落葉の秋。
はらはらと舞い落ちるその紅葉は人々の目を惹きつける。
それは妖怪とて同じことで、彼らも季節を示すその光景には目を奪われる。
ともなれば半妖の僕には人の高揚と妖怪の昂揚の両方が感じられることになるだろう。
だからこそ、両方の様子を眺めたくて。僕はこの話を聞いたのだけれど……。
幻想郷の宴会に風情なんてものはなかった。
霊夢達は人の店前で宴会を行い、やってきた妖怪や人間と酒を飲みかわしている。上など覗きもしない。
僕はと言えば、店の入り口に椅子を置いてチビチビと飲んでいる。上を見上げて悠々と。
すると酒瓶を片手に魔理沙と霊夢が歩いてきた。
「こっちに来ればいいじゃない霖之助さん」
「そーだそーだ。私の酒が飲めないのか!」
こっちに来いと言いながら二人はずいずいと宴会の端で酒を飲む僕に寄って来て。
霊夢と魔理沙は僕を挟むように座り杯に無理矢理酒を注いでくる。飲めというのか。
どこの酔っ払いだと言いたいが、実際彼女達は酔っ払いだ。
僕の言葉など聞きもしないだろう。
だが、言わねばならないこともあるはずだ。
僕は目の前で広がる狂乱に塗れた宴会を睨みながら落葉の美しさを説いた。
そして彼女らの行う季節感もへったくれもない宴会に警鐘を鳴らすべく言葉を紡ぐ。
すると魔理沙は酔っ払いらしいゲラゲラとした笑い声のまま、
「季節感? なら冬になればレティのやつが来るからな。十分冬だろ?」
参加者で季節感など感じてたまるか。
なら秋になら皆秋色の服でも着込めばよろしい。
冬なら宴会も真っ白だ。
そんなことを言っていると霊夢が酔いが廻ったポーッとした顔で呟いた。
「でもやっぱり、秋も飽きてきたわよねぇ」
彼女が駄洒落を言おうとは、と思う前に彼女に呆れた。
彼女が飽きてきたのは秋の宴会ではなかろうか。
酒の肴とかそういう意味合いで。
魔理沙は駄洒落に勝手に爆笑しているし、そういう話には僕が乗ってやるのが優しさだろう。
「君の生きる十数年で季節を飽きられたら秋も呆れるだろうね」
「あら、霖之助さんまで冗談を言うなんて珍しいわね」
酒の席だ。冗談の一つくらい言うさ。
僕は別に静かな酒を楽しんでるからね。
そう言うと霊夢はハァとため息を吐いた後に笑いながら言う。
「まぁ、最近は別の楽しみ方も考えたのよ。それもまた面白いから」
「別の楽しみ方?」
彼女らの宴会は歌って騒いでの狂い咲きのようなものだ。
別の楽しみ方などあるのだろうか。
すると霊夢はポワーッとした夢現な顔でその『楽しみ方』を語り始めた。
「散ってる落ち葉を、雪にして考えてみるのよ。これが雪なら雪見酒ーなんて」
「なるほど、秋に飽きたなら冬を先に考えりゃいいんだな!」
魔理沙が納得して散る落ち葉を雪に見立てているが、それはいかがなものか。
まぁ確かに発想はいいんだが何せ季節感を全て否定した考え、僕としては顔を渋らせるしかない。
するとその僕の顔に気付いたのか、魔理沙が僕の杯に無理くり酒をついで、
「酔えば酔うほど見えるぜ?」
「酒は飲んでも飲まれるなっていうだろう?」
「別に想像力次第よ」
それに、と霊夢が少し残念そうに顔を窄め、
「雪が降るころにはいない人と宴会できてると考えるのよ」
「なるほどね。秋の妖精は冬にはいない。でも君らしくないね?」
人の多い騒がしい宴会だからこそ、その場にいない人間の差という物はわかる。
賑やかし、騒がしくとも居ない者が居ないということに変わりは無い。
秋の妖怪が起こす騒がしさと冬の妖怪が起こす賑やかさが違うように。
それは季節の移り変わりと同じだ。
それが彼女の『季節感』なのだろうか。
「そんな深刻なモンじゃないわよ。ただその風景を思い浮かべただけ」
「ジャンジャン騒ぐ中でかい?」
「まさか。こっちに来たからよ。静かな宴会とやらにね」
こっち、とは僕の元。つまり宴会の場から離れた静かな縁側。
喧騒で飲む酒と静寂で飲む酒はまた大きく味が変わる。
だからこそ霊夢は今ここで騒がずに酒をあおっているのだろう。
そんな状況をあえて壊すように魔理沙が笑って霊夢に問う。
「なら冬に飽きたら春なのか? 春に飽きたらどうすんだ?」
「うっさいわね。その時によるわよ。楽しければいいの」
なるほど、まぁ全然納得できる話ではないが。
彼女の嗜好に乗ってみるのもいいかも知れない。
僕は舞い散る紅葉を見てから少し目を瞑る。
酒の酔いに身を任せ、微睡むように想起する。
はらはらと舞う秋の葉を雪に見立て、足に感じる枯葉の床を雪原に見立てて。
すれば肌に感じる空気は秋のままなれど雪の静かさを感じられる気がした。
しかし季節の先取りなど許されるものだろうか?
