Coolier - 新生・東方創想話

早苗さんと、早苗さんの周りにいる人たち

2014/11/20 02:31:05
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 早苗さんの朝は、夜明けを告げる鐘の音と共に始まります。
 のそのそと布団からはい出て、洗面所に行って、服を着替えて……神社の雑務と、それから守矢神社の家事にとりかかるのですが、これが実に大仕事。
 この守矢神社には三柱の神さまが住んでいます。軍神の八坂神奈子さま。祟り神の洩矢諏訪子さま。そして風祝の東風谷早苗さんです。
 神さまとはいえ、そこに住み、毎日を暮らしていると何かしらの雑多な仕事が生まれるものです。
 炊事、洗濯、掃除などなど……。これらの家事は全て早苗さんが一人でこなしています。
 なにせ、早苗さんの同居人(同居神?)は大変位の高い方たちです。これに、まさか家の雑用をさせるわけにはいかないということでしょう。いや、以前彼女たちは別にやっても良いと早苗さんに言ったそうですが、早苗さんが「これも私の勤めです」と断ったそうです。
 早苗さんは毎日三食の準備と片付け、広い神社の掃除や洗濯など、山ほどの家事仕事に精を出しています。その甲斐あって今ではずいぶんと家事が得意になりました。
 午前中の家事を終えるまでに大体3時間ほどかかりますが、彼女の仕事はそれで終わりではありません。
 家事が終わった後は人里へ出かけ、あいさつ回りと分社の点検をしなければなりません。それも早苗さんにしかできない大切なお勤めです。
 里での仕事を終えて、早苗さんが神社へ帰ってくるころには、いつも太陽が頭の真上に来る時刻になっています。
 やるべきことを終えた早苗さんは神社の居間に戻ってきて、そのまま座り込み、上半身ごと机にドサッと倒れ込んでしまいました。
 それから「はぁ〜」っと大きな大きなため息を一つついて、
「完璧におかしいでしょう……私こんなに真面目に頑張っているのに」
 早苗さんは誰に言うでもなく独り言をつぶやきました。彼女にいつもの快活さはなく、その声はまるで、くしゃりと丸めた紙のようでした。
 腕を枕にして机にうつぶせた早苗さんの目は虚ろで、体からは徒労感が漂っています。
「あらら、そんなため息ばっかりついてると、幸せが逃げてしまいますよ」
 そんな早苗さんに、部屋の外から声がかかりました。早苗さんが面倒くさそうに目を向けると、天狗の射命丸文がニヤついた笑顔で、早苗さんにピカリと光る愛用の旧式カメラを向けていました。
「あれ、文さんいたんですか。私はてっきり今日はサボりだと思ってましたよ」
 早苗さんは突然でてきた射命丸の顔を見ても、眉一つピクリとも動かしません。朝から姿は見えなくても、どこか自分の傍にいるだろうと思っていたので、射命丸の突然の登場にも早苗さんには意外ではなく、ようやく姿を現したのかくらいの感想でした。
「この勤勉で真面目な射命丸が、お仕事をサボタージュするなんてありえないことです。ちゃんと空から、早苗さんの事は見てましたよ」
 射命丸は、早苗さんに断るでもなく、まるで自宅に帰ってきたかのように居間にあがりこみ、早苗さんに向かい合って座りました。
「まぁ、それはそれは、大変ありがとうございます。でも、文さんに取材して頂いてから、もう2週間も経ちますけど、まるで効果は感じられないんですけどね」
「『まだ』、2週間です。いくら私の新聞が人里でナンバーワンのシェアを誇っているといっても、そんなに早くは人の意識を変えることはできませんよ。なぁに、そのうち里の人間も早苗さんの事をちゃんと分かってくれますよ」
 射命丸は自信たっぷりにそう言いますが、早苗さんは机に突っ伏したまま、
「そんな上手くいきますかねぇ……」
 とボヤいて、もう一度ため息を一つついただけでした。
 確かに里での文々。新聞の購読数は少なくありませんが、それは射命丸が半ば無理に配っているからであって、新聞そのものにそこまで信用がないことを早苗さんは知っています。
 早苗さんは、一応お客サマである射命丸に飲み物でも出そうと立ち上がりました。
「文さん、どうぞ」
 早苗さんは、射命丸にコップとお菓子を差し出しました。
「あ、これはこれはどうも、お構いなく」
「水道水と柿ピーです」
 射命丸は絶句します。
「水道水のおかわりは自由ですよー。出血大サービスですね。二杯目からはセルフサービスでお願いします」
「ちょちょちょ、早苗さん。水道水なんて、これはいくらなんでもひどいじゃないですか。確か、冷蔵庫にオレンジジュースがあったはずですから、せめてそれをお願いしますよ」
 あんまりな待遇に、射命丸が慌てて嘆願しました。
「オレンジジュースなんてありましたっけ?」
「私がこの前もってきた奴ですよ。昨日はまだ封を開けてなかったから残ってるでしょう!?」
「もう、文句が多いですねぇ」
 ぶつくさ言いつつも早苗さんは再び立ち上がります。
 冷蔵庫を開けてみると、確かにオレンジジュースがありました。いつの間にと早苗さんは思いつつも、それを手に取って射命丸に給仕しました。
 それを飲み干して、ぷはーっと射命丸は渇いたノドを潤します。
「それにしても里の人間も見る目がありませんねぇ。早苗さんはこんなにも魅力的だというのに誰も気づかないなんて」
 射命丸が柿ピーを齧りながら早苗さんに語りかけました。
 ムシャムシャと呑気そうに落花生を食べている射命丸とは対照的に、早苗さんは陰鬱な面持ちで下の方を向いていました。
「文さんに好かれても仕方ないですよ。私はもっと人里の人気が欲しいんです。はぁ……ちょっと、文さん、こっち来て下さい」
 早苗さんが射命丸に不意に手招きをしました。怪訝そうにする射命丸に「いいから早く」と催促も加えます。

 柿ピーの小袋を全て食べ終えた射命丸が、なんだろうと思いながら早苗さんの傍に来ると、
「私、疲れてしまったので、文さんの膝を貸してもらえますか?」
「膝?」
「膝枕してほしいってことです」
「ひ、膝枕ですか」
 射命丸は不意をつかれすぎて、おうむ返しになってしまいました。
 早苗さんは、射命丸が正座をしていたのを都合よしとして、返事を待たず彼女のモモに頭を乗せて勝手に膝枕をしてしまいました。
 射命丸は少し驚きはしましたが、ことさらに拒否するでもなく、それを受け入れました。
「あの〜、なんで急に膝枕なんですか?」
 射命丸が不機嫌そうな早苗さんに恐る恐る、尋ねました。しかし早苗さんは、ほんの少しだけ眉をしかめただけで何も応えません。
 射命丸はその表情をもって返答とするほかなく、「もう」と呆れたように小声でつぶやきました。それから早苗さんの顔を眺めて、少しだけ真剣な顔を作りました。
 膝枕の理由は「疲れたから」と早苗さんは言いました。
 射命丸の目を通さずとも、確かに早苗さんは疲弊していました。しかも「酷く」という言葉が頭に付く程に……
 射命丸は早苗さんの髪がパサついていることに気がつきました。以前はもっと潤いがあって、春の若葉のように瑞々しかったのに、今では枝毛や跳ねっ返りが目立っています。よく見ると、肌にも同様に疲れが現れていました。
 もしかして、夜も余り眠れていないのでしょうかと、射命丸は心配になりました。そして悲しくなりました。
 射命丸は、そんな早苗さんの髪を撫でてあげようかと手を動かしましたが、直前で手を止めて、それから空に泳がせました。自分がそんなことをしても、早苗さんにとって何の慰めにもならない。それを彼女は知っていました。その代わりに射命丸は、両手で早苗さんの頬をペタンと触れるように叩きました。
「……なにしてるんですか?」
 早苗さんは目を閉じたまま、更に不機嫌そうになりました。声色にうっとおしさが混じっています。
「いえね、早苗さんがあんまりにも無防備だから、ちょっとイタズラをしてみようかと思いまして」
 早苗さんの前では出来るだけ明るくしていよう。一緒に暗くなっても何もいいことはないんだから。そう考えた射命丸は、努めて明るく言いました。
「なんだ、私はてっきり文さんに襲われるのかと思ってしまいました。ああ、文さんも一皮むけば所詮は妖怪なんですね。私は悲しくなってしまいますよ」
 早苗さんがまるで本気の感情のこもってない声で、小生意気なことを言います。
 しかし、早苗さんの言葉にはまだ元気が残っているのは、射命丸にとっても救いでした。
「可愛げがありませんねぇ。そんな油断してると、本気で襲っちゃいますよ」
「そんな度胸、文さんにはなさそうですけどね。まぁ、いいですよ。文さんの好きなようにどうぞ、襲っちゃってくださいな。今なら隙だらけですよ」
 早苗さんが手足を開いて「襲ってください」のポーズをとりました。人肉を好物とする妖怪ならヨダレが出ること請け合いでしたが、あいにく射命丸の食指はまるで動きません。
「そんなことしませんよ。私が貴女にそんなことするはずないでしょ」
 射命丸があまりの警戒のなさに呆れて、早苗さんの頬から手を離そうとした瞬間、早苗さんの手が伸びてそれを差し止めて、また掌を頬に戻しました。
 射命丸が何か言おうとする前に「文さんの掌、あったかいですから」と、早苗さんが呟きました。
 その言葉に射命丸は少なからずの驚きを覚えました。それから微笑んで、早苗さんを小さく抱くように、てのひらを早苗さんの頬から首に移しました。
 自分が思っているより暖かいらしい手を、少しでも早苗さんに触れられるように。
「ねぇ、文さん」
 また、早苗さんが口を開きました。
「なんですか」
 射命丸が、それにゆっくりと応えます。
「文さんの膝枕も、このてのひらも大変よいのですが。私はもう少し、温もりが欲しいんです」
「温もり、ですか?」
「添い寝してくれませんか?」
 添い寝。2人で寄り添い合って、時には、抱き合って眠る行為です。普通は愛し合う男女でやるか、そうでなくとも信頼し合った者同士でやるものです。
 脈絡のない唐突な早苗さんの提案に、今度も射命丸は目を丸くして驚いてしまいます。
「そ、添い寝ですか。それは流石の私も恥ずかしいというか」
「いいじゃないですか、2人きりで誰も見てないですし」
 大胆なことを言いながらも、早苗さんの顔は紅潮するでもなく、あくまで素面のままです。せめて早苗さんがどういう意図を持って言っているのかが分かれば、まだ射命丸も冷静にものを考えられるのですが、けだるげそうにするだけで特に照れた様子すらない早苗さんの顔からは何も窺いとることが出来ません。
「いえ、2人きりだからこそ恥ずかしいんですが……」
「女同士で恥ずかしがる必要はありませんよ」
「それは、まぁ、そうなんですけど。ほら、八坂さま達が帰ってきたら要らぬ誤解を与えてしまうかもしれませんし」
「神奈子さま達は夕方まで帰ってきませんよ。さ、早く」
「え、遠慮させていただきます」
 断りの言葉を聞いた早苗さんは上半身を起こして、射命丸に向き合い彼女の目をじっと見つめました。
「な、なんですか?」 
 射命丸が早苗さんの視線にたじろいで、ひるんだ瞬間、
「えっ、あっ、ちょ、ちょっと!」
 早苗さんは体ごと、射命丸に向かって押し倒すように倒れ込んできました。
 射命丸は早苗さんの体重を支えきれず、ドサッと2人重なりあって倒れ込んでしまいます。
 早苗さんは射命丸の柔らかい体がクッションになるので、お布団に寝転んだようなものでしたが、射命丸の方は早苗さんが急に倒れてきたものだから早苗さんを抱きかかえたまま尻餅をついてしまいました。
「ちょ、早苗さん、ぐるしいです。早くどいてください!」
 射命丸が早苗さんに下敷きになったまま懇願しますが、早苗さんは脱力したまま、まるで動こうとしません。
「も、もう。い、いいかげんにしてください!」
 射命丸は手を震わせて、早苗さんの頭にゴチーンと拳を落としました。
 早苗さんの口から「ぎゃっ」という悲鳴が漏れました。
「ま、全く、貴女は誰にでもこんなことするんですか? ほんと、信じられませんよ!」
 射命丸は顔を赤らめて、早苗さんを前にぐいと押し戻します。
「あいたたた……別に、誰にでもって訳じゃないですよ……っていうか本当に痛いですよぉ、文さん。ちょっと強く叩きすぎです……」
 早苗さんは射命丸にぶたれた箇所をさすっていました。射命丸のゲンコツは意外と力が入っていたのか、早苗さんの頭には大きなタンコブができていました。
「とにかくですね。いつまでも落ち込んでいないでくださいよ。早苗さんが落ち込んでたら周りだって心配するじゃないですか」
 早苗さんに押し戻して再び一人で座らせることに成功した射命丸は、やっと一息つくことが出来ました。乱れた服装を整えながら、早苗さんへ慮りの言葉をかけます。
「大丈夫ですよ。外ではちゃんと元気に見せかけてますから。こんな恥ずかしい悩み、人に知られたくないですし。本当は神奈子さまたちにも心配をおかけするので言いたくなかったくらいなんですから」
 『見せかけている』という言葉に、射命丸は痛ましさを覚えます。本来ならば自分の感情を隠すなんて、一番苦手にしているはずなのに。
 しかし、そんな考えをまるで見せず射命丸は笑いながら、
「私の目には全く元気には見えないんですが」
「文さん相手に取り繕っても仕方ないですしね」
「なんですか、それ」
「大体、なんで文さんはここにいるんですか?」
「な、なんだって、そりゃ早苗さんの記事を書くためですよ! 早苗さんから頼んできたんじゃないですか」
「そうでしたっけ?」
 早苗さんは、本気で不思議そうに首をかしげました。
早苗さんから見て、射命丸は不思議な存在です。射命丸とは、早苗さんが幻想郷に来た時に知り合った仲で、以来、よく神社にやってくるようになりました。
 早苗さんは射命丸が初対面からあんまり図々しいものだから邪険に扱っていましたが、射命丸は懲りることなく神社にやって来るので、何となく黙認的に神社に入り浸るようになっていました。
 それから随分と時が経った今でも、早苗さんは射命丸のことはかなりぞんざいに扱っていたので、なぜ射命丸が自分に毎日会いに来るのかはよく分かりません。
 しかし、そのうち飽きたら来なくなるでしょう、と早苗さんはそう思うくらいに射命丸には遠慮がないので、逆に気の置けない仲ではありました。
「まぁ、そんな事はどうでもいいですから、こんな所で油売ってないで、早く今日の記事を里に配ってきて下さいよ」
「ひどくないですか!? せっかく私が早苗さんの為に時間を割いてあげてるのにぃ」
「ひどくありません。さ、早く」
 早苗さんが追っ払うようにピッピと手を振りました。
「もう、分かりましたよ……」
 射命丸は仕方なく、立ち上がって、障子のほうに歩を向けました。
 そして戸を開いてから、また振り返って
「早苗さん」
 と重々しい口調で呼びかけました。
「なんですか?」
「貴女が本当に……その貴女の態度や言葉以上に苦しんでいるのは、私にも分かります」
 早苗さんは、射命丸の思い詰めたような言葉に黙って耳を傾けていました。
「私も微力ながら協力しますから。だから、ね。元気出して下さい。ここに寄ったのは、それだけ言いたかっただけです。それでは、また明日」
 そういうと射命丸は、背中からツバサを出して、空へと飛び立ちました。
 早苗さんは、射命丸の後ろ姿に視線を移すでもなく、ボソっと、
「じゃあ普段から新聞の信用作っといて下さいよ、文さん……」
 と呟きました。

