Coolier - 新生・東方創想話

吸血鬼へ贈る太陽

2014/07/31 09:22:44
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 フランドール・スカーレットは外の世界を知らない。

 今まで外に出てみたいと思ったことはほとんどなかった。近頃になって巫女や黒い魔女が館に来るようになって外に興味を持ち、何度か無理やり外に出ようとしたことはあったが、その度にうちにいる紫の魔女に邪魔をされていたのだ。
 フランドールは自分の能力――『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』――が危険なことは理解していたし、人間は吹き飛ばすものではないということは最近学んだ。
 最近は大人しくしていたのだ、ここは真正面から我が愛しの愛しのお姉さまにお願いしてみよう。そうフランドールは決心した。


 まだ日の出ていない早朝の時間。フランドールは姉の部屋へ突撃し、叫んだ。

「外の世界に行ってみたい!」

 フランドールは上目づかいで――こういう仕草をすれば相手はイチコロだと本に書いてあった――必死に懇願した。それを見た姉は少し顔を赤らめて答えた。

「そうね……いいわ。ただしむやみにモノを壊さないこと。特に人間は絶対ダメよ、それと遅くなる前に帰りなさい」

 あっさりと許しを得てしまったフランドールは嬉しさのあまり、姉の部屋のガラスをぶち破り、後ろからの姉の怒号など意に介さず飛び出した。


 うきうきした気分で外に出たフランドールは、門の前に暇そうにして立っている門番――紅美鈴に声をかける。

「やっほ~美鈴!」
「フランドール様!?」
「あはは、まだ寝ていないみたいだね」
「いや、私は普段はちゃんと起きていますよ? 時々、春の陽気にあてられてしまうだけでして…… ところで外出なさるおつもりで?」
「うん! あ、今回はちゃんとお姉様にいいって言われたんだよ!」
「ええ、分かっています。これ、忘れ物ですよ」

 そう言って美鈴は傍に立てかけてあった日傘をフランドールに差し出した。

「あ、そういえば日傘のこと忘れてた……えっ、あれ? なんで美鈴がそれを持っているの?」
「レミリアお嬢様が少し前に来て、『渡しておいてくれ』って」

 外に出ると話を付けたのはたった今だ。そして姉が外出するとき、日傘は瀟洒なメイドが持ってくるはずである。自分が外に出たいと言い出すのを分かっていたということか?
 まあ細かいことはいい。どうせ姉に聞いたら「運命よ」とか胡散臭いことしか答えてくれないに違いない。

「それじゃあ、いってきまーす!」
「はい、いってらっしゃいませ」

 傘を持って、フランドールは意気揚々と飛んでいく。


 その頃、紅魔館地下の大図書館。

「良かったの?レミィ」
「なんのことかしら」
「分かってるでしょ、妹様のことよ」

 珍しく本を読みにきたという親友に対し、魔女――パチュリー・ノーレッジは眉をひそめて尋ねた。

「大丈夫だ、問題ない。フランも力の制御はある程度できている。人間を壊すということもないさ」
「たしかに最近落ち着いてはきているけど。まず一人で外出させる前に門番か咲夜、いやレミィと一緒に行動させるべきではないかしら」
「まったく心配性だなパチェは。あれでも立派な吸血鬼だ、弾幕ごっこにしろそうじゃないにしろ、くたばることはない」
「面倒事はおこしそうだけど」
「そのときは優秀なメイドや居候が何とかしてくれる」
「結局他人任せってわけね……」

 まぁいざとなれば咲夜に任せればいい。
 と、結局自分自身も他人任せなことを思いながら親友との話に耳を傾けるのであった。


 フランドールは今まで見たことのない風景に心を躍らせ、風を切り飛び回っていた。さあどこへ行こうか。あいつ……いやお姉さまの行きつけの神社か、それとも古風な魔女の住処か。
 そんなことを考えながら飛んでいると、体に違和感が出てくる。
 そういえば確か姉曰く、それは雨が降るか太陽が出る兆候らしい。それらに弱い吸血鬼は本能で感じ取れるそうだ。
 空には雲一つ無かった、しかしほのかに明るくなっている。ならば太陽が出始めているせいか、せっかく気持ちよく飛んでいたのに無粋なものだ、と思いながらとりあえず日傘を開き――趣味の悪い柄だ、まったく姉の好みは理解できない――森に飛び込んだ。

 地面に降りるやいなや、フランドールは辺りを見回した。本で読んだことはあったが、やはり実際に見てみるのは初めてだ。生い茂る木々、 固い土、そしていたるところから感じるかすかな『目』の気配。
 太陽のせいで気が削がれたがせっかく外に出られたのだ、散歩をするのも悪くない。
 フランドールは森の奥へ歩みを進める。
 
