1.飛ばない紅白
最初は地上で輝く星だった。
どこにでもいる女。幼いのに無愛想で面白味のないガキ。いけ好かない奴。
だから攻撃した。それは、あの人がそうしろと言ったからだったし、個人的にあいつが気に食わなかったからだ。
だがやり合ってみれば、こいつは中々面白い。だんまり女かと思えばぺらぺら喋るし、のろのろ動くのかと思ったら俊敏に避けるし、感情の起伏に乏しいのかと思えば激情家だ。
かと思えば、一連の出来事が終わった後は、いつの間にかそいつは、私に笑顔を向けるようになっていた。能天気な奴だ。
私はそいつに、夜天に瞬く光を見た。
いつ、どこで、どんな時に、どんな風にその想いを抱くかに至ったかは、まるで覚えていないけど、今でも、私はそう思っている。あの頃のあいつは地上にありながら天にもある星だった。
星が瞬くように、笑い、怒り、泣いて、また笑う。最初に見た時に感じたあれはなんだったのかというくらい、あいつはころころと感情を転がして、私に色々な表情を見せた。
遊びに行けば笑いかけられる。からかえば怒る。喧嘩すれば泣かれて、仲直りしたら笑顔が戻った。
普通の女だ。そう思った。
こいつは、何か得体のしれないものではなく、ただの人間。未知のそらにある未知の星ではなく、普通の少女。
だが輝いている。
一定の線の上を綱渡りするみたいに揺れ動くそいつの感情は、隣に立って間近で感じてみると、恐ろしいくらい強い輝きを放っている。パワーと言いかえてもいい。こいつにはそれだけのものがあって、そしてそれは、魅力的なものだった。
だって、そうだろう。
星の輝きに魅せられた、とまではいかなくとも、綺麗だと思わない奴がいるはずもない。
その通りに私は惹かれ、気がつけば日常の多くをあいつと共有していた。
楽しかった。
それまでを忘れ、今を覚え、これからに思いを馳せて生きるのは。
自分の何かを捨てる事が強さに繋がる、と、あの人は言った。
抱えていては動けなくなる。それでは前に進めない。想いは敵だ。制御できないなら捨ててしまえ。
どうだろう。それは必要な事か、考えてみた。
私は力を求めていた。見返してやりたい一心で、魔法の力をこの手に掴んで、がむしゃらに走って来た。
とんだ非行少女だ。ああ、今も飛んで、飛行少女になってるけどな。
まあいい。この話はどうでもいい。
捨てる事が力になるかという話だった。
私にはあの人の清い考えを理解するのは難しい。いや、あの人が難しい話ばかりするのがいけない。だいたい文字もろくに書けない子供に、哲学染みた問いかけばかりをするのは、絶対おかしい。
いや、今思えばあの人、わかっててやっていた節があるような気がする。
頭を抱えて必死に考える私を笑みを浮かべながら見てくるのは、今にして思い出してみれば、そういうのだったのだろう。……腹が立ってきた。
いや、違う。そんな話はどうでもいい。あの人はもう死んだ。いや、元々死んでるが、そうじゃなくて。
私がこの手で消したんだ。もういない。いない奴の話をしても仕方がない。
今は、あいつの話がしたい。
あいつは、そう、あいつは星だった。私が魅せられた星。綺麗で、いつかは消えてしまいそうな尊いもの。
あいつの笑顔が、時折見せる色の無い顔に戻るのを見て、幼心に思った。きっとこのままでは、こいつは夜の闇に溶けて消えるんだろうな、と。
だったら私が照らしてやればいい。
暗闇の中に隠れてしまっても、全部照らし出して見つけられるように。
そのためには私は何になるべきか。太陽か? 月か? ……いや、同じ星がいい。でも、あいつは掴みどころのない奴だ。できるならどこにだっていける星がいい。
その日から私は流れ星になった。流星だ。これならどこにだって行ける。どこだって照らし出せる。
だがそうなってみてわかった事がある。
あいつは動かない。
いや、歩いたり跳ねたり料理したり洗濯したりと忙しなく動くが、そうでなくて、あいつは、生活の場である神社の中に縫い止められたままで、私にはそれがまるで、動いていないように見えたのだ。
あいつの世界は、どうやら母親と私で完結しているらしい。私が流れ星になる必要もなく、あいつはそこで輝き続けていた。
2.空を飛ぶ紅白
あいつは天に昇った。
死んだって意味じゃない。そのままの意味だ。
あいつは飛べるようになった。……元々飛べなかったんだ。飛ぶ必要も無かった。
だがあいつは飛び始めた。私にはただ浮いているようにしか見えないが、あいつにとっては空を『飛んで』いる、らしい。よくわからない。
だが一つわかる事は、もう私の箒にあいつが乗る事はない、という事だ。
箒に跨るたびに、後に続く重みを思い出す。少し前なら、後ろにきいとあいつが腰かけて、一人分の体重に僅かに箒が傾き、揺れる。
いつもよりもずっと傍に感じる体温。そっと肩に当てられる手。風に流されて、私の髪と交じり合うあいつの髪。
風に溶けていく息さえ、もう感じる事はできないのかと思うと、どうしてかあいつの顔が見れなくなって、数日、私は家にこもった。
だがそれは、結構良い判断だったかもしれない。
あいつは母親を亡くして、表面上は普段通りの様子を見せながらも、酷く傷ついていたようだから、しばらくそっとして、気持ちの整理をつけさせてやるのが良かったのだろう。
なんてのは、まあ、大分経ってからふと思った事だ。
