「霊夢、今回ばかりは私が勝つぜ」
「よく言うわ、あんたの顔面にこれぶちまけてひいひい言わせてやるから覚悟しなさい」
夏の暑い日差しが差し込んでくる中、霊夢と睨み合う私こと霧雨魔理沙はとある勝負をこいつにふっかけた。
ことの発端は二人が手に握っているものだ。
これを手に入れたのは昨日、私がいた香霖堂だ。
話はそこまで遡る。
「なあ香霖、これ何だ?」
私は退屈していた。なにか起こるわけでもない日々にイライラを募らせていた。何か面白いものがあればかっさらおうと思い香霖堂に足を運んであさってみたのだが、その中に透明な拳銃の様な物を見つけ、私は香霖に尋ねた。
「ああ、それかい。それは引き金を引いて水を打ち出すものらしい」
「水を?」
水なんて撃ってどうするっていうんだ? 吸血鬼に向かって撃つのか? あいつらが苦手なのは流水だぞ。これ作った奴はバカなのか?
「ああ、撃ち出すだけで他には特に用途はないらしい」
「どうやって使うんだこれ」
「上の方に蓋が付いているだろう? そこから水を入れて引き金を引くだけだ。『水鉄砲』というらしい」
名前もそのままだな。
「それが一昨日大量に落ちていたんだ。他に収穫はなかったし、持てるだけ持って帰ったんだが」
「他にあるのか」
「ああ、例えば――」
香霖が持ってきたそれは形や色、大きさが様々で、どれも似たような形をしていた。よくもまあ水を撃ち出すだけでこんなにたくさんの種類を作ったもんだ。銃の形をしてないものまである。
「作った奴はよほど暇だったんだな」
「ああ、暇だったんだろうね」
香霖が拾ってきたそれを一つ手にとって覗きこんだ。
「元々、これは遊びに使われていたらしい」
「ふーん」
水をぴゅーぴゅーだして何が楽しいんだか。
ん、待てよ。遊び……水の弾を撃ち出す遊び……
「香霖、それ幾つかもらっていくぜ」
「一応聞くが……代金は?」
「あそこに置いた」
「なんだと!?」
水鉄砲をあらかた包んで店を出ながら私は机の上に置いた小さな封筒を指さして、さっさとそこから出た。
「……あの魔理沙が代金を置いていってくれる日が来るとは、明日は雨だな」
霖之助が嬉しそうに魔理沙が置いていった封筒を手に取り封を開けて、中身を取り出した。
中には「だいきん」と書かれた白いしわくちゃの紙が入っていた。
「……洗濯物でも干すか」
霖之助は紙をゴミ箱へ投げ込んだ。
けど、はずれた。
「なるほどなるほど。こいつはここを引っ張って」
かっさらった水鉄砲に水を入れて、試し撃ちを始めてみた。それぞれ違う形をしているだけあって飛ぶ距離も威力もどれもが違った。
「んで、こいつは」
元々研究熱心な私の心に火が着いた。魔法以外で熱心になるのは久しぶりだけど。
「おお、こいつはいいな!」
中に銃じゃないやつがあったから使ってみたが、私がしたいことには打って付けのものだった。
「でも、華やかさというか、派手さが足りないよな」
なら、あいつの所へ持って行こう。そんで派手にしたら……面白くなってきたぜ。
使った水鉄砲をまた包んで昨日磨いたばかりの自慢の箒に乗って意気揚々と私は妖怪の山へと向かった。
「と、いう訳なんだができるか?」
「そりゃあできるけどさ」
妖怪の山の麓の川の側にある小さな小屋のようなところで私はにとりに相談を持ちかけた。
「一体何に使う気だい?」
「それは秘密だぜ」
「なるほど、弾幕ごっこに飽きてきたからそれの代わりってわけか。簡潔にまとめるの上手いね、魔理沙」
「だろ?」
お前は簡潔に人をイラッとさせるのが上手いけどな。
「それで、どれくらいかかる?」
「一日もあれば余裕だね」
「そうか、よろしく頼むぜ。あくまで遊ぶんだからな。当たったら閻魔の所に行くようなのは作るなよ」
「むしろこれで撃ってきたら?」
「それもいいな。悪行も水に流してくれるかもな!」
「つまんない」
このやろうが。
そうして手に入れてきた改造水鉄砲を持って私達は睨み合っている。最初は乗り気じゃなかった霊夢も勝った方が負けた方に鬼と酒勝負するように命令できる。と付け加えたら乗ってきた。霊夢は負けん気が強いところがあるからな、勝った方のメリットを強調させるのがミソだぜ。
霊夢に説明したルールはこうだ。
一,神社の境内にばら撒いた水鉄砲は拾って使っていい。むしろ拾え。但し持てるのは一つ。
