。
「あはは! まったく! 霊夢こそ考えていないんだろ?」
「ええ。これっぽっちも」
「だろ? さっきも言ったけど私はまだ研究に没頭したいし、それにお前とこうしてご飯食べたり、酒を呑んだりして過ごすのが好きだ。楽しいし、やりたいようにやりたいことをしたいんだ」
「そうね。結婚とか縛られずに会いたいときに魔理沙に会って、こうして過ごしたいわ」
魔理沙がニッと笑った。
霊夢も笑い返す。
二人の手にある盃が音を立ててぶつかった。
「魔理沙。今年もよろしくね」
「ああ。今年もよろしく、霊夢」
魔理沙が空になった徳利を霊夢の口元に寄せる。
どうやらマイクに見立てているらしい。
「さて今年で三十になる霊夢さん、今年の抱負は?」
「あんたも今年で三十路でしょうが」
新年が開けた幻想郷。日が暮れようとしても人たちは里の間で、各々の家で新しい年を祝っていた。
博麗神社にも朝から人間の参拝客は来た。しかし夜になる前に妖怪たちに会わない内にと人気はどんどんなくなり、やがて誰も来る気配がなくなったので霊夢はいつもの住居スペースでコタツに入っていたのだった。
コタツにだらしなく頭を乗せてしばらく暖を取る。その顔がふにゃりと緩んでいた。
「あぁ、あったかい……」
「まったく今年も新年からだらしがないなぁ、霊夢は」
「なによ、新年からわざわざお小言を言いに来たわけ?」
霊夢が顔を上げると藍が苦い顔をして両手を腰に回していた。「やれやれ」と呆れている様子だ。しかしそんなことに構わず霊夢は体を震わせる。
「ちょっと寒いじゃない。早く閉めて」
「毎年毎年そんな様子じゃ……いや、年々ひどくなっているというか。博麗の巫女がそんなだらけてどうする?」
「はいはい。紫が冬眠したと思えば、その式がうるさいんだもの。別に無理してアイツの代理みたいなことをすることはないわよ?」
「そうか、じゃあこれはいらないんだな」
そう言って傍らに置いてあった籠を霊夢に見せる。中にはお野菜や豆腐。それに少々だが牛肉が詰まれている。ようするにお鍋の具材だと分かると霊夢はコタツから立ち上がり藍のもとに寄る。そしてニッコリと笑った。
「あら、今年も持ってきてくれたの。ありがとう藍」
「私じゃなくて紫様からのプレゼントなんだが……はぁ紫様も。毎年毎年霊夢を甘やかしているから」
「藍は? 食べていく?」
「いや私はいい。今年も正月は魔理沙と二人で過ごすのだろう?」
藍の言葉に霊夢は頷いた。
「ま、今年もいつもの私たちだからねぇ」
新年の冷たい夜空を魔理沙は箒にまたがって飛んでいた。その顔は険しかったが寒さのせいではなかった。
昼間、人里で買い物をしていると会いたくない人に会ってしまったのだ。
「魔理沙……久しぶりじゃな」
誰であろう自分の父親であった。昔魔理沙が飛び出してから今まで絶縁関係にある。
魔理沙は顔をしかめた。
「……なんだよ?」
「なんだはあるまい。自分の父親に向かって」
「残念。今の私には父親なんていないよ」
そう答えて魔理沙はそそくさと背中を向ける。不機嫌そうに箒にまたがり飛ぼうとした。
新年から厭な気になったぜ。
さっさと逃げようと思っていると逃がさんと父親が声をかける。
「待て! お前、そろそろいい婿は見つかったのか!?」
ちょっと浮きかけた魔理沙が箒からズッコケる。それに構わず父親は大きな声で訊ねる。人里の往来のど真ん中で。
「お前がわしのことをもはや父親と思わなくても結構。しかしお前はもうその……そろそろ婚礼してもおかしくはない年頃。おかしいというか――」
「……道のど真ん中で何を言いやがる、このクソ親父」
ピクピクと額の癇筋を震わせながらますます不機嫌そうに父親を睨み付ける魔理沙。周囲にはすでに何人かが親子のやりとりを見ていた。
