それは何気ない日常に華を添えるだけの行為であって、きっと深く考えるだけ無駄なのだろう。
けど彼女が望むのなら有無を言わさず応えてあげたい、そう思える程度には私は彼女のことを想っている。
つまり、私と彼女――博麗霊夢と霧雨魔理沙は、疑う余地無く相思相愛なわけだ。
朝っぱらから時間に追われているわけでもないのに大急ぎで神社へやってきて、まだ誰にも見せていない一番の笑顔を私に向けてくれる。
そこあで急ぐぐらいならいっそうちに住んじゃえばいいのに、なんて冗談を言うと、顔を真赤にして真に受けちゃう可愛い生き物。
そんな彼女が愛おしい、ああ愛おしい。好きにならないわけがない。
しかもその表情を見せるのは私限定と来たもんだ、冗談が冗談じゃ無くなるのも時間の問題かもしれない。
こんなことを考えている間も私の顔は素の状態のままで、些細な心の変化でもすぐに顔に出てしまう魔理沙とは対称的だ。
どうやら私は相手に対する好意が表に出にくいらしいのだが、じゃあその評定通り何も感じていないのかと言われればそんなわけがなく、実を言うと魔理沙にべた惚れしている。いわゆる骨抜きの状態なのである。
魔理沙はそんな無表情な私に大して若干の不安を抱いているらしく、果たして本当に自分のことを好いてくれているのか、無理して付き合ってくれているんじゃないか、などとふざけたことを考えることがあるらしい。
そういう時は、耳元で愛していると呟いてやるといい、不安なんて吹き飛んでリンゴのように顔を真っ赤にしてえへへと笑ってくれるから。
私も恥ずかしいけれど、魔理沙の笑顔を見れるのなら安いものだ。
要するに、この行為も、面倒さの対価としては大きすぎるほどのリターンが得られる行為なわけだ。
人里の八百屋で不定期に行われる安売りに偶然出くわした時よりもお得と言えば、得るものの大きさが伝わるだろうか。
だったらやらない手はない。
だから私は求められるがままに手を伸ばす、拒むこと無く唇を寄せる。
至近距離で見る魔理沙はやっぱり可愛くて、距離に反比例して魅力はさらに増加する。
震える長いまつげや少し突き出された唇、小さなお鼻、一つ一つのパーツが疑問を持つ余地も無く可愛い。
真っ赤に染まった耳でさえも可愛いと思えてしまう。
彼女にその自覚は無いらしいが、私はすっかり魔理沙に魔法をかけられてしまっているのだ。
触れる唇は、今日も暖かく、柔らかい。
魔理沙と付き合い始めてから三ヶ月、その間に数えきれないほどのキスを繰り返してきたが、未だにその感触に慣れることも無ければ飽きることもない。
キスのきっかけは、いつも魔理沙から。
いつもこうして縁側で並んで座っていると、次第に魔理沙がそわそわしだす。
それからしばらくして、じわじわと距離を詰めてくる。
もちろんその時点で私は気付いているのだけれど、あえて気づかないふりをしてあげる。これはあくまで優しさである、決して悪戯心などではない。たぶん。
そして肩が触れ合うほどに近づいた時に、顔を伏せて体をもじもじさせながら、恥ずかしげにキスのおねだりをしてくるのだ。
その可愛さたるや、世界中の小動物と美少女を寄せ集めても敵わないほどである。
決して大げさなどではない、少なくとも私にとってはそれほどの価値があるのだから。
でも、もし魔理沙が一日キスのおねだりをしてこなかったとしたら、私はきっと我慢できないだろう。
我慢できなくなった私が何をするのかは実際そうなってみないとわからない、だけどきっと魔理沙と同じように顔を真っ赤にしてキスのおねだりをするのだと思う。
さすがの私でも、キスを求めるときにポーカーフェイスではいられないだろうから。
その時の魔理沙は、私がそうであるように、途方も無い愛おしさを感じてくれるのだろうか。
……きっとそうだと思う。そうだったら、嬉しい。
一度目はただ触れ合わせるだけで、しっかり十秒ほど互いの唇の柔らかさを確かめてから、ゆっくりと顔を離す。
思わず唇が綻ぶ、魔理沙もすっかり蕩けた表情で、にへらと笑う。
しかし実を言えば私はちょっとだけ物足りなさを感じていて、今の魔理沙は十分満足している様子だから、気持ちのすれ違いを感じて少しだけ切なくなってしまう。
彼女は良い意味でも悪い意味でもまだまだ子供で、私も決して大人と言い切れるわけではないけれど、それでも恋愛に関しては私の方が一歩先に進んでいると思う。
キスだけじゃ足りないと伝えることは出来ないけれど、一歩先のキスぐらいは許して欲しい。
体が熱い、きっと魔理沙も同じはずだ。
その熱さを余韻と取るか、それとも燻る火と取るか、それが私たちの違いだ。
一方的な押し付けかもしれない、でもいつまでも子供のままでいられたって困る、私は魔理沙のことをもっと愛したいんだから。