二,遊んでいる間は神社の外、神社の中には入ってはいけない。
三,飛ぶのは神社の屋根の高さまで。
四,負けだと思ったら負け。
五,「喉が渇いたら中に入るわよ」「知るか。鉄砲の中の水でも飲め」
この四つだ。いつもの弾幕を使うのは当然なしだぜ。
「よし、とりあえず一つ拾え。拾ったら渡すものがある」
霊夢は気だるそうにしながら『これでいいわ』と言って足元に落ちていた片手で持てる小さい奴を拾った。
「なんでそれなんだよ。他にもあるだろ」
「何となくこれがいいのよ」
いや、それでいいならそれでいいんだけどさ。なんか釈然としねぇな。そう思いながら私はタンクが付いた両手で持って撃つタイプの物を拾った。
「それとこれを渡しておく」
拾った後、霊夢に水が入ったゴムの風船を渡した。
「なにこれ?」
「ボム」
「は?」
私は一つ手に取っておもむろにそれを投げた。投げられたそれは地面の当たる瞬間に弾け、衝撃と一緒に中に入った水を撒き散らした。一種の爆弾みたいなものらしい。
「一人二個だ」
「わかったわ」
準備は整ったぜ。
「霊夢、今回ばかりは私が勝つぜ」
「よく言うわ、あんたの顔面にこれぶちまけてひいひい言わせてやるから覚悟しなさい」
互いに距離を取ったまま、音もなく火蓋は切って落とされた。
バシュッ!
初弾は互いに同時だった。霊夢の方は研究時とは比べ物にならない程の勢いを持った直線に飛ぶもの。私が持っている奴は自動で圧をかける連射式のものだった。
撃ちだされたそれをお互いに体を反らしてそれを避ける。あまり音もなかった水鉄砲だったが、にとりに音も派手にしてくれと伝えていたから共に豪快な音を響かせていた。
「ははっ! 弱っちそうじゃないかそれ」
「数撃ちゃあたるって考えは嫌いよ」
共に避けては撃ち、撃っては避ける。共に被弾はない。こっちはずっと連射してるってのに霊夢は軌道を読んでいるかのように当たる気配を全く見せない。
対してあっちは私の動きを見て的確に一発一発を撃ち込んでくる。水切れはどう考えても私の方が早かった。水の重さをどんどん感じなくなっている。
さてどうしたものか。連射で当たらないなら、単発でも当たる気はしないし、ここはにとりの改造をちょっと頼ってみてもいいかもしれないな。
連射式のそれを打ち終えると同時にすぐさまそれを捨て、今度は霊夢の持つものより一回り大きい片手タイプのものに持ち替えた。
「まだまだ!」
霊夢が避ける動作を終え、止まった一瞬に引き金を引く。
「うわっ!」
撃ち出された水は扇型に三つ直線を水平に描いて霊夢へと向かった。直線としか認識していなかった霊夢は左に避けるも避けた先に向かっていた一線に右袖が触れ濡らしていた。
そうそうこれこれ、このどうなるか分からない感じがいいんだ!
「……やったわね」
「やったぜ」
霊夢が今持っている型を捨て、さっきよりも銃身が長い型を手に取った。
「器用貧乏って知ってるか?」
「ええ、素敵な響きじゃない」
そう言って今度は向こうから撃ってきた。霊夢が引いたのは案の定また直進する型だった。私は見切って左に避ける。
が、直進していた筈の水が砂を撒くように拡散してきた。
「うぇ!?」
当然避けきることはできず右肩とスカートの一部に被弾してしまった。パチュリーからくすねたの本で読んだことがある。クラスターと呼ばれるものだったはずだ。だったら地上はマズイ。いい的になる。
「逃がさないわよ」
霊夢が二発目を撃ち出した。早めに見切って右に避け事なきを得る。でも避けていてもそのうち当たる。
……あ、そうか。
すかさず霊夢が三発目を撃ってくるが、私は同時に前へと駈け出した。
「ちょ!」
「あらよっと」
簡単な事だった。拡散する前に避ければいい。それだけの事だった。
当たる直前にしゃがみこんで、霊夢に向けて一発。霊夢の両肩と、
「へぶっ!」
顔面に入れてやった。地面にへたり込んで咳き込んでやがる。
「ざまぁないぜ!」
「ごほっごほっ……うええ、口に入ったぁ」
そう言って、濡れた顔で嫌そうに湿った舌を出しこちらを向いた。不快感から瞳が潤み、頬からは水が滴ってそれがまた服を濡らしていく。
……ダメなやつだこれ。
「悪い悪い。大丈夫か?」
「隙あり」
バシャッ!