     ☆           ☆          ☆

 早苗さんは今、悩みを抱えていました。
 しかも、とても大きくて、辛い悩みです。
 普段から外では明るく元気に振る舞っている早苗さんです。山に住む者でも、彼女が悩みをもっている事に気付いた人はそんなにいませんでした。そして、その悩みの内容となると彼女の親代わりの二柱を除けば極わずかな者が知るだけです。
 それでは彼女の抱えるその”悩み”とは一体なんでしょうか?
 早苗さんも現人神とはいえ、まだまだうら若き少女。となれば悩みの内容も様々です。
 例えば色恋沙汰。
 それならば話は簡単だったのかもしれません。
 見目は文句無しに上の位に位置する早苗さんです。中身も、まぁ……ギリギリ及第点がもらえるくらいは(たぶん)まともです。なにより男性は女性の中身よりも顔貌に重きを置く傾向があります。彼女が誰かに片思いでもしているだけなら解決は本人だけでも十分にかなうでしょうし、万が一失敗してもそれもまた彼女の青春の1ページになるだけです。
 彼女くらいの年齢の悩みで色恋でないと言えば、もう答えは一つしかありません。
「なんで私はこんなに頑張っているのに……みんな認めてくれないのよ?」
 早苗さんの悩みとは、”人間関係”についてでした。
 早苗さんは「自分がまだ幻想郷に馴染めていない」と考えていました。
 馴染めていない、とは言っても早苗さんに友人がいないという訳ではありません。早苗さんの巫女友の博麗霊夢やら、馴れ馴れしいくらいに人当たりの良い霧雨魔理沙をはじめとして、白玉楼の魂魄妖夢、紅魔館の十六夜咲夜、等々の友人。それに加えて山には、先の射命丸文を含む沢山の妖怪や神さまの知り合いを早苗さんは持っています。    
 では、なぜ早苗さんは「馴染めていない」と感じているのかと言いますと、結局のところ今の早苗さんが友達といえる者は、全て異変を通じて知り合った人たちでして、何もない日常での知り合い、特に人里での人間の良い関係というのが早苗さんには乏しいのです。
 もっと言えば平凡な幻想郷の人間衆からしたら、早苗さんは”浮いた存在”となっているのです。
 なので、より正確な事実に基づいて早苗さんの悩みを言葉にするならば「早苗さんは人里の人間に馴染めていない」
 いえ、この際はっきり言ってしまいましょう。

 早苗さんは里の人間から”嫌われて”いるのです。

 これが若い少女によくありがちな自意識過剰ならば良かったのですが、残念ながら早苗さんのこの悪評は事実でした。
 ある人里の住民曰く「まるで気狂いのように妖怪退治をしていて怖い」
 また、ある人曰く「何をしでかすか分からないから近寄りたくない」
 人によっては「現人神などと騙る不届きもの。妖怪変化の仲間なのでは?」などと言う不遜な者までいるのです。
 もちろん早苗さんに近しい人からすればこれらの風評が全く事実無根……とまでは言えませんが、明らかに実際の印象と異なっているものと気付きます。何の先入観もなしに彼女と話したなら、それらの噂がすぐにウソであったと知るはずです。
 しかしながら、人の風聞というものは怖いもので、いつの間にやら人里では噂によって生まれた虚像が実像を上回ってしまっていました。
 けれども、火のない所に煙は立たずと昔の人は言ったもので、こういう噂が生まれるまでの幾つかの事実、事件というのも確かにあります。
 そもそも守矢神社は幻想郷に来て以来、多くの異変の原因や遠因になっており、その事は人里にも伝わっています。平穏を好む人里の人たちにとっては余り良い気持ちにはならなかったでしょう。
 それに加えて早苗さんは、いざ異変! となるとネジが一本外れるというか、性格が変わったように妖怪退治に励みます。その意味では世間の評判も全くのウソとは言えなくなるのです。
 更に、幻想郷に来た当初の優等生ぶった振る舞いと、幻想郷の間違った常識を覚えてしまった最近のハチャメチャな早苗さんの間のギャップもあったり、妖怪との付き合いはもちろん、先に言ったような妖夢さんやら咲夜さんやら魔理沙さんやらの、言うなれば、人里からのアウトロー達との交友関係も正直に言って早苗さんの評判には良い影響を与えません。

 そして何より早苗さんにとって悔しいのが、この悩みを誰にも理解されないことでした。
 早苗さんは「自分が嫌われている」という、この残念な事実に気付いた時、守矢神社の二柱にそのことを相談してみたことがあったそうです。
 自分のことを親の次くらいに知る彼女たちならきっと妙案を出してくれるだろう、と早苗さんは考えた訳です。
 しかし帰ってきた言葉は彼女が望むものではありませんでした。
『早苗も神なのだから余り軽軽しく人間と付き合う必要はないだろう』
『向こうから求めてくるなら兎も角、こちらから頭を下げてまで付き合う必要はない』
 考えてみれば極当たり前のことで、確かに早苗さんも含めた三柱は信仰を糧に存在を保つ神と呼ばれる存在ですが、その信仰というものも色々ありまして、守矢神社の軍神と祟り神にとって信仰とは「畏れ」、「不安」、「鬼胎」なのですから、信仰を得るために人間との馴れ合い染みた付き合いなどは必要でなく、むしろ不要なものなのです。
 彼女たちにとって”信仰”と”信頼”は似ているようでまるで違うものなのです。
 だけれども早苗さんは神でありながら同時に人間、しかもまだ幼いと言ってよいほどの少女でもあります。
 早苗さんにとっての”信仰”とは”親交”を指しました。
 早苗さんは”畏れ”ではなく”親愛”が欲しいのです。もっと多くの人間から、承認が欲しいのです。
 人外であれば人里での風評が悪いからといっても蛙の面に水ですが、人間の早苗さんにはそうではありません。人が人から嫌われるのいうのは一方(ひとかた)ならぬほど辛いものです。
 とは言っても、繰り返しになりますが、二柱は早苗さんの親代わりのところがあります。早苗さんが深く悩み苦しんでいるのにそれを放っておくというのもまた彼女たちの望む所ではありません。一応は頭を捻って何か良い方法はないかと思案してみました。
 けれども彼女たちは人間からの畏れを得るのは得意でも、友愛の得方となるとこれがまた苦手でありまして、いい具合に解決策がポンとは出てきません。
 早苗さんは他の人間の友人に相談してみようかとも思いつきましたが、彼女たちは皆々他人の悪評など知った事ではない、ゴーイングマイウェイでエンジョイ&エキサイティングな方たちであり、悩みを打ち明けたところで無為に終わる事は想像に難くありませんでした。
 まず最初に早苗さんが考えた作戦は、人里へ行った時に積極的にコミュニケーションを図りイメージアップに努めるというものです。
 午前中の人里への挨拶周りも、それを理由に始めたものです。同時に早苗さんは里の人に自分のことを知ってもらうために、射命丸に相談して、自分の活動を記事にしてほしい頼みました。射命丸はこれを快く引き受けます。
 早苗さんは毎日毎日、射命丸に見守られながら、元気よく挨拶をして里を回りました。
 しかし、偏見の眼がある状態でいくら早苗さんが頑張っても、どこかよそよそしく、どこか一線を引かれたように接されてしまいます。
 人里の者たちは表立って早苗さんを迫害したり、無視したりということはせず、むしろある種、媚びたような笑顔で早苗さんに対応します。中には早苗さんと素直に仲良くしてくれる同じ年頃の少女たちもいましたが、やはりこれは少数派でして、多くの人間は早苗さんを違和感のあるものと見なします。
 その一方で、子供という生き物は素直にして実に残酷な性格をしていまして、大人よりも露骨に早苗さんを何か怖いもののように扱い、中には彼女の顔を見るなり泣いて逃げ出してしまう子供もいるほどです。
 その子に話を伺いますと、その子供は以前早苗さんが妖怪退治をしている光景を間近で見てしまい、それがトラウマというのでしょうか、早苗さんへの恐怖に置換されている様子でした。
 状況を詳しく聞いて察しますに、その子供が妖怪に襲われているところを早苗さんが救ったのでしょうけれど、子供は目に見たものだけを信じるもので、早苗さんが凶悪なものであると思い込んでしまっていて、誰かが真実を説明したところで早苗さんへの偏見が消えるかというと怪しいものです。
 皮肉なことに二柱が欲していた人間からの”畏れ”というものを早苗さんは望まずとも手に入れていました。
「私はそんなもの要らないんですよ……」
 実際の所、早苗さんは射命丸の思った通り、精神的にかなり追いつめられていました。
 射命丸の前ではそれでもまだ元気を出していたほうで、一人になるとますます心細くなり、じわっと涙が溢れそうになるのを堪えます。
 人里での挨拶周りも効果がなかった。
 新聞でのイメージアップ作戦も効果は期待できない。
 他にはどんな作戦がある? それは本当に効果があるのか?
 早苗さんは徐々に打つべき作戦がなくなってきてしましました。
 なんで自分はこんなにも人から好かれないのか。なぜもっと人から好かれるように振る舞えないのか。なぜ他人は私を好いてくれないのか。
 不安と焦燥は止めどなく早苗さんの心に溢れてきます。
 見えてきた手詰まり。それを自覚しての机への突っ伏し。早苗さんはもう一杯一杯になっていたのかもしれません。

