● 朝焼けの星
不夜城紅魔館の朝は、おおむね遅い。
おおむねと言うのは、つまり主の気分しだいということだ。夜の種族である館の主は大概において日が暮れてから活動を開始するが、彼女は「自分が起きたときが朝」と言って憚らない自侭な主だから、鶏が啼くのと同時にベッドから跳ね起きる事だってあるし、人並みに夜寝たりもする。
そして、紅魔館の家政一般を取り仕切るメイド長は「お嬢様が起きたときが朝」と言って譲らない出来たメイドなので、紅魔館における実質時間は非常に流動的で外部の者がそれを推し量るのは至難である。
「あー、やっと見つけたぜ」
その日、黒白の魔法使いが休憩中のメイド妖精でざわつく給仕室に入ってきたのは正午の少し前の事だった。窓際の椅子に座りながら、広い屋敷をを探し回ってくたくただと向かいに座るメイド長に文句を垂れた。
「紅魔館(ここ)がそういう場所だって事は良く知ってるでしょ」
魔理沙が今日、紅魔館を訪れたのはだいたい十時くらいの事だったから、二時間近くも仕事中のメイド長を探して屋敷をうろついていた事になる。
「こんな時間に来るからよ。夕方に来ればいいじゃない」
夕方というのはこの館の主がほぼ毎日起きている時間帯だ。その時間帯ならばメイド長は主の傍に居る可能性が高いし、居なかったとしても主に言えばすぐに呼び出せる。そして主は仕事で広い館中を飛び回っているメイド長と違い、だいたい居場所が決まっているから探し回らずともすむ。もちろん、魔理沙はこの館にもっとも頻繁に出入りする部外者と言ってよいから、そんなことは百も承知だ。
つまり、魔理沙がわざわざ朝っぱらから紅魔館にメイド長を探した理由は、
「ああ、お嬢様に会いたくないのね。悪巧みはほどほどにして置いたほうがいいわよ?」
館の主は運命を操るという。それが実際どういう能力なのか本人以外に知る者はいないが、操れるならば視る事もできるやも知れず、ならば未来予知に近いことも出来るだろうと魔理沙は思っている。そういう訳だから、別に彼女を嫌っているわけではないが、会いたくない日も無いでもない。例えば長い月日をかけた実験の結果が出る前だとか、誰かに悪戯を仕掛ける時だとか、何か隠し事がある時だとか。
「実は頼みがあるんだ」
魔理沙は声を落としてそう言った。
「貴方の悪戯に付き合っていい思いした事ないのだけど」
「あー、今度のはそういうんじゃないんだ」
「貴方の家の掃除も、もうゴメンよ」
「……掃除でもない」
「ふーん」
咲夜はティーカップを傾けながら向かいの魔理沙の目を盗み見るが、確かにそれは悪巧みの時の、あのきらきらした眼では無いようだった。無論、油断はしない。どうやら自分はこの手の無邪気なエゴイストに弱いらしいと思い知らされたばかりである。
「なら何よ。聞くだけなら聞いてあげるわ」
カップを置いた咲夜が少しだけ考えてからそう言うと、魔理沙は「あー」と声を出しながら辺りを見回した。給仕室はメイド妖精で一杯である。
「なぁ、場所変えたいんだ。お前の部屋、駄目か?」
「この子達なら、すぐ忘れるわよ。なんせ碌に買出しもできないんだから」
「でも、さすがにここじゃァな……ちょっと静かな所で話したいんだ」
いかにも怪しいと、咲夜はそうも思ったが、部屋に行こうという誘いには賛成だった。頼みごとはどうせ碌なものではないだろうが、魔理沙とのお茶は余人のいない所の方がいい。
それで、咲夜は席を立って、少しはなれたところにいる黒髪の妖精に二三指示を言いつけた。それから、とりあえず聞くだけだ。安易に引き受けないぞと心に誓って蜂蜜とスコーンを皿に取ってカートに載せた。
◇◇◇
「……肝が欲しいんだ」
メイド長の私室に移動して、小さな魔法使い躊躇いがちに発した第一声がこれである。聞いているのが悪魔の館のメイド長でもなかったら、傾けていたティーポットを取り落としているところだろう。
咲夜は主とその妹の食事のために、数日に一度、人間の死体を解体する。この事はこの館の主が吸血鬼で、咲夜がその従者であることを思えば考えるまでもない。咲夜も別に隠しているわけでもないので、それなりに親しいものはまず知っている。