手を伸ばした私に霊夢はボムを手に取り、私の顔面に投げ込んできやがった。
うん。心配した私がアホだった。お陰で自慢の帽子と服はびしょ濡れで綺麗になり、顔も洗えてさっぱりした良い気分だ。
「お前なぁ」
「近づいたほうが悪い」
「じゃあ今の状況もお前が悪いな」
「あん?」
投げ込まれた隙に、へたり込んでた霊夢のスカートの中にボムを仕込んでおいた。
バシュ
「●※□#▲~~~!!」
いや、私もやめとこうかなとか思ったんだぜ。嫌がったらあとが怖いなぁとかそこまでしなくてもいいかなぁとか。
でも今の霊夢の顔は最高なので良しとする。
「あ、あんたねぇ~~!」
「お、やるか? おもら――」
「ざっけんなぁ!!」
そっから先はもう罵声と水の掛け合いだった。もう体中水浸しだから相手に当てることしか頭になくて、水鉄砲を手にとっては水がなくなるまで打ち続け、なくなったらまた拾ってなくなるまで撃ち続けた。
なので当然周りなど見えるわけもなく。
「霊夢さーん新聞どうですかぁ?――」
「濡れ雑巾にしてやるわよあんたなんか!」
バシュ
「霊夢さん、分社の様子はどうで――」
「神社が寂れてんのはお前のせいだろうが!」
バシュン!
「霊夢、遊びに来てあげたわよワインでも――」
「一昨日お茶っ葉を粉々の枯れ葉に変えたのあんたでしょ!!」
ばっしゃあああああああああああああん! びっしゃあああああああああああああん!
「霊夢、宴会しよう! 宴――」
「お前いい加減にしないと頭のそれ引きちぎるぞ!!」
ざばぁああ!!
「やっほー、水鉄砲の調子は」
「バカだって!? あんたこそ頭んなかポンコツのくせに!!!」
びしゃああ!!
「霊夢、結界の管理ちゃんとしてるかしら?――」
「お前なんか年食う前にさっさと死んじまえ!!」
…………
「はぁはぁ……」
「ふう…ふっ…」
勝負は熾烈を極めた。お互い殺る気に満ち溢れていたが、もう残りは手元にあるボムしかない。
互いに息を呑んで、右腕に力を込める。この一撃の気迫に押された奴が、負ける。
勝負は一瞬。
「はああああああああああああああああああ! ……あ?」
「いっけえええええええええええええええええ! ……え?」
どこからか鋭い視線を感じた。感じた方へと霊夢と視線を向ける。
なんとも豪勢な観覧席の皆様が参加したそうに水鉄砲を持ってこちらを睨んでいた。
「どうしてくれるんですか、この新聞」
「いらなさそうなので分社を引き取りに来ました。私のせいでここを寂れさせたくないですし。とっくの昔に遅かったみたいですけど」
「霊夢、どうして私がやったと分かったのか説明して頂戴?」
「血の酒ってのも飲んでみたいねぇ」
「水鉄砲に掛けてたリミッターを外したよ。ポンコツが作ったものだから平気平気」
「…………」
なんでこいつらこんなに怒ってんだ?
「残念だが、もう水なら入ってないぜ?」
「水なら入れた」
そう言った萃香の瓢箪からトポトポと酒が流れだして地面に落ちていった。
霊夢と顔を見合わせる。霊夢も困惑の表情で右手を振って知らないとアピールしてきた。
視線を戻してみる。あ、銃口がこちらを向いてらっしゃいますね。
「ちょっと……待っ――」
「ははっ、やっぱり弾幕ごっこが一番だな!」
「そうね! 見ていてもやっていても楽しいものね!」
次の日、私達は心の底から弾幕ごっこを楽しんだ。
「よく言うわ、あんたの顔面にこれぶちまけてひいひい言わせてやるから覚悟しなさい」
夏の暑い日差しが差し込んでくる中、霊夢と睨み合う私こと霧雨魔理沙はとある勝負をこいつにふっかけた。
ことの発端は二人が手に握っているものだ。
これを手に入れたのは昨日、私がいた香霖堂だ。
話はそこまで遡る。
「なあ香霖、これ何だ?」
私は退屈していた。なにか起こるわけでもない日々にイライラを募らせていた。何か面白いものがあればかっさらおうと思い香霖堂に足を運んであさってみたのだが、その中に透明な拳銃の様な物を見つけ、私は香霖に尋ねた。
「ああ、それかい。それは引き金を引いて水を打ち出すものらしい」
「水を?」
水なんて撃ってどうするっていうんだ? 吸血鬼に向かって撃つのか? あいつらが苦手なのは流水だぞ。これ作った奴はバカなのか?
