Coolier - 新生・東方創想話

俺が幻想入り

2014/12/25 23:32:59
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俺の二つ名は闇のダークネス。

またの名をユリウス・カエサル・デギン・ザ・グレート・ナナシ13世。親しい連中はナナシと呼ぶ。

「田中君……だっけ? 同じクラスの。さっきそこでスマホ落としたよ、はいこれ」「あ、どうも」特に親しくない人類は、俺の事を単に田中と呼ぶ。
一見、どこにでもいるごく普通の高校生だ。

いつもの道を下校する。つまらない日常。
俺の周りで談笑しながら学校から帰る有象無象たち。みな、同じような制服を着て、同じような話題を口にし。同じような夢を見て、同じような人生を送るんだろう。

巫山戯るな。俺は違う。思わず呟いたその時。


いやあ、ほんっとうに違いましたねぇ。
俺の目の前に、安定と信頼の暴走トラックが出現。急ブレーキだけが一足先に幻想入りしてしまったかのように、全く減速することなく俺の肉体を跳ね上げ、
瞬間、俺は意識を失った。

まぁ大体そんな感じで、俺は幻想入りを果たしたのだ。


次に目を覚ました俺は、見知らぬ地霊殿にいた。

「このボディ、素敵……」最初から全力でデレているお燐ちゃんが、俺の全身を撫で回していた。
「お燐。それ、意識をとりもどしたみたいよ」
お燐ちゃんのそばで、そうたしなめるスリッパサードアイ幼女ことさとり様もいる。間違いなく地霊殿だ。

「本当ですか?」お燐ちゃん、先ほどまで俺に向けていた、うっとりとした放蕩な視線をやめ、今度はイキイキと活力あふれる視線で俺の事を直視してきた。
「大丈夫? どこか痛くない? おにーさん、名前なんていうの?」
だがちょっとまってほしい。
幻想入りした、という事はアレである。
俺は三次元の肉体で幻想入りしてあるようだ。つまり、そこにいるさとり様も、現在進行形で俺に密着しているお燐ちゃんも、三次元なわけで。
つまり美少女たるお燐ちゃんも、そばかすはあるわ毛穴はあるわで、ちょっと二次元的な美少女とは微妙に異なってしまっているんだ、これが。

そんな俺の苦悩も知らず、お燐ちゃんは密着しているといってよい距離で、不思議に純粋な目で俺を覗き込む。
「ねえ、どしたの?」
お燐ちゃんの毛穴可愛い。そばかすお燐ちゃんとか最高すぎでしょ。うふふ。

俺はとりあえずお燐ちゃんの質問に応えた。

<俺の名はユリウス(中略)ナナシ13世。ナナシってよんでくれていいぜ?!>
「ブロン、ボロロ。ブボボッ」

なにこれ。俺という人間の高校生が発して良いような音声ではない。
ここに至って、俺は初めて自分の「肉体」の異変に気がついたのだった。


俺は 人というには あまりにも大きすぎた
大きく 分厚く 重く そして大雑把過ぎた
それは 正に鉄塊だった ていうかトラックだった

コンパクトなボディに強力な直列3気筒エンジン
どんな悪路も乗りこなす4WDでありながら 
リッター辺り20キロ近い低燃費を誇るスゴイやつだった


一度だけアイドリング音を発したきり黙ってしまった俺を見かねてか、お燐ちゃんが不安そうにさとり様を見やる。
「さとり様。この方はなんて?」
「名前を教えてくれたわ。よろしくね、田中さん」
ひでえ。

「そうなんですか。よろしくねッ! 田中さん!」
「ああ、お燐。貴方は、彼のことナナシって呼んであげなさい」
「え、何でですか?」
「いいから」
「じゃあ、よろしくねッ! ナナシ!」
さっすがさとり姉御。一生ついていきやす。