「わざわざ私に頼むってことは、牛や豚のレバーがほしいって訳じゃないのよね?」
「……ああ」
「はっきりさせたいのだけど、それは人間のって意味よね?」
三角帽子を目深に被っているが、その向きを見れば魔理沙が顔を逸らせているのはわかる。なるほどと思った。咲夜には覚えがあった。
「実験に使うのかしら? パチュリー様もたまに注文してくるけど」
「……まぁ、そんな感じだ」
「いっそパチュリー様に頼めば? この前差し上げたばかりだから、まだ使い切ってはいないと思うけど」
「いや、もうパチュリーには訊いたんだ。……そしたら、咲夜に頼めって」
地下の図書館にすむ出不精の魔女はしばしば咲夜にこの手の注文をする。そのため、咲夜のほうも魔女がそうした物を必要とするのは良く知っていた。彼女が脊髄と一緒に肝臓を欲しがったのはつい三日ほど前の事だ。通例に従えば次に同じ部位を要求してくるのは大分先になるから、在庫はまだある筈である。仮に魔理沙に分け与えて、すっかり無くなってしまったとしても、いつもと同じように新たに咲夜に注文すればよいだけだし、魔女が困ることは無い。にも関わらず、彼女がそうするのを拒んだのはなぜだろうと咲夜は思った。
魔理沙は相変わらず目深に帽子を被って俯き気味に顔を逸らしている。
「お菓子、食べないの? 妖精メイドに焼かせたんだけど、なかなか上手くいってるわ」
「……おう」と小さく聞こえた。普段、生意気な猫のように振舞っているのが、しおらしく小さくなっているのを見るとつい口の端に笑みが浮かびそうになる。ねばっこい感情がむくむくと沸いてきて、咲夜は右足のホルスターからナイフを抜くと、それを魔法使いの腹の方に向けて口を開いた。顔に感情が出てしまっているかもと、すこし恥ずかしかった。
「生き胆なら、そこに一つあるわね。活きの良さそうなのが」
「……ああ、言われると思ってたぜ」
「あら、もうちょっと可愛い反応してくれると思ったのだけど」
「勘弁しろよ……」
そう言って魔法使いはスコーンを一つとって小さくかじった。せっかくの茶会なのに、これではこの先楽しい話になりそうもない。
ホルスターにナイフを戻しながら、咲夜は息をついた。困ったものだと思った。図書館の魔女はなぜ拒んだのだろう。彼女が分けてくれれば、それが一番いいのだ。もう慣れてしまっている自分は魔理沙ほど深刻にはなれないが、それでも切り分けたばかりの人間の臓器を、目の前の可憐な魔法使いの手にポンと渡すところなど、想像もしたくない。
――本当に、考えたくもない。
断った方がいい、断るべきだ。そう思う。魔理沙にそれを渡す時、自分はどんな貌をしているだろう。きっと狗の顔だ。そのことを自分は恥じてはいない。断じて恥じてなどいないが、しかしきっと、自分は説明するだろう。相手は他でもない、この小さな魔法使いなのだから。こんな貌をしているのには理由があるのだと、掻き口説くように。そんなのは――まっぴらごめんだ。
「悪いけど――」
「頼む。どうしてもいるんだ」
図書館の魔女の眠たげな顔が思い浮かんだ。相変わらず魔理沙は俯いたままで、咲夜はなぜかその時、帽子の鍔の向こうに隠れた鳶色の瞳を見たいと思ったが、それは叶いそうも無かった。
咲夜も目の前の黒い三角帽子から目を逸らして言った。
「わかったわ。次の解体は明後日よ」
「……おう」
長々と言った所で魔理沙は理解しないだろう。その場に立たなければ。
「明後日、夜明けの一時間前にいらっしゃい。厨房の搬入口のドアに直接来るといいわ」
紅茶のカップを傾けながら、魔理沙の方を盗み見る。これは賭けじゃないと、咲夜はそう心の中で念じている。その場に立てば魔理沙もきっと理解するだろう。だが――
理解したとして、その後どうなるかは、咲夜には分かりようがなかった。
――ならば、やはり、これは賭けなのかもしれない。
◇◇◇
我侭な主に合わせて動く紅魔館の時間は移り気だ。ある日は夜中に茶会が開かれているかもしれないし、昼間に晩餐の最中かもしれない。それでも、紅魔館が静まり返る一瞬がある。何日かに一度、夜明けの前後ほんの数時間、紅魔館は活動を止める。