再び顔をぐいっと近づける、魔理沙は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに目を閉じて受け入れる体勢を取る。
口を少し開き、合わせる。
合わせた瞬間、魔理沙の喉からくぐもった声が漏れた。おそらく自覚はないだろうが、やけに色っぽい。
いつものキスなら、しばらく口づけて離して終わりだ。
魔理沙もそのつもりでいるようで、自分から動く様子は全くない。
そこで私は唇で魔理沙の唇を何度か食み、相手の反応を見ることにした。
最初の数度は唇同士がこすれるだけで、要領を掴むと上手く上唇を挟むことが出来た。
触れるだけの時の感触とはまた違う、唇の弾力を楽しむ。
魔理沙に変化は殆ど無い、どうやらいつものキスの延長線だと感じているらしい。
そこで私は次の段階へと移ることにした。
一センチにも満たないほど小さく開かれた唇の隙間から、チロリと舌の先端を突き出す。
唾液を絡めたその舌で、食んでいた魔理沙の唇を軽く舐めた。
再びくぐもった声が漏れる、同時に魔理沙の体がもぞりと動く。
だが未だに拒む様子はない。
それを二度、三度と間を明けて何度か繰り返すが、その度魔理沙は声を出し、体を動かすだけだ。
反抗する様子のない魔理沙に気を良くした私は、さらに大胆な行動に出ることにした。
魔理沙の上唇と下唇の間に舌先を差し込み、舐めとるようにして横にスライドさせる。
舌の先端は唇の裏まで入り込み、魔理沙の口内のぬらりとした感触をはっきりと感じる。
初めての粘膜同士の触れ合いに、ぞくりとした甘い快感が走った。
が、さすがにこれには魔理沙も驚いてしまったらしく、私の両肩に手を置いて慌てて距離を取った。
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、ふるふると首を振る魔理沙。
個人的にはボーダーラインはもう少し先にあると思っていたのだけれど、どうやら見通しが甘かったようだ。
魔理沙は私が思っている以上に初心で乙女らしい。
慣れない感触に戸惑っているのか、魔理沙は両頬に手を当てて何やら考え込んでいる。
拒まれたのは残念だけど、そんな仕草もまた可愛い。
だがこの調子では、さらに先に進むのにどれほどの時間と労力を要することやら。
最初に告白してきたのは魔理沙のくせに、愚痴の一つでも言いたくなるものである。
さっきも言った通り、魔理沙が私に告白したのは今から三ヶ月前のこと。
ちょうど睦月の半ば頃だったろうか、日付ははっきりとはしないが、やけに太陽が元気で嫌になるほど暑い晴れの日だったことは覚えている。
その日だって今日と同じように、私と魔理沙は縁側でくつろぎなら、どうでもいい下らないことを話していた。
思えば、恋人になった今でも話す内容は大して変わっていない、変化と言えばキスをするようになったことぐらいだろうか。
気持ちの上ではずいぶんと変わったように思えるのだけど、表面上は何も変わっていないというのもおかしなものだ。
何であのタイミングで告白されたのかいまいちきっかけはわからない。
確か二人で水を張った桶に足を突っ込んでいて、いつもより距離は近かったかもしれない。
それがきっかけだったのか、それは魔理沙本人にしかわからないことだ。
でも私だって魔理沙に気が無かったわけではないから、いつもより薄着の魔理沙がそばに居て、内心ではドキドキしていたはずだ。
だから告白されてもあっさりと受け入れたわけだし。
ドラマティックな展開も、ロマンティックなシチュエーションも無く、告白は日常の中で淡々と行われた。
足を水に浸したまま、並んで寝転ぶ私たち。
お互いに顔は見えない。
私の顔はだらしなく緩んでいただろうけど、魔理沙の顔は緊張のあまりガチガチに固まっていたに違いない。
何せ、一世一代の告白をしようというのだから。
その時の顔が見られなかったのが実に残念だ。
告白は突然で、心の準備をしていなかった私はかなり驚いた。
これもまたポーカーフェイスな私にしては珍しい表情だったのに、恥ずかしさでこっちを見ようとしなかった魔理沙はその貴重な瞬間を見逃してしまっていた。
つくづく間の悪い二人である、せっかくの告白シーンだってのに何してるんだか。
それから魔理沙の告白を飲み込むのに数十秒ほどかかって、ようやく意味を理解した私の心の中は歓喜に包まれていた。
あんまり表には出てなかったみたいだけど、拳を天に突き上げて跳ねまわる程度には嬉しかった。
もちろんすぐにイエスの返事をした。
けれど魔理沙は返事をした私の方を見てはくれなかった、見せられない顔をしていると言って、耳まで真っ赤にしながら顔を見せるのを拒んだのだ。
もちろんそんな理屈が通るわけがない。
有無をいわさず私は魔理沙に馬乗りになった。
魔理沙は慌てて両手で顔を隠したが、その手にはあまり力が篭っていない、あっさりと私の手で引き剥がされてしまう。