「いやぁ、見てはいられんのだ。いい歳をして魔法使いだとかはもう何も言わない。しかしそろそろ身を固めないとな。過ぎれば過ぎるほど婿が来なくなるぞ」
「うるさい! 馬鹿っ!!」
そう言い残して今度こそ魔理沙は箒にまたがって宙へと飛んだのである。
一度家に戻ってから、日が暮れたのを見て再び箒にまたがる。
目指すは博麗神社。
きっと霊夢が待っているだろう。笑って私を迎え入れてくれるんだ。
しかし頭の中の長年の親友の顔が昼間の自分の父親に変わって、魔理沙はぶんぶんと振り払うように頭を振った。
何年振りかに会う父親は髪が白色に染まり切り頭皮が薄らと見えるようにさえなっていた。
親父も歳を取った。しかし父親に対して何ら感情は浮かばない。
「……余計なお世話だ」
ボソリと昼間の父親に悪態を吐いて、ようやく目の先に博麗神社が見えてきた。
境内に舞い降りると魔理沙は駆けこむように中へと急ぐ。
障子を開けた。
「あら、魔理沙。いらっしゃい。待ってたのよ」
お鍋の中をかき回しながら霊夢がにっこりと笑った。
その顔を見て魔理沙も笑った。
「霊夢。あけましておめでとう」
「あけましておめでとう、魔理沙」
「とか言われたんだ! それも人前で大きな声で! 酷いだろ?」
「酷い酷い。それは酷いわ」
数時間後。
楽しく鍋をつついていた二人だったが、鍋の中身がなくなった頃には酒が回って二人とも泥酔していた。
鍋をどかしたコタツの上に行儀悪く肘をついて話す魔理沙。すでに大声になるのを抑えきれないほど酔っていた。しかし霊夢も同じくらい酔っているので気にしない。
「かーっ! あのクソ親父め。だいだい結婚なんてまだ早いって。まだまだ研究して、研究して、結婚なんてそれどころじゃありませーん」
「可哀そうね。うちは藍がうるさくてねぇ。今日も来たんだけどさ、帰り際に『こんなんじゃ結婚できないぞ』って。馬鹿じゃない? 紫は何も言わないのにねぇ」
魔理沙に感化されてか霊夢までもが愚痴を語り出し、今度は魔理沙がうんうんと頷く。
「結婚するかしないかなんて私らが決めることだろ。まったく他人がとやかく言う話じゃないだろうに」
「魔理沙」
話を遮るように霊夢が呼んだ。魔理沙が視線を移すと霊夢がまっすぐ見つめていた。といっても酔いで頭が小さく揺れてはいたが。
「魔理沙は本当に結婚とか考えていないの?」
霊夢の顔は赤く染まっていた。酒のせいだが。
「あはは! まったく! 霊夢こそ考えていないんだろ?」
「ええ。これっぽっちも」
「だろ? さっきも言ったけど私はまだ研究に没頭したいし、それにお前とこうしてご飯食べたり、酒を呑んだりして過ごすのが好きだ。楽しいし、やりたいようにやりたいことをしたいんだ」
「そうね。結婚とか縛られずに会いたいときに魔理沙に会って、こうして過ごしたいわ」
魔理沙がニッと笑った。
霊夢も笑い返す。
二人の手にある盃が音を立ててぶつかった。
「魔理沙。今年もよろしくね」
「ああ。今年もよろしく、霊夢」
魔理沙が空になった徳利を霊夢の口元に寄せる。
どうやらマイクに見立てているらしい。
「さて今年で三十になる霊夢さん、今年の抱負は?」
「あんたも今年で三十路でしょうが」
明治時代には幻想郷が草分けされたことと文明レベルの背景を考えると、
十代で結婚する女性の方が今も多いんじゃないかな。
しかし二人共結婚させようとしたら釣り合う男は居るのかな?
二人共ただの人間じゃないんだから。
・・・それを言ったらおしまいかw
それは心配するよなあ。でもこの二人にはずっとこのままでいて欲しい気もする。
男に支配されるのを良しとするとはとても思えないし
やはり俺の出番かな…←混乱