博麗神社。
常には人も妖も寄り付かない寂れた神社だが、今夜だけはその常識から外れていた。
「早いもんだな」
縁側に腰を下ろした魔理沙が呟く。頬を赤らめ、発音も少々覚束ない。
「今年ももう終わりか」
隣で霊夢がそうね、と答えながらくいっと盃を干した。
大晦日もあと僅か。残すところ数分といったところだ。
年が変わるのを祝おうと誰が言い出したのか定かで無いが、とにかく誰かが言い出して、我も我もと酒好き・騒ぎ好きが相集い、今宵の博麗神社は大宴会の大賑わいと相成った。笑う者、騒ぐ者、宴会芸をやりだす者、酒に呑まれたのか泣き出す者も。全く情緒からは程遠い。
それでも霊夢は大喜びだろう。宴会の参加者からは宴会代に加え、初詣の参拝料も期待できる。参加者の殆どが妖怪連中じゃなかったら、だけど。
「しかし、よく寒くないな。妖怪ってのは暑さ寒さも感じないんかね」
火鉢に手をかざし熱燗をぐびりとやりながら魔理沙がこぼす。隣の霊夢も同じようなもんだ。妖怪に混じって宴席にいる僅かな人間、早苗や妖夢はは何処から持ち込んだのやら、石油ストーブにべったりだ。例外は咲夜だけだろうか。紅魔のメイド長は今宵もメイド装束に身を包み、それでいて鳥肌一つ立ってない。
ごぉぉぉーーーーーーーーーーーーん…………。
突然大きな音が境内を満たした。
「なんだぁ?」
「あら、始まったのね」
霊夢が酒臭い息を吐いて言う。音は断続的に何度も続いている。
「一体なんだよ霊夢、この音は」
「除夜の鐘よ。……と言っても、うちじゃないわ。うちの神社に鐘なんて無いもの」
「金もな」
「寺に勤めてる山彦を借りたの。麓の寺で撞いてる鐘の音を反響させてるのよ」
言われて耳を澄ませてみるとなるほど、大きな鐘の音の前に僅かながら音が聞こえる。しかし、なんだってこんなことを。
「参拝客を増やすためよ」
霊夢は言った。
「うちの神社に来れば、除夜の鐘も一緒に聞けるんだもの、わざわざあんな妖怪寺に行く必要ないわ。そうしたら、もっと参拝に来る人も増えると思うの。ねえ、そうじゃない?」
「そ、そうだな」
適当に頷いて、魔理沙は酒をかっこんだ。どう考えても目の前の有り様――妖怪だらけの大宴会をどうにかするほうが先決だと思うのだが、それは黙っておいた。一寸の虫にも五分の魂。魔理沙にも五分くらいは良心が残っているのだ。
「魔理沙」
突然霊夢が魔理沙と向かい合うようにすると、ぴしりと正座をした。そのまま深々と一礼する。
「明けまして、おめでとう御座います」
そして頭をあげると、呆気にとられる魔理沙に向かってそれは見事な笑顔を見せた。
「さ、魔理沙、新年の初詣しましょうか」
「……やれやれ」
仕方ない、と言った様子で魔理沙が腰を上げる。
(……まあ、今日ぐらいは賽銭入れてやってもいいか)
霊夢の後ろ姿を追いながら、魔理沙はそんなことを考える。
除夜の鐘の音が未だ騒がしい神社に新年の訪れを告げるように、ひときわ高く響いた。
短いながらもとても良い作品でした。
新年を迎えてもレイマリは相変わらずですね。
やはり霊夢は催し物の才能がないのう。