友人から恋人にステップアップして初めて見た彼女の顔は、元々魔理沙の事が好きだった私の心を、さらに後戻りできないほど魔理沙一色に染めてしまうほどに魅力的で。
ああ、私は今日からこの子と一生一緒に生きてくんだな、なんて馬鹿げた妄想をしてしまうほどに虜にされてしまった。
しかし、魔理沙曰くこの時の私の顔は無表情に近くて、本当に自分のことを好きなのか、ひょっとしてからかっているだけじゃないか、と疑っていたらしい。失礼なやつだ。
だがそんな魔理沙の不安も、次の瞬間には消えてなくなっていた。
甘い甘いファーストキス。
馬乗りの体勢のまま、私と魔理沙は初めてのキスを交わしたから。
確かにドラマもロマンスも無かったかもしれない、でもそれも私たちらしさだ。
波瀾万丈なんて似合わない、日常の中で何気なく好きになって、何気なく告白するのが私たち。
だから、あの告白に不満は何もない。
百点満点とは言えないけれど、八十点はあげられる出来だ。
で、それから三ヶ月経ったわけだけど。
実際のところ、世の中の恋人たちがどれだけの速度で関係を進めているのかはよく知らない。
私が知っているのは噂や又聞き程度の信憑性に掛ける話であって、本当に真実なのかは定かではない。
だが一般的な恋人たちが本当に一ヶ月前後で関係を持つに至っているのだとしたら、私たちの進み方は遅すぎやしないだろうか。
早苗の話によると、早い人だと出会ったその日に肉体関係を持つ場合もあるらしい。
さすがにそれは無いと思う。
でも私たちが出会ってからすでに数年の月日が経過しているわけで、確かに恋人にはなったけれど、今の関係はまだ友人の延長線上にある物な気がしてならない。
もう後戻りする気なんてないんだっていう、証が欲しい。
本当ならキスどころじゃなくてその先に今すぐにだって進んでしまいたいぐらいだけど、やっぱりそういうのは相手の意思を尊重するべきだ。恋愛初心者の私にだってそれぐらいはわかる。
けど、やるときはやらないと、このままなあなあの関係のままでいいはずがない。
私が”そういう行為”を望んでいることは、今日ので魔理沙にだって伝わったはずだ。
だから魔理沙は唇を離して数分経った今でもこうして両頬に手を当てたまま、困った表情をしているのだろうし。
頬に手を当て、顔を耳まで赤く染め、ぽーっとした表情でじっと下を見つめ何かを考えこむ魔理沙。
それを見つめる私。
吸い込まれるようだ、私は視線を魔理沙から離せない。
だけど……やっぱ魔理沙って可愛いよね、うん。
普段の明るい魔理沙もいいんだけど、今みたいに困ってまゆをへの字に曲げてる魔理沙もまた違った魅力がある。
いや、普段が明るいからこそ、なのかもしれない。
ギャップは武器だって早苗がいつぞや力説してたけど、それってこういうことだったのか。
あの時は冷めた目で早苗のことを見てしまったが、今度あった時には謝っておかなければならない。
普段見れない顔の破壊力と言う物を身をもって体感してしまったから。
これはまずい、シリアスな思考回路なんて一瞬で吹き飛んでしまう。
別に普段が魅力的じゃないと言ってるわけじゃない、普段の魔理沙だって私が正気を失っちゃう程度には可愛いとは思うのだけれど、今の魔理沙は、何ていうか、何もかも投げ出して魔理沙の事だけ考えることを強要されるほどに強烈な可愛さと言うか。
体の事とか、関係の事とか、色々悩みはあるけれど――この世の全ては、結局のところ愛には敵わないわけで。
愛に敵味方の区別なんてない、消えてなくなるのは相手への想い以外の一切合財だ。
好きだからこそ悩んでたのに、好きだからこそ全部どうでもよくなっちゃうなんて、ほんと御し難くて困った感情である。
ようやく話す言葉が見つかったのか、魔理沙は両頬に当てていた手を降ろし、私の方を真っ直ぐ見据えた。
真面目な顔で私を見つめる魔理沙も可愛い。ちゅーしたい。
魔理沙はまさか私がそんなふしだらな事を考えているなどと知る由もなく、変わらずシリアスな表情のままで、もうちょっとだけ時間が欲しい、と私に告げた。
もうちょっとがどれほどの長さなのか具体的に示されることはなかったが、私は”わかった”と返事をするしかない。
そもそも、かっていたはずなのに半ば強引に迫ってしまったことの非は明らかに私にある。
本人からおあずけ宣言されてしまって多少は残念さを感じないわけではないが、一番尊重すべきは魔理沙の気持ち、それを無視して進めるなんて恋人失格だ。
二人がやりたいように、二人がやりたいことだけをしよう、別に今だって満たされていないわけではないのだから。
多少の不満も魔理沙の可愛さの前では無力なのである。
というわけで、私は再び魔理沙と距離を詰める。
先ほどのキスで体が火照ってしまったのか、魔理沙のこめかみにはじわりと汗が浮かんでいる。張り付く髪がやけにセクシーだ。