実際は、久しぶりに神社に行ってみれば暗く淀んだあいつがいて、私は必死になってあいつの笑顔を取り戻そうと奮闘した。
私が傍にいる。私がお前を照らす。いつまでも、どこまでだって、ずっと。
……そんな恥ずかしい事は口走ったりしてないが。……してないよな。……よく覚えてない。
とにかく私は、あいつの笑顔を取り戻す事に成功した。
ほとんど時間が解決したようなものだったが、それでも、私のおかげだと弱々しく微笑むあいつを見て、私の心は舞い上がった。そらにだ。今度はあいつも一緒だった。飛べるようになったあいつは、私と一緒に空へと浮かび上がってきた。
星の光が近くなると、いっそうあいつは輝いて見えて、私は危うく箒から落ちそうになって、あいつに笑われた。
……星が星に照らされると、こんなにも綺麗に見えるんだ。
ぼーっとあいつの顔を見ていれば、今度は怒り顔で額を小突かれて、私はまた落ちそうになって。
とにかく、笑顔が戻って良かった。
飛べるようになってしまったのは少しばかりショックだったが、でも、私は流星だ。お前がどこに行こうと、自慢のスピードで追っかけてやる。
あいつは、ついに空に輝く星となった。
でも他の星とは違う。満天の星空の下、あいつは一人寂しげに浮かんでいる。その隣に並べるのは、あいつを追う流れ星である私だけだ。
飛べるようになって、あいつはようやく動き出した。空に、人里に、名も知らぬ野に、あっちへこっちへ飛び始めた。
ほとんどは家でぐうたらしているが、時折そうして出かけるようになった。当然、私はついていった。
他愛もないお喋りをする間も、風に流れた長いリボンが泳いでいるのを見ている時も、後ろからスカートの中身が見えそうになっている時も、あいつは始終私を見ていた。
ひょっとして、お前も同じ気持ちなのか。だとしたら、嬉しい。
私は胸が鼓動に合わせて跳ねるのを感じていた。同じ気持ちなら、これ程嬉しい事は無い、と。
まあ、そんなはずは無かったのだが。
あいつはただ、一番近く、一番顔を合わせる私を、癖のように見ているだけだった。
時が経ち、あいつが巫女としての務めを果たし始めると、交流が広がって……あいつは、私だけじゃなく、他にも顔を向けるようになった。
私に向けるのと同じ顔をだ。
……それに気づいた時の私の心情は、流石に口でも文字でも表せない。
私にとってあいつは綺麗で特別なものだったが、あいつにとって、私はそうではなかった。
ただそれだけの事が、私の中に大きな亀裂を作り、少しずつ、少しずつ、罅割れを広げていった。
きっとそれは、広げちゃいけないものだ。
それこそ、捨てなければいけないものだ。
でなければいつか私はこの身を滅ぼすだろう。
……だったら、なんだっていうんだ?
それを捨てるって事は、私が今まであいつに、そらに思い描いてきた想いを、全部纏めて捨てるって事だ。あいつとの日々を否定するって事だ。全部全部無かった事にして、一からやり直すって事だ。
馬鹿が。そんな事、できる訳がない。
あいつが私以外に顔を向けるからって、なんだっていうんだ。
私はただ傍にいるだけだ。そこでお前を見続ける。地上でも、空でも。
3.砕けた流星
私はこの空でずっとお前を見続けてきた。
……どこかで聞いたフレーズだ。
少し先の青空を行くお前を見ていると、どうしても胸が痛む時があって、そんな時、私は帽子のツバをちょいと引っ張って顔を隠す。
そうすると、お前は私を振り向いてくれて、横に並び、私の顔を窺ってきてくれた。
それが嬉しくて、痛みなんてすぐに引いてしまうと、お前はそのまま隣にいて、私に話しかけてくれる。
他愛もない話。
変わらない。何年経っても変わらないやりとり。
私は変わらない日々に安心して、いつしかお前を照らし出す事もなくなっていた。
周りに人も妖怪も増えて騒がしくなったけど、でも、お前はいつでも輝いている。昔と同じように。
だから、私はただ隣にいるだけでいい。照らさなくても、お前の事は簡単に見つけ出せるから。
お前と私はたくさんの事件を通してより仲を深くしていった。
……私の思い違いでなければ、縁側でお茶を飲む時なんかに、私とお前の座る距離も、縮まっているように思えた。
置いた手と手が触れ合う距離だ。少し揺れれば肩がぶつかる距離。ちょっと身を乗り出して、お互い同時にお互いを見れば、……まあ、あれな距離だ。
こんなにも近くなれた事を嬉しく思う反面、怖くもあった。
このまま溶け合ってしまうのではないか。
いや、それはいい、むしろ望むところだ。
だが、このまま擦り抜けてしまうのではないかと思うと、恐ろしくてたまらなくなる。
一度そうなれば、私はもう後戻りなんかできないのだろう。
振り返ったって、お前は私に背を向けたまま、空を飛んで行ってしまうのだろう。
そんなのは嫌だ。
お前の手に私の手を重ねれば、お前は、湯呑みを口から離して、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
……今すぐお前に、この想いを突き付けたいよ。
何年も溜め込んでいるせいか、もう私の体よりずっと大きくなってしまっているんだ。
いつかは爆発する時が来るかもしれない。なんたって、星だからな。
その時、お前はどんな反応をするんだろう。
笑う? 怒る? 泣く? それとも、呆れる? あ、反応なしか?
