あつい。
レティがいなくなり、あの小うるさい春告精もいなくなってしまった。
せみがないていて、夏がやってきたって感じがした。
あたいが、一番苦手な季節だ。
あつくて体がべとべとするし、力も出ない。
「あーつーいー!」
太陽なんかどっか行っちゃえ!
思いっきり叫びながら、神社を目指しながら飛んで行った。
「はーっ」
神社はいつも通り誰もいない。
ここは木々が生い茂ってるし、風の通りもよくて気持ちがいい。
「あら、チルノ」
運が良ければ、こうして霊夢のお茶にありつける。
「れいむぅ~」
そのまま縁側に寝転がる。
お世辞にも冷たいとは言えないけど、風と影が気持ちがいい。
「暑いでしょ、麦茶飲む?」
「飲む飲む!」
そう言って霊夢は奥に戻っていった。
機嫌のいい時の霊夢はすごく優しい。お茶からお菓子まで何でもくれる。
だけど、その時の霊夢は様子が違った。
「……はっ!」
嫌な予感がして頭を下げると、すごい勢いで霊夢のお札が飛んできた。
「外したか……」
「な、なにするのよ!」
「おとなしく私に捕まってくれれば悪いようにはしないわ」
*STAGE1 避暑地巫女 博麗霊夢*
霊夢の眼はマジだった。
そしてその言葉で、あたいは思い出した。
そうだ、この季節は―――。
あたいは大急ぎで縁側から飛び立つ。
「ちっ!」
霊夢は容赦なくお札を投げつけてくる。
さいきょーのあたいも、この暑さで全力を出せない。
その時、あたいの頭がこうしろとささやいた。
「こ、これで何とかしときなさいよ!」
だいたい霊夢と同じくらいの大きさの氷をつくりあげ、霊夢に投げつける。
霊夢はスペカを吹っ飛ばしたり、抵抗しなかった。
それは縁側の庭に落ちて行く。
「これでイッケンハッチャクね」
霊夢がその氷にしがみついている姿がみえた。さるみたいだ。
それに安心して、あたいはこっそりはなれた。
そう、なにをかくそうこの時期のあたいは人気者なのだ。
人気者はつらい。面倒なんだ。
あたいの冷たさがさいきょーすぎて、みんなあたいにひれ伏すどころか抱き着いてくる。
でも、あたいだって暑い。
「人気者はつらいよ」
コーリンドーで聞いた言葉だ。テレビのおっちゃんがしゃべってた。
たしかこんな言葉だったと思う。
「ほかに涼しいところ……」
湖を渡り終えると、あの真っ赤な館が見えてきた。
その前で誰かが手を振っている。
「あ、めーりんだ」
*STAGE2 炎天下の門番 紅美鈴*
門番のめーりんがこっちを見て手を振っている。
呼ばれているようなのでいってあげる。
「どうもこんにちは」
「なぁに美鈴?」
するとめーりんは手を差し出してこういった。
「これと交換で、氷をくれませんか?おっきいのを1つ」
手の平が開くと、おいしそうなあめだまがいっぱいあった。
そんなに欲しいなら仕方ないなぁ。
「えいっ!」
「おおっ!」
氷のかまくらを一つ作ってやった。
あたいったら芸術の才能もあるわね!
「いやーありがとう!これで涼しくなります」
かまくらにはいって幸せそうなめーりん。
あたいも満足。人気者は何も言わず去っていくの。
あめだまおいしいな。
今の時期、湖はとてもぬるい。
だから川の方をさかのぼってみよう。
そう思ったんだけど、なんかずっとあたいを見ているやつがいる。
見えないけど、見られてる感じがする。
「どこだ……?」
ちょっと止まってみる。
上下左右確認。飛ぶときに確認しろって魔理沙がいってた。
そしたら右から、なんかすっごいはやさでやってきた。
「チルノさああああん!」
「げっ!」
天狗だ!
*STAGE3 妖精に最も近い天狗 射命丸文*
点にしか見えなかったその姿は、あっというまに目の前にやってきた。
「やっとみつけました!」
「うわっ!はなせ!」
あたいの体ががっしりと掴まれてしまう。あつくるしい!
「はぁ~、チルノさんの体、冷たくて気持ちいいです」
髪に鼻を押し当ててくる。
ぎゅっと抱きしめられてさらにあつくなる。
しかもやわらかいのがあるせいでもっと苦しい。
でもふわふわしてる。ずるい。
「やめろ!はなせぇー!」
「おおっと」
やたらめったらに弾を放つ。
しかし全部かわされてしまった。
あたいは、夏のコイツが苦手だ。
「まってくださいよぉ~」
あたいがどれだけ逃げても余裕の表情で追いついてくる。
さいきょーのあたいも、文からは逃れられない。
くっそぉ……!
「それっ!」
「っ!」
抱き着いてくる天狗をギリギリでよける。
「うーん、埒があきませんねぇ」
そんなことを言っている。
文はあたいを完全に舐めきっているのだ。
ゆるせない!
「………!」
ここであたいの直感がピキーン!となった。
まずは目くらまし!
「凍符「パーフェクトフリーズ」!」
「む、氷弾幕で進路を妨害する気ですか」
しかし流石は天狗。あたい以上にあたまがいい。
すいすいと弾幕を抜けていく。
「涼しい弾幕ですね」
「そうやって余裕ぶっていられるのも今の内よ」
「ふふふ、どこへ行こうというのですか」
あたいはむかう。一直線に向かう。
もう天狗はすぐ後ろだ。はやく……!
「たすけて!れいむー!」
「んなっ!?」
鳥居が見えたので思いっきり叫んだ。
それにこたえるかのように、お札が飛んでくる。
「うわっ!」
文が怯んだ隙に、あたいは一目散に霊夢の元にかけた。
霊夢は鳥居の後ろに立っていた。
「嫌がっているという子供を追いかけるとは、感心しないわね」
「霊夢さんッ……!」
「あなた自身に代わって『射命丸文は幼気な妖精を追いかけるロリコン天狗』と言う真実を伝えましょうか?」
「ぐぬぬ……霊夢さんが後ろについた以上分が悪いですね」
「そうそう、おとなしく引きなさい」
なにやら捨て台詞を吐いた後、文はどっかに飛んで行った。
あたいの大勝利!
「霊夢、ありがとね!」
あたいはお礼を言い残して去る。
これが礼儀だってけーねが言ってた。
「え゙んっ!?」
帰ろうとすると、目の前の何かに頭がぶつかった。
何もないところに何かあるような。
「なによこれ……」
まるで透明な氷が目の前一面にあるかのようだ。
上を見てみると、なんか浮いている。
紙?……お札?
「霊夢、これ―――」
「結界よ。ちょっとしたね」
後ろから声がした。
「そんなに急いでも、逃がしゃしないわよ」
振り向くと、霊夢がにっこりして立っていた。
とても怖い。涼しいというより、背中がひんやりしている。
「この暑さじゃ、氷一つだけでは満足できなかったのよねぇ」
あたいが氷を作ってたはずの場所には、もうなにもなかった。
「ねぇチルノ。この夏が終わるまでくらい、うちでゆっくりしていきなさい」
*EXTRA STAGE 涼を求めるの巫女 博麗霊夢*
暑い日にはチルノを眺めれるなら汗拭きタオルとスポドリがあれば生き残れる自信がありますね!(無駄の極み)
2人の追いかけっこが微笑ましいですw(チルノにはいい迷惑だけど)
これだけ切れるならそのうち自力でなんとかしそうな気がする