またキスをされると思い込んだのか、慌てて目を閉じる魔理沙。だが私はそんなワンパターンの攻めを繰り返すほど単純ではない。
こつんと額を額を触れ合わせ、魔理沙の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれた魔理沙はまぶたを開き、きょとんとした表情で私の方を見つめている。
私が甘ったるい声でもう一度名前を呼ぶと、ようやく魔理沙も返事をしてくれた。
霊夢、といつものように私の名前を呼ぶ。
返事をしてくれたのは嬉しいけれど、そうじゃない。私が恥を忍んで甘えているのだから、魔理沙も意図を察してそうするべきだ。
再び魔理沙、と砂糖菓子のような蕩けた声で囁く。
霊夢、と少しだけ甘えた返事が返ってくる。
そう、その調子。出来ればもっともっと甘えて欲しい、ただ名前を呼ぶと言う些細な行為だからこそ、ありったけの気持ちを込めて欲しい。
魔理沙、と三度呼びかける。
霊夢、と心の全てをさらけ出したかのような猫なで声が返ってくる。
それでいい、それが聞きたかった、脳みそが溶けてシロップになってしまうほどの甘い囁きが。
胸が張り裂けそうなほど思いが膨らんだ私は、こらえきれずに魔理沙にしなだれかかる。
急に体重をかけられて反応しきれなかった魔理沙は、そのまま後ろに倒れこんでしまった。
頭の後ろには私の手が回されている、床にぶつける心配はない。
抱き合ったまま寝転ぶ体勢になる。
もちろん私が上、魔理沙が下だ。
太陽に照らされてきらめく金色の髪が、はらりと床に広がる。
上から見下ろす魔理沙の姿は、いつもの可愛らしさとは違う――西洋人形のような美しさをも孕んでいた。
私が顔を近づけるまでもなく、背中に回された魔理沙の両腕によって私の体が引き寄せられる。
体と体がぴたりと密着する。
まるで全身でキスをしているような感覚。
魔理沙の私よりも高めの体温が、少女の柔らかさが体から直接伝わってくる。
足が絡み、胸の膨らみ同士が圧迫しあってふにゅりと歪む。
その感触にどきりとしていたのは、たぶん私だけなのだろう。
抱き合ったまま、鼻と鼻の先が触れ合う。
何がおかしいのか、私と魔理沙は軽く微笑み合って、またまたお互いに名前を呼び始めた。
頭は何も考えていない。
先の展開なんて何も考えていない。
ただ、想いが溢れて、どうしようもなくなって、そんな時に取れる手段の多くを未だ知らない私たちには、これぐらいしかできなかったから。
魔理沙、霊夢、と意識せずとも蕩ける声で互いに呼び合い、求め合い、魔理沙の声が私の頭に何度も反響して、催眠術にでもかかったように意識がふわふわと揺らぐ。
正気はとっくに失っている、これでさらに意識が蕩けてしまったら私はどこへ行ってしまうのだろう。
先の想像がつかないが、それを恐れる程度の思考能力はとうに失われている。
それに、魔理沙と一緒なら、きっとどこに行ったって怖くない。
何度も名前を読んだ。
名前だけじゃ我慢できなくなって、何度も愛の言葉を囁いた。
可愛い。きれい。好き。大好き。愛してる。愛してる。
私たちの想いを表しきるには残念なことに語彙が足りなかったけれど、幸いにも足りない分を補う方法を私たちは知っている。
キス、したらいい。
どちらが求めたわけでもなく、磁石のように私たちの唇が吸い寄せられる。
背中に回した手にきゅっと力を込めて、密着した体をさらに強く擦り合わせて、体ごと強く深くキスを交わす。
まだ触れ合わせるだけだけれど、その時の私たちの心は、舌を絡めるように深く結びついていたに違いない。
たっぷり数十秒口づけを交わしたあと、離すときもどちらともなく距離を取る。
魔理沙。
霊夢。
今はこうして名前を呼び合うだけで満足なのに、それ以上を求めようだなんて、どうやら私は我が儘が過ぎたようだ。
私たちが死ぬまで気が遠くなるほどの時間がある。
だったら急ぐ必要なんて無い、他人がどうかなんて関係ない、もどかしくなるほど歩みがゆっくりだって構わないじゃないか。
明日にも気持ちが変わるほど危うい恋人ならまだしも、私たちは終わりを想像することが出来ないほどに、強く深く狂おしく想い合っているのだから。
それから私たちは日が暮れるまで何度も何度もキスを交わして――”いつもと同じ一日”を過ごした。
きっと明日になれば、また朝一番に魔理沙がやってきて、一番の笑顔を見せてくれるのだろう。
そしてまた一日が終わり、今日と同じ明日がやってきて、また同じ明日がやってきて。
ああ、なんて素晴らしい日常なのだろう、想像しうる限りで最も幸せな毎日だ。
それが一生続くのなら、魔理沙以外にもう何も要らない、と。
割と冗談抜きで、私はそんな風に考えているのだった。
けど彼女が望むのなら有無を言わさず応えてあげたい、そう思える程度には私は彼女のことを想っている。