様々なお前が想像できて、家で一人でいる時なんかは、私の想いが叶うのを夢想しながら、部屋の中にお前の姿を浮かべていた。
長年の付き合いだ。お前の姿かたちは、目を閉じてたって描けるくらいにはまぶたの裏に焼き付いている。……絵の上手下手は別として、だな。
まあ、夢想は夢想だ。しょせんは夢だ。
きっと私の想いが届く事は無いのだろう。
いや、案外あっさり受け入れてくれるかもしれないけど、そうでない場合を考えると、自分では制御できない感情の波にさらわれてしばらく動けなくなってしまうので、最近は胸の奥にその気持ちを閉じ込めて、お前の横顔を見つめて精神安定を図るようにしている。
お前は変わらない。昔から、表情も、仕草も、変わらない。
半分まぶたを下ろした眠たげな表情で僅かに顔を落としているのは、たいていくだらないシャレを考えている時だ。頬にかかった髪を、手を顎のラインに沿わせて掻き上げる仕草は、昔から変わらない癖だ。
たぶん、しょっちゅう意味もなく私の顔を見てくるのだって、癖の一つなんだろう。
だって、私はずっとお前の隣にいた。お前が長く私を見てくれるように、積極的に話しかけた。必死に話を考えて、お前を飽きさせないようにしていた。
それが実を結んで、お前はずっと私を見続けてくれていた。
だから、私は満足している。
たとえこの想いが実らずとも、お前は私を見てくれる。
それでいい。
それだけでいい。
ずっとこのまま、変わらず続いてくれれば。
そう思っていたある日、お前は私に一人の男を紹介した。
照れくさそうに笑うお前と、幸せそうに微笑む、見知らぬ男。
私の中の大事な何かが、音をたてて罅割れた。
4.落ちた光
なんの冗談だ、これは。
仲睦まじげに手を取り合うお前と男を前に、私は、口をつけようとしていた杯をそのまま、固まってしまっていた。
その実、頭の中では情報を整理しようと高速で思考が回転していた。
この宴会の主旨を、私は知らない。なぜ開かれたのか。それはおかしな事だ。
お前の事で私が知らない事なんてない。だって私は、ずっとお前の傍にいたんだ。
でも、何もおかしい事なんてない。
お前や妖怪達がこそこそしているのはわかっていた。私に秘密で、何かを企画しているのはわかっていた。わかっていて、あえて放置した。気づかないふりをした。
だって、お前がそれを明かした時、私が純粋に驚けば、お前が喜んでくれると思って。
零れ落ちた杯が膝にぶつかって跳ね、地面で砕ける。スカートを濡らした酒が焼けるように熱い。
真っ白だった。
お前の顔しか見えない。お前の顔以外見たくない。
楽しげにはやしたてる妖怪達の声は遠く、悪戯が成功した子供みたいに笑うお前の声だけを聞いていた。
――私たち、結婚するの。
……なんの冗談だろう、これ。
宴会の余興だろうか。それとも、私を心底驚かせるための策なのだろうか。
ではなぜ、彼女はあんなにも男と親しげで、私に『先を越してごめんね』などと謝罪するのだろう。
意味がわからない。訳がわからない。すまん。ちょっと理解する時間をくれ。
ビキビキと痛む胸を押さえると、私の様子に気付いた彼女が、心配そうに顔を近づけてきた。
やめてくれ!
咄嗟に体を離し、帽子のツバを引っ張って目元を隠す。
見たくない。なんだこれ、見たくない、こんなの!