ただでさえ一つの季節を楽しみきるには時間が足りないんだ。
まぁそれでも二人が睨む手前、仕方なく雪を想像し酒を酌む。
空想の雪はチラホラと無軌道に揺れながら地に落ちては残る。
それを見ながら酒を飲むのは確かに普通の宴会とは違う物を感じる。
秋なれど冬を感じる宴会。
冬の象徴である雪の糧が秋の象徴である染まった落ち葉だというのがこの宴会の肝だ。
象徴に象徴を被せる事で季節を越えてその季節を感ずることができるのだろう。
「まぁ、この秋の終わりなんだから少ない秋を感じれば良いものを」
「あら、早苗から聞いたけど外の世界じゃ季節は先取るものらしいわよ?」
「おらおら、外の世界に興味のある香霖なら乗るべきじゃないのか?」
魔理沙め、悪酔いしてるな。
落ち着くように冷水をコップについで魔理沙に渡す。
それを酒だと思ったのかぐいっと一気飲みして身震いを起こす魔理沙。
「雪を想像してたら吹雪いたぞ、どうなってるんだ」
「冬越えてお花畑にでもなったんじゃない?」
そういうと魔理沙は苦笑しながら大声をあげて騒乱の中へ入っていく。
雪の想像の件をけし掛けたらしく二人ほどの妖怪がすでに身震いを起こしていた。
「こうやって季節を語ってるんだ。歌の一つでも読んでみたらどうだい?」
「そういう残すことはメンドウだわ」
といいつつも適当に短歌を詠う霊夢。
だが素なのか酔っているからなのか季語も字余りもへったくれもない。
まぁそれもそれでいいと言えばいいのだけど。
「というか今紅葉を雪にって想像してるのに季節の歌なんて書ける訳ないでしょ?」
「それなら2つ歌えばいいさ。秋も冬も両方ね」
試しに二つ僕が詠むと霊夢はすごい嫌な顔をした。
相当に出来が悪いらしい。僕には歌の才能がないというのか。
いや、そうではない。僕も季節の境に身を挟んでいるからだろう。
秋を歌えば雪がチラつき、冬を歌えば紅葉が揺れる。
そんな中で季節の歌を詠えるのは歌人くらいなものだろう。
だが、半端にこの妄想に慣れた手前自分の歌に自信がないのも悔しいものだ。
僕が秋の雪と共に歌を詠む度、霊夢はすこぶる嫌な顔していた。
「今日はやめておきましょ。どうせ霖之助さんは歌人には向いてないわ」
「そうかい?」
「理屈屋には歌人は向かないでしょ。想像したもん勝ちなんだから」
なるほど。店の店主として公正に、理知的に考える自分には歌人は向かないのか。
納得したような顔をした僕を霊夢は呆れた顔で見て、手酌で注いだ酒を飲みほした。
何か浮かばぬものかと改めて前を見てみれば魔理沙が騒乱の中で跳ねていた。
その狂乱ともいえる宴会でもやったらめったらな歌が詠われ続けている。
恐らく僕の、もしくは霊夢の歌を聴いた者がいたのだろう。
字余り、字足らず、季語も無く、重ねも遊びも抜けている。そんな意味なき歌の群れ。
けれど宴の中では大絶賛で、喝采と共に酒が注がれ、飲み干していく。
酒のために歌っている、と言っても間違いないのだろうな、と僕はため息一つに手元の酒に口をつける。
気づけば歌を繋げて夜雀に歌わせようという謎の矜持まで行われようとしている。