つまり、私と彼女――博麗霊夢と霧雨魔理沙は、疑う余地無く相思相愛なわけだ。
朝っぱらから時間に追われているわけでもないのに大急ぎで神社へやってきて、まだ誰にも見せていない一番の笑顔を私に向けてくれる。
そこあで急ぐぐらいならいっそうちに住んじゃえばいいのに、なんて冗談を言うと、顔を真赤にして真に受けちゃう可愛い生き物。
そんな彼女が愛おしい、ああ愛おしい。好きにならないわけがない。
しかもその表情を見せるのは私限定と来たもんだ、冗談が冗談じゃ無くなるのも時間の問題かもしれない。
こんなことを考えている間も私の顔は素の状態のままで、些細な心の変化でもすぐに顔に出てしまう魔理沙とは対称的だ。
どうやら私は相手に対する好意が表に出にくいらしいのだが、じゃあその評定通り何も感じていないのかと言われればそんなわけがなく、実を言うと魔理沙にべた惚れしている。いわゆる骨抜きの状態なのである。
魔理沙はそんな無表情な私に大して若干の不安を抱いているらしく、果たして本当に自分のことを好いてくれているのか、無理して付き合ってくれているんじゃないか、などとふざけたことを考えることがあるらしい。
そういう時は、耳元で愛していると呟いてやるといい、不安なんて吹き飛んでリンゴのように顔を真っ赤にしてえへへと笑ってくれるから。
私も恥ずかしいけれど、魔理沙の笑顔を見れるのなら安いものだ。
要するに、この行為も、面倒さの対価としては大きすぎるほどのリターンが得られる行為なわけだ。
人里の八百屋で不定期に行われる安売りに偶然出くわした時よりもお得と言えば、得るものの大きさが伝わるだろうか。
だったらやらない手はない。
だから私は求められるがままに手を伸ばす、拒むこと無く唇を寄せる。
至近距離で見る魔理沙はやっぱり可愛くて、距離に反比例して魅力はさらに増加する。
震える長いまつげや少し突き出された唇、小さなお鼻、一つ一つのパーツが疑問を持つ余地も無く可愛い。
真っ赤に染まった耳でさえも可愛いと思えてしまう。
彼女にその自覚は無いらしいが、私はすっかり魔理沙に魔法をかけられてしまっているのだ。
触れる唇は、今日も暖かく、柔らかい。
魔理沙と付き合い始めてから三ヶ月、その間に数えきれないほどのキスを繰り返してきたが、未だにその感触に慣れることも無ければ飽きることもない。
キスのきっかけは、いつも魔理沙から。
いつもこうして縁側で並んで座っていると、次第に魔理沙がそわそわしだす。
それからしばらくして、じわじわと距離を詰めてくる。
もちろんその時点で私は気付いているのだけれど、あえて気づかないふりをしてあげる。これはあくまで優しさである、決して悪戯心などではない。たぶん。
そして肩が触れ合うほどに近づいた時に、顔を伏せて体をもじもじさせながら、恥ずかしげにキスのおねだりをしてくるのだ。
その可愛さたるや、世界中の小動物と美少女を寄せ集めても敵わないほどである。
決して大げさなどではない、少なくとも私にとってはそれほどの価値があるのだから。
でも、もし魔理沙が一日キスのおねだりをしてこなかったとしたら、私はきっと我慢できないだろう。
我慢できなくなった私が何をするのかは実際そうなってみないとわからない、だけどきっと魔理沙と同じように顔を真っ赤にしてキスのおねだりをするのだと思う。
さすがの私でも、キスを求めるときにポーカーフェイスではいられないだろうから。
その時の魔理沙は、私がそうであるように、途方も無い愛おしさを感じてくれるのだろうか。
……きっとそうだと思う。そうだったら、嬉しい。
一度目はただ触れ合わせるだけで、しっかり十秒ほど互いの唇の柔らかさを確かめてから、ゆっくりと顔を離す。
思わず唇が綻ぶ、魔理沙もすっかり蕩けた表情で、にへらと笑う。
しかし実を言えば私はちょっとだけ物足りなさを感じていて、今の魔理沙は十分満足している様子だから、気持ちのすれ違いを感じて少しだけ切なくなってしまう。
彼女は良い意味でも悪い意味でもまだまだ子供で、私も決して大人と言い切れるわけではないけれど、それでも恋愛に関しては私の方が一歩先に進んでいると思う。
キスだけじゃ足りないと伝えることは出来ないけれど、一歩先のキスぐらいは許して欲しい。
体が熱い、きっと魔理沙も同じはずだ。
その熱さを余韻と取るか、それとも燻る火と取るか、それが私たちの違いだ。
一方的な押し付けかもしれない、でもいつまでも子供のままでいられたって困る、私は魔理沙のことをもっと愛したいんだから。
再び顔をぐいっと近づける、魔理沙は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに目を閉じて受け入れる体勢を取る。
口を少し開き、合わせる。
合わせた瞬間、魔理沙の喉からくぐもった声が漏れた。おそらく自覚はないだろうが、やけに色っぽい。