「ああ、撃ち出すだけで他には特に用途はないらしい」
「どうやって使うんだこれ」
「上の方に蓋が付いているだろう? そこから水を入れて引き金を引くだけだ。『水鉄砲』というらしい」
名前もそのままだな。
「それが一昨日大量に落ちていたんだ。他に収穫はなかったし、持てるだけ持って帰ったんだが」
「他にあるのか」
「ああ、例えば――」
香霖が持ってきたそれは形や色、大きさが様々で、どれも似たような形をしていた。よくもまあ水を撃ち出すだけでこんなにたくさんの種類を作ったもんだ。銃の形をしてないものまである。
「作った奴はよほど暇だったんだな」
「ああ、暇だったんだろうね」
香霖が拾ってきたそれを一つ手にとって覗きこんだ。
「元々、これは遊びに使われていたらしい」
「ふーん」
水をぴゅーぴゅーだして何が楽しいんだか。
ん、待てよ。遊び……水の弾を撃ち出す遊び……
「香霖、それ幾つかもらっていくぜ」
「一応聞くが……代金は?」
「あそこに置いた」
「なんだと!?」
水鉄砲をあらかた包んで店を出ながら私は机の上に置いた小さな封筒を指さして、さっさとそこから出た。
「……あの魔理沙が代金を置いていってくれる日が来るとは、明日は雨だな」
霖之助が嬉しそうに魔理沙が置いていった封筒を手に取り封を開けて、中身を取り出した。
中には「だいきん」と書かれた白いしわくちゃの紙が入っていた。
「……洗濯物でも干すか」
霖之助は紙をゴミ箱へ投げ込んだ。
けど、はずれた。
「なるほどなるほど。こいつはここを引っ張って」
かっさらった水鉄砲に水を入れて、試し撃ちを始めてみた。それぞれ違う形をしているだけあって飛ぶ距離も威力もどれもが違った。
「んで、こいつは」
元々研究熱心な私の心に火が着いた。魔法以外で熱心になるのは久しぶりだけど。
「おお、こいつはいいな!」
中に銃じゃないやつがあったから使ってみたが、私がしたいことには打って付けのものだった。
「でも、華やかさというか、派手さが足りないよな」
なら、あいつの所へ持って行こう。そんで派手にしたら……面白くなってきたぜ。
使った水鉄砲をまた包んで昨日磨いたばかりの自慢の箒に乗って意気揚々と私は妖怪の山へと向かった。
「と、いう訳なんだができるか?」
「そりゃあできるけどさ」
妖怪の山の麓の川の側にある小さな小屋のようなところで私はにとりに相談を持ちかけた。
「一体何に使う気だい?」
「それは秘密だぜ」
「なるほど、弾幕ごっこに飽きてきたからそれの代わりってわけか。簡潔にまとめるの上手いね、魔理沙」
「だろ?」
お前は簡潔に人をイラッとさせるのが上手いけどな。
「それで、どれくらいかかる?」
「一日もあれば余裕だね」
「そうか、よろしく頼むぜ。あくまで遊ぶんだからな。当たったら閻魔の所に行くようなのは作るなよ」
「むしろこれで撃ってきたら?」
「それもいいな。悪行も水に流してくれるかもな!」
「つまんない」
このやろうが。
そうして手に入れてきた改造水鉄砲を持って私達は睨み合っている。最初は乗り気じゃなかった霊夢も勝った方が負けた方に鬼と酒勝負するように命令できる。と付け加えたら乗ってきた。霊夢は負けん気が強いところがあるからな、勝った方のメリットを強調させるのがミソだぜ。
霊夢に説明したルールはこうだ。
一,神社の境内にばら撒いた水鉄砲は拾って使っていい。むしろ拾え。但し持てるのは一つ。
二,遊んでいる間は神社の外、神社の中には入ってはいけない。
三,飛ぶのは神社の屋根の高さまで。
四,負けだと思ったら負け。
五,「喉が渇いたら中に入るわよ」「知るか。鉄砲の中の水でも飲め」
この四つだ。いつもの弾幕を使うのは当然なしだぜ。
「よし、とりあえず一つ拾え。拾ったら渡すものがある」