 森の中は静かだ。時々心地よい風が吹いてフランドールの頬をなでている。館の中にいるのとは大違いだ。

「これで日光がなかったらもっと良かったんだけどなあ」

 フランドールは不満そうな顔で傘の取手をくるくる回す。
 傘はあまり好きではない、その柄はさておき手がふさがれるのが邪魔くさかった。だからといって放り投げればそのとき自分は蒸発してしまうだろう。外に出てみると、太陽の忌々しさがよく分かる。
 ここでフランドールはある疑問が思い浮かんだ。

「そういえば、太陽ってどんなものなんだろう……」


 フランドールが森を満喫している頃、『日の光の妖精』サニーミルクは同じく森の中を歩いていた。
 一緒に住んでいる『月の光の妖精』ルナチャイルド、『星の光の妖精』スターサファイアとは違って普段はまだ寝ている時間である。しかし昨日の昼に寝て……いや、英気を養っていたおかげで目が覚めてしまったのだ。

「たまには一人でいるのもオツなものね!」

 サニーミルクの声が辺りに響きわたる。森の中は静かだ、人間はまだ目覚めていないだろうし、妖怪はそろそろ寝るからだろう。
 しばらく陽気に歩き回っていたサニーミルクだが、やはり時間が時間なだけに、特に何も起きず誰にも会わず、飽き飽きしはじめた。

「まったく、これじゃあせっかく早起きした意味がないじゃない……ん?」
 
 誰かいる。
 とっさにサニーミルクは即座に自分の能力である『光を屈折させる程度の能力』を使い自分の姿を消す。
 見ると、そこにいたのは傘をさした少女だった。

「珍しいなこんな時間に来るなんて。……アイツ、こんな晴れているときになんで傘なんてさしてるのよ?」

 晴れの日に傘をさすといって思い当たるのは、いきなり弾幕勝負を仕掛けて超弱いとか言われた胡散臭い妖怪か、館に住んでいる吸血鬼か。胡散臭い方とは全く違う。吸血鬼の方と顔は似ているが髪の色が違う。妖怪でないなら人間に違いない、とサニーミルクは勝手に確信した。

「ふふふ、妖精としてやることはただ一つ!」
 
 サニーミルクは意気揚々と能力を行使する。


「何かおかしいわね」

 フランドールはしばらく太陽について考えながら歩いていたが、しばらくすると異変に気がついた。
 自分は道なりにまっすぐ進んでいたはずだ。しかしさっきから視界に写るのは同じ風景、そう、似ているのではなくまったく同じ風景だ。どうやら自分は同じところをぐるぐる回っているらしい。おそらく妖怪の仕業だろう。

「解せないね、気配はするのに姿は見えないなんて。」

 フランドールは辺りを見回すが誰もいない、いや見ることはできない。いざとなれば空を飛べばいい。だが自分にこんなことをする奴をそのままにしておくのも気に食わない。
 フランドールは立ち止まり、目を凝らした。


「ふあー……見ているだけじゃ退屈ね」

 サニーミルクは欠伸をしながら、立ち止まって周りを見ている自分の獲物をつまらなさそうに見た。

「それにしても迷っているのになんであんな冷静なのよ。実は妖精?それともやっぱり妖怪?」
 
 自分がちょっかいをかけているのは吸血鬼なのだが無論それは知らない。サニーミルクは紅魔館に侵入したことはあっても、フランドールを見たことはなかったのだ。

「こうなったら川まで誘導し……て……」

 続きを口にする前にサニーミルクは閉口した。たった今、獲物と目があったのだ、それもしっかりと。しかし自分の姿は見えないはずだ、偶然に違いない。そうサニーミルクが考え直したときだった。

「みーつけた」
「わっ!?」

 サニーミルクの期待はあっけなく霧散した。
 獲物が、獲物だった人物は間違いなくこちらに向かってくる。これじゃあ自分が獲物ではないか。サニーミルクはあわてて駆け出した。


「逃がさないわよ」

 サニーミルクが移動するのをフランドールはしっかりと目に捉えていた。なかなか早い、しかも地の利はあちらにあるのだろう。
 ――それならば足止めさせてやればいい。
 フランドールは狙いを獲物の先にある木に定めた。

「きゅっとして、ドカーン」

 フランドールが呟いた瞬間、木の根元がはじけサニーミルクの方へ飛んでいく。

「へ!?」

 サニーミルクは慌てて避けるが、予想外の事態に混乱し動きを止めた。そしてその隙を吸血鬼が逃すはずもない。
 速度を上げ、追いついたフランドールはサニーミルクに向かって飛びかかり、体のどこかを掴んだ。