そう思った次の瞬間。さとり姉御の小さなボディとはあまりにも不釣合いなほどの高威力・高速度を持ったヤクザキックが、俺のフロントフェンダーに吸い込まれるように炸裂した。
やめて、俺の車体フレームへこんじゃう!
明らかに幼女が蹴った音じゃないの。
もっとこう、なんていうか。たとえるなら、ゾンビを巨大ハンマーでぶっ叩いた時の音というか。
俺がトラックに引かれたとき、丁度こんな音させてたような気がするよ、うん。

ちょ、そんな蹴りをもう二度、もう三度とかやめてください!
この任侠サードアイ、容赦ない蹴りで俺を責め続け、って、この間もどんどん蹴りの威力が強くなってる気がするんですけどぉ!

そしたら、お燐ちゃんに聞こえないくらいの小さな声で、
「誰がヤクザ? 誰が姉御?」

勘弁してください!
ごめんなさいさとりさま!!!

「よし。わかればいいのよ、わかれば」
「何やってんですかさとり様?」
「なんでもないわ、気にしないで」
そこには、時分のペットを心配させまいと、まことに無垢な少女の微笑を披露するさとり妖怪の姿が。
スリッパはいててこの威力だし。妖怪ってこわい。
そう思った、俺の幻想入り初日だった。

翌日、幻想入りして二日目。
と、地霊殿に突然の来客が。

「こんにちはー。外来のつくもんがこの辺に来たって連絡があったんだけどー」
ルーミアだった。はて、つくもんとはなんだろう?

「ええ、そうですよ」さとり様が言う。
「これかー?」
金色の短髪は、地霊殿全体を覆っているどことなく暗黒な雰囲気とはひどく対照的に見えた。

「ええ、この方ですよ! 世にも珍しい、トラックの付喪神!」
なるほど、つくもんとは付喪神のことか。俺的には、まだ人でいるつもりなんですけどね。それよりも元気よく頷くお燐ちゃんかわいい。
お燐ちゃんの首が上下するたびに左右の三つ編みが小刻みに揺れる。
地霊殿は、お燐ちゃんがいる限り暗黒な雰囲気などとは無縁だ。間違いない。

車体である俺の存在を確認したルーミアは、一転、
「ドーモ、外界人=サン、チュートリアルヨーカイ、ルーミアです」
両手を合わせ、丁寧かつ九十度近く腰を曲げた奇妙なお辞儀をした後、いつもの十字スタイルに戻る。

俺が特に反応しないでいると(というか肉体が車なのだから反応したくともできないのだが)、さとり様が俺の代わりに応えた。
「ルーミアさん、この方、ニンジャスレイヤー知らないみたいですよ?」
「え? 外から来たのに?」
「全く知らないみたい」

「あ、そ。まあいいや。八雲のほうからきましたー。一応聞くけど、その子、捨てたり食べたりする?」
「しません。ウチで飼います。お燐の新しい猫車にします。いいわよね、お燐?」

「いいんですか?! やったあ!」
無邪気にはしゃぐお燐ちゃん、本当に癒される。
お燐ちゃん。喜んだり興奮したりすると、赤みがかった茶色の瞳孔が、一瞬の間にまんまるく広がる。天使か。


「なら、外来人保護法にのっとって、ちゃちゃっと登録お願いよー。はいこれ、登録申込証書と幻想郷縁起、それに外来人用の『初めての幻想郷』の三点セット。しめて三円五十銭だねー。さあ払った払った」
「幻想郷縁起は持ってますから、二つだけでいいです」

「だめー。分割販売はしないのがきまりだからねー」
「ルーミアさん、私、覚り妖怪なんですけど」

「まいったなあ。じゃあ、二つで三円」
「だから、わたし、さとり妖怪なの」
「……一円五十銭。はよ」


「はい、領収書、ちゃんとくださいね」
「はいはい。あ、そうだ」
「なんですか?」

「あのね? ……わはー」
「なんですかそれ?」
「ねえ、このつくもん、なんか反応あった?」
「いえ。疑問符の一字だけですね」

「あ、そ。じゃあこれ、もういいのか。とにかく、そういうことで。ハイこれ、領収書」
ルーミアは手馴れた手つきで領収書をさとりに渡すと、十字スタイルすらやめ、あっという間にいなくなってしまった。