霊夢は気だるそうにしながら『これでいいわ』と言って足元に落ちていた片手で持てる小さい奴を拾った。
「なんでそれなんだよ。他にもあるだろ」
「何となくこれがいいのよ」
いや、それでいいならそれでいいんだけどさ。なんか釈然としねぇな。そう思いながら私はタンクが付いた両手で持って撃つタイプの物を拾った。
「それとこれを渡しておく」
拾った後、霊夢に水が入ったゴムの風船を渡した。
「なにこれ?」
「ボム」
「は?」
私は一つ手に取っておもむろにそれを投げた。投げられたそれは地面の当たる瞬間に弾け、衝撃と一緒に中に入った水を撒き散らした。一種の爆弾みたいなものらしい。
「一人二個だ」
「わかったわ」
準備は整ったぜ。
「霊夢、今回ばかりは私が勝つぜ」
「よく言うわ、あんたの顔面にこれぶちまけてひいひい言わせてやるから覚悟しなさい」
互いに距離を取ったまま、音もなく火蓋は切って落とされた。
バシュッ!
初弾は互いに同時だった。霊夢の方は研究時とは比べ物にならない程の勢いを持った直線に飛ぶもの。私が持っている奴は自動で圧をかける連射式のものだった。
撃ちだされたそれをお互いに体を反らしてそれを避ける。あまり音もなかった水鉄砲だったが、にとりに音も派手にしてくれと伝えていたから共に豪快な音を響かせていた。
「ははっ! 弱っちそうじゃないかそれ」
「数撃ちゃあたるって考えは嫌いよ」
共に避けては撃ち、撃っては避ける。共に被弾はない。こっちはずっと連射してるってのに霊夢は軌道を読んでいるかのように当たる気配を全く見せない。
対してあっちは私の動きを見て的確に一発一発を撃ち込んでくる。水切れはどう考えても私の方が早かった。水の重さをどんどん感じなくなっている。
さてどうしたものか。連射で当たらないなら、単発でも当たる気はしないし、ここはにとりの改造をちょっと頼ってみてもいいかもしれないな。
連射式のそれを打ち終えると同時にすぐさまそれを捨て、今度は霊夢の持つものより一回り大きい片手タイプのものに持ち替えた。
「まだまだ!」
霊夢が避ける動作を終え、止まった一瞬に引き金を引く。
「うわっ!」
撃ち出された水は扇型に三つ直線を水平に描いて霊夢へと向かった。直線としか認識していなかった霊夢は左に避けるも避けた先に向かっていた一線に右袖が触れ濡らしていた。
そうそうこれこれ、このどうなるか分からない感じがいいんだ!
「……やったわね」
「やったぜ」
霊夢が今持っている型を捨て、さっきよりも銃身が長い型を手に取った。
「器用貧乏って知ってるか?」
「ええ、素敵な響きじゃない」
そう言って今度は向こうから撃ってきた。霊夢が引いたのは案の定また直進する型だった。私は見切って左に避ける。
が、直進していた筈の水が砂を撒くように拡散してきた。
「うぇ!?」
当然避けきることはできず右肩とスカートの一部に被弾してしまった。パチュリーからくすねたの本で読んだことがある。クラスターと呼ばれるものだったはずだ。だったら地上はマズイ。いい的になる。
「逃がさないわよ」
霊夢が二発目を撃ち出した。早めに見切って右に避け事なきを得る。でも避けていてもそのうち当たる。
……あ、そうか。
すかさず霊夢が三発目を撃ってくるが、私は同時に前へと駈け出した。
「ちょ!」
「あらよっと」
簡単な事だった。拡散する前に避ければいい。それだけの事だった。
当たる直前にしゃがみこんで、霊夢に向けて一発。霊夢の両肩と、
「へぶっ!」
顔面に入れてやった。地面にへたり込んで咳き込んでやがる。
「ざまぁないぜ!」
「ごほっごほっ……うええ、口に入ったぁ」
そう言って、濡れた顔で嫌そうに湿った舌を出しこちらを向いた。不快感から瞳が潤み、頬からは水が滴ってそれがまた服を濡らしていく。
……ダメなやつだこれ。
「悪い悪い。大丈夫か?」
「隙あり」
バシャッ!