 実は、人里での彼女の風評が悪くなっているのには早苗さんが考えた原因とは別に、2つ……いや3つの小さな、しかし決定的な原因がありました。それを取り除くことが問題解決の肝心となる。それくらいのものです。
 その原因というのが…………
  

       ☆           ☆          ☆


 いつしか早苗さんは机に突っ伏したまま寝てしまっていたようです。
 目覚めた早苗さんが眠気まなこをこすりながら時計を見ると、針は午後2時を指していました。
 少し長めのお昼寝です。お昼寝今日は神社に誰もいないので寝過ごしてしまったようです。
「はぁ〜、まぁ、いつまでも落ち込んでてもしょうがありませんね。もう一度気合いを入れ直して、午後のお仕事にでも取りかかりましょうか」
 早苗さんが軽くストレッチをしながら、元気を出して再び仕事に戻ろうとしたその時、ふと障子の外から、
 ト、ト、ト、ト、ト、ト、ト、ト。
 と足音が聞こえてきました。
 はて? 
 早朝に守矢神社を出て行った二柱は夕方まで帰ってこないはず。ではこの足音は誰のもの? 
 足音からしてどうも一人ではないようです。三人……いや二人でしょうか?
 不審に思った早苗さんはおもむろに立ち上がって障子をゆっくりと開けると、
「げぇっ、早苗っ!!」
「おおっと、これは。早苗どの」
 そこには、メガネをかけた大タヌキと、大傘を持った小さな女の子がいました。
「あれ、貴女は確か、命蓮寺の」
「二ツ岩マミゾウじゃよ。どうもこんにちは、東風谷早苗どの。初めましてになるのかの?」
「あ、どうもご丁寧に」 
 丁寧に下げられた頭に釣られて早苗さんも挨拶を返しました。
「それでそっちは……」
「うう……」
「ちゃちゃら……何でしたっけ?」
「多々良小傘だよっ! 何度も会ってるでしょ!?」
「あ〜そういえばそんな名前のしょうもない妖怪がいたようないなかったような……ってウソですよ小傘さん、もちろん冗談ですって。貴女のことはよ〜く知ってますから。だからそんな出会い頭に泣かないで下さいよ」
「な、泣いてなんかないわよ……」
 守矢神社への予期せぬ来訪者は、命蓮寺に住んでいる狸の妖怪、二ツ岩マミゾウさんと、寺の近くや人里をうろちょろしてはイタズラに日夜励んでいる小々妖怪、多々良小傘さんでした。
「すまんのお。玄関から呼んだんじゃが誰もおらんようじゃったから勝手に入ってきてしもうた」
 マミゾウさんは屈託のない笑みを浮かべて、神社への不法侵入を悪びれる事もなく言いました。
 もう一人の来訪者の小傘さんはと言えば、マミゾウさんの大きなシッポの影に隠れたまま、まだ半べそをかきながら早苗さんを睨みつけています。
 早苗さんは二人の侵入が突然で驚いたものの、小傘さんはよく知った顔であったし、マミゾウさんの方も特に悪い噂も聞いていなかったので、特別警戒をすることもありません。
「それはまぁ、いいですけど、いや本当はよくないですけど。なんでお二人は守矢神社にいらっしゃったのですか?」
「いや、実はそれがの〜。今朝、小傘のところに守矢神社から手紙が届いたらしいのじゃが……小傘、ほら見せてやれい」
「う、うん」
 小傘さんはスカートのポケットから二枚に折られた一枚の手紙を取り出して、
「マミゾウさん、これ早苗に渡して」
 と頼みましたが、
「それくらい自分で直接渡さんか」
 と苦笑を浮かべたマミゾウさんに断られてしまいました。
 小傘さんは早苗さんの方を怯えた瞳でチラリとみて少しだけ悩んでから、 しっぽからさっと飛び出て、手に持っていた手紙を早苗さんに渡し、またさっとしっぽの影に戻りました。
 早苗さんはその様子に笑って呆れてから、手紙に目を移すと、そこにはただ、
『用アリ 守矢神社ニキタレ』
 の一文がありました。
「なんですかこれ? 神奈子さまが貴女たちを呼んだんですか?」
 守矢神社の住人は三柱ですが、早苗さんはニュアンス的に八坂神奈子さまだと考えて小傘さんに尋ねました。
「そんなこと私たちが知る訳ないじゃん。私は呼ばれて来ただけなんだから、逆にこっちが何の用か聞きたいわよ」
 不満げに小傘さんが言います。
「まぁ……確かに。それで、マミゾウさんはどうしてここへ?」
「儂はただの小傘の付き添いじゃぞい。別にいいじゃろう?」
「ふぅむ、なるほど……」
 早苗さんは再び二人の妖怪の顔と手紙の内容を見比べてから、アゴに手をあてて思案しました。
 手紙の文字は印刷されているので筆跡が誰のものかは分かりません。正直言って怪しい手紙です。神奈子さまが単なる一妖怪である小傘さんを呼び出すというという奇妙さも引っかかります。
(いつもの小傘さんのイタズラかな?)
 と早苗さんは真っ先に思いました。
 しかし、それにしては普段とちょっと違います。
 小傘さんが早苗さんに仕掛けるイタズラは、大抵が子供だましの驚かせ芸であり、こんな小道具を使って芝居染みたことができるとは到底思えません。それに小傘さんの様子も少し妙です。普段の小傘さんが早苗さんにイタズラを仕掛けるときは大体ソワソワしているのですが、今日の小傘さんは何故か妙にオドオドしています。
 それにマミゾウさんもいます。
 早苗さんの持っているマミゾウさんに関する知識は命蓮寺に住む化け狸の妖怪。それと小傘さんに懐かれているという、それくらいのもの。
(もしかして小傘さん、今日は頼もしい助っ人と一緒にイタズラに来たんでしょうか?)
 早苗さんは心中で思わずニヤリとしました。
「分かりました。貴女たちを呼んだのはたぶん神奈子さまでしょう。それなら貴女たちは守矢神社のお客さまです。申し訳ないですが、神奈子さまは今外出してまして……夕方には帰ってくるはずですからそれまでお座敷に入って、くつろいでて下さい」
 先ほどまで自分たちをうさん臭い奴らのように見ていた早苗さんが態度を一転して満面の笑顔になったものだからマミゾウさんと小傘さんは目を丸くしました。
「なんじゃなんじゃ、神奈子どのは居らんのか。まぁ確かに時間の指定はしてなかったからのぉ。それじゃ、帰ってくるまでゆっくりさせてもらうおうか」
 気を取り直したマミゾウさんはそう言って小傘さんを連れて座敷にあがりました。
 マミゾウさんは床にストンと座り込むやいなや、まるで自分の家かのように足と腕と、ついでにシッポををダラーっと伸ばしてリラックスし始めました。
 小傘さんも持っていた紫傘を丁寧に畳んで自分の横に置き、マミゾウさんに寄り添うように座りました。
 早苗さんもまた二人の後から座敷に入り、二人に座布団を渡した後に、台所へ行き神社で一番上等なお茶菓子とお茶を持ってきて来客にもてなしました。
 この上等なお茶菓子は、たとえ里の有力者が神社に来たとしても普通のことでは出さない早苗さんのとっておきでした。幻想郷では滅多に手に入らない外の世界のブランドのお菓子です。
 早苗さんは、先ほどからマミゾウさんのシッポに隠れながらリスのような瞳で、しかしそれでも自分を睨みつけてくる生意気な小傘さんのことを思い出して、ムフフと一人で笑いました。
 早苗さんと小傘さんの出会いは星蓮船異変の時です。目的地に向かう道中で弾幕ごっこを繰り広げた際に、早苗さんは小傘さんをいたく気に入り、以来、彼女を見かけるといつも追いかけ回しすようになりました。
 しかしその可愛がり方がいけなかった。
 早苗さんは生来どこか嗜虐的な面がありまして、これとは逆に、見るものの嗜虐心を煽るような容姿をした小傘さんとは幸か不幸か見事にマッチングしてしまいます。
 小傘さんの姿を見るなり飛んでくる早苗さんとは反対に、いつしか小傘さんは早苗さんの姿を見るなり逃げ回るようになってしまいました。
 それで小傘さんが怯えて嫌がっているのなら早苗さんもすぐにそれを止めていたのですが、小傘さんは早苗さんを恐がりながらそれでもなお生意気な口を叩いて虚勢を張るのを止めず、たまに早苗さんに反撃のイタズラをしかけてきたりしていました。このいじらしさが早苗さんにとって、愛くるしいやら可愛らしいやらで、それが見たくて結局同じように小傘さんにちょっかいをかけてしまうのでした。
 普段なら自分の顔を見るなり逃げてしまう大好きな小傘さんが、わざわざ自分の家に来てくれたとあって、早苗さんは先ほどまでの暗い気分はどこへやら、心の中で浮かれていたのです。
「それにしても、神奈子様は小傘さんに何の用事があるんでしょうね。何か心当たりとかないんですか?」
 はやる心を抑えて二人への応接を終えた早苗さんは、座布団へ座り込みながら小傘さんに聞きました。
「わ、私は八坂の神さまにも洩矢の神さまにも呼び出されるようなことなんてした覚えはないわよ。大体、私はあの人たちとはほとんど顔を合わせたことすらないんだから」
 小傘さんはやはり怯えながら、そう答えました。
 小傘さんは、普段から早苗さんの前では小動物のように警戒はしていましたが、それでも今日はそれが著しくなっています。
「本当ですか? 何か悪い事して神奈子さまに叱られるようなことしたんじゃありません?」
「そ、そんなことしてな……あ! そうよ、わちきは毎日人里の人間共を驚かせて幻想郷を恐怖のドン底に陥れているのよ。まぁ、あんな暴れ回って人間から恐れ敬われているわちきだからね、とうとう山の神様も見過ごしては置けなくなっちゃったのかしらん?」
「ふむ、特にイタズラはしていないと……となると後は、小傘さんがいつもやっているコントに飽きてきて、うっとおしくなったから人里から出て行ってくれって神奈子さまに依頼が来たのかも」
「ちょ、ちょっと人の話聞いてる!? ていうーか何よ、コントって!?」
「いや、貴女がいつもやってる『ベロベロバー』とか『うらめしや〜』とかの、涙が出そうな程しょうもない大道芸ですよ。私も初めは渇いた笑いやらの一つでもありましたけどね、最近はもうマンネリというか飽きてきたというか……里の人間も段々ウザくなってきたんじゃないですか」
「大道芸なんかじゃないもん! 私が一生懸命考えた驚かせ方だもん!」
「いやぁ〜それはないんじゃないかのう」
 二人の会話を傍観していたマミゾウさんがお茶をずずい〜っとやりながら口を挟みました。
「マミゾウさん? それはないっていうと?」
 早苗さんは、マミゾウさんとは今回が初顔合わせです。
 もし小傘さんが早苗さんにイタズラを仕掛けようとしているのなら、マミゾウさんが関わってくることは間違いないので、早苗さんはマミゾウさんに警戒しながら応えました。
「いやの、確かにこの小傘は普段から人里で子供集めておにごっこやらかくれんぼうやらに興じておっての」
「ちょっ、マミゾウさん、私は子供からは怖がられてるんだってば」
 小傘さんは自分の恐ろしさを必死でアピールしますが、マミゾウさんはどこ吹く顔です。
「ま、だからのぉ、この小傘は人里での人気はすこぶる高いんじゃよ。里の子供では小傘を知らないのはいないし、この子の顔を見るなり抱きついて来るようなのばっかりじゃ。それで子供の相手をしてくれるもんだから親からの信頼もあっての。最近では子供どころか赤子まで預かってベビーシッター扱いじゃよ」
「あら、それは意外です」
「そ、そんなことないわよ。私は人間からは恐怖の権化であって、子供は私の顔を見るなりおしっこ漏らすくらいで……」
「要するに、子供人気がすごい小傘が里から追い出されるってのはありえないってことじゃ。儂もちょっと見習いたいくらいじゃよ。あっはっはっは」
「う〜ん、確かに子供ってザリガニとかナメクジみたいなもの好きですからねぇ〜」
「ちょ、ちょっと二人とも、私のこと無視しないでよ!」