夢なのか。白昼堂々、私は寝こけて夢でも見ているのか。
痛いほど握り締めた手の平に現実を感じながら頭の中でそう繰り返して、私は結局、その日は酔い潰れたふりをしてその後をやり過ごした。
……胸から零れ落ちる光の欠片に、気づかないまま。
あいつは堕ちた。
もはや天に輝く星ではない。地上に輝く星でもない。
……私の光さえ届かない、遠くに行ってしまった。
私の心は荒れて、でも、それをあいつには知られたくなくて家にこもった。
たぶん、悔しがっているんだろうとか解釈されているのだろう。
それもあった。
悔しい気持ちとか、よく聞く、醜い嫉妬だとか、喪失感とか。
だが心の大部分を占めているのは、激しい怒りだった。
その大半は自分に向かっていたが、白く熱い光の一筋は、あいつにも向かっていた。
だって、私、ずっとお前を。
ずっと、見てきたのに。
ずっと、傍にいたのに。
なぜ私じゃない誰かを選んだ?
なぜ私は選ばれなかった?
近すぎたのか。私のどこかが悪かったのか。私ではお前と釣り合わないと思った? 私はふさわしくない?
気づいてると思っていた。お前が、私の気持ちに。そう願っていただけだったのか。
どうすればいいんだ。どうすれば、何をすれば。
食事も喉を通らなくて、頭の中には言葉があふれるばかりで、私はベッドの上で膝を抱えて、ずっと考え事をしていた。
誰が家を訪ねて来ようと関係なかった。
ただ、どこで間違えたのか、何がいけなかったのかを考えていた。
あいつとの記憶を、思い出を辿る。
その中に間違いはないかと遡って行く。
時間がかかる。喉が渇く。頭が重い。
それでも動かずに考え続けた。
お前の笑顔を思い出すたび、宴会の席で見せたあの照れくさそうな笑顔を思い出して、胸の罅割れが広がって行く。
痛い。
痛くて痛くてたまらない。
だけど、今何かに気づかないと、きっと取り返しのつかない事になってしまう。
取り返しの、つかない事に……。
ふと、思い至った。
あの、顔。
彼女の、あの笑顔は……。
私が一度も見た事の無い顔だ。
ビキビキと、罅割れが広がる。
思い出の中にさえ侵食して、あいつの笑顔さえ引き裂いて行く。
それと同時に、思い出した。
あの人の言葉。
捨ててしまえ、という教え。
……この気持ちを?
この想いを捨てろと言うのか。
そうすれば、楽になれる?
……嫌だ。
この気持ちは絶対に捨てたくない。
でも、それじゃあどうすればいい?
どうすれば今を解決できる?
捨てればいい、と、どこかから聞こえた。
同じ答えだ。でも、違う答えだった。
……そうか。捨てるのは、私の想いじゃない。
私は、何日かぶりに風呂に入った。
何もかもを洗い流すように一心に身を清め、比較的新しい衣服に腕を通し、できる限り綺麗な姿になろうと努めた。
目の下にできていた濃いクマは魔法で隠し、涙の跡も全部消す。
準備は整った。
荒れる心を抱えたまま、私は外に出た。
太陽の光が全身を焼くように降り注ぐ、晴天の日だった。
……心を抱えようとして、気づく。
私の心はいつの間にかバラバラになって、崩れていた。
5.果てた夢の残骸
胸から星屑を散らし、私は飛んだ。
私は流星だ。私はお前だけを照らす星だ。
お前の隣で輝いていいのは、私だけだ。
私は、暴れた。
立ちふさがる妖怪共を薙ぎ倒し、友人達を打ち倒し、知人達を撃ち落とした。
ゴミのようなものだった。
あいつさえ取り戻せるなら、他の物は何もいらないと思えた。
これが、捨てるという事なのだろうか。
あいつ以外のほとんど全てを捨てた私は、軽くて軽くてたまらない体からあふれる魔力を放出して、全てを光の中に消し飛ばした。
そして、あいつの前に立った。
白無垢を着たあいつは、やっぱり見た事が無い程綺麗で、きっと私は笑っていた。
こんな素敵な初めての姿を、他の奴に渡せるか。
私は花婿を撃った。
……花嫁も撃った。
それは、結果だ。花婿を庇ったあいつ諸共、式場に選ばれていた屋敷の一角を吹き飛ばした。
一瞬血の気が引いて、だが、すぐに戻る。
あいつは煙の中に立っていた。傍には婿殿の残骸が転がっていた。私は安堵して、手を差し出した。
行こう、霊夢。
呼びかければ、返ってきたのは光の奔流で。
私は、ろくに抵抗もできずに封印された。
涙が落ちる。
私のじゃない。霊夢のだ。
どうしてこうなってしまったのかと、後悔の声が延々私に降り注ぐ。
……嬉しい。
霊夢が、私を見てくれている。
そのまま、ずっと見続けてくれ。
……そのまま。
最初は地上で輝く星だった。
どこにでもいる女。幼いのに無愛想で面白味のないガキ。いけ好かない奴。
だから攻撃した。それは、あの人がそうしろと言ったからだったし、個人的にあいつが気に食わなかったからだ。
だがやり合ってみれば、こいつは中々面白い。だんまり女かと思えばぺらぺら喋るし、のろのろ動くのかと思ったら俊敏に避けるし、感情の起伏に乏しいのかと思えば激情家だ。
かと思えば、一連の出来事が終わった後は、いつの間にかそいつは、私に笑顔を向けるようになっていた。能天気な奴だ。