そのあいだ、何者も決して厨房には近寄らない。だというのに、この日はおこぼれに預かろうと小さな魔法使いが厨房の裏手に降り立った。広々とした明るい前庭と違って、そこは裏門から厨房へ運び込まれる悪魔への供物を陽光から隠すためか、陰気な木々が建物の傍まで迫っていた。
ノックをして搬入口の隣のドアを開けると、その向こうに悪魔の従者がいた。彼女は薄く笑っていた。その顔を見たとき、魔理沙は第一声をどうしようか、なんと声を掛ければいいのか、何も思いつけなかった。いっそおはようとでも言おうか。
「来たわね、時間もぴったり」
開いたドアの向こうで銀髪の狗が薄く笑っている。彼女の格好はいつもの意匠を凝らしたメイド服ではなく、黒く汚れたつなぎに膝まである大きな革のエプロンで、それが魔理沙の気持ちをより一層重くした。魔理沙はもう何も言えずに、黙って手を差し出すしかなかった。さっさと望みの品を受け取って帰りたかった。
「あら、なにその手は?」
それで、魔理沙は口の中の唾を飲んで咲夜を見た。彼女の瞳はもう紅く染まっている。
「まさか貴方、ここまで来ただけで、たったそれだけで、欲しい物が手に入ると、そう思ってたの?」
咲夜の手は素早く伸びて、差し出されていた哀れな魔法使いの腕を掴むと厨房へ引きずり込んだ。魔理沙は抗う間もなく床に引き倒された。咲夜は素早くドアを閉め、それから尻餅をついている魔理沙に目もくれず、中央の大きな金属製のテーブルの前に立った。
床の上でひっくり返っている魔理沙は、引き倒される前に目に入ったものが信じられなかった。厨房には切り分けられた四肢や肉片や臓器が、几帳面な悪魔の従者の性格にしたがって整然と並んでいる筈だったのに、そんなものはどこにもないようだった。
咲夜はまだ『仕事』を始めていないのか。それが何故だか、魔理沙にはわからない。
自分はあのドアの前で『あれ』を受け取って、それで終わり。そうじゃなかったのか。
「いつまで呆けてるのよ。こっちにいらっしゃい」
テーブルについた咲夜が静かに言う。魔理沙はのろのろと、まるであの瞬間に目にしたものを確認したくないという風に、ゆっくり立ち上がった。
サイドテーブルに整えられた沢山の道具は未だに銀色の輝きを保ったままで、咲夜の前のテーブルにあるのは、まだ五体満足の人の死体に違いない。上から掛けられた茶色い麻布の端から小さな白い手が覗いていた。
「……どうして」
と、つい声が漏れた。
それを見て、銀髪の狗が笑った。
「どうしてって? 決まっているでしょ。貴方がやるのよ」
そう言って、サイドテーブルから一本の小ぶりのナイフを取り上げた。
「貴方がやるの。ほら、やり方は教えてあげるわ」
ナイフの刃のほうを持って、魔理沙に差し出す。その時やっと、魔理沙は自分の心臓が耳元で鳴るかのような音を立てているのに気付いた。左手を口元に押し当て、右手でナイフを受け取る。手が震えて、咲夜の手を傷つけるかと思った。
「おかしいわ。何を怖がっているのよ。今やらなくても、どうせ後で同じ事をするのに。おかしな子」
そう言われて、魔理沙は顔をあげた。
「ねぇ、魔理沙。貴方人間の肝なんてどうするつもりなの? 持って帰ってそのまま放置するって訳じゃないんでしょ? 実験に使うとか、秘薬にするとか、何がしか加工をするわけよね? 切り刻んだり、すり潰したり。でもそれって、一部分とはいえ人間の死体なわけよ。なら、死体を直接切り刻むのも、肝をすり潰すのも、行為の質としては、変わらないわよね?」
銀髪の狗が笑っている。
「それとも、死体を直接切るのは禁忌だけど、切り取られた死体を加工するのは構わないのかしら。便利なタブーね」
「ほら、どうしたのよ? こっちに来なさいよ」
腕をつかまれ、テーブルの前に引き立てられた魔理沙は、まだナイフを持って動けない。
「さ、まずは腹を開くの」
そう言って、悪魔の従者はくすんだ麻布を取り払った。
死体は自分と同じ位の背丈の女の子だった。
魔理沙は一歩後ずさって、それからナイフを床に投げ出して外へのドアに駆け出していた。そこまで十歩も無かったのに二度転んだ。何か喚きながら必死にドアを開け、そうして魔理沙は逃げ出したのだった。