「本当に……自由だな……」
「今更でしょ。これが幻想郷の宴会じゃない」
まぁそれはそうだけど、と思いながら酒を口に運ぶと魔理沙がこっちへ駆け寄ってくる。
あっちへ行ったのは酒瓶を新しいのに取り替えてきたかららしい。
どれだけ飲む気だろうと心配しつつ歌の話を振ってみると、
「さっさとなぁ、お前も飲めよ。宴会だろ?」
字余りだな。まぁ季語も何もないけど。
霊夢はまだ空想の雪と戯れているらしくポーッと僕の隣に座っている。
魔理沙はドカリと反対側へ座ると言い方は悪いが夢遊者のように紅葉を雪だと愛でていた。
対極に空想の雪を楽しむ二人を見ながら僕も目の前の騒ぎに想像を混ぜる。
耳の音をハラハラからシンシンと。
紅に染まる景色を白に染めて。
中心にいる騒がしい彩色はそのままだ。
この想像は恐らく冬にまた来るだろう。
「そうよ。霖之助さん」
「そうそう、それは思いつきじゃなくて」
――ただの、必然だ。
恐らく冬にも思うのだろう。未来の春を思って。
雪を花びらに変えて鮮やかに白を彩るのだろう。
だからこそ、今を残す歌を。下手でも詠っておこう。
そう思い短冊と筆を持つと隣に座る魔理沙が待ったをかける。
「おいおい、今書くのは秋の句か? 冬の句か?」
「もちろん秋だよ。今は秋だろう?」
すると魔理沙は指を振り、違うと言って笑顔で答えた。
「歌うのは『春』だぜ香霖。『両手に花』なんだから、な?」
右に座る魔理沙が笑い、左に座る霊夢も苦笑する。
しばらく春以外は書けそうもないな、とため息を吐きながら。
僕は句を考える。
無論、明るい春の句を。
はらはらと舞い落ちるその紅葉は人々の目を惹きつける。
それは妖怪とて同じことで、彼らも季節を示すその光景には目を奪われる。
ともなれば半妖の僕には人の高揚と妖怪の昂揚の両方が感じられることになるだろう。
だからこそ、両方の様子を眺めたくて。僕はこの話を聞いたのだけれど……。
幻想郷の宴会に風情なんてものはなかった。
霊夢達は人の店前で宴会を行い、やってきた妖怪や人間と酒を飲みかわしている。上など覗きもしない。
僕はと言えば、店の入り口に椅子を置いてチビチビと飲んでいる。上を見上げて悠々と。
すると酒瓶を片手に魔理沙と霊夢が歩いてきた。
「こっちに来ればいいじゃない霖之助さん」
「そーだそーだ。私の酒が飲めないのか!」
こっちに来いと言いながら二人はずいずいと宴会の端で酒を飲む僕に寄って来て。
霊夢と魔理沙は僕を挟むように座り杯に無理矢理酒を注いでくる。飲めというのか。
どこの酔っ払いだと言いたいが、実際彼女達は酔っ払いだ。
僕の言葉など聞きもしないだろう。
だが、言わねばならないこともあるはずだ。
僕は目の前で広がる狂乱に塗れた宴会を睨みながら落葉の美しさを説いた。
そして彼女らの行う季節感もへったくれもない宴会に警鐘を鳴らすべく言葉を紡ぐ。
すると魔理沙は酔っ払いらしいゲラゲラとした笑い声のまま、
「季節感? なら冬になればレティのやつが来るからな。十分冬だろ?」
参加者で季節感など感じてたまるか。
なら秋になら皆秋色の服でも着込めばよろしい。