「ひゃっ!?」
「つーかまえた。何かしらこれ、なんかふよふよしてるけど」
「ひゃあんっ!ちょっ、そこっはっダメぇ!は、はなして!」
「離してほしかったら姿を現しなさい、別に取って食おうなんて思わないから、」
「ひぅん!分かった!分かったから!」

 観念したサニーミルクは能力を解除する。掴まれていたのは羽の付け根あたりだった、確かに掴まれたらたまったものではないだろう。フランドールが羽から手を離すとサニーミルクは荒く息を吐いてへたりこんだ。

「あらあなた、妖精だったのね。名前は?」
「えっと、サニーミルク……ってあんたこそ誰なのよ!」
「これは失礼を。フランドール、フランドール・スカーレット、ただの吸血鬼ですわ」
「ふーん吸血鬼……えっ吸血鬼!?」

 恭しくスカートの端を摘み上げ、礼をするフランドールに対し、サニーミルクは口を大きく開けて驚愕する。

「じゃああんた、紅魔館のいつも人間のメイドと一緒にいる……あれ?そんな色の髪だったっけ?」
「お姉様のことを知っているの?」
「お姉様って、ええ!?」

 サニーミルク、本日何度目かの驚愕。ころころ顔が変わる妖精を見てフランドールは楽しげに笑った。

「せわしないわねえ……一緒に散歩でもしながらお話ししましょう?」
 
 フランドールはいまだへたりこんでるサニーミルクに手を差し出した。

「――というわけで一泡吹かせてやったのよ!」
「へえ……霊夢って意外とまぬけね。それにしても気配を探る能力に、音を消す能力かぁ」

 サニーミルクは初めは緊張していたものの、いつも一緒に行動している二人のことや、三人でやった悪戯など、話していく内にだんだんと調子を取り戻していた。フランドールも初めて聞く外の話に夢中だった。

「まあ、ルナやスターも無くてはならないけど、やっぱりリーダーの私の能力があってこそなのよ!……そういえばなんで私が見つかったのよ、能力は解除してないのに。あなたも竹林にいた兎の妖怪と同類?」
「私と同類なんてお姉さま以外知らないわ。なんとなく気配があったから、『目』を探ったらひときわ大きいものが見えたのよ」
「目?」

 フランドールの能力は物の最も緊張した部分である『目』を見つけだすことができる。それを手の中に収め、握って破壊するのだ。たとえ体が姿を消していたとしても、フランドールの目から『目』はまるみえだ。
 ちなみに何故フランドールが見つけた『目』を破壊しなかったかというと、一つはもしそれが人間だったら面倒なことになるから、ということ。もう一つは単純に話し相手が欲しかったのである。
 そして自分を化かしていたものの正体が妖精だとは予想外だった。館に妖精メイドはたくさんいるが、そんなことをできるものは見たことがない。道に迷わせ、姿を消す妖精にフランドールは興味を持ったのだ。

「今度はこっちが質問する番。どうやって私を迷わせていたのかしら。まだあなたの能力は聞いてないわ」
「そういえばそうね……ふふふ聞いて驚きなさい!私みたいなのはそうはいないからね!」

 待ってました!といわんばかりにサニーミルクは歩きながら自慢げに言う。

「私は、光を屈折させることができるのよ!」
「光を?……光って、つまり太陽の光も?」
「もちろんよ!なんたって私は輝ける日の光、サニーミルク!日光を屈折させれば光のあたらないところに光をあてることもできるし、私の姿も隠すことができる!すごいでしょう!驚いた?」
「……そうだね驚いたよ」

 どうだ!と無い胸をはって歩幅を大きくするサニーミルク。対照的にフランドールは歩みを止めた。

「ん?どうしたのよ」
「いいえ、なんでもないわ」


 これはマズイ事になったか、とフランドールは内心一人ごちる。
 光を屈折させる、少々小細工が効くだけの何て事のない能力のように思えるが、自分にとっては相性が最悪だ。
 自分は吸血鬼、そして誰もが知っているように吸血鬼の弱点は太陽の光。そう、もし今この妖精が能力を行使して日傘のあたらない箇所から自分に太陽の光をあてたら、その瞬間自分は――

「ところで、どうして傘なんてさしてるの?こんなにいい天気なのに」
「えっ?」
「えっ?」

 何を言っているのだろうこの妖精は。自分が吸血鬼であることをもう忘れたのか。

「私の種族、もう忘れたの?」
「吸血鬼でしょ、そのくらい覚えているわよ!」
「じゃあ言わなくても分かるでしょう」
「……吸血鬼は病弱っ娘ってこと?」
「なんでそうなるの……」
 
