「君を探してたんだ。やっと、見つけたよ」
私はそう言って、ニヒルに微笑む。頭に載せたお椀の位置を、若干目深に、クールに整える。
「だんまりかい? だが残念、もう調べはついてるんだよ。大人しく捕まえられてくれないかな。こっちとしても、手荒な真似は気が引けるんでね」
私の問い掛けに答える声は、無かった。
「……そうか。それが、君の選択か」
溜め息混じりに肩をすくめる。
仕方が無い、か。
扉を押し開けると、案の定だ。
「さあ、こっちに来るんだ、お嬢ちゃん」
半ば強引に「彼女」を捕まえる。そして、
「何をやっているのかしら、針妙丸」
私が霊夢に捕まえられた。
「で、もう一度聞くわ。何をやっていたのかしら?」
いとも容易く私をつまみ上げて居間に連行した霊夢は、私に説教をする時、いつもこう切り出す。
自分がやった事を自分自身の口で言わせて、しっかりと認識した上で反省させる為なのか、何なのか。幼い頃を思い出す、無性に反発したくなるような言い方だ。
とはいえ、ここで嘘をついても意味が無い。私は正直に答えた。
「不可解な連続殺人事件を追う内に数多の容疑者とは全く関係の無い少女が捜査線上に浮かび上がり、犯行方法と動機を調べていくと少女が亡き兄を思うがゆえの悲しく救われない真実を知るも一人の刑事としての矜持を捨てる事は出来ず内なる感情を押し殺して少女が潜伏している廃墟に辿り着いた中年の刑事になりきりつつ、戸棚の煎餅を盗み食いしようとしてた」
正直に答えたのに、霊夢の目つきが低温多湿になった。ああやめて。そんな目で見ないで。
いたたまれないやら何やらで、自然と俯いてしまう。
「ふざけてるの?」
ふざけてません。至って真面目になりきってました。その最中は。
「そうじゃなくて……まあ、いいわ。小腹が空いたのか何だか知らないけど、次は無いわよ」
「はーい」
あれ? 説教があっさり終わった。
いつもなら、この後にお仕置きの内容が言い渡されるのに。
「萃香と違って、あんたは物分かりがいいからね。あいつに比べれば可愛いもんよ」
萃香……ああ、たまに神社にいる、小さい鬼か。私が小さいって言うのも妙な話だけど。
「萃香はあんたとはまた違った意味でスケールが違うからね。小腹が空いたって言って五斗米を食い尽くしてくれた時には、流石の私もちょっと冷静じゃいられなかったわ」
「あー……」
小人の数少ない利点に金のかからなさが挙げられる。小人はお財布に優しい種族なのだ。家具についてはまた話が違ってくるけど。
萃香も鬼の中では相当に小柄だろうが、胃袋はやはり鬼のように強靭らしい。まあ鬼なんだけど。
「霊夢も大変なんだね……」
「そりゃもう大変よ。居候の一人芝居を目撃したり」
「うぐ」
顔を上げると、霊夢がくすくすと笑っていた。
さっきまでの気だるげな顔はどこへやら、愉快そうに形作られた口元と、ちょこんと小首を傾げた姿は、年齢相応の可愛らしいものだ。
霊夢はこんな風に笑う事があるのか。からかわれているというのに、一瞬惚けてしまった。
だって、霊夢が、こんな……。
空いた間を自身の優勢の証と判断したのか、そこへ霊夢が追撃をかけてきた。
「まあまあ、それくらいのお年頃にはよくある事なんじゃない? 私には無いけど」
「うぐぐぐ」
「誰もが通る道なのよ。そんなに落ち込まないで。私には無いけど」
「うぐぐぐぐ」
遅まきながら、恥ずかしさがこみ上げてきた。冷静になると、これってかなりきつい。
「だ、だって!」
「はいはい。だって?」
「だって、ついやっちゃうんだもん! ついやっちゃうんだから、仕方ないじゃん!」
「うんうん、そうだね。それくらいの時期には仕方ないんだよね」
「うぐぐぐぐぐ! 馬鹿にしてるの!」
そう言うと、霊夢は非常にわざとらしい、申し訳なさそうな顔になった。
「違うわ、針妙丸。私はあなたを馬鹿になんてしない。あなたの話に興味があるのよ。詳しく教えてくれない?」
「な、何を」
私が困惑した瞬間。
霊夢は、最大級の笑顔を満面に浮かべた。
「あなたの一人芝居の内容よ。中年の刑事ってどんな人? 署内での扱いは? 事件の詳しい内容は? 容疑者がたくさんいるって事は大きな事件? 容疑者にはどんなアリバイや怪しい点があるの? 少女はどんな人? 性格は? 容姿は? 悲しい過去って? 事件のトリックは? 動機は? 刑事はどんな気持ちで事件に臨んだのかしら? このお話を考えたのはいつ? どれくらい考えたの?
やってて楽しかった?」
鬼だった。
「うわああああああん! 楽しかったです!」
私は居間から逃走した。7回転んだが、霊夢が追いかけてくる事は無かった。
かすかに「待って針妙丸ー、話を聞かせてー」と聞こえただけだ。
もう帰る! 私故郷に帰る!
