Coolier - 新生・東方創想話

小悪党の尽きない話

2014/11/01 21:08:23
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秋は何をするにも適した季節だ。読書も亦然りである。
師も走る練習をしているだろうこの幻想郷でも、書を求める者は少なくない。
勿論、非合法的に求める者もいた。

ビビットカラーな色が舞う。少女は本を片手に満足そうな笑みを浮かべていた。
「うーん、秋は目ぼしい本が大漁だな」
紅葉色の洪水とは裏腹にモノトーンな盗人が呟く。
そんな綻んだ顔を尻目に目出度い巫女が呆れ気味に返す。

「盗むって字は借りるとは読まないわよ」
「それを言うのは何度目だ。窃盗じゃなく窃盗に限りなく近い借用だと言ってるんだ」
「窃盗かも知れないって意識はあるのね」
シーフは巫女の言葉を真剣に聞くわけでもなく目の前の本に見入っている。
どうやら堅固過ぎる封印がかかっているようだ。
霊夢が尋ねる。
「それ、妖魔本?」
魔理沙は得意満面だ。
「あぁ、アルマンダルとヘプタメロンの写本だ 本物かどうかはさておきな」
「少なくとも写本の時点で本物ではないわね」
「写本にも偽物があるんだよ 内容の捏造もざらだからな」
「あっそう」

初めから話を真面目に聞く気が無かったようだ。
しかし話を右から左への霊夢にも気になるところがあったのか、魔理沙に訊いた。
「で、それ紅魔館から借りた本なんでしょ?また前みたいに本人直々に奪還されるんじゃないの?」
それを聞いて魔理沙が猫のように笑う。
「いいや、今回はアリスのとこから拝借してたんだ」
「あぁ、タカリ先が変わっただけなのね」
納得がいったようだ。本当にそれでいいのか。
「はぁ……いつになったら心象が良くなるんだろうな」
「それをやめることね、出来るだけ早く」
「生きがいでもあるんだがな」
「三途の川が月までの道よりも長そうね」
「照れるぜ」
霊夢が深い溜息を吐く。
魔理沙もそれに合わせ大きな伸びをして横になった。

「うーん、読書の秋ってのは最高だな」
「まぁ、悪くは無いわね」
「そこでなんだがな……」
「前みたいに封印を解くのは手伝わないわよ」
霊夢が言うと魔理沙はあからさまに拗ねた。
以前紅魔館の魔女からこっぴどい仕打ちを受けたのを思い出したようで、魔理沙は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「暇そうな顔してんのにな」
「顔で選ぶな」
「まあいい。もともと読み終わった本だしな。お前も手伝ってくれないようだし、返してくるぜ」
「珍しいわね。返すなんて」
霊夢が目を丸くする。相当驚いているようだ。
魔理沙はさも当然という風に言い放った。
「そりゃあ、借りてるからな 私だって気が向いたら返すんだよ」

白黒強盗は落ち葉を吹き上げ、秋の疾風となって消えていった。

「んー、明日は雨かな……」
そういって霊夢は寝た。


____


魔法の森に魔理沙は居た。
「霊夢の手前返すとは言ったが……いざ返すとなるとちょっと面と返すにはな……」
魔理沙はそう呟く。軽くは無い足取りで土を踏む。
どうやら罪の意識はまだ欠落しきってはいないようだ。
欠落しきらないうちに、不盗の誓いでも立てさせておくのが良いかもしれない。
「珍しく別の処から借りたからな…… 人形遣いが鬼になるかもしれん」
もし華扇が居合わせたなら問答無用で善人になるための修業をさせられていたであろう。

魔理沙の足はゆっくりながらもアリスの家を目指していた。
森の瘴気はしっとりと魔理沙を包み込むようだ。

知らず知らずのうちに忍び足になる。
アリスの家の前で、魔理沙は一度深く息をした。
まるで本当に盗みをする時のように繊細な手つきでドアに手をかけた。
秋の晴れ間に似つかわしくない、湿気を吸った木の音がした。

「……居ないのか」
外出でもしているのだろうか、アリスの姿は見当たらない。
当人に見つからずこっそり返せる環境は魔理沙の様な小悪党には絶好の機会だ。
「むしろ好都合だぜ」