いつものキスなら、しばらく口づけて離して終わりだ。
魔理沙もそのつもりでいるようで、自分から動く様子は全くない。
そこで私は唇で魔理沙の唇を何度か食み、相手の反応を見ることにした。
最初の数度は唇同士がこすれるだけで、要領を掴むと上手く上唇を挟むことが出来た。
触れるだけの時の感触とはまた違う、唇の弾力を楽しむ。
魔理沙に変化は殆ど無い、どうやらいつものキスの延長線だと感じているらしい。
そこで私は次の段階へと移ることにした。
一センチにも満たないほど小さく開かれた唇の隙間から、チロリと舌の先端を突き出す。
唾液を絡めたその舌で、食んでいた魔理沙の唇を軽く舐めた。
再びくぐもった声が漏れる、同時に魔理沙の体がもぞりと動く。
だが未だに拒む様子はない。
それを二度、三度と間を明けて何度か繰り返すが、その度魔理沙は声を出し、体を動かすだけだ。
反抗する様子のない魔理沙に気を良くした私は、さらに大胆な行動に出ることにした。
魔理沙の上唇と下唇の間に舌先を差し込み、舐めとるようにして横にスライドさせる。
舌の先端は唇の裏まで入り込み、魔理沙の口内のぬらりとした感触をはっきりと感じる。
初めての粘膜同士の触れ合いに、ぞくりとした甘い快感が走った。
が、さすがにこれには魔理沙も驚いてしまったらしく、私の両肩に手を置いて慌てて距離を取った。
はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、ふるふると首を振る魔理沙。
個人的にはボーダーラインはもう少し先にあると思っていたのだけれど、どうやら見通しが甘かったようだ。
魔理沙は私が思っている以上に初心で乙女らしい。
慣れない感触に戸惑っているのか、魔理沙は両頬に手を当てて何やら考え込んでいる。
拒まれたのは残念だけど、そんな仕草もまた可愛い。
だがこの調子では、さらに先に進むのにどれほどの時間と労力を要することやら。
最初に告白してきたのは魔理沙のくせに、愚痴の一つでも言いたくなるものである。
さっきも言った通り、魔理沙が私に告白したのは今から三ヶ月前のこと。
ちょうど睦月の半ば頃だったろうか、日付ははっきりとはしないが、やけに太陽が元気で嫌になるほど暑い晴れの日だったことは覚えている。
その日だって今日と同じように、私と魔理沙は縁側でくつろぎなら、どうでもいい下らないことを話していた。
思えば、恋人になった今でも話す内容は大して変わっていない、変化と言えばキスをするようになったことぐらいだろうか。
気持ちの上ではずいぶんと変わったように思えるのだけど、表面上は何も変わっていないというのもおかしなものだ。
何であのタイミングで告白されたのかいまいちきっかけはわからない。
確か二人で水を張った桶に足を突っ込んでいて、いつもより距離は近かったかもしれない。
それがきっかけだったのか、それは魔理沙本人にしかわからないことだ。
でも私だって魔理沙に気が無かったわけではないから、いつもより薄着の魔理沙がそばに居て、内心ではドキドキしていたはずだ。
だから告白されてもあっさりと受け入れたわけだし。
ドラマティックな展開も、ロマンティックなシチュエーションも無く、告白は日常の中で淡々と行われた。
足を水に浸したまま、並んで寝転ぶ私たち。
お互いに顔は見えない。
私の顔はだらしなく緩んでいただろうけど、魔理沙の顔は緊張のあまりガチガチに固まっていたに違いない。
何せ、一世一代の告白をしようというのだから。
その時の顔が見られなかったのが実に残念だ。
告白は突然で、心の準備をしていなかった私はかなり驚いた。
これもまたポーカーフェイスな私にしては珍しい表情だったのに、恥ずかしさでこっちを見ようとしなかった魔理沙はその貴重な瞬間を見逃してしまっていた。
つくづく間の悪い二人である、せっかくの告白シーンだってのに何してるんだか。
それから魔理沙の告白を飲み込むのに数十秒ほどかかって、ようやく意味を理解した私の心の中は歓喜に包まれていた。
あんまり表には出てなかったみたいだけど、拳を天に突き上げて跳ねまわる程度には嬉しかった。
もちろんすぐにイエスの返事をした。
けれど魔理沙は返事をした私の方を見てはくれなかった、見せられない顔をしていると言って、耳まで真っ赤にしながら顔を見せるのを拒んだのだ。
もちろんそんな理屈が通るわけがない。
有無をいわさず私は魔理沙に馬乗りになった。
魔理沙は慌てて両手で顔を隠したが、その手にはあまり力が篭っていない、あっさりと私の手で引き剥がされてしまう。
友人から恋人にステップアップして初めて見た彼女の顔は、元々魔理沙の事が好きだった私の心を、さらに後戻りできないほど魔理沙一色に染めてしまうほどに魅力的で。