私が盗み食いした煎餅が、霊夢のとっておきの高級品だったと私が知るのは、ずっと先の話だ。
私はそう言って、ニヒルに微笑む。頭に載せたお椀の位置を、若干目深に、クールに整える。
「だんまりかい? だが残念、もう調べはついてるんだよ。大人しく捕まえられてくれないかな。こっちとしても、手荒な真似は気が引けるんでね」
私の問い掛けに答える声は、無かった。
「……そうか。それが、君の選択か」
溜め息混じりに肩をすくめる。
仕方が無い、か。
扉を押し開けると、案の定だ。
「さあ、こっちに来るんだ、お嬢ちゃん」
半ば強引に「彼女」を捕まえる。そして、
「何をやっているのかしら、針妙丸」
私が霊夢に捕まえられた。
「で、もう一度聞くわ。何をやっていたのかしら?」
いとも容易く私をつまみ上げて居間に連行した霊夢は、私に説教をする時、いつもこう切り出す。
自分がやった事を自分自身の口で言わせて、しっかりと認識した上で反省させる為なのか、何なのか。幼い頃を思い出す、無性に反発したくなるような言い方だ。
とはいえ、ここで嘘をついても意味が無い。私は正直に答えた。
「不可解な連続殺人事件を追う内に数多の容疑者とは全く関係の無い少女が捜査線上に浮かび上がり、犯行方法と動機を調べていくと少女が亡き兄を思うがゆえの悲しく救われない真実を知るも一人の刑事としての矜持を捨てる事は出来ず内なる感情を押し殺して少女が潜伏している廃墟に辿り着いた中年の刑事になりきりつつ、戸棚の煎餅を盗み食いしようとしてた」
正直に答えたのに、霊夢の目つきが低温多湿になった。ああやめて。そんな目で見ないで。
いたたまれないやら何やらで、自然と俯いてしまう。
「ふざけてるの?」
ふざけてません。至って真面目になりきってました。その最中は。
「そうじゃなくて……まあ、いいわ。小腹が空いたのか何だか知らないけど、次は無いわよ」
「はーい」
あれ? 説教があっさり終わった。
いつもなら、この後にお仕置きの内容が言い渡されるのに。
「萃香と違って、あんたは物分かりがいいからね。あいつに比べれば可愛いもんよ」
萃香……ああ、たまに神社にいる、小さい鬼か。私が小さいって言うのも妙な話だけど。
「萃香はあんたとはまた違った意味でスケールが違うからね。小腹が空いたって言って五斗米を食い尽くしてくれた時には、流石の私もちょっと冷静じゃいられなかったわ」
「あー……」
小人の数少ない利点に金のかからなさが挙げられる。小人はお財布に優しい種族なのだ。家具についてはまた話が違ってくるけど。
萃香も鬼の中では相当に小柄だろうが、胃袋はやはり鬼のように強靭らしい。まあ鬼なんだけど。
「霊夢も大変なんだね……」
「そりゃもう大変よ。居候の一人芝居を目撃したり」
「うぐ」
顔を上げると、霊夢がくすくすと笑っていた。
さっきまでの気だるげな顔はどこへやら、愉快そうに形作られた口元と、ちょこんと小首を傾げた姿は、年齢相応の可愛らしいものだ。
霊夢はこんな風に笑う事があるのか。からかわれているというのに、一瞬惚けてしまった。
だって、霊夢が、こんな……。
空いた間を自身の優勢の証と判断したのか、そこへ霊夢が追撃をかけてきた。
「まあまあ、それくらいのお年頃にはよくある事なんじゃない? 私には無いけど」
「うぐぐぐ」
「誰もが通る道なのよ。そんなに落ち込まないで。私には無いけど」
「うぐぐぐぐ」
遅まきながら、恥ずかしさがこみ上げてきた。冷静になると、これってかなりきつい。
「だ、だって!」
「はいはい。だって?」
「だって、ついやっちゃうんだもん! ついやっちゃうんだから、仕方ないじゃん!」
「うんうん、そうだね。それくらいの時期には仕方ないんだよね」
「うぐぐぐぐぐ! 馬鹿にしてるの!」
そう言うと、霊夢は非常にわざとらしい、申し訳なさそうな顔になった。
「違うわ、針妙丸。私はあなたを馬鹿になんてしない。あなたの話に興味があるのよ。詳しく教えてくれない?」
「な、何を」
私が困惑した瞬間。
霊夢は、最大級の笑顔を満面に浮かべた。
「あなたの一人芝居の内容よ。中年の刑事ってどんな人? 署内での扱いは? 事件の詳しい内容は? 容疑者がたくさんいるって事は大きな事件? 容疑者にはどんなアリバイや怪しい点があるの? 少女はどんな人? 性格は? 容姿は? 悲しい過去って? 事件のトリックは? 動機は? 刑事はどんな気持ちで事件に臨んだのかしら? このお話を考えたのはいつ? どれくらい考えたの?
やってて楽しかった?」
鬼だった。
「うわああああああん! 楽しかったです!」
私は居間から逃走した。7回転んだが、霊夢が追いかけてくる事は無かった。
かすかに「待って針妙丸ー、話を聞かせてー」と聞こえただけだ。
もう帰る! 私故郷に帰る!
私が盗み食いした煎餅が、霊夢のとっておきの高級品だったと私が知るのは、ずっと先の話だ。
こんなにも可愛らしい針妙丸は初めて見ました。
単純な所が特に可愛かったです。
霊夢さんマジ鬼巫女ですわあ。
針妙丸はマスコットかわいい。
本人がどう頑張ってクールに見せようとしても。
あ、目に針を刺すのはやめてください
問い詰められてるのに可愛い
可愛い
針妙丸と霊夢の生活って毎日愉快なことが起きてそうです