その日の夜。
俺にとって、お燐ちゃんのハイパー猫車としての旧地獄デビュー。初出勤である。

お燐ちゃんは今まで外界の内燃機関を一度も運転した事がないそうで、今日は特別にさとり様と一緒に仕事をすることになったらしい。
なんでも、お燐ちゃんに外界の運転の仕方を教えるそうだ。
つまり、お燐ちゃんは俺の中の助手席に座り、実際に運転席に座ってハンドルを握っているのはさとり様なのだ。
で。ついでに『昨今とみに乱れがちな旧地獄の風紀を取り締まるいう、地霊殿の主としてやってしかるべき仕事』を一緒にしてるんだけど……

えーっと、なんというかね。

まあ、この時期だし、最近開かれつつある旧地獄も、イルミネーションとか飾り付けられてて、ちょっといい感じなわけですよ。
そこでいろんな鬼とか妖怪たちが楽しんでて、中にはこんな感じの組み合わせも結構いるんですな。

鬼男「終電(意訳)、いっちゃったね……」
鬼子「そうね、鬼男さん、所で私、なんだか疲れちゃった……」
鬼男「えっ……鬼子さん、その、よかったらこれから……」
鬼子「鬼男さん……」


みたいな雰囲気のところに、颯爽と俺を運転するさとり様が登場。
で、アクセル全開で、その、『不純異性交遊の問題を根元から断つ(さとり様談)』でしょ?
その後、全運動量を失って停止状態にある俺からさとり様とお燐ちゃんがすばやく降車して、『足元に落ちている燃料を拾って(さとり様談)』俺の荷台に運び込むという。
まあ、なんだ、その。うん。
怖がっているお燐ちゃんはとってもいとしいなあ。

「さとり様あ、やっぱりこれ間違ってるとおもいます!」
「なにいってるのお燐。私は旧地獄の風紀を守る。あなたは沢山の活きのいい死体を持ち去ることができる。一石二鳥でしょ?」
「でも! でもぅ! うしろの死体、まだ息がありますよう!」
「なあに、燃やしてしまえば一緒よ」

何いってんすか。
突入するときに「恋する乙女はMINAGOROSHI!!!」とかエキセントリックな不協和音かまして叫んでたのは、他でもないさとり様じゃないすか。

ガンッ! 裏拳による天井への一撃。
はいはい、サーセン。
「ど、どうしたんですかさとり様?」
「いえ、なんでもないわ」
すこし震えているお燐ちゃん。
三つ編みから、一本、いや二本ほど、髪の毛がほつれ、不安そうな表情のお燐ちゃんの首筋にはらりと寄り添う。
処理しそこなった産毛と合わさって、お燐ちゃんのうなじに、重大なかわいさを演出させていた。世界の真理だよねこれ。


「さあ、もう一件!!!」
そう、俺が見た中で一番瞳を活き活きとさせたさとり様が、車内の運転席から、次の二人組みに狙いを定めた。

踏み込まれるアクセル。
さとり様の足によって、俺の芯の臓腑にガソリンエンジンが叩き込まれる。
目の据わった今のさとり様に怖いものはない。
その隣には涙目のお燐ちゃん。この世の救いだ。

さとり様の怨念とともに、俺はトップスピードを更新、古いスピードメーターのせいか、速度超過のキンコン警告音がなり始めている。
目標にされた男女二人はあわてて俺たちを避けようとするが、もはや確実に手遅れだ。
と、不意にさとり様の目が驚愕に見開かれる。

あと少しで目標にぶつかろうというとき、その二人の前に、
「おねえちゃんやめて!!!」
なんと、古明地のこいしちゃんが両手を挙げ、二人と俺たちの間に割って入っているではないか!