冬なら宴会も真っ白だ。
そんなことを言っていると霊夢が酔いが廻ったポーッとした顔で呟いた。
「でもやっぱり、秋も飽きてきたわよねぇ」
彼女が駄洒落を言おうとは、と思う前に彼女に呆れた。
彼女が飽きてきたのは秋の宴会ではなかろうか。
酒の肴とかそういう意味合いで。
魔理沙は駄洒落に勝手に爆笑しているし、そういう話には僕が乗ってやるのが優しさだろう。
「君の生きる十数年で季節を飽きられたら秋も呆れるだろうね」
「あら、霖之助さんまで冗談を言うなんて珍しいわね」
酒の席だ。冗談の一つくらい言うさ。
僕は別に静かな酒を楽しんでるからね。
そう言うと霊夢はハァとため息を吐いた後に笑いながら言う。
「まぁ、最近は別の楽しみ方も考えたのよ。それもまた面白いから」
「別の楽しみ方?」
彼女らの宴会は歌って騒いでの狂い咲きのようなものだ。
別の楽しみ方などあるのだろうか。
すると霊夢はポワーッとした夢現な顔でその『楽しみ方』を語り始めた。
「散ってる落ち葉を、雪にして考えてみるのよ。これが雪なら雪見酒ーなんて」
「なるほど、秋に飽きたなら冬を先に考えりゃいいんだな!」
魔理沙が納得して散る落ち葉を雪に見立てているが、それはいかがなものか。
まぁ確かに発想はいいんだが何せ季節感を全て否定した考え、僕としては顔を渋らせるしかない。
するとその僕の顔に気付いたのか、魔理沙が僕の杯に無理くり酒をついで、
「酔えば酔うほど見えるぜ?」
「酒は飲んでも飲まれるなっていうだろう?」
「別に想像力次第よ」
それに、と霊夢が少し残念そうに顔を窄め、
「雪が降るころにはいない人と宴会できてると考えるのよ」
「なるほどね。秋の妖精は冬にはいない。でも君らしくないね?」
人の多い騒がしい宴会だからこそ、その場にいない人間の差という物はわかる。
賑やかし、騒がしくとも居ない者が居ないということに変わりは無い。
秋の妖怪が起こす騒がしさと冬の妖怪が起こす賑やかさが違うように。
それは季節の移り変わりと同じだ。
それが彼女の『季節感』なのだろうか。
「そんな深刻なモンじゃないわよ。ただその風景を思い浮かべただけ」
「ジャンジャン騒ぐ中でかい?」
「まさか。こっちに来たからよ。静かな宴会とやらにね」
こっち、とは僕の元。つまり宴会の場から離れた静かな縁側。
喧騒で飲む酒と静寂で飲む酒はまた大きく味が変わる。
だからこそ霊夢は今ここで騒がずに酒をあおっているのだろう。
そんな状況をあえて壊すように魔理沙が笑って霊夢に問う。
「なら冬に飽きたら春なのか? 春に飽きたらどうすんだ?」
「うっさいわね。その時によるわよ。楽しければいいの」
なるほど、まぁ全然納得できる話ではないが。
彼女の嗜好に乗ってみるのもいいかも知れない。
僕は舞い散る紅葉を見てから少し目を瞑る。
酒の酔いに身を任せ、微睡むように想起する。
はらはらと舞う秋の葉を雪に見立て、足に感じる枯葉の床を雪原に見立てて。
すれば肌に感じる空気は秋のままなれど雪の静かさを感じられる気がした。
しかし季節の先取りなど許されるものだろうか?