 スルーされすぎた小傘さんは、また目に涙を溜め始めました
 マミゾウさんは、すまんすまんと小傘さんの頭を撫でてから、小傘さんの脇を抱えて胡座をかいた自分の膝に乗せました。
 マミゾウさんのだっこされて居心地がいいのか小傘さんの機嫌はすぐに直り、それがおかしかったのか早苗さんの口にも思わず笑みが浮かびます。
「もう、だから守矢神社には来たくなかったよの、早苗がいるから」
 小傘さんが早苗さんを睨みつけながら、不満たっぷりに言いました。
「あら、聞き捨てならないことを言いますね。私はいつも貴女のことを可愛がっているというのに」
「何が可愛がってるよ! いつもいつも私のこといじめてくるくせにっ」
「虐めてなんていないですよ、なんと心外な、訂正を要求します。私はただ、ほっぺたをうにょうにょって引っ張ったり 首をツンツンしたりしてるだけですよ」
「それを虐めてるっていうのよ! セクハラよセクハラ!」
 小傘さんはほっぺたを膨らませて早苗さんに怒っています。
「なんで小傘さんは私をそんなに嫌うんですかねぇ……悲しいです。この間だって小傘さんと出会った記念一周年記念にプレゼントまでしたのに……」
「早苗、それ本気で言ってるの!?」
「何を貰ったんじゃ?」
 マミゾウさんが尋ねます。
「里で流行ってる最新のオシャレな雨傘をプレゼントしたんですよ。小傘さんのために時間をかけて入念に選んだんですからね」
 早苗さんが胸を張って、自慢げに答えました。
「なんでよりにもよって雨傘なのよ!? ぜったいおかしいじゃん! 明らかに私にケンカうってるじゃない!」
「両手に傘ってなんだかかっこいいじゃないですか、宮本武蔵みたいで」
「かっこよくないわよっ!」
「ああ、だから小傘は雨の日に傘を2本持っとったのか」
「あはっ、小傘さん、使ってくれてるんじゃないですか」
 先日の謎が解けて膝を打つマミゾウさんの言葉に、早苗さんが頬を緩ませました。もちろん小傘さんが物を粗末に出来ない性格だと知った上でのプレゼントではあったのですが。
 小傘さんは「むぅ〜」と悔しそうにうなってから、
「そ、それだけじゃないんだよ! 早苗は私にウソばっかつくのよ。この前も早苗に『バイセクシャルは人より二倍セクシーって意味』ってウソつかれたし!」
「小傘さん、周りに『私はバイセクシャルなの』って言いふらしてましたね」
「『抹茶アイスあげる』とか言ってワサビだったし! しかも14回もっ!」
「いくらなんでも同じ手に引っかかりすぎです」
「『いい匂いがする』とか言って早苗に塗られた香水には虫がいっぱい寄ってくるし!」
「ああ、あれ実はハチミツだったんですよ」
「ハチミツ!? そんなもん私の顔に塗ったの!?」
「ハチミツはお肌にいいんですよ?」
「知らないわよっ、そんなこと! カブトムシが一杯寄ってきて子供に大人気だったんだらかね!? それだけじゃない! 早苗からもらった今流行の『どうぶつの森』をみんなに自慢したら笑われたし!」
「『おいでよ どうぶつの森』は神ゲーじゃないですか」
「今流行ってるのは3DSの『とびだせ どうぶつの森』なのよ! 『おいでよ』は2005年発売のDSのゲームじゃない! 『小傘ちゃんってゲームも時代遅れなんだね〜』って言われた時のわたしの気持ちが分かる!? ねぇマミゾウさん、私の言った通りでしょ? この早苗って人間は私みたいな弱っちい妖怪をいたぶって楽しむ性悪巫女なんだよ! 一刻も早く幻想郷から追放すべきだよ」
 自分のことを弱っちい妖怪であると情けない宣言しながら小傘さんは早苗さんをびしりと指差しました。
「しかし早苗どの、おぬし随分小傘から嫌われておるのう?」
 マミゾウさんが、くっくっとおかしそうに笑いました。
「う〜ん、これが私の愛情表現なんですけどねぇ」
「今朝なんて傑作だったぞい。小傘がさっきの手紙をもって命蓮寺にやって来て『早苗にいじめられるー』とか『早苗にころされるー』な喚き散らしながら右へ左へ寺中を転げ回って、挙げ句の果てには『だれか、たすけてよぉ』などとワンワン泣き始めてしまう始末じゃ。いつも静かな寺が大騒動じゃ。結局儂が付いていってやることにしたんじゃよ」
「ちょ、ちょっとマミゾウさん、別に私は泣いてなんかなかったわよ」
「あら、じゃあマミゾウさんは小傘さんのボディーガード代わりってことですか。しかしそんなに怖いのならあんな手紙なんて無視してしまえばよかったのに」
 早苗さんが冗談っぽく笑いながら言いました。
「儂もそう言ったんじゃが、小傘が『無視なんてしたら100回は殺される、それなら1回の方がマシ』と言うもんでな」
 それほど今朝の小傘さんの様子が面白かったのか、マミゾウさんはとうとう床をパンパンと叩いて心底おかしそうに笑い始めました。
「笑い事じゃないわよ、マミゾウさん! 本当はマミゾウさんだけじゃ心もとないからもっと大勢で来たかったのに、みんな忙しいって言って取り合ってくれないし、響子に言ったら、『早苗は良い人だから大丈夫』だって!」
「響子さんは素直で良い子ですね」
 小傘さんの友達、やまびこの幽谷響子さんも見る人の嗜虐心を煽る小動物のような子どもでしたが、いかんせん響子さんは虐められたら反撃など考えず怯えて隅の方で震えているような子でしたので、これは早苗さんの性癖にズキュンと来なかったのでした。
「早苗が良い人だなんて、どんなウソついてあの子を騙したのよ!?」
「別に騙してなんかないですよ、私は実際良い人ですし。けど、そうですね響子さんはいつも門前で元気に挨拶してくれますから、ご褒美にたまに里で買ってきた抹茶アイスとかあげたりしてただけです」
「なんで私にはワサビアイスで響子には本物なの!?」
「それは小傘さんの好物がワサビアイスと聞いていたので」
「んなわけあるかー! どこで聞いたのよそんなデマ!?」
「響子さんから」
「響子から?」
「はい、小傘さんはワサビが大の苦手って聞いたので、これは美味しいリアクションが期待できると思ったんです」
「そういうバラエティー的な美味しさは要らないわよ! 普通に美味しいものをちょうだいよ!」
「いやいや小傘さんのリアクション芸は本当にすごいんですからもっと自信を持って下さいよ。ブレイクダンスのようにのたうち回る所とか、私おかしくってお腹がつりそうになっちゃったんですから。あの面白くないコントや大道芸やめてリアクション芸人として売っていけばいいんじゃないですか?」
「私は芸人じゃなーーい!」
 小傘さんは精一杯早苗さんに叫びますが、早苗さんにはカエルの面に水です。むしろ小傘さんが顔を真っ赤にしてキャンキャン吠えている姿は早苗さんにとって何よりのご褒美なのでした。
 早苗さんは出来る限り平静を装いながらも、自分が心地よく興奮しだしていることに気付いていました。
「まったく小傘さんは『あーいえばこーいう』人ですねぇ。ちょっとは響子さんを見習って下さいよ」
「早苗は響子の前では猫かぶってるだけでしょ! あの子ったら早苗に完全に騙されてたわ!」
「あらあら」
「ああ、かわいそうな響子。本物の悪魔は笑顔で近づいてくることをあの子は知らないのね。邪悪を知らない純真な心を食いあさる絶対的な悪がこの世にいるってことを知らないのね。私は知っているわ、早苗という人の皮を被った鬼がいるってことをね。いつか響子も早苗に騙されていたことに気付くんだろうけど、その時には手遅れになっていないことを私は祈るわ」
「おい小傘、言いすぎじゃぞ……」
 マミゾウさんが小傘さんを嗜(たしな)めながら、早苗さんの方にチラりと視線を遣りました。
 実をいうと、早苗さんがマミゾウさんを初対面故に警戒したように、マミゾウさんも早苗さんには細心の注意を払って接していました。
 いやしくも現人神を名乗るのですから、それなりの気位の高さをマミゾウさんは神社に来る前に想定していましたし、何より巷での早苗さんの余りよろしくない評判をマミゾウさんは耳にしていました。
 先ほどから小傘さんが実にズバズバと話しているので、マミゾウさんは内心、早苗さんの気に障っているのではないかと不安を覚えていたのです。
 この初対面故の誤解でマミゾウさんを責めることは誰にもできないのでしょう。
 もちろんというべきか、早苗さんは怒るどころか、むしろ小傘さんを心の真ん中から嬉しそうに楽しそうに見ていました。
 早苗さんの好みは響子さんのように自分に怯える子ではなく、どんなに虐められても自分に歯向かってくる生意気な子。
 それはまさに小傘さんがピタリだったのでした。
(ああ、小傘さん……かわいい、かわいい、なんてかわいいのでしょ。小傘さんの様子からするとあの手紙は本物だったようです。イタズラが失敗したときのがっかり顔が見られないのは残念ですが…………でも、でもでもでも、だめですよ小傘さん。そんなに私の悪口を言ったら……今はマミゾウさんが側に居るから強気でいられるのでしょうけど、次に一人の時に私と会った時にきっと酷い目にあうことが全く想像できていないのでしょうか。私は今我慢しているだけなのですよ? その時には一体どうしてやりましょう? う〜ん、まずは最初にぎゅっと思いっきり抱きしめてあげたい!!!)
 罵倒されているのになぜか嬉しそうに身をよじっている早苗さんを見て、マミゾウさんは今日初めて余裕の態度を崩して不思議そうに眉をひそめましたが、すぐに見なかった事にしました。
 早苗さんのサディスティックな性癖が発露するのは異変の時を除けば数多いものではありませんでしたが、ご覧のように一度タガが外れれば誰もが一歩後ずさる程のものでした。
 一方で小傘さんにとって、そんな早苗さんのイカれた様子は普段通りなので特に気にする事もなく得意気に話を続けています。
「大体この怪しい手紙はなによぉ。なんか堅苦しくって、私、早苗が怒ってると思って、すごい……ちょっぴりだけど、恐かったんだから。なのに早苗は知らないっていうし……ねぇマミゾウさん。もしかして、私って騙されたのかなぁ?」
 小傘さんが振り向いて、心配そうにマミゾウさんに尋ねました。
「ん? ああ、そんなものは杞憂じゃよ。守矢神社でイザコザを起こしたらどうなるか分からんやつなんぞ、幻想郷におるまい」
「じゃあ……あんまり考えたくないけど、八坂の神さまが、なんか私に怒ってるとか……」
 小傘さんは彼女の考えられる限り一番大変な事態を想定して、顔をうつむけました。
 上位神である軍神、祟り神の逆鱗に触れれば、小傘さんのような弱小妖怪は、文字通り木っ端微塵になってしまいます。
 心当たりがないと言っても、自分の知らない間に何か気に障ることをしてしまったのではという考えは拭いきれません。
「おぬしは心配症じゃのぉ。確かに神奈子どのも諏訪子どのも怒れば怖いが、本来は立派な神さまじゃから、日頃、悪いことを何一つしとらんお前が叱責されるわけないわい」
「悪い事何もしてないって、妖怪としてそれもどうなんでしょう……ていうか、あれ、マミゾウさんは神奈子さま達のことを知っているのですか?」
 聞き慣れた名前が耳に入って来たのでトランス状態から早苗さんが戻ってきました。
「うむ。儂とあの人らとはまるで知らない仲って訳でもないぞ。取り分けに懇意にしてるってことでもないんじゃが……ずいぶん昔に儂が日本中を旅しとった時に知り合おうた仲じゃ」
「へぇ、初めて知りました」
 早苗さんは驚いて言いました。
 マミゾウさんはつい最近幻想郷に来たばかりなので、二柱とも親交はないと早苗さんは勝手に思っていましたが、考えてみればお互い日本中に名を知られている存在な訳で、以前からの知り合いであってもそこまで不思議なことではありません。