ああ、私は今日からこの子と一生一緒に生きてくんだな、なんて馬鹿げた妄想をしてしまうほどに虜にされてしまった。
しかし、魔理沙曰くこの時の私の顔は無表情に近くて、本当に自分のことを好きなのか、ひょっとしてからかっているだけじゃないか、と疑っていたらしい。失礼なやつだ。
だがそんな魔理沙の不安も、次の瞬間には消えてなくなっていた。
甘い甘いファーストキス。
馬乗りの体勢のまま、私と魔理沙は初めてのキスを交わしたから。
確かにドラマもロマンスも無かったかもしれない、でもそれも私たちらしさだ。
波瀾万丈なんて似合わない、日常の中で何気なく好きになって、何気なく告白するのが私たち。
だから、あの告白に不満は何もない。
百点満点とは言えないけれど、八十点はあげられる出来だ。
で、それから三ヶ月経ったわけだけど。
実際のところ、世の中の恋人たちがどれだけの速度で関係を進めているのかはよく知らない。
私が知っているのは噂や又聞き程度の信憑性に掛ける話であって、本当に真実なのかは定かではない。
だが一般的な恋人たちが本当に一ヶ月前後で関係を持つに至っているのだとしたら、私たちの進み方は遅すぎやしないだろうか。
早苗の話によると、早い人だと出会ったその日に肉体関係を持つ場合もあるらしい。
さすがにそれは無いと思う。
でも私たちが出会ってからすでに数年の月日が経過しているわけで、確かに恋人にはなったけれど、今の関係はまだ友人の延長線上にある物な気がしてならない。
もう後戻りする気なんてないんだっていう、証が欲しい。
本当ならキスどころじゃなくてその先に今すぐにだって進んでしまいたいぐらいだけど、やっぱりそういうのは相手の意思を尊重するべきだ。恋愛初心者の私にだってそれぐらいはわかる。
けど、やるときはやらないと、このままなあなあの関係のままでいいはずがない。
私が”そういう行為”を望んでいることは、今日ので魔理沙にだって伝わったはずだ。
だから魔理沙は唇を離して数分経った今でもこうして両頬に手を当てたまま、困った表情をしているのだろうし。
頬に手を当て、顔を耳まで赤く染め、ぽーっとした表情でじっと下を見つめ何かを考えこむ魔理沙。
それを見つめる私。
吸い込まれるようだ、私は視線を魔理沙から離せない。
だけど……やっぱ魔理沙って可愛いよね、うん。
普段の明るい魔理沙もいいんだけど、今みたいに困ってまゆをへの字に曲げてる魔理沙もまた違った魅力がある。
いや、普段が明るいからこそ、なのかもしれない。
ギャップは武器だって早苗がいつぞや力説してたけど、それってこういうことだったのか。
あの時は冷めた目で早苗のことを見てしまったが、今度あった時には謝っておかなければならない。
普段見れない顔の破壊力と言う物を身をもって体感してしまったから。
これはまずい、シリアスな思考回路なんて一瞬で吹き飛んでしまう。
別に普段が魅力的じゃないと言ってるわけじゃない、普段の魔理沙だって私が正気を失っちゃう程度には可愛いとは思うのだけれど、今の魔理沙は、何ていうか、何もかも投げ出して魔理沙の事だけ考えることを強要されるほどに強烈な可愛さと言うか。
体の事とか、関係の事とか、色々悩みはあるけれど――この世の全ては、結局のところ愛には敵わないわけで。
愛に敵味方の区別なんてない、消えてなくなるのは相手への想い以外の一切合財だ。
好きだからこそ悩んでたのに、好きだからこそ全部どうでもよくなっちゃうなんて、ほんと御し難くて困った感情である。
ようやく話す言葉が見つかったのか、魔理沙は両頬に当てていた手を降ろし、私の方を真っ直ぐ見据えた。
真面目な顔で私を見つめる魔理沙も可愛い。ちゅーしたい。
魔理沙はまさか私がそんなふしだらな事を考えているなどと知る由もなく、変わらずシリアスな表情のままで、もうちょっとだけ時間が欲しい、と私に告げた。
もうちょっとがどれほどの長さなのか具体的に示されることはなかったが、私は”わかった”と返事をするしかない。
そもそも、かっていたはずなのに半ば強引に迫ってしまったことの非は明らかに私にある。
本人からおあずけ宣言されてしまって多少は残念さを感じないわけではないが、一番尊重すべきは魔理沙の気持ち、それを無視して進めるなんて恋人失格だ。
二人がやりたいように、二人がやりたいことだけをしよう、別に今だって満たされていないわけではないのだから。
多少の不満も魔理沙の可愛さの前では無力なのである。
というわけで、私は再び魔理沙と距離を詰める。
先ほどのキスで体が火照ってしまったのか、魔理沙のこめかみにはじわりと汗が浮かんでいる。張り付く髪がやけにセクシーだ。
またキスをされると思い込んだのか、慌てて目を閉じる魔理沙。だが私はそんなワンパターンの攻めを繰り返すほど単純ではない。