 違うの?ときょとんとしているサニーミルクに対しフランドールは脱力する。悩んでいたのが馬鹿らしい。

「吸血鬼は日光が苦手なのよ」
「日光が苦手ですって?」
「そう。せっかく初めて外に出たのに、晴れているんだから嫌になっちゃうよ。雨よりはずっとマシだけど……あ、そうだ」

 日光について話しているとさっきまで考えていた『太陽ってなんなのだろう?』と疑問がまた顔を出した。目の前にいるのは日の光の妖精だ、もしかしたらいい答えを聞かせてくれるかもしれない。

「ねえ、太陽ってなんなのだろうね?」
「……えっと、どういう意味?」
「だから太陽。話ではよく聞いているのだけど、見たことは無いんだ。どんな感じなの?」


 そんなフランドールの質問にサニーミルクは必死に考える。
 太陽、それは自分にとって当たり前にあるものだ。だからか、いざそう聞かれると返答に困る。だけど日の光の妖精たる自分が答えられなくてどうするのだ。
 サニーミルクはしばらくうんうん唸っていたが、ある一つの結論に至った。

「遠いようでそばにあって、あったかくて、気持ちいいもの……かな」
「あったかくて、気持ちいい?」


 そういえば美鈴も太陽が出ていると気持ちよさそうに寝ていることが多い。メイド妖精たちも太陽が出ていると雨のときより機嫌が良さそうだ。同じ吸血鬼である姉でさえ、晴れているときテラスで優雅にお茶を飲んでいる光景をフランドールは見たことがあった。

「分かったような、分からないような……たぶん、そうなんだろうなってくらいしか思わないよ」
「一度も太陽を見たことがないからそう思うの!」
「そうかもね、実際に見ないと何も分からないよ」

 まあ、吸血鬼が太陽を見るなんてどだい無理な話なのだが。
 ――そうフランドールが思ったときだった。

「だったら、見せてあげるわ」

 サニーミルクはフランドールと向き合った。

「え?」
「あんたこそ、私の能力をもう忘れたの?私の能力にかかれば――!」
 
 サニーミルクは手を挙げ能力を行使する。
 『光を屈折させる程度の能力』
 光のあたらないところに光をあてることもできるなら、その逆もできるに決まっている。
 相性は最悪だって?とんでもない、どうやら二人の相性は抜群らしい。

「ほら、これで大丈夫。そんな傘捨てなさい」
「そ、そんな急に言われても……」
「私の能力の制御は完璧よ!ほらちょっとずつでいいから傘から顔を出しなさい!」
「もうちょっと待って……」
「あーもうじれったい!」

 しびれを切らしたサニーミルクに無理やり傘を奪われた。フランドールはビクっとして目をつぶる。
 焼けるような痛みはおとずれない。
 フランドールはおそるおそる目を開けた。

「……わぁ」

 目の前に広がったのはまず青色だった。
傘越しに見るのとはまったく違う。いっぱいに広がる青空は、どこまでも広がっていて今まで見たどんなものよりも澄んでいて、きれいだった。

 そして、そんな青空に浮かぶ太陽。

「初めて見た太陽の感想は?」
「……すごい」

 それしか言葉にできなかった。
 それほどまでに、大きい存在だと、フランドールは感じた。
 これが、太陽か。

「……ありがとう、なんとなく分かった気がしたわ」
「それはよかったわ、あんたも……」
「フラン」
「へ?」
「フランって呼びなさい。フランドール、じゃ長いでしょ?私もあなたのことをサニーって呼ぶわ。」
「ん、分かったわフラン。それじゃあそこの芝生で寝転がって話の続きでもしましょう!」


「ん~! スターとルナ以外とこんなに長く喋ったのは久しぶり!」
 
 そう言いながら、サニーミルクは寝転がった態勢のまま体を伸ばす。
 するとフランドールは立ち上がり、言った。

「そうね、私もこんなに喋ったのなんて何年ぶりかしら、楽しかった……そろそろ帰らなきゃ」
「もう帰るの? まだ日は暮れてないよ」
「お姉様が心配するからね……あいつ、結構過保護なのよ」

