「お茶、あとお菓子」
「ちょ……ちょっと、待って……」
秋もそろそろ終わろうというころ、東風谷早苗は季節外れの陽気と、突然の客人たちに困惑しながら対応していた。
全くこの幻想郷の住民はいきなりで唐突で、相手の事を考えるという気づかいに欠けているような気がしてしまう。それのもっともたる三人がまったく同じタイミングできてしまうというのも困惑に拍車をかけていた。
「あ、私はクッキーがいいな。せんべいなんか霊夢のところで食い飽きてるしな」
「それなら私は飴とかが良いわねえ。甘いものに御無沙汰だし」
居間にて不愛想に頬杖をつく霊夢を筆頭に、胡坐をかいて楽にしている魔理沙、扇子で口元を隠しつつ優雅な笑みを浮かべる紫。今のところ、早苗が苦手にしている三人組だ。この三人ときたら唐突に花見に誘っては何一つ喋らないまま解散したり、飲み会に無理やり連れだされれば飲みつぶされたりと、何をしたいのだかさっぱり分からない行動をとる。それも三人一緒の時に限ってだ。個々で会う時に関しては、霊夢は愛想こそ悪いがもてなしてくれるし、魔理沙もマジックアイテムを嬉しそうに見せびらかしてくれたりする。紫に関しては知り合って間もないが、特別害があるという訳でもなさそうだった。何故三人集まると、こうも面倒な存在になってしまうのか。これを考察するのが最近の早苗の暇潰しになりつつある。
「ゼエッ……は、はい。お菓子です、あと、お茶」
ようやっと、もろもろの雑事を済ませて早苗が居間に入った時、三人が目配せしあう。何かを口に出さずに確認したりする際に使われる方法なのだが、これがこうもまるわかりだと、目配せなんぞする必要ないのではと思ってしまう。息を整えて、急須をもって三人分の湯呑にほうじ茶を淹れる。考えてみれば、こっちに来てからだ。外の世界に居た時なんて、お茶を淹れるなんて発想すらしなかった。近所のコンビニで買って、それで終わり。それがこちらでは酷く手間のかかることになっている。けして嫌ではないが、便利を知ってしまっている早苗からすれば、便利だった頃が懐かしくなってしまうというのも事実だ。
「早苗……?」
「……はっ?」
突然、紫が話しかけてきたので、急須を揺らしてしまった。当然、注いでいた茶がこぼれて、紫の服を濡らした。
「あ!す、すみませんっ!えと、あの、ちょ、ちょっと、待っててください!」
「あ、ああ。いいのよ。こんなの」
紫がとりなすように、座るよう早苗に言う。
「優しいわねえ、早苗には」
「そうそう、藍ならこうはいかないぜ?」
「う、五月蠅い。黙ってなさい」
茶化されて、紫の顔が赤くなる。なんだか幼いなあ。何処となく可笑しく、早苗がクスリと笑った。
じろり、と睨まれた、ような気がする。
「ま、まあ、その、こういうこともあるの。あまり気にしないで良いわよ?」
「は、はあ……」
よほど間抜けにキョトンとしていたせいで、紫の毒気も抜けたのだろうか。早苗からすれば、この奇妙な場から抜け出せないものか、と考えてはいたものの、三人が三人居座ってしまえば、どうにも出て行けとは言いづらい。
「早苗さぁ。もうここにきて結構経つじゃない?どうなの実際?」
「どう……といわれても。良い場所だと思いますよ?」
「外の世界と比べたら?」
霊夢の問いに、早苗は少し考えて返す。
「どっちも良い面があって悪い面がありますからねえ。単純に比べられませんよ」
「例えばどんなのだ?」
今度は魔理沙が、クッキーを齧りながら聞いてくる。
「例えば、ですか……自動でお洗濯してくれる機械なんかはこちらに無いですから、そういう意味ではあちらは優れているかもしれません。ただ、あちらに住んでいる人たちの大半は、こちらの方が良いくらいはいうと思いますよ。ご飯が食べられる幸福をもの足りないと感じている人がほとんどですから」
「そりゃあ随分贅沢だな。しかし、自動で洗濯か……なあ紫」
「ダメ、あれは便利だけど幻想郷には不要なものなの」
残念そうに眼を伏せた魔理沙を無視して、のんびりとした時間が過ぎていく。珍しい。どこで爆発するかと、戦々恐々としていた早苗からすれば、ほっと息を吐けることが嬉しかった。
「ところで、なんでここに来られたんですか?」
ピクリと、三人が反応したのを見て、早苗は自分が変な地雷を踏んだことを感じた。
「ええ~っと………実はね、お菓子をつまみ食いしたの藍にばれちゃって……泊めてくれない?」
「アリスの人形壊しちゃってさ、気まずいから泊めてくれ」
「退屈だから、泊めなさい」
早苗は頭を抱えて、口を開いた。
「帰れぇっ!!」
「ちょ……ちょっと、待って……」