こつんと額を額を触れ合わせ、魔理沙の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれた魔理沙はまぶたを開き、きょとんとした表情で私の方を見つめている。
私が甘ったるい声でもう一度名前を呼ぶと、ようやく魔理沙も返事をしてくれた。
霊夢、といつものように私の名前を呼ぶ。
返事をしてくれたのは嬉しいけれど、そうじゃない。私が恥を忍んで甘えているのだから、魔理沙も意図を察してそうするべきだ。
再び魔理沙、と砂糖菓子のような蕩けた声で囁く。
霊夢、と少しだけ甘えた返事が返ってくる。
そう、その調子。出来ればもっともっと甘えて欲しい、ただ名前を呼ぶと言う些細な行為だからこそ、ありったけの気持ちを込めて欲しい。
魔理沙、と三度呼びかける。
霊夢、と心の全てをさらけ出したかのような猫なで声が返ってくる。
それでいい、それが聞きたかった、脳みそが溶けてシロップになってしまうほどの甘い囁きが。
胸が張り裂けそうなほど思いが膨らんだ私は、こらえきれずに魔理沙にしなだれかかる。
急に体重をかけられて反応しきれなかった魔理沙は、そのまま後ろに倒れこんでしまった。
頭の後ろには私の手が回されている、床にぶつける心配はない。
抱き合ったまま寝転ぶ体勢になる。
もちろん私が上、魔理沙が下だ。
太陽に照らされてきらめく金色の髪が、はらりと床に広がる。
上から見下ろす魔理沙の姿は、いつもの可愛らしさとは違う――西洋人形のような美しさをも孕んでいた。
私が顔を近づけるまでもなく、背中に回された魔理沙の両腕によって私の体が引き寄せられる。
体と体がぴたりと密着する。
まるで全身でキスをしているような感覚。
魔理沙の私よりも高めの体温が、少女の柔らかさが体から直接伝わってくる。
足が絡み、胸の膨らみ同士が圧迫しあってふにゅりと歪む。
その感触にどきりとしていたのは、たぶん私だけなのだろう。
抱き合ったまま、鼻と鼻の先が触れ合う。
何がおかしいのか、私と魔理沙は軽く微笑み合って、またまたお互いに名前を呼び始めた。
頭は何も考えていない。
先の展開なんて何も考えていない。
ただ、想いが溢れて、どうしようもなくなって、そんな時に取れる手段の多くを未だ知らない私たちには、これぐらいしかできなかったから。
魔理沙、霊夢、と意識せずとも蕩ける声で互いに呼び合い、求め合い、魔理沙の声が私の頭に何度も反響して、催眠術にでもかかったように意識がふわふわと揺らぐ。
正気はとっくに失っている、これでさらに意識が蕩けてしまったら私はどこへ行ってしまうのだろう。
先の想像がつかないが、それを恐れる程度の思考能力はとうに失われている。
それに、魔理沙と一緒なら、きっとどこに行ったって怖くない。
何度も名前を読んだ。
名前だけじゃ我慢できなくなって、何度も愛の言葉を囁いた。
可愛い。きれい。好き。大好き。愛してる。愛してる。
私たちの想いを表しきるには残念なことに語彙が足りなかったけれど、幸いにも足りない分を補う方法を私たちは知っている。
キス、したらいい。
どちらが求めたわけでもなく、磁石のように私たちの唇が吸い寄せられる。
背中に回した手にきゅっと力を込めて、密着した体をさらに強く擦り合わせて、体ごと強く深くキスを交わす。
まだ触れ合わせるだけだけれど、その時の私たちの心は、舌を絡めるように深く結びついていたに違いない。
たっぷり数十秒口づけを交わしたあと、離すときもどちらともなく距離を取る。
魔理沙。
霊夢。
今はこうして名前を呼び合うだけで満足なのに、それ以上を求めようだなんて、どうやら私は我が儘が過ぎたようだ。
私たちが死ぬまで気が遠くなるほどの時間がある。
だったら急ぐ必要なんて無い、他人がどうかなんて関係ない、もどかしくなるほど歩みがゆっくりだって構わないじゃないか。
明日にも気持ちが変わるほど危うい恋人ならまだしも、私たちは終わりを想像することが出来ないほどに、強く深く狂おしく想い合っているのだから。
それから私たちは日が暮れるまで何度も何度もキスを交わして――”いつもと同じ一日”を過ごした。
きっと明日になれば、また朝一番に魔理沙がやってきて、一番の笑顔を見せてくれるのだろう。
そしてまた一日が終わり、今日と同じ明日がやってきて、また同じ明日がやってきて。
ああ、なんて素晴らしい日常なのだろう、想像しうる限りで最も幸せな毎日だ。
それが一生続くのなら、魔理沙以外にもう何も要らない、と。
割と冗談抜きで、私はそんな風に考えているのだった。
そして香霖堂に見られる内面乙女の魔理沙は素晴らしい
…まぁ近いうちに間違いなく手を出しそうではあるが
レイマリ万歳!
後書きで草
それでええんやで(ニッコリ)
夜の方も気長に待ってます
お互いがお互いに骨抜きになっている様がまた良いです
超甘ったるい!!
だがそれがイイ!!!