◇◇◇
魔法使いが逃げ出したテーブルの前で、咲夜はわざとらしい大きな溜め息をついて厨房を見回した。あれだけ慌てていたくせに、魔法使いは床に放り出していた箒をきちんと拾って行ったようだった。箒を持っていったなら、帰るのに不自由はすまい。
そうしてそれから、咲夜は腹の底から笑った。
どこから出た笑いなのか、自分でもまるで分からなかった。ただ、おかしくて、腹を抱えて笑った。
当たり前じゃないか。あの小娘が、あの可憐な、小さな魔法使いが、自分のような悪魔の狗と同じ場所に望んで堕ちてきたりするわけない。彼女と自分の間に横たわるものの、大きさも、深さも、その暗さも、自分は重々知っていた筈なのに。
きっと、あの小さな魔法使いも、今になってそれを思い知った事だろう。魔理沙が逃げ出したのは、同族の死体を汚すことへの忌避もあったろうが――何よりも、自分から、この穢れた狗から逃げ出したかったからに違いない。
ひとしきり
数日に一度、悪魔の従者は人の死体を切り刻む。主の食事に供するために。自分と同じ、同族の死体を、喰わせるために。明け方の、静まり返った厨房で行われるその行為は、主に忠誠を捧げる自分と人としての自分、その二律背反の狭間で行われる神聖な儀式そのものだった。
彼女の格好はいつもの意匠を凝らしたメイド服ではなく、汚れたつなぎに膝まである大きな革のエプロンに長靴。黒い汚れの染み付いた、この服装こそが彼女の真の制服で、これこそが儀式に臨む司祭の聖衣なのだった。
マスクをつけてキャップを被る。床に落ちた小ぶりのナイフを拾い上げ、軽く洗ってタオルで拭いた。手袋は最後だ。
そうして彼女は祭壇の前に立ち、司祭はナイフを突き立てた。その刃は贄の鳩尾に吸い込まれると、何の抵抗も無く滑らかに下腹を目指して進んでいった。
◇◇◇
すでに、夜は明けていた。空は紅く、もう星はどこにもない。
搬入口の脇の小さなドアを開けると、朝焼けの空が木々の向こうに見えた。幾度も見慣れた風景だ。力仕事を終えた咲夜は壁にもたれて、それを眺めながらつなぎのポケットを探った。紙巻を一本取り出しライターで火をつけると、大きく煙を吐き出した。いつも通り、酷い味だった。二度三度煙を吐くうちに、目尻に水分が溜まってきた。
今は笑ってないわ、と独りごちた。
それからまだ十分残っている煙草を地面に落として、その火をすこし見て、長靴で踏み消す。
目を上げると、そこに箒を持った魔法使いがいた。
油断していた。煙草を吸うところを、儀式の後を他人に見られたのは初めてだった。
「煙草吸うんだな、お前」
「この時だけよ。お嬢様は鼻が鋭いの」
そう言って咲夜は両手をすこし広げて、前よりも更に赤黒く汚れたつなぎを見せた。そうすれば、また魔法使いは逃げ出すかもしれないと、そう思った。魔理沙はその咲夜の姿を見て、後ろではなく前に足を踏み出した。それでもまだ咲夜は疑っていた。
「帰ったんじゃなかったの? それとも戻ってきたのかしら。意外と執念深いわね」
魔理沙は帽子を取ると、黙って咲夜の隣に来て同じように壁にもたれた。それで、咲夜はどうやら魔理沙が何ものかに打ち勝ったのだと知った。
「そう。貴方の勝ちね。今取ってくるから、待ってなさい」
咲夜が諦めたように薄く笑ってドアに手を掛けた瞬間、後ろからぐいと引き戻された。
「見くびるなよ」
そう、魔理沙は言った。
「見くびるって? 意味が分からないわ」
「嘘つきやがれ。私は逃げ出したんだ。『あれ』はああいう事をする覚悟がある奴しか、望んじゃ駄目なんだろ。逃げ出した私には欲しがる権利なんてないんだ」
言ってから魔理沙はつま先で地面を蹴った。
「どうかしてた。覚悟もなしに……アイツが『咲夜に言え』って言った理由はこれだったんだ」
図書館の魔女が何かぶつぶつ言っているのが思い浮かんだ。多分、魔理沙の頭の中にも同じ画が思い浮かんでいるだろう。
「悪かったよ。私はお前を都合よく使おうとしてた」
「そう。それ言うために、待ってたの?」
これくらいの強がりは、許されるだろう。自分は何一ついい目を見てないのだし。やはり碌な目にあわないのだ、この魔法使いの頼みを聞くと。