「あの人たちが物の道理を分かってるってことくらいは儂も知っとる。じゃから小傘よ、何も構える必要はないぞい」
 マミゾウさんは、うつむいていた小傘さんに言いました。
 早苗さんは、そんな小傘さんも可愛いなと思いながら、「そうなんですか」と頷きました。もちろん、二柱を褒められて嫌な気分にはなりません。
「実はのぉ、今日儂が守矢神社に来たのは是非一度おぬしに会って話してみたかったからなのじゃ」
「へ、私ですか?」
「うむ、儂は以前から、あの神奈子どのと諏訪子どのが育てておるという娘、つまりおぬしに興味が湧いておってな。まぁ幻想郷に来てから神奈子どのたちに挨拶の一つもしてなかったのでこれは良い機会と思ったのもあるんじゃが」
 マミゾウさんにとって小傘さんのボディーガードは二の次、三の次なようです。
「儂はこの小傘や命蓮寺の皆からの伝聞でしか早苗どののことを知らなんだからのう。一体どういう娘が出てくるんだと思ってここに来たんじゃが……なんじゃい、ごくごく”普通の良い子”じゃないか。いやはや百聞は一見に如かずとはよく言ったもじゃの。うんにゃ、普通ではなかったかな? 実に可愛らしい子が出てきたもんじゃからたまげてしまったわい。流石神奈子どのと諏訪子どのじゃな、子育ても神の領域なんじゃな、あっはっは」
 マミゾウさんはまだ早苗さんの人柄を見切れてはいないので、これは半ば以上にお世辞のセリフでした。
 マミゾウさんは早苗さんに気持ちよくなってもらうために、存分にを褒めたつもりでしたが、
「へぇ〜私は命蓮寺の皆さんから”普通じゃない悪い子”って言われているんですか……」
 会話の裏を読んだ早苗さんは不満顔です。
 マミゾウさんは、「あいやしまった」と心の中で頭を叩きました。
「い、いや違うぞ早苗どの。別に命蓮寺の皆がおぬしのことを悪く言っとる訳じゃ……」
「ということは、一部には私のことを悪く言っている人がいるんですね?」
「うっ……」
 これまたしまったという顔をするマミゾウさん。
「いいですよ、いいですよ。どうせ私なんて嫌われものなんですから……」
「はん、ざまぁないわね。ようやく世間が早苗の極悪ぶりを知ったってとこかしら? 早苗のバーカバーカ、アホ! おたんこなす!」
「ナスは貴女でしょ」
 早苗さんが八つ当たりに小傘さんのおでこにチョップしました。
「あいたぁ! 何すんのよ」
「私の事を笑ったからです」
 早苗さんが唇を尖らせて言います。
「早苗があのお寺で嫌われてるのなんて当然じゃない。あんなに聖のことを敵視してたらそらそうなるわよ。あそこの人達がどれだけ聖が好きか知らないの? たまに良い顔したって響子みたいなピュアな子は騙せても、他の人は騙されないんだからね」
「命蓮寺は私たちの商売敵ですからね。聖さんとは倶に天を戴かず。悲しいけどこれ戦争というやつなのです。だいたい何なんですか昨今の風潮は! 猫も杓子も命蓮寺、命蓮寺と。聖さん達が幻想郷に来てから結構経ちますけど、相当な数の信徒を増やしているみたいじゃないですか」
 早苗さんが机をバンバンと叩いて憤慨していました。
 元々落ち着きのない子ではありますが、信仰に関する話になると特に感情的になるクセが早苗さんにはありました。
「確かにのぉ。儂も最近来たばかりじゃが聞く話によると信徒集めは順調らしいぞ」
「そうですよ! 私たちも努力して信仰を集めているっていうのに、命蓮寺のみなさんがあんなに簡単に信徒を集めていっては私たちとしても困ってしまいます! こうなったら今後一層私たち守矢神社の布教活動を活性化し、命蓮寺の信仰を全て奪ってしまう他ありませんね! そう言えば、マミゾウさんも命蓮寺に住んでいるんでしたっけ? 命蓮寺の弱みとか何かありませんか? 派閥争いがあるとか、誰かが不満を持ってるとか」
「そんなものあるわけないわい。確かにあそこには臑(すね)に傷を持つ者もあれば、人一倍我が強いものもおる」
「じゃあ何か……」
「じゃがそんなあやつらはみんな、聖百蓮という一人の尼を信奉しとる。それがある限り命蓮寺の一枚岩は崩れんよ。儂は最初は友人に呼ばれて来ただけじゃったが、今ではすっかり馴染んじまった。あそこは久しぶりに居心地がいい」
「ふぅ〜ん」
 早苗さんがマミゾウさんの言葉に対して胡散臭そうにあいづちを打ちました。
 しかし、本音を言うと早苗さんは、命蓮寺からの悪評は人里の悪評とは違って特に気にしていませんでした。
 早苗さんは、実のところ命蓮寺のことを嫌っている訳ではなく、むしろ、どちらかというと好意を持っている方でした。
 早苗さんにとって命蓮寺や聖白蓮のことを悪く言うのは、単に同業者としての”ケジメ”くらいにしか思っていません。
 ただ、視野狭窄でバランス感覚に乏しく、これと決めたらトコトンタイプの早苗さんの場合は、それがやっぱり行き過ぎてしまって、世間からは本人の意図を超えた解釈をされているのには、彼女は気付いていません。
「それにな早苗どの、儂から見ればね、ウチの寺とここの神社じゃあ……相手にしとる人間が違うから別にお互いを過度に意識する必要はないぞい」
「へぇ、それは、どういうことですか?」
 マミゾウさんが、早苗さんの興味を引くことを言いました。
「儂はそれほど命蓮寺の布教活動に参加してる訳じゃないが、それでも一つ屋根の下で暮らしてれば見えてくるものもあるもんじゃ。命蓮寺の場合は聖を中心として人間や妖怪にホトケ様のありがたみを教えてそれを信仰してもらっておるが」
「それは私たちも一緒ですよ」
「守矢神社は命蓮寺とは真逆なんじゃよ。目的は一緒だけど、手段が真逆なんじゃ。命蓮寺は信仰を得るために人々に近づいて親身になることによって信仰を得る。守矢神社は逆に人々を突き放すことによって信仰を得ている。同じ信仰でも、救済による信仰の命蓮寺と畏れによる信仰の守矢神社。ほら、どうじゃ? まったく違うものじゃろう?」
 マミゾウさんは、さも自明の理であるかのように早苗さんに言いました。そこには他意も何もありません。ごくごく当たり前の事を説明しただけです。
 マミゾウさんは守矢神社の風祝である早苗さんと、こういう話をするのは踏み込みすぎとは全く考えていません。
 マミゾウさんが神社の跡取り娘足るもの当然、守矢神社が畏れによって信仰を得ているものと理解している、そう思っていました。
 だからマミゾウさんは……早苗さんの視線が、”小さく落ちた”ことに気付きません。
「例えば神社と寺への道のりでも、それが顕著に表れているぞい。命蓮寺は人里の近くに居を構えて人間か近づきやすいようにしている。その一方で守矢神社はこんな高い山の中腹に、そして何より途中の天狗の妨害がある」
「あ〜そうよ! なによあの天狗たち! 私たちはただ守矢神社に行こうとしてただけなのに急に襲ってきて、マミゾウがいなかったら危なかったんだからね!?」
 小傘さんが口を尖らせて早苗さんに文句を言いました。
 天狗というのは守矢神社が来る前の山のヒエラルキーの頂点であり、以来山の覇権を巡って守矢神社と時に対立することもある幻想郷の一大勢力でした。
 天狗たちはよく守矢神社への参拝目的の登山者に妨害を仕掛けては追い返していました。
 守矢神社にとって参拝客を減らす天狗は煩わしい存在であり、早苗さんは何度も天狗との交渉に望みましたが、いつも破談してばかりです。
 その理由の一つに守矢神社の盟主である二柱が今ひとつ天狗の排除に積極的でなかったということを、早苗さんはこの時思いだします。
「あの天狗たちが人間を、より神社から遠ざける。それによって逆に守矢神社は権威を高めとる。賽銭箱の銭なんぞ取るに足らない人里からの寄進が得られるという訳じゃ。上手く出来とるのぉ」
 マミゾウさんが面白そうに言いました。
「て、天狗は別に私たちがやらせてるわけじゃ……」
「このへん聖も一つ見習って欲しいぞい。聖は大口の寄進を悉く断ったり額を減らして受け取ってしまうから、いつも儂らはカツカツなんじゃよ、あっはっは」
 カラカラと笑うマミゾウさんの笑顔には一切のケレン味もありませんでした。
 しかし、楽しそうに笑うマミゾウさんとは対照的に早苗さんは唇を噛み締め、握りこぶしを作っていました。
「あの……私」
「ん、なんじゃの?」
「…………いえ、なんでもありません」
 そこまできてようやく早苗さんに様子がおかしいことに気付いたマミゾウさん。気付いた瞬間は「また変なことでも言ってしもうたか?」と思ったマミゾウさんでしたが、すぐにそれも違う事を察します。
 頭に「?」マークを浮かべた小傘さんを膝に乗せたまま、マミゾウさんは居直して、
「ふむ、何やら今の話に思う所があったようじゃが」
 と語りかけました。
 マミゾウさんの優しげな質問に対して、早苗さんは、数瞬の間を置いてから、
「……はい」
 と、小さく頷きました。
「どうじゃ、一つ腹を割って儂らに話してみんか? 察するに早苗どのは何かに悩んでいる様子。不肖このマミゾウ、何か手助けになれるかもしれんぞ?」
 そう言われた早苗さんは、少し口を開いてはまた閉じてをしばらく繰り返した後に、一度眼をつむってから、
「……いえ、やっぱり何でもありません」
 と言いました。
「ふむふむそうか、儂らに言えん事か」
「すみません。何か思わせぶりなことを言ってしまって」
 申し訳なさそうに頭を下げる早苗さん。
「構わんよ。おぬしが言わない方が良いと考えたんじゃろ? それならその判断を信じなさい。けれんどもし気が変わって誰かに相談したくなった時は何時でも命蓮寺に来ればいいぞ。儂が無駄に歳を食っているのは、おぬしの様な可憐な子が、健やかに生きるのを助けるためじゃて」
 そういってマミゾウさんはもう一度朗らかに笑い声をあげあした。
 早苗さんはマミゾウさんも一癖あるけれど、他人のために何かをしてあげられるって、素敵な人なんだなぁ、と思いました。
 早苗さんの悩みは解決しませんでしたが、自分が初対面のマミゾウさんを好きになれそうだと思って、少し気分がよくなりました。
 さっきまで暗かった表情に笑みが戻ります。
「マミゾウさん、早苗? 何の話してるの?」
「ん? ああ小傘。早苗どのにも色々あるってことじゃよ」
「色々って何?」
「色々は色々じゃよ」
 マミゾウさんが小傘さんの頭を撫でました。小傘さんは訳が分からないままにくすぐったそうにしています。
 マミゾウも、そろそろ早苗さんの内面がちらり見えてきたような気がしてきました。
 マミゾウさんの目の前にいる人は、現人神だとか、守矢神社の巫女なんて大仰な存在ではなく、ごく普通の人間の女の子なのではないか、とマミゾウさんは思い始めていました。もし自分の考えが正しいのならば、今自分が何か出来る事があるのではないか。
「のぉ小傘、一つ提案なんじゃがな、今日を機会に早苗どのと仲直りせんか?」
 手を小傘さんの頭に乗せたまま、ふいにマミゾウさんが言いました。
「な、な、な、何言ってるのよマミゾウさん! さっきの私の話聞いてたの? 早苗と私は水と油のような関係なのよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて聞きなさい。この事は神社に来る前から考えておった事なんじゃ。儂はおぬしから早苗どのの事を聞いた時からそのウワサに半信半疑でな。実際、儂の目で見ても、早苗どのは決して悪い子じゃないと思うぞ。きっと仲直りできるはずじゃ。それに今日仲直りをしてしまえば今後早苗どのからちょっかいをかけられることもなくなるんじゃぞ?」
「で、でも……」
