Coolier - 新生・東方創想話

東方蓬茅話 夢

2014/12/23 01:03:14
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誰でも夢を見る。不思議なほどに見る。
誰のためでもなく、かといって自分のためでもなく。
果たして、一体誰のために見るのかは解することはできない。
ただただ、夢を見る。残酷なほどに見る。
それは、生きとし生けるものの特権でもある。
人妖獣関係なく夢を見る。
許されたのだ、夢を見ることを。
与えられたのだ、夢を見ることを。
宿命でもあるのだ。
そんな夢を毎日見続ける。無邪気なほどに。

この幻想郷には「迷いの竹林」と呼ばれるものがある。
その名が冠する通り、とても複雑で、一度入ると再びそこから脱することができないのである。
よほどの幸運を持たぬ限りは難しい。
その竹林の奥地に和風屋敷の「永遠亭」は鎮座している。
この「永遠亭」には、兎や元月の民が住んでいる。
月の民、というのは、月の都に住んでいる者たちのことであるが、元がついているから、彼女らはそこから逐われた、
あるいは自らの意思で離れたということになる。
現在この屋敷は人間たちにとっては、診療所となっている節がある。
元月の民の一人の八意永琳がここに住んでいる。
彼女は博学才穎で、あらゆる薬を作り出すことができるのだ。
さらに現代の医療技術よりも何倍も進んだ技術を備えた器具等を保持しており、
里の人間からはそれなりの地位を保っている。
彼女は月の賢人であったのだ。彼女は優れているのだ。

そんな彼女も夢を見る。現実離れした夢もみる。
彼女自身現実離れしているのだが、彼女はそんな自分を現実で当たり前だと思っているので、
この場合の現実離れは彼女視点である。
もちろん、現実的な夢も見る。
この前の夢がそうだ。

その夢は中途半端に覚えている。
屋敷に住む妖怪兎の因幡てゐが、元月の民の鈴仙・優曇華院・イナバ(通称ウドンゲ、永琳が名付けた)と喧嘩をしている夢である。

「そのいちご残しているなら貰うね」

てゐがウドンゲが、ケーキから取り出しておいたいちごを取って食べたのだ。

「ちょっ、てゐ!最後に食べようとおもっていたのにー!」
「いつも私の姿をみることで幸福になっている身なのだから、少しくらいは感謝してよね。これはそのほんの気持ちということで」
「幸福になるのは人間だけでしょ!!それに、その台詞は私が言うものだ!」
「えー、ウドンゲの目は狂っているから幸福にならないのよ」
「なにそれ!」

そこまでいったところで永琳は仲裁した。
ぷすーっと膨れるウドンゲに自分のいちごを渡した。
どうでもよい夢であるのに中々忘れられなかった。
それは、現在の私がいる時間に似ているからだったからだ。

時として、妙に懐かしい夢も見る。
過去の夢だ。
その夢は鮮明に覚えている。
月には「穢れ」という概念があった。
何をもって「穢れ」というのか。
ある者は生死のことだと言った。
しかし、仮にそうだとしたら月の民は全員「穢れている」ことになる。
ある者は蓬莱の薬、つまり不死の薬を服用することだと言った。
何故なのかはよくわからない。一説には、不死とは地上の民が望むものであって、月の民が望むものではないから、ということだそうだ。
だから、蓬莱の薬を服用することは禁じられている。
「穢れ」について、正しい説明はだれにもできなかった。例え賢人であっても、永琳であっても。
永琳はその答えを知りたかった。「穢れ」とは何か。
天才の自分にも理解できないものがあった。それが悔しかった。堪らなく悔しかった。
「穢れ」の立証として考えうるのは二つ。
一つは、地上に降りることなのだが、これは、賢人永琳の矜持が許さなかった。
下等で下賤な地上の民が住まう地は選ばれし月の民、そしてその中でも就中優れた賢人である自分がいくなどできなかった。
従って、残った、蓬莱の薬を制作すれば良いという結論に至った。
しかし、この薬は自分自身の力だけでは作ることができなかった。
さしもの賢人永琳でもってしても、服用者の寿命を永遠にする薬は作れなかった。
そして、禁忌を破ることができなかった。
そんな時、ある人物から依頼を受けた。
曰く、蓬莱の薬を制作してほしい、とのことであった。
依頼者は月の都の姫、蓬莱山輝夜であった。
永琳は訊ねた。どうして制作してほしいのか。禁忌を破りたいのか。
輝夜は、にべもなく答えた。