秋もそろそろ終わろうというころ、東風谷早苗は季節外れの陽気と、突然の客人たちに困惑しながら対応していた。
全くこの幻想郷の住民はいきなりで唐突で、相手の事を考えるという気づかいに欠けているような気がしてしまう。それのもっともたる三人がまったく同じタイミングできてしまうというのも困惑に拍車をかけていた。
「あ、私はクッキーがいいな。せんべいなんか霊夢のところで食い飽きてるしな」
「それなら私は飴とかが良いわねえ。甘いものに御無沙汰だし」
居間にて不愛想に頬杖をつく霊夢を筆頭に、胡坐をかいて楽にしている魔理沙、扇子で口元を隠しつつ優雅な笑みを浮かべる紫。今のところ、早苗が苦手にしている三人組だ。この三人ときたら唐突に花見に誘っては何一つ喋らないまま解散したり、飲み会に無理やり連れだされれば飲みつぶされたりと、何をしたいのだかさっぱり分からない行動をとる。それも三人一緒の時に限ってだ。個々で会う時に関しては、霊夢は愛想こそ悪いがもてなしてくれるし、魔理沙もマジックアイテムを嬉しそうに見せびらかしてくれたりする。紫に関しては知り合って間もないが、特別害があるという訳でもなさそうだった。何故三人集まると、こうも面倒な存在になってしまうのか。これを考察するのが最近の早苗の暇潰しになりつつある。
「ゼエッ……は、はい。お菓子です、あと、お茶」
ようやっと、もろもろの雑事を済ませて早苗が居間に入った時、三人が目配せしあう。何かを口に出さずに確認したりする際に使われる方法なのだが、これがこうもまるわかりだと、目配せなんぞする必要ないのではと思ってしまう。息を整えて、急須をもって三人分の湯呑にほうじ茶を淹れる。考えてみれば、こっちに来てからだ。外の世界に居た時なんて、お茶を淹れるなんて発想すらしなかった。近所のコンビニで買って、それで終わり。それがこちらでは酷く手間のかかることになっている。けして嫌ではないが、便利を知ってしまっている早苗からすれば、便利だった頃が懐かしくなってしまうというのも事実だ。
「早苗……?」
「……はっ?」
突然、紫が話しかけてきたので、急須を揺らしてしまった。当然、注いでいた茶がこぼれて、紫の服を濡らした。
「あ!す、すみませんっ!えと、あの、ちょ、ちょっと、待っててください!」
「あ、ああ。いいのよ。こんなの」
紫がとりなすように、座るよう早苗に言う。
「優しいわねえ、早苗には」
「そうそう、藍ならこうはいかないぜ?」
「う、五月蠅い。黙ってなさい」
茶化されて、紫の顔が赤くなる。なんだか幼いなあ。何処となく可笑しく、早苗がクスリと笑った。
じろり、と睨まれた、ような気がする。
「ま、まあ、その、こういうこともあるの。あまり気にしないで良いわよ?」
「は、はあ……」
よほど間抜けにキョトンとしていたせいで、紫の毒気も抜けたのだろうか。早苗からすれば、この奇妙な場から抜け出せないものか、と考えてはいたものの、三人が三人居座ってしまえば、どうにも出て行けとは言いづらい。
「早苗さぁ。もうここにきて結構経つじゃない?どうなの実際?」
「どう……といわれても。良い場所だと思いますよ?」
「外の世界と比べたら?」
霊夢の問いに、早苗は少し考えて返す。
「どっちも良い面があって悪い面がありますからねえ。単純に比べられませんよ」
「例えばどんなのだ?」
今度は魔理沙が、クッキーを齧りながら聞いてくる。
「例えば、ですか……自動でお洗濯してくれる機械なんかはこちらに無いですから、そういう意味ではあちらは優れているかもしれません。ただ、あちらに住んでいる人たちの大半は、こちらの方が良いくらいはいうと思いますよ。ご飯が食べられる幸福をもの足りないと感じている人がほとんどですから」
「そりゃあ随分贅沢だな。しかし、自動で洗濯か……なあ紫」
「ダメ、あれは便利だけど幻想郷には不要なものなの」
残念そうに眼を伏せた魔理沙を無視して、のんびりとした時間が過ぎていく。珍しい。どこで爆発するかと、戦々恐々としていた早苗からすれば、ほっと息を吐けることが嬉しかった。
「ところで、なんでここに来られたんですか?」
ピクリと、三人が反応したのを見て、早苗は自分が変な地雷を踏んだことを感じた。
「ええ~っと………実はね、お菓子をつまみ食いしたの藍にばれちゃって……泊めてくれない?」
「アリスの人形壊しちゃってさ、気まずいから泊めてくれ」
「退屈だから、泊めなさい」
早苗は頭を抱えて、口を開いた。
「帰れぇっ!!」
泊まったとこからが本番ではなかろうか
あと、同じ作品が投稿されてませんか?