私はそいつに、夜天に瞬く光を見た。
いつ、どこで、どんな時に、どんな風にその想いを抱くかに至ったかは、まるで覚えていないけど、今でも、私はそう思っている。あの頃のあいつは地上にありながら天にもある星だった。
星が瞬くように、笑い、怒り、泣いて、また笑う。最初に見た時に感じたあれはなんだったのかというくらい、あいつはころころと感情を転がして、私に色々な表情を見せた。
遊びに行けば笑いかけられる。からかえば怒る。喧嘩すれば泣かれて、仲直りしたら笑顔が戻った。
普通の女だ。そう思った。
こいつは、何か得体のしれないものではなく、ただの人間。未知のそらにある未知の星ではなく、普通の少女。
だが輝いている。
一定の線の上を綱渡りするみたいに揺れ動くそいつの感情は、隣に立って間近で感じてみると、恐ろしいくらい強い輝きを放っている。パワーと言いかえてもいい。こいつにはそれだけのものがあって、そしてそれは、魅力的なものだった。
だって、そうだろう。
星の輝きに魅せられた、とまではいかなくとも、綺麗だと思わない奴がいるはずもない。
その通りに私は惹かれ、気がつけば日常の多くをあいつと共有していた。
楽しかった。
それまでを忘れ、今を覚え、これからに思いを馳せて生きるのは。
自分の何かを捨てる事が強さに繋がる、と、あの人は言った。
抱えていては動けなくなる。それでは前に進めない。想いは敵だ。制御できないなら捨ててしまえ。
どうだろう。それは必要な事か、考えてみた。
私は力を求めていた。見返してやりたい一心で、魔法の力をこの手に掴んで、がむしゃらに走って来た。
とんだ非行少女だ。ああ、今も飛んで、飛行少女になってるけどな。
まあいい。この話はどうでもいい。
捨てる事が力になるかという話だった。
私にはあの人の清い考えを理解するのは難しい。いや、あの人が難しい話ばかりするのがいけない。だいたい文字もろくに書けない子供に、哲学染みた問いかけばかりをするのは、絶対おかしい。
いや、今思えばあの人、わかっててやっていた節があるような気がする。
頭を抱えて必死に考える私を笑みを浮かべながら見てくるのは、今にして思い出してみれば、そういうのだったのだろう。……腹が立ってきた。
いや、違う。そんな話はどうでもいい。あの人はもう死んだ。いや、元々死んでるが、そうじゃなくて。
私がこの手で消したんだ。もういない。いない奴の話をしても仕方がない。
今は、あいつの話がしたい。
あいつは、そう、あいつは星だった。私が魅せられた星。綺麗で、いつかは消えてしまいそうな尊いもの。
あいつの笑顔が、時折見せる色の無い顔に戻るのを見て、幼心に思った。きっとこのままでは、こいつは夜の闇に溶けて消えるんだろうな、と。
だったら私が照らしてやればいい。
暗闇の中に隠れてしまっても、全部照らし出して見つけられるように。
そのためには私は何になるべきか。太陽か? 月か? ……いや、同じ星がいい。でも、あいつは掴みどころのない奴だ。できるならどこにだっていける星がいい。
その日から私は流れ星になった。流星だ。これならどこにだって行ける。どこだって照らし出せる。
だがそうなってみてわかった事がある。
あいつは動かない。
いや、歩いたり跳ねたり料理したり洗濯したりと忙しなく動くが、そうでなくて、あいつは、生活の場である神社の中に縫い止められたままで、私にはそれがまるで、動いていないように見えたのだ。
あいつの世界は、どうやら母親と私で完結しているらしい。私が流れ星になる必要もなく、あいつはそこで輝き続けていた。
2.空を飛ぶ紅白
あいつは天に昇った。
死んだって意味じゃない。そのままの意味だ。
あいつは飛べるようになった。……元々飛べなかったんだ。飛ぶ必要も無かった。
だがあいつは飛び始めた。私にはただ浮いているようにしか見えないが、あいつにとっては空を『飛んで』いる、らしい。よくわからない。
だが一つわかる事は、もう私の箒にあいつが乗る事はない、という事だ。
箒に跨るたびに、後に続く重みを思い出す。少し前なら、後ろにきいとあいつが腰かけて、一人分の体重に僅かに箒が傾き、揺れる。
いつもよりもずっと傍に感じる体温。そっと肩に当てられる手。風に流されて、私の髪と交じり合うあいつの髪。
風に溶けていく息さえ、もう感じる事はできないのかと思うと、どうしてかあいつの顔が見れなくなって、数日、私は家にこもった。
だがそれは、結構良い判断だったかもしれない。
あいつは母親を亡くして、表面上は普段通りの様子を見せながらも、酷く傷ついていたようだから、しばらくそっとして、気持ちの整理をつけさせてやるのが良かったのだろう。
なんてのは、まあ、大分経ってからふと思った事だ。
実際は、久しぶりに神社に行ってみれば暗く淀んだあいつがいて、私は必死になってあいつの笑顔を取り戻そうと奮闘した。
私が傍にいる。私がお前を照らす。いつまでも、どこまでだって、ずっと。
……そんな恥ずかしい事は口走ったりしてないが。……してないよな。……よく覚えてない。