「早苗どのはどうじゃ?」
 まるで納得出来ない様子の小傘さんをひとまず置いて、マミゾウさんは早苗さんに尋ねました。
「私は別に小傘さんとケンカしている訳じゃないんですけど……」
 早苗さんにとって小傘さんはお気に入りの可愛がり相手……悪く言えばおもちゃのような存在で、不和ではありません。
 早苗さんが望むのは”今まで通り”の関係です。
 マミゾウさんの言う仲直りという言葉にどういう意味があるかは分かりませんが、それでその関係が崩れるのは早苗さんには避けたいことです。
 渋る早苗さんに、マミゾウさんは急に真面目な顔になりました。
「のぉ早苗どの。おぬしがそれほど悪い気持ちで小傘に構っておるのでないことは儂にも分かる。じゃがこの小傘の怯え具合を見てみなさい。これはちとおぬしのやりすぎというやつではないかの? 本当はこういう説教は好きじゃないんじゃが……今回は小傘も関わっておるしの、見過ごしてはおけんよ。別に小傘に金輪際近づくなと言っとる訳じゃないぞい。今まで通りの関係に少し節度を付けて欲しいというだけじゃ。どうじゃ?」
 早苗さんはそこまで言われて弱ってしまいました。
 早苗さんは小傘さんに謝ること自体はやぶさかではありません。今までも早苗さんがついやり過ぎて小傘さんを本気で泣かせてしまった時に平謝りに徹したこともあります。
 しかし今謝ってしまうと、今後早苗さんが小傘さんにちょっかいをかけたときにすぐにマミゾウさんにチクられてしまうかもしれません。
 だから、いつもの早苗さんなら、一も二もなく断っていたかもしれません。
 けれど……
「そうですね。今まで私はちょっと行き過ぎたところがあったかもしれません……」
 今の早苗さんは何となくマミゾウさんの言う通りにしても良いと思い始めていました。
 それはマミゾウさんの頼みを断りたくなかったことと。それに、小傘さんとの今までの通りの関係がなくなっても、新しい関係はきっとある。そして、それもまた楽しいものだという予感があったから。
 それが早苗さんの独りよがりの勘違いなのかは分かりません。
 だけども、早苗さんはきっとそうなるだろうと思いました。
 早苗さんは改めて小傘さんに向き直って。
「小傘さん今まですみませんでした」
 深々と頭を下げました。
 マミゾウさんはそんな早苗さんに深く感心を覚えました。
 自分の過ちを認め人に謝るというのは簡単のようでその実、非常に難しいことです。特に早苗さんの年頃で素直に頭を下げて謝罪ができる子は少ないものです。
 この時マミゾウさんは世間の早苗さんの悪評が間違っていると確信を持ちました。そして、早苗さんを教育している二柱を改めて良い一家であると感じたのでした。
 しかし、
「どうじゃ小傘、早苗どのが謝っておるが、おぬしは許してやれるかの?」
「う〜ん……」
 今まで早苗さんに散々な目に合わされてきた小傘さんは中々すぐに許すとは言えません。目を伏せて、納得がいかないようにイヤイヤしました。
「ふ〜む、流石にこれ以上は儂にもどうにもならんのぉ」
 マミゾウさんは困ったように頭を掻きました。
 早苗さんも、一度謝ると決めたからには何とかして小傘さんに許してほしいものです。今までの行いのツケなので、どうしても許してもらえないのも仕方ありませんが、せめて許してもらえるよう最後まで努力はしたい。
 そう考えた早苗さんが頭を捻った結果、
「あ、そうだ! 小傘さん。今までのお詫びに珍しいものをごちそうしますよ」
 早苗さんはあるアイデアを思いつきました。
「ごちそう?」
「ちょっと待ってて下さい」
 早苗さんは立ち上がって台所のほうへ行き、しばらくして何本かのビンを抱えて戻ってきました。
「これは何?」
 早苗さんが机に置いたビンを見て小傘さんが尋ねました。
 それはどうやら何かの飲み物のようですが、小傘さんが日頃見た事のない種類のものでした。
「カクテルという外の世界のお酒です。これは私の一番お気に入りですよ」
 早苗さんが自慢げに言いました。
「ん? 早苗どのは下戸と聞いていたのじゃが?」
「私は日本酒や焼酎が苦手なだけです! あんな辛いもの普通の女の子には飲めませんよ」
「じゃが霊夢どのや魔理沙どのはウワバミじゃぞ?」
「それはあの人達の舌が壊れているだけです」
 さらっと酷いことを言う早苗さんでした。
 小傘さんが好奇心旺盛にカクテルのビンを眺めている間に早苗さんは今度は人数分のコップとタッパーを持ってきました。
「ちょっと貸して下さいね」
 早苗さんは小傘さんの持っていたカクテルの蓋を開けて、コップへとくとくと注ぎました。
「綺麗な青……」
 小傘さんはコップを満たしていく青の液体を見ながら思わずそう漏らしました。小傘さんの知っているお酒は全て透明か、あるいは濁りのあるもので、カクテルのようなキラキラした色のお酒は飲んだ事がありませんでした。
「これはブルーハワイっていう名前のカクテルです。本当は色々凝って作るんですが今回は市販のビンのままですね。その代わりに、これにこれを乗せて……」
 早苗さんはタッパーから真っ赤なさくらんぼを一つ取り出して、カクテルに添えました。
 快晴の空のような水色のカクテルにアクセントとしてさくらんぼの赤。
 ここまで来たら小傘さんにも早苗さんの意図しているものが分かります。マミゾウさんが、ほぉと唸りました。
「ほら、小傘さんそっくり!」
 そのグラスはさながら水色の服装にキラリと赤く光る左目を持つ小傘さんでした。
「さ、飲んで下さい」
 早苗さんは出来上がったカクテルを小傘さんに差し出しました。
 それを両手でおずおずと受け取った小傘さんは、ゆっくりとそのコップを持ち上げて、舌先でぺろりの舐めました。
「甘い……」
「カクテルは日本酒と違って甘いお酒なんです。アルコール分も少なめで女の子向けなんですよ?」
 小傘さんはそのまま両手でカクテルを一気にごくごくと飲んでいきました。
 小傘さんにとってカクテルのような甘いお酒は生まれてこのかた初体験だったので、もう夢中になってしまっていました。
「おいしい……おいしいよこれ」
 飲み干したコップを机において小傘さんが感動して言いました。
「ふっふっふ、カクテルは美味しいでしょ? 私も大好きなんですから。幻想郷の人たちはお酒といえば日本酒だの焼酎だのしか思い浮かべないんだから困ってしまいますよ。まぁ確かに幻想郷ではカクテルは滅多に手に入らなから仕方ないんですけど。言っておきますけどこのカクテルは貴重なんですからね?」
「ねぇ早苗、おかわりほしい……だめ?」
 小傘さんが殊勝な口ぶりで早苗さんにおねだりをしました。
「むぅ〜儂もぜひ一口飲まして欲しいのじゃが……」
 あんまり小傘さんが美味しそうにカクテルを飲むものだから、マミゾウさんも思わずゴクリとくるものがありました。
「ええ、どうぞどうぞ。今日は小傘さんへの今までのお詫びということでもう大盤振る舞いしちゃいます。もちろんマミゾウさんもぜひ飲んでいって下さい。とりあえずここに五本ありますが冷蔵庫にはもっと沢山ありますから」
「うそ〜、やった〜」
 小傘さんが万歳をして喜びました。
 それからの守矢神社はまるで飲み会の会場。
 人数はわずか三人ですが、実はやっぱりお酒に弱かった早苗さんと、元々酔いやすい小傘さんはカクテルの二本目あたりでもう前後不覚になるくらいに酩酊してしまい、たった二人で歌うやら踊るやらで大騒ぎを始めてしまいました。
 マミゾウさんはと言えば、二人と違ってお酒に強くカクテル程度ではほとんど酔う事ができませんでした。それに、カクテルの甘さは辛党のマミゾウさんには少し物足りなかったので、しばらくお酒を飲んだあとは狂乱騒ぎをする二人を側で眺めていました。
「どうですかぁ〜小傘さん。これであたしのことゆるしてくれましゅか? これでだめだっていうなら、あたし全裸土下座でもしちゃうくらいでしゅよ」
 酔っぱらって顔を真っ赤にしている早苗さんが小傘さんにフラフラと抱きついて言いました。
 いつもならうっとおしがる小傘さんも、同じくベロンベロンに酔っぱらっているので気にすることもなく楽しげに笑っていました。
「う〜、そんなことされてもうれしくないわよ。ま、まぁたしかに、このお酒はおいしいし、マミゾウさんにめんじてゆるしてあげなくもないんだけど……」
「だけど、なんれす?」
「いままでの大体のことはゆるしたげる。だけどわたしはどうしても早苗をゆるせないことがひとつあるのよ」
「ふぇ、なんれすか?」
「傘よ、傘! わたしの大事なこの傘のことを早苗は、こともあろうに、ナ、ナ、ナスビみたいでしゅってー! これはメチャゆるせないのよぉ!?」
 小傘さんは机を両手でバンバン叩きながら言いました。小傘さんにとって紫の傘は正に自分自身であり、それをバカにされたことは自分が虐められるよりも許し難いことでした。
 しかし早苗さんは、顔を完熟りんごのようにして憤慨する小傘さんに対して、
「まぁ! 小傘さんの傘をそんなふうに言う人がいるなんてしんじられません。このきれいな紫はわたしも好きな色なんですよ〜」
 ぬけぬけとそう言いました。早苗さんはお酒で脳が回っておらず、何も分別がついていないのでした。
「それにナスだっていいじゃないですか。ナスおいしいですし。うん、おいしい! おいしいいいいいいいいい! 秋ナスは嫁に食わすなっていうくらいですよ。昔のお侍さんたちは天下の三茄子といってすごい高い値段でナスを買ってたんですから!」
「いや、早苗どの。三茄子はナスビではなくて茶器なんじゃが……」
「だよね〜! さすが早苗、あたしの傘の価値が分かるなんてやるじゃない。もうわたしあなたのこと、ぜ〜んぶゆるしたげる、うひひひ」
 同じくベロンベロンに酔っぱらっていた小傘さんも、もうパッパラパーで早苗さんを勢いのまま許してしまいました。
「まぁ本人がこう言っとるんだからええのかのう……?」
 マミゾウさんはいまいち納得いかない様子でしたが、とうの本人たちが(酔っているとはいえ)仲直りを終えてしまっているのだか仕方ありません。
 これはもう自分も酔ってしまった方が良かろうと、マミゾウさんも机にあったカクテルの残りに手をつけ始めまして、(それからこっそり神社から日本酒を探してきたりして)いつしかマミゾウさんもだいぶ酔いが回ってきました。
 それから狂乱の宴は何時間も続き、気付いた時には太陽がもう地平の彼方へ沈んでいく時刻になりました。
 その頃に用事を終えて帰って来た二柱が、ただいま〜と神社の座敷に入ったところ、高いびきをあげながら、二人手を繋いで眠っている早苗さんと小傘さん、それに机に突っ伏してむにゃむにゃしているマミゾウさんの姿を見たものだからビックリ仰天です。
 説明させようにも三人ともニッチもサッチもいかない状態です。
 唯一まだ口のきけたマミゾウさんからやっとこさ話しをきいた所、何やら三人で飲み会をしていたところは分かりました。
 しかしなぜ守矢神社に小傘さんとマミゾウさんがいるのか? そしてなぜ三人でお酒を飲んで酔っぱらっているのかは分かりません。
 しょうがないのでとりあえず今日のところはマミゾウさんを無理矢理起こして、小傘さんをつれて帰ってもらう事にしました。
 背中に小傘さんをおぶったマミゾウさんはまだ酔いが醒めていないのか、あっちへフラフラこっちへフラフラと覚束ない足取りで山を下りていきました。
 あれでは天狗に襲われた時に危ないと、結局、諏訪子さまが二人を命蓮寺まで送り届けることしました。
 そしてその後、目を覚ました早苗さんが神奈子さまから激しく叱られたことは言うに及びません。