「わかってるだろ」
ちらと咲夜の顔を見て、魔理沙はすぐに視線を前に戻した。懐からハンカチを取り出すと、それを咲夜の方に差し出した。
それを見て、咲夜はまたもう一つ、他人に見せた事のない物を見せてしまったかも知れないと思って、頬を確かめた。思ったとおり、そこは濡れていた。魔理沙がまた、ぐいとハンカチを突き出す。悔しいからつなぎの袖で拭った。
「あそこで逃げ出して、そのままお前を独りにしたら、もう私達はそれまでだろ」
ハンカチを仕舞いつつ、魔理沙が言う。よくもこんな台詞が口から出せるものだと、すこし感心した。
それで、もう一度念のために頬を撫でて、そこが湿ってないか確認して、それから壁にもたれて、魔理沙と並んで焼ける空を見た。確かに、自分は彼女を見くびっていたかもしれなかった。何を見ても、何を知っても逃げ出さない者もいるのだ。
ポケットから煙草を抜いて火を点けた。今度のそれは前より大分マシな味のような気がした。隣を見ると小さな魔法使いがこちらに向けて二本指を突き立てている。狭間からの生還者は声を立てずに笑い、もう一本紙巻を取り出して、その指の間に入れてやった。ライターの蓋を跳ね上げ――しばらくそれを見詰めた後、音を立てて蓋を閉じ、ポケットに仕舞いこんだ。
「火は?」
「咥えて。息を吸わないと火つかないわよ」
魔理沙がぎこちない手つきで煙草を唇に挟むと、咲夜は少しかがんで、咥えた自分の煙草の火を押し付けた。
思ったとおりに魔法使いがむせて、咲夜はまた笑った。
(了)
一度逃げ出し、でも謝るためにまた戻ってきた魔理沙がとても可愛らしかったです。
「人間」が、「人間」を「処理」するのは不可能なんでしょうね。
この題材が未出(単に私が知らないだけかもしれませんが)なのも案外そこに理由があるかもしれません。
単に後味が悪いで終わらないのも素敵です。100点を差し上げます。
しかし最後に紙巻を吸おうと思った魔理沙の気持ちを考えると
なにかせつなくなります
そしてその行為を(傍から見れば)淡々と行う咲夜に対する魔理沙も、ある種の畏怖を抱くはずだ。
その人間と悪魔の狗としての決定的な溝すらも、二人の友情で埋めちゃうんだもんなぁ。
なんというか、こんな話に対して言うべきことじゃないのかもしれないけど、『The 青春』って感じだなと思いました。
やはり現世の金さえあれば何不自由なく暮らせる私にはきっとずっと理解できないのでしょうが。
しかし、咲夜と魔理沙の関係がこの後より良い方向に変化するのではと信じています。
弱くてかっこ悪くて、それでも彼女なりの強さをみせる魔理沙と
その対極にあるような咲夜、2人のそれぞれの人間らしさがとても素晴らしいです。
作者様の作品はいづれも、幻想郷に生きる『人間』の少女達の描写が素敵だなぁと思います。
咲夜も人を捌くのが趣味じゃない
だが人喰い妖怪レミリアの従者であり続けるため人を捌く
それは咲夜が何かに成りたくなくても咲夜を何かにする
魔理沙も咲夜と社会性を保つことを選んだ
それは近い何かに成ることを選ぶことなんだろう
莨の貰い火ってのは、互いの情が交じり合うようで結構好きです。こればかりは煙管で再現できない。
貴方の書く2人の友情が好きです。
本当は咲夜も魔理沙には綺麗なままで居てほしいのでしょうかね。
これはいい咲マリ!
色々と考えさせられた話でした。
唯流されて周囲に合わせているだけで本当は何もしてない臆病モノのようにも見える
面白かったです
いつもありがとう。
言葉にしにくいのですが、とにかく素晴らしかったです
本当に血が通っていて、生き物らしい矛盾を抱えていて、それを乗り越える勇気や無視する図太さ、繊細な感性を備えていて……
じんわりしました。
良い目で見られていない。でも一部の人間はそんなことを一切気にしないで接してくれるし・・・』
って文章があったのを思い出しました。
この話を読んで、まぁ紆余曲折はやっぱりあるよなぁ、と思いました。
読んでいる間、ずっと心臓が重くなったように感じる、感情を揺さぶられる良い作品でした
Inuatamaさんのマリさくは素晴らしい