とにかく私は、あいつの笑顔を取り戻す事に成功した。
ほとんど時間が解決したようなものだったが、それでも、私のおかげだと弱々しく微笑むあいつを見て、私の心は舞い上がった。そらにだ。今度はあいつも一緒だった。飛べるようになったあいつは、私と一緒に空へと浮かび上がってきた。
星の光が近くなると、いっそうあいつは輝いて見えて、私は危うく箒から落ちそうになって、あいつに笑われた。
……星が星に照らされると、こんなにも綺麗に見えるんだ。
ぼーっとあいつの顔を見ていれば、今度は怒り顔で額を小突かれて、私はまた落ちそうになって。
とにかく、笑顔が戻って良かった。
飛べるようになってしまったのは少しばかりショックだったが、でも、私は流星だ。お前がどこに行こうと、自慢のスピードで追っかけてやる。
あいつは、ついに空に輝く星となった。
でも他の星とは違う。満天の星空の下、あいつは一人寂しげに浮かんでいる。その隣に並べるのは、あいつを追う流れ星である私だけだ。
飛べるようになって、あいつはようやく動き出した。空に、人里に、名も知らぬ野に、あっちへこっちへ飛び始めた。
ほとんどは家でぐうたらしているが、時折そうして出かけるようになった。当然、私はついていった。
他愛もないお喋りをする間も、風に流れた長いリボンが泳いでいるのを見ている時も、後ろからスカートの中身が見えそうになっている時も、あいつは始終私を見ていた。
ひょっとして、お前も同じ気持ちなのか。だとしたら、嬉しい。
私は胸が鼓動に合わせて跳ねるのを感じていた。同じ気持ちなら、これ程嬉しい事は無い、と。
まあ、そんなはずは無かったのだが。
あいつはただ、一番近く、一番顔を合わせる私を、癖のように見ているだけだった。
時が経ち、あいつが巫女としての務めを果たし始めると、交流が広がって……あいつは、私だけじゃなく、他にも顔を向けるようになった。
私に向けるのと同じ顔をだ。
……それに気づいた時の私の心情は、流石に口でも文字でも表せない。
私にとってあいつは綺麗で特別なものだったが、あいつにとって、私はそうではなかった。
ただそれだけの事が、私の中に大きな亀裂を作り、少しずつ、少しずつ、罅割れを広げていった。
きっとそれは、広げちゃいけないものだ。
それこそ、捨てなければいけないものだ。
でなければいつか私はこの身を滅ぼすだろう。
……だったら、なんだっていうんだ?
それを捨てるって事は、私が今まであいつに、そらに思い描いてきた想いを、全部纏めて捨てるって事だ。あいつとの日々を否定するって事だ。全部全部無かった事にして、一からやり直すって事だ。
馬鹿が。そんな事、できる訳がない。
あいつが私以外に顔を向けるからって、なんだっていうんだ。
私はただ傍にいるだけだ。そこでお前を見続ける。地上でも、空でも。
3.砕けた流星
私はこの空でずっとお前を見続けてきた。
……どこかで聞いたフレーズだ。
少し先の青空を行くお前を見ていると、どうしても胸が痛む時があって、そんな時、私は帽子のツバをちょいと引っ張って顔を隠す。
そうすると、お前は私を振り向いてくれて、横に並び、私の顔を窺ってきてくれた。
それが嬉しくて、痛みなんてすぐに引いてしまうと、お前はそのまま隣にいて、私に話しかけてくれる。
他愛もない話。
変わらない。何年経っても変わらないやりとり。
私は変わらない日々に安心して、いつしかお前を照らし出す事もなくなっていた。
周りに人も妖怪も増えて騒がしくなったけど、でも、お前はいつでも輝いている。昔と同じように。
だから、私はただ隣にいるだけでいい。照らさなくても、お前の事は簡単に見つけ出せるから。
お前と私はたくさんの事件を通してより仲を深くしていった。
……私の思い違いでなければ、縁側でお茶を飲む時なんかに、私とお前の座る距離も、縮まっているように思えた。
置いた手と手が触れ合う距離だ。少し揺れれば肩がぶつかる距離。ちょっと身を乗り出して、お互い同時にお互いを見れば、……まあ、あれな距離だ。
こんなにも近くなれた事を嬉しく思う反面、怖くもあった。
このまま溶け合ってしまうのではないか。
いや、それはいい、むしろ望むところだ。
だが、このまま擦り抜けてしまうのではないかと思うと、恐ろしくてたまらなくなる。
一度そうなれば、私はもう後戻りなんかできないのだろう。
振り返ったって、お前は私に背を向けたまま、空を飛んで行ってしまうのだろう。
そんなのは嫌だ。
お前の手に私の手を重ねれば、お前は、湯呑みを口から離して、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
……今すぐお前に、この想いを突き付けたいよ。
何年も溜め込んでいるせいか、もう私の体よりずっと大きくなってしまっているんだ。
いつかは爆発する時が来るかもしれない。なんたって、星だからな。
その時、お前はどんな反応をするんだろう。
笑う? 怒る? 泣く? それとも、呆れる? あ、反応なしか?