        ☆           ☆          ☆



 その出来事から数日経って、当事者の早苗さんすらも「ああ、そういえばそんな事もありましたね」と言いだす頃から守矢神社にちょっとした変化が起きつつありました。
 まず最初にあったのは早苗さんの人里での数少ない女友達が神社に遊びに来た事でした。早苗さんも珍しい事とは思いましたが、すぐに女友達との姦しいおしゃべりに興じ始めて深く考える事はありませんでした。
 もちろんその事自体は単なる小さな出来事であり、この時点では誰もそれ以上のこととは考えていません。
 しかしそれ以降、早苗さんの女友達から、若い男性衆。そして一般男性や女性。徐々に人里から守矢神社への参拝者が増えていき、一ヶ月経つころにはちょっと前までは考えられない位の人数が守矢神社へ集まるようになりました。人気がなかった守矢神社の境内は今ではいつも誰かが立ち話をしていたり、子供が遊んでいるという状態が続きました。
 それと平行して早苗さんの人里での扱いも変わっていきました。
 早苗さんが挨拶をすると素直な笑顔で返してくれる人が増えました。
 早苗さんから話しかける前に早苗さんに気軽に話しかけてくる人が増えました。
 子供たちも普通に早苗さんに接してくれて、元々明るく快活な早苗さんはたちまち人気ものになりました。
 早苗さんの人里での悪評は確実に過去のものなりつつあります。早苗さんを苦しませていた悩みは今や完全に消えたといってよい程になりました。
 今も早苗さんは守矢神社で大勢の人に囲まれて楽しそうにしています。
 
 そんな早苗さんを神社の上空から眺める人影がありました。
 八坂神奈子さまと洩矢諏訪子さまでした。
「じゃあ早苗の人里での評判が悪かったのは多々良小傘と二ツ岩マミゾウのせいだったっていうこと?」
 諏訪子さまが神奈子さまに尋ねました。
「いや、正確には多々良小傘が大部分の原因だったようだぞ。マミゾウ……というより命蓮寺は要因の一つではあったが、多々良小傘に比べれば小さいものだ」
 神奈子さまがそれに答えて言いました。
「多々良小傘という妖怪はな。力の弱い妖怪だが中々どうして行動力だけは目を見張るものがある。しかもあの子は人肉を食わない。それに顔容もいい。人里の外に住む妖怪の中では間違いなく一番人間に顔が広くて人気のある妖怪なんだよ」
「つまりその人間に一番顔が広くて一番人気のある多々良小傘が早苗の悪評を振りまいてたってわけなんだ」
「本人としては無意識だったんだろうけどね。その効果は絶大だったわけだ。『”みんな大好きな傘の妖怪ちゃん”が怯えて逃げ回っている山の神社の巫女とはどういう”恐ろしい存在”なんだろう』ってさ。特に多々良小傘のことを好いていた子供たちは小傘と同じように早苗から逃げ回っていた。そしてそれを見ていた大人達にも伝播して相乗効果的に早苗の評判が落ちていたらしい」
 諏訪子さまが「ふ〜ん」とあいづちを打ちました。
「でも早苗も人里に毎日顔見せに行ってたんでしょ? 早苗だって顔が広くて人気でそうなもんだけどなぁ」
 諏訪子さまの言葉に神奈子さまは頭を掻いて、
「う〜ん、あの子の場合はなぁ……少しあざとすぎるというか、信仰への貪欲さが見え見えなところがあるんだよ。もっと本心を隠さないと人は逃げてしまう」
「そういうものなの?」
「そうだね、例えばだ。ある餅屋があったとして、店の主人が『この餅は美味しいですよ』と言うのと、自分の親しい友人が『あそこのお餅はあんまり美味しくないよ』と言うの、どちらを信じるか」
「あ〜、早苗は前者だった訳だ」
 諏訪子さまが得心がいったように頷きました。
「翻って多々良小傘は里の奴らには全くの純真無垢に映っていた。実際そうなんだろうが……となるとどっちに信頼の軍配が上がるかは火を見るより明らかというものだろう」
「じゃあ二ツ岩マミゾウの方は?」
「命蓮寺か……。命蓮寺は里の人間がよく出入りする。あそこの連中には一部、やんちゃで口さがないのもいるからな。早苗の評判がそこから里に伝播していたのだろう」
「ひぇ〜そんなところから早苗の評判が落ちてたの!?」
「人間関係というのはごちゃごちゃしているものさ。どんな小さな縁も回り回って全体に影響を与える」
「でも、多々良小傘と仲直りした途端にこの状況ってことは早苗の努力も無駄じゃなかったってことだよね?」
「ああ、その通りだね。早苗は毎日足しげく里に行っていたからな。多々良小傘との和解はきっかけにすぎなかったのかもしれない。いや本当にきっかけだったんだ。そうでなければこんな簡単に人の評価は逆転しない」
 神奈子さまは実に嬉しそうにそう言いきりました。
「それで、早苗と多々良小傘は今は仲良くやってるのかな?」
「いや、実際のところ以前とあまり変わってないようだぞ」
「え、そうなの?」
「うん、早苗も最初は多々良小傘にちょっかいをかけるのは自重していたようだけどな、結局元の関係に戻ったらしい」
「そ、そんなんで小傘とかマミゾウは怒らなかったのかな……?」
「それは、ほら……あそこを見てみろ」
 神奈子さまが指さした先には、神社の木に隠れて早苗さんの様子を伺っていた小傘さんの姿がありました。
 どうやら早苗さんに何かイタズラをしかけようと画策しているようです。
「多々良小傘の方が物足りなくなって逆に早苗にちょっかいをかけるようになったらしい」
 諏訪子さまが呆れて目を丸くしました。
「多々良小傘は淋しさから妖怪になった九十九神だからな。どんな形でも自分に構ってくれる早苗の事は態度に示すほどには嫌ってはいなかっただろう。あの二人はああいう関係が一番なんだろうさ」
 神奈子さまが笑って言いました。
「あとマミゾウだがな」
「マミゾウも命蓮寺に帰ってみんなの前で早苗の話をしたんでしょ? あの子は実は良い子だったよって。それで早苗を見直して評判が良くなったと」
 諏訪子さまが自慢げに言いましたが、
「いや違う。早苗のカクテルに興味を示した寺の連中がうちに飲ませてくれと頼み込んだらしい。早苗は断りきれずに、全部飲まれてしまったと泣いていたぞ」
「わ、私が気付かない間にそんなことあったの?」
「ああ。それでも結果的に命蓮寺の方でも早苗の評判が上がった。こんな美味しい酒を飲ませてくれた人が悪い人なはずがない、ってね」
「今更だけど幻想郷の価値観はおかしいと思うんだわたし」
 諏訪子さまが苦笑して言いました。
「けど神奈子すごいじゃない。一体どこまで計算してたの?」
 今回の件、全てのきっかけは多々良小傘を呼んだ一通の手紙にありました。そうなると手紙の送り主が一番の功労者と言えるはずです。しかし神奈子さまは居心地を悪そうにして、
「あ〜それなんだがなぁ……実は、多々良小傘に手紙を出したのは私じゃないんだよ」
「え、じゃああの手紙は一体誰が出したの?」
「射命丸文だよ」
「射命丸?」
 諏訪子さまにとってその名前は思慮の外でした。
「早苗は射命丸にも悩みを打ち明けていたらしくってな。それであの天狗であの手紙を多々良小傘に送ったんだ」
「天狗が山の神の名前を騙って?」
 諏訪子さまが怪訝な顔をしました。諏訪子さまも射命丸のことは、どちらかといえば好ましく思っていましたが、天狗である以上一定の線は引いています。
 射命丸がもし自分たちの名前を利用したというのなら見逃すことは出来ません。しかし、神奈子さまはあっけらかんとした顔で、
「別に騙ってはいないだろ。用があると書いただけだ。実際、早苗には多々良小傘に用はあった」
「確かにあの天狗は他人の風聞に詳しいだろうけど……妖怪のくせに人間の機微にも聡いし」
「実際に早苗の悩みは解決したんだ。私たちが解決できなかった悩みをな。文句をいう筋合いもないだろう」
 諏訪子さまはそれを聞いてもいまいち納得のいかない様子でした。
「てゆーか、なんで神奈子はそれ知ってるのよ」
「さっき本人から聞いたんだ。嬉しそうに私に今回の件のことを話してくれたよ。名前を騙るような真似して済まなかったとの謝罪も貰った」
「…………」
「おっと、誤解するんじゃないぞ。射命丸はお前も探したんだがどうしても見つからなかったから仕方なく私にだけ顛末を教えてくれたんだ。別に奴がお前を軽んじた訳じゃない」
「まったく……今の守矢神社の主人は私だっていうのに……」
 諏訪子さまは完全に拗ねてしまいました。
「大体解決したっていっても射命丸がやったのなんて早苗と多々良小傘とを引き合わせただけじゃん。確かに多々良小傘に目を付けたのはすごいけど仲直りしたのも偶然だったんだし」
「確かにそうだな。実際、射命丸本人もこんなすぐに上手くいくとは思ってなかったようだ。人間関係の難しさは奴も重々理解している。今回の手紙も、過度な干渉は逆効果だから、ほんのきっかけの一つになればいいと考えただけで、マミゾウが付いてきたのも、早苗と小傘が和解したのも全くの偶然らしいぞ。まぁ、あの天狗のことだからどこまで本当か分からないけどな」
「やっぱり」
「だがそれだけじゃない。射命丸は道中の天狗が人を襲うのを止めさせてもくれた」
「ああ、そういえばいつの間にか天狗がいなくなってたね。あ、だからこんなに人間が神社に来れるようになったんだ」
「あれは難しい問題だった。天狗も別に道中の人間を襲うことに固執していたわけじゃない。ただ、メンツの問題さ。奴らも、私たちに命令されて止めさせられたという事実だけが嫌だったんだ。かと言って私たちにもメンツはある。必要以上に天狗に頭を下げる訳にはいかない。もちろん実力行使に出てムダなトラブルを起こしたくもなかった。だから射命丸の仲介がなかったら問題はずっと先送りになってただろうな」
「へぇ〜。ちなみに仲介って何したの?」
「現場の哨戒天狗にニセモノの命令書を配ったらしい」
「……あの天狗もアホだねぇ……」
「私もあの天狗については未だに掴みかねるところがあるんだよなぁ。さっきもな、あいつが私に会いにきた時に、私が礼を言ったら、何だか不機嫌そうにしてたんだよ」
「射命丸が怒ってたって事? 何に?」
「私にも分からん。それとな、今回手紙を出したことは早苗には内緒にしてほしいとも言われた」
「なんで?」
「知らん」
 神奈子さまは即答します。
「天狗ってのはよく分からないねぇ……」
 諏訪子さまはそう言って、今一度、人に溢れた神社の境内を見下ろしました。
 境内の中央では木の影から飛び出た小傘さんが早苗さんを驚かせようと飛びついてはじゃれ合っていました。
 二人がやっていることは以前とほとんど変わらないはずなのに、意識が違えば周りの反応も違ってくる。人間関係の不思議なところです。
「そういえば、もう一つ分からないことがあるんだけど」
 諏訪子さまが言いました。
「ん、なんだい?」
「なんで射命丸は早苗に手助けしてくれたの? ほら、手紙はともかく天狗が神社の道中の人間を襲うのは上からの命令だったんでしょ? それを勝手に変えるって結構ヤバいことじゃないの?」
 早苗さんと射命丸の仲がいいのはもちろん諏訪子さまも知っていました。
 しかし諏訪子さまの知る射命丸文はそれ以上に種族と天狗社会の秩序を重要視する妖怪でした。
 いくら早苗さんと仲がいいとはいえ、そんな射命丸が上司の命令に改竄してまで早苗さんに手助けしてくれたのは、いかにも不自然だったのです。 
「ふむ、確かに」
 神奈子さまもそれには同意見だったようです。
 神奈子さまは腕組みをして考え込んでから、口を開いて、
「これは私の勝手な想像だけどさ」
「うん」
「射命丸は嬉しかったんじゃないか?」
「嬉しかった?」
「早苗が悩みを打ち明けたのは私たちを除けば射命丸だけだったらしい。それが射命丸が嬉しかった、とか?」
「誰にも話さなかった悩みを早苗が打ち明けてくれたから嬉しくって上司の命令にも逆らったってこと? まっさかー」
「あくまで推測さ。単に私たちに恩を売っておきたかっただけかもしれないし、何か別の理由があったのかもしれない。そもそも早苗がそんなこと意識していたかも怪しいもんだ」
 それからまたしばらくの、沈黙。それから、
「ねぇ神奈子は今回の件どう思ってるの?」
 今回の件……というのが何を指すのかは曖昧。けれど神奈子さまは迷わず答えました。
「早苗にはこんなに親しい友人が幾人もいる。私はとても幸せだよ」
「だよね」
 諏訪子さまもつられて笑いました。
  