何度も本などを借りたことのある行きつけの借り場だったので本棚を探すのは容易であった。
さっさと慣れた手つきで本を並び順にしまい、贖罪のつもりなのか本棚を少し掃除した。
ふぅ、と息をつく。不法侵入者の癖にひと仕事してやったりな風であった。
「これで全部か ……しかし大体ダンジョンは行きよりも帰りの方が危ないのが定説だからな」
慎重にドアを開け、アリスがいつも人形を作る工房を通り玄関に向かおうとした時だった。

後ろから妙な音がした。しかも自分の帰りを待っていたかのように。
さっきまで無かったものが、確実にある。
生き物の様な気配を後ろに感じる。
冷や汗が頬を伝う。


見つかってしまったか…?
恐怖と後悔が魔理沙を襲う。
どもりながら魔理沙は謝る。
「あ、アリスか…? わ、悪かった、勝手に入って……」
だが魔理沙が目にしたのは自分だった。
しかしあまりに怪奇な自分であった。

髪だけしか揃ってない顔。
剥き出しの黄色い目。
取れかかった腕と関節。
そして胸に貼られた呪符らしきもの。

魔理沙は慄いた。そして、叫んだ。

「悪かった、アリスっ、許してくれっ」
言い終わらないうちに魔理沙は駆けだした。
__こんなところに居られるか。
しかし恐怖で変に力が入ったせいか、足を挫いてしまった。
怪奇な自分は一歩、また一歩と距離を縮めてくる。

「悪かったって、だから呪わないでくれっ」
半泣きになりながら許しを請う。
必死で這いずっていると前のドアが開いた。
白装束を着たアリスを見て、魔理沙はとうとう気を失った。



____



「まぁ本を無断で借りるのは擁護しないけど呪いだと誤解させたのは悪かったわね」
笑いながらアリスが紅茶を淹れる。魔理沙はバツが悪そうだ。
「呪い殺されるかと思ったぜ……」
小さい魔理沙がさらに小さく見える。
「それに、白装束って…… うふふ、白エプロンを白装束に見間違えるって相当怖かったのね……あはは」
アリスにとってはとてもおかしかったようで、笑い泣きしそうな勢いだ。
「むぅ…… そういや何であんな不気味な人形を作ってたんだよ」
ぶすったれて魔理沙が言った。涙を指で拭ってアリスが答える。
「あー、あれは自律型人形のプロトタイプよ。作ってる途中で材料が足りなくなっちゃってね。霊夢にもらった札の効果を試すついでに動きを封印できないかなって」
「今度は材料を揃えておいてくれよ」
足に包帯を巻かれながらそう言った。よくいけしゃあしゃあと言えたものだ。
アリスが幽かに微笑んで言った。
「今度は無断で借りて無断で侵入しないように」


___


翌日__

博麗神社はいつも通りがらんどうだった。
「結局晴れてるし、本返さなかったのかなぁ」
煎餅を齧りながら呟くと、箒に乗った白黒がゆっくりと来るのが見えた。
「あー…なんか凄く疲れたぜ」
「……で?結局返したの?」
魔理沙は露骨に嫌な顔をした。
「返したぜ」
「ふぅん。珍しいこともあるのね。変なキノコでも食べた?」
お茶を啜りながら霊夢が訊く。
「あー、キノコの選別に関しては相当な自信があるからな。間違えはしない」
「ああそうかい。また借りに行くの?」
その言葉にきっぱりとした口調で魔理沙は答えた。
「いや、しばらくは借りないことにした」
魔理沙がいつになく静かで、すわ異変か、と霊夢が御幣を取る。

「いつになくおかしいわね。何か憑いてる?」
「ツイてなかったんだよ」


人里ではこの話が、盗みは良くないという教訓の話になっているとかいないとか。
読了有難うございます。多分魔理沙はこんな小心じゃないかもしれません。
盗んで許されるのは心くらいですね。私には盗めませんけど。
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コメント



0.620簡易評価
12.90名前が無い程度の能力削除
この二人がやっぱり好き
17.無評価ミスターX削除
自律型魔理沙人形を作って何に使うつもりだったのやら