「だって、気になるじゃない『穢れ』が」

永琳は何かが吹っ切れた気がした。そうして安堵した。
自分と同じ考えを持つ存在がいたから。これで大義名分を掴んだから。
輝夜は、永遠を操ることができた。この力を利用して蓬莱の薬は完成した。
これで、「穢れ」が何かを知ることができる。しかも、自分が禁忌を破らずに。
しかし、永琳の思惑、輝夜の願望は頓挫した。
この蓬莱の薬が盗まれ、服用されてしまったのだ。
服用者は嫦娥という者であった。月神で、輝夜と近しい存在であった。
嫦娥は罪を咎められ幽閉された。二度と出られないだろう。
ここに至って永琳は気づいた。「穢れ」は服用者にしか分からない、と。
永琳達月の民は、「穢れ」の結果こそ知るものの、それがどういった物なのかは知ることが出来なかった。
再び永琳は輝夜の助力で蓬莱の薬を制作した。
今度は、念のため二つ制作した。
完成した時、輝夜は永琳にこう言った。
「ありがとう。これで私は好奇心を殺せるわ。ずっとずっと、待ちわびていたことが叶うわ」
その時の輝夜の顔は今でも忘れられない。
そして輝夜は、薬を服用した。
結果、輝夜は流罪となり、地上に流された。
彼女は本当に良かったのだろうか。永琳は考えた。
今の地位を捨ててまで「穢れ」を知りたかった彼女に対して、感服した。
地上に堕とされることは月の民にとっては屈辱この上ないことである。
そしてこれもまた「穢れ」である。
輝夜は蓬莱の薬を服用して「穢れ」、その上に、地上に堕とされ「穢れた」のだ。
永琳は、輝夜と自分は好奇心を持っている点に関しては似ていると思っていた。
しかし、自分はその好奇心を抑え、禁忌を破ることを恐れ、遂に行動することが出来なかった。
輝夜の能力無くして蓬莱の薬は制作できないと知った時、内心安堵した。
だが、輝夜は自分に忠実に、好奇心を抑えることなく、禁忌を破った。
自分にできなかったことを、輝夜はできた。
ならば、賢人である自分ができないことはないはずだ。
蓬莱の薬はもう一つある。念のためというのは建前だったのだ。
輝夜の刑期が終わり、月に送還しようとした際に輝夜は、地上に残りたいと言った。

「ここは月よりも何倍も良い場所よ。私はね、ここでもっと色んなことを知りたいの」

彼女の好奇心は潰えていなかった。永琳は感服に感服を重ねた。
また、同時に負けたくはないとも思った。
永琳は他の従者を全員殺して、輝夜の傍につく道を選んだ。
そうして、蓬莱の薬を服用した。
その時ようやく理解した。
「穢れ」とは、好奇心といことだと。
地上の民が不死を願うのは、死を恐れることはあれど、やはり一番大きいのは、
生きたいという好奇心である。
月は文明が発達しすぎた。好奇心は持たなくなった、いや持てなくなったのかもしれない。
好奇心を「穢れ」とし、その「穢れ」は見下している地上の民の誰しもが持っているからだ。
月の民はしがらみに縛られている哀れな存在であると、この時ようやく気づいた。



鈴奈庵で小鈴はいつも通り妖魔本の解読に勤しんでいた。
連日連夜読み通していたので、眠気が襲い、コーヒーを本にこぼしてしまった。

「あーーーーーー!折角の妖魔本が汚れてしまったわ・・・・・・」

それを見た阿求はくすくすと微笑みながら言った。

「確かにそのページは汚れてしまったわね。でもほらページを繰っていくと、だんだんと汚れは少なくなって、ついにほら。
消えたわよ」
「うーん、言い得て妙ね、それは」

小鈴はがっくりした顔でタオルでシミを拭いていた。
一部、筆者の私説が入っております。そして、やっぱり個人的な趣味が入っています。
ラタ
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コメント



0.40簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、穢れが好奇心というのは面白いですね。
作者さん自身の説が堂々と示されていてよかったです。
3.80名前が無い程度の能力削除
好奇心で穢れるなら好奇心とは基本物騒なものなんだなあ
好奇心は思想を変えやすい新しい情報に触れやすいから確かに月の都にとっては悪かも
なら誰にとっても好奇心は物騒でしょうね 情報を新たに知ることはそれだけで思想や信仰が変わる新たな宗教が生まれる危険があるんでしょうし(ここでの宗教は思想と実力を持った集団という意味あいで)
人間は社会生物ですので新たな価値観の連中というのは月の都じゃなくても色々と恐ろしいワケです