 あのせっかちな姉のことだ、自分の帰りが遅いとなるとすぐに時を止めるメイドを派遣するに違いない。
 フランドールに続いて立ち上がり、サニーミルクは言った。

「今度は、さ」
「ん?」
「さっき話したルナやスターにも会わせてあげる。そして一緒に悪戯しましょ? きっと楽しいわよ」

 それはフランドールにとって魅力的な提案だった。だけどあの姉がまた自分を出してくれるだろうか。

「それはとてもいいわね。でもまた次外に行けるかはわからないし……」
「その時は」

 サニーミルクは自信たっぷりに宣言する。

「私が、私たちが迎えに行くわ。見てなさい? 光の三妖精にかくれんぼで勝てる相手なんていないのよ?」

 八重歯を見せてサニーミルクは得意げに笑った。
お姫様を連れ出す王子様といったところか。自分が姫役だなんて笑ってしまう。

「…ふふふ、そうね。その時はまたお願いするわ、王子様。それじゃあ案内はお願いね」
「え? 私、着いていくの?」
「当然。まだ日が出ているじゃない」
「? 傘差せばいいでしょ。能力使い続けるの面倒くさいわ」
「ドカーン」

 傘が木端微塵になった。
 もちろん誰の仕業か言うまでもない。

「なんでー!?」
「あーきっとさっきサニーが乱暴に扱ったからねーそうに違いないわー、あんまり好みじゃなかったし別にいいよ。それに……」

 にこにこ笑っているフランドールは、サニーの正面に立ち、ぎゅっとと抱きしめ、宣言する。

「私にはもうこんなに素敵な日傘があるんだから!」
「ふぇ!? ちょっとフラン、いきなり抱き着いて……ってなんで私が日傘扱いなのよ!?」
「えー、わたし病弱っ娘だから能力解除されて日光浴びると死んじゃうし。傘が壊れたのはサニーのせいなんだから、責任取ってね?」
「えっ、私のせいになっているの確定!? 別にいいってさっき言ったじゃない! それにせ、責任って!?」
「別にたいしたことじゃないわ。日除けをしながら私を紅魔館まで送り届けてほしいだけよ」
「そんな、ちょっとまだ心の準備が……」

 迎えに行くとは行ったが、こんなに急に、それも一人で吸血鬼の館行くなんてとんでもない、という顔をするサニーミルクに、フランドールはくすくすと笑った。

「まだ不法侵入じゃないでしょ。私が紅魔館に招待するんだから」
「つまり合法!? いいの!お酒もある!?」
「洋酒で良ければたんまりと♪」
 
 さっきと打って変わってタダ酒飲みまくるわよー!と叫ぶサニーミルクはさておき、だ。

 再びフランドールは空を見た。そこには爛々と輝く太陽がある。

 こうして見ることができても、その光は決して浴びる事はできなくて、せいいっぱい手を伸ばしても届かない。

 だけどそれでいい。

「こうしちゃいられないわ、さあ行くわよ!」

 そう言ってサニーミルクが手を出した。
 その手をフランドールはぎゅっと握る。

「ええ、エスコートお願いね」

 掌にふわっと感じる、心までぽかぽかにしてくれる、そんな暖かさ。
 吸血鬼の私には、それでじゅうぶんだ。










「大変よパチェ。フランが女連れで帰ってきたわ」
「そう。男よりマシだと思いなさい」
はじめまして、ライトスリーと申します。
とある作品に影響されて、サニーとフランの組み合わせのSSを書きました。
もっとこの二人の絡みが増えたりしないかな! なんて。
ライトスリー
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コメント



0.720簡易評価
3.100dai削除
オチが面白かった
5.90名前が無い程度の能力削除
珍カプだけどアリな感じですね

しかし光が届かないのに太陽が見えるって事はサニーは有害な光を当てずに可視光だけを…すげー
7.80奇声を発する程度の能力削除
こんな感じも悪くないですね
12.70削除
初めて見る組み合わせだけどこれは意外なほど微笑ましく楽しそうです
13.90絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。オチがw
16.90名前が無い程度の能力削除
信じて送り出した可愛い妹が…ってオチですね!
ただ、光を当たらないようにするルーミアのような真っ暗闇になるきがするのですが、そこら辺はどうなんでしょうか
いずれにせよ、面白い組み合わせだと思いました
17.100名前が無い程度の能力削除
オチが完璧
20.100名前が無い程度の能力削除
パチュリー様が言うには、「魔法では妖精を操ることもしばしばある。つまり奴隷」
妹様は奴隷を手に入れたようです、物理的に、魔法少女的な意味で。

この話を読んで、「サニーミルクの紅霧異変」って曲を思い出しました。
その、ルチルフレクションがUNオーエンに喰われまくってるあたりが。
22.100手乗り霜削除
落ちも然ることながら、お話も面白かったです。
23.90名前が無い程度の能力削除
なんでこの2人かと思ったらなるほど、そういう絡み方もあるんですね