手を伸ばした私に霊夢はボムを手に取り、私の顔面に投げ込んできやがった。
うん。心配した私がアホだった。お陰で自慢の帽子と服はびしょ濡れで綺麗になり、顔も洗えてさっぱりした良い気分だ。
「お前なぁ」
「近づいたほうが悪い」
「じゃあ今の状況もお前が悪いな」
「あん?」
投げ込まれた隙に、へたり込んでた霊夢のスカートの中にボムを仕込んでおいた。
バシュ
「●※□#▲~~~!!」
いや、私もやめとこうかなとか思ったんだぜ。嫌がったらあとが怖いなぁとかそこまでしなくてもいいかなぁとか。
でも今の霊夢の顔は最高なので良しとする。
「あ、あんたねぇ~~!」
「お、やるか? おもら――」
「ざっけんなぁ!!」
そっから先はもう罵声と水の掛け合いだった。もう体中水浸しだから相手に当てることしか頭になくて、水鉄砲を手にとっては水がなくなるまで打ち続け、なくなったらまた拾ってなくなるまで撃ち続けた。
なので当然周りなど見えるわけもなく。
「霊夢さーん新聞どうですかぁ?――」
「濡れ雑巾にしてやるわよあんたなんか!」
バシュ
「霊夢さん、分社の様子はどうで――」
「神社が寂れてんのはお前のせいだろうが!」
バシュン!
「霊夢、遊びに来てあげたわよワインでも――」
「一昨日お茶っ葉を粉々の枯れ葉に変えたのあんたでしょ!!」
ばっしゃあああああああああああああん! びっしゃあああああああああああああん!
「霊夢、宴会しよう! 宴――」
「お前いい加減にしないと頭のそれ引きちぎるぞ!!」
ざばぁああ!!
「やっほー、水鉄砲の調子は」
「バカだって!? あんたこそ頭んなかポンコツのくせに!!!」
びしゃああ!!
「霊夢、結界の管理ちゃんとしてるかしら?――」
「お前なんか年食う前にさっさと死んじまえ!!」
…………
「はぁはぁ……」
「ふう…ふっ…」
勝負は熾烈を極めた。お互い殺る気に満ち溢れていたが、もう残りは手元にあるボムしかない。
互いに息を呑んで、右腕に力を込める。この一撃の気迫に押された奴が、負ける。
勝負は一瞬。
「はああああああああああああああああああ! ……あ?」
「いっけえええええええええええええええええ! ……え?」
どこからか鋭い視線を感じた。感じた方へと霊夢と視線を向ける。
なんとも豪勢な観覧席の皆様が参加したそうに水鉄砲を持ってこちらを睨んでいた。
「どうしてくれるんですか、この新聞」
「いらなさそうなので分社を引き取りに来ました。私のせいでここを寂れさせたくないですし。とっくの昔に遅かったみたいですけど」
「霊夢、どうして私がやったと分かったのか説明して頂戴?」
「血の酒ってのも飲んでみたいねぇ」
「水鉄砲に掛けてたリミッターを外したよ。ポンコツが作ったものだから平気平気」
「…………」
なんでこいつらこんなに怒ってんだ?
「残念だが、もう水なら入ってないぜ?」
「水なら入れた」
そう言った萃香の瓢箪からトポトポと酒が流れだして地面に落ちていった。
霊夢と顔を見合わせる。霊夢も困惑の表情で右手を振って知らないとアピールしてきた。
視線を戻してみる。あ、銃口がこちらを向いてらっしゃいますね。
「ちょっと……待っ――」
「ははっ、やっぱり弾幕ごっこが一番だな!」
「そうね! 見ていてもやっていても楽しいものね!」
次の日、私達は心の底から弾幕ごっこを楽しんだ。
どうでもいいけど水鉄砲って江戸時代以前からあるから、さすがに現代的な拳銃の形しているといっても名称聞けば用途ぐらい魔理沙でもわかるんじゃないかなぁなんて思ったり思わなかったり
2さん
確かに雨がダメならこれもダメですね。
4さん
いろいろな人の手に渡ったそうです。
そんな前からあったっけ? と思ったら確かに竹筒のようなものでありましたね。
6さん
これは書いてて楽しかったです。
ただもうちょい早くこの作品に出会って読んで起きたかった。
寒いわ…
ハハハ、ナゼダロウ、ガメンノムコウガワカラスゴイサッキガスルヨー?