ただでさえ一つの季節を楽しみきるには時間が足りないんだ。
まぁそれでも二人が睨む手前、仕方なく雪を想像し酒を酌む。
空想の雪はチラホラと無軌道に揺れながら地に落ちては残る。
それを見ながら酒を飲むのは確かに普通の宴会とは違う物を感じる。
秋なれど冬を感じる宴会。
冬の象徴である雪の糧が秋の象徴である染まった落ち葉だというのがこの宴会の肝だ。
象徴に象徴を被せる事で季節を越えてその季節を感ずることができるのだろう。
「まぁ、この秋の終わりなんだから少ない秋を感じれば良いものを」
「あら、早苗から聞いたけど外の世界じゃ季節は先取るものらしいわよ?」
「おらおら、外の世界に興味のある香霖なら乗るべきじゃないのか?」
魔理沙め、悪酔いしてるな。
落ち着くように冷水をコップについで魔理沙に渡す。
それを酒だと思ったのかぐいっと一気飲みして身震いを起こす魔理沙。
「雪を想像してたら吹雪いたぞ、どうなってるんだ」
「冬越えてお花畑にでもなったんじゃない?」
そういうと魔理沙は苦笑しながら大声をあげて騒乱の中へ入っていく。
雪の想像の件をけし掛けたらしく二人ほどの妖怪がすでに身震いを起こしていた。
「こうやって季節を語ってるんだ。歌の一つでも読んでみたらどうだい?」
「そういう残すことはメンドウだわ」
といいつつも適当に短歌を詠う霊夢。
だが素なのか酔っているからなのか季語も字余りもへったくれもない。
まぁそれもそれでいいと言えばいいのだけど。
「というか今紅葉を雪にって想像してるのに季節の歌なんて書ける訳ないでしょ?」
「それなら2つ歌えばいいさ。秋も冬も両方ね」
試しに二つ僕が詠むと霊夢はすごい嫌な顔をした。
相当に出来が悪いらしい。僕には歌の才能がないというのか。
いや、そうではない。僕も季節の境に身を挟んでいるからだろう。
秋を歌えば雪がチラつき、冬を歌えば紅葉が揺れる。
そんな中で季節の歌を詠えるのは歌人くらいなものだろう。
だが、半端にこの妄想に慣れた手前自分の歌に自信がないのも悔しいものだ。
僕が秋の雪と共に歌を詠む度、霊夢はすこぶる嫌な顔していた。
「今日はやめておきましょ。どうせ霖之助さんは歌人には向いてないわ」
「そうかい?」
「理屈屋には歌人は向かないでしょ。想像したもん勝ちなんだから」
なるほど。店の店主として公正に、理知的に考える自分には歌人は向かないのか。
納得したような顔をした僕を霊夢は呆れた顔で見て、手酌で注いだ酒を飲みほした。
何か浮かばぬものかと改めて前を見てみれば魔理沙が騒乱の中で跳ねていた。
その狂乱ともいえる宴会でもやったらめったらな歌が詠われ続けている。
恐らく僕の、もしくは霊夢の歌を聴いた者がいたのだろう。
字余り、字足らず、季語も無く、重ねも遊びも抜けている。そんな意味なき歌の群れ。
けれど宴の中では大絶賛で、喝采と共に酒が注がれ、飲み干していく。
酒のために歌っている、と言っても間違いないのだろうな、と僕はため息一つに手元の酒に口をつける。
気づけば歌を繋げて夜雀に歌わせようという謎の矜持まで行われようとしている。
「本当に……自由だな……」
「今更でしょ。これが幻想郷の宴会じゃない」
まぁそれはそうだけど、と思いながら酒を口に運ぶと魔理沙がこっちへ駆け寄ってくる。
あっちへ行ったのは酒瓶を新しいのに取り替えてきたかららしい。
どれだけ飲む気だろうと心配しつつ歌の話を振ってみると、
「さっさとなぁ、お前も飲めよ。宴会だろ?」
字余りだな。まぁ季語も何もないけど。
霊夢はまだ空想の雪と戯れているらしくポーッと僕の隣に座っている。
魔理沙はドカリと反対側へ座ると言い方は悪いが夢遊者のように紅葉を雪だと愛でていた。
対極に空想の雪を楽しむ二人を見ながら僕も目の前の騒ぎに想像を混ぜる。
耳の音をハラハラからシンシンと。
紅に染まる景色を白に染めて。
中心にいる騒がしい彩色はそのままだ。
この想像は恐らく冬にまた来るだろう。
「そうよ。霖之助さん」
「そうそう、それは思いつきじゃなくて」
――ただの、必然だ。
恐らく冬にも思うのだろう。未来の春を思って。
雪を花びらに変えて鮮やかに白を彩るのだろう。
だからこそ、今を残す歌を。下手でも詠っておこう。
そう思い短冊と筆を持つと隣に座る魔理沙が待ったをかける。
「おいおい、今書くのは秋の句か? 冬の句か?」
「もちろん秋だよ。今は秋だろう?」
すると魔理沙は指を振り、違うと言って笑顔で答えた。
「歌うのは『春』だぜ香霖。『両手に花』なんだから、な?」
右に座る魔理沙が笑い、左に座る霊夢も苦笑する。
しばらく春以外は書けそうもないな、とため息を吐きながら。
僕は句を考える。
無論、明るい春の句を。
詩的な表現が雰囲気を出していますが、その分何やら読みづらくなっているよう思いました。