あわてて俺のブレーキを踏むさとり様。
しかし。こいしちゃんまであと十メートルもない。
だめだ。どう考えても間に合わない。

恐怖におののきながら思わず目をつぶるさとり様。
俺も意識を手放したくなった。


十秒後。
恐る恐る目を開けたさとり様は、歓喜とも安堵ともいえないようなため息をついた。
俺も同じ思いだ。お燐ちゃんは涙を流している。尊い。
この車の急ブレーキは、本当に一足先に幻想入りしていたようだ。
事前に奇跡の神と示し合わしでもしていたかのように、俺という車体はこいしちゃんの目の前で完全に停止していた。

「こいし、あなた、どうして……」
運転席からおぼつかない足取りで駆け寄るさとり様。
そこに、
「おねえちゃんのばかー!」こいしちゃんが思いっきり頬を殴る。
殴って、拳を振り上げて、
「ばかばか、おねえちゃんのばか」
まるで駄々っ子のように、両手でさとり様の胸元を殴り始めた。

「だって、」
そう、何かを言いかけて、さとり様は言いよどむ。
こいしちゃんの攻撃はほとんど力が無かったが、さとり様は気圧されるように後ずさりをはじめ。

「おねえちゃんのばか、どうしてこんなことするの」
「だって、こいし。風紀を守らなくちゃ」
「そんな言い訳は聞きたくない! 違うでしょ、うらやましかったんでしょ!」

ちがう、という言葉をいいかけたさとり様は、けれどもその場で固まった。
「おねえちゃんの本当の気持ち。私はわかるよ! 私もお燐も、ちゃんといってくれれば受け止めて見せるよ!」
「そうですよさとり様! いまこそあたいのこころのなか、読んでくださいよう! さあ!」お燐ちゃんは泣いていた。俺も泣きたかった。
こいしちゃんも泣いていた。
さとり様もないていた。


さとり様は、自分がいつの間にか流していた涙をそっとぬぐうと、こいしちゃんに優しく語りかけた。

「本当のことを言うとね。少し、ううん。とってもうらやましかったのよ。あの人達のことが。ふふ、パルスィのこと、これからは先輩って呼ばなくちゃね。私も、憧れていたのね。恋するってこと。もしかしたら、これが恋に恋するってことなのかしらね。どこかの黒白の事、もう笑えないわね。ねえこいし、あなたがよければ、これから」

「恋する乙女はMINAGOROSHI❤」
いつの間にか運転席に座ったこいしちゃんは、さとり様をも上回るドライブテクで俺を乗りこなし、最高速度でさとり様を跳ね飛ばしていた。


「さとり様ー!!!」叫ぶお燐ちゃん。
「おねーちゃーん!!!」号泣するこいしちゃん。いつの間にか車から降りてるし。「❤」ってどう発音したんだ。

きりもみ回転しつつ、
「こいしの、愛が……重い……ぐふっ!」そう、親指を立てながら近くにあった旧地獄の溶岩に沈んでいくさとり様に、さすがの俺も涙無しには見られなかった。

こうしてさとり様は死んだ。
でも来週辺りには平然と生き返ってたりするんだ。妖怪だもんね。仕方がないね。
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コメント



0.580簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
寝る前に読んだからなのか「見知らぬ地霊殿にいた」あたりから笑いを抑えられなかった
悔しい
おもしろかったです
2.100名前が無い程度の能力削除
これはタグとタイトルが明らかに釣りだーw
3.100名前が無い程度の能力削除
くっそwwwww100点持ってけwwwww
6.100名前が無い程度の能力削除
この野郎!
10.80奇声を発する程度の能力削除
良かったです
11.70名前が無い程度の能力削除
ハハハ、こやつめ
13.10019削除
何を書いているんだアンタは。




思わず笑っちまったじゃねーか、このヤロー。おもしろかったぜwww
22.100名前が無い程度の能力削除
キレのよさが最高です!