      ☆           ☆          ☆


 
「どうもお久しぶりです」
 神社で洗濯物を干していた早苗さんに、空から降り立った射命丸が声をかけました。
「あら、文さん。どうしたんですか、最近顔を見なかったですけど」
 丁度タオルを物干し竿に干そうとしていた早苗さんは、射命丸の顔を見て驚きの表情を見せました。
 先日までほとんど毎日神社に来ていた射命丸が、ある日ピタりと姿を見なくなったので、早苗さんは不審に思っていたのでした。
 射命丸が自分に何も言わずに来なくなるというのは不審極まりなかったので、早苗さんは他の天狗に聞いてみたりもしましたが、要領を得ない回答ばかりで、結局射命丸の行方は分かりませんでした。
 そんな射命丸が、急に姿を見せたので、早苗さんは洗濯を中断して縁側に腰をおろします。
「実は、ちょっとお仕事でミスをしてしまいましてね。しばらく外に出させてもらえなかったんですよ。私が来なくて早苗さんは寂しかったんですか?」
「まぁ少しは寂しかったですよ」
 それは早苗さんの素直な感情でしたが、それを聞いた射命丸はポカンと口を開けました。
早苗さんがそれを問うと、
「いえ、早苗さんは私がいなくなっても、気にしないと思っていたので、ちょっと意外だったんです」
「そりゃ、友人が突然いなくなったら気になるに決まってるじゃないですか。まさか、お仕事のミスなんて文さんらしくもない理由だったとは思いもよりませんでしたけどね」
 早苗さんは、射命丸が来なくなって空白を感じている自分に気付きました。来なくなったら来なくなったで構わないと、そう思っていた筈だったのに、実際いなくなったら足りないものを感じてしまう早苗さんは、自分が思っていたより射命丸とは仲が良かったんだなと思いました。
 それから、立ち話もなんですからと、早苗さんと射命丸は居間に戻り一息つきます。
「はい、文さん。オレンジジュースと柿ピーです」
 飲み物は改善されても、相変わらずの柿ピーに射命丸は文句も言わずに袋を開けて柿ピーを齧っていました。
「そうそう、それに、文さんにお礼を言わなければいけませんでした」
 早苗さんが射命丸に言います。
「お礼?」
「ほら、私の新聞の記事書いてもらったじゃないですか。あれが効果あったのか、最近里の人が私によくしてくれるようになったんですよ。本当にありがとうございます」
 早苗さんは深々と頭を下げました。
 実際のところ、射命丸の新聞の効果は軽微なものではありましたが、早苗さんは射命丸に相談してからわずか数週間で悩みが解決したので、文々。新聞のおかげだと考えていました。
「いえいえ、私は早苗さんの行動を事実のままに書いただけです。全ては貴女の努力の賜物です」
 射命丸は慎ましく謙遜します。
「それに、文さんのおかげで小傘さんとも仲直りできましたし」
「私のおかげ?」
「小傘さんに手紙を書いたのって文さんなんでしょ? あれのおかげで小傘さんと最近すごく仲良くなれたんですよ」
 射命丸は首をかしげて、少し逡巡したように黙ってから、
「ふむふむ、その手紙をいうのは分かりませんが。なぜ私が書いたものだと思ったんですか?」
「マミゾウさんが手紙のにおいを嗅いだら、微かに文さんの匂いがするって」
「あらら、バレてしまっていましたか。マミゾウさんには敵いませんねぇ」
 射命丸は破顔して、自分のおでこをペシリとはたきました。
「よくよく考えたら幻想郷で印刷機持ってるのなんて天狗しかいませんしね。それにしても、いやぁ、あの時小傘さんに謝っておいて本当によかったですよ。あれ以来、小傘さんとの距離がグッと縮まりましたし、今度2人でデート行く約束してるんですよ。小傘ちゃんったら、口ではイヤイヤいいながらも体は正直で本当に可愛いんですよ
 小傘さんとの楽しい予定を思い出した早苗さんは、徐々に語調がヒートアップを始めました。
 仲直りして以来の小傘さんとの数々のエピソードを射命丸に自慢しては興奮して、嬉しそうに悶えていました。
 最後には、小傘さんとのデートの為に新しく買った服を、わざわざ自分の部屋から持ってきてさながらファッションショーのように射命丸に見せびらかしていきました。
 その様子は射命丸の目からみて、実に幸せそうでした。
 自分の出した手紙は早苗さんの悩みを解決してくれた。上手くいく確率はけっして高くなかったはずなのに。
 きっとそれが早苗さんの持っているものが為したこと。自分のやったことなんて大した意味はなかったのだ。
 射命丸はそう思いながら、上機嫌な早苗さんに合いの手を入れながら、2人で笑い合っていました。
「それもこれも、全部文さんのおかげですよ。文さんは、私と小傘さんの恋のキューピットですね」
「あはは、大袈裟ですよ、早苗さん。私は貴女のためにちょっと動いただけなんですから」
 今の早苗さんは小傘さんだけでなく、いつも多くの人に囲まれて毎日を過ごしています。嫌われ者だった頃から比べれば、毎日が楽しくって仕方ないほどです。
 実は射命丸は解放されたあとちょくちょく守矢神社には来ていたのですが、早苗さんが里での友達の家に遊びにいっていたり、そのまま泊まったりとしていて、神社を不在にしていたので、会うことが出来なかったのでした。
 神奈子さまも諏訪子さまも、早苗さんが最低限の仕事さえしてくれれば、里で遊ぶのも許容してくれたので、早苗さんはこのところ毎日鬱憤を晴らすように友達と外遊びに夢中になっていました。
 その裏で、神奈子さまと諏訪子さまが必死で家事のやりかたを覚えていたことは早苗さんには内緒でした。
 早苗さんが大勢の人から引っ張りだこになってしまった今、今後、射命丸が神社に来ても2人きりの時間を取るのは難しいかもしれません。
 今日は珍しく何の予定もなく、たまたま射命丸は早苗さんと会うことができたのです。
「ねぇ、早苗さん」
 新しく買った白のワンピースを着ながら小躍りをしていた早苗さんに射命丸が静かに話しかけました。
「んん? なんですか?」
「今から私とどこかに遊びに行きませんか?」
 早苗さんは小躍りを止めて、ポカンとした顔になりました。
「遊びに?」
「はい」
「誰と誰が?」
「私と貴女ですよ」
「なんでですか?」
「いや、何でって……」
 射命丸は逆に困惑してしまいました。
 早苗さんは、なぜ急に射命丸が遊びの誘いをかけてきたのかよく分かりません。別にその提案そのものがイヤというわけではなく、何となく射命丸は自分とそういうことしないタイプだと思っていたので、純粋な疑問としてこのような反応になったのでした。
「ほ、ほら。私も久しぶりに早苗さんと会えた訳ですし、今日は天気もいいですし。それに、そうですよ。私の新聞のおかげで早苗さんの悩みも解決したわけですし、何かお茶でもおごってもらいたいと思いまして」
 射命丸は必死に早苗さんを誘いました。これではまるでモテないナンパ男だと、射命丸は自分でも心中で自嘲してしまいます。
 射命丸は、全て言い終わってから、
「嫌なんですか? 私と遊びに行くのは……」
 おずおずと早苗さんに尋ねました。
「別に嫌って訳じゃないですけど」
 早苗さんは少し考え込んでから、ニコリと笑いました。
「いいですよ。じゃあ早速行きましょっか」
 言うや早いや、早苗さんは射命丸の手を握りって、そのまま外に引っ張っていきました。早苗さんの突然の行動に、射命丸はなすがままに引きずられています。
 それから早苗さんは2人分の靴だけ拾って、大空へと飛び立ちました。
「もう、早苗さんはいつもそうやって突然なんですから」
 射命丸が眉をしかめて早苗さんに抗議の言葉をぶつけました。しかし早苗さんは全く意に介さず、満面の笑みで、
「まぁ、いいじゃないですか。誘ってきたのは文さんの方ですよ?」
「そりゃ、そうかもしれませんが……」
「さてさて、どこに行きましょうか? 考えてみれば文さんとどこか行くのなんて初めてですね。文さんはどこか行きたいところはありますか?」
「どこでもいいですよ」
 射命丸は、今度は早苗さんの手を握り返しました。
「そうですか、じゃあ私オススメのチョコレートパフェが食べられる甘味所に行きましょうか。アイスクリームがたっぷり乗った、すごい美味しいパフェなんですよ」
「そうですか、それは楽しみですね」
 射命丸は嬉しそうに言いました。
テーマは幻想郷での早苗さんの色んな人間関係でした。今回は出てこなかったけど霊夢や魔理沙も早苗の悩み解決の為に色々してたと思います。可愛い早苗さんは愛されキャラです。
ばつ
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コメント



0.300簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
何これ?作者は東方知らない人?
3.60名前が無い程度の能力削除
あやさなは嫌いじゃないですし話の大筋は面白いと思うのですが、時折出てくる上下水道やらお菓子やジュース、機器類があまりにも幻想郷感から離れてて違和感が…。
ほのぼの路線じゃなくギャグ路線の話ならこういう小物出てきても笑ってすませられるのでしょうが、ちょっと引っかかってしまい話に乗れませんでした。
4.90名前が無い程度の能力削除
低評価なので足踏みしましたが、読んだら結構面白かったです。
早苗さんの悩みが解消されて良かったです。
5.80名前が無い程度の能力削除
さすがにDSは無いわー
素直だけど空気読まない早苗さんがかわい・・・くねー!
6.60奇声を発する程度の能力削除
うーん…
7.80名前が無い程度の能力削除
細かなツッコミどころを除けば、雰囲気とか大筋では面白かったと思う。(偉そう
細かいミスはないけど面白くない作品よりは何倍も良いと思う。
10.60名前が無い程度の能力削除
早苗さん外道すぎる
作中で「早苗さんはこういう部分がダメなんですよ」と、百鬼夜行シリーズにおける関口のように再三、何回も説明されていたので、「まぁそういう事にしよう」と何とか最後まで読みきれましたが…
それでもやっぱり早苗さん外道すぎんよー、と言う感が拭い切れず、イマイチノリきれませんでした
小物やアイテムはそういうもんだと(ギャグとして)思えば別に気になりませんでした
11.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
13.90Admiral削除
面白かったです。
16.100名前が無い程度の能力削除
面白い!
それはそれとして、ゼットン対小傘、お待ちしております
18.90名前が無い程度の能力削除
何だか酷評多いですが、個人的にはとても面白かったです。
小傘は実際人里に近く、命蓮寺にも関わり合いのある立ち位置ですし、ある種の影響力はありそうですよね。
ただ、やっぱり里人の3DSだけは酷く違和感がありました。※3が言うようなジュースは古来日本からありますし、守矢神社だけなら普通に電気が通ってても分かるんですけど。
それと、小傘に影響力があるなら射命丸にも影響力有りそうかなと思ったり…
批判もしてますが、東方2次でもかなり好きな作品でしたので、これからもぜひ執筆お願いします。