様々なお前が想像できて、家で一人でいる時なんかは、私の想いが叶うのを夢想しながら、部屋の中にお前の姿を浮かべていた。
長年の付き合いだ。お前の姿かたちは、目を閉じてたって描けるくらいにはまぶたの裏に焼き付いている。……絵の上手下手は別として、だな。
まあ、夢想は夢想だ。しょせんは夢だ。
きっと私の想いが届く事は無いのだろう。
いや、案外あっさり受け入れてくれるかもしれないけど、そうでない場合を考えると、自分では制御できない感情の波にさらわれてしばらく動けなくなってしまうので、最近は胸の奥にその気持ちを閉じ込めて、お前の横顔を見つめて精神安定を図るようにしている。
お前は変わらない。昔から、表情も、仕草も、変わらない。
半分まぶたを下ろした眠たげな表情で僅かに顔を落としているのは、たいていくだらないシャレを考えている時だ。頬にかかった髪を、手を顎のラインに沿わせて掻き上げる仕草は、昔から変わらない癖だ。
たぶん、しょっちゅう意味もなく私の顔を見てくるのだって、癖の一つなんだろう。
だって、私はずっとお前の隣にいた。お前が長く私を見てくれるように、積極的に話しかけた。必死に話を考えて、お前を飽きさせないようにしていた。
それが実を結んで、お前はずっと私を見続けてくれていた。
だから、私は満足している。
たとえこの想いが実らずとも、お前は私を見てくれる。
それでいい。
それだけでいい。
ずっとこのまま、変わらず続いてくれれば。
そう思っていたある日、お前は私に一人の男を紹介した。
照れくさそうに笑うお前と、幸せそうに微笑む、見知らぬ男。
私の中の大事な何かが、音をたてて罅割れた。
4.落ちた光
なんの冗談だ、これは。
仲睦まじげに手を取り合うお前と男を前に、私は、口をつけようとしていた杯をそのまま、固まってしまっていた。
その実、頭の中では情報を整理しようと高速で思考が回転していた。
この宴会の主旨を、私は知らない。なぜ開かれたのか。それはおかしな事だ。
お前の事で私が知らない事なんてない。だって私は、ずっとお前の傍にいたんだ。
でも、何もおかしい事なんてない。
お前や妖怪達がこそこそしているのはわかっていた。私に秘密で、何かを企画しているのはわかっていた。わかっていて、あえて放置した。気づかないふりをした。
だって、お前がそれを明かした時、私が純粋に驚けば、お前が喜んでくれると思って。
零れ落ちた杯が膝にぶつかって跳ね、地面で砕ける。スカートを濡らした酒が焼けるように熱い。
真っ白だった。
お前の顔しか見えない。お前の顔以外見たくない。
楽しげにはやしたてる妖怪達の声は遠く、悪戯が成功した子供みたいに笑うお前の声だけを聞いていた。
――私たち、結婚するの。
……なんの冗談だろう、これ。
宴会の余興だろうか。それとも、私を心底驚かせるための策なのだろうか。
ではなぜ、彼女はあんなにも男と親しげで、私に『先を越してごめんね』などと謝罪するのだろう。
意味がわからない。訳がわからない。すまん。ちょっと理解する時間をくれ。
ビキビキと痛む胸を押さえると、私の様子に気付いた彼女が、心配そうに顔を近づけてきた。
やめてくれ!
咄嗟に体を離し、帽子のツバを引っ張って目元を隠す。
見たくない。なんだこれ、見たくない、こんなの!
夢なのか。白昼堂々、私は寝こけて夢でも見ているのか。
痛いほど握り締めた手の平に現実を感じながら頭の中でそう繰り返して、私は結局、その日は酔い潰れたふりをしてその後をやり過ごした。
……胸から零れ落ちる光の欠片に、気づかないまま。
あいつは堕ちた。
もはや天に輝く星ではない。地上に輝く星でもない。
……私の光さえ届かない、遠くに行ってしまった。
私の心は荒れて、でも、それをあいつには知られたくなくて家にこもった。
たぶん、悔しがっているんだろうとか解釈されているのだろう。
それもあった。
悔しい気持ちとか、よく聞く、醜い嫉妬だとか、喪失感とか。
だが心の大部分を占めているのは、激しい怒りだった。
その大半は自分に向かっていたが、白く熱い光の一筋は、あいつにも向かっていた。
だって、私、ずっとお前を。
ずっと、見てきたのに。
ずっと、傍にいたのに。
なぜ私じゃない誰かを選んだ?
なぜ私は選ばれなかった?
近すぎたのか。私のどこかが悪かったのか。私ではお前と釣り合わないと思った? 私はふさわしくない?
気づいてると思っていた。お前が、私の気持ちに。そう願っていただけだったのか。
どうすればいいんだ。どうすれば、何をすれば。
食事も喉を通らなくて、頭の中には言葉があふれるばかりで、私はベッドの上で膝を抱えて、ずっと考え事をしていた。
誰が家を訪ねて来ようと関係なかった。
ただ、どこで間違えたのか、何がいけなかったのかを考えていた。
あいつとの記憶を、思い出を辿る。
その中に間違いはないかと遡って行く。
時間がかかる。喉が渇く。頭が重い。
それでも動かずに考え続けた。
お前の笑顔を思い出すたび、宴会の席で見せたあの照れくさそうな笑顔を思い出して、胸の罅割れが広がって行く。
痛い。
痛くて痛くてたまらない。
だけど、今何かに気づかないと、きっと取り返しのつかない事になってしまう。
取り返しの、つかない事に……。
ふと、思い至った。
あの、顔。
彼女の、あの笑顔は……。
私が一度も見た事の無い顔だ。
ビキビキと、罅割れが広がる。
思い出の中にさえ侵食して、あいつの笑顔さえ引き裂いて行く。
それと同時に、思い出した。
あの人の言葉。
捨ててしまえ、という教え。
……この気持ちを?
この想いを捨てろと言うのか。
そうすれば、楽になれる?
……嫌だ。
この気持ちは絶対に捨てたくない。
でも、それじゃあどうすればいい?
どうすれば今を解決できる?
捨てればいい、と、どこかから聞こえた。
同じ答えだ。でも、違う答えだった。
……そうか。捨てるのは、私の想いじゃない。
私は、何日かぶりに風呂に入った。
何もかもを洗い流すように一心に身を清め、比較的新しい衣服に腕を通し、できる限り綺麗な姿になろうと努めた。
目の下にできていた濃いクマは魔法で隠し、涙の跡も全部消す。
準備は整った。
荒れる心を抱えたまま、私は外に出た。
太陽の光が全身を焼くように降り注ぐ、晴天の日だった。
……心を抱えようとして、気づく。
私の心はいつの間にかバラバラになって、崩れていた。
5.果てた夢の残骸
胸から星屑を散らし、私は飛んだ。
私は流星だ。私はお前だけを照らす星だ。
お前の隣で輝いていいのは、私だけだ。
私は、暴れた。
立ちふさがる妖怪共を薙ぎ倒し、友人達を打ち倒し、知人達を撃ち落とした。
ゴミのようなものだった。
あいつさえ取り戻せるなら、他の物は何もいらないと思えた。
これが、捨てるという事なのだろうか。
あいつ以外のほとんど全てを捨てた私は、軽くて軽くてたまらない体からあふれる魔力を放出して、全てを光の中に消し飛ばした。
そして、あいつの前に立った。
白無垢を着たあいつは、やっぱり見た事が無い程綺麗で、きっと私は笑っていた。
こんな素敵な初めての姿を、他の奴に渡せるか。
私は花婿を撃った。
……花嫁も撃った。
それは、結果だ。花婿を庇ったあいつ諸共、式場に選ばれていた屋敷の一角を吹き飛ばした。
一瞬血の気が引いて、だが、すぐに戻る。
あいつは煙の中に立っていた。傍には婿殿の残骸が転がっていた。私は安堵して、手を差し出した。
行こう、霊夢。
呼びかければ、返ってきたのは光の奔流で。
私は、ろくに抵抗もできずに封印された。
涙が落ちる。
私のじゃない。霊夢のだ。
どうしてこうなってしまったのかと、後悔の声が延々私に降り注ぐ。
……嬉しい。
霊夢が、私を見てくれている。
そのまま、ずっと見続けてくれ。
……そのまま。
私的には、あとがきは物語の結末や落ちを書く場所ではないと思っているため、それ抜きで評価させていただいています。
蛇足や追記、二重落ちなどを記載する分には良いとは思うのですが…。